第62話 鈴《すず》さんの暴走。鍛冶工房を作ろう(準備とスキップ回)
【異世界生活 33日目 14:00】
「おかえり、みんな。そして琉生。ねえ、琉生ちゃん、新しい魔法覚えたわよね? お姉さんにその内容をおしえてくれるかな? というか、鑑定で隅々まで覗いちゃおうかしら?」
俺達が拠点に帰る早々、鈴さんがそう言って琉生に詰め寄る。ちょっと目が危ない。
鈴さんは琉生が何かしら石関連の魔法を覚えると予想していたようだ。そして鈴さんが欲しがっている耐熱煉瓦、そして精錬窯に新しい魔法がつながるかもと考えていたようだ。
琉生も観念したようで、鑑定でスキル説明を読まれつつ、解説している。ちょっと可哀想になるレベルだ。
「そ、それじゃあ、お昼ご飯作るわね」
明日乃がドン引きしつつ、お昼ご飯作りに逃げる。
「そ、そうだな。俺も手伝うよ」
俺も逃げるように明日乃を手伝う。
30分ほどして昼食が出来上がる。今日は残り物の熊肉でミニ鍋と川魚を焼いたご飯だ。
「熊の干し肉はこれで最後だよ。まあ、猪肉がいっぱいあるし野菜も少しあるから当分は食料には困らなそうだけど」
明日乃がそう言って、みんなに食事を配る。
「川魚、久しぶりだな」
一角が美味しそうに干した川魚をほおばる。
「で、みんな、相談なんだけど」
昼食を食べながら鈴さんが発言する。
『キタ』
みんな心の中でそう呟きヒヤっとする。
「もう、そんなに身構えないで。さっき琉生から新しい魔法の事聞いたんだけど、多分、この魔法使えば、耐熱煉瓦に近い物が作れそうなのよね。もちろん原料がないとダメなんだけど」
鈴さんがそう言って話を始める。
「そ、そうなんだ。良かったね」
俺はなんか鈴さんから狂気のようなものを感じてどもりつつ返事をする。
「だからね、本格的に鍛冶作業を始めようと思うんだ。まずは低熱レンガを作って、青銅を溶かす溶鉱炉を作って大量に余っている青銅の武器をもう少し使える武器にしようかなって。その為に、耐熱煉瓦の材料探しと溶鉱炉や窯とかが雨ざらしにならないような鍛冶小屋を作りたいなって」
鈴さんが嬉しそうにそう話す。
「そ、そうか。で、琉生は耐熱煉瓦作れそうなのか?」
俺はそう琉生に振ってみる。
「多分、作れそうかな。私が石や土と認識したものは『石の壁』の魔法の応用で作り直すことができるみたいだし。ただ、青銅とかは金属と認識しちゃっているのか、固くて変形できないのか分からないけど魔法は効かないみたい」
琉生がそう答える。
「だったら、鈴さんがレベル21になれば金属を操れるようになるんじゃないか?」
俺は鈴さんにそう聞いてみる
「うーん、将来的にはそれもありそうだけど、多分、金の属性? 私の魔法って、周回遅れ? 難しい魔法が多いのか、他の子たちよりレベル10多く必要な気がするんだよね。だから、『金属の壁』みたいな魔法はレベル31になってから、しかも作れる量は微量って予測できるかな? 琉生の魔法も土の壁と石の壁とでは生成できる壁の大きさが違うらしいし」
鈴さんがそう答える。
「とりあえず、明日、鈴さんも真望もダンジョンに行ってレベル21まで上げてみたらどうかな?」
俺はそう提案する。
「まあ、それもいいかもね。でもそれ以降、ちょっと長くなりそうだけど、鍛冶工房づくりにみんな協力してもらっていいかな? 青銅の剣とか青銅の盾とか作ってあげるからさ。明日乃ちゃんにはお鍋? ねえ? どうかな?」
鈴さんがもう、琉生の魔法と鍛冶関連施設づくりに夢中だ。
「これから、本格的に魔物退治に行くんだし、武器の強化は必要かもね。みんなでちゃっちゃと鍛冶工房ってやつを作っちゃって武器強化して魔物の島に乗り込む感じでいいんじゃないかな?」
麗美さんが諦めるようにそう言う。
もう、鈴さんの鍛冶熱は止められそうにないしな。
「じゃあ、そういうことで、明日は鈴さんと真望のレベル上げを済ませて、それ以降は鍛冶小屋と精錬窯の材料探しを始める感じかな? とりあえず、今日の午後は小屋の材料にもなる竹集めといつもの麻糸作りかな」
俺はそうまとめる。
ツリーハウスはまあ、3棟できておちついたから4棟目はまだ先で大丈夫かな?
