第70話 リザードマンとの闘い
【異世界生活 51日 9:30】
「こっちの道はオオトカゲが多いな」
一角がそう言って、巨大なトカゲにとどめを刺す。
「ワーフロッグはカエル、リザードマンはトカゲ、自分に近い存在は食料として食べるのを避けてるんじゃないかな?」
明日乃が一角にそう答える。
ああ、なるほどな。だからここら辺にはトカゲが多いのか。俺は納得する。
俺達は魔物の島に渡り魔物退治中。今日は島の中央にあると思われるダンジョンとリザードマンの集落を確認に行く予定だ。
周りは深い森で、その中に伸びる獣道を少し前の戦いで逃がしたリザードマンたちの足跡を追って集落に向かっている。
この島はよく雨が降るのか地面が少しぬかるんでいるので足跡をたどるのには都合がいい。
「一角、止まれ、多分、罠がある」
俺はそう言う。
俺は、レンジャーという職業のおかげかサバイバル技術というスキルの進化なのか分からないが。レベル21になった時に危険探知というスキルを手に入れたようだ。ちなみに俺は前の戦いでレベル22になった。
危険探知のスキルは視覚内に罠や毒、敵の存在があると、首筋のあたりに違和感が沸き、集中すると、危険なものが緑色に光るというスキル、罠探知と敵探知が合わさったようなスキルだ。
ただし、敵探知に関しては明日乃のウサギの耳の方が感度は良いようであまり役に立ってはいない。
この危険探知というスキル、マナやお祈りポイントは要らないが、使用中は疲労度が増すというペナルティ、集中するとさらに疲労度が増すので危険は減るが探索のスピードが落ちるし、休憩も多く必要になる。
俺は集中すると、森の中に光る緑の異物が見える。緑色に光る罠であろう一連の装置を確認し、安全なところから起動スイッチとなる紐を背負ってきた木の槍で引っ張る。
「ブオン」
風を切って大きな丸太が林の中から振り子の原理で飛び出してくる。
「殺す気満々だな」
一角がそう言って少し焦る。
「死にたくなかったら俺から離れるなよ」
俺は一角にそう言って脅す。
そして、その罠からさらに進むと、
「りゅう君!」
「ああ、いるな」
明日乃の声に俺が答える。
首筋にチリチリというかヒヤリというかなにか嫌な感覚が沸く。
気になるところを集中してみると、獣道の両脇、藪の中や木の陰に敵らしき存在が緑色に光る。左右に5体ずつ、10体ってところか。残りの奴が集落に連絡するための時間稼ぎってところか。
「魔法で焼く?」
真望が怖い事を言う。
「いや、山火事になりそうだから森の中で火を使うのはやめよう。一角と麗美さんは防御魔法を習得しておいてくれ。飛び道具とかもつかってくるかもしれないしな」
俺は真望にそう答える。
「一角見えるか、あの木の後ろ、1体隠れてる」
「ああ、見えた」
俺が右の森の中にある1本の木を指さすと一角も把握できたようだ。
「そいつを弓で倒そう。15数えたら撃て。そして、敵が出てきたら迎え撃つ感じで。敵も飛び道具を使ってきそうだったら明日乃、防御結界を頼む」
俺はそう言い一角と明日乃が頷く。
俺はそれを確認すると左手の森の中に忍び足で入っていく。一角に指示した森とは反対の森だ。
敵はまだ気づいていないようだ。
13、14、15。
頭の中で数えていた数字が15になった時、「ヒュン」と風を切る音がして一角が矢を放つ。
「ギャア、ギャア」
鳥のような恐竜のような叫び声が上がる。リザードマンに致命傷を与えたようだが即死にはならなかったようだ。
リザードマンが慌てて獣道に飛び出そうと動き出す。
俺はスキル『強奪』、短時間、敵5体のステータスを奪い、自分のステータスを上げるスキルを使い、俺に気づいていないリザードマンに斬りかかる。
STRのステータスもかなり上がっているおかげか、鱗の上からでも青銅の剣が深々と首に刺さる。
