第72話 魔物の島のダンジョン争奪戦
【異世界生活 53日 2:00】
「ふわ~ぁ、眠い、それに真っ暗じゃないか」
一角がそう言って、文句を言う。
「一応、昨日は19時には寝たから7時間は寝られているはずだぞ」
俺は一角にそう言い返す。
一角を見ると、一昨日拾った、金キラな青銅の鎧を着ている。やる気満々なくせに。
「それは気分的なものもあるだろ? 真っ暗な中で起きる面倒臭さ。文句も言いたくなる」
一角はさらに文句を言う。
「とりあえず、一角ちゃん、出発するよ。朝ごはんは白い橋の前で食べるから、我慢してね」
明日乃がそう言い、俺は歩き出す。
今日は、魔物の島のダンジョンに挑むため、ダンジョンの入り口が解禁される朝6時より前にダンジョンの入り口に着き、入り口を占領してダンジョンに挑むという作戦だ。
元の世界で、ニュースでたまにやるスマホや限定コラボの新製品の発売日にお店に徹夜で並ぶみたいな感じか?
ただし、ダンジョンが開くまでの間、待っている魔物とガチの殺し合いをしないといけないという、お店に並ぶとはちょっと違うカオスな世界だ。
【異世界生活 53日 3:00】
俺達は拠点を出発し、西にある川を竹のいかだで渡り、そこからさらに南西に進み、魔物の住む南の島につながる白い橋に到着する。
「じゃあ、ここで朝ごはん食べちゃおう。薪も持ってきたし、たき火を起こして、お弁当を温めるね」
そう言って明日乃が薪に火をつけ、各自2個持ってきたお弁当のうちの一つをたき火にくべていく。竹の筒に肉野菜炒めを詰めたもので、そのまま火にくべればあったかくできる優れものだ。
「なんか、悪いな。明日乃に早起きさせて、お弁当まで準備させて」
俺はそう言って、明日乃に謝る。
「何言ってるの、りゅう君。みんなは魔物狩りで前線で戦ってるし、私は結界の安全なところで立っているだけだし、これくらいしなくちゃ」
明日乃はそう言って笑う。
「何言ってるはこっちのセリフだぞ。明日乃こそ、このパーティの要だ。明日乃が倒れたら、結界が無くなり、全滅もありえる。一番倒られたら困る存在なんだからな」
俺はそう言い返し、一角も麗美さんも真望も頷く。
「結界魔法もそうだけど、補助魔法も回復魔法もないと困るんだからね」
真望がそう言い、俺も頷く。
俺以外、一角、麗美さん、真望にも防御魔法はあるが、明日乃の結界とは毛色が違う。3人の防御魔法を使い続けて撤退できるとは到底思えないしな。それに結界魔法にかかるお祈りポイントのコストは防御魔法よりも安いしな。
「今日もそうだが、ヤバくなったら結界魔法は切らすなよ。本当に明日乃が要なんだからな」
俺はそう言って、結界魔法の維持を徹底させる。
まあ、結界を解く意志を示さなければ自動で継続される魔法らしいけどな。
「で、今日の作戦は?」
麗美さんがお弁当が温まるのを待ちながらそう聞いてくる。
「基本は一昨日の流れと一緒かな。橋の前の敵を倒して、ダンジョンの近くまで行って、森の中で隠れながら接近、様子を見て、敵の数を減らすか、敵の共倒れを待つか、強行してダンジョンの入り口を占拠するか3択で選ぶって感じかな? 6時を過ぎると魔物にダンジョン入られちゃうから、6時前にはダンジョンの入り口を占拠する感じだ」
俺はみんなにそう説明する。
「それと、基本、攻撃魔法より、剣での攻撃を優先。あと、今日は、結界の外に出るのはなるべく避ける。前回みたいに範囲魔法で死にかけるかもしれないしな。特に一角、アホみたいに魔法撃ちまくるなよ」
俺はそう念を押す。
「だが、殲滅が間に合わなくなって、結界の消耗が激しくなったら使ってもいいだろ?」
一角がそう聞いてくる。
