第5話 とりあえず魔法抜きで家を作ろう
「とりあえず、魔法は大事な時にしか使えないみたいだし、魔法抜きで衣食住を整えないとな」
俺は現状を把握して、そう呟く。
「そだね。経験値を減らしてでも効果的な結果が得られる場合は魔法を使ってもいいと思うけど、基本は元の世界のサバイバル術がベースかな?」
明日乃も同意する。
経験値と魔法の原動力が同じ『マナ』ってどんなクソゲーだよ。俺は胡散臭い神様の顔を思い出し大きくため息を吐く。
とりあえず、明日乃も目を覚ましたし、状況確認した感じ、魔法を使うのはリスクがある事がわかった。焚き火の火をつけるくらいで気絶するし、魔法を多用するとレベルが上がらない。何より、魔物や動物が、何処に、どんなものが、どれだけの数いるかわからないのだから、慎重に行動するしかない。まあ、神様の話では、この島は結界が張ってあって、当分は安全と言っていたが。
「明日乃は体調がまだ万全ではないだろうから、座って俺に指示してくれ。とりあえず、雨風をしのげる家作りだな。どうする?」
俺は明日乃を休ませながら指示を仰ぐ。明日乃のサバイバル本の知識はかなりのものだしな。
「うーん、洞窟とかあれば洞窟? 雨風避けられるし、何より簡単。ただ、崖の壁面とか落下物に注意が必要だし、崩落したら生き埋めだし、海や川が近いと浸水したりする危険もあるんだよね。あと、そう都合よく、洞窟自体がない?」
明日乃が第一候補を却下する。
確かに生き埋めは嫌だし、そもそも、この辺りは平地と森しか見当たらず、洞窟を探すとなると気合い入れて探索しなければならなそうだ。
「まあ、森が近くにあって木材や屋根にする葉っぱもいっぱいあるから、とりあえず落ちている倒木や枝を組んで葉っぱで屋根を作る簡易テントみたいなものでいいんじゃない? 場所はこの辺で良いと思うよ。水辺や海岸沿いは洪水や津波の危険性があるし、崖とかは落下物の危険性がある。あと、実のなる木の下は落下物があるから避けた方がいいかな?」
明日乃が一通り注意事項を上げてくれる。
「確かに寝ている間に溺れたくはないし、寝ている間にヤシの実が当たって死亡とか洒落にならないしな」
俺がそう言うと明日乃も笑う。
「とりあえず、明日乃が気絶している間に使えそうな枝や葉っぱやつたを集めておいたけど使えそうか?」
そう言ってさっき集めたものを見せる。
「即席のテントみたいなものならいけそうだね。Aフレームシェルターってやつかな?」
明日乃が集めた資材を見てそう言う。
聞きなれない言葉が入っていたが、明日乃が言う通りに作れば大丈夫だろう。
そこから、明日乃の指示のもと、テントの様な家を作る。
まずは太めの枝を二本、まさにAの字に組んでつるで縛る。
そして同じく太めの、さらに長い枝をAの形に組んだ枝の頂点に組んで更につるで縛る。
これで三角錐の骨組みができる。
「地面に杭が撃ち込めるようなら骨組みと地面の設置部分に杭を打ってそれに固定すれば風で飛ばされたり自重でつぶれたりしちゃう可能性は減るかも?」
明日乃が骨組みを見てそう言う。
俺は言われた通り、少し太い枝を杭代わりに地面に刺し、石で打ち付ける。下が土だったので場所さえ選べば何とか木が打ち込めるようで、3か所に杭を打ち込み骨組みも少し地面に押し込んでから杭にそれぞれつるで固定した。
「やっぱり、つるよりひもが欲しいな。つるは固いし、物によっては結んでいる途中で折れるし」
