第27話 尻尾のないしょ
【異世界生活 7日目 13:00】
とりあえず、真望が降臨して、お祈りポイントがどれだけ減ったか気になるので神様がくれた魔法の箱にあるポイント表示をみんなで確認に行く。
朝見た時は『4000』って表示されていたよな?
そして、今見てみると『-1000』になっていた。
「たった5000ポイントで降臨させられるのかよ」
俺はあまりにも少ないポイントで仲間を降臨させられることに驚く。
「あくまでも、降臨にかかるお祈りポイントです。リュウジ様の仲間達はすでに神界とこの世界の狭間に転生させてあり、それを動かすだけなのでそれほど力は必要ありません」
秘書子さんがそう言う。
俺は、そのことをみんなに伝える。
「あんまり無駄使いしなくてよかったね。5000ポイントならさっさと貯めて、仲間7人集めちゃおうよ」
明日乃がそう言って嬉しそうに笑う。
「そうだな。仲間が増えるほど、1日にもらえるお祈りポイントも増えるしな」
俺はそう言う。
ちなみに、真望に箱の前でお祈りをさせてみたところ、お祈りポイントは1000ポイントたまった。明日乃ほどではないが信仰心が高いようだ。腐っても鯛、さすが神社の一人娘ということか。
ちょっと負けた気がして悔しいが。
「で、何をすればいいの?」
と、落ち着いたところで、新しい仲間、真望が不機嫌そうに俺に聞いてくる。
「とりあえず、今は、土器が乾燥するのと川に浸けた麻が腐るのを待つ、それと、黒曜石をそろそろ探しに行きたいかなって感じか? 一応、神様がくれた中華鍋と変幻自在の魔法の武器は1個ずつあるんだけど、効率悪いんだよな。まあ、土器は麗美さんの魔法で少しだけど作れたから、急ぎではないかな?」
俺はそう言う。
「麗美さんの魔法? 良く分からないけど、とりあえず麻があるのね。麻から繊維が取れるようになれば、麻糸ができて、布も作れる。私が活躍できそうね」
真望が少し嬉しそうに、自信ありそうにそう言う。
「まあ、麻糸と言っても、麻の茎を腐らせて、繊維を取り出して、乾かす作業もあるらしいから、まだ先の話だな。とりあえずは、食料集めたり、水を汲んだり、生活し易い環境作りが今の仕事だな」
俺はそう言ったあと、真望を凝視してしまう。
「ん? 何?」
真望が首を傾げる。
「何って、お前、尻尾も耳もすごいな」
俺は真望のお尻から生えた、もっふもふの尻尾とふわっふわの耳が気になって仕方がない。
「すごいよね、ふわふわのもふもふだよ。多分、狐さんかな?」
そう言って、我慢できなかったのか、尻尾を撫で回す明日乃。
「ひぃん!!!」
びくっ、っと跳ねる真望。顔は真っ赤だ。
ごくん。
「俺も、触ってみていいか?」
魅惑のもふもふに、俺も、自然と手が伸びる。
しかし、俺の手を避けるように、もふもふの尻尾を振り、
「ダメ、絶対、触っちゃ駄目。特に流司!」
顔を真っ赤にして真望がそう言う。
めちゃくちゃ拒絶されてしまった。
「私の尻尾なら、いっぱい触ってもいいわよ」
麗美さんが、猫っぽい、太くて長い尻尾をふふり、ふふりと揺らして誘ってくる。
あまりに魅惑的な動きをするので、迷わず手が伸びる。おお、これもなかなか。おれは麗美さんに誘われるまま尻尾を掴み、にぎにぎと感触を楽しむ。
「あふっ。 そ、そういうことね」
麗美さんが恍惚とした表情で甘い声を漏らす。
麗美さんの猫っぽい尻尾は、もふもふと言うより、ベルベットのような感触? そして、毛皮の下の芯の部分? お肉の部分がムチムチしていて、にぎにぎすると凄く気持ちがいい。これは、触るより、口に咥えて甘噛みしたくなるムチムチ感だ。
「かぷっ!」
俺は、麗美さんの尻尾を優しく両手で持つと、動物の本能で反射的に飛びつくように、甘噛みしてしまう。
「!!! くうん!!!」
麗美さんが、びくっ、っと大きく跳ねると、変な声を出して膝から崩れ落ちる。
そして、地面にしなだれる麗美さん。
「り、流司クン、そ、それは、駄目。いきなり、そ、それは駄目だから、ね」
麗美さんがぐったりして、息も絶え絶えそう言う。
真望が、うわー、って顔をしている。
なに? もしかして痛かった? 俺、ヤバいことしちゃった?