そのまま剣を引き抜き、2体目のわき腹を切り裂く。そこで残り3体も気づき俺に襲い掛かってくる。
元々、素早さが高くないリザードマンが俺の能力低下スキルでさらに足が遅くなり、逆に素早さの高い俺には止まっているように見える。
俺は冷静に敵の槍を潜り抜け3体目の腹を切り裂き、4体目を袈裟切り、5体目は突いてきた槍を叩き折り、すれ違いざまわき腹を青銅の剣で大きく切り裂く。『強奪』は優秀なスキルであることを実感する。
5体を倒しそのまま、獣道に出ると、残り2体。一角や麗美さんと対峙をしているが距離が開いている状態。ちょうど俺が後ろを取る形になった。
そして、俺に気づき、慌てて振り向くリザードマン。時すでに遅しと、俺は振り向きざまのリザードマンのわき腹に深々と青銅の剣を突き刺し、力任せに引き抜く。
もう1体は慌てた隙を突き、麗美さんがリザードマンのわき腹を一閃、首にももう一撃加えて、とどめを刺す。
戦闘終了だ。
「流司、ズルいぞ。お前だけ魔法使って」
一角が不満を漏らす。
「だって、お前の補助魔法、直線的過ぎて孤立するじゃないか。それに、ダンジョンやこういう森の中じゃ障害物多すぎて全力出せないだろ?」
俺は一角にそう答え、図星だったのか悔しそうに口を噤む。
「まあ、リザードマンの集落を襲うときには補助魔法全開でやるしかなさそうだし、その時まで待て」
俺はそう言って一角をなだめる。
明日乃が神様にお祈りし、リザードマンの死骸をマナに還し経験値化。青銅製の槍の穂先なども回収する。リザードマンの着ている皮鎧はさすがにかさばるし、サイズが合わなそうなので放置することになった。明日乃が試しに神様にお祈りしたところ、経験値は帰ってこなかったが、皮鎧などドロップ品もマナに還せるようだ。
所有者のない皮鎧は消えて、俺達の着ている鎧や武器、拾ったドロップアイテムは消えない。謎なシステムだ。
結局俺が6体、一角と麗美さんが2体ずつ倒したようだ。
たぶん、白い橋付近で戦った時に逃げたリザードマンはあと4~5体はいたのでそいつらが助けを求めに行ってしまった可能性が高い。
「次の戦いは大量の敵と戦うことになるかもしれない。敵が多かったら、補助魔法の2重掛けと結界魔法使っちゃっていいからな」
俺はみんなにそう言い、みんなも頷き、少し緊張する。
その後、危険探知のスキルのせいで俺の疲労がピークに達したため、交代で少し休憩をする。その後、森を進み、落とし穴など罠を破壊しながら進み、マップにダンジョンのマークをされている少し手前で、明日乃のウサギの耳が敵を探知する。
「結構いるみたい」
「ああ、そうだな」
俺も危険探知のスキルで20体以上のリザードマンを確認する。
俺達は獣道から、森の中に入り、敵の気配がする方に進む。
すると、森が突然ひらけ、土がむき出しの広場と、その先に小さな丘と、見慣れた黒い建物が見える。ダンジョンの入り口だ。
そして、その入り口を守るようにリザードマンが広場に配置されている。
「ダンジョン攻略中なのかな?」
「多分な」
明日乃が小声で俺にそう聞き、俺は答える。
「どうするの? 倒す? それとも目の前のリザードマンを迂回して集落を攻める?」
麗美さんがそう聞く。
確かに、ここに兵隊を割いている分、集落の守りは薄いかもしれないが、20体程度では全体の数からしたら誤差範囲かもしれない。それに、白い橋の前から逃げたリザードマンが合流して警戒を高めているかもしれないしな。
そして、もう一つの確信がある。
「とりあえず、目の前の20体を倒そう。集落を攻めて挟み撃ちになっても嫌だしね」
俺は麗美さんにそう答え、みんなに確認をとる。
みんなもその方針でいいようだ。
「全力でいくぞ。補助魔法2重掛けで一気に叩く」
