第8話 3人目が合流。一段落ついたので神様(の秘書)に色々聞いてみる②
今朝は本当に色々あった。
新しい仲間として、クラスメイトの佐谷一角がこの世界に降臨し、神様から貰ったアイテム(武器?)から眷属と呼ばれるちっちゃい獣人、レオが現れた。
あまりにも分からないことが多すぎたので、とりあえず、神様の秘書? の秘書子さんに色々聞いているところだ。ちなみに秘書子さんは物知りで何でも知っているが、俺にしか見えないし、話ができない。
「それで、秘書子さん、この、『眷属』というのは何ができるんですか?」
俺は気になって聞いてみた。
「先ほど説明した通り、剣の所有者と精霊の特性を持った自分の現身、だいたい主の7割程度の能力を引き継いでいます。ですから、主のレベルが上がるほどできることも増えますし、力仕事や軽作業、見張りや戦闘、色々できます。少し劣った自分のコピーとお考え下さい」
秘書子さんがそう言う。
サバイバル生活には人手が必要だから助かるな。俺の言う事は聞かなそうだが、明日乃なら上手に使ってくれるだろう。
「ちなみに、精霊の一種なので年を取りませんし、性別はありません。ただ、実体化するために肉体をマナで構成したので肉体の維持のために人の3分の1くらいの食事と睡眠は必要になります。そして肉体が修復不能な状況に至った場合、精霊の部分が霧散、存在がなくなります。また、主を失った場合も同様に肉体が霧散、精霊に還ります」
秘書子さんが『眷属』の取扱説明書みたいなことを教えてくれる。
レオは見かけや口調はオスっぽいが、性別はないらしい。
「年を取らないけどご飯は食べるし死ぬこともあるってことか」
俺はぼそりとつぶやく。
「死ぬというより肉体を失うです。精霊自体は消滅しませんし、剣にマナが貯まれば、また新しい眷属として召喚が可能です。記憶や経験は失われますが」
秘書子さんが無感情にそう言う。
それって、死ぬってことと同じだろ? 俺は秘書子さんの感覚のずれに戸惑いを感じる。
「まあ、だいたい分かりました。別の質問もいいですか?」
俺は他にも聞きたいことがあったので質問する。
明日乃はレオと遊んでいるし、一角は俺から奪った、ダンジョンの景品と呼ばれる魔法の剣で遊んでいる。
「質問をどうぞ」
秘書子さんが端的に答える。
「さっき、オオカミを倒したのですが、レベルが上がったり、経験値が入ったりする気配がないんですが?」
俺は子供のころにやったRPGを思い出して質問する。
神様も動物や魔物を倒せばレベルが上がるといっていたしな。
「魔物を倒した後、神に祈る必要があります。魔物や動物の死骸は放っておくとそのままですが、「神にマナをお返しします」と祈ることで、死骸はマナに還り、神の元に還り浄化されます。そして、半分が世界に戻り、4分の1が動物や魔物を倒した人間に戻され、それが肉体を構成するマナとなる、要は経験値になるわけです」
秘書子さんがそう教えてくれる。
神に祈れば経験値化してくれるのか。そして動物や魔物を構成する4分の1のマナが経験値として入ってくる。覚えておこう。
「それと、動物の場合、死骸を解体し、必要な素材をとることもできます。その場合、必要ない部分のみ、マナに還り、素材をとった分のマナは経験値になりません」
秘書子さんが追加で教えてくれる。
「秘書子さん、動物の解体の仕方とか分かります? オオカミはともかく、食べられる動物とかは肉とか食べられる部分を確保したいので」
俺は動物の解体方法も知りたいのだ。
「動物の解体知識もあります。先ほど倒したオオカミで後程レクチャーしましょう。オオカミの毛皮は今後役に立つと思いますし、肉も食べられると言われています。それと、今後は解体の効率化のために昨日、アスノ様と話をしていた黒曜石などを入手して刃物を作ることをお勧めします」
秘書子さんが解体方法を教えてくれるらしい。
とりあえず、神様から貰った筒、変幻自在の武器でナイフは作れるけど、人数分刃物があった方が効率はいいもんな。黒曜石探しも早めにやろう。
聞き流しかけたが、俺は慌てて、
「いやいや、オオカミの解体は、さすがに犬を食べるみたいで倫理的というか道徳的というか、なんか気が引けるから。それに、みんなも嫌がると思うし、食べられる動物が倒せたときにレクチャーしてもらう感じでいいですか?」
と秘書子さんに答える。
この女神様はいきなりオオカミを解体させる気だったらしい。ちょっとドン引きした。まあ、毛皮は確かに役立つかもしれないけど、食べられる動物で慣れてからだな。
「承知いたしました。食べられる動物を倒せた際はお声がけください」
秘書子さんがそう答える。
「それと、一番、気になったんですが、そもそも、マナって何ですか?」
俺は一番大事なことを聞いてみる。昨日、明日乃もマナは経験値でありMPでありスキルポイントでもあるかもしれないって言っていたが、俺はほとんど理解できていない。なんとなく魔法的な物質でこの世界を作っている何か? おれの解釈はこの程度だ。
「アスノ様が言っていた通りです。マナはこの世のすべてを構成する素となるものであり、人はもちろん、動物、魔物、石や木にあたるまでマナで構成されています。よって、レベルアップ、体を構成し直す場合もマナが必要となり、魔法を使う場合もその原動力としてマナが必要となり、スキルを覚える場合も、脳や体に経験や知識を植え付けるためのエネルギーや素材としてマナが必要になります」
秘書子さんがそう言う。
なんか、科学で習った分子とか原子って話かな?
