第32話 麗美さんの告白と黒曜石で刃物作り
【異世界生活 9日目 10:00】
鈴さんの紹介と朝食が一段落ついたところで、
「じゃあ、流司クン、私と泉に行こう」
麗美さんが目を輝かせて、そう言う。目的は明白だ。
「麗美さん、りゅう君と二人きりはダメ! 毛皮を洗うだけなら、私も行きます」
明日乃が怒り気味に言う。
「鈴さんはどうする?」
俺は新らしい仲間の鈴さんに声をかける。
「私は、少し、状況確認をしたいかな。キャンプに何があって、周りがどんな感じでどんなものがあるのか少し散策したい」
鈴さんはそう言う。
「だったら、鈴さん、一緒に来る?」
俺は水汲みに鈴さんを誘う。
「いや、今日はキャンプの周りを見るくらいでいい。自分の家も作らなければならなそうだし」
鈴さんはそう言って断りを入れる。
「あ、でも、麗美さん、泉に行くのは、日課の剣道教室やってからだよ」
俺は麗美さんに断りをいれる。
「なにそれ?」
鈴さんが不思議そうに首をかしげる。
「ああ、この島には凶暴な動物とかもいるから護身の為に麗美さんから、剣道や杖術を習っているんだ。それに毎日鍛錬すると経験値が貯まってレベルも少しあがるみたいだし」
俺はそう言って鈴さんに説明する。
「??? 経験値? レベル?」
鈴さんがさらに首をかしげる。
俺は鈴さんにこの世界にはゲームっぽい部分もあることを説明することを忘れていた。
ステータスウインドウの開け方、『鑑定』スキル、マナというよく分からない魔法の素みたいなルールの話、そして経験値とレベルについて。
一通り説明してあげる。
「なんか、兄さんが子供のころにやっていたロールプレイングゲームみたいね」
鈴さんがそう言う。お兄さんがいるらしいな。初耳だ。
「ああ、まさにそんな感じだね」
俺も鈴さんの意見に同意する。
ちなみに、鈴さんを『鑑定』したところ、職業は鍛冶師見習い、レベルは8だった。
付け加えると俺と仲間達の状況はこんな感じだ
流司 レベル9 レンジャー見習い 剣士見習い
明日乃 レベル8 神官見習い 剣士見習い
一角 レベル9 弓使い見習い 剣士見習い
麗美 レベル10 医師 剣士
真望 レベル6 ノービス
鈴 レベル8 鍛冶師見習い
うーん、このリアルサバイバルな世界に混ざるゲームっぽさ? 違和感しかないな。
「あと、魔法が使えるんだけど、マナという力が必要で、それが、レベルを上げる経験値でもあって、レベルアップを優先しなくちゃいけないから、あまり積極的には使えないんだよ。ただ、神精魔法という、さっき言っていた、お祈りポイントを使って魔法を使う方法もあるんだけど、そっちは仲間を召喚する為にも使うから、こっちもあまり積極的にはつかえない。また、お祈りポイントは貯めると神様から欲しいものが貰えるようになるからあまり無駄使いもしたくない。当分は積極的につかえないかな?」
俺はそう言って、魔法の仕組みを説明し、あまり頻繁には使えないこと、生活に使えそうな魔法と、一人一人に得意な属性があって固有魔法を持っていることを教えてあげた。
「私は金の属性ね。金属を操る魔法、と言っても砂鉄や砂金を見つけて集めるみたいな微妙な魔法ね」
俺の説明を聞いてスキルウインドウを見ながらそう言う鈴さん。
鈴さんらしい魔法だ。
「というか、私、説明されてないけど? 魔法とか教えてもらって無いけど? ステータスウインドウ? なにそれ?」
真望が俺たちの会話を聞いてキレる。
そういえば、教えてなかったな。
「ま、そういうことだ」
俺は説明を省略する。真望はアホの子なので説明するより体で覚えた方がいいだろう。説明するのが面倒臭いわけではない。
「そういうこと、って、どういうことよ?」
真望がさらにキレる。
「真望ちゃん、私が教えてあげるから、ね?」
そう言って、明日乃が丁寧に教えてあげる。うん、大変そうだな。俺がやらなくてよかったよ。
結果、真望の得意な属性は火で、火を少しだけ操れるらしい。狐耳に火の魔法。まあ、それっぽくていいんじゃないか?