「私は鈴さんに麻糸作る糸車とか布を編む、はた織り機とか作って欲しいんだけど、鍛冶が落ち着くまで無理そうね」
真望がそう言ってあきれ顔で笑う。
そっちも大事だよな。麻布とかあればあるほど助かるし。
ちなみに麻布は現在木枠のようなものに縦糸を張って手作業で横糸を通す原始的な作り方で作っているのでゆっくりとしか布が作れないらしい。まあ、下着くらいなら作れるレベル?
とりあえず、食後、俺と琉生と一角、そして真望が竹林に行き竹を切る作業に行く。
珍しく真望が参加したのは、真望と琉生が泉で水浴びと洗濯をしたかったからだ。
俺と一角がノコギリと青銅の斧で竹をひたすら切り、麗美さん、琉生、鈴さん、レオとシロが2往復して竹を運ぶ。それと、竹林に作った倉庫に山積みになったダンジョンのドロップ品も拠点に運ぶ。
真望、明日乃は拠点の防衛と麻糸作りだ。
そんな感じで作業が進み、夕食を食べお祈りをして就寝し1日が終わる。
【異世界生活 34日目】
今日は午前中、ダンジョンに潜り、鈴さんと真望のレベルを21にする作業だ。
俺と明日乃と麗美さんが手伝い、一角と琉生が留守番といった感じだ。琉生は畑作業をしたかったみたいだしな。
とりあえず、5階のボス部屋以外を全て攻略して鈴さんと真望もレベル21になる。
新しい魔法だが、鈴さんの予想に反し、鈴さんには防御魔法がついた。『雷の壁』どちらかというと防御魔法というより殲滅魔法? 敵の進行を防ぐのと、壁自体動かせるらしいので、雷のカーテンで敵に局所的な雷の雨を降らせることができるようだ。あとは『金属を操る』という魔法で小さい金属を少しなら変形できる、という鈴さんらしい魔法なども追加された。あとは他のみんなと同じように『雷の矢』が『雷矢の連撃』と複数の敵用になった。
真望も似たような感じだ。『火矢の連撃』と『炎の壁』。真望の防御魔法もどちらかというと鈴さんタイプの殲滅系だ。
とりあえず、ボス部屋は明日乃が前回痛い目にあったし、鈴さんと真望をレベル21にするという目的を果たしたので今日はパスすることに。ボスが落とす皮の胸鎧じゃない全身鎧はちょっと魅力的だけどな。
いつも通り、ドロップアイテムを回収し、竹林の倉庫へ。必要な斧だけ持ち拠点に帰る。
結局、鈴さんの予想の一部は合っていて、金属がらみの魔法は難しいのか周回遅れ? 『金属を操る』も多少変形できるくらいで、金属片をまとめて大きくしたりすることはできなかった。鈴さんはがっかりしたが、反面、鍛冶へのやる気も増したようだ。
午後からは昼食を食べた後、琉生と俺と一角で腐らせた麻の茎の回収と新たに麻を腐らせる作業。
そろそろ麻の茎も処理しきれないくらい在庫が貯まり出したのでお休みしてもよさそうだが真望がもっと必要だとうるさい。もう少しだけ付き合ってやるか。
鈴さんと真望と明日乃は竹で竹かご作りをしていて、帰ってきた琉生がそれに加わる。耐熱煉瓦の原料の石を運ぶのに使うらしい。背中に背負うタイプの大きな籠だ。
俺と一角と麗美さん、レオとシロは竹林を往復して拠点にある竹の在庫を貯める。鍛冶小屋を作る為にはいくらあっても足りないみたいだしな。
麗美さんと一角が竹林に籠って、ノコギリと青銅の斧で竹を切り続け、俺と眷属2人が切った竹を運ぶ役だ。
とりあえず、運べるだけ竹を運び、鈴さん達も石拾いに行くメンバー分の竹かごを完成させて今日の作業は終了する。
夕食を食べて、日課のお祈りをして、就寝時間となる。
【異世界生活 35日目 6:00】
今日は鈴さんが欲しがっている耐熱煉瓦を作る為の材料の石を拾いに行く。
今日の留守番は真望と明日乃の二人だ。二人で麻布作りをしながら拠点の防衛をしてもらう。ツリーハウスもあるし、明日乃の結界魔法もあるので、最悪、結界を張って真望が攻撃魔法を撃ちまくればクマが出ようとオオカミが出ようと問題ないだろう。
