第66話 鋳型で青銅の剣を作ろう
【異世界生活 39日目 19:30】
「明日から魔物の島で魔物狩りを始めようと思う」
俺はいつもより少し遅い夕食の時間にそう提案する。
石鹸づくりを日が落ちてからも続けたので夕食が少し遅れたのだ。
「そうね、鈴ちゃんの鍛冶を軌道に乗せるにはまだ時間かかりそうだもんね」
麗美さんが俺の提案にそう付け加える。
「道具だけでお祈りポイント120000ポイントだろ? 20日は待てないな」
一角がそう言う。
「ちょ、ちょっと、待って、思い出したんだけど、鋳型を使えば青銅の剣ぐらい作れるからさ。それ作ろうよ」
鈴さんが、慌ててそう言う。
鈴さんのアイデンティティでもある鍛冶が否定されかけて必死になる。
「それって、またお祈りポイントがかかるんじゃないの?」
麗美さんが訝しむ。
「大丈夫よ、珪砂って砂と木枠があればすぐできるわ。変幻自在の武器もあるから、それを剣の形にして鋳型、を作ればすぐできるわ。青銅もダンジョンのドロップ品で大量にあるから炉で溶かすだけでいいし、るつぼもこの間拾ってきた珪石を琉生ちゃんに魔法で形成してもらえばいいし。琉生ちゃんの魔法1回1000ポイントでいけるわよ。砥石もすでにあるし」
鈴さんが一生懸命演説するが専門用語が混ざって良く分からない。
「またレンガ作る魔法を使うんですか?」
琉生が怪訝な顔をする。
「ちょっと違うわね。『るつぼ』といって、ようは、溶けた金属を入れるコップみたいなものよ。今回は火箸、るつぼを挟むはさみみたいのものがないから柄杓みたいな取っ手のついた大きいコップみたいな感じのをお願いしたいかな? それに、琉生ちゃん。鋳型で青銅器が作れるようになったら、琉生ちゃん専用の鍬や鋤、シャベルなんかも作れるようになるわよ?」
鈴さんが琉生にそう答える。
「やります。鍬や鋤がもらえるなら頑張ります」
急にやる気になる琉生。
変幻自在の武器を交代で使うのは面倒臭いしな。
「とりあえず、南に見える魔物の島に渡るにしてもすぐ西にある川を渡らないといけないから、川を渡るいかだを作りつつ、鈴さんには青銅の剣を作ってもらえばいいんじゃない?」
明日乃がそう言う。
「明日乃ちゃんには銅鉱石で銅のお鍋や調理器具作ってあげるからね」
鈴さんがそう言い、明日乃が買収された。
「ちなみに珪砂は土器作りにつかった粘土を採りに行った地層の見える崖で採取する事が可能です」
秘書子さんがそう教えてくれる。
「じゃあ、私はひたすら青銅の剣とか盾を作るから、みんなは竹を切っていかだを作ればいいよ。あと、できればもう2~3度、珪石を採ってきて欲しいかな?」
鈴さんがそう言い、結局明日から鋳型による武器づくりと、西の川を渡る為のいかだ作りをすることになった。
そして、次いでに珪石拾いを2~3度と、あの山登りと重い石運びを数回って、軽く酷な事を言ってくる鈴さんだった。
とりあえず、日課のお祈りをして今日は少し遅めの就寝につく。
【異世界生活 40日目 5:00】
「おはよう、みんな」
俺は明日乃と一緒に起きて、夜の見張り後半の役のシロ、いつも早起きの琉生と鈴さんに挨拶をする。
明日乃と琉生が朝食を作り始め、出来上がるころに、一角、真望、麗美さんが順々に起きてくる。
「そういえば、真望の裁縫の調子はどうだ?」
俺は朝食を食べながら気になって聞く。
「ゆっくりだけど麻布もできているわよ。とりあえず、人数分の下着と替えの下着が作れるくらいの布は作り終わるわ」
真望がそう教えてくれる。
「やっと、毛皮の水着から解放されるな。ちょっと違和感あるしな」
一角が恥ずかしげもなくそう言い、明日乃が恥ずかしそうに止める。
「ウサギの毛皮で作った毛布と敷布団もいい感じだし、真望も頑張ってくれてるんだな。ありがとな」
俺はそう言って真望の仕事を褒める。
「そう思うんだったら、そろそろ、糸車とかはた織機とか作って欲しいわね」
真望が拗ねるように、照れるようにそう言う。
「それは鈴さんの手が空き次第かな?」
