第69話 再度魔物狩りに挑戦。新たな魔物との闘い
【異世界生活 50日 17:00】
「ただいま」
魔物狩りを終え、俺達は日が落ちる前に拠点に帰りつくことができた。
「おかえり、みんな。魔物狩りはどうだった?」
鈴さんが迎えてくれる。
「うーん、強さはそれほどじゃないけど、囲まれたら怖いかなって。あとは不意打ちとか? そういうのを警戒しながらの探索だから思ったより疲れたよ」
俺は鈴さんにそう答える。
「どうする? 明日はやめて休む?」
麗美さんが俺に聞く。
「明日乃や真望はどんな感じだ?」
俺は体力のない明日乃と、裁縫がやりたいだろう真望に聞く。
「うーん、確かに精神的には疲れたけど、ゆっくり寝れば明日もいけるかな? 体力的にはそんなに疲れてないし」
明日乃がそういう。
「私も大丈夫ね。それに、あんなにこの島を守る結界を攻撃されているところを見たら、早めに魔物退治しないとマズいのかなって気もするし」
真望がそういう。
「確かにそうだな。神様は1年持つとは言っていたが、それも本当か分からないしな。結界が壊れて、魔物がなだれ込んできたらこんな平穏な暮らしもできなくなるんだし、なるべく急いだほうがいい気はする。ゆっくりするのは魔物をある程度減らしてからでもできるしな」
一角の考えはそういう事らしい。
「確かに、この生活が壊されちゃうのは嫌だね。さっきの魔物の島で怯えながら寝たりするのと同じ感じになるんでしょ? それは避けたいね」
明日乃も一角の意見で危機感が強まる。
「まあ、あまり悲観的になるのはよくないし、必要な危機感は持ちつつ、余裕を持つのも忘れないようにしないとな」
俺はあまりいい方向に進んでいない雰囲気に釘を刺す。
「そうだな。こんな時はとりあえず、砂糖を入れた甘い紅茶でも飲もう」
一角がそう言って笑う。
「一角はたまにはいい事も言うな。紅茶を飲んで一回リセットしよう」
俺はそう言い、明日乃とお湯を沸かしてお茶を入れる。
「流司お兄ちゃん、琉生、明日は魔物狩りお休みしていいかな? 畑の作業、2日に1回くらいはしておきたいから」
甘い紅茶を飲みながら琉生がそういう。
「そうか。野菜が枯れたら困るもんな。じゃあ、明日は5人で行くか」
俺は琉生にそう答える。
「野菜といえば、明日乃のお弁当よかったよ。明日も頼むよ。留守番だけど昼ご販作るの面倒臭いしさ」
鈴さんがそう言って明日乃のお弁当を褒める。
どうせ、お昼ご飯作らないだろうと、明日乃が鈴さんの分の肉野菜炒め弁当とシロの為の野菜炒め弁当を作って置いていったらしい。
「鈴さん、作業の方はどう?」
俺はついでに鈴さんの作業も聞いてみる。
「ああ、順調だよ。レオもシロもいるから、なんとか鍛冶もできてるし、一応青銅の盾もできたけど、明日1日かけて、形を整える感じかな? 鋳型だとどうしても表面のざらつきや、はみ出した金属が多くでそのまま使うって訳にも行かないしね」
鈴さんがそういう。
青銅の盾も剣同様2日かかりになりそうだとのこと。ただ、剣とは違い、鋭く砥ぐ必要まではないので1日半くらいでできるだろうから、半日は鍛冶工房の小屋作りをするそうだ。
「それと、3日に1回くらい、魔物狩り休んでもらっていいかな? レオとシロが鍛冶手伝いに専念すると、木炭作りをしてくれる人がいなくなるし、たまに砂や粘土とかも補給して欲しいし、野菜の補充とか、明日乃ちゃんとかは水浴びとか洗濯とかしたいでしょ?」
鈴さんがそう提案してくる。
「うーん、水浴びの事を考えると、2日魔物狩り行ったら1日水浴びする日が欲しいかな? 3日水浴び我慢するのはちょっと厳しいよ」
そう言って明日乃が深刻な顔をする。
「帰ってきたらこんな時間だもんな。水浴びに行けないし、連日魔物狩りも精神的に疲れそうだしな。それじゃあ、2日魔物狩りしたら、3日目は軽い作業で少しゆっくりする感じにするか。まあ、トラブルがあったり、疲れがひどかったりしたら、スケジュールは柔軟に変える感じでね」
俺はそう言い、みんなも同意する。
魔物狩り2日やったら1日軽作業。琉生は1日おきに農作業の為に拠点に残るという流れで決まった。
