第68話 魔物狩りに挑戦
【異世界生活 50日 8:30】
魔物の住む島につながる白い大理石のような素材でできた橋、神様が海の上に作ったらしい謎の橋を歩き、渡り続ける俺達。
30分くらい歩いたところで、
「なんかいるよ」
明日乃のウサギの耳がピンと立ってきょろきょろを回り音を一生懸命拾っている。
橋の先は薄いもやがかかっていて視覚では確認できない。湿気と無風で鼻も利かない状況だ。
俺達は武器を構え直し、慎重に歩みを進める。
「ギャーン、ギャーン、グアーン」
何か、金属がぶつかり合うような嫌な音が響く。
もう少し歩みを進めると、その音の正体が分かる。
「結界を攻撃しているっぽいな」
「ああ」
一角のつぶやきに俺は相槌を打つ。
魔の前に半透明な魔法の膜に槍を突き立てる二足歩行の何か。
「カエルさんかな?」
琉生がそう呟く。
「うえ~、私、あのぬるぬるした見かけが嫌なのよね、カエルって」
真望が心底嫌そうな声を上げる。
「射るか?」
一角が弓を構える。
「いや、まずは接近して1匹でも多く斬り倒そう。結界があるみたいだし、下手に弓矢で一方的に攻撃して逃げられてももったいないしな」
俺はそう言う。
「明日乃ちゃんや真望ちゃんは敵斬れそう? ちょっと二足歩行で生き物だからヒトっぽいけど?」
麗美さんが少し心配そうに言う。
「まあ、顔がカエルだし、体形もカエルに近いから大丈夫じゃない?」
真望がそう言う。
「ちょっと気持ち悪いけど、カエルだし大丈夫かな?」
明日乃も少し不安そうだが何とかなりそうらしい。
「というか、敵の着ている鎧とか、持っている武器、私たちのと一緒じゃない?」
真望が怪訝そうな顔でそう言う。
「そう言われるとそうね。槍とか粗悪な作りだけど、穂先とか一緒だし、防具もばらばらだけど、よく似た皮鎧ね」
麗美さんも言う。
確かに、胸鎧とか手袋しかしていない二足歩行のカエルが粗悪な棒に青銅の穂先のついた武器を持っている。
「ダンジョン製か? 魔物もダンジョンに入れるってことか?」
一角がそう言う。
「ダンジョンは魔物も入ることができます。ルールは一緒で1日5名まで。ウッドゴーレムを倒すことでレベルアップも可能ですし、ドロップ品も回収が可能です」
秘書子さんがしれっと言う。
「マジか、秘書子さんの話だと魔物もダンジョンに入れるらしい。武器も拾えるし、レベルも上がるらしい」
俺はそのまま伝える。
「何やってんだ、あのおっさん」
一角が神様に呆れる。
「神は人に苦難を与え、成長を求めております」
秘書子さんが一角の愚痴に対し胡散臭い事を言う。
「神様は俺達に苦労させて成長させたいんだってさ」
俺も呆れ顔で秘書子さんの言葉を伝える。
「とりあえず、カエル人間の鑑定でもしてみましょ?」
麗美さんが気を取り直すようにそう言う。
俺も、あきらめて『鑑定』のスキルを使う。
なまえ ワーフロッグ
レベル 15
二足歩行のカエル。少し知能がある。
平均的な能力で跳躍力が高い。
表面がぬるっとした粘膜でおおわれており、刃が滑ることも
水属性の魔法を使う事もある
「まあ、ダンジョンのワーラビットよりは楽そうだな」
一角がそう言って弓を背負い、青銅の剣を抜く。
確かに、ワーラビットの時みたいに素早さ特化ではないみたいだし、大きさも人間の一回り以上小さくて見た目の恐怖感はない。
とりあえず、敵は二足歩行のワーフロッグ。レベル15前後の魔物だ。
