第39話 ダンジョン攻略の結末
【異世界生活 12日目 12:45】
「じゃあ、そろそろ行こうか。多分、次が最後のボス部屋、5体出てくる部屋だ」
俺達は現在、演習用ダンジョンと呼ばれる、神様が作ったダンジョンでレベル上げ中、今から、第一階層の最後の部屋、ボスの部屋に挑む。
先ほどの、前後からの挟み撃ちを受けたまっすぐ北に伸びる道を進み。突き当りを右に曲がり東に進むと行き止まり、左手方向、北の壁に大きな扉があった。
「扉を見るのは初めてね」
麗美さんがそう言う。
「閉じ込められたり、滅茶苦茶強いボスとか出てきたりとかしてこないよね?」
明日乃が心配そうに言う。異世界物の常識なのか? それ?
とりあえず、俺は、警戒しながら扉を押して開けるが何も起きない。
そして覗くと今までの部屋の4倍くらい広い部屋に、今まで通りウッドゴーレムが待ち構えている。その数5体。
「なんだ、今までどおりじゃないか」
一角も開いた扉からひょこっと覗くと、そう言う。
「いや、一体だけ違うぞ」
俺は鑑定結果を見てそう言う。
4体は今まで通りだ。
なまえ キラーラビット(噛みつき)
レベル 5
凶暴なウサギ。飛び掛かってきて噛みつく。
レベルが上がるとどんどん素早くなる。
それを模して神が作ったウッドゴーレム。
額にある赤い核を壊すと停止する。
しかし、真ん中にいる1体は少し大きい。
なまえ キラーラビット(爪)
レベル 7
凶暴なウサギ。飛び掛かってきて爪で切り裂く。
レベルが上がるとどんどん素早くなる。
それを模して神が作ったウッドゴーレム。
額にある赤い核を壊すと停止する。
「みんな、鑑定スキルで、真ん中の敵を見てくれ。少しだけ強いみたいだし、攻撃方法が違うようだ」
俺はそう言ってみんなに注意喚起させる。
「次の階の予習って感じかしらね? 1体だけ少しだ強いわね」
麗美さんが余裕の口ぶりでそういう。
まあ、レベル7でも俺達にしてみれば格下だしな。
「真ん中は俺が相手する。麗美さんと明日乃は左の2体を、一角と琉生は右の2体を」
俺はそう言う。
ボスに麗美さんが当たって苦戦すると他の4体が抑えられなくなる。そして俺には変幻自在の壊れない武器のアドバンテージがあるしな。
「準備はいい? いくぞ」
俺は、みんなにそう言い、部屋に飛び込む。
麗美さんと一角は今まで通り、速攻で左右の2体にそれぞれ飛び掛かる。
俺もそれに合わせて中央のウッドゴーレム(爪ウサギ)に走り寄る。
明日乃と琉生は少し遅れて麗美さんと一角に続く。
その動きにウッドゴーレムも反応し、反撃を始める。
俺に飛び掛かる、ボスのウッドゴーレム(爪ウサギ)。
「速い!!」
俺は思わず叫んでしまう。
今までのレベル5のウッドゴーレム(ウサギ)も動きが速かったが、こいつはさらに早い。
「たぶん、すばやさ特化の敵だよ」
明日乃が後ろからそう声をかけてくる。
ステータスを偏らせてあるってことか?
