第45話 遠征の準備をしよう
【異世界生活 14日目 14:00】
「一角兎2体でギリギリだな。撤退しよう」
俺はみんなにそう言い、みんな頷く。
こうして3回目のダンジョン攻略は3階の前半部、レベル10の一角兎のウッドゴーレムが出だしたあたりで終了する。
今日の戦利品
小さいウサギの毛皮 たくさん
粗悪な青銅の斧 6本
青銅のウサギの爪 11本
青銅のウサギの角 2本
南のエントランスに戻り、階段を上るとダンジョンの出口だ。
確かに3階は撤退が楽でいいな。
そして外に出るとまだ明るい。
「みんな水浴びしてから帰ろうよ」
明日乃がそう言う。
「水浴びしてから、バナナや山菜を採って帰るんだろ?」
俺は明日乃にそう訂正する。
「そうだったね」
明日乃が笑いながらそう言う。
「とりあえず、俺は竹を切って水筒作っているから、水浴び終わったら声かけてくれ」
俺は丘を降りながらそう声をかけ、そのまま竹林に向かう。
「流司クンも一緒に入ればいいのに」
麗美さんが冷やかすようにそう言う。
さすがに女の子4人が裸で体を洗っているのに混ざる勇気も甲斐性もない。
俺は愛想笑いだけして竹林に入る。
今日の仕事は飲み水の確保と、元の拠点経由で帰って、山菜やバナナを確保して帰る感じだ。
みんなが水浴びを終える。そして、なんか葉っぱの服に戻っていた。
今日は洗濯もしたらしい。俺も洗濯した方がいいよな。
そんな感じで俺も交代し、洗濯もして葉っぱの服で帰路に着く。
【異世界生活 14日目 16:00】
「ただいま」
俺達はバナナと山菜、飲み水の入った水筒を持って拠点に帰る。
「お帰り。すごい荷物ね。そして懐かしい格好ね」
真望がそう言って迎えてくれる。葉っぱの服に少し驚きつつ。
ヤシの葉のリュックはダンジョンで拾ったウサギの毛皮や金属片でいっぱい、バナナや水筒をみんなで抱えて持って帰る感じだった。
「ただいま、真望。そっちの進捗はどうだ?」
俺はそう言って、さらにウサギの毛皮を真望に渡す。
「もう、嫌味な奴ね。でも、ウサギの毛皮、いい感じで洋服にしたよ」
そう言って真望がみんなにウサギの毛皮で作ったワンピースを見せる。
「わ~、やっぱりかわいい。ふわふわだったから、いい洋服できると思ってたけど、予想以上ね」
明日乃がそう言って喜ぶ。
「でしょ? パッチワークの部分が逆にいいアクセントになってて可愛いよね」
真望がそう言い、明日乃と二人で盛り上がる。
「そういえば、みんなのサイズとか分からずに服とか作れるのか?」
俺は気になったことを真望に聞く。
「ああ、それは大丈夫。前に体の寸法を測った時に荒縄にしるしの紐をつけていって、みんなのスリーサイズと身長、その他、肩幅や洋服の丈とか、荒縄のしるしの幅で記録してあるのよ」
そう言って、荒縄に麻紐が幾つかついたものを見せてくれる。竹の札もついていて、竹の札にはナイフで刻んで炭で焼いたのか『アスノ』と名前が黒く刻んである。
「なるほどな。よく考えてあるな」
俺は感心する。
「とりあえず、今日は麻糸を紡ぎながらだったし、明日乃ちゃんの分しかできなかったけど、少しずつ他の子の分も作っていくからね」
真望がそう言い笑う。真望、活き活きしているな。
「流司、日が暮れるまでの残り時間、手伝ってくれよ。ツリーハウスは1人じゃ組めないからね」
鈴さんがそう言いながらこっちに歩いてくる。作業をしてくれていたようだ。
「ああ、分かったよ」
俺はそう言って、鈴さんのツリーハウスづくりに加わる。