それが橋の出口いっぱいに15体くらい並んでいる。そしてその後ろには交替要員も。
「30体弱ってところか。みんな、一斉に飛び掛かって、5体仕留めるぞ。結界からはまだ出るなよ。で、敵が逃げないようだったら次々倒す。逃げだしたら追わずに一角の弓矢で追撃、後は様子を見よう」
俺はそう指示を出す。
「攻撃魔法は使わないの? 私の魔法なら逃げた敵を焼き尽くせそうだけど」
真望がそう聞く。
「まあ、初日だから様子を見よう。レベル差的にも補助魔法もいらなそうだしな。それにお祈りポイントあまり無駄遣いすると鈴さんが泣きそうだしな」
俺は冗談交じりに言い、笑う。
まあ、まだ焦る時期じゃないしな。
「そろそろ行くぞ、敵もイライラしているみたいだしな」
一角がそう言う。
確かに結界への攻撃が増したような気がする。
「ちょっとまって、並びはどうするの?」
麗美さんが慌ててそう聞く。
「俺は橋の左端から、麗美さんは右端から、明日乃、一角、真望琉生は真ん中から左右に広がって倒していく感じで。一角と明日乃、琉生と真望はペア組んで後ろを守り合いながら戦って。そんな感じでどうかな?」
俺は麗美さんにそう答える。
「いいんじゃない? じゃあ、その方法で。無理そうだったら各自下がって仕切り直す感じで、いいわね?」
麗美さんが満足そうにそう言う。
そして、場所を入れ代わり、左から、俺、一角、明日乃、琉生、真望、麗美さんの順で並ぶ。
「3カウントで行くよ。3・2・1・GO!」
俺はそう言って、走り出す。橋の左端をめざして。
他のメンバーも走り出し、それぞれ目標にして敵に斬りかかる。
「ゲコー」
「ゲコ」
「ゲー」
ワーフロッグたちが騒ぎ出す。意思疎通もできているのだろうか?
とりあえず、俺は左端のワーフロッグの粗悪な木と青銅の穂先でできた槍を青銅の剣で叩き折り、返し刀で魔物の首を裂く。
うん、切り裂くというより叩き切る感じだな。
青銅の刃物の切れ味の悪さを剣の重さで押し切っているみたいな?
感覚的には剣というより斧に近いな。
慌てて、隣のワーフロッグが俺に向けて槍を突くが、俺は、一歩下がって結界の中に。結界で槍がはじかれる。
それに合わせて、さっきと同じように、槍の柄を青銅の剣で叩き折り、返し刀でワーフロッグの横腹を一閃、膝をついたところで脳天に一撃を食らわせ、倒す。
「ギャア」
「グワァ」
後ろに控えていたワーフロッグが騒ぎ出し、2体同時で俺に攻撃をしてくる。
俺は一歩下がって結界に守られる。
レベルが5以上低いと言っても2匹同時はきついな。
俺はそう思い、腰のポーチから、青銅の斧を取り出すと、左のワーフロッグの眉間に向けてそれを投げる。
くるくると回って、ワーフロッグの眉間に命中。中ほどまでめり込み、ワーフロッグが仰向けに倒れる。
それと同時にもう1体、右のワーフロッグの槍を剣で弾き、懐に入って首を一閃。4体目を倒す。
少し落ち着いたので、周りを見ると、他のメンバーも苦戦はしているようだが何とかなっているようだ。明日乃や真望、琉生のあたりもお互い後ろを庇いあって、敵と1対1になるような位置で戦えている。
この世界の戦いは数が大事みたいだしな。なるべく1対1の状態を保つこと。それが楽に勝つ方法のようだ。
「グワァ」
そんなことを考えていると、俺に次の敵が飛び掛かってくる。
「だから、数で優っているなら1対1は無駄だって」
