第61話 ダンジョンの攻略と次の課題
【異世界生活 33日目 5:00】
「おはよう、シロ。今日も偉いな」
俺は夜の見張りをしてくれていたシロの頭をぐりぐり撫でる。
他のメンバーも起きていて、みんなと挨拶をする。
そしていつもの日常。明日乃と琉生の作ってくれた朝食を食べる。
「じゃーん、みんなみて。ダンジョンのドロップ品のウサギの毛皮を縫い合わせて、毛布を作ったの。敷くのと掛けるのを2枚作ったから使ってね。ツリーハウスが完成した記念よ」
真望がそう言って、みんなにウサギの毛皮をパッチワークして作った毛布を配る。
「流司、そのうち替えも用意するから、こまめに洗いなさいよ」
真望が追加で余計な事を言う。
「枯草の上に敷いてお布団にしてもいいし、ウサギの毛皮は山ほど余っているから、毛皮を山積みにしてその上に毛布をひいてベッドにするのもいいかもね」
明日乃がそう言って嬉しそうに毛布の肌触りを楽しむ。
今までは枯草の上に服を着て寝ていた感じだしな。常夏な感じでそれほど寒くはないが、ちょっと、毎朝、体が冷えた感じはあったからありがたい。
とりあえず、みんな、倉庫や以前の家に大量に保管されていたハンカチ大のウサギの毛皮を自分のツリーハウスに持ち込んでベッド作りを始める。俺も横になってみたが、枯草とは段違いの寝心地と柔らかさだ。ちくちくした感じもないしな。
そんな感じで住居の部分はだいぶ改善されてきた。
「そういえば、今日はダンジョンが攻略できそうなんだ。だから、今日は午前中からダンジョンに潜ろうと思うんだけどいいかな?」
俺はみんながたき火に集まり直したところでそう提案する。
「いいけど、帰ってきたら、竹集めお願いね。明日のツリーハウス作りができなくなるから」
鈴さんがそう言う。
「ツリーハウスまだ作るの?」
俺は4棟作るとは聞いていたが一応聞いてみる。
「ええ、これから眷属が増えるんでしょ? 眷属が増えたら、眷属だけ地上の家っていうのはかわいそうだし、みんなの家に分けて過ごすにしても限界があるでしょ?」
鈴さんがそう言う。
確かにレオは一角と一緒に寝ているらしいし、シロは俺と明日乃のツリーハウスや麗美さんと鈴さんの家に泊まったりとかして自然に過ごせてはいるが、眷属が7体に増えたらちょっと狭いもんな。
「あと、ここみたいなたまり場を木の上に作るつもりよ。あ、でも、これ以降はツリーハウスも急ぎじゃないし、燻製窯とか作りたいかも?」
鈴さんはそう付け加える。
そんな雑談をしながら、ダンジョンに午前中潜ることを了承され、日課の麗美さんの剣道教室をやった後、ダンジョン攻略を目指すことになった。
【異世界生活 33日目 7:00】
今日のダンジョン攻略のメンバーはいつもの、俺、明日乃、一角、麗美さんに、畑作りが一段落した琉生が加わる。
琉生はレベル16なのでまずは琉生の育成からだな。
とりあえず、1階から4階の途中まで琉生の育成をし、レベル20に。
その後俺の育成に変わりレベル21に。そこから明日乃の育成を始め、4階のボス部屋からは補助魔法の2重掛けをうまく使いながら、5階も進み、ボス部屋に着くころには全員レベル21になり、麗美さんをレベル22にする流れになっていた。
【異世界生活 33日目 12:00】
とりあえず、5階のボスの部屋前まで到着し、一度休憩する。
そして、それぞれのステータスを確認したり魔法の確認をしたりする。
ちなみに、期待していた明日乃の中級魔法は、補助魔法『大いなる祝福』全員のステータスを上げる魔法、『中回復』は『回復』の強化版、あと、『対魔法結界』という、結界魔法の魔法限定版みたいなのが追加されたらしい。初級魔法には光魔法『眩しい光』が追加された。明かりの魔法の強化版、周りを明るくする魔法で、一瞬に魔力を集中させると目つぶしにも使えるらしい。