石拾いのメンバーは、俺、鈴さん、一角、麗美さん、琉生、レオとシロだ。レオは荷物持ちとして役立つし、シロは簡単な魔法を使えるので、まあ、ライター兼懐中電灯みたいなもんだ。それに明日乃よりは力ありそうだしな。
「で、今日は何を探しに行くんだ?」
出発して早々一角がそう聞く。
「耐熱煉瓦の材料になりそうな、けい石を探しに行く感じね。要はシリカを多く含んだ白っぽい石を探す感じね。秘書子さんの話だと、西にある大きな山は昔火山だったらしくて、上の方に行けばそれっぽい石があるらしいわ。とりあえず、マップに秘書子さんがつけてくれたマークのところまで行って川沿い歩いて下って、上流から流れてきたけい石も拾ってもいいかな」
鈴さんがそう答えて楽しそうに歩き続ける。
とりあえず、西の川に沿った道を歩き西に歩いて山を登っていく感じだ。
「この山道、明日乃を連れてこないで正解だな」
一角がそう言って「ふう」と息を吐く。
途中までは平坦な道で問題なかったのだが、西に進むにつれて徐々に傾斜がつき、今が完全に山道、登山状態だ。体力のない明日乃にはキツイ道のりだな。
「ちょっと休憩するか?」
俺は一角にそう聞き、
「そうだな。無理してバテて動けなくなったらマズいしな」
一角がそう言って手ごろな岩に腰掛ける。
そしてみんなもそれぞれ座れる場所を探して腰を下ろす。
「あとどれくらいでつきそうなんだ?」
一角が俺に聞く。
「秘書子さんの話だと、山の麓まで1時間、山を登って2時間、合計3時間くらいでつくらしいぞ。いま、山を登り始めて1時間くらい歩いたからもう1時間くらいで着くかな?」
俺はマップを見ながらそう言う。
「なんか、茶葉を取りに行ったときと似てるね」
琉生が懐かしそうにそう言う。
「あれよりもう少し上まで登るからもっと大変だぞ」
俺はそう言って笑う。
「そういえば、鈴さん、耐熱煉瓦ってレンガっていうからには焼くんだろ? 耐熱って事は焼いたり溶かしたりできないってことだよね? どうやって作るの?」
俺は鈴さんに聞く。
「流司はいいところを突くね。そうなんだよね。耐熱煉瓦を焼くには耐熱の窯が必要っていう矛盾があってね。こんな文明のない無人島で耐熱煉瓦を焼くのは相当難しいと思うわ。まあ、それもあって、琉生の魔法頼み? 琉生の魔法でけい石をそのまま固め直せたら理想的なのよね。まあ、ダメだったら魔法の箱に原料を放り込んで神様に出してもらってもいいし、使い捨てののぼり窯で少しずつ焼くのも手かな?」
鈴さんがそう言う。
「ちなみにけい石レンガは焼くのに1300度前後必要だから、普通の石や粘土の窯では溶けちゃうわね。まあ、窯が壊れるの覚悟でレンガを焼き続けるっていう手も使えるかな?」
鈴さんはそう付け足す。
なんか、とりあえず、魔法頼みか神様頼みじゃないとダメなくらい難しいというのはわかった。
少し休憩して水を飲んで、探索を再開する。
きつい山道をさらに1時間歩いたところで、右手に白い崖が見える。地震か何かでできた断層だろうか? 崖が崩れて、白い石の山ができている。
「これよ、これ。これを固めて焼くとけい石レンガができるの。早速だけど琉生、魔法でレンガにしてみて」
麗美さんが白い石を拾って鑑定して嬉しそうにそう言う。
「できるか分からないよ?」
琉生が自信なさげにそう言う。
「大丈夫、魔法は多分イメージが大事よ。なるべく固くて、熱に強そうなレンガをイメージして作ってね」
鈴さんがそう琉生を励ます。
琉生が仕方なさそうに手を伸ばして魔法を唱える。
「土の精霊よ神様の力をお借りして魔法の力に。『石の壁』!!」
琉生がそう唱えると、白い石の山が光出し、琉生の手の前のあたりも光り出して石が少しずつ形成されていく。
「うーん、これは難しいよ。すごくお祈りポイント使ってる感があるよ。これは、いっぱいは作れないかな?」