「分子や原子や電子、それをさらに分解した物、神様の力となる『信仰心』や『願い』に近い、より精神世界的なエネルギーとお考え下さい」
と秘書子さんが補足してくれた。
電子よりもっと細かい物で霊的なものってことか。よく分からないけど。
俺の聞きたいことは大体聞けたな。
「明日乃、秘書子さんに聞きたいことがあったら聞いておくぞ」
俺は、眷属のレオで遊んでいる明日乃に声をかける。
「私もいるんだが」
一角が少しイラっとして答える。
お前、どうせ何も考えてないだろ? 脳筋スポーツ娘だし。
秘書子さんを待たせてしまうのは悪いが、二度手間になるので、俺が聞いた質問の答えを2人に伝言ゲームのように説明する。
一通り説明した後、足りない部分、明日乃と一角が知りたいことを、俺を経由して聞いていく。秘書子さんにも明日乃や一角の言葉は聞こえるし、見えているようだ。ただ、秘書子さんから声をかけることはできないし、二人には秘書子さんが見えない。
質問を伝える必要はないが、回答は二人に俺が伝えないといけない。そんな感じだ。
とりあえず、明日乃の異世界知識の再確認みたいなものが始まって、俺は半分くらい理解ができなかった。かなり難易度が高い伝言ゲームと化した。
ちなみに俺たちが見ているステータスや経験値というものは神様が俺達に分かりやすく数値化しているだけで、筋肉や脳を構成するマナを測定し数値化しているだけらしい。経験値も敵を倒して得たマナを肉体に貯めておく、それを数値化しただけらしい。
あと、動物の肉もマナでできているので、食べるとマナが吸収でき、経験値になるらしい。食事でも少し経験値があがると。
明日乃の質問の結果、アイテムボックスというスキルとチートスキルやチートステータスみたいなものはないらしい。特にアイテムボックスは時空を歪めたり、時間を止めたりする、結構この世界に悪影響を与えるような原理らしいので神様でも避ける禁断のスキル扱いだそうだ。
まあ、確かにそうだ。RPGで最後のボス相手に頭からアイテムボックスをかぶせて入口を締めたら最強のギロチン武器だもんな。大量に石入れて頭の上から降らせたり、水を大量に入れて洪水をおこしたり、頭のよくない俺が考えてもいくらでも危険な使い方は思いつくし。
とにかく地道にレベルを上げて、地道に素材を集め、人力で運べ。ということらしい。
その後、明日乃が水、竹、黒曜石など、欲しい素材の具体的な在処をいくつか質問する。その結果、ステータスウインドウにマッピング機能が追加された。
マッピング機能は、歩いたところを自動でマッピングしてくれるし、仲間の位置も表示してくれる。拠点などの位置もわかるし、方角もわかる。そして秘書子さんに聞いた、欲しい素材のありかも、だいたいだが場所だけマークしてくれる。ただし、そこまでの道のりに何があるかは歩いてみないとわからない仕組みのようだ。まだ、全然散策していないので、マップはほとんど真っ黒だ。
「うーん、至れり尽くせりなゲームみたいだな」
俺はマッピングの余りの存在感に少しひく。
「そうだね。便利だけど、ちょっと現実味が無くなるね」
と明日乃。俺も同意見だ。
「まあ、仲間の位置も、拠点の位置も分かるのはいいんじゃないか? 迷子になったり遭難したりする危険性がかなり減らせられるしな」
一角がそう言う。
まあ確かに遭難はサバイバルでは気を付けないといけない。方角もわからなかった、サバイバル素人の俺達にはマッピング機能は必要なものかもしれないな。
あと、ステータスウインドウに緊急チャット機能、電話みたいなものもあるらしい。ただしこれは送信者側のマナを消費するので緊急時以外の使用は推奨されないそうだ。レベルアップが遅れちゃうからな。
一通り聞いて聞き忘れていたことがあったので俺はもう少し秘書子さんに聞く。
「そういえば、経験値って、祈った人が全部手に入れる感じなのですか?」
俺は思いついたことを言う。
さっきの場合、俺がオオカミを2匹、一角も1匹倒している。そして明日乃も倒しはしなかったが戦いには参加したし、オオカミをひきつけてくれたから何とかなった部分はあるしな。