「お、レオ。塩作り頑張ってくれたんだな。偉いぞ偉いぞ」
一角がそう言って、レオをわしゃわしゃと撫でまわす。レオは嫌な顔をしているが逃げない。撫でられるの嫌いじゃないな? こいつ。
レオも塩作りに慣れたようでバケツのような土器を3個火にかけて、大量の海水を並行して煮ているようだ。ちゃんと煮詰め過ぎず、にがりも捨てて塩を作っているようで、一角も満足の味らしい。
しかも火を見ながら麻の枝もちゃんと叩いている。手先は不器用だが、作業自体は器用にこなしているな。
一角もレオのそばで麻の茎叩きを始め、明日乃、琉生は麻糸作りの手伝い、麗美さんと俺はツリーハウス作りの手伝いに回る。
ツリーハウスも俺達がダンジョンに行っている間、竹を一生懸命切ってくれたみたいで、2時間組み立て作業するだけでだいぶ形になってきた。
今日の作業で屋根が完成し、壁作りも少し着手することができた。
「ツリーハウスもだいぶ形になってきたね」
明日乃が嬉しそうにそう言う。
「まあ、これを4棟だからな。まだまだだよ」
俺はそう言って笑う。実際まだまだ時間はかかりそうだ。
そんな感じで、今日の作業を終え、夕食を囲む。
今日は猪肉の鍋かな?
「なんか懐かしい味だな」
俺は明日乃の料理を食べてそう言う。
「塩味だけど、肉じゃが風? ジャガイモじゃなくてバナナだけどね」
明日乃がそう言って笑う。
醤油もなければ、みりんも砂糖もない。かつおだしすらないので和食っぽいものは何も作れないのだが、それっぽいものを作ってくれるだけでもうれしい。
「バナナとイノシシ肉とネギもどき? 一緒に煮ると結構美味いんだな」
一角が感心しながらそう言って食べる。
「バナナと言っても味はジャガイモに近いからね」
明日乃がそう言って俺にお代わりを注いでくれる。
「かつおが獲れたら鰹節が作りたいんだけどな」
一角が無茶なことを言う。
「多分、沖合に出ないといけないから船も必要だし、網が必要かな? 活きエサをつけて竿とかでも釣れるのかな?」
明日乃が残念そうな顔でそう言う。
「多分、イワシみたいな小魚つけて泳がせれば釣れるんじゃないかな? まあ、釣り竿づくりが大変そうだし、釣り糸作りもな」
俺はそう言う。麻糸とかでも釣れるのかな? 人に慣れていないから簡単に釣れるのか?
元の世界での釣りを思い出しながらそんなことを考える。
「まあ、それより醤油だな。大豆を確保して、琉生に醤油を作ってもらおう」
一角がそう言う。
「ああ、そういえば、明日はどうする? 大豆は無理だが小麦あたりはこの島でもとれるんだろ? ダンジョン攻略はお休みして島の探索をするか? 干し肉も足りなくなってきたし、イノシシあたりを狩れるといいんだが」
俺はそう一角に聞く。
「収穫の時期にもよるから獲れるか分からないけど、小麦畑がどこにあるかは知っておきたいね。あと野菜とか北に行くと色々あるみたいだし、小麦畑めざして探索したいな」
琉生がそう言って探索を希望する。
「パンが食いたいな。あと、砂糖と牛乳があればお菓子も食べたい」
一角がさらにわがままを言う。
「砂糖が獲れる植物はあります。小麦の生えているエリアより西に行ったところにサトウキビに似た植物が生えています。ちなみに、収穫時期は春まで。もう少し暖かくなると、糖分が減って砂糖が取れなくなります」
秘書子さんがさらっと大事な事を言う。
「おい、秘書子さんの話だと砂糖が作れるらしいぞ。サトウキビに似た植物が生えているらしい。しかも、暖かくなると砂糖が取れなくなるらしいぞ」
