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第十二話 頭の良い美少女のテスト攻略法

第十二話 頭の良い美少女のテスト攻略法



「もういたのか、春原。来るの早いな」


 翌日のボランティア部の放課後、友達と話してからくるから遅れてくるだろうと思っていたが、春原が最初に来ていた。


「電話で確認し忘れたことがあったから聞いときたくて。教室であなたと長話すると変に目立つし」


 さりげなくスクールカーストの差を見せつけてきた。一言余計だと言いたいが琴音が来る前に終わらしたい話かもしれないからスルーする。


「確認したいことは?」


「佐々木くんは竜胆さんにどんな教え方をしていたの?

 竜胆さんは佐々木くんの教え方を非難していたわ。でも佐々木くんは竜胆さんの性質を理解したうえで教えていたから成果は出ていたはずなのよ。なのに竜胆さんは佐々木くんに教わることを拒否していた」


 成果は出しているが琴音は嫌がっている理由を知りたいってことか。


「俺の教え方は10分間ひたすらインプット。書き出させたり、音読させたり、教科書を読ませたり。わからないところがあればそこを俺が解説する。それが終わったら問題集でアウトプットだ」


「インプットとアウトプットを短時間で何回も繰り返して覚えさせたというわけね。

 効率重視で作業に徹しているから竜胆さんは退屈に感じたのでしょう」


「ああ。この方法が短期間で成績を上げるには最善だ」


「短期的に見ればそうね。でもこれじゃあ、授業にはついていけない」


「琴音の忘却曲線のことを考えれば仕方ないだろ」


「私にいい考えがあるわ。うまくいけば授業も理解できて私たちが勉強を手伝う手間が省けるかもしれない」


 春原は自分の考えの正しさを証明したいという好奇心に満ちた笑顔を見せた。


 話し終わったところで最後の来訪者が現れる。


「ニコチンはー!」


 元気いっぱいな、いや元気すぎる喫煙者の挨拶が教室に響く。


「補導されても知らないぞ」


「竜胆さんが頭悪いのってたばこのせいなのかしら」


 ツッコミが被る。


「誰がヘビースモーカーじゃ。

 そしてついにスノハラも本性を隠さなくなったね!」


 琴音はビシっと人差し指を春原に向けた。


「本性? 何のことかな? 怖いこと言わないでよ~」


 教室でいつも見せている春のような柔らかい笑顔と話し方でとぼけている。


「それだよ、それ!

 猫かぶり腹黒クソ女!」


「勝手に私に幻想を抱いていたのは竜胆さんでしょ?」


 琴音の悪口を意に介さず流した。


「ぐぬぬ……。

 でも、昨日の最後に言った悪口は何?

 色んな言い方でバカって言ったり、貧乳とか低身長みたいなのは勉強に関係ないでしょ!」


「ただ事実を述べただけよ」


「開き直った⁉

 謝ってよ!

 すごく丁寧に教えてくれてわかりやすかったから感謝もしていたのに」


「あんなに丁寧に教えてあげたのに一つも覚えてない竜胆さんの頭の悪さを謝ってほしいわ」


 琴音からの要求に要求を突き返す春原。言い合いが続けば春原に有利だろうし、琴音が勉強を教えてもらうことも頼みづらくなる。ここは一度仲裁に入るべきか。


「はいはい、二人ともそこまでだ。ここで言い合いをしても何も意味はない。

 琴音は勉強しなきゃいけない。春原だって今の様子を他の人に知られたら不都合だろ?」


「そうね。勉強なんて本来一人でもやれるものだけど、竜胆さんがどうしてもと言うのなら今の約束を守ることを条件に教えてあげなくもないわ」


 よし、春原の言質は取れた。


「琴音もいいだろ? 幼児体型をバカにされたのは一旦水に流そうぜ。春原の教え方はわかりやすかったんだろ? 勉強見てもらったほうがいいよ」


「なんでミッチーはスノハラの肩を持つようなことをしてるの?

 もしかして美人にほだされた?」


 春原の味方をしたせいか琴音がご立腹である。


「い、いやーそういうけじゃないぞ。

 ただ、こんなことしてるより早く勉強したほうがいいんじゃないかなーって思ってるだけだぞ」


「ミッチーなんか焦ってない?

 もしかしてスノハラに弱みでも握られてる?」


 意外と鋭いな。琴音とは幼なじみだから知られても言いふらしはしないと思う。春原の件もだまったままだから信頼できる。だが話して得することはなく、リスクが大きくなるだけだ。


 そう考えて口を開きかけたところで、先に春原が話し出した。


「弱みを握っているなんて心外ね。私と佐々木くんにはそんなやましいことはないわ。

 ただ、普通の男女以上の関係なだけよ」


 こいつは急に何を言い出すんだ。やめてくれ。


「どどどどどどどういうこと⁉ 

 ミッチーって彼女いたの⁉

 本当に付き合っているの⁉

 相手がスノハラ⁉

 説明して!」


 琴音が慌てて俺のほうに駆けてきて、胸倉をつかみ揺すりながら真相を問いただしてくる。


「落ち着け! 俺と春原は付き合ってない!」


「嘘……。私と佐々木くんって付き合ってなかったの?