「経験値の分配は、戦闘に参加した全員の意識を平均して、貢献度で分配します。なので、戦闘に参加していない人への経験値の分配はできませんし、魔物を倒していなくても貢献していたと仲間が感じていれば経験値は貢献度に応じて分配されます。ちなみにその分配も私の仕事となっております」
と秘書子さん。
なるほどな。秘書子さんが俺たちの心を読んで一番頑張ったと思った人に多めに分配していく感じか。
俺は経験値の分配の話も二人に伝える。
なんか、手間はかかったが、3人が今知りたいことは大体、聞けたようだ。
「というか、秘書子さんと明日乃が会話できれば一番早かったんじゃないか? 明日乃が一番頭はいいし、知識もあるし」
俺は独り言のように心の中で愚痴を吐く。
「神様曰く、アスノ様に私が知識を伝授してしまうと、アスノ様が『知識無双』をしてしまってリュウジ様の活躍の場がなくなる。リーダーとしての立場を配慮して、リュウジ様とだけ会話できる仕組みになったと言われておりました。もちろん、神の力の節約が第一目的ですが」
秘書子さんが俺の不満に対して答えてくれる。
神様のおっさんが俺の立場を配慮してくれたそうだ。悲しい配慮だけどね。
「じゃあ、今、聞きたい事は大体聞けたみたいだし、さっき言ってた、動物や、魔物を倒した時の経験値の入手方法を聞いたから試してみよう」
俺はそう言って、さっき倒したオオカミの死骸に向かう。
明日乃と一角、そしてレオもついてくる。
オオカミ死骸の前で立ち止まり、
「神様にマナをお返しします」
俺はそう口ずさみ、祈りをささげる。
すると、3匹のオオカミの死骸が輝き出し、神様が消えていくときのように透明になっていき、最後は消え去る。
「ステータスオープン」
俺は声に出してステータスを見る。
名前:りゅうじ
職業:ノービス
レベル 6(ステータス合計36)
ちから 9
すばやさ 8
ちりょく 4
たいりょく 6
きようさ 9
信仰心 低
HP 6
マナ(経験値)/レベルアップに必要なマナ 9/36
スキル使用枠/スキル習得可能枠 0/36
スキル
①生活級 なし
「経験値9? 少な!!」
俺はステータスを見て驚く。
「私なんて3だよ。まあ、オオカミ倒してないけど」
明日乃が寂しそうにそう言う。
「私は6だな。あれだけ命がけだったわりには確かに少ないな」
一角も少しがっかりした感じでそう言う。
明日乃がちゃんと説明してくれたのか、当たり前のようにステータスウインドウを見ている一角。順応性が高いな。この子は。
「経験値の計算式を説明しますか?」
秘書子さんが俺たちの不満の声に抗議するようにそう声をかけてくる。無感情だけど。
「一応聞いておこうかな」
俺は心の中で秘書子さんに声をかける。
「今回、倒した相手はオオカミ。先ほど説明の通り、倒した敵のマナの半分は世界に、4分の1は全能神に返されますので1/4となります。倒した敵の基本マナ量はレベルと肉体を構成するマナ、要はステータス総計に準じたものになります。今回倒したオオカミは全てレベル5。ステータス総計は25となり、25÷4(神補正)=6となり、1匹の経験値は6です。それを3匹ですので、パーティに入る経験値は18。それを戦闘に参加した3人の貢献度で分配すると、流司様=9、明日乃様=3、一角様=6となります」
秘書子さんが経験値の計算方法を丁寧に説明してくれる。口調は変わらず無感情だけど。
とりあえず、明日乃と一角にも経験値の入手方法と計算式を口頭で教えてあげる。俺はあまり興味なかったけどな。
「なるほど。計算的には間違っていないな。4分の1しか経験値にならないのは厳しい」
一角が俺の話を聞いて一応納得する。
「一角ちゃん、この島には魔物はいないらしいけど、他の島にはいっぱいいるらしいから、この島から出れば、経験値には困らなくなるらしいよ。強い魔物は経験値が高いらしいし」
明日乃がそう付け足す。
そう言えば明日乃がさっき聞いていたな、そんなこと。
この島は安全地帯らしいが、それ以外の6つの島は魔物がうじゃうじゃいるらしい。