俺は慌ててそう報告する。
「砂糖を採りに行こう」
「行こう」
一角と琉生が声を合わせてそう言う。
「砂糖を採りに行くとしても、準備は必要じゃない? 拠点に残る人も自由が利かなくなるわけだし、数日暮らせる準備しないと、ね? 鈴さんとか真望ちゃんも洗濯とかしたいだろうし、砂糖を作るとなると泊りになるだろうし替えの服とかも欲しいんじゃない?」
明日乃がそう言う。
「そうだな。洗濯や着替えもそうだが、食料が足りないし、もう1回くらい魚獲った方がいいかもな。あと、残るメンバーとか考えたり、真望と鈴さんをレベル11にしたりしてからの方がいいかもしれないな」
俺も明日乃の意見に賛同する。
「ちなみに誰が残る?」
一角がそう聞く。
「私は残るわよ。裁縫とかすることいっぱいあるし」
真望がそう言う。
「私も留守番かな? ツリーハウス完成まではあまり動けないよ」
鈴さんも残留を希望する。
「なんかあった時の為に私も留守番かな? ツリーハウス作りの人手もいるだろうし。というか、歩くの面倒臭い」
麗美さんも留守番したいらしい。
そんな感じで、留守番するのは麗美さん、真望、鈴さん、レオ。探索に行くのが俺、明日乃、一角、琉生という分担になった。
「とりあえず、真望と鈴さんはダンジョンでスパルタして、レベル11になってもらうよ。そうすればレオも入れて、留守番組みも2人組で行動できるしね」
俺はそう言う。
そんな感じで、明日と明後日は遠征準備という事になった。午前中作業して午後ダンジョンで真望と鈴さんのスパルタって感じだ。真望と鈴さんの代わりに明日乃には抜けてもらう感じで。
一角と麗美さんは午前中に魚を獲り保存食の確保。俺も監視員役で貝拾い。
その後、俺と麗美さんは午前中、鈴さんを手伝いツリーハウスを作る。
一角とレオはひたすら塩作り。塩を作りながら麻の繊維を叩く作業。
明日乃、真望、琉生は麻糸作りと服作り。遠征組の着替えの服をウサギの毛皮で優先に作るらしい。
まあ、今日と同じような作業を明日明後日と続ける感じだな。
【異世界生活 17日目 8:00】
そんな感じで、三日後の朝。朝食を終え、日課の剣道の朝練もこなし、遠征の準備に入る。15日は明日乃の代わりに真望をパーティに入れてダンジョンでレベル上げ、真望が微妙にレベル11に到達できなかった。
16日は琉生の代わりに鈴さんを入れて、真望をレベル11にしてから、琉生のポジションで戦わせて、鈴さんをスパルタ。鈴さんもレベル11にする。
これで、パーティ全員レベル11になり、初級魔法も全員が使えるようになる。
ちなみに真望の覚えた魔法は、攻撃魔法が『炎の矢』。火属性のお約束だな。
補助魔法は『狐高の狩人』。素早さと回避力が上がる感じで麗美さんの『猫の歩み』を攻撃寄りにして一角の『狼の疾走』の回避力を上げて少し防御を高めたバランスの良い攻撃補助って感じらしい。
というより『孤高』の『孤』と『きつね』の『狐』をかけているあたりが中二病臭くてみんなのネタにされた。というか神様が中二病なのかもしれない。
鈴さんの覚えた魔法は、攻撃魔法が『雷の矢』。金の属性は雷の属性? 電気の属性? を持つらしい。直接攻撃効果はもちろん、麻痺効果もある使い勝手のよさそうな魔法だ。
補助魔法は『猛牛』素早さと攻撃力を上げる魔法らしい。ただし、一角の『狼の疾走』以上に直線的で回避率が低く、完全攻撃特化と使いどころが難しいらしい。
金属加工系の魔法が全くなかったので鈴さんはがっかりしていた。次のランクの魔法に期待かな?
