第36話 今後の方針決定とダンジョンについて聞こう
【異世界生活 11日目 18:00】
「お疲れ、明日乃、追加で作った土器はどうだった?」
俺と真望、琉生は、前の拠点から必要な資材を運び終え、明日乃に声をかける。
「りゅう君、みんな、お帰り。土器は少し割れちゃったけど、必要な個数は確保できたかな? お鍋代わりの土器もたくさんできたし、保存に使えそうな壺もたくさんできたから、これからは油づくりとか石鹸づくり? いろいろ並行してできるし、保存もできると思うよ」
明日乃がそう言う。
「明日乃ちゃん、油と言っても、確かゴミを濾す布が必要なんでしょ? 麻布が出来上がるのはまだ先よ?」
真望が残念そうに言う。
「だったら、私の魔法で麻の茎を乾燥させちゃう? 早くできるわよ?」
麗美さんが真望に言う。
「いいの?」
真望が期待のまなざしでみんなを見る。
「いいと思うよ。仲間も全員揃ったし、お祈りポイントも少しは自由に使えるみたいだし、なにより布は早く欲しいし」
明日乃がそう言い、みんなも頷く。
「ああ、そういえば、お祈りポイントと言えば、悪い。さっき、琉生に600ポイントほど使わせてしまった」
俺はそう言って謝り、琉生の魔法、物を腐らせる魔法について説明する。
「物を10倍速く腐らせる魔法か。しかも自由に。それはいいな。大豆が手に入れば醤油や味噌が作れるぞ」
一角がいち早く飛びつく。
「麻の茎を早く腐らせられるのもいいわね」
鈴さんも魔法の有用性に感心する。
2人に期待されて、琉生が恥ずかしそうに笑う。
「琉生ちゃんの土魔法で腐敗させて、私の水魔法で乾燥させる。これで麻の繊維はかなり早くとり出せそうね」
麗美さんが嬉しそうにそう言う。
「まあ、繊維がとれても、繊維を糸にするのが大変なんだけどね。人手と時間に頼る単純作業よ」
真望がそう言う。
「まあ、最悪、麻の繊維を魔法の箱に放り込んで時短という手もある。量産はできなそうだけどな。まあ、刃物関係の交換が絶望的みたいだしそういう方面で使ってもいいんじゃないか?」
俺はそう言って笑う。
「そういえば、鋼のナイフだっけ? お祈りポイントの値段聞いたのか?」
一角が俺にそう聞く。
そういえば、まだだった。
「皆さんに価格一覧を表示しましょうか? というより、頭で想像した商品の値段を表示できるウインドウを追加しましょうか?」
神様の秘書でアドバイザーの秘書子さんがそう言う。
「そうだね。それを頼みます」
おれは秘書子さんにお願いする。
「承知いたしました。それと一緒に、魔法の箱の残高も表示するようにいたしますね」
秘書子さんがそう言うと、ステータスウインドウに魔法の箱関連のウインドウが追加された。
「みんな、秘書子さんが、ステータスウインドウに魔法の箱での交換にかかるお祈りポイントの一覧表を作ってくれた。頭で想像すると値段が出るらしい」
俺はみんなにそう伝え、みんなもステータスウインドウを開く。
「これはいいわね。しかもお祈りポイントの残高も出るようになったのね」
鈴さんが嬉しそうに、ウインドウをいじっている。
「これで、こっそり魔法を使うとかできなくなったわけね」
麗美さんが少し残念そうにそう言う。何かこっそり使う気だったのか?
