第34話 最後の仲間、7人目登場
【異世界生活 11日目 11:00】
昨日は寝るのが遅かったので、全員起きてそろったのは9時。みんなで朝食、その後、日課の麗美先生の剣道教室を終わらせ、各自、作業に移ろうとしたところで、目の前が明るく輝き出すと神様が現れる。
「よっ、今日は全員いるな。前回は、サプライズで仲間を登場させようと思って、突然登場してみたら、昼間なのにみんな寝ているし、テンション、ダダ下がりだったんだぞ」
そう言って、登場早々、愚痴りまくりの神様。
そんな事言われても知らないよ。と、みんな思うしかなかった。
「というか、一番困ったのは私なんですけど」
そう言って、ちょっと不機嫌そうにする鈴さん。
言われてみればそうだ。神様に召喚されてみたら、麗美さん1人しかいない。その後ばらばらに起きてくる仲間たちに自己紹介を合計3回、麗美さんへの簡単なものをも入れたら4回、させられた。一番タイミング悪い日と時間に召喚されたもんな。
「悪い、悪い。そして、前回を反省して、ちゃんと全員揃っていることを確認してから今回は登場したわけよ。で、お待たせの7人目、最後の仲間の登場だ」
神様がそう言って1人でかなり盛り上がっている。
「ちょっと待って」
真望がそう言って神様を止めてから、木の間に荒縄を張って干してあった、イノシシの皮を取りに行き、
「流司は後ろ向く」
真望にそう言われて俺は渋々後ろを向く。
「よし、これでいいわ。それじゃ、神様、7人目を呼んでくださいな」
真望はそう言って、持ってきた毛皮を構える。
「はぁ、なんか、勢いが削がれたが、まぁいいか。じゃあ、行くぞ」
「???」
「???」
なんか沈黙が続く。
「誰もいないじゃない?」
俺の背中の方から真望の声がする。
召喚失敗か?
そして、俺が気になって後ろを振り向いたところで俺の正面が光り輝き、
「お兄ちゃん? 流司お兄ちゃん?」
女の子の声がする。
正面を向き直すと、真っ裸の女の子が立っていた。
薄い茶色のミドルカット、胸もお尻も慎ましやかで腰のラインも直線的な少し幼い感じのする女の子。
「あ、琉生か。7人目は琉生だったか」
俺はそう言って、彼女の顔を確認する。
「えっ? 琉生ちゃん?」
明日乃が振り向く。
「わー、お兄ちゃん、変な格好。何しているの?」
そう言って、嬉しそうに抱きつく琉生。
久しぶりの感触が俺に伝わる。凹凸のない体なのにむっちりと吸い付くような柔らかさ。幼児体型って言うやつか。
「琉生ちゃん久しぶりだね」
明日乃がそう、琉生に声をかける。
「あんたたち、裸の女の子と抱き合ったり、普通に会話したりしないの」
真望がどう対応していいか分からず、毛皮を持って右往左往する。
「裸?」
そう言われて、体を見回す、琉生。
「あ、本当だ。まぁ、いいや。流司お兄ちゃんとは、よく、お風呂に一緒に入っていたし、将来、お嫁さんになるんだし」
琉生がそう言って、俺に抱きつき直す。
「お、おふ、お風呂!? お、お嫁さん!?」
真望があたふたして叫ぶ。
「昔の話だ。子供の頃の話」
俺は、あたふたする真望にそう言って、琉生を俺の体から引っぺがすと、真望にパスする。
真望は慌てて、毛皮で琉生の裸を隠す。
「よし、いい感じで再会を演出できたな」
神様が満面の笑みでそう言い、一仕事終えた感を出す。
この人、真望が俺に7人目の女の子の裸を見させないために画策したのに、俺の目の前にわざと登場させたよ。
「とりあえず、予定の7人を地上に転移させるのに成功したんで、神の力に余裕はできるな。ただ、無駄には出来ないから、その子への説明や自己紹介は後回し、これからの説明をするぞ」
神様が俺たちを急かすようにそう言うので、みんな聞く姿勢になる。
「仲間は全員、降臨させ終わった。これからは、祈る事で神の力が貯まり出す。で、前にも言ったとおり、余った神の力でお前たちが欲しいものを与えてやることができる。この間プレゼントした魔法の箱でな。ただし、複雑なものや素材的に自然界では希少なものは多くの力が必要で、時間が必要になる。あと、俺が作るのが面倒臭そうなものはNGな。テレビとか車とか、機械系は面倒臭いし、時間もアホみたいにかかるから作りたくない。そもそも、箱に入らない大きさのものはNGだしな。あと、ガソリンとか高エネルギーなものも凄く時間かかるからNGな。作れなくはないんだが、指の先ほどしかないガソリンとかもらっても嬉しくないだろ?」
神様がそう言う。
面倒臭いから作りたくないってなに?