「私の魔法は、多分、将来的にだけど、金属加工にも役立つかもしれないね。かなりレベルアップが必要かもしれないけど」
俺は鈴さんにそう言って話を締めくくる。
「まあ、当分は普通にサバイバル生活しなさい。ってことかな」
俺がそうアドバイスすると、鈴さんはちょっとがっかりする。
【異世界生活 9日目 11:30】
とりあえず、鈴さんと真望の魔法レクチャーが終わり、日課の剣道教室にてみんなで特訓をする。
鈴さんは体力もあるし、筋が良さそうだ。真望もノリで結構動けている。悪くないんじゃないか?
で、一応恒例の、信仰心チェック。魔法の箱の前で、鈴さんにお祈りをしてもらう。
「500だね」
「お、私達の仲間だな」
俺がお祈りポイントを計算すると一角が嬉しそうにそうそう言う。
「これは高いのか? 低いのか? 信仰心ってやつ?」
鈴さんが答えにくい事を聞いてくる。
「た、高くはないかな?」
言葉を濁す俺。
「まあ、そうだろうね。グレてたころは、神様がいたら、この世に悪徳政治家なんて存在できるわけないし、そもそも悪人は存在しない。だから神なんていない。そんな事考えていたしね」
鈴さんがそんな昔の自分を笑う様に言う。
「ま、まあ。この世界には神様いるしな」
俺は何と答えていいか分からず、笑いながらそういう。
「そうだね」
鈴さんも色々吹っ切れた顔で笑う。
とりあえず、俺と明日乃と麗美さんは泉に毛皮を洗いに行くことにする。朝ごはんが遅かったので帰ってきたら食べるという話になった。
「一角と真望はどうする?」
俺はこの後の行動を聞く。
「とりあえず、私たちは鈴さんと探索したあと作戦会議だな」
一角がそう言う。
「?」
俺はよく分からない。
「私の弓矢の強化と」
「私が布を作る為と」
「私が錬鉄をするための」
「作戦会議よ」
一角、真望、鈴さんが声を合わせてそう言う。
まあ、何かやりたいことがあるんだろうな。
とりあえず、レオには拠点防衛を任せることにする。真望も鈴さんもこの世界に来て日も浅いしな。と言うか俺もまだ1週間程度か。
「とりあえず、黒曜石は無駄にするなよ。石包丁と石斧、そして槍の穂先を作るのが最優先だからな」
俺はそう言ってから、明日乃と麗美さんと泉に向かう。
「そうそう、帰りに竹も持てるだけも採ってきてね」
真望が後ろからそう叫ぶ。何を作りたいんだろうな?
「あー、私は粘土が欲しいな。なるべくたくさん」
鈴さんが便乗してそう叫ぶ。
「というか、一角、真望。昨日サボった干し肉作り。先にやれよ。浸けた肉をかごに並べて干すだけでいいから、それやってから自分の事しろよ」
俺は振り返り、そう言い返す。ぶっちゃけ、鈴さんの登場で、昨日の夜、海水に浸けておいたイノシシ肉の存在を忘れていた。
そんな感じで猪肉を干す作業をキャンプに残るメンバーに任せ3人泉に向かう。
「あーあ、折角、流司クンと二人っきりで水浴び行く予定だったのにな」
麗美さんが歩きながら残念そうにそうつぶやく。
「麗美さん、そうやってふざけてからかわないで下さい」
明日乃が少しおこる。
「別にふざけていないし、からかっていないわよ。私は本気で流司クンのこと好きだし」
麗美さんがそう言って笑う。
明日乃が驚き、そして無言になる。
「あ、でも、今の状態も好きなのよ。壊したくないし、明日乃ちゃんの立場を奪おうとしたらこのパーティがめちゃくちゃになるなっていうのも予想できる。明日乃ちゃんは可愛いし、頑張っているし、色々我慢していると思うし」
麗美さんがそう続ける。
「まあ、私は流司クンの明日乃ちゃんに健気に恋する男の子って感じも好きだったから。特に高校受験の時の必死さと一途さは、私がうらやましくなっちゃうくらい、嫉妬しちゃうくらい素敵だったし。かっこいいところ見せつけられちゃったんだよね」
麗美さんがそう言う。この人は何が言いたいんだ?