俺と琉生の魔法は、基本麗美さんと一緒だな。単体魔法が複数魔法になった感じと防御魔法が追加された感じだ。
あと、俺の場合、『横取り』の強化版、『強奪』という複数の敵のステータスを下げて、自分のステータスを大きく上げる魔法が追加された。あと、『盲目』という複数の敵を闇につつむ魔法も増えた。
まあ、どれもお祈りポイント1000ポイント使うので使う場所は選びそうだ。
ただし、明日乃の『大いなる祝福』だけは即使えそうだな。全員に補助魔法がかかって500ポイントもお得という便利魔法だ。というか、明日乃の魔法が優秀過ぎる。
「明日乃、『大いなる祝福』と『対魔法結界』と『中回復』は全部覚えといて。なんかあった時にすぐに使いたいからな」
俺は明日乃にそう声をかけて魔法を習得させる。
「私の魔法は?」
一角が魔法を使いたそうに俺に色目を使うが、
「お前の魔法はまだいい。覚えると使いたがりそうだしな」
俺は即却下する。
「琉生の石の壁を作る魔法も使えそうだよな。出した壁って消えるのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「うーん、出すときに意識しなければ、10分で消えるし、消えないように意識すれば普通の土や石として残るみたいだね。防御力とかは下がるっぽいけど。あと、土の壁を作るより硬い石の壁を作る方が大きさは小さいみたい」
琉生がそう言う。
「将来家づくりとかにも使えそうだな」
俺はそう言って笑う。
「お前、鈴さんの前でそれ言うなよ。ツリーハウスできたばっかりだしな」
一角がジト目で俺をにらむ。言われればそうだな。今までの鈴さんの苦労を水の泡にするような発言だ。
「まあ、石の家を魔法で作ったら、お祈りポイントかかり過ぎて破産しちゃうよ? あと、逆に鈴さんに教えたら逆に喜ぶんじゃないかな? 麗美さんが大好きな窯とかレンガっぽい物も作れちゃいそうだし」
琉生がそう言ってあきれ顔になる。
「それは別の意味で鈴さんに教えたら危険かもしれないな」
俺は鈴さんに酷使される琉生の姿しか思いつかなかった。
「ちなみに、一角に魔法使うなといった矢先にすまないが、俺の魔法、試してみてもいいか?」
俺はボス部屋の前でそう話す。
「ダメだ」
一角が却下する。
「ちなみになんで?」
麗美さんがそう聞く。
「いや、俺の新しい魔法、『強奪』って敵全部のステータスが下がって、俺のステータスが爆上がりするみたいだからボス戦にはもってこいかなって。みんなも楽になるし」
俺は麗美さんにそう説明する。
「そうね。流司クンの『強奪』と明日乃ちゃんの『大いなる祝福』を掛けたら、敵にとったら結構キツイコンビネーション魔法よね。自分たちのステータスが下がって、敵全員のステータスは上がる、しかも一人は爆上がりみたいな? 結構なチート魔法よ」
麗美さんが敵に同情するようなまなざしでそう言う。
「まあ、そこそこ下げるくらいだから格上の敵には焼け石に水だろうけどね。あとお祈りポイント1000ポイントだし」
俺は過信し過ぎないようにそう言う。
とりあえず、明日乃の中級魔法3つ覚えて、俺の中級魔法1つ覚えて、2つの魔法を使ったら6000ポイント。1日のお祈りポイントが飛ぶという。
とりあえず、一角も渋々承諾、他のメンバーも了承しその作戦で行くことにする。
それプラス、各自補助魔法で補助魔法の2重掛けでボス部屋に挑む感じだ。
「じゃあ、それで行くよ」
俺はそう言い、雑談を止めるとボス部屋の扉を開ける。
それと同時に明日乃が全体補助魔法『大いなる祝福』を唱え、各自自分の補助魔法を掛け、2重補助魔法状態にする。
そして部屋に入り、俺は敵全体デバフ魔法『強奪』を唱え、ボスに向かって走り出す。
ん? いつもならボスも俺達に合わせて飛び出してくるのに飛び出してこない?
