第79話 糸車とはた織り機を作る準備(スキップ回)。そして糸車ができる
【異世界生活 57日 12:00】
結局、ワーウルフに早めに撤退されてしまいやる事が無くなり拠点に帰る俺達。
「あら? 早かったじゃない」
そう言って真望が迎えてくれる。
「ああ、ワーウルフに早々に撤退されちゃってね」
俺は笑いながらそう言う。
「あ、お帰りみんな。明日乃、クロスボウできたよ」
鈴さんがそう言って出来立ての2本目のクロスボウを持って昼ご飯を食べにくる。
「じゃあ、お昼ご飯食べたら少し使い方教えてくださいね」
明日乃がそう答え、昼食を作り始める。琉生も明日乃の手伝いを始める。
「午後はどうする?」
俺は鈴さんを中心に午後の予定を聞く。
「そうね、クロスボウの作成は一段落ついたから、鍛冶小屋の仕上げをして完成をめざす感じかな? あと、明日乃、また秘書子さんの降臨頼める? 真望が欲しがってる糸車とはた織り機の設計図を粘土板で作って欲しいんだ」
鈴さんがそう言う。
「わかったよ。クロスボウの練習が終わったら、粘土をこねて、秘書子さんに降臨してもらおうね」
明日乃が承諾する。
「やっと念願の糸車とはた織り機ができるのね」
真望が少し興奮してそう言う。
「一角と麗美さんは午後の作業はどうする?」
俺は二人に聞いてみる。
「鈴さんを手伝うことがあれば手伝うけど、なければ、午後も魔物狩りがしたいかな? 今日はワーウルフに早めに逃げられて、あまり数も減らせられなかったしな」
一角がそう言い、麗美さんもそれに付き合うみたいだ。
「今日は鍛冶工房の小屋の窓や扉をつけるだけだから、人出は要らないかな? 流司がいれば大丈夫だよ」
鈴さんがそう言う。俺は手伝い要員に自動的にカウントされていた。
「だったら、私も魔物狩り行こうかな? もう少しでレベルが上がりそうだし」
琉生がそう言って魔物狩りに立候補する。
明日乃と真望は麻糸作りをするらしい。
レオ達眷属は水汲みをしたり薪集めに行ったりするそうだ。
昼食ができたので、みんなで食べてから午後の作業に移る。
俺は明日乃と鈴さんとクロスボウの試し撃ちと練習をしてから、終了後、俺と鈴さんと鍛冶工房の小屋作りをする。窓や扉をつけるちょっと技術のいる作業で鈴さん中心になってその作業をする。
夕方にはその作業も終わり、鍛冶工房の小屋が完成した。
日が暮れるころには一角と麗美さんと琉生が帰ってくる。
「琉生レベルは上がったか?」
俺は琉生に聞いてみる。
「うん、しかも2つも上がってレベル23になったよ」
嬉しそうに琉生がそう言う。マジか。追いつかれそうだな。
「私も麗美さんもレベルがあがったぞ。私がレベル27で、麗美さんは28だ」
自慢げにそう言う一角。
いつの間にか俺のレベルを抜かれた上に引き離されそうじゃないか。
ちなみに現在のみんなのレベルだが、
流司 レベル25 レンジャー 剣士
明日乃 レベル23 神官 聖魔法使い 剣士
一角 レベル27 狩人 剣士
麗美 レベル28 医師 剣士 治癒魔法使い見習い
真望 レベル24 裁縫師 剣士
鈴 レベル21 鍛冶師 建築士 剣士
琉生 レベル23 テイマー見習い 剣士
こんな感じだ。
だいぶばらつきが出てきたな。
南東の島のダンジョンに挑戦できるようになったら鈴さんあたりからスパルタしないとだめかもしれないな。
まあ、今は一角と麗美さんに魔物狩りは任せて、2人にまずはレベル31になってもらうっていうのもありかもしれないし、なによりお祈りポイントが貯まらないと何もできないしな。ちなみに、今日の時点でお祈りポイントはまだ、26650ポイント、今日お祈りする分を入れても32650ポイントしか貯まっていない。
「明日はどうするかな」
俺はぼそっとつぶやく。
「りゅう君、そろそろ、お肉を補充しないと干し肉が無くなっちゃうかも?」
明日乃が料理しながらそう言う。
干し肉が残り一日分しかないそうだ。
「野菜の補充もしたいね」
琉生も料理をしながらそう言う。
