第89話 ダンジョン挑戦権を奪おう(後編)
【異世界生活 77日 5:15】
「それじゃあ、次に行くか」
「ウサギを倒して、ダンジョンに入り、私専用の武器を手に入れる」
俺と一角がワーラビットに向かおうとしたところで、
「もう、魔物を経験値化しないとダメだよ」
「ワーウルフの武器や防具も回収しとかないと再利用されるじゃない」
明日乃と真望に釘を刺される。
「そ、そうだな。特に青銅の鎧と武器は回収しないとな」
俺はそう答え、明日乃は神様に祈って、魔物の死骸をマナに還し、経験値化する。
残った青銅製の防具のセット3セットと盾と剣をリュックサックに詰めたり、リュックサックの外に紐で縛り付けたりする。
そして持ちきれない粗悪な槍などの武器は神様に祈りマナに還す。再利用防止だ。
「これだけで大荷物だな。ここからさらに、ワーラビットとハーピーを倒すんだろ? 荷物が邪魔になりそうだな」
俺はリュックを背負いそう言う。
「とりあえず、荷物は私と真望ちゃんが持つよ。前線で戦うには力不足だし、ダンジョンに入っちゃえば、魔物も入れなくなるし、エントランスに荷物起き放題だし、そこまではね」
明日乃がそういってくれるが、荷物は3つある。残り1つの荷物をだれがもつか。まあ、俺だろうな。
元々、俺と真望は青銅の盾を持ってきていたので、リュックには防具一式と剣に加え、盾が2枚括り付けられる。かなりの重量だ。
「で、どうするんだ? そんな荷物じゃワーラビットを全部倒すのも一苦労だろ? しかもハーピーもいるぞ」
一角がそう言う。確かにそうなんだよな。
「時間もギリギリだし、少し弓矢とクロスボウでけん制しつつ、30分前くらいにダンジョンの入り口に走りこむっていうのはどうかな? 真望ちゃんの『炎の壁』と麗美さんの省エネ魔法を連射して道を作る感じで。あくまでも道を作る為で相手にする数は減らす感じで。私の結界で持久戦に持ち込んで魔物を殲滅するのと大して変わらないと思うのよね。お祈りポイントの消費は」
明日乃がそう提案する。
確かにワーラビットの弓矢の雨を受け続けると明日乃の結界は壊されまくってお祈りポイントが秒単位で減っていくのが目に見える。
たぶん、ワーラビットはダンジョン正面を盾持ちで固めてこらえ、左右から矢の雨を降らす。みたいな作戦に出ると予想できるし。
「今日はワーラビットとハーピーの駆除は後回しにするってことね。それもありかしらね?」
麗美さんがそう言って賛成する。
「私も、自分専用の変幻自在の武器が手に入るなら何でもいい」
一角がそう言う。
「駆け込むタイミングが大事だな。あと、真望と麗美さんは時間がヤバそうだったら魔法の出し惜しみはしないのが大事かな?」
俺は作戦の修正をしつつ賛成する。
「30分くらいがちょうどいいと思うよ。あと10分くらい、私と一角ちゃんと真望ちゃんの弓矢で少しでもワーラビットを減らしつつ、5時30分に突撃って感じだね」
明日乃がそう言ってクロスボウを構える。
真望もそれに習い、一角も仕方なさそうに武器を持ち替え、和弓に矢をつがえる。
ワーラビットの粗悪な弓矢とこちらの弓矢では射程が違うので、こちらが一方的に攻撃できる。
しかも、盾を持ったワーラビットを飛び越えて、弓を持ったワーラビットを射られるのだ。まあ、山なりショットで当たるか当たらないかは運任せだが。
とりあえず、10分間、運任せの矢の雨を降らせ、何体かワーラビットを倒すことに成功する。
「そろそろ行くか? 明日乃、全体補助魔法のかけ直しだけ頼む。あと、真望、クロスボウは俺に貸してくれ。魔法で使う暇ないだろ?」
俺はそう言う。結界魔法はかけっぱなしなので問題なさそうだ。
真望から、クロスボウと矢筒を受け取り矢筒は腰にぶら下げる。
「とりあえず、真望の『炎の壁』でワーラビットの群れを掻き分ける。殲滅が足りなかったら、麗美さんも 『氷矢の連撃』で正面の殲滅の補助を。明日乃はとにかく走れ。俺と一角は結界の進行を邪魔する魔物を剣で叩き斬る。ハーピーが襲ってきても今日は無視、邪魔だったら麗美さんの魔法で駆除してくれ。以上だ」
俺はそう作戦を指示する。
「私は魔法を使っちゃダメなのか?」
一角が寂しそうにそう言う。