とりあえず、お祈りポイント残高は『5900』を示している。
「じゃあ、とりあえず、ナイフの値段を、ってなんだこりゃ?」
一角がそう言って大声をあげて驚く。
「どうした?」
俺も慌てて、ナイフの値段を確認する。
青銅のナイフ 8000ポイント
鉄のナイフ 15000ポイント
鋼のナイフ 40000ポイント
青銅の剣 20000ポイント
鉄の剣 40000ポイント
鋼の剣 99999ポイント
「おいおい、高すぎるだろ? 青銅のナイフが8000円で鋼のナイフだと40000円?」
俺も交換ポイントを見て驚く。
「なんか、RPGっぽい設定だし、なんか色々がっかりね」
鈴さんも同じ価格表を見てがっかりしている。
「武器や防具はダンジョンでの取得をお勧めいたします」
秘書子さんがそう言う。
「秘書子さんが、武器や防具はダンジョンで拾えってさ」
俺はあきれ気味にそう言う。
「というか、ダンジョンとかって、私たちの今の状況で挑めるのか? 死んだりしないのか?」
一角がそう言う。
「ダンジョンへの挑戦は可能です。あくまでも神が作った演習場なので死ぬことはありません。一人でもHPが1になった時点で先に進めなくなるだけです。しかも敵は神の作った木製のゴーレムです。完全に管理されているので安全は保障します」
秘書子さんが一角の問いに答える。一角には聞こえないが。
「死ぬことはないらしいぞ。HPが1になった時点で先に進めなくなるだけらしい。ダンジョンといっても神様が作った演習場で危険はないらしい」
俺はそのまま秘書子さんの言葉を伝える。
「よければ、演習ダンジョンの解説をいたしましょうか? アスノ様への降臨を推奨します」
秘書子さんがそう言う。
「秘書子さんがダンジョンの説明してくれるって。明日乃の体借りたいってさ」
俺はみんなにそう言う。
「そうだね、ちゃんと聞いておいた方がいいかも? 私はいいよ」
明日乃がそう言う。みんなも頷く。
「ただし、10分、100ポイントで手短にね」
麗美さんが冷やかすようにそう言う。
「承知いたしました。10分で説明いたします」
秘書子さんはそう言うと俺の前から消え、代わりに明日乃の体が光り出す。
「なんか凄いわね」
初めてみる真望が驚いている。
そして、目を開けると金色の目、明日乃のいつもの黒い目ではない。秘書子さんが降臨した。
「それでは、手短に説明します。ダンジョンは別名、演習ダンジョンと呼ばれ、神が魔物と戦う前に実践的な戦闘に慣れる為と武器や防具の提供の為に作った施設です。中は5階層に分かれており、それぞれが迷路のような構造になっています。階層が深くなるごとに敵のレベルが上がり、迷路を進むごとに一度に襲ってくる敵の数が増えます。ただし、敵が5体以上で襲ってくることはありません。このように安全性に考慮された、あくまでも演習用のダンジョンです。それと、一度に入れる人数は5人までです。あと、眷属は入ることができません」
秘書子さんがそう言う。
一度に入れるのが5人、敵も最大5人。5対5の戦闘が約束されたダンジョンか。まんまゲームだな。
そして、レオは入れないのか。まあ、眷属は俺の成長に依存して強くなるみたいな話だったから当然と言えば当然か。
「敵っていうのが神様の作ったという木製のゴーレム?」
俺はさっき聞いたことを確認する。
「そうです。ダンジョンを管理する精霊により厳格に管理されたウッドゴーレムで、皆様がダメージを受けてHPが1になった時点で戦闘停止、ダンジョンから消え去ります。そして、ダンジョン自体も道が封鎖され、帰り道を戻る事しかできなくなります。そして、ダンジョンの入り口と出口はエントランスと呼ばれる階段でつながった部屋になっているので、いつでも外に戻ることが可能ですし、いきなり、最下層まで下りることも可能です。ただし、挑戦権、上の階層を踏破しないと次の層の扉は入れない設計になっています。もちろんクリア後の出口から入るのも不可です。そして、挑戦権は一人一人で管理されており、参加する全員に挑戦権がないと下層には入れません」
秘書子さんはそう続けた。
「挑戦権か。つまり、誰か一人で5層まで踏破したとして、次に仲間を連れて5層に入ろうとしても1層からやり直しと。養殖禁止のシステムかな?」