俺はあまりの速さに対応できず、防御一辺倒、ウッドゴーレム(爪ウサギ)の爪での攻撃を槍の柄で受けるのが精いっぱいになってしまう。
攻撃のスキを見て、横払い、斬撃を食らわせるのだが、バックステップで避けられる。
しかもこの爪だけ木製じゃないぞ。何か金属っぽいものでできている。
「明日乃ちゃん、流司クンの敵は流司クンに任せて、こっちの敵、お願い」
麗美さんが明日乃に向かってそう叫ぶ。
明日乃が慌てて、麗美さんが弾き飛ばしたウッドゴーレムに駆け寄る。
そうか、時間を稼げば麗美さん達が周りの敵を倒してフォローに来てくれる。そして、このボスが他の仲間に襲い掛からないようにプレッシャーをかけるのが俺の仕事か。
ボスのウッドゴーレム(爪ウサギ)が戦闘中の麗美さんや一角に横から飛び掛かったら大変なことになるしな。
俺は積極的に攻撃に転じる。敵の攻撃を受けては、槍を横に払い、避けられたらもうひと振り、敵にプレッシャーをかけ続ける。
そんな攻防を何度も繰り返していると、
「流司クン、大丈夫?」
麗美さんがフォローに来てくれる。
「こいつ、スピードが半端ない。麗美さんも気を付けて」
俺はそう言って、ボスのウッドゴーレム(爪ウサギ)に集中する。
逆にウッドゴーレム(爪ウサギ)は麗美さんにもプレッシャーをかけられ、集中が乱れる。
俺はその隙を狙い、ウッドゴーレムに突きを食らわせるが、弱点の核を外し、左肩あたりへの浅い一撃になってしまう。
ただ、その一撃のおかげで、怯んだのか、その隙をついて麗美さんも横から一突き、俺は冷静に構え直してもう一突きし、額の核を貫き、ボスを倒す。
そして、ドロップアイテムが落ちる。
鑑定すると『青銅の爪』と表示される。まんま、小さな半月型の爪が1本だ。
切れ味がよさそうなのでナイフ代わりにはなるかな? ナイフというよりカッターか。とりあえず、道具に加工するには少し小さいな。
「結構、厄介そうな敵ね、爪で攻撃してくるウサギのウッドゴーレム」
麗美さんがそう言う。
「ああ、明日乃も言った通り素早さ重視みたいだ。俺も素早さ重視のステータスみたいだから対応できたし、武術に優れた麗美さんなら対応できるかもしれないけど、ステータス的に素早さが低い、明日乃や、一角はちょっと苦戦するかもな。琉生は素早さが少しあるみたいだけど、レベルをもう少し上げないと危険かもしれない」
俺はそう言う。
この世界、ステータスといっても肉体に直結している数字みたいで、結構、馬鹿にならないんだよな。
「どうする? 帰るか?」
一角がそう言う。
「とりあえず、行けるところまでは行ってみよう。余裕がなくなって、誰か攻撃を受けそうになったら帰る感じでいいんじゃないか?」
俺はそう言い、麗美さんも頷く。
明日乃と琉生は行くならついていくという姿勢のようだ。
とりあえず、部屋を探索して、部屋の隅に前にもあった木箱を発見、開けると、やっぱり『粗悪な青銅の斧』だった。
そして、入り口の扉は終始、開けっ放しだった。閉じ込められるような仕組みではないようだ。
そして部屋の奥、北側の壁にも扉があり、開けると、小部屋があって、さらに奥には魔法障壁の入り口が見える。
そこをくぐると見おぼえのある部屋に出る。最初に通ったエントランスという部屋に似ている。
「ああ、ここが、北側のエントランスね」
明日乃がそう言う。
目の前の北の壁には上に登る階段と下に降りる階段がある。
「なるほど、この魔法障壁は一方通行みたいね」
麗美さんはそう言って、さっき俺達が通ってきた魔法障壁をもふもふ触っている。
俺も触ってみるが、攻撃的なものはなく、ただひたすらもふもふの見た目、硬めのゼリーみたいだった。
安全地帯らしいので少し休憩してから2階を探索することになった。
「そういえば、敵がウサギっていうのは、明日乃ちゃんを模しているのかしらね?」
麗美さんがそう言う。
「そうかもしれないね。一応、光の属性を持つ洞窟みたいだし、光の精霊さんが管理しているのかな? だから、私の影響が強い、とか?」
明日乃もそう考えていたようだ。
「まあ、こういうのは大抵、スライムスタートなんだけどな。ウサギってことはそう言うことなのかもな」
俺はそう答える。
「じゃあ、流司の対応するダンジョンはライオンとか出てくるのか? 結構いやだぞ、それ」
一角がそう言う。
「一角だって、オオカミだからな。オオカミのウッドゴーレムとか戦いたくないぞ」
俺は一角に言い返す。
「鈴さんの対応するダンジョンは牛さん、ふふっ」
琉生が楽しそうに笑う。
それに対し、俺と、一角と明日乃はぞっとする。
多分、みんな同じものを想像したんだろうな。ミノタウロスを。
「まあ、おしゃべりはそれくらいにして、そろそろ次の階行く?」
麗美さんがそう言うので階段を下りて2階のダンジョン入り口に向かう。
2階のダンジョンも基本的には一緒だった。真っ黒い石を積んでできた立方体の部屋がいくつもつながって通路のようになっている。まあ、つながっている部分は壁もなく、つなぎ目が見えるだけなのだが、明らかに戦闘エリアを分けている感を醸し出している。ここから敵は設定された数以上入れない。みたいな?