俺は、つるの使いづらさにそう言う。
「そうだね、時間があるときに藁みたいな雑草をねじって荒縄みたいなものを作った方がいいかもね。あと、もっと簡単なものでいいなら、繊維が長めの枝の皮? 木の皮を細くはいで、二本を綯うと紐ができるわね。まあ、木の皮の場合、長い物が作りにくいから、短い物を何本も結んでつなげることになるけど」
と明日乃が言う。
「なるほど。木の皮はいいかもしれないな」
俺はそんな話をしながら家づくりを続ける。
そして、三角錐の骨組みができたら、一番長い骨組みに斜めに枝を立てかけていき、三角錐の面を作る。面を2面作ったら、雨が防げるように葉っぱを載せていく。
「バナナやヤシの木の大きな葉っぱがたくさんあるから、こういう時に楽だな。まあ、ヤシの木の葉っぱは何枚か重ねないと雨漏りしそうだが」
俺は大きな葉っぱを載せていき、葉っぱを上手く重ねて、屋根が雨漏りしないようにする。あと、風で飛ばされないように、枝同士をつるで縛ったり、枝に葉っぱを縛ったりして強度を上げていく。
「大きな葉っぱは便利だね。今のところ洋服代わりにもなってるし」
明日乃もヤシの木やバナナの葉っぱを絶賛する。
「まあ、ヤシの葉は日本にいた時の絵本とかのイメージで大きい1枚の葉っぱかと思ってたけど、実物見ると細い葉っぱの集まりなんだな」
俺はヤシの葉を手に取りそう呟く。細い茎に笹の葉みたいな葉っぱが左右に並んで沢山ついているような構造だった。
「そうなんだよね。細い葉っぱ同士を編んで籠とかにもできるらしいよ」
明日乃が父親のサバイバル知識らしきものを教えてくれる。
屋根ができあがったら最後は、残った一面に枝や葉っぱをうまく使って入口と扉代わりの葉っぱをつける。
入口を小さくして塞げるものを作るだけで、風の吹き込みも防げるし、安全性も、プライバシーの保護も格段に上がるそうだ。
「明日乃の家も作るぞ。さすがに男女が一つの家に、って訳にはいかないし、これから仲間が増える。みたいなことを神様も言っていたし」
俺はそう言って同じようなものをもう一つ作る為に足りない材料を補充に行く。
「そうだね、親しき仲にも礼儀あり? あんまりベタベタし過ぎもダメだよね」
明日乃がそう言う。少し残念そうな顔をしつつ。
なんだかんだ言っても長く暮らすならプライベートスぺースは大事だもんな。
俺は同じような材料を集めて同じ手順でもう一つ家を作る。
そして、家ができたら、中に乾いた雑草を藁代わりにひいてベッドやクッション代わりにする。
「とりあえず、こんな感じでいいか?」
俺は、明日乃に確認してもらう。
「すごい、完璧だよ。りゅう君。これで雨風はしのげそうだね。でも、将来的に、人が増えたら、ツリーハウスみたいな木の上に家ができたらいいかな? 害虫対策とか、猛獣対策になるから」
明日乃がそう言う。
「そうだな。神様も、動物がいるとか言っていたから熊とかオオカミとかいたらこんな家じゃ寝られないもんな」
俺も将来的には木の上の方が安全な気がする。
「まあ、熊は木も登れるけどね」
明日乃が怖いことを言う。
「とりあえずは、明日以降、柵を立てたり、とか掘りとかを掘ったりした方がいいかもな。いきなりツリーハウスは無理だろうし、本格的に家を作り始めるなら、道具、せめてナイフみたいに鋭い石とか欲しいよな」
俺は家づくりですっかり日が暮れてしまった空を見上げて明日の作業を考える。やっぱり動物避けの柵は必要だよな。明日以降の作業かな?