「麗美さんには高校受験の時に本当に助けられたよ。明日乃と同じ高校に行けたのも麗美さんが一生懸命勉強を教えてくれたからっていうのもあるし」
俺はそう言って、改めて麗美さんに感謝する。
「そうだね。中学2年生の頃の流司クンの学力じゃ、どう考えても、あの高校はかすりもしなかったもんね。そんな努力と必死な姿を私は2年間見続けちゃったんだよ」
麗美さんは何か言いたそうにそういう。
「告白しちゃうけど、多分、私は、その時に、恋する男の子に恋しちゃったんだろうね。多分私は、流司クンと出会わなかったら恋をすることも知らなかった。実際その時まで恋ってものを知らなかったからね。でも、流司クンに会って、私も明日乃ちゃんみたいに一途に愛されたい。そしてそんな一途な流司クンを愛したい。そんな感情が生まれてしまったの。流司クンは私に恋を教えてくれた家庭教師さんなんだよ」
麗美さんが胸のあたりでぎゅっと手を握ると寂しそうにそう笑う。
明日乃はそんな麗美さんの告白を聞いて驚く。
「だから難しいのよね。流司クンと明日乃ちゃんが上手くいかなかったら、関係が壊れちゃったら、恋する流司クンっていう私の理想も壊れちゃって恋も冷めちゃう。かといって、2人が上手くいくと私は独りぼっち。多分、私はもし他の男性が現れても、流司クン以外に恋心を感じることはないと思うのよね。そして、私の恋は、流司クンの明日乃ちゃんへの恋心への憧れと嫉妬でできている。だから、無意識に意地悪しちゃうんだろうね」
麗美さんが複雑な思いを吐露する。
「結局何が言いたいかというと。たまに意地悪な事は言っちゃうかもしれないけど、2人の邪魔はしないわ。だって、2人が上手くいかなかったら私の恋心も冷めちゃうんだもん」
麗美さんがそう言って笑う。
「ま、2人が上手くいって、将来結婚して、子供もできて幸せで、余裕もあったら、私にも少し幸せを分けて欲しいかな? 一角ちゃんに聞いたけど、最後の仲間も女の子なんでしょ? 男の子は1人も来ない。来るとしても次の世代だって」
麗美さんがそう言う。
「そうなの?」
明日乃が俺に聞く。
「明日乃はまだ、一角から聞いていなかったか。実はそうらしい。神様が、男が二人いると喧嘩するから、女性の取り合いをするだろうからって、この世代の男は俺一人に絞ったらしいんだ」
俺はそう明日乃に答える。
「そうなんだ。確かに、男の子がいっぱいいたら喧嘩になりそうだし、女の子の取り合いになって、りゅう君以外の人とそういう関係になるのは嫌。そこは理解できるけど、りゅう君が他の女の子と仲良くするところを見るのもつらいよ」
明日乃が悲しそうにそう言う。
「でも、麗美さんの辛さも分かるし、なんか難しいね」
明日乃がそう付け足し、麗美さんと向き合う。
「麗美さん、とりあえず、時間をください。私とりゅう君が身も心も大人になって、色々、許せる大人になるかもしれないし、なれないかもしれない。でも他の女の子の気持ちになると辛さも分かる。とりあえず、この世界が平和になって生活環境が整って、落ち着いて生活できるようになったら改めてりゅう君と考える。それでいいかな?」
明日乃が苦しそうにそう言う。
こんな問題、普通の女子高生が考えることじゃないよな。もちろん俺も考えなくてはいけないのだが、何が正解なのか分からない。わかっているのは明日乃が一番好きってことだけだ。
「ふふっ、期待しないで待ってるわ。できればおばあちゃんになる前に結論は出してね」
麗美さんはいつもの俺達をからかう口調でそう言う。
少なくとも、麗美さんの気持ちは冗談でもおふざけでもなく、本当に俺の事が好きだってことは分かった。少しいびつな恋心だってことも。
俺達はその後、泉に到着、明日乃と麗美さんが水浴びを始め、俺はその間、近くにある粘土のとれる地層の見える崖に行き、粘土を採取。泉に戻り、俺が水浴びをする間、明日乃と麗美さんが下流の川で毛皮を洗う。そして最後に竹を持てるだけ切り倒し、水筒も作り、飲み水を汲んで拠点に帰る。