とりあえず、全員レベル11になり、緊急時には魔法も使えるようになったので、これで安心して遠征ができそうだ。
とりあえず、ツリーハウスも1軒だけ完成したので、留守番の3人とレオでとりあえず使うらしい。
それと、鈴さんが粗悪な青銅の斧、槍の穂先みたいな金属片を加工してくれて、両刃のナイフを人数分作ってくれた。青銅製なので切れ味はそんなに良くないが、石包丁や黒曜石のナイフよりは格段に切れ味も文明も上がった気がする。
鈴さん曰く、『キリオン』、要は指を守るための日本刀で言う鍔のようなものが木製で戦闘には不向きという事だ。これで刃物を持った相手と戦おうとすると木製の鍔ごと指を落とされてしまうだろうと怖い事を言われた。金属加工ができない今の状況ではしかたないね。
それと、真望も、午前中の作業時間をフルに使って、遠征組の着替えも用意してくれた。服が2着あれば洗濯して乾かす時間が作れるからな。
とりあえず、槍を人数分と、戦闘に不参加で支援役の予定の明日乃が予備の槍を2本持ち、みんなで手分けして、飲み水の水筒と非常食として干した魚を2日分、砂糖を作るのに必要だろうからとバケツ型の土器を2個と中華なべも持っていく。そして、鈴さんに作ってもらった青銅のナイフと石斧。石斧はなんだかんだ言って、道具としても投擲武器としても有用だからな。そして着替え。少し長くかかるかもしれないから洗濯できるよう、着替えを1枚ずつ。それと荒縄を多めに持っていく。ヤシの葉っぱのリュックにつめられるだけ詰めて、土器などは荒縄で縛ってリュックと一緒に担ぐ感じだ。
あと、一角こだわりの塩も持っていく。イノシシでも取れたらその場で解体して、塩漬け、サトウキビ畑で干し肉にする気らしい。
それと、日よけのマント。なんか、みんなで相談して、ハンカチ大のウサギの毛皮を、魔法の箱に入れてお祈りポイントを消費して大きな毛皮につなぎ直してもらった。1枚お祈りポイント4000ポイントだったが、日よけはもちろん、寝るときの毛布にもなるし、最悪、裏返して雨の日のテント代わりにもなる。ちょっと頭から被ると暑いけどな。
神様がサービスでなめし皮にしてくれたのもありがたい。
しかも、真望の考案でボタンのつけ外しでフード付きマントにも毛布にもなるし、横に沢山ボタンがついていて、前を閉じられるのはもちろんの事、マントを4枚ボタンでつなげると雨よけ程度だがテントにもなるという優れもの。4人で寝ると狭いけどな。
「結構な荷物になったな」
俺は大荷物にちょっと心が折れる。
「まあ、砂糖作るのも目的の一つだし、仕方ないよ。あと、おいしそうな野菜が自生してたらうれしいな」
琉生はそう言ってやる気満々だ。
「小麦が獲れるといいけどな」
一角がそう言う。
「秘書子さんの話だと小麦が獲れるのは夏らしいぞ。今は春だからまだ穫れないらしい」
俺は秘書子さんに確認してそう伝える。
「そんな」
一角がそう言って膝から崩れ落ちる。
「まあ、他に美味しい野菜もありそうだし、肉も確保しないといけないし、ね?」
明日乃がそう言って一角を励ます。
そうだよな。砂糖も欲しいが、一番の目的は肉を確保して保存食を増やすことだ。あと、島の全体像も把握する必要があるしな。
拠点の保存食は6日分しかない。節約したとしても1週間以内に干し肉と砂糖を確保して帰ってこないといけないんだよな。
「じゃあ、そろそろ行くか。遅くても1週間以内には帰ってくるからね。何かあったら魔法の通信で連絡して」
俺はそう言い、俺、明日乃、一角、琉生の4人で北のエリアの探索に向かう。
次話に続く。