「まあ、その場合は俺か麗美さんが指示を出すからそれをちゃんと聞けよ。それと、魔法の優先順位は真望の炎の壁が優先だ。あれなら結界から敵をはがせるしな」
俺は一角にそう言う。
「補助魔法はどうするの?」
真望がそう聞いてくる。
「基本、今日は明日乃の補助魔法だけにする。各自の補助魔法は素早さを上げる魔法が多いからな。結界内じゃあまり意味ない。いや、攻撃速度も上がるし、敵の攻撃への対処も早くなるから意味があるんだろうけど、お祈りポイントとの採算が合わないからな。それに結界に使うお祈りポイントが無くなるのも困る」
俺はそう言う作戦を考える。
「妥当なところね。5人が補助魔法2重掛けすると、10分ごとに結構なお祈りポイントかかるからね」
麗美さんもそう言って同意してくれる。
「前回みたいなレベル31越えのボスが出てきたら魔法使いまくっていいだろ?」
一角が楽しそうにそう言う。
「そうだな。31越えの魔物は魔法もヤバイし、討伐最優先で行こう」
俺がそう答えると、一角が嬉しそうな顔をする。
この魔法馬鹿め。俺は仕方ないやつだな、と笑う。
「あと、魔物が三つ巴で数が多すぎてヤバそうな状況だったら今日は魔物の数を減らす方向でダンジョンはあきらめる。その場合、狙うのは2番目に戦力が残っていそうな、ワーフロッグの集団かな?」
俺はそう戦闘をイメージする。
「その心は?」
麗美さんがそう言って俺の考えに質問する。
「リザードマンは前回でかなり戦力ダウンしたと思う。で、今日、ワーフロッグも戦力低下すれば第三勢力が一番戦力が残る感じだと思うからな。まあ、第三勢力が何かわからないし、元々の戦力さもわからないから、その場で第三勢力の数が少ないようだったらリザードマンか第三勢力を攻撃かな? そうすれば一番強い勢力と俺達の一騎打ちにつなげられるだろうし、戦闘がシンプルになる」
俺はそう答える。
「戦闘をシンプルにか。なんとなく分かったわ」
麗美さんがそう言って笑う。
「俺や一角や真望は基本、アホだからな。あまり難しい事を考えると足元をすくわれると思うんだよ。麗美さんなら3勢力をうまくコントロールして相打ちにさせたりとかできるんだろうけど、俺には無理だと思った」
俺は今回の作戦の動機を素直に答える。
「まあ、私も無理よ。そんな高等技術は。逆に足元をすくわれそうだし、戦闘をシンプル化。それが正解かもね」
麗美さんがそう言って納得してくれた。
「時間がかかるかもしれないけどそれが一番わかりやすいかもね」
明日乃もそう言って納得する。
難しい事を考えると結局失敗しそうだしな。
「それじゃあ、お弁当を食べたらその作戦でいくよ」
俺はそう言って、あったまった竹筒製のお弁当をたき火から木の棒で出して少し冷ます。
冷めたところで、ナイフで二つに割り、竹筒を皿にして食べる。竹箸も持参している。
そんな感じで朝ごはんと作戦会議を軽く済ませ、神が作った白い橋を渡り、魔物の島に渡る。
【異世界生活 53日 4:00】
「何もいないわね」
真望が不思議そうに言う。
「ダンジョン争奪戦に全力で当たっているのかもな。まわりに警戒しつつ進もう。もしかしたら後ろから襲う事を考えてる可能性もあるからな」
俺はそう答え、ダンジョンに向かうことにする。
俺は危険探知のスキルを使い慎重に進み、明日乃もウサギの耳をぴんと立て、周りを警戒する。
真ん中を明日乃にして、先頭は一角、右を麗美さん、左を俺、後方を真望が守る形で輪形陣で森の中の獣道を進む。
「罠が壊されているな」
一角がそう言って落とし穴を覗き込む。
落とし穴にはワーフロッグが落ちていて、中に木の槍が剣山のように立てられていて、槍が刺さり絶命している。
