第26話 平穏な日々。そして5人目登場。
【異世界生活7日目 9時00分】
みんなの朝食が終わり、麗美さんが先生になって、剣術と棒術の朝稽古をして、一段落する。今日も良い汗をかいたな。ちなみにこの剣道の朝練は今後も日課にする予定だ。なんか経験値も少しあがるしな。
「流司クン、今日は予定通り、薪を雨から守る家作りするの?」
麗美さんがそう聞いてくる。
「そうだね。また雨降られると困るから、今から作ろうかな。麗美さん、手が空いていたら手伝ってくれる?」
俺はそう答える。
「いいわよ。みんなでやった方が早いだろうし。一角ちゃんも手伝ってくれる?」
麗美さんは了承してくれ、一角にも手伝いを振る。
「ゴメン、麗美姉、私は塩作りをする予定なんだ」
一角がやんわり断る。
また塩作りかよ。一角は塩に拘り強すぎるな。
「一角ちゃん、塩作りは私がやっておくから、手伝ってあげなよ。私じゃ、力なくて役立たないし」
明日乃が少し呆れ顔でそう言う。
「明日乃がそう言うなら仕方ないな」
そう言って、渋々俺の作業を手伝う一角。
「レオ、一緒に海水汲みにいこ?」
明日乃はそう言って、レオと海岸に向かう。
俺たちも作業に入る。
流れとしては、変幻自在の武器をノコギリにして、俺が竹を切って、麗美さんと一角で地面に竹を打ち込んだり、竹を組み、葉っぱの屋根を作る作業をする感じだ。
とりあえず、麗美さんと一角には竹を骨組みに、いつものAシェルター、竹を三角錐に組んで屋根をつけていくテントみたいな簡易シェルターを作ってもらう。
俺はその間、少し背の低い、足も少し多めの竹製のベンチみたいなものを作る。
要は、これを、薪を置く台にして風通しを良くして、地面からの湿気を避けようという考えだ。まあ、場合によってはベンチやベッドにもなりそうだしな。
そんな横長なベンチもどきを3つシェルターに入れて正方形の薪置き台にする。
「流司クン、家作り終わったけど、どうする?」
麗美さんが薪置き場用の家ができたみたいで俺にやる事を聞いてくる。
「そうだな。竹をもっととってきて欲しいかな? あ、でも、ノコギリを俺が使っているから竹切る道具がないか」
俺はそう答えて、道具に困る。
やっぱり、変幻自在の武器が1つなのは効率が悪いな。
俺が悩んでいると、
「まあ、竹を切り倒すだけなら、石斧でもできるし、一角ちゃんと石斧持って、竹切りに行ってくるわ」
麗美さんはそう言って、石斧を手に準備を始める。
「レオ、やる事ないなら、私達と来い。竹を運ぶぞ」
一角がそう声をかける。
雨で薪や枯れ草が湿っているのでレオ得意の薪集めや枯れ草集めができず、暇を持て余していたようだ。気持ち嬉しそうに一角の方に走ってくる。
「いいな。私も水汲みと水浴びに行きたいな」
明日乃が羨ましそうに言う。
「明日乃ちゃん、午後にでも一緒に水浴びに行きましょ。それとも、流司クンと一緒の方がいいかしら?」
麗美さんがそう言って冷やかす。
「麗美さん、あんまり俺と明日乃を冷やかさないでくれよ。恥ずかしくなるからさ」
俺はそう言い、明日乃も顔を赤く染めて何度も頷く。
そして、3人が竹を取りに行く前に、俺のベンチもどきができたので1個目を家の中に入れる。
一角も手伝ってくれる。
「なんかいいわね、それ。ベッドによさそう」
麗美さんがそう言う。
「確かに虫対策にもなりそうだしな。よじ登るのが大変そうだし」
一角も興味をもつ。
「布団代わりの雑草もその上にのせたら風通しよさそうだし、そう言う意味でも虫対策になりそうだよね」
明日乃も欲しいみたいだ。
「とりあえず、薪を湿気らせないための道具だから、薪用を3つ作り終わって、時間がある時でいいなら作るぞ。あと、たき火周りに屋根をつけるのも先だからな」
俺はそう言って、暇なときに作ることを約束させられる。
俺、やることいっぱいだな。
その後、麗美さん、一角、レオは竹をとりに、俺は、竹のベンチもどきを作成、明日乃は塩作りをしながら、昨日濡れてしまった干し肉を干し直す作業をしている。
【異世界生活 7日目 12:30】
そんな感じで作業を進め、お昼過ぎ、竹をとりに行った3人も帰って来て、お昼ご飯を食べよう。と、なった時に、毎日お祈りしていたおかげか、元気そうな神様が現れた。