 あんなことまでしたのに……。もしかして私とは遊びだったの?」


 俺のほうに寄ってきて腕を絡ませると、上目遣いで悲壮感に溢れた表情でこちらの目を見てくる。無駄に演技がうまい。


「ちちちちちちょっと、ミッチー⁉

 手出したの?

 よりにもよってこんな腹黒女を」


 琴音の胸倉を掴む力が強くなる。


「俺は何もしてない!」


「うん、佐々木くんは何もしてないよ。私が強引に迫っただけだから」


「おい、春原! ややこしくなるからもう何もしゃべるな!」


「琴音も春原の質の悪い冗談だと気づけ。

 大体なんでお前がそんな必死なんだよ」


 琴音は掴んでいた胸倉をバッと離して距離を取る。


「べべべべべ別に必死とかじゃないし!

 ミッチーみたいな根暗陰キャを他に好きになる人がいると思って焦ったりなんかしてないし!」


 顔を真っ赤にしながら早口で何か言っている。早口すぎて何を言っているのかよくわからないが。


「竜胆さんにもこういうかわいらしいところがあるのね」


「うるさい!

 結局ミッチーとスノハラってどういう関係なの?」


「安心して。何もないわ。ただのクラスメイトで席が隣なだけ」


「そうなんだ、よかった……」


 少し微笑んで琴音は落ち着きを取り戻した。


◆◆◆


「琴音も言いたいことを言えたようだし、今日の本題に入るぞ。

 春原さっき思いついた考えを教えてくれ」


 仕切り直して勉強の話に戻す。


「竜胆さんの忘却曲線の下がり方が極端に早いことをさっき聞いて思いついたの。

 忘れる前にそれまで勉強した内容を常に結びつけながら次に進んでいくのはどうかしら?」


 春原の説明にイマイチピンときていない。それは琴音も同じだ。


「もう少し具体的に説明してくれないか?」


「いいわよ。低レベルなあなたたちに合わせてあげる。

 勉強っていうのは基本的には体系づけられているの。前に学習した内容を活かして次に進む。それの繰り返し。

 だから内容が一つ進むたびに前の内容とどうつながっているかを意識するだけで忘れかけたタイミングでもう一度思い出すことができるから記憶はより強固になる」


「なるほどな。世界史で言えば、何か新しい出来事を学んだらそれが前に勉強したどの出来事に対応しているかを考えるわけだな」


「そういうことよ。このやり方は昨日もやっていたのだけど、休憩を取った時間があってその間に竜胆さんがほとんどの内容を忘れてしまったから失敗したのよ。

 佐々木くんが事前に竜胆さんの性質を教えてくれていればこんなことにはならなかったのだけれど」


「すいません」


 素直に謝るしかない。俺が先に伝えておけば春原の素は知られなかった可能性が高いからな。


「その方法良さそうだね。あんまり覚えてないけど昨日のスノハラの教え方だけは良かったと思う」


「何か含みのある言い方ね。他に言いたいことでもあるの?」


「べっつに~」


 春原から射抜かれるような視線を受けながら琴音は腕を頭の後ろで組んでそっぽをむいてスルーする。


 それを春原が苛立たしげに見ている。


 また喧嘩になりそうな雰囲気を察して俺が割って入る。


「その方法だったら俺みたいに単純暗記を繰り返すだけよりも楽しそうだな。

 ちなみにさっきは学校の授業も理解できるようになると言っていたがその勉強方法を使うのか?」


「ええ、教師の話を聞きながらその話がどことつながっているのかを常に考えてもらうわ」


「はいはーい、質問でーす」


 琴音が手を挙げて春原に呼びかける。


 変な難癖とかをつけて喧嘩や口論にならなければいいが。


「その方法って英単語とか漢字の勉強にも使えるの?」


 真面目な質問だった。


 確かに今まで例に挙げたのはストーリー性のある科目だった。それ以外の科目はどう乗り切るのだろうか。


「使えないわ。英単語や漢字はこれまで通り佐々木くんと勉強してきたようにひたすら覚えるまで何度も繰り返してもらうわ」


「ええー。そこも考えておいてよ」


 琴音から非難の声が上がる。


「いい?

 学問に王道なしっていう言葉があるように勉強に楽な方法なんてないの。

 勉強は地道にコツコツ積み上げていくしかないの」


 これが一番大事なことだと言わんばかりに一言一句をはっきりと琴音の目を見て話す。


 琴音にも重要性が伝わった。


「わかったよ。地道にコツコツテスト勉強するよ」


「勘違いしているようだけどテスト期間だけじゃなくて普段から勉強してもらうわよ。

 積み重ねた結果を出さなければいけないのは受験よ。定期テストだけで勉強した気にならないでよね」


「えええええええーーーーー!

 これから3年間繰り返すの?

 ムリムリムリムリムリムルテンペスト!」


 激しい拒否反応を発狂して出している。


「大丈夫よ。勉強なんて習慣化してしまえば大したことないわ。習慣化なんて2週間から3週間あればできる。テスト期間の今から勉強を続ければ勉強を習慣化できるわ」


「嫌だー! 勉強を習慣になんてしたくないー!」


 琴音の悲鳴がこだまするが俺と春原は無視をして勉強の準備を始める。


読んでいただきありがとうございます!


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評価やブックマーク、作者の他作品を読んでいただけると大変うれしいです!


次回の投稿は5月24日です!

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