琉生がそう言うと、ぼとり、と白い四角い石が落ちる。
その後、ボトリボトリと石が落ち、合計5つのレンガのような石が出来上がる。
「お祈りポイント1000ポイントでレンガ5つか。かなり厳しいな」
一角がそう言って顔をしかめる。
「全然いいよ。いい感じだよ。魔法の箱で出したら1個3000円のレンガが1000円で5個だよ。この調子でどんどん作ろ? みんなはそこに落ちている白い石をどんどん竹かごに入れていってね」
鈴さんがそう言って琉生が出したレンガを拾い、観察し始める。
琉生はそんな感じで魔法を使ってひたすら石を再構成し直してレンガにしていく。
俺達は琉生の魔法の邪魔にならなそうなところで、竹かごに白い石を拾って入れていく。
琉生がお祈りポイント30000ポイント分魔法を使い、150個のレンガを作り作業は終了。それを鈴さんの竹かごと琉生そして、俺と麗美さんのかごを空にしてレンガをかごにも入れて持ち帰る。1個500グラム以上の重さなので、1人40個でも20キロ。結構な重さだ。
一角も同じぐらいの重さのけい石を竹かごに入れて担ぐ。レオは15キロくらい、シロはお昼ご飯や非常食用に持ってきた食料や水の入った籠を背負う。
【異世界生活 35日目 10:30~13:00】
「山道は下りの方が足に負担が多いし、怪我しやすいから。ゆっくり気を付けて帰ろう」
俺はそう言って歩き出す。
そして、山道を下って2時間、途中休憩を入れつつ、下山、麓のひらけたところでお昼を過ぎたので昼食にする。たき火をし、俺と琉生で持ってきた食材で簡単なイノシシ肉のスープを作る。
「鈴さん、これで、鍛冶工房できそう?」
俺は昼食を食べながらそう聞く。
「うーん、精錬窯をつくるならレンガ200個は必要だから、後レンガが50個足りないね。それと、燻製窯とピザ窯も作りたいからさらに200個ずつ欲しいかな」
鈴さんがしれっと言う。
「マジ? 150個作るのに30000ポイント必要だったのにさらに50個ってことは5000ポイント必要ってことか?」
俺は驚いてそう聞き返す。
「そうね。お祈りポイントが回復するまで、鍛冶工房用の小屋を作って待つ感じかな」
鈴さんがそう言って笑う。
「マジか」
俺はがっくりうなだれる。
「しかもこの作業をあと2階かな? 燻製窯とかピザ窯とかできたら色々調理方法も増えるから明日乃ちゃん、喜ぶわよ?」
鈴さんがそう言って笑う。
「まあ、燻製窯とピザ窯はお祈りポイントが余りだしたらでいいよ。とりあえず、鍛冶に使う窯を作って、青銅の剣と青銅の盾を作ってもらって魔物退治を始めよう」
俺はそう言い、他のメンバーも頷く。
鈴さんの耐熱煉瓦への愛情に付き合っていたら時間がいくらあっても足りないしな。
「がさっ」
そんな雑談をしていると、少し離れた雑木林から嫌な気配がする。
「食事の臭いにつられて、お客さんが来ちゃったみたいだぞ」
一角がそう言って槍を手に持って立ち上がる。
俺も立ち上がり、音の方を振り向くと、クマがのそのそと歩いてくる。
「クマだな」
「ああ、クマだな」
「というか、大きくない?」
俺と一角、そして麗美さんが声をそろえてそう言う。
いつもの二回りくらい、いや、倍以上あるデカいクマが雑木林の藪から出てくる。
俺は急いで鑑定する。
なまえ グレーターベア(メス)
レベル 25
クマでも強い方。大型のクマ。
力がとても強く、足も速い。
固い毛皮に覆われ防御力は高く並みの武器では刃も通らない。
意外と手先が器用で木を登ることもできる。
「グレーターベア!? いつものクマより強いぞ。レベル25の格上だ」
俺はみんなにそう伝える。
「どうするの?」
麗美さんがそう聞く。
「鈴さん、『雷の壁』の魔法を使えるように準備して。あと、全員補助魔法の準備を。『雷の壁』で逃げてくれるならこちらも撤退するし、襲ってくるようなら補助魔法と俺の弱体化魔法で弱めて倒す」