「麗美さんは変幻自在の武器の付加効果でお祈りポイントの効率が良くなっているし、真望の『炎の壁』は使い勝手がいいからしかたないだろ? 一角も変幻自在の武器を手に入れてお祈りポイントが節約できるようになったら検討してやる」
俺は一角にそう言う。
「約束だからな」
一角がそう言い剣を構える。
「いくぞ」
俺はそう言って、走り出す。
明日乃も俺の後を追い全力で走る。
明日乃のペースが俺より少し遅いので、俺は時々クロスボウを放つ。
そして、ワーラビットからは大量の矢の雨が降り注ぐ。また、結界の耐久力が6割持っていかれる。
結界魔法は人海戦術に弱いのが明らかになったな。
明日乃が追い付いたので、俺はまた走り、結界から飛び出しそうになるとクロスボウを装填、ワーラビットの弓兵を狙って矢を放つ。
その繰り返しでワーラビットのそばまで走り寄る。
「そろそろ行くわよ? 火の精霊よ神の力をお借りし魔法の力とせよ。『炎の壁』!!」
真望が魔法の詠唱をし、目の前に炎の壁が現れ、そのまま炎の壁が前進し、ワーラビットたちを焼き尽くす。
「1発じゃ倒し切らないわね」
真望がそう言って、もう一度炎の壁を出す。
ワーラビットのレベルと耐久力だと、炎の壁2回で絶命するようだ。1回だけでは炎に巻かれてのたうち回り、火が消えると立ち上がる。
「真望、倒すことより、前に立ちふさがる敵の排除を意識してくれ。とどめを刺しそこなったワーラビットは横に転がって道をふさがなければ無視だ」
俺はそう言い、真望が頷く。
炎の壁の端から襲ってくるワーラビットをクロスボウで射ってから武器を青銅の剣に持ち替える。
俺と一角と麗美さんは炎の壁を抜けてきた魔物や、横をすり抜けて結界の進行を邪魔しようとする敵を斬り倒す役だ。
真望の炎の壁の連射で何とか進行スピードは維持できているが、殲滅率を考えると、ワーラビットにやけどの傷は与えているが致命傷にまでは至っていないものが多い。
まあ、今日は魔物の殲滅は二の次だ。とにかく、前進してダンジョンの入り口を確保し、ダンジョンに飛び込むのが目的だ。
「ハーピーが動き出したわよ」
麗美さんが空を見上げそう言う。
とりあえず、今日は無視だ。目の前のワーラビットを斬り捨て、1歩でも多く前進する、1秒でも早く前進する。それが今日の作戦だ。
そして、レベル31越えのハーピーが魔法を放つ。ワーウルフリーダーと同じ魔法、『大竜巻』だ。
俺達の進行を邪魔するように3つの巨大な竜巻が巻き起こり、結界の耐久度がガリガリ削られる。
そして、目の前のワーラビット達が血しぶきをあげて、空に舞い上げられ、地面に落ちたり、ワーラビット同士でぶつかったり、阿鼻叫喚の光景だ。
白、茶、黒、パンダ、いろいろな色のワーラビットが赤く染まっていく。ちょっとしたスプラッタ映画だ。
「ちょうどいいから、ハーピーも駆除しちゃいましょ?」
麗美さんがそう言って、新しい魔法、『猛吹雪』を習得し、唱えだす。
「お祈りポイント節約してくれよ」
俺は仕方ない顔をして麗美さんに文句を言う。
この人はノリで行動することがあるからな。
空を飛んでいるハーピーのまわりにダイヤモンドダストの様なキラキラした雪の結晶が現れ、それが広がり、ハーピーを囲む真っ白な空間になり、渦を巻きだし、大荒れの吹雪になる。
そして、風が止まるころにその白い雪のような雲のような世界からぼとぼとと半分凍ったハーピーが次々と落ちてくる。
下で、ワーラビットと激突したりして大慌てとなるが、落ち着きを取り戻したワーラビットが集団でハーピーにとどめを刺し出す。
「あー、今日はワーラビットにサービスしちゃったわね。経験値はワーラビットの物かな?」
麗美さんが残念そうな顔でそう言う。
地上に落ちたハーピーは槍や青銅の斧でめった刺しにされ、ワ―ラビットが狂ったように、死骸にむしゃぶりつく。
「うわぁ」
真望がドン引きする。
「魔物は食べないと経験値にならないらしいからな」
俺もそう言ってドン引きする。
ワーラビットが経験値を奪いあう様にハーピーに食らいつき、羽をもぎ、体をばらばらにしていく。食事という意味もあるが、第一の目的はマナの吸収だ。
レベル31越えのハーピー達だ。きっと美味しい事だろう。まあ、邪魔者が減ったと喜ぶべきか?