俺がそう言うが、みんなはあきれ顔をするしかない。
実際、鍛冶に夢中。鋳型で武器づくり、鍛冶小屋づくり、そしてツリーハウスの拡張、やる事は山積みだ。
鈴さんも誤魔化すように、「もう少し待ってね」と言う様に真望に笑う。
鈴さんができることが多すぎるのと、鈴さんが担当する作業のほとんどが時間のかかる作業ばかりでオーバーワークになっているな。俺も手伝いながら作業を覚えて鈴さんの負担を減らす方向にしないとダメだな。
俺はそんなことを考え、積極的に鈴さんの助手になることを提案する。
朝食を食べ終わり、日課の剣道教室をし、7時から作業に移る。
明日乃と真望が留守番で、他のメンバーで砂を取りに行く。バナナの葉っぱのリュックや竹かごでは砂がこぼれてしまうので大き目の土器を各自持っていく。
「りゅう君、どうせだから粘土も多めにとってきてね。土器が色々使えるみたいだからもっと作っておきたいの」
明日乃が出発するときにそういう。
そうだな。トイレ用に土器を使ってしまったし、割れたりして数を減らしているし、今回みたいに色々使い道があるから増やした方がいいかもな。
「分かった。粘土も採ってくるよ」
俺はそう言う。
「どっちにしろ、鋳型にも粘土使うしね」
鈴さんがそう言い、砂の採れる崖、泉のさらに東の崖に向かう。
砂の収集には俺、一角、麗美さん、琉生、鈴さん、レオとシロだ。それぞれ土器とリュックを背負い移動する。
「そういえば、さっき、粘土も使う、って言っていたけど鋳型って何で作るの?」
俺は歩きながら鈴さんに聞く。
「今回作るのは生型っていって、砂に粘土と水を混ぜて青銅を流す型を作る感じね。細かいデザインの鋳物を作るのには向かないけど比較的簡単に作れるわ。あと、焼き型と言って、それをさらに焼いて陶器みたいにする鋳型もあるんだけど、時間がかかるから今回はパスね」
鈴さんがそう教えてくれる。
「ああ、あと、木枠を作らないといけないから木の板を作る材料も探さないとね」
鈴さんがそう付け加える。
そんな雑談をしながら、鈴さんから鋳造(鋳型で金属加工をする)のやり方について色々聞きながら砂の採れる崖をめざし1時間くらいで到着する。
俺は変幻自在の武器をシャベルに変化させ、粘土を掘る。
他の子達は落ちている木の板などで砂を掘り、持ってきた土器につめていく。
琉生は俺が掘った粘土を大きな葉っぱにくるんで各自のリュックにつめる作業だ。
「鋳型でシャベルやのこぎりも作った方がいいわね」
鈴さんがそれを見てそう言う。
「シャベルやのこぎりも作れるんだ?」
途中、俺は琉生と交代し、粘土を葉っぱにくるむ作業をしながらそう聞く。
「まあ、ノコギリは、刃の大きい雑な感じになるとは思うけどね。鋳型じゃあまり細かいものは作れないのよ」
鈴さんはそう答えてくれる。
「鈴さん、鋤や鍬もよろしくお願いしますね」
琉生がそう言って念を押す。
「もちろん、琉生ちゃんは鍛冶工房作りの一番の功労者だから頑張って作るわよ」
鈴さんがそう言って笑いながら砂を土器につめる。
いやいや、武器づくりが先だろ? とは言えない雰囲気だった。
そんな感じで粘土と砂を同じくらいの量、全員が持てるだけ持って拠点に帰る。
鋳型は粘土も必要だが、砂が圧倒的に多めに必要だし、土器は逆に砂より粘土の方が多く必要という事で同量を持って帰る。
そして、途中、竹林まで帰ってくると、
「なあ、流司とレオはここで竹を切る作業をしていろよ。荷物は後で私と麗美さんが持って帰るからさ」
一角がそういうので、俺は荷物を一度置き、竹を切る作業をする。
「流司、悪いんだけど、変幻自在の武器を貸してくれないかな? 倒木を切って平らな木材を何枚か作らないといけないんだ」
鈴さんがそうお願いしてくるので、俺は変幻自在の武器を貸し、俺とレオは少し効率が悪いが青銅の斧で竹を切る作業をする
青銅の斧も本物の斧みたいな形をしていればいいのだが、実際は槍の穂先みたいな小さい金属が斧のように横につけられているだけのなんちゃって斧なのでさらに効率は悪い。