俺は一度足を止めて、みんなも横に並び足を止める。
そして、敵の五体のウッドゴーレムが光り出す。
「敵もそれぞれが補助魔法を使うようです。多分AGI上昇かと」
秘書子さんが俺にアドバイスしてくれる。
「敵も補助魔法を使ったらしい。多分素早さが上がるぞ。気を付けて」
俺はそう皆に叫び槍を構え直す。
そして飛び掛かってくる2足歩行のウサギの形をしたウッドゴーレム達。
「速いな。だが、対応できない速度ではない」
一角がそう言って、ウッドゴーレムと武器を交える。
みんなもお互いの敵と対峙するが何とか対応できているようだ。
「流司クンのレベル21にしておいてよかったわね」
麗美さんが少し余裕の表情でそう言う。
確かに昨日の段階でボス部屋に挑んでいたら、俺の敵全体デバフ魔法『強奪』がなかったし、敵はもっと素早い状態で、一角や明日乃あたりは2重補助魔法状態でもボコボコにされていたかもしれない。
「というか、明日乃お姉ちゃん、やられてるよ」
琉生がそう言うので慌てて明日乃を見ると、敵に押され気味でどんどんHPを削られている。
「みんな、私は回復魔法があるから大丈夫。戦闘に集中して」
そう言って敵から逃げるようにどんどん後退していく明日乃。
俺は慌てて、対峙するボスウッドゴーレムと向き合い、
「お前と遊んでいる暇はないな」
俺はそう言い、ボスウッドゴーレムの攻撃をはじき、そのまま、腕を跳ね飛ばし、もう片方の手での攻撃もかわし、両腕を跳ね飛ばしそのまま、槍で脳天を叩き割り、ウッドゴーレムの急所、額にある核を叩き割る。
俺は現在、敵5体から奪ったステータスが上乗せされている。明日乃の補助魔法を含め、3倍近いステータスだ。
1対1なら敵なしの状態で、俺は全速力で明日乃の元に向かい、そのまま、明日乃を攻撃している敵を後ろから横薙ぎ、首を跳ね飛ばす。
「あ、ありがとう。りゅう君」
明日乃がそう言って笑う。安心して座りこんだ明日乃の鎧や服がボロボロになっている。
「怪我はなさそうだな。『回復魔法』掛けられるか?」
俺はそう言って明日乃の全身に怪我がないか確認する。
切られた服の間から見える肌には傷一つなさそうだ。
「うん、大丈夫。それと、りゅう君、あんまり見られると恥ずかしいよ」
明日乃がそう言って身をよじりお腹のあたりや腕、服が破れたところを隠す。
「ごめん」
俺は慌てて、背中を向け、明日乃は『回復魔法』を唱える。
「おい、そこ、俺たちが苦労していたのに二人でイチャイチャするなよ」
一角がそう言って、俺達に寄ってくる。
明日乃が恥ずかしそうに立ち上がり、転がる首にとどめを刺して無事に戦闘は終わる。
「流司クン。なんか良さそうなの落ちているわよ」
麗美さんがそう言うので、ボスを倒したあたりに戻ってみると少し大きめの皮鎧が落ちている。
「胸鎧ではなくて全身鎧みたいだな」
一角がそう言う。
確かにお腹のあたりまで守られたしっかりした皮鎧だ。しかもよくなめされていて柔らかく動きやすそうな鎧だった。
俺はそれを拾い、みんなもドロップアイテムを回収、そしていつもの木箱はいつもの粗悪な青銅の斧だった。そこは変わらないのか。
「とりあえず、次の部屋、いってみよ? 変幻自在の武器に変化あるかもしれないし」
明日乃がそう言うので、俺達はボス部屋を抜けて次の部屋に行く。
そこにはぽつんと小さな石の台座があり、そこには何ものっていない。
『光の精霊の迷宮を攻略した者への褒美として光の精霊の加護を宿した武器を与える』
石の台座にはそんな文言の書いてあるプレートが張ってあった。
そして、手に持っていた変幻自在の武器が光出し、白と黒のマーブル模様の白い部分が輝き、少し光って見えるようになった。
「光の剣の所有権は手に入れられた感じみたいだね」
明日乃がそう言い笑う。
確かに剣から力を感じる気がする。
「流司が面倒くさいことをしたから、あと、闇の精霊の迷宮だっけ? そっちも攻略しないといけないんだよな?」
一角が面倒臭そうにそう言う。
そして、どちらかというとシロの件は明日乃も共犯だ。
「そうだね。レオやシロちゃんが消えちゃう前に全部の迷宮を攻略しないとね」
明日乃がそう言う。
「私は早く自分の変幻自在の武器。というより農具が欲しいから頑張るよ」
琉生は現金な事を言って笑う。
そして、部屋が突然明るい光に包まれる。
「よお、久しぶりだな。思った以上に早くダンジョン攻略できたな。おめでとう」
そう言って、いつもの、うさん臭いおっさん、神様が半透明の姿で現れる。
「あと、いつも、お祈りありがとうな。だいぶ力に余裕も出てきた」
神様がうれしそうに笑いそうお礼を言う。
「だったら、神様が余った力を使って魔物を倒しちゃってくださいよ」
俺は神様に当たり前といえば当たり前の希望を言う。
神様が少し驚いた顔をしつつ、しらけたような顔になり、
「いやいや、俺はな、お前たちに自分の身を守れる力を身に着けて欲しい。って部分もあるんだよ。レベルが上がると色々楽になったし、魔法も便利だろ?」
