この国を知る
後片付けを子供たちに任せたわたしたちは、並んで椅子に腰掛けた。
「ミア、改めてありがとう。育ち盛りだっていうのに、子供たちにはいつも…ひもじい思いをさせてばかりで…。私が…もっと…しっかりしなくちゃって……。」
子どもたちを守り育てるのに必死で、ずっと気を張り詰めていたらしい。
詰まる言葉の節々から、ひしひしと苦労が窺える。
わたしは、転生前に子育てをしたことなんて、もちろんない。だから子育ての苦労なんてわからない。
しかも今は幼女の身体。
何を言っても説得力はないだろう。
でも、きっと身体ならこうするはず。
わたしは、彼女の頭に手を伸ばした。
「いいこいいこ!だいじょーぶなの!ミアがついてるの!」
「…ふふふ!嬉しいものね……」
頭を撫でられたのは、何十年ぶりかしら。
エリザは不思議と、ミアに話しをしたくなる感覚に陥った。
* * * * *
トランティス王国の北二番街、平民家の長女として生まれたエリザは、ごく普通の女の子だった。
光魔法保有の判明をきっかけに、洗礼式に出席した結果、生活が激変したという。
「あれは、まだ7才だったかしら。聖女って鑑定されて…。」
聖女はこの国で重宝されており、みな親元を離れ王都の神殿で生活をする。
神殿は、平民だろうが貴族だろうが、身分は一切の意味をもたない。
生活のすべてを国が負担しており、質素だが1日三度の食事、ベッドと机もある六畳の一人部屋、申請すれば街に買い物にも出れて、帰省も許された。
「寂しくないっていうのは、嘘になるわね。でも仕事は、まったく苦でなかったの。みんな選ばれし者だから、責任感が強くて。仲も良くて…。スタンピードが起きるまで、平和だったの…。」
およそ2年前、突然起きたスタンピード。
冒険者や討伐隊が戦ったが、激闘が続き、国のおよそ四分の一の国民が戦死したという。
「治癒魔法は、まだ息のあるものしか効果がないの…。だから…」
死者を蘇らせることはできない、とエリザは口にすることができなかった。
生物はみな死があり、それが自然の摂理。
その中に肉親や、共に育った仲間がいたとしても…。
「連日連夜、聖力を使って…オーバーキルで…私は力が衰えてしまったの…。ここは私の故郷でね、見捨てることなんて…できなかったのよ…」
エリザは、私財をはたいて、故郷であるこの場所に院を開いた。
土地も人も痩せ、王国一廃れたこの街で…。
「精霊は見えないんだけど、いつも側にいるのよ?気配は感じていてね。ビーちゃん出てきて?」
その精霊をビーと呼んでいるらしい。
院長が、足元の方に視線を落としたので、それに倣う。
ーおい、人の背中に乗るのはやめろ!
ー人じゃないじゃん、猫じゃん。
ー屁理屈を言うな!降りろ!重い!
ーひっど〜い!重くないもん!ミア〜このバカ猫がイジワル言うよ〜。え〜ん。
ーバカはどっちだ!ミア!騙されるな!こいつ嘘泣きだ!
ーミアはビーの味方だもんねー!あっかんべー!
ー表に出ろ!どっちが上か、思い知らせてやる!
ーきゃ〜!野蛮〜!ミア〜この猫叱って〜
猫はさておき。
さっきから五月蝿いと思ったら…。
これが精霊?
なんか、思ってたのとチガウ…。
もちろん悪い意味で。
わたしは眉間にシワを寄せたのだった。
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過去分、一部改稿しました。
よければ読んでやってください。