しかも、いつかは魔物討伐、数を減らしに行かないとこの島の結界が破壊されてしまうという。
「ちなみに、安全性の観点から、自分と同レベルの魔物か、レベルの低い魔物の討伐をお勧めします。レベルの高い魔物は格段に強いですし、格上、レベルが10以上離れた魔物は手も足も出ない可能性があります」
秘書子さんがそうアドバイスをくれたので、俺はみんなと共有する。
「とりあえず、やたら、リアルな割には、こういう部分はゲームっぽいんだな」
呆れるようにそう言う一角。
俺も明日乃も呆れるように半笑いして同意する。
「まあ、明日乃から聞いたと思うが、とりあえずサバイバル生活を続けて衣食住を充実させて生活レベルを向上させるのが俺たちの今の仕事らしい」
俺はそう一角に言う。
「流司、お前とは子作りなんてしないからな。できるなら私は明日乃と子作りする」
一角が俺に向かってそう言う。
明日乃、そこまで説明しちゃったのか。というか、明日乃と女同士で子作りって発想が意味不明だ。
「まあ、これから、別の仲間が来た時に男も増えるかもしれないし、そのあたりは後々考えればいいんじゃないか?」
俺は呆れるように、そして明日乃に勘違いさせないようにそう言う。
「残念ながら、今後合流する仲間に男性は含まれておりません。現在、過度な遺伝子の多様性は必要ありませんし、恒常性を高めるうえで男性は一人としました。なにより、男性が二人以上になると、戦いが起き、人口減少の理由になるからです。全能神様曰く、NTR防止対策だという事です。新たな男性は次世代以降に転生、導入させる予定です」
秘書子さんが、しれっ、と余計な情報を入れる。というか、全能神、本当に神様か? 元の世界の変な知識もありすぎる。
「なんだそりゃ? つまり、一角とも将来的には子作りしないといけないってことか?」
俺は慌てて、心の中で秘書子さんに抗議する。
「二人の同意があればの話です。一応、仲間として準備した6名の女性はみな、流司様と相性がいい女性を選んでありますので、できれば遺伝子の多様性と子孫繁栄の為に全員と子作りを推奨します」
秘書子さんが、しれっ、と一角にもその気がありそうなことを言う。
いやいや、それはないだろ? 一角にはいつも怒鳴られているし。
俺は頭が痛くなったので、その話題から避ける。
とりあえず、俺は現在、明日乃に一途だ。浮気するつもりはないし、そもそも高校生の俺たちが子作りとかまだ考えられない。
なんか気まずくなって沈黙の時間が過ぎる。
「とりあえず、具体的には何をすればいい?」
一角が沈黙を破るように、俺と明日乃にそう聞く。
「そうだな。とりあえず陽も昇ってきたし、今日の食料と水の確保をして、薪も確保して、オオカミに襲われた時に対応しやすいように柵で家を囲う感じかな? あと、一角の家も作らないといけないな」
俺はそう言って今日の予定を立てる。
「私は明日乃と一緒の家でもいいぞ」
一角がそう言うが、明日乃があからさまに嫌な顔をする。
確かに身の危険を感じるよな。女同士でも。さっきの発言を聞けば。
「まあ、プライベートスペースは必要だ。一応一人1個のシェルターを確保しよう」
俺はそう言って作業に入ろうとする。
「あと、紐も欲しいよね。雑草を編んで荒縄みたいな感じ? たぶん、そういうのがあった方が柵とかも作りやすいだろうし」
明日乃がそうアドバイスする。
「じゃあ、とりあえず、バナナとヤシの実を確保したら、藁みたいな雑草を集めて紐づくり? で、紐作っている間に俺が柵の材料や一角の家づくりの材料を探してくるよ。あと、川と竹と黒曜石探しだな。黒曜石はちょっと遠くにありそうだから竹と川を今日は探す感じかな?」
俺は今日の指針をそう発表する。
「川にお魚さんとかいたらいいね。かにさんとかでもいいけど」
明日乃が楽しそうにそう言う。
苦労が絶えないサバイバル生活だけど、楽しむ気持ちも大事だよな。
次話に続く。
誤字報告ありがとうございます
感想ご意見お待ちしております。
ブックマークや☆もらえると作者かなり喜びます。