第88話 ダンジョン挑戦権を奪おう(前編)
【異世界生活 77日 4:30】
「一回下がって、作戦会議だ」
俺はそう言って、じりじりと後退する。
危険探知のスキルと鑑定スキルで気になるところを確認しながら魔物に刺激を与えないように撤退する。
ダンジョンの前には人型のウサギ、ワーラビットが100体以上、右手の森の縁には人型の狼、ワーウルフが30体、山の中腹には鳥人間のハーピーが30体様子を窺っていた。
たぶん、ワーウルフも、ハーピーも人数的に出せるギリギリの数だと思われる。そして、ギリギリの数ゆえか、どちらにもボス級のレベル31越えが混じっていた。そして、平均レベルは21越えの厄介な連中だ。
それに対し、ワーラビットは格下、平均レベルが17~8程度、レベル21越えがちらほら見えた程度だった。
明らかにワーウルフやハーピーに比べて力不足。ゆえに今まで自分の集落に籠っていたのかもしれない。
そして3種族とも風属性らしい。使う魔法は風ってことか。一角と一緒だな。
「さて、これからどうする? ヤバイ魔法を使いそうなワーウルフから叩くか、数が多いワーラビットから叩くか。多分、ハーピーは山の上、地の利をとられているからこちらから仕掛けるのは避けた方がいいと思う」
俺は魔物からかなり距離を置いたところで、警戒しつつも、作戦会議を始める。
坂を上りながら空飛ぶ魔物と戦うのはさすがに遠慮したい。
「まあ、ダンジョンを諦めて、今日はハーピーの集落を攻めて根絶やしにするっていう選択もあるだろうけど」
麗美さんがそう言う。
ようは集落を強襲し、そのまま、地理的に上をとった状態でさっき見えた30体を倒すという作戦かな?
「ハーピーの集落の防衛体制が分からないからいきなりは避けた方がいいかも?」
明日乃がそう言う。
確かにそうだ。行き当たりばったりでハーピーの集落を攻めて落とせるとは限らないしな。山の中腹には罠や防護柵もありそうだし。
俺は同意するように頷く。
「流司としてはどうしたい?」
一角が俺に聞く。
「俺の考えは、ワーラビットに強襲かな? それで、ワーウルフ達が魔法でワーラビットもろとも俺達を攻撃って作戦に流れてくれれば、ワーラビットも減るし、魔物は魔法を連射できないらしいから、そのまま、反転してワーウルフのボスを狩る。ハーピーが魔法を使ってきた場合も同じだな。反転して近寄ってきたハーピーのボスを狩る。明日乃の結界魔法があるからできる作戦だけどな」
俺はそう答える。
「あっさり魔法を使ってくれればいいけどな」
一角がそう反論する。
確かに、魔物は原初魔法、要は経験値=MP=マナなマナを使って発動する魔法しか使えないらしく、魔法を使う自体赤字の行為、レベルアップを犠牲にする選択肢なのだ。
よほどのことがない限り、魔法は使ってこない可能性はある。
「私たちを倒せば経験値が沢山もらえると見込めば魔物も魔法を使ってくるかもね」
麗美さんがそう言う。
確かにその可能性はあるが、魔物に鑑定スキルが使えるかどうかが分からないし、何とも言えない。
「ちなみに、一角がレベル31になって使えるようになった魔法ってなんだ?」
俺は気になって聞いてみる。ワーウルフのボスやハーピーが使うとしたらきっとその魔法だろうから。
「ああ、一つは『大竜巻』。巨大な竜巻で敵を切り刻み、巻き上げて、地面にたたきつける魔法だ。あと『飛行』っていう、空を自由に飛べる魔法も覚えられるようになった」