その後、少しだけ作業をして18時になったので夕食を作り始める。
「流司、カエルの足を調理しろ。明日乃はやってくれないだろうしな」
一角が思い出したようにそう言う。
そういえば、ビッグフロッグの後ろ足なんてものがあったな。しかも4本。
「ああ、カエルの足なら琉生が調理するよ」
そう言って琉生が調理に立候補する。
しかたない、俺も手伝うか。
「レオも食べるよな? あと、鈴さんも食べる? カエルの足?」
一角がレオに強要し、鈴さんも誘う。
「ああ、面白そうだね。私もいただこう」
楽しそうにそういう鈴さん。結構チャレンジャーだった。
「オレは何でもいい」
レオは食にこだわりがないらしい。
とりあえず、カエルの足はチキンソテー風にして食べる。胡椒もないし、油もない、塩味だけのシンプルなソテーだ。タマネギの輪切りとニンジンもソテーして隣に沿える。
「うーん、油と小麦粉があればから揚げにできるのにね。から揚げにしたら美味しそうだよね」
琉生がそういう。
確かに鶏肉っぽいし、から揚げにしたらうまそうだ。
「早く、トウモロコシと小麦を収穫したいな。あと、胡椒も欲しい」
一角が反応する。
「琉生、嫌じゃなかったら、カエルの足、食えるだけ食っていいからな。他に食べる奴いないし、干し肉にして保存できるか分からないしな」
調理中の琉生にそう言う。
謎の肉過ぎて干し肉にする気も起きない。
「え? いいの? 久しぶりの食べ放題だよ。食べ放題というにはちょっと物足りない量だけどね」
琉生がそう言って喜ぶ。
いやいや、俺と一角と鈴さんとレオが食べる分考えて、その残りを計算すると、凄い量だぞ。たぶん、普通の人の6~7食分くらいはある。
とりあえず、調理も終わり、俺と一角、琉生と鈴さんとレオは鶏肉、もとい、カエル肉のソテーを食べる。
「うーん、普通に鶏肉だな」
「そうだな。普通に美味い」
俺と一角が感想を漏らす。
「もも肉だけど、ちょっとささみっぽいかな? でも美味しいよ。焼き鳥のたれ欲しくなるけど」
琉生がそう言って、凄い速さでカエル肉のソテーを平らげていく。
「ああ、焼き鳥のタレいいな。マヨネーズとかドレッシングでレタスやトマトと食べるのもよさそうだな」
一角がそういう。
「サラダと一緒だったら、酒蒸しか普通に蒸すのがいいかな? 酒蒸ししてレタスとトマトとドレッシングで食べるの」
琉生がそう言う。
「ああ、それなら普通に美味そうだ」
一角がそういう。
確かにソテーだとちょっとぱさぱさし過ぎだしな。
そんな感じで普通にカエルの足を平らげ、カエルの足を嫌がった明日乃達は普通に熊肉と野菜のスープを食べて夕食を終える。
日課のお祈りをして、先を噛んだ枝で歯磨きをして就寝。明日の魔物狩りに備え、早めに寝て疲れをとる。
【異世界生活 51日 7:00】
「それじゃあ、行くか」
俺はそう言い、昨日と同じ道を通り、神様が作った橋を渡り、魔物の島に渡る。
今日は昨日のメンバーから農作業でお休みの琉生を抜いた5人、俺、明日乃、一角、麗美さん、真望だ。
「今日もいるね」
明日乃がウサギの耳をピンと立てて音を拾う。
今日も朝靄で先が見えず、明日乃の敏感な耳を頼りに敵を探り、近づいていく。
「あれが、リザードマンか」
一角がそう呟く。
朝靄で視界が悪い状況でも敵が見える位置まで橋の上を進んでいくと2足歩行の人影が見え、顔までしっかり見える位置まで来ると、鱗でおおわれたトカゲが2足歩行している、
身長は俺と同じくらいか若干大きい。そして昨日のカエル人間と比べると、明らかに肌に生えた鱗が強靭そうだ。防御特化、VITあたりが高い可能性も考えられるな。
俺達は少し離れたところから新しい魔物を観察する。
「なんか、固そうだね」
明日乃も同じように感じたようだ。
一応、『鑑定』スキルでリザードマンを調べる
なまえ ウォーターリザードマン
レベル 18
二足歩行のトカゲ。少し知能がある。
全身に鱗が生えていて防御力が高い。
動きは遅いが力は強い。
噛みつきや尻尾で攻撃することもあるので注意が必要
水属性で水属性の魔法を使う事もある。
うーん、あまり情報はないな。
まあ、イメージ的にはVIT>STRのタンク戦士って感じかな?