とりあえず、レオと二人で竹を切り、切った竹を麗美さんと一角とシロが運ぶ。
鈴さんと琉生は材木にする倒木探しにいったらしい。
【異世界生活 40日目 12:00】
砂と粘土の採取と竹を切って運ぶ作業をしているとお昼が近くなるので拠点に帰る。
「ただいま」
拠点に帰ると明日乃と琉生が昼食を作って待ってくれていた。
鈴さんは一生懸命、平らな木材を作っているようだ。
昼食を食べながら作戦会議をする。
とりあえず、一角と麗美さんと琉生は西の川の河原で竹を使っていかだ作りをするそうだ。3人乗りを2隻作るらしい。
俺はちょっと鋳型による鋳造に興味があったので、申し訳ないが、鈴さんの手伝いをさせてもらう。
レオとシロは鈴さんにお願いされて薪を集めて木炭作りの準備をするらしい。これから木炭が大量に必要になるらしいからな。
「そういえば、魔物狩りって全員で行くのか?」
一角が昼食の熊肉の野菜炒めを食べながら俺にそう聞く。
「そういえば、どうするか。拠点も空っぽにするわけにはいかないしな」
俺は一角にそう答える。
「魔物退治も5人での行動をお勧めします。魔物の島でダンジョンに逃げ込む場合、6人以上いると入れないメンバーが出てしまう可能性があるからです。それと、眷属はこの島から出ることができないのでご注意ください」
秘書子さんがそう教えてくれるので、みんなに情報共有する。
「レオやシロたちはこの島から出られないのか」
一角が残念そうにそう言う。
「レオやシロたち眷属はこの島の結界を構成する精霊の要因の一つなので、彼らが島を出てしまうと結界が弱体化する危険性がでます」
秘書子さんが一角の問いに答えてくれたので、俺はそのままみんなに伝える。
「そうなのか。結界の守護者ってことにしとくか」
一角がそう言って納得する。
「まあ、何かトラブルがあってダンジョンに逃げ込むしかない場合とか起きないわけではないから5人で魔物退治行くというのも悪くないかもしれないな。少なくとも拠点には1人は仲間を残しておきたいしな。何かあった時にレオやシロに連絡が取れるようにな」
俺はそう言う。
「魔物の島に渡るのは5人、もしくは6人ってところか」
一角がそう聞きすので、「そうだな」と答える。
「それだったら、いかだも3人乗りを2隻で何とかなりそうね」
麗美さんがそう俺に言うので俺は頷く。
昼食を終え、一角、麗美さん、琉生は河原に竹と荒縄を運びいかだを作る作業。
拠点で作ってもいいのだが、運ぶのが大変になるので、竹の状態で運んで河原で組み立てる感じにしたらしい。
レオとシロは森で木炭になりそうな薪探しに行く。
真望と明日乃は麻布作りというか、下着作りだ。
俺は鈴さんの鋳型作りを手伝う。
「とりあえず、まず大事なのは木枠づくりね。木枠を2つ作って、これに砂を入れて上の鋳型と下の鋳型にするのよ」
鈴さんがそう言って、午前中に作ったらしい平らな板をのこぎりで上手に切って四角い箱を作っていく。
鈴さんの作業場にはなんか良く分からない竹で作った三角の測量機みたいなものやものさし、天秤ばかりみたいなものまである。
「ものさしまであるんだ」
俺は目盛りのついた竹の棒を見てそう鈴さんに聞く。
「そうね。私の足の大きさが24センチだから24センチの竹の板を作って、同じ長さの麻紐で半分のところが12センチ、さらに半分が6センチ、さらにその半分が3センチで最後は目分量で3等分して1センチ。こんな感じでものさしを作ったのよ。これができれば、20センチを5回計れば1メートルのものさしもできるって感じね」
麗美さんがものさし作りの経緯を教えてくれる。そして1メートルのものさしも見せてくれる
それ以外にも正三角形の一つの角が60度という理論を使い、その正三角形の真ん中に1本直角の棒入れることで90度や30度が測れる分度器(三角定規)や45度が測れる三角定規、重力を利用した水平器など色々建築に役立ちそうなものが色々作られていた。
「基本ものの長さ、角度、特に直角、重さ、後は水平かとか、平らかどうかとか分からないとものづくりはどうにもならないからね」