そして、真っ黒い部屋だが、壁のところどころに光る石があり、薄暗いが明かりがちゃんとある感じだ。仕組みはよく分からないが。
とりあえず、1階同様、右手で壁を触る感じで右の壁に沿って進む。
最初は敵が1体。さっきの爪で攻撃するウサギを模したウッドゴーレムだ。1階のボス部屋で見ているので注意さえすれば余裕で倒せる。
俺が、受けて、麗美さんが横から跳ね飛ばし、明日乃と琉生がとどめを刺す。
さらにダンジョンを進んで、敵が2体になっても何とかなった。
1体は麗美さんが対応して木の槍で殴って跳ね飛ばし、明日乃がとどめを刺す。もう1体は俺が受けて、一角が同じように跳ね飛ばし、琉生がとどめを刺す。
レベル7で少し強くなったが誤差範囲内だ。少しもたつくが倒せない敵ではない。
ちなみにドロップは、基本『ウサギの毛皮』。ごく稀に『うさぎの爪』が落ちるようだ。こんなにうさぎの毛皮貰っても使いどころがないんだけどな。ハンカチ大の大きさで使いづらそうだし。
そして、明日乃がレベル10、琉生がレベル9になった。
しかし、敵が3体になると急に苦戦しだす。俺と一角が敵のすばやさに対応できなくなってきている。俺と一角は1対2で対応してきたが、1対1になると素早さに翻弄され、防戦一方で跳ね飛ばせなくなるのだ。
俺と一角が1体ずつ抑え、麗美さんが弾き飛ばし、明日乃がとどめを刺す。手の空いた麗美さんが一角の抑えている敵を跳ね飛ばし、明日乃がとどめを刺す。そして最後に俺の抑えている敵を麗美さんが槍で跳ね飛ばし、琉生がとどめを刺す。
そんな麗美さんの武術頼りのギリギリの戦闘だ。
「素早さ特化、想像していたより性質が悪いな」
一角がそう言って、荒くなった息を整える。
一角は素早さ不足で対応できず、俺は槍の技能不足で対応できていない。
「少し戻って休憩しよう。戻れば敵が2体ずつしか挑めなくなるみたいだし」
俺はそう言って今来た道を戻る。
戻りながら、ボス部屋手前で秘書子さんに聞いた、ダンジョンの深度(進度?)と敵の数の制限の話をする。
「なるほどね。だったら2体しか襲ってこれないエリアで粘っていれば、2体ずつ襲ってきてくれるってことじゃない?」
麗美さんがそう言って、少しここで、2体と戦った場所で休憩することにする。
「うーん、駄目っぽい?」
麗美さんが休憩しながらそう言う。
「多分、ゴール付近なら追ってきたり集まってきたりするんだろうけど、逆はないのかな?」
俺はそう言う。秘書子さんが反応しないってことはそういう事なのだろう。
敵を引き付けて2体ずつ倒す作戦は失敗に終わった。まあ、休憩ができてよかったけどな。
俺達は、ダンジョン攻略を再開する。
苦戦はするがなんとか爪ウサギのウッドゴーレム3体を相手に何とか倒し、進んでいく。
「この世界の戦闘はレベルより数の差が物を言うみたいね。もちろん、圧倒的に強いなら数で優ろうと負けることはないんだろうけど、同じレベルで同じ数だと戦いは膠着状態になるし、ステータスの相性によっては同じレベルや少し低いレベルでも苦戦すると。よくできているわね」
戦闘が一段落し、麗美さんがそう言って感心する。
レベル的には格下の敵のはずなのにすばやさ特化で俺達は振り回されている。
確かに格上のクマを倒した時も4体1で隙を突けたから倒せた感じもあったしな。まあ、麗美さんの骨と筋肉マニアの才能も活きた戦闘だったが。
「このウッドゴーレム達、きっとVITとかINTとか1だぞ」
俺は悔し紛れにそう言う。
みんなも笑う。
「そうなると、魔物討伐は多分、5対5のルールなんて通用しないと思うし、魔物のステータス配分も分からないから、かなりレベルを上げないとキツイってことかもな」
一角がそう付け足す。
「まあ、そのあたり、神様達と相談しながら考えるしかないかな? 確かに大量の魔物に囲まれたら成す術ないもんな」
俺も一角の意見に同意する。
「さて、分からないことは、考えていてもしょうがないし、おしゃべりはこれくらいにして、行きましょうか?」
麗美さんがそう言って、小休止は終わり、さらにダンジョンに進む。
途中、宝箱? 少し汚い木箱からいつもの『粗悪な青銅の斧』を入手、3本目だ。
さらにダンジョンの奥へ進む俺達。
「流司クン、4体よ。4体出てくるエリアに入ったわ」
麗美さんがそう言い、琉生が慌てて、俺の横に並ぶ。
通路の先に4体のウサギ型ウッドゴーレムが見える。
いけるのか? これでいけるのか?