「流司、私の尻尾触るのは禁止だし、女の子の尻尾、いきなりかじるのは絶対禁止だからね」
真望がそう言って俺を叱る。
明日乃は自分の兎みたいな小さな尻尾を触って不思議そうな顔をしている。
「とりあえず、真望ちゃんは狐の尻尾で、七つの大罪は『強欲』で美徳は『慈善と寛容』、麗美さんは猫の尻尾で、七つの大罪は『嫉妬』、美徳は『感謝と人徳』って感じかな?」
いつもの、明日乃の厨二病っぽい解説が入る。
確かに真望は承認欲求とか欲の塊だしな。その為に、服とかファッションに対しての物欲も凄かった。麗美さんは嫉妬するというより明日乃を嫉妬させているって感じたよな? 今のところ。人徳っていうのはちょっと分かる気がする。お医者さんだし、なんか惹きつけられるものが元の世界にいた時にあったもんな。
そんな事を考えていると、麗美さんがもそもそと起きて、静かに海の方へ向かう。お手洗いかな?
そのあと、残る、何か、甘美な匂いが気になったが、お手洗いに行く女性に声を掛けるのは失礼だと思ったので、とりあえず、真望に視線を戻す。
「まあ、とりあえず、人も増えたし、拠点の防衛強化かな? あと真望の家も作らないとな」
俺は真望達にそう言う。
「流司、今から魚捕りにいくぞ。麗美姉の体調悪そうだったから、ちょっと様子見たいしな。明日乃と真望は、たき火の番を頼む。魚が捕れるのを期待して、石包丁を研いでおいてくれると助かる」
一角がそう言って、急に俺を魚捕りにさそう。
「なんか、そういう事らしいから、ちょっと、行ってくるな。何かあったら大声あげろよ。ここから海岸なら、多分聞こえるし、走って帰って来られるし」
俺は明日乃と真望にそう言い残し、一角と海岸に向かう。まあ、レオもいるし大丈夫だろう。
一角はこの間作った魚とり用の小ぶりな弓矢を持って海岸に向かう。
麗美さんが心配なのか黙々と早歩きで海岸に向かう。ポニーテールに結んだ、少し青みがかかって見える紺碧の髪が歩くごとに揺れ、長身で引き締まった体も相まって、なんか、凛々しく見える。
「流司、悪いが、私の尻尾を触ってみてくれ。ただし、軽く、少しだけだぞ」
一角が口を開けたと思うと、突然訳の分からないことを言う。
「真望に止められたばかりなんだが、いいのか?」
俺ががそう聞くと、振り向かずに、無言でうなずく一角。
俺は、仕方なく、早足で一角に追いつくと、一角のお尻から垂れ下がった、髪の色によく似た紺碧の毛並みの犬のような尻尾を持ち上げるように触り、軽く撫でる。
「んんんっ」
一角が何かに耐えるように呻く。
「なるほどな。これは、麗美姉の体調が悪くなるわけだ。麗美姉の体調悪くなったのは流司のせいだな。今から、麗美姉の所に行って、尻尾を噛んだ責任とってこいよ」
一角がそう言って、俺の背中を押す。
女の子達がお手洗いとして使っている岩場、普段、俺が近づいてはいけない場所に向かって背中を押される。
「俺が行っていいのか?」
俺は困惑して一角の方に振り向く。
「とりあえず、行け。多分、流司が行かないと治らない重症かもしれない」
一角がそう言う。
俺も、重症と聞いて、麗美さんの事が心配になり、お手洗いの事は忘れて、岩場の陰に急ぐ。
「麗美さん、大丈夫?」
俺は声を掛けながら、岩場の陰に足を踏み入れる。
「きゃっ! 流司クン! ど、どうしてここに!?」
麗美さんが慌てて岩場に体を隠す。そして、葉っぱのスカートを直す音。
そして、麗美さんがさっき拠点から無言で立ち去った時と同じ香りがわずかに鼻をくすぐる。なんか変な気持ちになる香りだな。
「ごめん! 麗美さん! なんか、一角が言うには、俺が麗美さんの尻尾を噛んだせいで、麗美さんが大変なごとになっているから助けに行ってこい、みたいな事言われて、急いできたんだけど、一角の勘違いみたいだった」
俺は慌てふためき言い訳を並べる。
麗美さんはそれを聞いて、変に落ち着き、
「そっか。一角ちゃんがそんな事を。そうだよ。流司クンのせいで大変な事になっちゃったんだよ。流司クンには責任とってもらわないといけないなぁ」
麗美さんが妖艶な笑みを浮かべてそう言う。額に堕ちた茶褐色の髪をかき上げ、長い後ろ髪を後ろに流す。しぐさがなんとなくいやらしい。