「おーす。みんな元気か? とりあえず、お祈りしてくれたおかげで力も少し回復した。なので、5人目も降臨させるぞ。ただ、俺の力も余裕はないから、さっさと寝るんで、あとの説明は宜しくな」
おっさん(神様)は言いたいことだけ、一方的に言ってさっさと消えてしまう。しょうもないおっさん(神様)だな。
残されたのは、1人の女の子。もちろん、素っ裸だ。
「お、真望じゃないか。久しぶり」
俺はそいつに挨拶する。
「ああ、言われてみると、真望じゃないか」
「真望ちゃん、久しぶり。すごく変わっていたから、最初、気づかなかったよ」
一角も明日乃も思い出したようで挨拶をする。
「と、いうか、りゅう君、当たり前のように裸の女の子に声かけないの」
「はだか? って、 っ!! キャーーー!?」
自分の状況を理解して、悲鳴を上げて座り込む真望。
明日乃が急いで大きな葉っぱを折り、服を作り、巻き付ける。
「どういうこと?」
真望は俺を睨むようにそう言うと、説明を求めてきた。
面倒臭いことになりそうなので、明日乃に説明を任せる。
ここが異世界でサバイバル生活をしないといけないこと。
神様がいて、お祈りをしないといけないこと。
将来的には子孫を増やしてこの世界を開拓しなければいけないこと。
そして、元の世界にはもう1人の自分がいて、帰れないことも明日乃が伝える。
とりあえず、彼女は稲成真望。俺や明日乃、一角と小学校と中学校が同じで、俺と明日乃は中学3年の時は同級生だった。そして俺のSNS仲間?
「久しぶりって、流司、この間会ったじゃん」
着替え終わった真望がそう怒鳴る。
「そういえばそうだな」
俺は面倒臭そうな顔でそう答える。
実際、こいつは色々面倒臭い奴だ。
俺たちの家や高校の最寄りの駅から3つ隣の駅にある私立高校に通う俺たちと同じ高校3年生。
コイツが面倒臭いのは、高校に入学と共に高校生デビュー、髪を金色に染め、化粧し、眼鏡をコンタクトに変え、服装も180度変え、滅茶苦茶おしゃれに。その結果、都内某所でスカウトされたらしく、読者モデルデビュー。ただし、中高生むけのファッション雑誌の読者モデルという華やかな肩書きを持ちながら、読者モデル仲間には引け目を感じて上手く付き合えず、高校生活では読者モデルであることをひけらかし過ぎて友達ができないという、リア充でボッチ、男性経験豊富そうな顔をして、さも経験豊富そうな会話をするくせ、彼氏いない歴=年齢という、リア充ボッチで処女ビッチという、ツッコミどころ満載な女の子だ。
モデル仲間の間では、高校生活はリア充だと嘘をつき、高校生活ではモデル業界でリア充だと嘘をつく、二重ボッチという悲しい子。俺はSNS上に真望の同級生にも知り合いがいて、真望経由でモデル業界の子にも知り合いができ、どちらの事情も知ってしまっているのだ。
また、外見は金髪に近い茶髪のロング、いかにもって感じのギャルだが、見る人が見れば分かる、いかにも処女って感じの純真そうな瞳と顔が涙をそそる。
まあ、必死過ぎて可愛いので俺はたまに友達としてかまってやっている。
ちなみに、SNS上では写真など顔を隠してではあるが、俺は真望の彼氏でバスケが上手いイケメンのリア充という事になっているらしい。
そこまでいくと、可哀想というか同情心が湧いて、可愛く見えてしまう。まあ、悪い奴ではないんだが、簡単に言うと、アホな子だ。だからか、俺も真望の嘘にもつき合ってやってる感じだ。
高校受験の時も、俺や明日乃と同じ高校を受験したが、そもそも学力が足りず、担任からも「記念受験か?」と呆れられるほど。
結局、かすりもせず、滑り止めの私立高校に通っている、なんか憎めない、可愛らしい、アホの子だ。
そんな感じなので、たまに偽装彼氏として遊びに付き合ってやることもあった、可愛くて可哀想な、俺の女友達だ。リア充ボッチで処女ビッチ。それが、この子、真望だ。
ちなみに、何故、処女だと知っているかというと、彼女の実家は神社で、お父さんは神主さんだ。年末年始は巫女装束を着て実家でバイトをさせられている。
そのせいでお母さんから、結婚するまで、神社を継いでくれる男が見つかるまで、性交は禁止、性交したら実家を追い出されるという、可哀想な家訓を強いられた女の子だ。
もちろん、俺は家族公認の偽彼氏だ。ここまでくると、可哀想を通り越して可愛くなってくだろ?