明日乃は見ていられないと目を逸らす。
「とにかく急ぐぞ、時間がない」
俺はそう叫び、真望も慌てて炎の壁を追加する。
俺達が、ダンジョンの入り口の前にたどり着き、入り口を結界で完全に確保できたのは、入り口が開く6時の5分前だ。
「危ないところだったな」
一角がそう言う。
「いや、残り5分を耐えるのも大変だぞ」
俺は一角にそう言い返す。
ワーラビットは格下の魔物でワーウルフやハーピーに虐げられてきたのだろう。変に集団戦闘に長けている。ダンジョンの入り口を奪われたとたん、俺達を半円形に囲むように盾持ちのワーラビットが並び、その後ろからワーラビットの弓兵が矢を放ち始めたのだ。
「これ、お祈りポイント的にヤバい奴だよ」
明日乃がそう騒ぐ。
さっきほどではないが、確かに結界の耐久度がガンガン減っていく。1回の10~15秒に1回くらいの頻度で結界が壊され、張り直される。お祈りポイントがじわじわ減っていく。
俺は慌てて、真望にクロスボウを返し、
「一角、明日乃、真望弓矢で応戦しろ。麗美さんは地面に落ちている槍でも盾でも何でもいいから弓兵のワーラビットに投げつけて」
俺はそう言い、俺自身も腰に着けた小物入れから投石機を取り出し、地面に落ちている石を拾い、盾を持ったワーラビットの後ろ、弓を持ったワーラビットに大き目の石を投げつける。
明日乃と真望は一生懸命クロスボウに矢を装填しては弓兵めがけて少し山なりな矢を放ち、一角も和弓で矢を何度も放つ。
少しずつだが、結界へのダメージが減っていき、何とか5分粘ることができた。
「みんな、ダンジョンが開いたぞ。飛び込め」
一角がそう言って真っ先にダンジョンの入り口に飛び込み、他のメンバーも後に続く。
【異世界生活 77日 6:00】
「ふう、なんとかなったね」
明日乃がそう言って息を吐き、落ち着く。
ダンジョンの外では悔しそうに進入禁止の魔法障壁に攻撃を加えているワーラビットがいる。
一角が、弓矢で射ると、あきらめて逃げていく。
「お祈りポイントは残り31950か。今の突撃で20000ポイント以上使っちゃったな」
俺はそう言って肩を落とす。
魔物の島に上陸する前から計算すると27000ポイント以上お祈りポイントを使ってしまった。
「今日も順調に大赤字ね」
麗美さんがそう言って残念そうに笑う。
真望の炎の壁を使いすぎたな。あれ、1発1000ポイント持っていかれるからな。
「しかも今の戦い、とどめを刺せなかったワーラビットも多かったからな」
一角がそう言う。
「一応、こまめに神様にお祈りしながら走ったけど、あんまり経験値は期待できそうにないね」
明日乃がそう言ってがっかりする。
「まあ、ワーラビットはレベルが低そうだし、ワーウルフやハーピーより1ランク下だし経験値は10分の1近いしまあ、ワーラビットの経験値を捨ててもたいして問題ないだろう」
俺はそう答える。
「それより、ハーピーの経験値がもったいなかったな。下で待ち構えていたワーラビットに経験値全部持っていかれたもんな」
一角が本当に残念そうにそう言う。
「まあ、仕方ない。終わったことだしな」
みんなに諦めさせるようにそう言う。
まあ、その分は、このダンジョンで取り返せばいいしな。
「とりあえず、ワーウルフリーダーから奪った防具とか剣はここに置いておいて、最後に必要なものを持ち帰ればいいよね」
明日乃がそう言うので俺は頷き、リュックの口を開けると入れてあった防具一式と剣、盾を床に置いていく。
水を飲んだり、床に座ったりして少し長めに休憩してからダンジョンに挑む。今日は朝から走ってばかりだったしな。
落ち着いたところで、エントランスにある階段を下りる。
このあたりの構造は全く一緒だな。南にあるエントランスからダンジョン本体に入り、ダンジョンを抜けて北のエントランスに抜ける。北のエントランスの階段を下りると2階と4階に行ける。もちろん、4階は3階をクリアしないと入れないのだろう。
とりあえず、ダンジョン1階を挑戦してみる。
敵はオオカミ、レベル10。オオカミを模したウッドゴーレムだ。
うん、相手にならない。最初はおもてなしって感じかな?