俺はそう言い、明日乃が全体補助魔法、『大いなる祝福』を唱え、全員のステータスが少し上がる。その後、各自補助魔法をかけ、さらにステータスを上げる。
「いくぞ」
俺はそう声をかけると一角が真っ先に飛び出す。
前の戦いで俺に戦果をとられてフラストレーション貯まっていたのかもしれない。
俺と麗美さんも慌てて追いかけ、真望と明日乃も後に続く。
リザードマンが槍を投擲し始める。敵は槍をたくさん持っているようだ。
「神よ、力をお貸したまえ、『聖域』!」
明日乃が結界魔法を発動させる。
結界が槍をはじき。結界外にいた一角は上手く避け、剣で槍を叩き落し、そのまま、敵の集団に飛び込む。
一角が敵の間をすり抜けるように駆け抜け、すれ違いざま、敵をどんどん斬りつけていく。
致命傷率は低いが何割かは頸動脈や内臓に達する傷も与えているようで、リザードマンがバタバタと倒れていく。
俺と麗美さんは、一角が取りこぼした敵にとどめを刺し、一角の手が届かなかった敵も相手をしながら少しずつ進んでいく。
一角の攻撃は雑だが、逆に言うと、一角の補助魔法は雑に進んでいかないと、足が止まってしまい、敵に囲まれてしまうような補助魔法スキルなので仕方がないと言えば仕方がない。『狼の疾走』素早さの上昇は最高のスキルなのだが、直線的で回避率が下がるという癖のある補助魔法だ。
俺達が一角の取りこぼしを倒している間、一角がぐるりと旋回してきて、もう一度敵の間をすり抜けて、斬りつけて帰ってくる。
「一角ちゃんの攻撃は雑ね」
真望が明日乃の結界の中で一角と合流しそう笑う。
一角も疲れたのか、水筒から水を飲み結界で休憩をしつつ、
「そういう補助魔法なんだからしょうがないだろ? それに、敵も混乱しているから、流司や麗美姉も戦いやすくなるはずだ」
一角がそう言い返す。
まあ、確かに槍の投擲や魔法が飛んでこないという事は効果があるのだろう。
俺は背中でそんな会話を聞きつつ、大量のリザードマンを相手に戦い続ける。なるべく、1体1で戦えるように間合いやポジショニングに気をつけながら。
そして、もう一度、一角が飛び出し、取りこぼした敵を俺と、麗美さん、そして真望が斬り倒し、全滅させる。
「りゅう君、追加で敵が来たよ」
明日乃が困惑した声でそういう。
リザードマンの集落がある方向からたくさんのリザードマンがこちらに向かってくる。
「ついでだから倒してしまおう」
一角がそう言って、大量リザードマンに襲い掛かる。
「しょうがない奴だな」
俺はそう言い、あきれ顔の麗美さんと笑い合う。
ただ、一角も無意味に突っ込んだわけではないようで、リザードマンの集団を横から襲撃、前後分断するように集団を横切り、俺達は分断された前衛を倒していく。
「ああ、くそっ、敵が多すぎる。補助魔法3重掛けするぞ」
俺はそう言い、明日乃の全体補助魔法、『大いなる祝福』、自分の補助魔法『獅子の咆哮』の上にさらに『強奪』でステータスを上昇させる。
なんせ、明日乃の全体補助魔法と各自の補助魔法が切れる10分以内に全て倒さないと魔法をもう一度かけ直さなくてはならない。お祈りポイントが無駄になるので、増援も含め10分以内で倒さなくてはいけなくなった。
ステータス上昇と青銅の剣の重さを使って無理矢理斬り込む。
鱗に当たってしまっても無理矢理青銅の剣をねじ込み致命傷を加える。
敵が左右に広がりだし、包囲しようとする流れになってきた。
左への広がりは俺がなんとか抑えているが、右への広がりが止まらない。
「真望! 包囲されるぞ。右に広がろうとしている奴らを魔法で止めろ」
俺は真望にそう指示する。
麗美さんは中央を抑えるので精一杯、明日乃の結界を利用しながらなんとかいなしている感じだ。
「もう、わかっているわよ。お祈りポイント足りなくなっても知らないからね!」