「罠に気をつけろよ、俺のいう事聞かないと、一角もあんなことになるからな」
俺は冗談交じりにそう言う。
道の罠は俺達に対して作られたというより、魔物同士の攻防の為に作られていたんだな。俺はそう気づく。
そんな感じで罠もいくつか作動し、壊されていて、俺達はワーフロッグが通ったと思われる道を追従する形となっているようだ。
【異世界生活 53日 5:00】
「グワッ」
「ギャア」
「グウ、グウ、ギイ、ギイ」
1時間ほど道を進むと魔物達の声と武器がぶつかり合う音が聞こえだす。
聞きなれない鳴き声が聞こえるのは、まだ見ぬ魔物も参戦しているからかもしれない。
俺達は魔物に気づかれないように森に潜み、ダンジョンの方に進んでいく。
「なんだあれ?」
「魚? だね」
一角が小声でそう言い、明日乃が答える。
俺達の視界に見えたのは新しい魔物、半魚人だった。
リザードマン、ワーフロッグ、そしてマーマンが3つ巴でにらみ合い、時々小競り合いをしているそんな状況だ。
とりあえず、ダンジョンの入り口はリザードマンが占拠し、ワーフロッグとマーマンがけん制し合っている感じ。数は圧倒的にマーマンが多く、マーマン60体超、ワーフロッグ50体超、リザードマン40体弱って感じか。全部合わせたら150体か。すごい数だ。
「ボスはいそうか?」
一角が俺に聞く。
首にチリチリした痛みはあるが、一昨日のレベル31が出た時のような異様な不快感はない。
「そうだな。気になるのはマーマンのレベル25、ワーフロッグのレベル22、リザードマンのレベル21のリーダー格くらいか。秘書子さん、みんなにマップで共有して」
俺は危険探知のスキルで気になる敵を鑑定スキルで確認し、秘書子さんにマップにマークしてもらう。
多分、予想だが、首領格の1体が経験値を独占して、ナンバー2はそれほど強くない。そんな群れの制度ができているのかもしれないな。
それか、マーマンとワーフロッグは元々ダンジョンの独占に失敗し続けてレベルが低い可能性もあるか。
「どうするの? あと1時間しかないし、強襲する?」
麗美さんが俺の隣でそう囁く。
「とりあえず、マーマンのリーダー格、レベル25が気になるから、後ろからそいつに近づいて強襲、そのまま、ダンジョンに走り抜ける感じでどう?」
俺はそう提案する。
「それでいいと思うよ。じゃあ、マーマンの後ろに回って、リーダー格を強襲。倒したらダンジョンに一直線ってことで」
麗美さんがそう言って動き出し、俺もそれに続く。
戦場概略図
「最初だけ、俺が、魔法をぶち込むぞ。そうしたら明日乃は結界魔法をかけて、補助魔法をかけて。魔法をかけると同時に森から飛び出す」
俺はそう言い、一角以外頷く。
「一角も今度やらせてやるから、コツを見ておけ」
俺はそう言って笑う。
リーダーらしきマーマンの後ろに回った俺はそう言う。
「いくぞ」
俺はそう言い、攻撃魔法『闇弾の連撃』を囁くように詠唱し、黒いゴルフボール大の魔法弾を続けて5発、マーマンの延髄に向けて少し左右にずらしながら連射する。
「ギ!!」
マーマンのリーダーが嫌な声を上げて倒れる。
首が半分千切れかけた状態で声も出なくなったのか一瞬だったが。
それと同時に、明日乃も結界魔法を詠唱開始、みんなも立ち上がりダンジョンに向かって走り出す。
「ギギギ!!」
「グウグウ!」
「ギイギイ!!」
マーマンたちが気持ち悪い鳴き声を上げて振り向き、俺達を認識する。
そのころには結界も張り終え、明日乃は『大いなる祝福』全体補助魔法をかけ出す。
「真望、炎の壁!!」
俺はそう指示する。
「了解。火の聖霊よ、神の力をお借りし、炎の守りを与えたまえ『炎の壁』!」