鈴さんをメインにみんなにも指示を出す。
「琉生は後方で待機、レオとシロを守ってやってくれ」
俺はそう追加する。
「体長2メートル、200キロってところか? まあ、レベル30じゃなくてよかったな」
一角が冗談でそんなことを言う。
いつもの黒いクマではなく茶色いクマ。もとの世界で言うヒグマみたいなものか? 多分、ヒグマにしたら小さい部類かもしれないが、俺達と比べたら十分デカい。
「私も補助魔法『疾風』を使いたいな。2重補助魔法できっとすごく速くなるぞ」
一角が魔法を使いたそうにそう言う。
「『疾風』は初級魔法だったよな? 初級魔法ならお祈りポイント少しでいいし、今日は、広い戦場だし、一角の魔法と相性よさそうだしまあいいか。そのかわり、一角がクマを責任もって倒せよ」
俺は少し考えてそう言う。
そして、変幻自在の槍を一角に投げ渡し、一角が木の槍を俺に投げ返し、
「了解だ」
一角が嬉しそうにそう言う。
こいつは結構戦闘狂なのか?
俺はそう思いつつ、自分自身も腹の底から血がたぎるような、脳が沸騰するような、少しワクワクするような気持ちがあることに困惑する。ケモミミの効果なのだろうか?
俺も一角に返すように笑う。
「来るわよ」
麗美さんがそう叫ぶ。
巨大クマが俺達に向かって突進してくる。
「聖霊よ神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『雷の壁』!」
鈴さんが魔法詠唱し、俺達と巨大クマの間に雷の雨で作ったような壁というより檻ができる。
「バリバリバリ」
雷が落ちるような大きな音がして巨大クマの体が焼ける。
「グアァ」
クマが苦悶の声で唸る。
この隙に俺、一角、麗美さんが補助魔法を掛け、さらに一角が補助魔法を2重でかける。俺は、巨大クマに対し弱体化魔法、『横取り』を掛ける。クマのステータスが少しさがり、俺のステータスが少し上がる。
『雷の壁』の魔法が魔力を全て解放したのか雷の檻が消える。
「行くぞ」
「ああ」
一角がそう言い、俺が答える。
一角の全速力の突撃。早い! これが一角の補助魔法の全力の力か。
ダンジョンでは狭すぎて力を十分に発揮できていなかったようで、広い外の戦場では十二分に力を発揮するようだ。
直線的な速度増加だが、けた違いに早い。
一角の持つ変幻自在の武器が薙刀のようなものに姿を変え、四つん這いのクマとすれ違いざま、クマの右肩から右後ろ脚まで大きく毛皮を裂く。
クマが一角の速さについていけてない。
俺も、補助魔法の力を活かし、高速で移動、クマの左首に青銅の穂先を深く突き刺しサイドステップとバックステップを組み合わせ、槍を引き抜きながらクマと距離をとる。
麗美さんは熊の正面に立ち、鈴さんと琉生を守る体勢だ。
クマが俺をターゲットにしたようだ。反時計回りに回ると俺と対峙する。
俺は全神経を集中させて、次の攻撃を躱すイメージを練りながら、クマとにらみ合う。
「私を無視しすぎじゃないか?」
一角がそう叫んでクマを後ろから切りつけ、右後ろ足が膝をつく。
そのまま脇腹を縦に一閃、黒い血と臓物の内容物が傷口からあふれる。内臓までいったな。
クマが一角に対し振り向いたところで、俺も、もう一度クマの首に一突き。そしてもう一突き。
クマが痛みと苦し紛れに右腕で俺を払うが、バックステップで紙一重で避ける。
ダンジョンのウサギ型ウッドゴーレムと違い、素早さが足りない。1発さえ食らわなければ何とか対処できる敵だ。
そして俺の弱体化魔法と鈴さんの雷魔法による麻痺とダメージがかなり残っているのだろう。クマの動きは良くない。
「凄い体力だな」
一角が呆れるようにそう言う。
確かに首に致命傷、横腹の傷は内臓まで達し、右後ろ足は動かない。もう倒れてもいい傷だが、まだ動きは止まらない。