【異世界生活 9日目 15:00】
俺達が拠点に着くと3時を過ぎていた。
「一角、ちゃんと干し肉干したか?」
到着早々俺はそう言う。
「悪い、会議が盛り上がって、それどころじゃなかった」
一角が悪びれることもなくそういう。
「もう、しょうがないな。じゃあ、私が今からやるよ」
明日乃が呆れた顔でそう言う。
「私も手伝うわ」
そう言って麗美さんも猪肉干しを手伝い始める。
「それで、一角と真望と鈴さんは何を会議していたんだ?」
俺は一応聞いておく。
「私は弓矢や槍の強化だな。製鉄ができるようになったら金属の鏃や槍の穂先を作ってもらうって話だ。あと将来的に本格的な和弓づくりを鈴さんに手伝って欲しいなって」
一角がそう言う。
「で、私は、麻糸ができた後の布づくり? 手で編むのは時間がかかり過ぎるから、はた織り機が作りたいなって。まあ、本格的なやつじゃなくて、子供が遊ぶおもちゃみたいなやつを竹で作れたらなって相談していたの」
真望がそう言う。
「私は製鉄もそうだが、石鹸づくりとかにも生石灰が必要で、生石灰を作るには高温の窯で貝を焼く必要がある。だから、早いうちに貝を焼く窯を作りたいなって。粘土も使うから乾燥に時間がかかるだろうし。それで、石の運搬とかも協力して欲しいかなって、そんな話をしていた」
鈴さんがそう言う。
「とりあえず、一角の話は置いとくとして、早急に石窯作りと、はた織り機が作りたいってことだな」
俺はそう答える。一角の話は製鉄が確立してからの話だもんな。
「とりあえず、石窯は石の運搬が大変だから明日以降でいいと思う。だから、私は、真望に頼まれたはた織り機の部品作りでも今日はやろうかなって」
鈴さんはそう言う。
「私もはた織り機もないし、麻糸作りすら始められない状態だから、今日は黒曜石の刃物づくりを手伝う感じかな?」
真望がそう言う。
「まあ、私は目的が槍と弓矢の強化だから、私もとりあえず黒曜石の加工だな」
一角はそう言う。
「じゃあ、その役割で進むか。一角と真望が肉干すのサボったのは許さないけどな。あとで何か罰を考える」
俺はそう言って、作業に移ることにする。ちなみに俺は洗った毛皮を干してから黒曜石の加工の組に入る。
とりあえず、変幻自在の武器は鈴さんに貸すことにする。はた織り機の部品作りに工具は必須だしな。
「りゅう君、黒曜石を加工する時、イノシシの牙使うといいかもよ? 昔見た動画で動物の角使って仕上げをするとほどほどの硬さで細かく削れていい感じに尖るらしいよ。石で割ると細かいところが上手く割れなくてどうしてもうまくいかないみたい?」
明日乃がそう言う。動物の角で黒曜石の層状の部分をパリパリはがす感じで作るらしい。
とりあえず、明日乃が知っている限りの黒曜石の加工方法のレクチャーを聞く。
昨日、イノシシを解体したときにイノシシの牙と尖った骨を何本か、明日乃が残しておいてくれたらしい。
俺もアドバイザー神さまの秘書子さんに色々聞いて情報共有し、作業に入る。
俺、一角、真望が黒曜石の加工を始める。
それぞれ、作業台になりそうな大きな岩の上に黒曜石を置きなるべく大きい石をハンマー代わりになるべく薄く割れるように叩き割っていく。
「結構、固いし、上手く割れないのよね。というか、明日乃ちゃん、イノシシの牙の件、もっと早く言って欲しかった」
真望がそう言う。昨日も苦戦したらしい。
というか、昨日はお前たちが勝手にフライングしたんだろ? と突っ込みを入れたくなった。
「結構、適当に割って、良さそうな物をピックアップしていく方が楽な気がするぞ」
一角はそう言って結構豪快に割っていく。
「とりあえず、黒曜石は切れ味が良いが、刃こぼれするのも早いらしいから、切れ味がそこまで必要ない作業や摩耗が激しい作業は今まで通り普通の石を研磨した方が良さそうだな」
俺はそう言う。石斧とかは普通の石製と黒曜石製で使い分けが必要かな?