真望がそう魔法を唱え、俺達とマーマンの集団の間に炎の壁が現れる。
なんか、毎回適当に詠唱しているくせに、真望の魔法は毎回かっこいいな。
俺はそんなことを思いつつ、明日乃のペースを考えながらダンジョンに走る。
ダンジョンの前に陣取っているリザードマンも俺達に気づき、戦闘態勢に入る。
「リザードマンの群れの脇をすれ違う様に進むぞ。マーマンを誘導して魔物同士で同士討ちさせる」
俺はそう言い、少し走る方向を東より、リザードマンの群れの右端をかすめるような進路をとる。
「真望、リザードマンとの間にも炎の壁だ!」
俺は真望にもう一度指示する。
「もう、人使いが荒いわね。火の精霊、お願い、『炎の壁』!」
真望の詠唱でリザードマンと俺達の間に炎の壁が現れ、それを利用してリザードマンの群れの横をすれ違い、後ろに回る。
そして、リザードマンが俺達の前に立ちふさがる。
「魔法はもういい。あとは斬り合いだ」
俺はそう言って、リザードマンに斬りかかり、麗美さんも続き、一角も続く。
明日乃も慌てて進み結界を進める。
「あん! ダメだよ。敵がいると結界が進めないみたい」
明日乃がそう言って何か見えないものに押されるように足を滑らせている。
結界を押し返されることはないようだが、魔物がいる方向には結界を進めることができなくなるようだ。魔物との力での押し合いになるようだ。
「結構、お祈りポイントの消費が激しいな。一角、麗美さん、真望、剣だけで進めそう?」
俺は2体目のリザードマンに斬りかかりそう声をかける。
「何とかするわ。リザードマンは数が少ないみたいだし、この数体倒せばダンジョンまで抜けられるでしょ?」
麗美さんがそう言い、もう1体首に致命傷を与え、真望のが倒れる。
右から、俺、一角、麗美さんの順で並び、真望は結界の右から襲ってくるのリザードマンに対応している。
「ダンジョンの入り口に張り付くまでの辛抱だ」
俺はそう皆を鼓舞し、リザードマンに斬りかかる。
少しずつだが、ダンジョンに近づきだし、最後はリザードマンの抵抗が止まる。マーマンがリザードマンと衝突し、それに合わせてワーフロッグも動き出す。完全に3つ巴に俺達を含めた混戦だ。リザードマンも俺達に構う余裕がなくなったようだ。
「よし、今だ。ダンジョンの入り口に張り付け」
俺はそう言い、走り出す。
みんなも明日乃のペースに合わせて走り出す。
そして俺達がダンジョンの入り口に陣取ったところでリザードマンが敗走を始める。
「ギャア、ギャア」
リザードマンが鳥のような、恐竜のような声を上げて森の中に逃げていく。20体弱の集団が少しずつマーマンに斬り倒されながら。
【異世界生活 53日 5:15】
「ここからが正念場だぞ。マーマンとの斬り合いになる。明日乃は全体補助魔法が切れたらかけ直しを頼む」
俺はそう叫び剣と盾を構え直す。一昨日、リザードマンのボスから奪った青銅の盾だ。
「分かったよ」
そう言って明日乃も気を引き締める。
「魔法対策はどうする? 『対魔法結界』の魔法も使う?」
明日乃が俺に聞いてくる。
「魔物の場合、お祈りポイントがありませんので、マナを使った魔法、『原初魔法』なので、魔物は滅多に魔法を使いません。マナ=経験値、魔法を使うと自分の成長が遅れることを経験で知っているので。魔物が魔法を使うのは死ぬ間際やよほどマナに余裕がある魔物だけです。このレベルの魔物なら魔法対策は不要と考えます」
秘書子さんが俺にそうアドバイスする。
「明日乃、秘書子さんの話だと、魔物もマナ=経験値っていう事は何となく気づいているらしい。だからいざというときしか使わないし、レベル21未満の魔物なら大した魔法は使えないだろ? 通常の結界のみで大丈夫だ」