「今日はカエルじゃなくてトカゲなんだな」
一角が適当にそういう。
リザードマンもワーフロッグ同様、結界に槍で攻撃を加えていて、金属音のような嫌な音が繰り返されている。
昨日同様、橋いっぱいに15匹の魔物が並び、後ろに同じくらいの数が控えている感じだ。
「魔物はどうして、こんなに結界に拘るのかしらね」
麗美さんが不思議そうにそう言う。
「魔物は農耕などできません。狩猟が主な食糧入手方法となりますが、数が増え過ぎ、この島の動物だけでは賄えない状況が続いております。その為、新たな土地を求めて、魔物は橋を渡ろうとしている訳です」
秘書子さんがそう教えてくれたので麗美さんやみんなに伝える。
「結界を壊されたら周りにある魔物の島から一斉に魔物が渡ってきて食べ物食いつくされちゃう感じなのね。それは防がないと困るわね」
真望がそういう。
「事情を考えると可哀想な気もするけど、倒さなきゃダメなんだよね」
明日乃が少し罪の意識を感じているのかもしれない。魔物とはいえ命を奪う行為だもんな。
「魔物は信仰心を持たない神の仇にしかならない存在です。信仰心を捧げてくれる人間が増えることを神は期待しているので、その障害となる魔物はどんどん倒すべきです。リュウジ様方が魔物を倒し続ければレベルが上がって、神様の元に届く信仰心がさらに増えますし、一石二鳥です」
秘書子さんが無感情な声で、熱弁する。
無感情に熱弁、意味が分からないがまさにそんな感じだった。
「秘書子さんの話では、魔物は信仰心がないから神様の邪魔にしかならないそうだ。どんどん倒して、レベルを上げろだってさ」
俺は少しいいかげんにそう伝える。なんかうさん臭い内容だしな。
「まあ、神様がそう言うならしょうがないんじゃないか? というか、早くしないと結界がどんどん削られるぞ」
一角がそういうので、戦闘態勢になる。
昨日と同様に左端から俺、右端から麗美さん、真ん中から一角と真望が左右に向かって倒していくフォーメーションをとる。明日乃は一角と真望の間に入り、真望とペアを組み、背中を守り合う感じだ。
左から、俺、真望、明日乃、一角、麗美さんの順で並び、徐々にリザードマンとの距離を詰める。
「近づくとさらに気持ち悪いし、鱗硬そうね。私、両生類が苦手だけど、爬虫類も苦手なのよね」
真望がそう言って嫌そうな顔をする。
「とりあえず、喉とか腹のあたりは鱗よりは柔らかそうだから、鱗のない白い部分を狙おう」
俺はそう言って指示をする。
リザードマンはまんま、トカゲを2足歩行にした感じで、体の表面を固そうな青黒いうろこでおおわれているが、口の下から、首、お腹のあたり、要は前の部分は鱗のない白い大きな皮で覆われており、鱗を攻撃するよりは有効そうだ。
「じゃあ、カウント3でいくよ。3・2・1・GO!!」
俺はそう掛け声をかけ、左端のリザードマンに飛び掛かる。
流れは昨日と同じ、持っている槍を青銅の剣で叩き折り、怯んだところを首を一閃、頸動脈に致命傷を与える。
1匹目を倒すと慌てて隣のリザードマンが俺を槍で攻撃するが、同様に槍を青銅の剣で叩き折り、首に一撃を加える。
「ガツッ」
嫌な音がして青銅の剣が止まる。
リザードマンが咄嗟に前かがみになり、首を鱗のある部分で守る。
鱗があるとはいえ、こちらは重さで叩き切るような青銅の剣。鱗のある部分でも首に剣が食い込む。
慌てて青銅の剣を引き抜くが、出血はそれほどでもない。傷が浅かった。致命傷になっていない。
浅くだが首を切られて怪我と剣による衝撃でふらふらのリザードマンに冷静に2撃目。突きで剣を喉を攻撃、剣がリザードマンの喉に深く突き刺さり、その剣で喉を横に裂くように引き抜く。
「ギャア」
鳥だか恐竜だかよく分からない叫び声をあげて倒れるリザードマン。
トカゲの泣き声なんてしらないが、とりあえず、リザードマンは低い声で鳥のように鳴く、子供のころからよく聞いた恐竜の想像の声や怪獣の声をイメージさせられるような声だ。
「おっと、危ない」
俺はそう言って、倒れたリザードマンの後ろから別のリザードマンが突いた槍の一撃を剣でいなす。
ちょっと危なかった。