3人が作りたいものを聞いていくと、俺は石斧、石包丁、槍の穂先、一角は石包丁を作りつつ、矢の鏃を作りたいらしい。真望はとにかく、カミソリになりそうな鋭い刃物だそうだ。
「それじゃあ、とりあえず、槍の穂先になりそうな黒曜石、もしくは石包丁をめざしつつ、失敗して小さく割れてしまったものをカミソリに、小さいものでも形が良さそうな物は鏃に使う。そんな感じでどうだ? いきなり鏃めざして作ってしまうと失敗で失う黒曜石が多そうだしな」
俺はひたすら鏃を作る気満々な一角とひたすらカミソリを作りそうな真望をけん制する。というか、お前ら、昨日も作っていたんだよな?
「そうだな。それも一理ある。今一番必要なのは全員が使えて攻撃力のある槍だしな」
一角が賛同してくれる。真望も理解したのかしぶしぶ同意する。
「それと、石斧とかに使えそうないい感じの大きさと薄さで割れたものは取っておいてくれ。切れ味のいい石斧も必要になるかもしれないからな」
俺はダメもとでそう言っておく。黒曜石で大きな刃物を作るのは結構難しみたいだからだ。
そんな感じで、とりあえず、3人とも石斧をめざしつつ、小さく割れてしまった物は槍の穂先や石包丁をイメージして黒曜石を割っていき、一度共有して自分の必要な黒曜石をピックアップしていく。
真望が求めるカミソリは割れたときに黒曜石に大きさは関係なし、切れ味だけ必要なので早めにたくさんのカミソリになりそうな黒曜石を手に入れることができたようだ。
一角も失敗作に近い細かい破片が逆に鏃にいいと、比較的小さくて形のいい物をピックアップし、そこからさらに細かい作業をして鏃っぽい形で前面が鋭く切れ味のいい鏃をめざしていく。
俺は槍の穂先に使えそうな比較的大きく、形もいい物をさらに槍の穂先っぽく加工していく。明日乃がさっき言っていたように動物の骨や角で削ぐように割るといいとのことなので、イノシシの牙や尖った骨を使って槍の穂先らしく加工していく。
真望も、カミソリは確保できたので俺を手伝ってくれる。俺の見よう見まねで槍の穂先を作ったり、石包丁を使いやすく、さらに切れ味が良くなるように仕上げたりしていく。
「そういえば、真望。大きな黒曜石の表面を綺麗に磨くと明るいところ限定にはなるが鏡代わりにもなるらしいぞ。まあ、研磨にものすごく時間がかかるし、電源切ったスマホの画面とか車の窓を鏡代わりにする程度の代物らしいけど、何も無いよりはマシだろ?」
俺は黒曜石の豆知識も教えてやる。
「そうね、じゃあ、この黒曜石あたりは残しておきましょ? 大きく平らに割れていい感じだから、この塊は私がもらうわね」
そういって、綺麗に平らに割れた大き目な黒曜石をキープする真望。暇な時に磨くらしい。
「鈴さんとも相談したんだけど、今度、イノシシかクマを倒せたら油をとって、石鹸を作りましょ? 石鹸、というか、泡が無いと、流司も髭剃りできないじゃない?」
と真望が言う。そう言えばそんなこと言っていたな。
そう言えばそうだな カミソリ代わりの黒曜石がたくさん作れても、水で髭剃りはちょっとカミソリ負けしそうで怖い。女の子達も石鹸があった方がいいだろうしな。
「そうなると、貝がらも集めないとな」
俺はそう言う。さっき、鈴さんも言っていた通り、石鹸づくりには強アルカリ溶液が必要で、強アルカリ溶液を作る為には灰と焼いた貝殻が必要らしい。灰はたき火から意識して集めるようにしているが、貝は準備していない。そして、貝は高温で焼かなくてはいけないらしく、窯が必要になるそうだ。
そんな雑談をしながらやりの穂先を俺と真望で作っていると、
「流司、ちょっと木の樹液取ってくる。槍の穂先を接着するにも使うだろ?」
一角がそう言って立ち上がる。とりあえず、良さそうな矢の鏃ができたので着けたくなったって感じか?