「さらにオススメサービスも追加だ、前までに、材料集めてきて、魔法の箱に入れて、ポイントサービスのパターンは説明したな。例えば、鋼の剣が欲しいって言われるとものすごいお祈りポイントが必要だが、鉄鉱石と木炭を集めて魔法の箱に入れればポイントを割引しますってやつ? しかも、今回は、追加サービスだ。炉や道具も作って鋼の剣を自分で作りつつ、難しいところだけ神様手伝って。なら、少しのお祈りポイントで済むぞ」
神様がなんか、割引サービスの紹介みたいな事を始める。
「じゃあ、耐熱のるつぼとかも石英を集めてくれば簡単に作れるってこと? あと、耐熱レンガとかも?」
鈴さんが、格安サービスに飛びつく。
「あー、石英の構造や純度が近ければな。ただ、そこらへんの石とか拾ってきても、不純物を取り除いたり、結晶構造を変えたりしないとだめだから、かなり力は必要になる。耐熱レンガもそうだ。不純物を取り除き、希少金属を足して、焼き直す。かなりのエネルギーがいるな。なるべく、自然界にありそうな物の方が作るのは簡単だ」
神様がそう言う。
「上手いことできているわね」
鈴さんが少し悔しそうにそう言う。
「まあ、石英るつぼは比較的作りやすい方だな」
神様がそう言い、鈴さんは少し嬉しそうになる。
「あと、サバイバルナイフみたいな現代的なものを再現しろと言われても無理だ。ポイントいくらあっても足りないからな。異世界っぽい、鋼の短剣。みたいな方が俺的には楽だしな。まあ、魔法の箱を使ってもいいし、自分で作りたかったら、材料揃えたり、道具を作ったりして準備ができたら俺に声かけてくれ。力が貯まっていたら作るのを手伝ってやるぞ」
神様がそう締めくくる。
「そうだ、鋼の短剣といえば、この世界は武器と防具の需要が高いから、お祈りポイント滅茶苦茶かかるからな。どちらかというと、魔法の箱で召喚するより、ダンジョンで拾った方が安いし楽だぞ。箱での召喚は生活用品とかがおすすめだな。というか、7人そろったからそろそろ、ダンジョン攻略と魔物退治も始めてくれ」
神様が良く分からないアドバイスを足す。しかも魔物退治を催促してきやがった。
そして、ナイフが高いのはキツイな。あとで秘書子さんに必要なお祈りポイントを聞いてみよう。
「あと、明日乃は毎日、真面目に一生懸命祈ってくれるから、聖魔法が使えるギフトをつけてやった。これは、レベル11になったら、俺に祈る事で回復魔法が使えたり、防御魔法が使えたりするようになるからな。レベルが上がれば解毒とか病気を直したりもできる。ちょっと異世界っぽくていいだろ? あと、麗美も信仰心は低いが、人間の体の構造をよく理解しているからレベル11になれば治癒魔法も使えるようになるぞ」
神様がそう付け足す。
「まあ、わからない事は、流司経由で秘書子さんに聞いてくれ。俺があまり降臨し過ぎると力の無駄使いになるからな。じゃあな。なんか手伝って欲しい事、作りたいものできたら連絡くれ」