俺は秘書子さんのアドバイスをかいつまんで説明する。
「わかったよ、りゅう君」
明日乃がそう答える。
俺達はダンジョンを背にポジションを変える。
左から俺、一角、麗美さん、真望。半円形に結界に沿って並ぶ。
「お祈りポイントがないから魔法が使いにくいのね。魔物は不便ね」
麗美さんが今の会話を聞いてそう言う。
「お祈りポイントがあっても流司や鈴さんが魔法使わせてくれないけどな」
一角が俺に皮肉のようにそう言う。
「喋ってないで、来るわよ。半魚人が」
真望がそう言って襲ってきたマーマンの槍を盾で受け、剣で槍を叩き切る。
真望が持っている盾は鈴さん製の盾で少し小さい小盾のような盾だ。麗美さんは両手で剣を使いたいらしいし、一角はどっちでもいいという事で真望が持つことになった。
そこから、マーマンの激しい攻撃が始まる。俺たち自身に、そして結界に対しても。
明日乃の結界魔法『聖域』は敵の直接攻撃を弱い物なら45回防げるらしいが10体以上の魔物に囲まれ槍で結界を突かれ、どんどん耐久度が減っていく。10秒か20秒くらいで自動で張り直される状況だ。この状態で40分持つのか? 俺は少し焦る。
少しでも結界への攻撃が減るように、群がるマーマンを切り捨てていく。
マーマンもワーフロッグ同様、平均レベルは15ぐらい。リザードマンよりは個のレベルは低そうだ。
「りゅう君、結界がどんどん削られてるよ」
明日乃が悲鳴を上げる。
マズいな。結界の耐久度のカウンターがアホみたいにぐるぐる回って減っていく。それが見えるせいかみんなも余裕がない。焦るように雑な攻撃を続けている。
「大丈夫だ。確実に数は減らしているし、攻撃魔法を節約すればお祈りポイントも十分余るしな」
俺はそう言って明日乃を励ます。みんなにも聞こえるように。
実際、明日乃の結界魔法は初級魔法で一角や真望が使う攻撃魔法や防御魔法は中級魔法。お祈りポイントの消費も1回300ポイントと1000ポイントとで、攻撃魔法を抑えることで実際、消費も抑えられるしな。
「一角、真望、どんどん倒せよ。お祈りポイントがどんどん減るぞ。鈴さんが泣くぞ」
俺は二人を冷やかし半分、鼓舞するようにそう言う。
みんなの焦りが俺に伝わってきて、何とか余裕を持たせようと必死になる。
「分かってるわよ、流司だって、喋ってる暇があったら1体でも多く倒しなさいよね」
真望がそう言って、目の前のマーマンの首を切り裂く。
真望には逆効果だったようだ。さらに攻撃が雑になる。
マーマンはリザードマン同様、鱗が生えていて、表面が固いが、リザードマンほどの防御力はないようだ。思い切り切りつければ首のうろこも貫通できるような固さだ。
俺は力いっぱいマーマンの首を斬りつけ、頸動脈まで剣を到達させる。
「みんな、補助魔法かけ直すよ。神よ我らに力を貸したまえ。『大いなる祝福』!」
明日乃がそう言い、補助魔法をかけ直す。ステータス全般が少し上がるので、結構助かる。
「はあ、キリがないわね」
麗美さんが、マーマンを切り捨て、そう呟く。
麗美さんですら余裕がなさそうだ。
「確実に減ってるから麗美さんもがんばって」
俺は麗美さんを応援する。
「流司は麗美さんには優しいな」
一角が俺に文句を言う。
一角もこの雰囲気を壊そうと冷やかしを入れてくる。
「一角も頑張れ、愛してるぞ」
俺は冷やかすように甘い声でそう言う。
「気持ち悪いな。私が悪かった、やめてくれ」
一角はそう言って、マーマンを切り捨てる。
みんなに少し笑顔と余裕が戻ってくる。
「私は言って欲しいかな?」
明日乃が照れながらそう言う。
まさかの明日乃まで漫才に乗ってきた? いや、明日乃は本音か?