一角がそう言う。
「空を自由に飛べる魔法? それはうらやましいね」
明日乃が物欲しそうにそう言う。
俺には、一角がアホっぽい格好で空をふわふわ浮く光景しか想像できなかったが。
「『大竜巻』はヤバいな。一角、今日は絶対明日乃の結界から出るなよ。ミキサーでミンチにされた上空から叩きつけられるぞ」
俺はそう言って警告する。
「まあ、私の場合『飛行』があるから地面に叩きつけられることはないが、切り刻まれるのは嫌だな」
一角がそう答える。
まあ、今日は無茶しないだろう。
「今日は、結界から出ないで戦う地味な持久戦になりそうね」
真望がそう言う。
「敵の魔法を利用して、多数派のワーラビットを効率的に倒すか、数が減って弱体化したワーウルフのボスを先に倒すか、二択ってところね。多分、ワーラビットはダンジョンの入り口に張り付いて動かないだろうから、私は数が少ないワーウルフから先に倒すことを推薦したいかな? ただ、ワーウルフ退治にもたつくと、ワーラビットにダンジョン挑戦権を奪われる可能性はあるわね」
麗美さんがそう言う。
「流司の案なら最悪、ダンジョンの入り口に張り付けばダンジョン挑戦権は確保できるって事か。私はワーウルフを無視して、ダンジョンの入り口に張り付いて結界でひたすら粘るという案がいいと思う」
一角がそう言って俺の案の変則案を出してきた。
確かにそれもありだな。ワーウルフとワーラビットが勝手につぶし合いをしてくれそうだし。俺の案だと麗美さんの案同様、ダンジョン挑戦権が奪われるリスクがある。
「まあ、一角ちゃんの案だと私達が袋叩きにされるわけね」
真望が嫌そうな顔をする。
「結界がある限り大丈夫だよ。お祈りポイントも60000ポイント近くあるし」
明日乃がそう言って真望を安心させる。
「一角ちゃんの案もダンジョンに張り付けない可能性もあるのよね。ワーラビットに粘られたらね。ワーラビット、100体以上いるし。そうなると、草原の真ん中で3種類の魔物に袋叩きにされる可能性も無きにしも非ず?」
麗美さんがそう言って笑う。
笑い事じゃないな。それはそれで嫌だ。
「まあ、その時は反転してワーウルフとハーピーを先に倒せばいい」
一角がそう言う。
確かにいい案だ。というか、ほぼ俺の作戦と同じじゃないか。
「で、どうするんだ、時間もないぞ。多数決にするか? というか、明日乃と真望がどれを選ぶかだな」
一角が少しイライラしだしてそう言う。
「私? 私だったら、安全性と今日失敗した場合でも明日以降につながる麗美さんの案かな? お祈りポイントの消費も抑えられそうだし」
明日乃が堅実な回答をする。
「明日乃ちゃんが麗美さんの案を選ぶなら私もそれかな? 最悪失敗しても一番逃げやすそうだし」
真望は明日乃の意見に流された。真望は普段からあまり自分で考えないアホの子だから仕方ないな。
「じゃあ、麗美さんの案でいくか。森はちょっと怖いから、草原に出て草原経由でワーウルフに攻撃を仕掛ける感じで」
俺はそう言う。
この島の森は深すぎる上になんか嫌な予感がするんだよな。罠があるのかしらないが、首の後ろがチリチリと痛み、森には入るなと警報を告げている。『危険探知』のスキルによる警告だ。