そう言って鈴さんが笑う。
そういった道具を使って全く同じ大きさの長方形で底板のある木箱を2つと底板のない木枠を2つ作り上げる。もちろん、釘なしでた。ほぞとほぞ穴、仕口といった木に凸凹を作って組み合わせる作り方で上手に作っているそうだ。
木箱や木枠の大きさはちょうど剣が入りそうな1メートル×50センチくらいの大きさで、高さ自体は20センチくらいの縦長で薄い箱って感じだ。
「木枠ができたから次は鋳型作りね。とりあえず、木枠につめる砂を作らないとね」
鈴さんはそう言って、砂に若干の粘土と水を加えて混ぜ合わせる。均一に混ざるように。粘土と水は砂が崩れないようにするためのつなぎだ。途中俺も交代して砂をよく混ぜる。
「じゃあ、砂ができたら、これを木枠につめる作業ね。木枠の底から少しずつ砂を入れて、木材で叩いてしっかり固めていく作業ね」
そう言って、鈴さんは木箱の底に出来上がった砂を入れると、平らに敷き詰め、とんとんと角材の切れ端のようなもので叩く。
俺ももう一つの木箱に砂を入れて、鈴さんをまねするようにとんとんを木材で叩き砂を固く、崩れないように固めていく。それを木箱の底から少しずつ少しずつ繰り返し、固い砂の塊を作っていく。
そして木箱の上まで固く固められたら、表面を平らにして出来上がりだ。
そんな木箱に硬くつめた砂を2人で2個ずつ、2つ作る。
「そうしたら、変幻自在の武器をイメージする青銅の剣の形にして、鋳型に形を移せば出来上がりね」
鈴さんはそう言い、作った平らな砂の表面を少し掘って変幻自在の武器で作った両刃剣を埋めて、その周りに砂を入れて、今までやったように固く固めていく。これで、鋳型の半分は出来上がりだ。
できあがったら、底板のない全く同じ大きさで作った木枠をその上に乗せ、上から、細かい灰をふる。いつ作ったのか分からない細い竹ひごと木枠で作ったふるいで灰をふる。
「これは剥離剤、要は上の型と下の型がくっつかないようにする粉末があるんだけどそれの代わりね。これをまんべんなくふったらさっきと同じ作業ね。下から砂を詰めて言って木材で叩いて固くする作業。剣を入れたままね」
そう言って、鈴さんは粘土と水の入った砂を少しずつ入れてさっきの角材でトントン叩いで固めていく。今固めている砂が上の型になるようだ。俺も鈴さんの反対から砂を入れて、とんとん叩いていく。
途中で、竹の棒を3本立ててから、さっきと同じように砂を固めていく。
「この竹の棒は?」
俺は気になって聞いてみる。
「ああ、これは、1つは溶かした青銅を流し込む穴ね。残り2つは空気穴。金属が綺麗に流れ込むように流し込む穴とは別に空気穴を作るのよ」
鈴さんがそう教えてくれてから、作業に戻り、砂を入れてひたすらトントン叩く作業。
それが枠の一番上まで終わったら鋳型は出来上がりだ。
「流司、砂を崩さないように慎重に上の鋳型を外すよ」
鈴さんがそう言い、さっき刺した竹を抜くと、上の鋳型を木枠ごと持ち上げる作業をする。
俺も鈴さんの向かいに立ち、慎重に鋳型を持ち上げていき、完全に離れたところで、裏返し、剣の形がついた方を上に向けて地面に置く。
そして、下の鋳型からは変幻自在の武器を変形させた両刃の剣を取り出す。
どちらの鋳型にもいい感じで両刃の剣の形に穴が窪んでいる。
「じゃあ、次は、青銅を溶かす作業ね。これは基本この間、貝殻を焼いた時と同じ感じね。窯の一番下に大き目の木炭を敷き詰めて、ある程度敷き詰めたら、小さく砕いた木炭を平らに敷き詰めて、その上にドロップアイテム、青銅のウサギの爪を何個か入れて、その上にもう一度小さく砕いた木炭、その上に青銅の爪、この繰り返しでミルフィーユ状に窯の中に入れてね。
窯の一番上まで何層も木炭と青銅の爪を敷き詰めて準備完了。窯の一番上に燃えやすい枯草や細い薪をたき火のように組んで燃えやすい枯草に火をつける。