俺はそう言いながら、1体で挑んできたワーフロッグを脳天から叩き切る。
1対1ならレベル差で俺達の方が圧倒的に有利だ。
「ゲコ、ゲコゲコ」
なんか、ワーフロッグたちが声を上げながら散り散りに逃げていく。
俺はもう1体だけ背を向けた敵を後ろから切り倒すと、結界の中に戻る。
一角が弓矢に武器を持ち替え、逃げるワーフロッグたちを射っていく。
「とりあえず、戦闘終了だな」
俺はそう言い、一回落ち着く。
俺は、地面に倒れているワーフロッグたちを数えながら、みんなに戦果を聞いていく。
俺は5体。
一角と明日乃が6体。最後に一角が弓矢で2体たおして合計8体。
真望と琉生が5体
麗美さんは6体倒したらしい。
「24体か。初戦にしては上出来だな」
俺はそう言い。戦果に満足する。
「敵が使っていた武器の青銅の部分だけは回収しようよ。また武器の材料になるかもしれないし」
琉生がそう言うので。まわりを警戒しながら。武器の金属部分だけ回収する。
それと、俺は投げた青銅の斧も回収だな。
一角は少し離れたところで倒れている敵の死体から矢を回収する。
そして、明日乃が神様にお祈りして、ワーフロッグの死体をマナに還し、経験値に変える。
「麗美さん、凄いね。一人で6匹か」
落ち着いたので、麗美さんにそう話しかける。
「変幻自在の武器はいいわね。切れ味はいまひとつだけど、思い通りに武器を作れるし、絶対壊れないから、イメージ通りの武器ができて、思い通りに武器を振るえたわ」
麗美さんがそう言って、少し大きい日本刀のような変幻自在の武器を構えてうれしそうに見つめる。
「これ、貰っていいかな?」
麗美さんがそう付け足す。
「だ、ダメだよ。一応、俺の所有になっているし、みんなも交代で使いたいだろうし」
俺は慌てる。
「そうよね。だったら早くこの島のダンジョンを攻略して、もう1本、変幻自在の武器を貰わないとね」
麗美さんがそう言う。
「そうだね。確か、この島のダンジョンは水の精霊が管理しているって話だから、所有するのは麗美さんがいいだろうしね」
俺はそう答える。
「それで、これからどうするんだ?」
矢を回収し終えた一角が帰ってきてそう聞く。
明日乃も一角の護衛としてついていってくれたようだ。二人で並んで帰ってくる。
「そうだな。ワーフロッグたちが逃げて行った方向、西の方にある、マップのマーク? 多分、ワーフロッグの集落の方に歩いてみるか、南にあるダンジョンのマークの方に歩いてみるかだな」
俺は一角にそう答える。
「だが、ダンジョンのそばにも集落のマークがあるぞ。これって、ダンジョンを守っている魔物の集落があるって事じゃないか?」
一角がマップを開きながらそう聞き返してくる。
「多分そうだろうな。しかもさっきのワーフロッグたちとは違う集団かもしれない」
俺もそれは予想していてそう答える。
「西の集落を先に潰して後方の憂いをなくすか、挟み撃ちを覚悟で、あえてダンジョンそばの南の集落を攻めるか、もしくは今回関係なかった東の海岸沿いの集落を攻めてみるか3択ってとこね」
麗美さんがそうまとめる。
「この橋で敵を待ち構え続けるって手もあるわよ」
真望がそう言う。
「まあ、真望の意見も橋の結界で安全に戦えて悪くないが、敵がいっこうに襲ってこなかったら、時間の無駄になるし、今回は却下だな」
一角がそう言う。