「もう!! 一角も流司も遊んでないで敵倒しなさいよ。結界が切れるわよ」
真望がキレる。そしてキレた勢いで全力で切り捨てられるマーマンがなんか可哀想になってくる。
真望には戦闘中の冗談が通じないようだ。落ち着いたら、個別に甘い言葉をかけてやろう。
魔物を倒すのに必死過ぎて、空気を良くしようと必死に声をかけたが、訳の分からない漫才になってしまったな。
【異世界生活 53日 5:30】
「もう一回補助魔法かけ直すね」
明日乃がそう言って3回目の補助魔法をかける。
そして俺ももう1体マーマンを切り捨てる。
だいぶマーマンの攻撃も治まってきたみたいだ。明日乃の結界のかけ直しも30秒に1回くらいに落ち着いてきた。
ワーフロッグは俺達の様子をうかがっているようで離れたところからマーマンと俺たちの戦いを静観している。
そろそろ頃合いか?
マーマンの攻撃が衰え始め、戸惑い始めている。
60体以上いたマーマンがリーダーを失い、半分近く倒されていった。
さらに麗美さんと一角に1体ずつ斬り倒され、マーマンがお互いの顔を見合わせ後退りしていく。
俺がもう1体斬り倒したところで、マーマンの戦列が崩れる。散り散りに敗走し、東の方向、マーマンの集落があると思われる方向に走り出すマーマン達。
とりあえず、勝ったな。あとはワーフロッグがどう動くか。
明日乃が思い出したように神様にお祈りを捧げ、魔物達の死骸をマナに還す。そして経験値が入る。
「ああ、レベルが上がったわ。レベル23ね」
麗美さんが気の抜けるような言い方でそう言う。
「そ、そうなんだ。おめでとう」
俺は気が抜けながらそうお祝いする。
「今言うところじゃなかったわね」
麗美さんがそう言って反省する。
「明日乃、魔物の武器も神様に還してしまってくれ。再利用されると困るしな」
俺はそう言い、明日乃がもう一度お祈りし、青銅の穂先のついた槍が光って消えていく。
ちょっともったいないが、今からダンジョンも攻略するとなると、持ち帰れる量じゃないしな。
「あとはカエルどもがどう動くかだな」
一角がそう言ってワーフロッグたちをにらみつける。
一角のにらみが効いたのか、明日乃のお祈りで魔物達の死骸が消えたのに驚いたのか、ワーフロッグたちが後退りしていく。
「そう言えば、魔物達って、どうやってレベルアップしているんだ?」
俺は気になってそう呟く。
「魔物のレベルアップ方法は戦闘による直接の経験値確保と捕食によるマナの吸収です。戦闘による直接の経験値確保は、リュウジ様達がやっている剣道教室のようなものなのであまり高い経験値は期待できません。ですので、経験値の大半は捕食によるものかと。それと、ダンジョンでのレベルアップはリュウジ様達と同じように自動でマナに変換されます」
秘書子さんが俺にそう教えてくれる。聞かなきゃよかった。
「どうやって、レベルアップしてるか秘書子さんに聞いたか?」
一角が興味深々に聞く。
誰にも聞かれなかったら俺の心の中に留めようと思ったのに。
「魔物達は食べることでマナを吸収するらしい」
俺は簡潔にそう答える。
「やっぱそうか。魔物は神に祈らないんだからそれしか方法はないよな」
一角も薄々気づいていたようだ。
「もしかして、私たちも倒されたら食べられちゃう?」
麗美さんがそう呟く。
「怖い事言わないでよ」
真望が本気で震え上がる。
「そうならないようにしないとな」
「ああ、そうだな」
俺がそう言い、一角も珍しく真面目な顔でそう答える。
ワーフロッグも逃げ出し、これで6時になったらダンジョンの入り口が開きダンジョン攻略が可能になるな。
次話に続く。