10分近く話し込んでしまった。時間切れでダンジョン挑戦権を奪われるのは避けたい。俺はみんなの承諾を確認すると歩き出す。
「敵が見えたら、明日乃は魔法で結界を張ってくれ。それと同時に全体補助魔法を。ステータスが上がったら、全員明日乃のペースに合わせて駆け出すぞ。ワーウルフの群れを蹴散らす。特に、一角、結界からは出るなよ」
俺はそう言い広い草原に向けて歩く。
さっき、ワーラビットを視界に確認できた位置まで戻り、明日乃が結界魔法と全体補助魔法をかける。全員のステータスが若干だが上昇する。
「いくぞ」
俺はそう声をかけて走り出す。
明日乃の結界から出ないように全速力ではないが、明日乃もかなりレベルが上がって早く走れるようになった。
「シュバババ」
風を切る嫌な音が聞こえる。
「流司、ワーラビットに弓兵がいるぞ」
一角が叫ぶ。
俺は振り返り、ワーラビットの軍勢を見ると、先頭は粗悪な木製の盾と槍を持った前衛だが、その後ろには沢山の弓兵、粗悪な弓矢を持ったワーラビットが並んでいる。
「ドガガガガがガッ」
嫌な音を立てて、結界に矢が当たり矢を跳ね返す。
「りゅう君、今の矢の攻撃で結界の耐久力が6割以上なくなったよ」
明日乃が悲鳴を上げる。
結界の耐久力表示をみると[16/45]と表示されている。一度に29回分の攻撃を受けたって事か。
「弱いけど数があるから耐久力が効率的に減る。結界泣かせな攻撃ね」
麗美さんが呆れ顔でそう言う。
弓も矢も粗悪で、磨製石器の鏃のついた矢が結界にはじかれて、ぼとぼとと地面に落ちる。
「ワーラビットのレベルが低いから、見下していたけど、逆に、弱いゆえに経験で組織的な動きを学習したのかもしれないな」
俺は、ウサギらしからぬ集団戦術に驚かされ、そう独り言を漏らす。
どちらかというとオオカミとかの方が集団戦術とか得意そうな気がしたしな。
「とにかくワーラビットの群れから離れて、射程外に出るぞ」
俺はそう言い走り、ワーラビットと逆の方向、ワーウルフの群れに向かう。
もう一度矢の雨が降ってくるが先ほどよりは矢が届かなくなっている。そしてワーラビットも深追いはしないようだ。
そして、結界の耐久度がもう1桁突入だ。あの矢は面倒だな。
俺達がワーウルフの陣営に駆け寄ると、ワーウルフ達がじわりじわりと撤退していく。
そして、ワーウルフのボス、レベル31越えのワーウルフリーダーが確認できた。しかも、レベル31越えが3体もいる。
そのうち、2体のワーウルフリーダーが2発同時の魔法を放つ。さっき一角が言っていた『大竜巻』の2連発だ。
俺達のまわりに巨大な3連の竜巻が2組、6つの巨大な竜巻が俺達の結界をすり潰す。
「ひやぁ、結界がどんどん削られてるよ」
明日乃が悲鳴を上げる。
結界が3回壊されて、同時に3回自動で結界が張り直される。お祈りポイント300×3回の消費だ。
そして、ボスらしきワーウルフリーダーの魔法はまだ残っている。もう1発来るって事だ。
結界のおかげで、空に巻き上げられることはなかったが、結界が壊されお祈りポイントがかなり消費された。
「ワオオ~~~~~ン」
突然、ボスのワーウルフリーダーが遠吠えをする。
俺はとっさに身構える。
そして首筋がチリチリと痛み、警戒を呼び掛ける。右手の森の方向だ。
俺は森の方向を向くとがさがさと森の中の藪を書き分ける音がし、大量の何かが飛び出してくる。
オオカミだ!!