「俺としたら、とりあえず、西に海岸沿いに歩いて島の大体の形を把握したい感じかな? それに、他の集落にも手を出したら3面戦争になりかねないし、各個撃破の方が安全性は高いんじゃないかな? まあ、他の2つの集落をこちらから襲わなくても向こうから襲ってくる可能性は十分あるけど」
俺はそう答える。
「もしかしたら、さっき逃げたカエル達、わざと自分達の集落と違う方向に逃げた可能性もあるぞ」
一角が意地悪そうに俺に言う。
「それをやられていたとしたらどうしようもないな。魔物の知能は高いということで警戒を高める必要はある。まあ、どんな戦略を練られても、最悪、明日乃の結界魔法もあるし、結界張って後退すればいいし、まあ、なんとかなるんじゃないか?」
俺は一角にそう言う。
「まあ、色々考えてもしょうがなさそうだし、私も西の海岸沿いに歩いて西の集落を叩く案に賛成かな? あんまり囲まれるような状況は作りたくないし」
麗美さんが俺の意見に賛成する。
「私はりゅう君と一角ちゃんの意見に任せるよ。『船頭多くして船山に上る』ってことわざじゃないけど、指示する人が多すぎると方向がぶれちゃうだろうし」
明日乃がそう言い、真望と琉生も頷く。
「まあ、私も特に考えはないし、流司の意見で行くか。とりあえず、西に向かって歩き、西の魔物の集落を落とす。それで行こう」
一角が俺の意見にのる。
「あ、あと、私、今の戦いでレベル上がったわ。レベル22ね」
麗美さんがしれっとそう報告する。
「あ、ああ、おめでとう、麗美さん」
俺はあまりにしれっと報告するので戸惑い、みんなも戸惑いがちにお祝いする。
「それじゃあ、行くか。陣形は明日乃を中心に円陣を。俺が前を行くから麗美さんと一角は左側を。真望は後ろを頼む。琉生は一応、右の海岸を警戒して。海を泳ぐ魔物もいないわけじゃないだろうし」
俺は少し休憩してから、そう指示をだし、海岸沿いに西に進むことにする。
「海を警戒かぁ。海からサメの二足歩行、ワーシャークとか出たら、B級スリル映画だね」
琉生が楽しそうにそう言う。
「怖いこと言うなよ。サメの2足歩行とかどう戦えばいいか見当もつかないぞ」
俺はそう言って笑う。
「魔法使って空を飛ぶかもしれないしな」
一角がそう付け足し笑う。
「そんな、B級映画、全滅エンドしかないじゃない」
麗美さんが呆れてそう言う。
空飛ぶ2足歩行のサメ。そんなのが出てきたら、もう、笑うしかないな。
「歩くサメじゃないがなんかいるぞ」
一角が突然真面目になってそう言う。
一角の視線の先を見ると、カエル? 巨大なカエルがいる
なまえ ビッグフロッグ
レベル 10
巨大なカエル。とにかく巨大。
基本的には温和な魔物だが、
目の前に動くものがいると飛び掛かる。
長く素早い舌には注意が必要。
跳躍力もある。
自分より小さい獲物を丸のみする。
「うわー、なんか嫌な感じの魔物が出てきたわね」
真望があからさまに嫌な顔をする。
そしてビッグフロッグもこちらを認識したようでのそのそと近寄ってくる。
「でかいな。私たちよりでかいぞ」
そう言って一角も嫌そうな顔をする。
確かに全高、座った状態でも2メートルくらいある。
「舌が危険らしいから注意しろよ」
俺はそう言ってカエルと仲間たちの間に入る。
「りゅう君?」
明日乃が心配そうに声をかける。
「明日乃達が丸呑みされたら、洒落にならないからな」
俺はそう言って剣を構える。
仲間の誰かが丸呑みなどされようものなら、絵面がギャグ漫画か成人向け漫画になってしまうからな。