「そうだね。ナイフ欲しいよね。ナイフや金属製品がダメでも、せめて黒曜石、原始人が石器として使っていた石とか欲しいよね」
明日乃がそう言う。
「黒曜石か。そういうのも探しに行かないといけないんだろうな。石槍とか、石斧? 身を守る武器とかも作らないとな」
俺は自衛手段も考えないといけないなと、再確認させられた。
「木の棒とかは武器として持っておいた方がいいかもね」
明日乃がたき火に薪を入れながらそう言う。
俺は暗くなる前に、長い枝をうまく折り、先端を鋭くしたものを二本用意する。
「まあ、何もないよりはマシだろ?」
そう言って1本を明日乃に渡しておく。槍の代わりだ。
「竹とかも欲しいね。竹やりとか、食器にもなるし、家づくりがもっと楽になるし」
「そうだな」
明日乃の提案に俺も賛同する。
とりあえず、今欲しいのは
・荒縄や紐
・黒曜石のナイフ、石器みたいなもの
・竹
「将来的には麻みたいな植物探して麻布とか作りたいね。さすがに葉っぱの服じゃ、新しく仲間が増えたらお互い恥ずかしいし」
と明日乃。
そうだな。女の子に葉っぱの服で暮らさせるのは可哀想だ。
「探索とかして色々探さないとな。というか神様に聞けばいいのか? さすがに島の構造とか何があるかくらいわかるだろ?」
俺はそう明日乃に答える。
「あ、神様と言えば、1日1回お祈りしなくちゃいけないんじゃない? ついでだからそのあたりお祈りしておこうよ」
思い出したようにそう言う明日乃。
言われてみれば、お祈りしないと、神様の力が回復しないとかいっていたし、力が回復しないと仲間も増やせないっていってたしな。
やっぱり原始的な世界には人手が一番欲しい。二人だけだとやれることも限られるし。
とりあえず、二人で神さまにお祈りをする。
明日乃が何をお祈りしているか分からないが、俺はとりあえず、だめもとでも、明日乃だけでも元の世界に帰して欲しいとお祈りしておく。
「うん、日課のお祈りも終わったし、残りのバナナも焼いて食べよ? お腹空いたよね?」
明日乃がそう言って昼間に取ったバナナに手をのばす。
「そうだな、お昼ぐらいに食べたっきりだったもんな。夜ごはんということでまた焼くか。というか、今はいいけど、将来的に毎日バナナとヤシの実のジュースじゃきつくなるだろうな。海に行って魚をとったりとか、川とか泉も探したりしないとダメだな」
俺は、すでにバナナの味に飽きているので魚を取ることも考えないといけないと思いそう言う。
そして水もある程度使える環境にしないと、明日乃も女の子だし、お風呂とまではいかないけど体を拭いたり、軽く洗ったり、みたいなことはしたいだろうし。
「お水欲しいね。顔とか洗いたいし、というか歯磨きしたい。昔の人みたいに木の枝とか噛んで歯ブラシ作ればいいかな?」
明日乃はやっぱり女の子だ。身だしなみとかも重要なんだろうな。
「確かに歯磨きはしておかないとな。原始人は虫歯で死ぬこともあったらしいし。本当かどうかは知らないけどな」
「うそっぽいけどちょっと怖いね。虫歯」
俺の虫歯の話に明日乃が笑う。とりあえず、食べ終わったら木の枝で歯磨きしよう。水がないからヤシの木のジュースでだけど。あれ、多分、糖分入っているから意味なさそうだけどね。
とりあえず、川探しと動物避けの柵作りが急務だな。
「りゅう君、バナナ焼けたよ」
「ああ」
俺と明日乃は焚火を囲って焼いた残りのバナナを食べる。ヤシの実も二つ割って飲み物代わりにする。水分補給も重要だ。
裸でも暮らせるくらいの南国のような気候なのは助かるな。とりあえず、夜でもたき火が無くても凍え死ぬことはなさそうだ。
明日乃と明日の事を考えながらバナナを食べて、食べた後は枝をうまく噛んでブラシのようにして歯磨きをする。甘いヤシの実のジュースで口を漱ぐので効果があるのかは怪しいが。
やっぱり水と、水を沸かす鍋代わりになるものが欲しいな。
そうこうしているうちに日も暮れて、あたりは真っ暗に。
これ、たき火が無かったら本当に自分の手も見えないくらいに真っ暗になってしまうんじゃないか?