真望がそう叫ぶ。
麗美さんの隣で戦っていた真望は、明日乃の結界を通り抜けて敵の右へ広がろうとしている群の前に立ち、
「精霊よ神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『炎の壁』!」
真望が魔法詠唱し、術が発動、炎の壁が敵を押し返していく。
真望は神社の跡取り娘だけあって魔法詠唱も祝詞を捧げるような美しさがある。
真望の澄んだ声に一瞬聞き惚れてしまう。
「あー、もう、1枚じゃ効かないじゃない、精霊、お願い、『炎の壁』!、もう1枚、『炎の壁』!」
前言撤回、真望はやっぱりアホの子だった。
真望がヤケクソになって魔法を連射、炎の壁を連続で出してリザードマンを焼き尽くしていく。
炎の壁1枚では焼き尽くせず、通過してしまうようで、2枚目でなんとか息の根を止める。2枚出して5体倒す感じだ。
お祈りポイントは無駄遣いになりそうだが何とかなりそうか。
「明日乃、少し下がりながら立て直す。囲まれたら撤退もできないからな。それと、そろそろ、補助魔法が切れる。補助魔法のかけ直しを」
俺は明日乃にそう伝える。
「分かったよ、りゅう君。神よ、我らに力をお貸したまえ『大いなる祝福』!」
明日乃の詠唱と共に補助魔法がかけ直され、各自の補助魔法をそれぞれでかけ直し、もう10分、戦闘が続けられる。
「それと、結界は切らすなよ。これだけの敵の数だ。何が起こるか分からない」
俺はそう追加し、明日乃が頷く。
俺はそれを確認すると対峙するリザードマンに向き直ろうとする。
「ゾワゾワ!!」
俺の首筋に今までにない不快感が広がる。左手の方に何かいる!
振り向くとそこには、一回り大きいリザードマンがダンジョンの出口から出てくるところだった。
「みんな、新手だ。気をつけろ」
俺はそう言いそちらに向きつつ、今まで相手にしていたリザードマンもけん制する。
そして、一回りでかいリザードマンの後ろから、4体の新手のリザードマンが出てくる。
しかもデカいリザードマンは金キラの鎧を着ている。青銅の鎧か?
「ゾワリ!!」
俺の首筋をさらに不快な感触が広がる。
「リュウジ様、広範囲魔法です。結界内への退避を推奨します」
秘書子さんが少し早口で無感情にそう伝える。
「みんな、結界に飛び込め。敵が魔法を使うぞ!!」
俺はそう叫び、慌てて明日乃の結界に飛び込む。
麗美さんと、真望が俺の言葉に気づき結界に飛び込もうとするが間に合わない!
あたりがきらきらと輝きだし、氷の破片、ダイヤモンドダストというのか? 空気中の水分が凍りだし、そしてあたり一面が一瞬にして真っ白になる。
「麗美さん!! 真望!!」
俺は目の前の地面に転がる二人の体を見て叫ぶ。
二人は表面に霜が降りたように真っ白に凍り付いている。
2人とも結界には飛び込めたが、敵の魔法回避には間に合わず、結界に入る前に空中で魔法を受け、そのまま飛び込んだ時の勢いでここまでたどり着けたようだ。
「明日乃!! 回復魔法だ!! まだ生きている」
俺は明日乃にそう声をかける。
麗美さんはHPの半分を、真望は3分の2以上持っていかれた。しかも凍結という状態異常までついていて少しずつHPが減っている。
「神よ我に回復の力を。『回復魔法』! 『回復魔法』!」
明日乃が泣きそうな声で魔法を詠唱する。
「大丈夫かみんな」
そう言って一角も結界内に戻ってくる。
「麗美さんと真望がやられた。一角は大丈夫だったのか?」
俺はHPがほとんど減らずに戻ってきた一角に驚いて聞く。
「ああ、私は魔法の範囲外だったみたいだ」
一角は自分がいたあたりを眺めながらそういう。
俺もあたりを見渡すと結界を中心に丸く地面に雪が降ったように白くなっている。そして、倒れているリザードマン達。
仲間ごと魔法をかけたってことか?