ビッグフロッグはのそのそと近づいてきて、一定の距離で歩みを止める。
多分、俺が舌の射程内の入ったって事だろう。
俺は青銅の剣をまっすぐ巨大なカエルに向ける。
そして高速で迫る何か
早い! バッティングセンターのボールぐらい早い。しかも微妙にカーブというか左から旋回するように迫ってくる。
巨大カエルの舌だ。
しかし、これは野球ではない。
俺は急いでバックステップを踏み
カエルの舌を避けると、青銅の剣の腹で舌を地面にたたきつけ、抑え込む。
「流司、よくやった」
一角がそう言い、ビッグフロッグの舌に青銅の剣を突き立てる。
ビッグフロッグが痛みで暴れるが、舌が地面に縫い付けられてしまい、逃げられない。
そして、麗美さんが一角の横をすり抜けてビッグフロッグの横に立つと、そのまま、巨大な日本刀のような片刃剣でビッグフロッグの首を一閃。ずるりと巨大なカエルの首がズレ、地面に転がる。
「見事だな、麗美姉」
一角が嬉しそうにそう言う。
そして、一角がカエルをじいっと見て、
「流司、こいつの後ろ足、食えるらしいぞ。食べてみるか?」
一角の悪い癖が出る。
「食べられるなら食べてみようよ」
琉生の食いしん坊の悪い癖もでる。
俺も一応鑑定するが、確かに食べられると書いてある。しかも結構美味しいらしい。
「しょうがないな。琉生、カエルの後ろ足を解体して持っておいてくれ。お昼になったら食べよう」
俺はそう言って琉生に任せる。
琉生は楽しそうに巨大なカエルに飛びつき、後ろ足を解体し始める。
「まあ、よく、カエルの後ろ足は鶏肉みたいな味がするって言うしな」
俺はそう言って琉生の解体を眺める。
俺まで解体に参加すると、明日乃や真望にひかれそうだからな。すまん、琉生。
「私は食べないわよ」
「わ、私もいいかな?」
「うん、私もパスね」
真望と明日乃と麗美さんが口をそろえてそう言う。予想通りの反応だ。
巨大カエルの解体を終え、神様にお祈りして経験値に変え、先に進む。
そして、逃げていたワーフロッグに追いついてしまったようで戦闘になる。
敵は4体。6対4なら楽勝だな。
俺、一角、麗美さん、そして真望の4人で対峙する。明日乃は待機で琉生は明日乃の護衛だ。
ワーフロッグも逃げられないと諦めたのか、全力で飛び掛かってくる。
「ゲコォ」
ワーフロッグがそう叫ぶと、目の前に氷の矢が現れる。魔法を使う気か?
「精霊よ力を『炎の壁!!』
突然、俺達の目の前に炎の壁が立ち上がり、そのままワーフロッグの方に向かって進み、氷の矢を蒸発させ、ワーフロッグを焼き焦がす。
真望の魔法か?
「まだ倒せてないぞ」
一角がそう言い、ワーフロッグに飛び掛かる。
俺も慌てて、目の前に立つ、表面がこんがり焼けた二足歩行のカエルに飛び掛かり肩から袈裟切りにする。防具を未装備の敵だった為、青銅の剣が肩口から胸のあたりまできれいにめり込む。致命傷だ。
他のみんなも敵に斬りかかり、とどめを刺す。
そして神に祈り、経験値に変え、移動を続ける。
【異世界生活 50日 10:00】
そのまま、西に進むと、濁った川が道をふさぐ。歩いて渡るのは難しそうな川幅がある。
「泳いで渡るのはちょっと危険かな? 川も濁っているし、ピラニアとかワニとかいそうじゃない?」
麗美さんがそう言う。
まさにそんな感じの川だ。
川の対岸には森が広がり、上流の方にも森。まさにアマゾンとかに流れていそうな濁った川だ。