そう言って、言いたいことだけ言って去っていく神様。
「なんか、急に現れて、言いたい事だけ言って去っていったな」
一角が呆気にとられてそう言う。
「まあ、そういう事らしいから、毎日お祈りして必要なものを相談しながらもらったり、作るの手伝ったりしてもらう事にしよう。基本的に自給自足はかわらなそうだけどね」
俺はそう言って締めくくる。
「あと、ダンジョン攻略ってやつもやらないとな。武器が手に入るみたいだし、早くやらないと無料貸し出し中のレオが返却になるんだろ?」
一角がそう言う。
「そうだな、秘書子さんに相談しながら、ダンジョン攻略も始めよう」
俺は一角やみんなにそう答える。
「りゅう君、琉生ちゃんの事、紹介しないと」
明日乃が不満そうな顔をした真望に目配せしながらそう言う。
「ああ、そうか。この子は琉生。俺の母方のいとこで幼馴染み、俺と同じ高校の1年生。3年前に両親が海外転勤で海外に、日本に残りたかった琉生は、お婆ちゃんと二人暮らしで、うちの母親も面倒を見ていて、俺の家によくご飯食べに来たり泊まっていったりする半居候、妹みたいな子だな。俺の母親の妹が琉生の母親で子供の頃からよく遊んだ仲だ。風呂に一緒に入ったって言うのは子供の時の話だ」
俺はそう紹介する。
琉生のお祖母ちゃんの家は東京の山奥で琉生が通っていた中学校や高校は都内の中心部、長距離登校になる。なので、結構な頻度で俺の家に泊まっていったし、いつのまにか、客間は琉生の部屋になっていた。平日は俺の家で過ごして週末や休暇はお祖母ちゃんの家に帰るみたいな感じだ。
「私もよく遊んだから、私にとっても妹みたいな感じかな」
明日乃もそう言って、仲良さそうに笑い合う2人。
そういえば、琉生の両親が日本にいたころは家が近所だったし、明日乃と3人でよく遊んだな。最近は明日乃の父親とうちの父親の交流が減ったから、あんまり会えてなかったみたいだけどな。
そして、琉生にもこの世界の事を説明する。
この世界が、さっきの神様が作った異世界で異世界転生させられた事。
神様は毎日お祈りすると喜ぶこと。
魂10分の1が分霊されて転生された事、残りの10分の9の魂を持つ本体が向こうの世界で普通に暮らしていて、帰れないこと。
この世界でみんなと協力してサバイバル生活しつつ、生活水準を上げていくこと。
「そんな感じなんで、改めて、サバイバルに使えそうな特技なども踏まえて自己紹介してくれ」
俺のいつもの無茶振りをする。
「馬渕琉生です。高校1年生です。流司お兄ちゃんの紹介の通り、お兄ちゃんのいとこです。部活は園芸部でお花を育てたり、動物を育てたりするのが好きです。夢はお兄ちゃんのお嫁さんになる事です」
なんか、子供の自己紹介みたいなゆるい挨拶が終わり、ぱちぱちと生暖かい拍手がなる。幼稚園か?