畑があるので野菜自体はまだ残っているらしいが種類によっては不足しだした野菜があるとのこと。
「じゃあ、明日は北の平地に野菜を取りに行って、動物がいれば狩るし、いなかったら川で川魚獲る感じかな?」
俺はそう答える。
「私は魔物狩りがしたいからパスな。午後からなら海で魚でも獲ってもいいけどな」
一角がそう言い、麗美さんも仕方なさそうに付き合うそうだ。
「人が足りなそうだから、明日は付き合ってあげるわよ」
真望が仕方なさそうにそう言う。野菜の収穫を手伝ってくれるらしい。
そんな感じで、明日は、俺、明日乃、琉生、真望、シロが北の平地に野菜採りに、一角と麗美さんは午前中、魔物狩りをして午後は海で魚獲り、鈴さんはレオとココと留守番をしながら、糸車や機織り機の木製部品を作るらしい。
「一角、サメには気をつけろよ。秘書子さんのサメレーダーがないからな」
俺はそう言う。
「さすがにサメに襲われたら魔法使っていいよな?」
一角が悪そうな顔でそう言う。
「使ってもいいが、海の中だと自動的に無詠唱だから、原初魔法、自分のマナが減るぞ」
俺はそう言って出鼻をくじく。
「そうかぁ、海の中じゃ魔法詠唱できないもんな。お祈りポイント使った魔法は無理か」
一角はがっかりする。
こいつは、自分のマナ(=経験値でありMPでもある)が減ってまでは魔法使いたくないらしい。わがままな奴め。
「まあ、私と交代で見張りをしながら海に入れば問題ないでしょ?」
麗美さんがそう言い、交代で海に入ることになった。
「あと、鈴さん、糸車とはた織機は組み立てるところ見たいから、部品作りだけにしておいてくれよ」
俺は鈴さんに念を押す。作るところちょっと見たいしな。
「ああ、明日は真望もいないし、組み立てるのは明後日以降にする予定だよ」
鈴さんがそう言う。
はた織り機や糸車は結構木材加工が面倒らしいので少し時間もかかるそうだ。
明日の予定を相談していると、夕食も出来上がり、みんなで食べる。
干し肉をお湯で戻したクマ肉鍋だ。
そして干し肉の残り、クマ肉が残り2食分、猪肉が1食分で、明日、何か狩ってこないと食糧難に突入しそうだ。
日課のお祈りをして、早めの就寝、明日に備える。
【異世界生活 58日】
今日は予定通り3組に分かれて行動する。
俺、明日乃、琉生、真望、シロは北の平地に行き、野菜の収穫や苗の確保、そして、運よく、イノシシがいたので俺と真望で倒して肉をゲットする。帰りに川で水浴びをしてから帰る。
一角と麗美さんは午前中、南東の島で魔物狩りをし、午後は海で魚獲り。20匹以上の魚を捕まえたそうだ。
鈴さんとレオとココは拠点で留守番をしながら、糸車や機織り機の木製部品を作ったそうだ。
夕食は今日獲ったイノシシの脂の多い部分、干し肉にできない部分を夕食に食べる。今日明日は脂身の焼肉が続く感じだ。
脂身でラードを作りたいところだが、冷蔵庫のないこの世界ではラードも数日で腐るらしく、作れずにいる感じだ。
イノシシ肉の赤身の部分と一角と麗美さんがとってきた魚は干し肉と魚の干物にする。
干し肉の下ごしらえが終わったところで、日課のお祈りをして、就寝だ。
【異世界生活 59日】
今日も基本的には同じ作業。
一角と麗美さんは魔物狩り、そのほかのメンバーは昨日下ごしらえしたイノシシ肉を干して干し肉にする作業をした後で、明日乃と真望は麻糸作り、琉生はシロと畑作業をして昨日採ってきた野菜や苗を植え直している。
俺と鈴さんは糸車とはた織機の金属部品の作成。
なんかクロスボウ以上に細かい部品が大量に必要らしく、鋳型作りがものすごく大変で、鋳型に溶けた青銅を流し込むのもさらに大変だったようだ。まあ、俺は手伝いで、実際流し込んだのは鈴さんだけどね。
一角と麗美さんは水浴びをした後、鈴さんに木材集めをお願いされたみたいで、琉生も加えて、森に入り、倒木を切り出し、担げる大きさの丸太を3つ持って帰ってきた。
徐々にだが、糸車とはた織機を作る準備が進んできた。
【異世界生活 60日】