当時から、明日乃一筋だった俺は、本当の彼氏になることも神社の跡取りになる事もお断り、真望のお母さんにも何度も勧められたが、俺にとって、真望は、いい女友達だ。実際、面白いしな。
「まあ、そういう事なんで、今日から皆んなで協力してサバイバル生活をする事になる。宜しくな。真望」
俺はいつもの感じで軽く流す。アホな子なので説明するより、実際やってみよう。って、感じだ。
「そういう事ってどういう事?」
そう言い返す真望だが、たぶん、反射的に言っているだけで特に何も考えてない。
「とりあえず、自己紹介よろしく。サバイバルに役立ちそうな特技あったらそこらへんもアピールしてくれ」
俺は、適当に流して、自己紹介の無茶振りをする。この子はアホな子だが、頭の回転は悪くない。無茶振りや予想外の出来事にも柔軟に対応できる、漫才のツッコミ役をやらせたらどんなボケにも対応できそうな才能の持ち主、まあ、その人生や生き方はボケ担当なのだが。
「いいわ。私は稲成真望。ファッション雑誌、ティーンエイジの専属モデル、MAMOよ。ファッションと美容のことは任せてね」
えらそうにモデルっぽい立ち方をしてえらそうに自己紹介する真望。
「まあ、こんな感じで、高飛車で、すぐ芸能人ぶってマウントを取ろうとするが、根はいいやつだし、こう見えてリアルに友達がいないボッチだ。そして物凄い寂しがり屋だ。みんな仲良くしてやってくれ。あと、陰でこっそり、コスプレ衣装を作ってSNSに写真をアップするのが趣味なんで、服とか作らせると多分上手いぞ」
俺が親切に自己紹介を助けてやる。
みんなが「うわ~」って顔をしている。俺、なんか間違ったか?
「そう言えば、真望ちゃん、中学生のころ教室でも休み時間に編み物とかよく分からない手芸っぽいことしていたもんね」
明日乃が中学校の頃の真望を思い出しそう付け足す。
「あの頃は地味だったもんな。明日乃の教室に行くと、いつも教室の隅っこの方でひとりで何かしていた三つ編みおさげに眼鏡の子、みたいな印象しかないな」
一角も中学校の頃を思い出す。まあ、一角は別のクラスであまり付き合いがなかったしな。
真望がわなわなと体を震わせている。そして麗美さんは何か哀れそうな顔をしている。俺達何かやらかしたか?
「まあ、真望ちゃん? 流司クン達と中学校の頃の同級生だったのかな? まあ、みんな真望ちゃんの過去を知っているみたいだし、開き直って仲良くしていきましょ?」
麗美さんが最後に同情するような声でそう言う。
「まあ、こんな奴だけど、素直になると可愛いところもあるんだぜ。そういう事でみんな、よろしくな」
俺は最後にフォローしてやる。真望は顔を真っ赤にしている。怒っている?
「ああ、そうよ、私は中学校の頃は根暗で地味で目立ちませんでしたよ!! そして、高校デビューして、モデルにもなったけど、結局、学校にもモデル業界にもなじめませんでしたよ!! ええ、ボッチで根暗で、アニメのコスプレが好き! SNSでしか友達がいない! 何が悪いの?」
真望がよく分からんがキレる。
「いや、別に悪くないんじゃないか? 俺はそういうところも含めて真望のこと好きだぞ。話すと面白いしな」
俺は心の底からそう思う。こいつと話すと結構面白いんだよな。お笑い芸人のセンスがあると思う。主にボケ?
「流司クンは天然のタラシね、かなりの女たらしよ」
麗美さんが呆れるようにそう言った。
明日乃も一角も仕方なさそうな顔をする。
明日乃も剣道の朝練で少し戦えるようになったし、真望という新しい仲間も増えて5人+1匹になったし、レオも入れれば3人組が2つできて行動範囲広げられそうだな。
新しい仲間を迎え、新たな可能性を感じる俺だった。
次話に続く。
ブックマーク1名様、☆1名様ありがとうございます。やる気が出ます。
誤字脱字報告もありがとうございます。