とりあえず、明日乃のレベルを31にしてみたいのでみんなでオオカミを足止めして、明日乃にとどめを刺させる。
明日乃の結界魔法や補助魔法のレベルアップ版の可能性に期待しているのだ。
だが、レベル10、ランク1の魔物では経験値が不味すぎる。明日乃の経験値はたいして上がらなかった。
そしてオオカミ型のウッドゴーレムのドロップアイテムはオオカミの毛皮か肉。木製のウッドゴーレムなのに毛皮や肉が落ちることが謎だ。
そしてオオカミの肉はちょっと食べるのに気が引けるので放置する。毛皮はなぜかよく洗われていて、なめし皮になっているので使いやすそうと回収する。
まあ、荷物が多過ぎたら廃棄することになりそうだが。
「最初のダンジョンの時みたいに、資材倉庫を作った方がいいかもね。白い橋の手前に倉庫を作って、そこに青銅の武器やオオカミの毛皮を一時保管するみたいな?」
明日乃がそう提案する。
「そうだな。この毛皮も結構いいものだし、青銅の鎧や武器は捨てるのちょっともったいないしな。ちょっと危険だけど、魔物の島を往復して必要なものだけでも回収して俺達の島に持ち帰るのも考えた方がいいかもしれないな」
俺はそう答える。
実際、オオカミやクマを狩って得た毛皮はなめしをしていないので初期のものはパリパリに固まりつつある。交換するにはちょうどいい。
「琉生ちゃんやシロちゃんあたりの手が空いてそうだったら竹集めと小屋作りをお願いしておいた方がいいかもね。魔法通信しとく?」
明日乃が聞いてくるので俺はお願いしておく。6時ならさすがに起きているだろうし。
ボス部屋前で休憩しつつ、そんな会話をし、琉生に連絡を取る。
琉生は午後からの作業を資材小屋づくりに変更してくれるそうだ。琉生とシロ、ココが小屋作り、鈴さんとレオが拠点で留守番って感じだろう。
資材小屋の件も一段落したのでボス部屋に挑む。
ボスはワーラビットを模したウッドゴーレム、レベル15。とりまきはオオカミ型ウッドゴーレムという違和感満載の組み合わせだ。オオカミがワーラビットを襲ってしまいそうで心配になる。
とりあえず、レベル15のワーラビットも俺達の今のレベルでは敵ではないので、明日乃の養殖に使わせてもらう。ドロップアイテムは皮鎧。今となると需要は少ないな。
とりあえず、宝箱代わりの木箱を開けると変わらず粗悪な青銅の斧。一応、回収してエントランスに置いておこう。鈴さんの鍛冶に使うかもしれないしな。
ということで、2階の敵はワーラビット型ゴーレムレベル15と判明。2階に降りてみると、予想通りというかいつも通り、上の階のボスが雑魚敵として出てくる。格下相手なので2階もボス部屋手前まで余裕で攻略する。
そして、明日乃のレベルは全く上がらない。レベル15の魔物の経験値では足りなすぎるのだ。
そして大量にドロップするウサギの毛皮と、皮の防具、粗悪な青銅の槍、そしてウサギの肉。
『ウサギの肉』と考えれば食べられないことはないのだが、『ウサギ人間の肉』という可能性を考えてしまうと気が引ける。とりあえず、肉は放置し、一応、ウサギの毛皮と青銅の槍の穂先は一応、回収しておく。皮の防具も拠点に在庫は十分にあるし、荷物になるので放置だ。
そして、最後のボス部屋をのぞき見する。
ボスはハーピー型のウッドゴーレム、レベル21。
「マジか。ここからはレベル21以上、魔法を使ってくるってことだよな」
俺はそう言ってぐったりする。
「風属性だから『風刃の連撃』。3連射の風の刃だろうな」
一角がそう言う、
3階以降、敵が魔法を使ってくるという事は、明日乃の結界魔法を使って、逃げ回るウッドゴーレムをひたすら追っかける面倒臭い戦いになるということか。
ウッドゴーレム達は明日乃の結界を見ると逃げ回って時間稼ぎを始めるからな。
ちょっと、対策を考えないとダメかもしれない。
俺達は2階のボス部屋前で立ち往生させられるのだった。
次話に続く。