「琉生のおばあちゃんは東京の山奥で農業したり、動物を飼ったりして自給自足していたから、それを手伝っていた琉生も結構、ガチの自給自足のプロだぞ。動物を飼うのが好きって、こいつの場合、食べる為に育てるのが好きっていう、かなりのガチだ。鳥をしめてさばくのも上手いぞ」
俺はそう付け足す。
名前をつけて可愛がっていたニワトリを美味しそうに食べる琉生を初めてみた時はかなりドン引きしたからな。
「お嫁さんになるのが夢なら、色々問題は無さそうだな。というか、明日乃はいいのか?」
一角がそう言い、明日乃の様子を伺う。
「うーん、琉生ちゃんならいいかな。可愛いし、素直だし、私の妹みたいだし、2人でりゅう君のお嫁さんになっても、姉妹みたいに仲良くできそうだし、全然問題ないよ?」
明日乃がそう言って、琉生も嬉しそうに笑う。
琉生の登場で、将来の子作り問題に対し明日乃も少し寛容になれるかもしれないな。
「明日乃ちゃん公認のお嫁さんナンバー2なのね。強敵が現れたわ」
麗美さんが訳の分からないことを言う。
「もちろん、今は無しだぞ。まあ、俺としたら妹みたいなもんだしな。体型もまだ子供だし」
俺はそう言う。
「子供じゃないよ。胸だって少しずつ大きくなっているし、もう少ししたら体もナイスバディなお姉さんになるんだからね」
琉生がそう抗議する。
俺としては、そう言う話ではなく、体型が幼児体型だし、妹みたいに暮らしてきた存在だから異性として見られないんだよ。
「とりあえず、琉生との結婚のことは琉生が18歳になるまで待て。それに俺は明日乃に一途だしな」
俺はそう言って琉生を止める。
なぜか明日乃はちょっとうれしそうな顔をしている。
「結婚解禁は2年後かぁ、お姉さんたちにはつらいわね」
麗美さんがさらに訳の分からない事を言う。
琉生が18歳になっても本当に結婚できるか分からないし、麗美さんが結婚できるかも分からない。ぶっちゃけ明日乃の気持ち次第だ。
琉生の尻尾はふわふわで可愛く、頭の上に小さい耳がちょこんとついている。真望の狐の尻尾には劣るが、なかなかのふわふわでモフモフだ。
ちなみに、いつもの明日乃の中二病的解説によると、琉生の尻尾はリスっぽいので、七つの大罪は『暴食』、美徳は『節制』ということだ。
まあ、確かにそれっぽいな。琉生のおばあちゃんは超節約家だったし、琉生自身は食べる事、大好きだもんな。食べるためにお祖母ちゃんの家で鶏いっぱい飼っていたらしいし。
琉生がおばあちゃんの家から帰ってくるとたまに持ってくる鶏肉を思い出す。生きていた頃は名前のついていた鶏肉だ。
ちなみに、琉生を鑑定してみると、レベルは6で職業はテイマー。動物好きだからか? ただし、この子が動物を飼う目的は大抵、食べる為なんだが。
そして、魔法の箱の数字は『6500』になっていた。昨日、麗美さんが乾燥魔法を結構つかったしな。
ちなみに現在の各自のレベルはこんな感じだ。
流司 レベル10 レンジャー見習い 剣士見習い
明日乃 レベル8 神官見習い 聖魔法使い見習い 剣士見習い
一角 レベル10 狩人見習い 剣士見習い
麗美 レベル10 医師 剣士 治癒魔法使い見習い
真望 レベル7 剣士見習い
鈴 レベル8 鍛冶師見習い
琉生 レベル6 テイマー見習い
明日乃に聖魔法、麗美さんに治癒魔法使いのギフトがついた。
レベル11になるとそのあたりのスキルも増えてかなりRPGっぽくなるらしいからもうひと頑張りだな。
「とりあえず、生活が安定しだしたら、農業とか、畜産もやりたいから、その時になったら主戦力として活躍かな。今のところ、家も落ち着かない状態だから、明日乃に聞きながら他の人のお手伝いって感じかな?」