俺は結界で守られるエリアまで少し下がり落ち着く
「ねえ、流司、こいつら硬すぎるわよ。首切ろうとすると腕とか鱗のある部分で守ろうとするし、面倒臭いんだけど」
真望が俺に向かってそうキレる。
明日乃もかなり苦戦しているようだ。
俺も気を取り直し、次のリザードマンに斬りかかる。槍をへし折ってから首を狙う一撃を浴びせるが腕のうろこで防がれる。ただし、リザードマンの腕は青銅の剣の重さで骨は折れたと思う。
もう一度、首に向かって剣を振るがまた腕に防がれる。ただし、それで、リザードマンの左腕は完全にくの字に曲がる。
俺はその1撃をフェイントにして、リザードマンの腹を横に一閃、血と、内臓の内容物が溢れる。
致命傷だ。
ワーフロッグより動きは遅いので落ち着いて戦えば問題ないが、とにかく鱗が固いし、鱗を使った防御方法も知っているようで、上手く致命傷を与えられない。
しかも微妙に昨日のワーフロッグより平均レベルが2~3高い気がする。
「結構きついわね」
麗美さんが、一度結界内に下がってそう漏らすのが聞こえる。
そして、もう一度飛び掛かる気配を感じながら、俺も次の相手に斬りかかる。
あまり連携が得意でないのか、個の力に自信があるのか、それとも鈍足で俺達の動きに合わせられないのか1対1の状況に持っていきやすいのは助かる。ワーフロッグの時のように2匹で襲ってくる感じが少ない気がする。
俺は首狙いと腹狙い、そして突きとフェイントを入れながら的確に急所に剣を通す。
首を狙うふりをして、腹を狙い、左右から首を狙うふりをして、みぞおちに突きの一撃。
そうやって、鱗を避けつつ、少しずつ敵の数を減らしていく。
それほど交戦意欲はなかったのか、半分ほど倒すとリザードマンは撤退していく。
一角が弓に持ち替え矢を放つが、背中のうろこが矢を防ぎ、致命傷にならず、そのまま逃げられる。
戦果は14体。 俺が4体、麗美さんも4体、一角が3体に真望が2体、明日乃が1体。そんな内訳だ。
「ああ、くそっ、弓矢が効かなかった。鱗が固すぎるだろ?」
一角がそう言ってキレる。
矢を回収できなかったのも悔しいのだろう。
「鱗は本当、面倒ね。どうしても剣を防がれて手数が増えて時間がかかるわ」
真望がそう言って悔しがる。
「ここは橋の結界があったからいいが、結界から出て戦うなら、その倒すための時間が長くなるっていうのは致命的な気がする。敵が多数だった場合あっという間に囲まれるぞ」
俺は自分にも反省する意味も込めてそう言う。
「そうね。結界のないところで、さっきみたいな30匹に囲まれたらヤバイかもしれないわね」
麗美さんがそう言う。
「明日乃、みんなが危なそうだったら自分の判断で結界魔法を張っていいからな。お祈りポイントは貴重だが出し惜しみはするなよ」
俺は明日乃にそうお願いする。
「わかったよ、りゅう君」
明日乃が返事をする。
「今日はどうする? ワーフロッグの集落でも行ってみる?」
麗美さんが聞いてくる。
「そうだな、今日はリザードマンの後を追ってみるか。多分マップの南にある、島の中心くらいにある赤いマークはリザードマンの集落っぽいしな。今日はリザードマンの数を減らしつつ、ダンジョンの様子を確認する感じでどうだろう?」
俺はそう言う。
「もし魔物同士が争っている状態なら、集落をひとつずつ潰していくより、3つの集落をまんべんなく、バランスよく回って魔物を倒した方がいいのかもね。1個の集落が無くなったら敵も警戒するだろうし、被害の少ない集落が被害の大きい集落を攻めだしたりするかもしれないし」
明日乃がそう言う。
「まあ、魔物同士で殺し合われちゃうと、俺達に経験値が入ってこないしな」
俺は明日乃の意見に同意する。
「魔物同士で数減らしあってくれちゃった方が私は楽と言えば楽だけどな」
一角がそう言う。
そんな感じで話合い、今日は南に進んでみて、ダンジョンとリザードマンの集落らしき場所を見に行くことになった。
次話に続く。
昨日は更新できずすみません。仕事が多忙につき、毎日の更新は難しそうです。
なるべく毎日更新できるように頑張ります。引き続きお読みいただけるとありがたいです。