「みんな、右の森からオオカミだ。前進を止めずに、オオカミにも対処頼む」
俺がそう言うと右前と右後ろを守っていた麗美さんと真望がオオカミに対処し、一角も右側の増援に向かう。
オオカミが結界に飛び掛かり、結界の耐久度が下がっていく。
大量のオオカミが結界に飛び掛かり、徐々に結界を包囲していく。
「一角、右はいい、俺と前のオオカミを倒せ」
俺は、前進できなくなった明日乃に気づきそう指示しつつ、結界の前で攻撃してくるオオカミを青銅の剣で叩き切る。
結界は魔物に押し返されることはないが、前に魔物に立たれると、こちらが前進しようとすると、明日乃と魔物の押し合いになるのだ。
ちなみに今日の俺の武器は、鈴さんに変幻自在の武器を貸してきたので青銅の剣を使っている。それと予備武器として青銅の槍を持ってきた。
一角も前に戻ってきて俺の横で青銅の剣でオオカミを切り捨てる。
こちらには結界があるので、格下のオオカミは相手にならない。剣の一振りで首を刎ねる。
「流司、数が多すぎるぞ。というか、こんなのありか?」
一角が文句を言う。
「文句を言いたいのは俺の方だ。ワーウルフがオオカミを操れるなんて聞いてなかったぞ。前の島のリザードマンがトカゲを操るところなんて見なかったしな」
俺は怒鳴るように一角に文句を言い返す。
「トカゲは知能がありませんが、オオカミは知能があり、群れる性質があるので、ワーウルフに従うようです」
秘書子さんが俺の頭の中でそう説明してくる。
秘書子さん、もう少し早く教えてくれよ。
50匹以上のオオカミが森から飛び出してきて囲まれる。
それに合わせて、ワーウルフ達も俺達に襲い掛かってくる。
そして、どんどん耐久力を減らされ、何度も張替えさせられる結界。お祈りポイントがどんどん減っていく。
俺達は進むのを諦めて、とにかく結界への攻撃を減らすことに集中する。囲んでいるオオカミとワーウルフを1体ずつ確実に仕留める作業だ。
「魔法を使うわよ。『炎の壁』!!」
真望がそう叫び、結界の右側に炎の壁が現れ森に向かって動き出し、オオカミ達をひき潰していく。
「さすが、毛むくじゃら、よく燃えるわね」
真望が憂さを晴らすようにそう叫ぶ。
炎の魔法でオオカミ達が火だるまになり、のたうち回る。
結界の攻撃が手薄になり耐久度の減りが下がる。
やはり、真望の魔法『炎の壁』は多数の敵との戦闘と相性がいいな。
真望は、別の方向にも『炎の壁』を放ち、結界を攻撃していたオオカミを焼き尽くしていく。
オオカミのレベルは10以下なので真望の魔法で簡単に焼かれていく。
残りのオオカミを麗美さんが日本刀風に変化させた変幻自在の武器で切り捨てていく。
俺と一角も前から来るワーウルフを1体ずつ冷静に斬り倒す。
そして、結界のまわりからオオカミもワーウルフもだいぶ減ったところで、ボスのワーウルフリーダーが魔法を放つ。仲間諸共、『大竜巻』ですり潰すつもりだ。
また結界が割れて、張り直しされる。そして血しぶきをあげて巻き上げられるオオカミやワーウルフ、そして倒した死骸たち。
「ヤバいな、『大竜巻』って魔法は」
俺はその光景を見て呆気にとられる。
そして巻き上げられたオオカミやワーウルフが、ぼとぼとと地面に落ち、首や足が変な方向に曲がる。
さらにヤバかった。
「一角、結界から出るなよ」
俺は一角にそう言う。
「馬鹿流司! 結界から出ろって言われても出ないぞ!!」
一角がそうキレる。俺も同意見だ。まあ、漫才で言うお約束の掛け合いがしたかっただけだ。
残りは、魔法を使えないワーウルフリーダー3体に、とりまきのワーウルフ4匹。
「真望、逃げそうになったら魔法を使え。逃がすなよ」
「了解」
俺は真望にそう言い。真望も答える。
結界から飛び出して、飛び掛かりたいところだが、取り巻きのワーウルフもレベル21は越えている。中級魔法は使えるのだ。
俺達はそれを警戒して結界からは出られない。明日乃の歩みに合わせて前進する。
「補助魔法使っていいか?」
一角がそう言う。短期決戦目当てか。
「使ってもいいが、ワーウルフから倒せよ。奴らはまだ魔法使えるからな」
俺はそう答える。