今日は午前中生憎の雨。一角と麗美さんもさすがに魔物退治はお休みで、鍛冶工房の小屋のなかで真望や明日乃や琉生と麻糸作りをしている。
昨日作り始めた干し肉も半乾きで慌てて室内に移動して室内干しにする。雨で濡れたら意味ないしな。
なんか、鍛冶小屋は予想以上に広く、雨が降った時のたまり場になりそうな感じだ。こっそり囲炉裏も作ってあって、たき火も起こせるし。
俺と鈴さんは糸車とはた織機の金属の加工と木製部品の加工だ。ひたすら自転車モドキを漕いで、グラインダーを回し、鈴さんが金属部品を研磨する。
さすがに一人で自転車漕ぎはきつ過ぎたので、雨で魔物狩りに行けない、一角や麗美さんにも自転車漕ぎを手伝ってもらう。
何とか午前中で、金属加工の目星もついた感じだ。
午後は鈴は金属部品の微調整や仕上げ磨き、俺は鈴さんに聞きながら木材加工の簡単なところを手伝う。
一角と麗美さんは午後になると晴れたので、午前中できなかった魔物狩りに出かける。
明日乃、真望、琉生は麻糸作りだ。
はた織機、糸車は3日かけてやっと8割がた部品がそろったらしいので明日の午前中、足りない部品を作ったら、とうとう午後、糸車から組み立てを始めるそうだ。
粘土板の設計図を見ている俺はなんとなくどんなものができるか分かっているが、やっぱり、実物が出来上がり、自分の目で動くところを見るのは楽しみでしかたがないな。
【異世界生活 61日 6:00】
今日も、一角と麗美さんは魔物狩りへ。
琉生とシロは、農作業、レオとココは薪集めと荒縄など消耗品の補充、真望と明日乃は麻糸作りだが、真望がもう我慢できないらしく、鍛冶工房で、鈴さんの作業を見つつ、麻糸作りをしている。
俺は鈴さんの手伝いとして、比較的簡単な木材加工を手伝う感じだ。
「鈴さんは何を作っているの?」
俺は、木材でできた巨大なパズルで遊んでいるようにみえる鈴さんに聞く。
「ああ、糸車の車輪の部分を作るんだよ。まずは8角形の輪を作って、要らないところを削っていって円にする感じかな?」
そう言って、木片を組み立てていくと、確かに八角形の少し不格好な車輪ができる。
そして、そこから角をとっていき、16角形、32角形、最後はノミのような道具に変幻自在の武器を変化させて円形の車輪を作っていく。
俺はそれを見ながら、糸車の足や台、良く分からない板など簡単なものを、鉄のノコギリや青銅のナイフを使って作っていく。
変幻自在の武器がもう1本あればと思ってしまうが、俺の変幻自在の武器と麗美さんの変幻自在の武器、すでに2本あるのにさらに欲しくなる。この欲望はキリがないな。
さすがに魔物狩りに行く麗美さんから変幻自在の武器を借りるわけにも行かず、1本の変幻自在の武器を鈴さんが使って俺は、普通の鉄のノコギリを使っている感じだ。
そして、お昼近くなったころ、鈴さんが作っていた最後の部品が出来上がる。
「うん、部品は全部そろったから、お昼ご飯を食べたら組み立てに入ろう」
鈴さんがそう言って、昼休憩に入る。
「やっと、糸車ができるのね」
真望が目を輝かせる。
「とりあえず、飯を食おう。俺は腹減った。鈴さんもおなか減ったでしょ?」
俺は、真望がそのままの勢いで作業を続けさせそうだったのそう声をかける。
「そうだね。お腹もすいたけど、少し休憩して、集中力を取り戻さないと大きな失敗とかしそうだしね」
鈴さんがそう言って笑い、たき火の方へ戻る。
たき火のそばには明日乃と琉生がいて、昼食を作っている。レオとココとシロもたき火のそばで荒縄を作ったり、麻の繊維を叩いたりしている。
「琉生ちゃん、そういえば、そろそろ、本格的に麻糸作りを始めたいから、麻の茎の在庫を増やしてもらっていいかな?」
真望がそう言う。
「麻の繊維はまだ結構あるだろ?」
俺は倉庫の方を見るが、結構残っていたはずだ。
「これから本格的に麻布を作るから麻糸がもっともっと必要になるのよ。糸車と機織り機ができたら、みんなにも手伝ってもらって麻糸作りを強化するからね」
真望がそう言ってやる気になる。