鈴さんがそう言う。鈴さんはお兄さんがいて、ゲームとかで遊んだ経験がちょっとあるっぽいな。
「その通りです。そして、ゴーレムは倒すとレベルごとにドロップアイテムを落とします。この島のダンジョンは初心者向けなので大したものは落としませんが、魔物のいる島、ハイレベルな島のダンジョンでは鋼の武具などもドロップするので、7つある島の魔物の討伐とダンジョンでの武具収集をお勧めします。それと、以前からお話している通り、最下層には報酬として、変幻自在の武器が1本だけ用意してあります。ご存じの通り有用な武器なので7本すべて回収をお勧めします」
「とりあえず、この島の最下層を攻略しないと、今ある変幻自在の武器もなくなるし、レオも消えるんだったよな?」
一角がまじめな顔でそう言う。
「そうです。1年貸与の契約なので、1年以内に攻略しなければ武器も眷属も回収となります。レベル上げの為にも毎日挑戦することをお勧めします。というのも、ダンジョンの挑戦は1日1回。誰かのHPが1になった時点で挑戦終了、明日の6時までダンジョンへの侵入が不可能になります」
秘書子さんが一角にそう答える。
「1日1回の挑戦か。そうしたら午前中か午後、駄目元で、挑戦し続けて経験値とレベルを上げていく感じかな?」
俺は今後の行動方針としてそう言う。
「まあ、何か大事な用事がある場合はパスしてもいいとは思うけどね」
麗美さんがそう言う。あくまでも義務ではなく推奨くらいのほうがいいか。
「そろそろ、10分が経過いたします。説明を終了してよろしいでしょうか?」
秘書子さんがそう言う。
「場所は、いつも水を汲んでいる泉の裏のあたりだったよね?」
俺は一応確認しておく。マップにはマークが出ているんだけどね。
「そうです。泉の奥が小高い丘になっていてその中腹にダンジョンはあります」
秘書子さんがそう言う。
「あとはいいかな? みんなも大丈夫?」
俺はみんなに確認して、秘書子さんにお礼を言う。
「また何かありましたら、リュウジ様を経由してご質問ください」
そう言って、明日乃が目を閉じ、体の光が弱まっていく。俺は急いで明日乃の体を支えに行く。
「あ、ありがとう、りゅう君」
そう言って明日乃が少しふらっとして俺の腕によりかかる。
「大丈夫か?」
俺は心配して聞く。
「うん、全然大丈夫だよ。秘書子さんが体から抜けるときに一瞬だけ力が抜けるだけ」
明日乃はそう言って笑い返してくれる。
とりあえず、心配なので、そのまま、地面に座り、明日乃を抱き寄せたまま話を続ける。
「そんな感じみたいだから、明日から、ちょっとダンジョンに挑戦する感じでいいかな?」
俺はみんなに聞く。
「それしかないだろうな。今、防具の交換ポイントも見たが、暴利すぎて、交換する気も起きなかったしな」
一角が少し怒りながらそう言う。
俺も気になって防具も調べてみる。
青銅の胸当て 20000
青銅の篭手 20000
青銅の靴 20000
青銅の盾 20000
青銅の兜 20000
鉄の胸当て 40000
鉄の篭手 40000
鉄の靴 40000
鉄の盾 40000
鉄の兜 40000
鋼の胸当て 99999
鋼の篭手 99999
鋼の靴 99999
鋼の盾 99999
鋼の兜 99999
「うん、暴利過ぎるな。今現在、琉生以外がお祈りして1日5000ポイント、20日以上お祈りしないと鋼の武具はもらえない。しかももらえるのは一部分だけだ。全部揃えたら100日コースだ」
俺はあまりの値段の高さにがっかりする。
「ダンジョンで拾いなさい。ってことだろうね」
明日乃がそう言ってため息を吐く。
「そう言えば、琉生、いつもの儀式やってないな? お祈りポイント測定?」
一角が楽しそうにそう言う。こいつは信仰心の低い仲間を求めている。
「?」
琉生が首をかしげる。
「ああ、神様に1日1回一生懸命お祈りすると、神様の力が貯まって喜ぶんだ。でそのお礼にお祈りポイントっていうのがもらえてそれが貯まると色々もらえる魔法の箱っていうのが、あるんだ。あれだな」
俺はそう言って、拠点の真ん中の大樹の下に安置された宝箱もどきを指さす。