そして、俺を見つめながら、近づいてきて、一度俺にしなだれると俺の首のあたりのにキスをする。
「麗美さん、俺は明日乃だけを愛しているから、そういうことはやめてくれ」
俺はそう言って、麗美さんの肩を持ち、引き離し、拒絶する。
「もう、仕方ないなぁ」
麗美さんが残念そうにそう言う。
「じゃあ、とりあえず、もう一回尻尾、噛んで欲しいなぁ。後ろからギュッと抱きしめながら、尻尾を優しく噛み噛みして欲しいの。それくらいなら浮気じゃないでしょ?」
麗美さんはそう言って、俺に背中を向けるとお尻をふりふりしながら、猫のような尻尾をうねり、うねり、といやらしく、誘うように、くねらせる。
「尻尾噛んでくれないと、お姉さん、体調がさらに悪くなって、本当に大変なことになっちゃうかも? 責任取ってよね、流司クン」
麗美さんが戸惑う俺にそう言って尻尾をくねらせる。
俺は『麗美さんが体調を崩したのは俺の責任』と言われ、責任を感じる。
俺はしかたなく、麗美さんに後ろから抱きつき、体を密着させて、目の前でふりふりと逃げる尻尾を口で追いかけ、甘噛みしてみる。
嬉しそうにのけ反る麗美さん。この行為に何の意味があるのだろう?
「もっと、いっぱい噛んでくれないと、責任をとったことにならないわよ」
嬉しそうな声でそういう麗美さん。
俺はやけになって何度も麗美さんの猫のような尻尾を握ったり、優しく噛み付いたりしては離すを繰り返す。
嬉しそうに震える麗美さん。
麗美さんがお尻を俺に擦り付けようとするので、さすがにそれはやり過ぎと、腰を引く俺。
☆☆☆☆☆☆
「くうぅぅぅん!!」
何度も尻尾の甘噛みを続けると麗美さんが満足げに声を上げる。
麗美さんはそのまま、岩場に女の子座りでぐったりとする。
「麗美さん、これで満足した?」
俺はそう言って麗美さんから離れる。危なく俺も変な気持ちになりそうになった。
「ええ、大満足かな。体調もだいぶ良くなったわ」
麗美さんそう言うが、岩場に座り込み、息も荒く、肩で息をしていて逆に心配になる。
「本当に大丈夫?」
俺は心配になって麗美さんに聞く。
「流司クン、たまにでいいから、また尻尾をかみかみして欲しいな。これは、女の子を元気にするおまじない。私ががんばってるなって感じた時に、ご褒美の気持ちでやって欲しいな。できれば二人っきりの時にね」
麗美さんがそう言って満足そうな顔でそう言う。
「マ、マッサージみたいなものかな?」
俺は良く分からずそう答える。
「そうそう、そんな感じ。別にエッチな事しているわけじゃないから、浮気じゃないでしょ?」
麗美さんがそう言うが、自分で尻尾を触っても何も感じない俺はよく分からなかった。
「麗美さんが活躍したときだけでいいならね」
俺は渋々そう答え、麗美さんが本当にうれしそうに微笑む。
麗美さんはもう少し休んでから拠点に戻るとのことだったので、俺は一角のいる砂浜に一人で戻ることにした。
【異世界生活 10日目 14:00】
俺は岩場を出て、砂浜の一角と合流する。
「麗美さんは大丈夫そうか?」
一角がそう聞くので、
「ああ、よく分からないが、落ち着いたらしい」
俺はそう答える。
「そうか」
一角は言葉少なくそう答える。
そしてそのまま、海に歩いて入ると海に潜り、魚をとり出す一角。俺も貝でも探すか。
そんな感じで、貝拾いと魚とりをしていると麗美さんも戻ってくるので体調はどうか聞いてみる。特に問題なくなったそうだ。
麗美さんと話をしながら貝を探していると、一角も海から上がってくる。
「一角ちゃん、ありがとうね。おかげで助かったわ。一角ちゃんも、今度、流司クンに尻尾噛んでもらいなよ。本当にすごいから。まさに明日の活力になるわよ」
麗美さんが、そう言って一角に笑いかける。
そんなにマッサージ効果があるのか? 俺は少し疑問を持つが、深く考えない。
「そうだな。今度、一度お願いしよう」
一角が悪そうな顔で笑い俺に言う。
「それより、魚は捕れたのか? 明日乃も真望も待っているだろうし」
俺はそう言って一角の言葉を聞き流す。
「ああ、今日も2匹とれたが、海水で目が痛くなって、長くは潜れないな。魚もよく見えないから効率が悪い」
一角がそう答える。ちなみに魚の種類は昨日俺がとった小さい魚と同じようだ。
味で負けたのが悔しかったのかな?