「私は、鋼の武器を作り始めたいんだけどな」
鈴さんがそう言っておどけた顔をする。
「鈴さんには悪いけど、はた織り機ができたら、糸車はもう一台欲しいかな? あと、麻の繊維を細くする千歯こきもそろそろ金属化したいかな? 竹串の千歯こきじゃ限界があるのよ」
真望がそう言う。
そう言われて、千歯こき、竹で作った記憶がよみがえる。
「小麦を収穫した時とか、将来的に米を収穫した時にも千歯こきは使いたいから、青銅のくしにしてもらえるとありがたいかな」
琉生もそう言って、金属製の千歯こきを希望する。
「分かったわよ。糸車をもう一台と千歯こきね。あと、くしといえば個人的にもう少し本格的なくしが欲しいからそれも作るわね。金属製は難しいから竹製だけどね」
鈴さんがそう言う。
「くしはうれしいわね。今使っているくしは竹ひごを竹の棒に沢山紐で結んだだけの不格好なくしだけしかないし、鈴さんの技術でくし作ってくれたらみんなも喜ぶわ」
真望がそう言って心から喜ぶ。
「あと、個人的に、燻製機を作りたいから、2台目の糸車の金属部品作る時に青銅製の燻製機をつくろうかしらね」
鈴さんの製作意欲が止まらない。
そんな話をしていると、魔物狩りに行っていた一角と麗美さんも帰ってきて、お昼ご飯も出来上がる。
お昼ご飯を食べ、少し休憩してから午後の作業に入る。
ちなみに、一角と麗美さんと琉生は、鋳型を作る為の粘土と砂が足りなくなってきたので、泉の先にある地層の見える崖で砂と粘土を取りに行く。途中、麻の群生地に行って、茎を倒して腐らせる作業もするらしい。
俺と、鈴さん、そして、真望は糸車の組み立てにかかる。
部品はできていて、組み立てるだけなので、比較的作業は早く進んでいく。ただし、糸をよる仕組みと糸巻きに自動で糸を巻いていく装置は複雑で少し時間がかかった。俺は何を作っているのか分からなかったが。
俺達は、糸車を作っている途中で大変なことに気づいてしまう。糸車を置く場所がないのだ。
一時的に糸車は鍛冶工房に置くことになったが、はた織機を置く場所まではない。
真望の希望としては真望のツリーハウスに機織り機と糸車は置きたいらしいが、そうなると、琉生と一角の寝る場所が無くなってしまう。
「こまったわね。1台目の糸車はいいとして、2台目の糸車と機織り機を置く場所がないわ」
鈴さんが本当に困った顔をする。
「大事な糸車やはた織り機を屋根のないところで雨ざらしにするのは嫌よ」
真望がそう言って注文を入れる。
さすがにはた織り機は大きいらしく、昔使っていた地上の家には入らないし、糸車全部を入れるスペースもない。現在、それらの家は倉庫として使っているしな。
「そうしたら、今日の糸車ができたら、明日からはツリーハウスの4軒目を作るか。予定が伸びすぎて半分忘れかけていたけどな」
俺はそう提案する。
実際、ツリーハウス3軒で寝る分には困っていなかったし、眷属たちもなんだかんだでそれぞれのツリーハウスに分かれて寝ているし、眷属達の為のツリーハウス4軒目は後回しになっていた。
「だったら、真望の家、兼、裁縫工房ということで少し大き目なツリーハウスでもつくろうかな?」
鈴さんがそう言う。
まあ、それが無難だろうな。
「とりあえず、糸車は作っちゃいましょ? あとで、裁縫工房ができたら引っ越しさせればいいし」
鈴さんがそう付け足し、糸車を最後まで作る作業に入る。そして夕方になるころ糸車が完成する。
【異世界生活 61日 16:00】
「凄いわ。完璧よ」
真望が感動してそう呟く。
「使い方は分かるよね? 私は、ちょっと水浴びに行ってくるわ。作業続きで水浴びに行けなかったから、そろそろ恥ずかしいし」
鈴さんは俺の方を向いて、照れるように、俺を避けるようにして小屋を出ていく。
別に臭くないけどな。鈴さんも女の子だし俺の反応が気になるのだろう。
俺は明日乃に誘われて、ちょくちょく水浴びをしてたけど、鈴さんはたまにしか水浴びできてなかったもんな。