「うーん、上流まで歩いてみる? 川が綺麗になれば底の雰囲気も見えるし、最悪、川の湧き出るところまで行けば迂回できるだろうし」
俺は麗美さんやみんなにそう相談する。
「そうだね。その方がよさそうだね。ワニはちょっと嫌だし、ピラニアも嫌かな?」
明日乃がそう言う。
「まあ、さっきのワーフロッグがまっすぐこっちに向かっていたって事は泳いで渡れるんだろうけど、危険を負ってまで泳いで渡るのはちょっとな」
俺も明日乃の意見に賛同し、再度、迂回を希望する。
「あ、向こうに橋があるぞ」
一角がそう言って下流の方を指さす。
「マジか」
俺がそっちを向くと確かに吊り橋があった。
「カエル人間の方が私たちより文明があるのかもね」
麗美さんがそう言う。
「文明というより、労働力があるのかもな」
俺は、ボロボロのつり橋を見てそう言う。
「労働力は大事だからね」
麗美さんもそう言って笑う。
確かに俺達に足りないのは文明もそうだが圧倒的に人手が足りていない。
とりあえず、危険性がないか、罠がないか確認して、俺が先に渡る。
腰に命綱の荒縄を巻いて。
まあ、高さはない吊り橋なので落ちても怪我することはないが、川にピラニアやワニがいたら人生終了だ。
俺は警戒しながら慎重に進む。
が、結局、何の問題もなく渡りきる。
普通にワーフロッグたちの生活用の橋だったようだ。
何かトラップのようなものに引っかかったり、ハプニングが起きるのも嫌だが、何もないのもそれはそれでがっかり。そんな気分を味あわされる俺だった。
とりあえず、命綱代わりに腰に巻いた荒縄を対岸の橋を支える柱に結び、仲間達も吊り橋を渡らせる。
「何もなかったな」
一角がぼそっと言う。
「ああ、何もなかった」
俺はそう答える。
「でも、これって、この先の集落を落とすのを失敗して逃げるときに橋落とされちゃったり、回り込まれたりしてこの橋を押さえられちゃったら終わっちゃうよね?」
琉生がケロッと怖い事を吐露する。
「じょ、上流の方も確認しておくか」
俺は少しビビッてそう聞く。
「そうね、今日はそっちの作業をしましょ」
麗美さんも納得し、結局渡ってきた橋を戻り、西側の対岸、橋を渡る前の川の横を探索することにした。
南に川に沿って歩くと草原から森に変わり、視界が悪くなる。
ただ、川の両側は広くひらけており、森との距離を保てるので不意打ちには対処できそうだ。
途中大きなトカゲやビッグフロッグにもあったが、1匹ないし、少数だったので何事もなく対処できた。
ときどき勾配のあるなだらかな坂道を歩き続ける。
そして、そのまま南に川沿いに1時間ほど歩き、川を歩いて渡れそうな場所を見つける。
さらに30分ほど歩くと小さな池のようなものがあり、ここが終点のようだ。
池を迂回すれば川の向こう側にも行けそうだ。
「これなら、最悪、橋を落とされた場合でも南に行けば川を越えられることは分かったわね」
麗美さんがそう言う。
「このまま、池を迂回して、橋の反対側に出られたら、今日の探索は終了しよう。そのころにはお昼も過ぎるだろうし」
俺はそう言って、
池の周りを迂回し川の反対側をめざす。
「何かいるよ!!」
明日乃がそう言ってウサギの耳をぴんと立てる。
俺もみんなも慌てて警戒、周りを探る。
池の反対側南東の森の茂みからがさがさと音がして、人影が去っていく。
俺は慌てて、鑑定スキルを使うが碌な情報を得られなかった
なまえ リザードマン?