「あとはこのふいごで休まず空気を送って炎を900度以上にすれば青銅は溶けるの。途中、不純物を捨てて、最後に出てきた溶けた金属が青銅の溶解したものね。鉄の融点は1500度、銅の融点は1100度、銅に錫を加えた青銅はさらに融点が下がって900度以下、扱いやすくなるうえに銅より硬くなるわ」
鈴さんがそんなうんちくをしゃべりながらふいごを動かす。途中俺も交代しふいごを動かし青銅を溶かす作業をする。
ちなみに鈴さんは大学で金属加工の授業や、バイト先の刃物を作る鍛冶工房で金属を溶かしたり、鍛冶をしたりする作業を何度もやっているそうで、火の色で温度がだいたい分かるそうだ。
夕方まで火を燃やし続け、途中、溶けた金属を取り出す穴に変幻自在の武器で作った鉄の棒を差し込み、不純物を流し出す。
「さすがに耐熱煉瓦だから不純物もほとんど出ないわね。溶かしている金属も純粋な青銅だしね」
鈴さんがそう言って少し安心した顔になる。
本来、ここで、普通の石を使った窯で金属を溶かした場合や、鉄鉱石や銅鉱石を溶かして金属を作ろうとした場合、窯の石が解けて出た不純物や、鉱石に含まれる不純物がまず最初に流れ出るらしい。
「流司、鈴さんどんな感じだ?」
そう言って一角達が帰ってくる。
「順調だよ、一角。ちょうどいいタイミングで来てくれたね。鋳型を元の位置に戻して溶けた青銅を流し込める状態にするから手伝って。慎重にね。砂の型が壊れないようにゆっくり気をつけながらだよ」
鈴さんがそう言ってさっき作った鋳型の下と上を重ね合わせ、木箱のずれがないように確認する。一角もそれを手伝う。
俺はふいごを動かしながらその作業を眺める。
「流司、集中して。空気送る量が足りないと温度が足りなくなっちゃうから」
鈴さんにそう怒られる。
俺は慌ててふいごの空気を送る棒を必死に前後させる。
「一角、麗美さん、琉生、いかだはできた?」
鈴さんは作業が落ち着いたので見学に来ているいかだ組のみんなにそう聞く。
いかだ組が興味深そうに俺の作業を眺めている。
「ええ、竹を同じ長さに切って、荒縄で平らに束ねるだけだからね。竹さえあれば簡単だったわ。あとは、水をかく、櫂、オールが必要ね」
麗美さんが鈴さんの問いに答える。
「オールは重要よね。できれば水をかく平らな部分と柄の部分はつながっている、1枚の板から作ったオールがいいわね。途中でそこ、柄と平らな部分が外れちゃったりしそうだし」
鈴さんがそう言い、みんなでオールの設計を始める。
そんな雑談をしながらもう少し、火を焚き続ける。
「そろそろいいかな?」
火の様子をみながら鈴さんがそう呟き、午前中、琉生に魔法で作ってもらったらしい珪石で作った耐熱るつぼを準備する。
火鉢、ようは、るつぼをつかむハサミがないので、今回は柄杓のようにるつぼの横に珪石の長い柄を琉生に付けてもらったらしい。
一角も手伝いに混ざり、るつぼを溶けた金属が流れ出る出口にるつぼをスタンバイする役をする。
「じゃあ、いくよ」
そう言って鈴さんは変幻自在の武器を長い金属の棒にしてから窯の一番下に空いた穴の奥を何度も突く。
そして、その穴が貫通し、ドロドロと溶けた金蔵が流れ出し始める。
「よさそうね」
鈴さんはそう言って、もう少し流れが良くなるように出口を金属棒で突いてさらに金属の融解したものが流れ出す。
溶けた金属が、窯の外に作ったU字の溝のついたレンガの道を通ってるつぼに流れていく。
そして、金属の流れが少し緩くなったところで鈴さんは一角とるつぼの担当を変わり、慎重にそしてなるべく早く、鋳型の上に作った注ぎ口の穴から青銅を流し込む。
「この流し込む作業が一番重要な作業ね。丁寧にやらないと、きちんと鋳型の隅まで金属が流れ込まないし、手早くやらないと、金属が冷えて同じようにまんべんなく鋳型に金属がいきわたらない」
鈴さんが少し楽しそうに解説しながら手際よく溶けた金属を流しこんでいく。
最後に残った金属は別に用意した砂で作った簡単な鋳型、剣の鋳型とは違い、下の鋳型しかないようなのようなものに流しこんでいき、金属を使い切り、作業は終了となる。