鈴さんは麻糸作りをしていた一角、麗美さん、琉生と一緒に竹を切りに行くついでに水浴びをすることになったようだ。4軒目のツリーハウスを作る為にもさらに竹が必要だもんな。
鈴さんが水浴びにいってしまったあと、真望と俺で糸車の試運転をすることになった。そして、明日乃も興味があるようで鍛冶工房にやってくる。
「これって、どういう仕組みなんだ?」
俺は糸車を見ても仕組みがさっぱりわからず真望に聞く。
糸車の構造(科学技術不足を2軸、ベルト2本で誤魔化しています)
「仕組みは昔の足踏み式のミシンと一緒ね? テレビとかで懐かしの家電みたいな番組で見たことない?」
真望がそう言う。
「ああ、なんとなくだが、イメージはできるかな? 亡くなったばあちゃんが捨てられずにとってあったミシンが確かそんな感じだった。実際動かしているところは見たことがないけどな」
俺は、子供のころにみた、お祖母ちゃんの部屋に会った足踏みミシンを思い出す。
「あれと一緒で、この大きな車輪を手で動かしながら、この下にあるペダルをタイミングよく踏むと、車輪が回り出す。車輪が回ると、このU字の部品、フライヤーという部品が回り出して、これが手で紡いでいた時に使っていた独楽、スピンドルの機能を果たすわけね。しかもフライヤーの中にはボビン、糸巻きが入っていて、これがフライヤーより少しだけ早く回ることにより自動で糸巻きもしてくれるのよ。あと、ボビンも一緒に回ることが重要なのよ。ボビンが回らないと巻取りスピードが凄い事になるからね。少しだけ回転が速いっていうのが重要なの」
真望がそう言説明しながらペダルを踏むと、車輪とは別のところにあるU字のフライヤーというものが回り出し、一緒にボビンも回り出す。
「なんとなく動きはわかったが、糸を紡ぐのと関係性が分からないな」
俺は素直に分からないと言ってみる。
「しょうがないなあ、それじゃあ、実際糸を紡いでみるから見ていてね。明日乃ちゃんは2台目できたら作業をお願いするかもしれないから、使い方も覚えてね」
そう言って真望は試運転を始める。
片手に朝の繊維を束ねたものを持ち、束から少しずつ、繊維を引っ張り出すと、最初は手で糸を紡ぎ、50センチほど麻糸ができたら、それをフライヤーのU字の底の部分にあるにある穴に通し、出てきた糸を今度はU字の棒の部分にある金具に麻糸をかけ、さらにボビンに結び付ける。
そして、麻の繊維の束を持ち直すと、少しずつ繊維を出して準備完了。
ペダルを踏んで車輪を動かし出すと、フライヤーが回り出し、真望が手に持っていた麻の繊維がねじれ始める。
「ああ、なるほど。これが独楽の代わりってことか」
俺はその動きに糸車の機能を理解する。フライヤーが回ることで麻の繊維をねじり、糸にするのだ。
しかもフライヤーの中にある糸巻き(ボビン)が少しずつできた糸を自動で巻き取っていく。
「ボビンの巻取りが早いなって思ったら、この部分が、スピード調整のギアになっているから、これを太いギアの方にすれば遅くなるし、細いギアの方にすれば早くなるわ。で、ボビンの巻取りがいっぱいになったら、フライヤーの棒の部分にいくつもついている金具、糸をひっかける金具を換えていけばボビンに巻かれる位置が変わって、これをボビンの端から端まで糸がいっぱいになるまで繰り返し、ボビンに糸が巻き採り切らなくなったら、ボビンを交換して、最初の手順からやり直す感じ。わかった?」
真望が操作しながら教えてくれたので分かったが、話を聞くだけじゃわからないだろうな。
「実際見て見ると凄い仕組みだな」
俺はそう言って少し感動する。
「そうだね、なんかすごい仕組みだね。実際動くところを見てちょっと感動したよ。昔の人は良く思いついたよね、これを」
明日乃がそう言う。
明日乃は糸車の仕組み自体は知っていたようで、俺ほどの感動はなかったのかもしれないが、実際に動くところを見れたのは感動したようだ。
そんな感じで夕食まで真望は糸車に熱中し、俺は、その作業を見せてもらいながら麻糸作りを手伝い、糸車の凄さを実感するのだった。
次話に続く。