俺は、琉生の主張を聞き流しながらそう言う。
「米とか、せめて小麦が欲しいな。パンやうどんが食べたい」
一角がそう言う。
「一角ちゃんが探索に行くとき、琉生ちゃんも一緒に行くといいかもね。野菜の種とか苗とか見つけて育ててもいいし、小麦とかあったら欲しいし」
明日乃が一角と琉生にそう言う。
俺は気になって小麦がこの島にないか、アドバイザー神様の秘書子さんに聞いてみる。
「小麦はここから北西に向かった島の反対側にあります。野生の野菜もそこに生えています。少し小高い丘があるので往復は苦労するかもしれません」
秘書子さんがそう言って、マップにマッピングしてくれる。未踏の地なので真っ暗なところにマークがつく。
「一角、この島に、小麦があるらしいぞ。ただし、小高い丘があるからちょっと行くのは大変らしい。あと、そこには野菜っぽい植物もあるらしい」
俺はそう教えてやる。
「行きますか?」
「行こう!!」
琉生と一角が意気投合する。
「もう少し生活が落ち着いてからだぞ。とりあえず、拠点を移したばかりだし、ツリーハウスを作って安全性が確保できてからだ」
俺はそう言う。
「引っ越しするなら農業ができるところがいいな」
琉生がそう言う。
「いやいや、引っ越ししたばかりでそんなこと言われてもな」
琉生の意見に俺は困ってしまう。
「まあ、畑とか通えるところなら、早起きして通ってもいいけどね」
琉生はそう言って、気持ちを入れ替える。
「引っ越しはもう少し待ってね。今、貝殻を焼く釜を作ろうって話になったばかりだし。生石灰ができたら、もしくは石鹸ができたら移動しよ?」
鈴さんが琉生にそう言う。
琉生にはちょっとわからなかったようで首をかしげる。確かに貝殻とか生石灰と言われてもな。
「窯とかせっかく作ったのに引っ越すとかって、もったいなくない?」
俺は気になって聞いてみる。
「ああ、釜は今のところ使い捨てだから。粘土とそこらへんに落ちている石だと、1回使うと高熱で溶けて壊れちゃうだろうし」
鈴さんがそう言う。
「麻の生えてないところは嫌よ? 布が作れなくなっちゃうし」
真望は引っ越しに否定的だ。
「泉から離れちゃうのももったいないね。あんなにきれいな水が沸くんだし」
明日乃も否定的だ。たぶん、水浴びがしたいだけだ。
「そうだよな。水や素材を確保するという観点だと、今の拠点ってかなりいいんだよな。でも農業を始めて生活の安定化は図りたいし、かといって、ばらばらに生活するのは寂しいしな」
俺は拠点について悩む。
このあたりは海岸が近く平地が少ない。農業はできたとしても小規模なものになるだろう。
「まあ、島全体を探索してから考えてもいいんじゃないか?」
一角が楽観的にそう言う。
「まあ、そうだね。捕らぬ狸のなんとやら、みたいな?」
琉生もそう言ってくれた。
「まあ、とりあえず、拠点はここにして将来考えなおせばいいか。島もほとんど探索してないしな」
俺はそう言い、みんなも、そんな感じに落ち着く。
「というか、思い出したけど、川に浸けた麻の茎どうなったの? そろそろいいんじゃない?」
真望がそう言う。
「毛皮も乾いたし、洋服も欲しいね」
明日乃が琉生のかぶっている毛皮を見てそう言う。
「簡単な洋服なら、すぐできるわよ。流司、ナイフ、変幻自在の武器ってやつ貸して」
真望はそう言うと、洗い終わった熊の毛皮を持ってくると、琉生の体を紐で測りながら竹の棒を定規のように使って、ちゃっちゃとナイフで切り、ところどころに穴をあけ、竹ひごで麻紐を通してなんかそれっぽいものを作る。