「あとは冷めるのを待つ感じね。うまくできているといいけど」
鈴さんがそう言う。
「最後に流し込んだ鋳型は?」
おれは気になって聞く。
なんか三日月形の金属片のようなものが2つできつつある。一つは金属が足りなかったようで失敗のようだ。
「ああ、あれはシャベルの刃の部分ね。あれを木の板の先端に付けて柄をつけてシャベルにする感じ? 時代劇の時代の鋤みたいな感じね」
鈴さんがそう教えてくれる。
日もすっかり落ちたので、今日の作業は終わり、明日の朝、作業を再開することになった。
みんなで夕食を食べ、日課のお祈りをし、就寝する。
【異世界生活 40日目 7:00】
次の日、朝食を食べ、日課の剣道教室をし、青銅の剣作りの作業を再開する。
「それじゃあ、鋳型を壊すよ」
鈴さんがそう言って、みんなが注目する。
みんな気になって鍛冶工房、まだ、柱と屋根しかないが、鍛冶小屋に集まる。
鈴さんが木枠を外し、砂を掘っていくと、中から青銅製の塊が出てくる。
「うん、上手くいったみたいね」
鈴さんがそう言って手に持つのはまさにRPGで出てきそうな刀身から柄、つかまで1つの金属でできたシンプルな青銅の剣だ。
「あとは砥石で無駄な部分を削って刃を砥いで、持ち手のところに皮を巻いて滑りにくくしたら完成かな?このペースだと2日に1本作るのが精いっぱいかな?」
鈴さんがそう言って早速砥石や、拾ってきたざらざらの石で表面を削っていく。
いかだ作りのメンバーと俺は午前中、森にいかだのオールになりそうな木材を探しに行き拠点に持ち帰り、各自青銅のナイフで削ってオールの形にしていく。
琉生は午前中、畑仕事をするらしいので、オール材料集めは他のメンバーが手伝う感じだ。
レオとシロは昨日集めた木の材料、薪を木炭にする作業をしているようだ。なんか土で作った窯のようなものと悪戦苦闘していた。
真望と明日乃は引き続き麻布づくりと下着作りのようだ。
お昼ご飯を食べ、作業を継続、俺達いかだ組はいかだのオールを4本作り、日が暮れる。
オールは折れたり流されたりしたとき用に予備も何本か用意したいな。
【異世界生活 40日目 18:00】
「こんな感じでどうかな?」
鈴さんが少し興奮気味にそう言い、青銅の剣をみんなに公開する。
「おお、なんかいいんじゃないか?」
一角も少し興奮する。
なんか、子供心をくすぐるようなRPGに出てきそうな両刃剣、初心者がまず武器屋で買いそうな青銅の剣が目の前にある。
「一角、振ってみたらどうだ?」
俺はそう勧める。俺も振ってみたいしな。
俺の勧めに従って、鈴さんから青銅の剣を受け取ると、みんなの集まるたき火から少し離れて剣で素振りを始める。上下左右、斜めに袈裟切り、なんか楽しそうだ。
そしてみんなのところに戻ってくる。
「うん、悪くないな。少し重いけど、敵を叩き切るには悪くない重さだ」
一角が満足げにそう言う。
その後、俺も借りて青銅の剣を振ってみる。両手で持って振ってみて、片手でも振ってみる。
うん、確かに重いが、両手なら問題ないし、片手でも振れなくはないな。盾を持って片手剣としても使えそうだ。
まあ、鈴さん曰く、切れ味はそれほど期待できないらしいので、重さで叩き切る、半分斧みたいな使い方になるらしい。
俺も満足して、みんなの輪に戻る。
「流司、その剣ちょっと貸しなさい。私が明日、猪の皮で鞘を縫って作ってあげるわ」
真望がそう言う。
確かに裸で持ち歩くにはちょっと危険かもしれないな。
そんな感じで、鈴さん作、初めての鍛冶らしい鍛冶で作った青銅の剣が出来上がった。
次話に続く。
なんか久しぶりの更新になってしまいました。
今週は仕事が忙しすぎて、残業や家に持ち帰る仕事も多く、更新が遅れて申し訳ありません。
しかも昨日はあまりの疲れに寝落ちしてしまいましたw
年末に向けて仕事が少し忙しくなりそうなので毎日の更新は少し難しくなりそうですが、なるべく毎日更新できるように頑張りますので引き続きお読みいただければと思います。
それと、いつも誤字脱字報告、感想ありがとうございます。