琉生も前衛に加えた、前衛4、明日乃の後衛1、このフォーメーションでいけるだろうか? 琉生はレベル9だし不安が残る。
だが、敵は待ってくれない。俺達を見つけると猛スピードで迫ってくる。
「琉生は無理するなよ」
俺はそう言うが、琉生が無理しないと、俺か一角が2対1になって苦戦は必至だ。
敵4体と俺達前衛4人がぶつかり合う。
麗美さんは達人級の杖術を活かし、猛スピードで迫ってきたウサギ型のウッドゴーレムを左の壁に叩きつける。
一角と琉生と俺は、なんとか槍でウッドゴーレム達の突進を抑える。
「くそっ!!」
一角が声を上げる。
ちらりと見ると、木の槍に爪ウサギ型ゴーレムの爪が食い込み、くの字に曲がっている。
「麗美さん、少し頼む」
一角がそう言って少し後退、背負っていた槍に持ち替える作業に入る。
「きゃっ」
次に琉生の悲鳴。
ウッドゴーレムの爪攻撃を捌き切れず、右足を爪で攻撃されたようだ。バランスを崩し、尻もちをつく。
「琉生!!」
俺は慌てて叫ぶ。
琉生のステータス、HPが下がりだす。20ポイントあったHPが13まで下がる。
ん? 血も出ていないし、怪我はしていない?
俺は焦りつつも違和感を持つ。
「流司クン、琉生ちゃんは私に任せて」
麗美さんはそう言うと、一角から引き受けた敵1体を槍で跳ね飛ばし琉生を襲った敵を槍で一突きする。怯むウッドゴーレム。
麗美さんが跳ね飛ばした方の敵は槍を持ち替えた一角が対応する。
「明日乃、補助を頼む」
一角がそう言い、慌てて駆け寄る明日乃。
混戦状態だ。
最後は、麗美さんが自分の対峙するウッドゴーレムを上から叩きつけ、動けなくなったところを額に一突き、そのまま、俺の対峙するウッドゴーレムも横からの一突き、右の壁に跳ね飛ばされ、それに俺がとどめを刺す。
残り1体も一角と明日乃のペアに麗美さんが加わり、麗美さんがウッドゴーレムを床に槍で叩きつけ抑え、明日乃が額の核にとどめを刺す。
戦闘が終了した。
「琉生、大丈夫か?」
俺は慌てて琉生に走り寄る。
「大丈夫だよ。攻撃されたとき、衝撃はあったけど、傷や出血もないし、バランス崩しただけ」
琉生がそう言う。
しかし、ステータスをみるとHPは確実に減っている。
「どういうことだ?」
俺は状況が理解できない。
「この世界ではHPという概念があります。これは単純に『たいりょく』ともいえますが、実際は体の表面にマナで張られた結界の耐久力を示しています。HPがゼロになるまではこの結界がダメージを肩代わりしてくれますが、この結界が無くなると、後は肉体の耐久力での戦いとなります。ただし、肉体の強度はマナの結界にくらべたかが知れているので、実質、あと一撃で死亡すると言っても過言ではないでしょう。敵のレベルや攻撃力にもよりますが」
秘書子さんがHPのシステムについて教えてくれた。
「あくまでも、人間が獣や魔物に比べてあまりにも脆弱な肉体の為、神様が贈ったギフト、救済措置です。獣や魔物達は、肉体強度がそのままHPとなっています」
秘書子さんがさらに付け足す。
「肉体の強度がHPだと思っていたが、そうじゃなかったのか」
俺はぼそりとそう呟く。
「どういう事?」
麗美さんが俺の独り言に反応する。
俺はみんなに、秘書子さんの説明をそのまま伝える。
「つまり、バリアみたいなものが張られていて、それがなくなると一撃で死亡を覚悟した方がいいってことか」
一角が俺の伝えたことを繰り返す。
「そのバリアは一撃で死亡するくらい肉体が脆弱な人間だけの特典らしいけどな」
俺はそう付け足す。
「とりあえず、少し戻りましょ? 1階のときみたいにここで残存した敵に挟まれたら大変なことになるわ」