「で、あれの前でお祈りして何ポイントもらえるかを競うのが、降臨した後の儀式みたいなものだ」
一角が期待するようにそう言う。
「ああ、そうなんだ。じゃあ、あの前でお祈りすればいいのかな?」
琉生がそう言い立ち上がるので、みんなも箱の周りに集まる。
「じゃあ、いくよ? 神様、一日も早く流司お兄ちゃんと結婚できますように」
琉生がそう言って一生懸命祈る。
「お祈りの内容は口に出さなくていいから」
俺はその内容に突っ込みを入れるしかなかった。
そして、箱の表示をみると『5800』から『6800』になる。
「琉生は1000ポイントか。結構、信仰心が高いな」
俺は琉生を褒めるようにそう言う。
一角が悔しそうな顔をする。
「琉生ちゃんは明日乃ちゃんの次くらいに純真そうだもんね」
麗美さんがそう言う。
一角は悔しそうに麗美さんを見る。麗美さんも1000ポイント組だしな。
結局、
俺、一角、鈴さん 500ポイント
麗美さん、真望、琉生 1000ポイント
明日乃 1500ポイント
という信仰心の高さの違いが分かった。そして1日に溜まるお祈りポイントは6000ポイントだ。
「まあ、もしかしたら、これから増えるかもしれないし、ね?」
明日乃が一角をそうフォローする。
「そういえば、ご飯まだよね? お腹空いたわ」
麗美さんがそう言い、とりあえずご飯を食べることになった。
明日乃が料理を始め、琉生がお手伝いをする。
「そういえば、鈴さん、石窯の準備はどんな感じ?」
俺は気になったので聞く。
「今日は石を運んだのが一角ちゃんと二人だったからあんまり量は運べなかったけど、明日もう少し運んだら石窯作りはできるんじゃないかな?」
鈴さんがそう言う。
「急いで石窯が必要になったら言ってね。私が水操作魔法で乾燥させてあげるから」
麗美さんがそう言う。
「仲間がそろって、比較的魔法が使いやすくなったのはいいね」
俺はそう言う。
「まあ、逆を言うと、ポイントを貯めてもナイフや武器は値段が高すぎて手が届かないことに気づいただけでもあるけどな」
一角がそう冷やかす。
「まあ、そうだな。ナイフはあきらめて日用品とか貰ったり、魔法で補助しながら自分で作ったりするのが正解かな?」
俺はそう言う。
「そうは言っても麻の服も意外と高いしね。下着ぐらいなら貰ってもいいかもしれないけど」
真望がそう言う。さすがファッションリーダー。真っ先に衣料関係の値段を調べたようだ。
麻の長袖ワンピースが5000ポイント、サバイバルを考えたら、ズボンも欲しいから5000ポイント、一人合計10000ポイントって感じらしい。
「あと、今着ている毛皮の服? なめし加工しないとパリパリになっちゃうかも? 材料探すのに時間もかかりそうだし、ポイントに余裕があれば魔法の箱でなめし加工お願いした方がいいかもね」
明日乃が料理をしながらそう言う。
明日乃の説明では、毛皮はそのままにすると固くなってしまうらしい。なめし加工という作業、ある植物からとれるタンニンという物質に浸けて柔らかくする作業が必要らしい。
「まあ、ナイフが高いといっても鉄のナイフくらいはもらった方がいいんじゃない? 15000ポイントだし、2日半で貯まるポイントだし、変幻自在の武器1本じゃ効率悪すぎるし」
鈴さんが冷静にそう言う。
「そうだね。鉄のナイフがあれば、木の棒に着けて槍代わりにもなるしな」
俺も同意する。
とりあえず、夕食ができたのでそれを食べながら明日の予定を決める。
明日は午前中ダンジョンに挑戦してみる。午後はそれぞれ作業をする。優先順位は石窯作りと麻糸作り、後はツリーハウスを作る為の竹集めかな。
夕食後、いつものお祈りをして、歯を磨き、就寝。見張りは前半麗美さん、真ん中がレオ、後半真望に任せて眠りにつく。
そして、明日乃がレオが見張りの時になると起きだし、
「りゅう君、寂しくなっちゃった。みんな寝てるから、ね?」
そう言って俺を起こし抱きつき甘えてくる明日乃。
レオはいいのか? レオは?
そんなことを考えつつも、まあレオならいいかと、明日乃の誘いに乗ってしまう俺だった。
次話に続く。
☆1名様ありがとうございます。
誤字脱字報告もいつもありがとうございます。