「海水で目が痛い? だったら魔法使えばいいんじゃない? 例えばこんな感じに」
麗美さんがそう言ってお祈りポイントを使う神精魔法ではなく、自分のマナを使う原初魔法の方を使う。
麗美さんが目のあたりに手を持ってくると、目の周りに楕円形に水の膜ができる。
「こんな感じに、魔法で水中眼鏡を作ればいいのよ。私は水属性だから、水で膜を作ったけど、一角ちゃんは風属性だから空気で膜を作れば海水が目に当たらないんじゃない?」
麗美さんが一角にそうアドバイスする。
「麗美さん、天才か?」
一角が予想以上に驚く。
ちなみに麗美さんの魔法の膜は直接目には当たっていないらしい。風船みたいな感じで目の周りを覆っている、まさに水中眼鏡みたいな感じだ。
「ちょっと、その弓矢貸してね。少し潜ってみるわ」
そう言って水中用の弓矢と、とった魚をぶら下げる荒縄を一角から借りると麗美さんも海に入っていく。
一角が慌てて、弓矢の使い方を麗美さんに向けて叫び、麗美さんが了解と言う様に手を上げ、そして海に潜る。
麗美さん、体調は大丈夫なのかな? 少し心配になる。
「あの魔法、問題は、マナとかお祈りポイントだな」
麗美さんを待つ間、俺はぼそりと言う。
「んー? 言われてみるとそうだな。100円かけて魚をとる価値があるか? 最悪、魔法の箱から魚出した方が早いかもしれない」
一角も気づいたようで冷静にそう言う。
「だよな。もしくは水中眼鏡、またはレンズの部分のガラスを魔法の箱で貰った方が安いかもしれない」
魔法を繰り返すくらいなら、水中眼鏡を作った方が将来的に安上がりの可能性もある。
「ねえ、すごくない? 初めてなのに結構捕れたんじゃない? 私」
麗美さんがそう言って海から上がってくる。腰に付けた荒縄にぶら下がっている魚を見ると4匹もついている。
そして、目も痛くないようで普通にしている。
4匹とれるなら、マナやお祈りポイントを使って魔法使う価値もあるかな?
3人でキャンプに帰ると、魚を見た明日乃が嬉しそうに寄ってくる。
「すごい、すごい。魚だよ。今日も魚がいっぱいだよ」
明日乃が一角のとった魚と麗美さんがとった魚、合計6匹を見て喜ぶ。
残念ながら貝は拾えなかった。というか、麗美さんとおしゃべりして、拾う時間がなかった。
「一角ちゃんが作った、水中用の弓矢というか弓で飛ばす銛? それが結構いい感じに魚に刺さるのよ」
麗美さんが一角の発明品を改めて褒める。
「まあ、魚が人間に慣れていないみたいで逃げないから捕り易かったっていうのもあるな」
と一角が謙遜するようにそう言う。
「それと、明日乃、水筒の水、真水が欲しい。水中メガネが無いから魚がほとんど見えないし、何より海水で目が痛くなる」
一角はそう言って明日乃に水を求める。
一角も俺も、今日は急いで麗美さんのところに向かったので、水筒を忘れてしまった。
「はいはい、これ。一角ちゃん目が真っ赤だよ。りゅう君と麗美さんは潜ってないのかな?」
そう言って明日乃が急いで水筒を取りに行って、手渡してくれる。
あまり意味はないかもしれないが水筒に入った真水で一角が目を洗う。
明日乃達に麗美さんが見つけた、水中眼鏡の代わりをする魔法の使い方の話をする。明日乃もやっぱりお祈りポイントの消費が気になるそうだ。
一角が水で目を洗い落ち着いたところで、明日乃が麗美さんの体調を気遣う。
「大丈夫よ。少し疲れたのと、胃腸が弱っていたのかしらね? 少し海を見て休憩したら落ち着いたわ」
麗美さんがそう言う。
俺も一角も何もなかったように会話を続ける。
というか、結局、俺には、あの行為がどんな意味があるのか良く分からなかった。なんとなく気持ちいいのだろうというくらいしか。
明日乃が嬉しそうに捕った魚をたき火の方に持っていき調理を始め、俺も魚を捌くのを手伝う。
そういえば、麗美さんの件でバタバタしてお昼食べるのを忘れていたな。急にお腹が空いたよ。
次話に続く。
あくまでも尻尾を噛んでいるだけです。
噛んでいる本人が何をしているか分かっていないのでマッサージです。浮気ではないですw