麗美さんがそう言うので俺達は一度、今来た道を戻る。
「琉生の今の状況を説明すると、ウサギ型のウッドゴーレムの爪の攻撃で攻撃されたが、そのダメージをマナで張られた結界が肩代わりした。そしてHPは20から13に下がった」
俺はそう説明する。
「だから、血も出なかったし、傷や痛みもなかったんだね」
琉生がそう言って、斬られたあたりを確認する。
「不思議だね、自分で触る感じ、そんなバリアみたいなもの感じないのに」
琉生がそう付け足す。
「確かに俺達が触れ合ってもそんな感触は感じないもんな」
俺も同意する。
「さすが、流司クン。毎日、散々、明日乃ちゃんと触れ合ってるもんね。バリアなんてあったらそれこそ面白くないもんね?」
麗美さんが冷やかすようにそう言う。藪蛇な発言だったな。
「たぶん、強い衝撃とか、攻撃に対してのみ反応する感じなのかな?」
俺はそう予想する。
頭の中で秘書子さんが肯定する。
「そして、このバリアが切れると、このダンジョンでは攻略失敗、追い出されるという訳か」
一角がそう言うので俺は頷く。
「それで、これからどうするの?」
麗美さんがそう聞く。
「今日は帰ろう。少し力不足だ。1階に戻ってレベル上げも今考えたんだが、秘書子さん曰く、各階層に1日に発生するゴーレムの数は固定らしくて、1階に戻っても敵はいないらしい」
俺は裏で秘書子さんと相談しながら、みんなにそう伝える。
「また、明日、1階からやり直してレベル上げかな?」
明日乃がそう言うので頷く。
「とりあえず、琉生がレベル10になって、俺と、麗美さん、一角、できれば明日乃も、レベル11になるまでこのあたりまでの探索で帰還する感じかな? この先はちょっと危険な気がする」
俺はそう言って帰還を希望する。
「そうね、HP1になっても死なないって設定らしいけど、そこまで引っ張るのはちょっと怖いしね」
麗美さんがそう言って賛成する。
「私は行ける気もするけど、足引っ張りそうだし、また明日かな?」
琉生がそう言う。多分、自分が迷惑をかけていると思っての発言だろう。
「じゃあ、今日は帰るか」
「そうだね」
一角も明日乃も賛同して、今日はここでダンジョン攻略終了。帰ることにする。
運よく、帰り道は敵に会う事もなく、北のエントランスに到着。
明日乃が予想した通り、そこにある階段を上の階に登って、長い廊下をまっすぐ歩くと入り口のある南のエントランスに到着する。
【異世界生活 12日目 14:30】
ダンジョンから出ると明るい陽射しに目がくらむ。
「うーん、疲れたね。汗かいちゃったし、丁度いいから、泉で水浴びして帰ろうよ」
明日乃が丘の下、足元に見える泉を指さしそう言う。
「琉生は体調が万全じゃないんだからあまり無理させるなよ」
俺はそう言う。
「多分大丈夫だよ。HPは下がってはいるけど、それでも明日乃お姉ちゃんより高いし」
琉生がそう言って笑う。
「確かに違いない」
一角もそう言って笑う。
実際、琉生の現在のHPはダメージで20から13に下がっているが、明日乃のHPは最高の状態でも10だ。
「逆を言えば、明日乃は本当に気を付けないとすぐにHP1でダンジョン攻略失敗ってことになるってことだからな。あとクマとかにも要注意だぞ」
俺は明日乃を心配してそう言う。
「とりあえず、泉まで下りるか。竹も切りたいしな」
俺はそう付け足し、丘の斜面を歩き出す。
俺達の初めてのダンジョンへの挑戦はこうして、終わりを迎えた。
戦利品
小さいウサギの毛皮 たくさん
粗悪な青銅の斧 3本
青銅のウサギの爪 6本
次話に続く。
誤字脱字報告ありがとうございます。