「あっ、あっ、あ、あああ~~~っ、寒い。聖霊よ火よ。火を頂戴!『炎の壁』!!」
真望が地面に突っ伏したまま、そう言うと、結界を囲むように炎の壁が立ち、熱気が結界内まで立ち込める。
俺と一角、そして明日乃が唖然とする。
そして、気を取り直して、今の状態を把握する。なるほど、味方の攻撃意志のない魔法は結界まで入ってくるのか。その熱気を使って真望は暖をとっている感じか。
結界を攻撃していたリザードマンが焼かれ、炎の壁が消える。
「あ~、まだ足りない、もっと火よ、精霊、『炎の壁』!」
真望がごろんと仰向けに転がりそう言い、もう一度、火の壁が立ち上がる。
というか、詠唱適当過ぎるだろ? 真望。
「ああ、死ぬかと思ったわ」
麗美さんもパリパリと氷が割れる音をさせながら仰向けに向き直し地面に転がる。凍結の状態異常はまだ続いているようだ。
真望が3回目の炎の壁の魔法を使ったところで、2人の凍結の状態異常が消える。
「ガイン!! ガイン!!」
それと同時に結界が嫌な金属音を立てる。デカいリザードマンが青銅製の巨大な斧で結界を攻撃している。
「ああっ、しつこいし、うるさい!! 精霊やっちゃえ! 『炎の壁』!」
真望が完全に壊れた。
寝たまま、魔法を放つ真望。
一回りでかいリザードマンと取り巻きが炎に巻かれる。
「流司、緊急事態だ。私も魔法使いまくるぞ」
一角がそう言うと、集落の方から来たと思われる増援の方に『風刃の連撃』、複数の敵を攻撃する風魔法を撃ちまくる。
「いや、緊急事態はもう、って、あー、くそっ、勝手にしろ。麗美さん大丈夫か?」
俺はそう言ってまだ地面に寝転がっている麗美さんの容態を伺う。
「ええ、もう大丈夫よ。かなり寒かったし動けなくなったけど、体自体はHPとかいうシステムで守られたみたい。で、私はどうすればいい?」
麗美さんがそう言って立ち上がり、服や鎧についた汚れを払う。少しふらふらしているのは寒さのせいだろうか?
「真望と一角がキレたから、このままの流れでここにいるリザードマンを全滅させる。たぶん、ダンジョンから出てきたデカいのが敵の首領だと思う。麗美さんは奴がダンジョンに逃げこまないように氷の壁でダンジョンの入り口に蓋できる?」
俺はそう聞く。
ダンジョンは安全地帯だし、多分、今日一杯、俺達は人数制限で入ることができない。敵がダンジョンに逃げ込んだら追うことができなくなる。
「あー、もう、しつこい、倒れろ、このトカゲ野郎!!」
俺と麗美さんの会話を邪魔するように、いつの間にか立ち上がった真望が叫び、3発目の炎の壁を首領らしきリザードマンに浴びせる。
真望が人格崩壊している。いや、元々こういう性格か。
「ははは、いい調子だぞ真望」
一角がそう言って笑いながら『風刃の連撃』 5発目を放つ。
麗美さんは俺に言われたことを忠実に実行、冷静にダンジョンの前に厚い氷の壁を作る。
「あーあ、こりゃ鈴さん、がっかりするぞ。お祈りポイント使いすぎだ」
俺は二人の暴走に呆れる。
「そんなこと言うなら、そいつ、流司が倒しなさいよ」
真望がそう言い、敵を見ると、取り巻きは真望の暴走で焼き尽くされ、デカいリザードマンもだいぶダメージを受けているようだ。
「そうだな。真望、魔法っていうのはこうやって使うもんだぞ」
俺はでかいリザードマンに結界越しに隣接すると、
「闇の聖霊よ神の力を借りて魔法の力とせよ。『闇弾の連撃!」
俺はその場で魔法を習得し、魔法の詠唱をする。
そして放たれる闇のような丸い弾が5つ。