「琉生ちゃん、ちょっとこっちきて」
真望がイノシシの毛皮にくるまれたまま、大きな木の裏、俺が見えないところに移動する。
そして、数分後、
「じゃーん、簡単な貫頭衣だけどどう?」
真望はそう言い、琉生を連れてくる。
琉生が着ているのは、熊の毛皮に頭を通す穴を作って脇の部分は毛皮に穴をいくつも開けて紐靴のように麻紐を通して閉じただけのシンプルな貫頭衣。ちょっとフォルムがおしゃれで、袖なしのワンピースと言えなくもない。
「うん、可愛いね。ちょっと暑そうだけど、ワンピースもいいね」
明日乃が琉生の毛皮のワンピースを見てそう言う。
「将来的には冬に向けて防寒着も考えないとな」
俺がそう言う。
「そこらへんはちゃんと考えて、少しぶかぶかに作ってあるわ。両脇をしっかり閉じて、袖をつければ防寒具にもなる感じよ」
真望が自分の作品を自慢げに語る。
「私も洋服欲しいな」
明日乃がそう言う。
「うーん、今の毛皮の枚数だと、クマの毛皮が1枚、イノシシの毛皮が1枚、洗う途中のイノシシの毛皮が1枚って感じ? 作れる洋服は、熊の毛皮であと2着、イノシシの毛皮で2着、もう一枚の毛皮が洗い終わればもう2着って感じかな?」
真望が毛皮の大きさを見てそう言う。
「とりあえず、俺は最後でいいぞ」
俺はそう言う。
「だったら、お姉さんも我慢しないとね」
麗美さんもそう言う。
葉っぱの洋服で我慢させるのは悪いな。
「とりあえず、真望、5人分、簡単にでいいから作ってもらっていいか?」
俺は真望にお願いする。
「いいけど、終わったら、川に沈めたっていう麻の茎を見に行くわよ。そろそろ皮が腐って繊維を採るのにいい感じなんでしょ?」
真望がそう言うので、午後は麻の群生地に行くことにする。ついでに残ったイノシシの皮も洗いに行くか。
「昨日、麗美さんに乾燥してもらった土器も焼かないとね」
明日乃がそう言う。
「とりあえず、明日乃ちゃん、洋服作っちゃうから、計らせて」
真望がそう言っててきぱきと作業をする。
「私も手伝うよ」
鈴さんはそう言って洋服作りに参加する。
鈴さんは手先器用そうだし、真望と同じようにファッション業界にいたみたいだし、任せよう。
なんか二人で楽しそうに服を作っているのが印象的だった。
とりあえず、俺、麗美さん、琉生とレオの4人でお昼まで元の拠点のそばまで戻って薪や枯草を集めて土器を焼く準備。
明日乃は洋服ができ次第、お昼ご飯作り、一角、鈴さんは洋服の採寸待ち、真望はひたすら洋服作りだ。
俺は薪や枯草を集めて帰ってくると、
「ねえ、りゅう君、可愛い?」
明日乃がそう言って出来立ての毛皮の服を見せてくる。
明日乃はクマの毛皮だろうか? 黒い毛皮と、明日乃の髪の毛、そしてうさ耳の黒がよく似合っていて確かに可愛い。
「ああ、可愛いし、よく似合ってるよ」
俺はそう言って素直に褒める。
「私のも可愛いでしょ?」
そう言って真望がイノシシの毛皮でできた茶色いワンピースを見せてくる。
「私もお兄ちゃんに褒めて欲しいな」
琉生が俺の前でくるりと回ってそう言う。
とりあえず、興味がなさそうな、一角と毛皮待ちの麗美さん以外、全員、一生懸命褒めないと終わらなそうだったので、一人ひとり一生懸命褒める。
【異世界生活 11日目 14:00】
少し遅い昼食を食べてから、午後は、土器を焼くたき火に土器をならべ上から枯草や薪をのせて火をつける。
明日乃と麗美さんが火の番をするらしいので、土器は任せて、俺と真望と琉生で、麻の茎を様子見に。帰りに残った毛皮も洗う感じだ。
一角と鈴さんとレオは河原に石を採りに行くらしい。石窯作りの準備だろうな。