神様が弁明するようにしどろもどろになりつつもそう答える。
まあ、言われてみると、魔物退治が控えているから俺達はここまでレベルアップに専念できたし、実際レベルが上がると強くなれたし、魔法も覚えるとどんどん戦闘が楽にはなってきている。
「神はお前たちに自立の力を養って欲しい。っていうのは建前で、本音はお前たちのレベルが上がるとお祈りの質が上がるんだよ。レベル31になってくれればお祈りの質が向上するし、レベル50になればもっと質が上がる。まあ、ぶっちゃけ、俺の為でもあるわけよ。俺が魔物倒しちゃったら、お前ら、レベル上げないだろ? お前らも自立出来て、俺も質のいい信仰心というエネルギーがもらえる。そしてその力でお前たちにもっといい生活を与えられる。な、魔物をお前たちが倒すといい事ばかりだろ?」
胡散臭いおっさんが胡散臭い話を堂々とする。
まあ、堂々本音を言ってくるせいか、嘘の気配を感じない分、気が楽といえば気が楽だが。
「なんか、都合のいい話ばっかりだな」
信仰心が低い一角がそう言う。
「そうだ、お互い都合がいい話だろ? 俺は嘘とか嫌いだし、お前たちに伝えたい事や俺の気持ちはまっすぐ伝えようと思っている。とにかく俺は信仰心という力を貯めて、世界を大きくして、嫁さん、別の世界で女神をやっている嫁さんをこの世界に迎え入れたいんだよ。その為にお前たちに協力して欲しいし、俺はお前たちの為にできるだけ協力する。これがこの世界の真理ってことでダメか?」
神様がフレンドリーな口調でそう言う。
「まあ、いいんじゃないでしょうか。胡散臭いけど嘘は言っていなそうだし、それに元の世界にはもう一人の自分がいて戻れないんだし」
俺は代表してそう言う。
みんなを見渡すと、みんなも仕方なさそうな顔をする。
「たとえば、今、神様のお嫁さんをお迎えすることとかはできないんですか?」
明日乃がそう聞く。
「ああ、今、嫁さんを呼ぶと世界が壊れる。俺と嫁さんの神格、要は重さみたいなものに世界が耐えきれずに壊れるんだよ。そのバランスをとる為に、世界をもっと大きくしなくちゃいけない。前にも言ったが、夫婦二人で末永く暮らせるマイホームづくりってところだ。まあ、あと、向こうの都合もあるからな」
神様が恥ずかしげもなく夫婦の仲の惚気話を始める。
「まあ、その為にお前たちの信仰心という願いのエネルギー、そして子孫を増やしてもらって、信仰心を捧げてくれる信徒を増やしたいんだよ」
神様がそう言って笑う。
「で、その為に、平和な世界作りのために魔物を倒して、ついでにレベルも上げようってことね」
麗美さんがそう言う。
「そういうことだ。ちなみに次の目標はこの島の真南にある島の魔物退治とダンジョン攻略だ。そこの魔物が一番弱いからな。とりあえず、安全にダンジョンにたどり着けるようにしないとダンジョン攻略どころじゃないだろ? だから、今みたいな感じで、たまに南にある島に渡って魔物の数を減らして、帰ってくる。みたいな感じで魔物を減らしてからダンジョンを攻略する。そうすれば、魔物達に、この島の結界に攻撃する余裕もなくなるから、平和が維持できると」
神様がしれっと次の目標を提示する。
「ちなみに、光の眷属、シロの件ですが、神様がわざとやったんじゃないですよね?」
俺は気になる事を聞いてみる。
「ああ、あれは闇の精霊がかってにやったことだ。というか、そもそも、お前が秘書子さんの話聞かないでおかしなことするからこうなったんだぞ。お前が光の剣で闇の眷属のレオではなくて、アスノが光の眷属、シロを召喚すれば何も問題がなかったんだよ」
神様がそう言って俺のせいにする。
そして嘘を言っている感じはないな。偶然が偶然を呼んだという感じかな?
「まあ、そうなってしまったものは仕方ない。レオとシロが消えないうちに全部のダンジョンを攻略すればいい。そうすれば俺も早く力が貯められそうだし、早くこの世界が平和になりそうだしな。がんばれよ、みんな。この後の事は秘書子さんに聞けばわかる。力の無駄遣いになりそうだから、俺はそろそろ帰るぞ。またな」
神様がそう言って手を振ると振り返りながら消えていく。
「いつもながら勝手なおっさんだな」
俺は、はあ、っと大きなため息をつきそう言う。
「そうだな」
一角もぐったりする。
「とりあえず、帰りましょ? 魔物退治の話は明日以降でいいし、ゆっくりやればいいと思うわ」
麗美さんがそう言って、みんなも帰る準備をする。
今日のお祈りポイントは17700の消費。大赤字だ。まあ、中級魔法という新しい魔法を4つ覚えたから仕方ないと言えば仕方ないが。
いつも通り、ダンジョンのドロップ品を竹林の倉庫に移し、持てる物だけ持って拠点に帰る。
ウサギの毛皮というドロップ品は布団のワタ代わりに使うとよさそうという事が分かったので今日はみんな結構しっかり拾っていたのは余談だが。
次話に続く。