「たき火の火を絶やさない方がいいよな? オオカミと熊とかでたら真っ暗で対応もできないだろ?」
俺がそう言う。
「そうだね、初日で何が起こるかわからないから交代で寝る?」
明日乃も夜のあまりの暗さに不安になったようだ。
現代人は電気の光に慣れ過ぎていたんだな。本当に真っ暗な世界なんて今まで、言われてみると味わったことがないかもしれない。
「それじゃあ、明日乃。先に寝ていいぞ。魔法の後遺症でまだ、万全じゃないだろ?」
俺は明日乃の体調を気遣ってそう言う。また倒れられたら心配だしな。
「私はいいよ。さっき少し寝られたから。りゅう君も寝ないと明日倒れちゃうから先に寝てね。あとで交代するから」
明日乃がそう言って俺の事も気遣ってくれる。
やっぱり交代で寝られるくらいの仲間が欲しいな。できれば仲良くできる奴な。
そんなことを考えながら、明日乃が意地を張って寝る気がないので俺が先に寝ることにする。
「3~4時間くらいしたら起こしてくれよ。といっても時計がないから分からないよな」
俺は時計の無い世界に苦労しそうだと思った。
「あ、ステータスウインドウに時計あるよ。それとアラームもついているから5時間寝ちゃっていいよ」
明日乃がしれっとそんなことを言う。
「マジか?」
俺は小さい声でステータスウインドウを呼び出すと確かに時計がついていた。時間は20時を示している。しかも本当にアラーム付きだった。
「なんか、サバイバルなんだか、リアルなんだか、ゲームなんだかよく分からない世界だね」
明日乃がそう言って呆れた顔をする。
「そうだな。ゲームの要素にがっかりだが、まあ、時計があるとないとじゃ全然違うし、まあ助かるけどな。じゃあ、5時間寝たら代わるからな。なんかあったらすぐ起こせよ」
俺はそう言って、自分のシェルターに入って横になる。明日の朝1時にアラームをセットして。
「りゅう君」
明日乃の呼びかけに起きる俺。
「なにかあったか?」
俺は慌てて寝ぼけた頭のまま半身を起こす。
「ううん、何も無いよ。ただ、寂しくなっちゃった」
そう言って明日乃が俺のシェルターに入ってきて俺の横に寝そべる。
「もう少しで交代の時間だからちょっとだけ一緒にいよ? 焚火も薪入れておいたから当分消えないだろうし」
そう言って甘える明日乃。
ステータスウインドウの時計を開くと1時前。5時間弱寝たのか。
「少しだけだぞ。明日乃も寝ないとまた倒れるからな」
俺はそう言って明日乃の横に寝そべる。
「うん、私が寝るまで隣にいて」
明日乃が少し甘い声でそう言って俺にピタリと寄り添う。
そして何かを求めるように俺を見つめ、目をつむり、少し口を開く。
☆☆☆☆☆☆
時間は朝の2時過ぎ。
俺は、明日乃が満足して寝息を立てたのを確認すると、シェルターから出る。
結局、一緒のシェルターで寝るんだったらシェルター二つ作った意味なかったな。
まあ、明日以降は別々に寝るだろうし。今日は仕方ないか。
それと、やっぱり二人とも何かがおかしい。この耳のせいか、普段と違う行動が目立ちすぎる。今度神様に会ったら、聞かないといけない事案だな。
火の弱くなったたき火に薪を足してから明日乃から離れない範囲で薪を拾って回る。火のついた薪を松明の代わりにして。
何度か往復し、十分な薪が集まったので、たき火の前に座り、ぼんやりと火を眺める。
やることもないので、昼間に明日乃が言っていた木の枝の皮を細く剥いて木の皮2本を縒って紐にする。皮が剥きやすい植物とそうでないものがあるようで剥きやすい物を選んで紐にする。
確かにこのやり方だと長いひもは作れないな。
俺は何本かひもを作るとそれを結んで長くする。
これは結構、大変な作業だな。
作業の面倒臭さのわりにひもの長さはなかなか伸びない。
二時間ほどそんな作業をしていると、カサっ、と遠くの藪がこすれ合う音がする。
なんだ? この新しい耳のせいか? いつもより遠くの音が聞こえて、嫌な気配を感じる。
何かいる!?
俺は自分の横に置いておいた槍代わりに先をとがらせた長い枝を持ち立ち上がった。
次話に続く。