クマが後ずさりしながら、交互に俺と一角をにらみ後退していく。
「流司、逃がすなよ」
「あたりまえだ。貴重な食糧、逃すかよ」
一角の言葉に俺が答え、武器を構え直す。
俺はクマに槍を振ると、クマが右腕で応戦する。
その隙を突いて一角がクマの左首に全力の縦の一閃。
ドボドボと鮮血がクマの首からあふれる。これは、やったな。
クマが諦めるように前腕を折り、地面に倒れる。
一角がとどめとばかりにクマの右脇、肋骨の間を縫うように、右肺を貫き、心臓まで、薙刀のような武器を突き刺し、引き抜くと、その傷からも鮮血をまき散らし、クマが絶命する。
「一角ちゃん、凄かったわね。広いところで戦ったら一角ちゃんが最強かもしれないわね」
麗美さんがそう言って一角を絶賛する。
「ダンジョンじゃ弱いけどな。あと、走り抜けた後、帰ってくるの遅いし」
俺は一角を冷やかすようにそう言う。
直線的なスピードに振り回されているようで、一度走り抜けると、止まって一から加速し直すか。ぐるっと回って帰ってこないと戻ってこられないのは欠点だな。
「鈴さんの雷魔法もいい感じだったね。クマの動きが悪くなって戦いやすかった」
俺はそう言って鈴さんの魔法も褒める。雷魔法の麻痺効果は結構使えそうだ。
「というか、流司お兄ちゃん、お祈りポイント大赤字だよ?」
琉生がそう言って仕方なさそうな顔をする。
ステ―タスウインドウのお祈りポイントの表示をみると『500』と表示されていた。今朝の時点で『34600』と表示されていたのにこの数字。レンガといい今の戦闘といい、今日はお祈りポイントを使いすぎた。
「もう一度襲われたらヤバイな。一応、今日のお祈りを先にしておくか」
俺はそう言って、今いるメンバーにお祈りを勧め、お祈りポイントを少し回復させておく。
「さあ、このおっきいクマ解体しちゃお?」
琉生はそう言って、一角から変幻自在の武器を借りると、ナイフに変化させて手際よく、クマを解体していく。
俺も青銅のナイフを取り出し、クマの解体を手伝う。
「もう、一角さん、内臓ぐちゃぐちゃだよ。お腹のまわりは捨てないとダメだね。シロちゃんとレオ君は川で土器に水を汲んできて。あー、毛皮も傷だらけだよ」
琉生が愚痴をいいつつ、そう言っててきぱきと指示をする。
今日は敵が強すぎて余裕がなかったからな。内臓を避けて戦うような戦いも無理だった。
そうは言っても、いつもの熊の倍以上の大きさで肉も毛皮も結構な量とることができた。
けい石と耐熱煉瓦と荷物が沢山ある状態でさらに50キロ近いクマ肉。と毛皮。一人30キロ近い荷物を持っての移動となってしまった。
【異世界生活 35日目 16:00】
「ただいま。ふう、すごく疲れた。このまま、横になって寝たいくらいだ」
俺は拠点に着き、重い荷物を下ろして、地面に大の字で寝転ぶ。
「おかえり、りゅう君、凄い荷物だね」
明日乃がそう言って迎えてくれる。
「ああ、途中ですごい大きなクマに襲われてね。石も重かったけど、肉もかなり重かった」
俺は寝転がったまま、首だけ明日乃に向けてそう答える。
「少し休んだら、お肉を干し肉にしないとね」
琉生もたき火のそばにひいてある座布団代わりの枯草にうつぶせに転がってそう言う。
みんな満身創痍って感じでぐったりしている。
「クマ? クマが獲れたの? 脂身、クマの脂身もあるよね?」
真望がそう言ってクマ肉に飛びつく。
平常運転だな、こいつは。熊の油の石鹸にしか興味がない。
「ああ、クマの油と石鹸も作らないとな」
俺はそう言って、さらにぐったりする。
やることがいっぱいだ。魔物狩りもしないといけないのにな。
山積みの課題に俺は身心ともに疲れ果てるのだった。
次話に続く。
昨夜も寝落ちしましたw
今週、来週と仕事が忙しいので更新が少し滞るかもしれませんがなるべく毎日更新するように心がけます。
ご迷惑おかけします。