麻の群生地まで向かう途中、琉生にステータスウインドウや魔法の説明をしながら移動する。
「琉生の固有魔法はなんだった?」
俺は興味本位で聞いてみる。
「私は、土の属性が得意で、固有魔法は土を操るだって。説明を見た感じ結構使えるかも? 土を操れるし、土の中の菌を操ってものを腐らせたりできるらしいよ。畑の堆肥つくるのにいいかもね」
畑仕事も好きな琉生が嬉しそうにそう言う。
「それって、麻の茎とかも腐らせられるのか?」
俺は今の話を聞いて驚き、聞いてみる。
「うーん、土に接していれば? もしくは菌が育ちやすい状況ならば、できるかな? だいたい10倍ぐらいに腐敗を進められる感じ? そして、材料あれば発酵食品も作れるかもよ? なんか腐り具合とかも菌と相談できるみたいだし」
琉生がそう言う。
「琉生、それって、かなりの当たりスキルじゃないか? サバイバルでは特にな」
俺は発酵食品と聞いて口の中に懐かしい醤油の味が拡がる。
「材料ないとダメだけどね」
琉生がそう言う。
ちなみに、秘書子さんに、大豆はないか聞いたところ、この島にはないらしい。もしかしたら他の島にあるかもしれないので魔物の討伐をお勧めしますと言われた。
あの神様め、大豆を魔物退治の報奨にする気だな。俺は薄々勘づく。
とりあえず、川に着き、沈めた麻の茎を確認する。秘書子さん曰く、少し早いけど、大丈夫だろうとのことなので、回収してくる。そして、次回の為にも、また、麻の茎を大量に切って、川に沈める作業もする。前回、結構な量を川に沈めておいたので3人でも結構な重労働になってしまった。
「琉生は見かけによらず力持ちだな。助かるよ」
俺は小さい体なのに結構な量の麻の茎を運んでくれる琉生を褒める。
「おばあちゃんの畑や田んぼでお手伝いしていたから、こういう物を運ぶの、結構、得意なんだよ」
琉生が褒められてちょっとうれしそうにそう言う。
「力仕事では明日乃ちゃんより使えそうね」
真望も感心する。
明日乃はインドア派で運動ダメだし、力もないからな。
「そういえば、私の魔法試してみる? 土に寝かせてあるほうの麻の茎、魔法をかけておけば明後日ぐらいにはいい感じになってると思うよ」
琉生がそう言う。
真望も俺に懇願するようにきらきらした目で俺を上目使いで見つめている。
「しょうがないな。じゃあ、試してみるか。お祈りポイントを勝手に使って魔法を使うのは気が引けるが俺がみんなに謝るよ。かなり有用そうな魔法だしな」
俺はそう言う。
麗美さんの水を操って乾燥させる魔法、琉生の土と菌を操って物を自由に腐敗させる魔法。組み合わせ次第でかなり有用な魔法だよな。
そんな感じで、とりあえず、地面に倒しておいた麻に、琉生の魔法をかけてもらう。結構な面積だったので魔法を5回、使わせてしまった。
あと、おまけで水に浸けておいた麻も地面に並べて少し足りなかった腐敗度を足してもらった。
「10倍の腐敗にすると魔法がかけられる面積が狭くなるみたい。逆に腐敗スピードを遅らせると魔法をかけられる面積が増える感じみたいだよ」
琉生が魔法をかけた後の雰囲気を教えてくれる。
明日乃の光魔法とおんなじ感じか。光を強くすると時間が短くなるみたいなことを言っていたのを思い出す。
麻の茎を拾い直し、拠点に戻る。途中、泉のそばで毛皮を洗い、竹を切って水筒を作り、飲み水も汲んでいく。
拠点に戻って、イノシシの毛皮と麻の茎を干し、残りの時間で、元の拠点から運び忘れた、粘土や水瓶、薪などを、真望と琉生と一緒に運ぶ作業をし、今日も陽が暮れるのだった。
次話に続く。