連続してデカいリザードマンの首に命中する。そして、首の肉が5か所、丸くくり抜かれ、首の皮1枚で頭が垂れさがり、そのまま仰向けに倒れる。
「せっかく結界があるんだから、魔法はこうやって使うもんだぞ。一角も無駄撃ちし過ぎだ」
俺はそう言って笑う。
雰囲気でやってみたが結構うまくいったな。
というか、一時はどうなるかと思ったが、今回もHPとかいうバリアーみたいなシステムのおかげで助かった。ただ、今俺が使ったみたいな魔法の使われ方したら、多分みんな死ぬかもしれないな。
何か対策を考えないと。
「あーあ、今日だけで24600ポイントもお祈りポイント使っちゃったよ? 鈴さん泣くよ」
明日乃がそう言ってしょうがないなって顔をしながら笑う。
「中級魔法は1発1000ポイントだし、習得するにも1000ポイントかかったしな」
一角が爽快そうな顔でそういう。
「一角は考えなしに使いすぎだ、馬鹿。ボスリザードマン以外は魔法無しでも倒せただろ? 大赤字だ」
俺は一角を責める。
別に、雑魚リザードマンは時間さえあれば剣でも倒せたしな。
「そんなこと言って、流司もこっそり攻撃魔法習得して使ってたじゃないか」
一角が言い返してくる。
「あれはボスリザードマンだからいいんだよ。って、いうか、あれ、結局なんだったんだ?」
俺は一角にそう言い返し、とりあえず、死骸になったデカいリザードマンを鑑定する。
なまえ ジェネラルウォーターリザードマン
レベル 31
二足歩行のトカゲ。そこそこ知能がある。
全身に鱗が生えていて防御力が高い。
動きは遅いが力は強い。
噛みつきや尻尾で攻撃することもあるので注意が必要
水属性で水属性の魔法を使う事もある。
上級魔法まで使える。
「マジか。レベル31だってさ」
一角も鑑定したようで驚く。
「しかもまわりのリザードマンはリザードマンリーダーだって。レベル21だよ。普通にやってたら勝てなかったわよ。多分」
真望がそういって、自分の暴走を弁護する。
「そうだね。私の結界も何回も壊されちゃったよ。真望ちゃんの炎の壁がなかったらもっと壊されてたかも」
明日乃もそう言ってさっきの戦闘を振り返る。
「それじゃあ、神様に魔物のマナを還すよ」
明日乃はそう言って神様にお祈りし、魔物の死骸をマナに還し経験値化する。
「なんだこりゃ、レベルが2も上がったぞ」
俺はステータスを見て驚く。レベル22だったものがレベル24になっていた。
「わ、私もよ。レベルが2上がってる」
真望も自分のレベルを見て驚く。レベル21がレベル23になっていたらしい。
「最後に倒したジェネラルリザードマンはレベル31のランク4の魔物です。ランク3でレベル30の魔物の5倍、レベル21の11倍の経験値がもらえるので当然です。貢献度でリュウジ様に20000ポイントの経験値、マモ様に10000ポイントの経験値が入っております」
秘書子さんがしれっとそう言う。
「マジか。さっきのデカい奴、ランク4だから経験値30000ポイントもらえるんだってさ。で、倒した俺が20000、HPを削った真望が10000ポイントの分配だって」
俺は真望とみんなにそう伝える。
「美味しいわねそれは」
麗美さんがそう言う。
「まあ、中級魔法、お祈りポイント使いすぎたから赤字と言えば赤字だけどね」
俺は少し反省するようにそう言う。
「そういえば、中級魔法使いすぎた一角ちゃんはどうなの?」
麗美さんが少し皮肉を込めてそう聞く。
「私もレベルが1上がった」
一角が少し申し訳なさそうに言う。
