初めての魔法
どれぐらい経っただろうか。
目がしょぼしょぼする。頭がガンガンして、のども痛い。
「…そろそろ行くぞ」
猫がわたしの背中に前脚を置いて急かす。
「…いやだ」
「もう魔法が切れる!ここから出るぞ!」
「いやだ!」
「捕まったら元も子もないぞ!」
「でも!!」
わかってる。行かなきゃいけないことも、前に進まなくちゃいけないことも。
でも、彼女の大切な人をこのままになんかさせたくない。
考えろ。考えるんだ。
女神様はなんて言ってたっけ。
今、猫はなんて言った?
「…まほう?さっきまほうっていったよね?おしえて!」
「お前はまだ魔力が安定してなーー」
「おしえて!!」
ここは引けない。絶対に。
ぐったりと重い身体に力を入れて、猫の肩をがしりと掴み、金眼を覗きこむようにして顔を近づけた。
「おねがい!とむらいたいの!」
「だー、わかったよ!できなくても知らないからな!」
わたしは大きく頷いた。
「俺の魔力を感じろ。感じないなら諦めろ。いいな!」
猫は半ばキレ気味で、わたしの手のひらに前脚を置いた。
絶対できる!やってみせる!
だって女神様言ってた。チート能力をくれるって。
わたしは暗示をかけるように自分に言い聞かせた。
ぷにっとした肉球から、段々と暖かい何かが血管内に走ってくる不思議な感覚に、身体を委ねた。
「…魔力を感じてるな?お腹の辺りで集めて丁寧に練ろ。絶対に焦るなよ?」
頷いて、教えてもらった通りに魔力を練る。
「…そうだ、そのまま創造しろ。魔法は創造だ。」
創りたいものはもう決まっている。
大丈夫。できる。
わたしは、ゆっくりとはっきりと唱えた。
「開花!葬送の白百合!安らかな眠りを!」
ッボン!
濃厚な香りと共に純白な百合が現れた。
大きく開く艶やかな顔立ちは、直径3メートルになるだろうか。
「でかっ!!」
「これでいいの!」
わたしが念じると、百合は雄蕊と雌蕊を伸ばして二人を優しく包み、飲み込んだ。
「収納ボックス!」
続いて叫ぶと、目の前に亜空間が浮かび上がった。
創造したのは、ゲームでよくある収納ボックス。
本当は棺に入れたいけど、仕方ない…。
いつの間にか小さな蕾になった百合を両手ですくって、収納ボックスに入れる。
「どうかやすらかに…。」
言うが早いか、そこで意識がぷつりと途切れた。