「私、流司クン、一角ちゃんが補助魔法2重掛けしてワーウルフを倒す。そのまま3人でワーウルフリーダーに斬りかかる感じでいい?」
麗美さんがそう言う。
真望はレベルが少し低いし、明日乃を一人にするのは心配なのでそれでいいだろう。
「それだと、ワーウルフが1体残るぞ?」
俺がそう言うと、俺の後ろから、
「ヒュン」
と風を切る音がして、ワーウルフの眉間に矢が刺さり倒れる。
「これで、残り3体だよ」
明日乃がどや顔でそう言う。
そうだった。明日乃も今は攻撃手段を持っているんだった。
明日乃がクロスボウに次弾を装填し始め、真望も慌てて武器を持ち替え、クロスボウに矢を装填し始める。
「ちょうどいい数になった。いくぞ」
俺はそう言い、魔法を詠唱。『獅子の咆哮』、素早さと攻撃力を上げる補助魔法を唱え、結界から飛び出す。
一角と麗美さんも俺に続き、明日乃もなるべく結界を活かせるよう、俺の動きを追う。
ワーウルフは慌てて魔法を使おうとするが、氷の矢が形成されたところで、俺の神速の刃がワーウルフのわき腹を大きく切り裂き、返し刃で、頸動脈を断つ。
一角と麗美さんも暗殺者のような素早い動きで、残り2体のワーウルフにとどめを刺す。
そして、直線的な動きの補助魔法な一角は大きく方向が逸れ、ワーウルフリーダーから遠くなる。
「一角の補助魔法は、本当癖があるな」
俺はそう笑いながら、ワーウルフリーダーに向き直す。
「ボスは格上だから、麗美さんにお願いしていいかな?」
「いいわよ。お姉さん、がんばっちゃう」
俺のお願いに麗美さんがふざける。
ボスのワーウルフリーダーはレベル35。レベル30の俺より、レベル31で剣術も優れる麗美さんにお願いした方が正解だろう。
補助魔法2重掛けとはいえ、分の悪い戦いになりそうだしな。
あらぬ方向に走って行った一角も円を描いて走って戻ってきたので、それに合わせて俺と、麗美さんもワーウルフリーダーに飛び掛かる。
麗美さんが真ん中のボスに。俺は左のレベル31のワーウルフリーダーに。一角は残った右側のレベル32のワーウルフリーダーに斬りかかる。
3体とも多分ダンジョン由来の青銅の鎧に身を包んでいる。
狙うなら、首か露出した腹だな。
俺が青銅の剣で斬りかかると、ワーウルフリーダーも青銅の剣で受ける。ダンジョン由来の青銅の剣か。鈴さんに見せたら泣きそうだ。
言っちゃ悪いが、鋳造で作った鈴さんの剣より見かけはいい。
まあ、切れ味は鈴さんが良く砥いでくれたから、こちらの方がよさそうだ。
そして、レベルが魔物の方が上といっても、補助魔法2重掛けだ。体捌きはもちろん、剣の速度も上がっている。
2~3度剣を交えるが、俺の方が剣速も早い。
返し刃でワーウルフリーダーの鎧から露出した太ももを切り払い、膝をついたところでわき腹を大きく切り裂き、最後は首を両手で持った剣で薙ぎ、首を落とす。
「見事ね」
麗美さんがそう言って褒めてくれるが、麗美さんはレベル35のボスを俺より早く倒していたようだ。
一角の補助魔法は1対1より多数対1で格下を蹴散らすのに向いているせいかワーウルフリーダーに苦戦を強いられているが、レベルに差がほとんどないし、明日乃の補助魔法もかかっていて、一角自身の補助魔法も少しだが剣速や体捌きを良くする効果はある。
一角が一番後に、魔物を倒し、ワーウルフの集団を壊滅させた。
「なんか、悔しいな。私の補助魔法はボス向きじゃない」
一角がゲームに負けた子供のようなセリフを吐く。
俺と麗美さんが顔を見合わせて笑うしかなかった。
一角の補助魔法『狼の疾走』は素早さは上がるし、俺達の中でも最速のスピードを誇るが、動きが直線的になり、旋回性や回避力が下がるという癖のある魔法だ。雑魚の群れを走り抜けるのにはいいが、1対1には不向きという残念魔法だった。
ここまでのお祈りポイント消費が5850ポイント。ワーウルフがオオカミを操れるという隠し技のせいで、予想以上に消耗してしまった。体力消耗も予定以上だ。
「それじゃあ、次に行くか」
「ウサギを倒して、ダンジョンに入り、私専用の武器を手に入れる」
俺と一角は拳を合わせそう言い、消耗を無視するようにワーラビットの群れに向かい歩きだす。
次話に続く。