「これは、ダンジョン攻略するときに明日乃ちゃんをスパルタしないとダメそうね。今日は守りに徹しちゃったし」
麗美さんがそう言って明日乃を少し脅す。
「流司、さっきのデカいトカゲが着ていた鎧、凄いぞ。しかも持っていた斧は全部青銅製の両刃の斧だ」
一角が目をキラキラさせて物色している。
「つまり、これがこのダンジョンのボスドロップって事かな?」
俺も鎧を見に行きながらそう言う。
青銅の胸当て、篭手、靴、兜、盾、一通り揃っている。
「みんなが着ていないって事はかなりレア? 5階のボス産ってことかもね。もしくはリザードマンの首領が独占していたとか?」
麗美さんがそう言う。
「とりあえず、持って帰ろう。サイズが合わないだろうけど、何か使えるかもしれない」
俺はそう言ってみんなで分担してドロップ品を回収する。
雑魚リザードマンが残していった青銅の槍の穂先だけでもかなりの数と重さだ。
「リザードマンの集落は攻めないの?」
麗美さんがそう聞く。
「うーん、このままの勢いで攻めたいところだけど、この鎧を置きっぱなしにはできないし、もしかしたら似たような強さのリザードマンがまだ控えているかもしれないしね。とりあえず帰ろう。一角が鈴さんに謝らないといけないだろうしな」
俺はそう言って笑う。
「私は悪い事してないぞ!」
一角がそう言って怒るが、確実に一角の魔法はお祈りポイントの無駄遣いだった。
「そうだ、ダンジョンの入り口見てみない? 多分入れないだろうけど」
明日乃がそう言うので、一応ダンジョンの入り口を確認してみる。
「うーん、ダメそうだな」
俺は入り口にある魔法のバリアーみたいなものを触ってみる。
なんか弾力のあるゴムみたいな感触で俺達の侵入を阻んでいる。
「明日の朝6時になるまで、新しい挑戦者は入ることができません」
秘書子さんがそう教えてくれる。
「という事は、明日朝6時より早く来て場所取りしないといけないってこと?」
俺は心の中で秘書子さんにそう聞く。
「そういうことになります。しかも、魔物達もダンジョンへの挑戦権を狙っているはずですから、6時前はこのあたりが魔物同士の戦場になると思われます。リュウジ様達もそれに混ざる必要があるわけです」
秘書子さんがダンジョンに入る方法を教えてくれるがあまりにも内容が不穏すぎる。
俺は一応、みんなにも秘書子さんに言われたことをそのまま伝える。
「朝、早起きしてきて、早朝から魔物とダンジョン挑戦権の奪い合いね。ちょっとふざけた話ね」
麗美さんが呆れるようにそう言う。
「別にふざけてはいません。別の方法として戦闘意欲が無くなるくらい、すべての魔物の集落を事前につぶすという手も考えられます」
秘書子さんが無感情な声で麗美さんに答えるが、俺にしか聞こえない。
「それが嫌なら、事前に全部の集落を叩き潰せだってさ」
俺はみんなにそう言う。
「どっちにしろ、さっきみたいなのを少なくともあと2回倒さないといけないってことだよな」
一角がそう言い、ぐったりする。
俺もぐったりする。
「とりあえず、今日は疲れたし、帰ろう。明日ゆっくり休んで、今後どうするか考えればいいしな」
俺はそう締めくくり、俺達は帰路に着くのだった。
次話に続く。
最近、毎日更新できずにすみません。
仕事が多忙の為、来週の日曜日あたりまで更新頻度が落ちそうです。再来週あたりからは少しマシになるかと思いますが、年末まで忙しさは続きそうです。
なるべく更新するよう頑張りますので引き続きお読みいただけるとありがたいです。