「穂先を固定するのに麻糸とかあった方がいいんじゃない?」
真望がそう言う。
「そうだな。麻の繊維がまだとれていないから麻糸は無理だけど、麻の皮を加工して麻紐くらいは準備した方がいいかもな。」
俺は真望の意見に賛成する。
結局、俺が槍の穂先作り、真望が麻紐づくり、一角が木の樹液取りをすることになった。麻の茎は運よく、倉庫代わりの土器を干す家に残っていた。
「一角、あんまり遠くに行くなよ。気をつけてな」
俺は一角にそう言うと
「ああ」
そっけなく手を振り森に入っていく一角。護身用の槍と弓矢を持って。
「レオも暇だろ? ついてこい」
一角がそう言ってレオを誘う。
指が短く肉球で細かい作業が苦手でやる事がないレオも護衛としてつれていくようだ。仕事ができてちょっとうれしそうだ。
真望も麻の茎を貰ってきて皮を薄く剥いで中の繊維をとり出し、それを紐としてよっていく。
「布にするときはもっと柔らかくないとダメね。木の棒とかで叩いて繊維を柔らかくしないと」
そう言って真望は麻紐作りに苦戦している。
「真望、紐をよるのも上手だな」
俺は感心してそう言う。
「流司は知っているでしょ? 私の趣味。こういうのは中学のころよくやっていたし」
手を止めずにそう言う真望。
手芸全般が趣味だったもんな、真望は。
俺も手を動かさないとな。俺はいい感じに割れた黒曜石を槍の穂先っぽく加工していく。石で叩いたり、イノシシの牙や骨でそぎ落としたりしながら。
黒曜石は研磨するより割った方が切れ味は良さそうだな。
そんな感じでそれぞれ作業していると、一角も帰ってくる。固まった樹液を結構採ってきてくれたようだ。
一角は、たき火から種火を貰ってきてこっちにもたき火を作る。そして平らな石を加熱し、加熱したところで松やにっぽい木の樹液を溶かし矢の先に鏃を接着、真望が作った麻糸で縛って、樹液で固める。
「お、いい感じじゃないか?」
俺は一角の矢を見て褒める。
「このあたりの矢軸は削って矢が深く刺さるようにしないとダメだな。流司も槍の穂先を着けるときにこのあたりは工夫した方がいい」
そんな感じで一角と改良案を考える。
なるほどな、木の部分も上手くとがらせないと黒曜石の穂先と木のつなぎ目で止まってしまいそうだ。
槍の穂先ができたので、俺が今まで使っていた木の槍の尖らしていない方に穂先をつなぎ合わせる。一角の取ってきた樹液と真望が作った麻糸でつなぎ合わせる。
「反対側につけるのか?」
一角が不思議そうに聞く。
「ああ、穂先が外れた時、反対側も使えた方がいいかなって」
俺がそう答えると、一角もなるほどとうなずく。
その後も分担して、俺は槍作り、一角は矢を作り、真望は麻糸をよってくれる。
途中で、遅い昼食を食べ、その後も作業。人数分+予備の槍を数本作って気づいたら夕方になり陽も落ちて暗くなってきた。石斧にできそうな黒曜石もいくつかできたが、これは暇な時にでも加工しよう。
「明日あたり、弓矢と槍を試しに行きたいな」
一角がそう言う。
こいつは、サバイバルに順応しすぎだ。
とりあえず、一角は新しく作った鏃の着いた矢を試したくて仕方ないらしい。
明日はどこか探索につれていってやるか。
次話に続く。
ちょっと詰め込み過ぎました・・・。
今日もブックマーク1名様ありがとうございます。やる気が出ます。