ステータスウインドウに表示されたのはそんな表示だった。
カエル人間の他にトカゲ人間もいるってことか。
多分それが南の集落の魔物ってことかもしれない。
「余計なことをしちゃったかもな」
俺はそう言って後悔する。
「追うか?」
一角がそう声をかける。
「いや、止めておこう。先で仲間が待ち構えているかもしれないからな」
俺はそう言い、そのまま、みんなと情報交換する。
「リザードマンね。カエルにトカゲ、爬虫類と両生類、面倒臭そうね」
麗美さんが呆れ顔になる。
「でも、もしかしたら、別の魔物って事で、敵対していたり、協力体制がなかったりする可能性も出てきたよね」
明日乃がそう言う。
こういうポジティブな考えは本当に助けられるな。
「とりあえず、終わったことはしょうがないし、反対岸を歩いてさっきの橋まで行ってみましょ? 逃走ルートは把握しておいた方がいいし」
真望がそう言い、みんなも頷く。
そのまま、池を迂回し、川の反対側に行き、今度は北に向けて川を下る。一応、罠などないか気を付けながら川に沿ってできた平地を歩いていく。
そして、何事もなく、さっきの橋の反対側に着く。敵の気配もなさそうだ。
【異世界生活 50日 13:00】
「お昼過ぎたわね。流司クン、どうする?」
麗美さんが俺に聞く。
「今日はこれで帰ろう。橋を渡って、ひらけたところで昼食と休憩をとり、拠点に帰ろう」
俺はそう提案し、みんな頷く。
「だいぶ、マップも埋まったし、次につながる探索ができたと思うよ」
明日乃が励ますようにそう言ってくれる。
「次は、ワーフロッグの集落を見に行きましょうね」
麗美さんが観光でも行くようなノリでそう言う。
さっき渡ったつり橋のような橋を渡り、元来た場所に戻る。
そして橋から少し離れた、見晴らしのいい場所で交代しながら休憩する。
たき火をするたき火もないし、煙で魔物を集めてしまったらマズいので、持ってきたお弁当をそのまま食べる。
竹筒に詰めた肉野菜炒め。
竹筒をナイフで縦に割るとお皿になる仕組みらしい。
「なんか、面白い発想だな」
一角がそう言って竹を割り中の肉野菜炒めを食べる。
「最悪、お箸を忘れたら、ふたの方の竹を細く割れば箸にもなるしね」
見張りをしてくれている麗美さんが本気か冗談か分からないことを言う。
「竹は殺菌効果あるし、過熱して笹の葉っぱで蓋をすれば簡易缶詰めみたいな感じかなって。もちろん日持ちの保証はないから、半日で食べて欲しいけどね」
明日乃がそう言う。
「しかも、たき火があれば、このまま、鍋代わりに使えて、過熱もできる優れものだ」
俺はそう言って明日乃発案の竹のお弁当箱?を絶賛する。
「米が手に入ったらご飯とセットで作って欲しいな、これは」
一角がまた面倒くさい事を言い始める。
まあ、確かにその気持ちも分かるけどな。
「そういえば、カエルの足はどうするの? 森で倒したのも含めて4本あるよ」
見張り役の琉生が思い出したようにそう言う。
「夕飯に食べよう。食べるよな? 流司?」
一角が俺を巻き込む。
「なんか、懐かしいノリだな。ヘビのかば焼き、トカゲの丸焼きを思い出すよ」
俺はそう言う。
「そんなこともあったな」
一角はそう言って笑う。
もう1か月以上ここで生活しているんだもんな。色々ありすぎて、1か月前が凄い昔に感じるな。
お弁当を食べ終わり、見張りをしてくれていた麗美さんと真望と琉生と入れ替わり、弁当を食べてもらい、俺と一角と明日乃は見張りをしながら、少し雑談に加わる。
「じゃあ、行こうか」
昼休憩も終わり、拠点に向けて帰路に着く。
運が良かったのか、行きの討伐が功を奏したのか、帰り道は敵にも会わずに白い橋に着くことができた。
「魔物狩りは拠点に帰るまでが魔物狩りだからな」
俺はそう言って白い橋を渡り始める。
「遠足じゃないんだから、もう」
明日乃がそう言って笑い、みんなも笑う。
まあ、実際、拠点の島もクマやオオカミなど危険な動物もいて、決して安全な島じゃないしな。気を付けて帰ろう。
次の話に続く。
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