第24話 一角の冒険
【異世界生活6日目 10:00】
麗美さんの剣道教室は結構ハードな訓練だったのでみんな、ぐったりして休憩する。
「休憩終わったら次はどうするの?」
少し余裕がある麗美さんが俺にそう聞いてくる。
「昨日、粘土を採ってきたから、それを使って土器をもう少し作って自然乾燥かな?」
俺はそう答える。
「私は竹を取りに行ってきていいか? 飲み水も新しくしたいしな。それに私だけ水浴びしてないし、今の朝練で汗かいたし」
一角がそう言って自分の腕の臭いをかぐ。
そういえば、気づかなかった。気が利かないな俺。
「ああ、行ってきていいぞ。気づかなくて悪かったな。麗美さんあたりについていってもらうか? さすがに一人だと危険だろ?」
俺はそう言う。
「麗美さんもやることあるだろ? 昨日摘んできたミントを煮て虫よけ剤とか作るとか? レオにでもついてきてもらうよ。レオも洗わないと臭くなりそうだしな。レオ、体洗いに行くぞ」
一角がそう言ってレオを捕まえる。
「オレは半分精霊だから臭くならない」
レオがそう言って逃げようとする。
「うそつけ、ちょっと臭いぞ」
一角はそう言ってレオの毛並の臭いを嗅ぐ。
「とりあえず、竹を取りに行ってくる。流司、変幻自在の武器を貸してくれ」
一角がそう言い、俺は武器を貸す。
そうして、一角は小脇にレオを抱えて俺の貸した武器とレオ用の武器、そして弓矢を持って森に向かって歩き出す。レオが暴れているが、力は一角の方が上だ。あきらめろ。そして犬のように洗われるがいい。
「なんかあったら魔法で連絡しろよ」
俺はそう言って、一角とレオを見送る。レオはオスにみえて実は性別がないし、まあ、心配ないだろう。
というか、レオにはどっちがついているんだ? 何がとは言わないけど。
その後、俺と明日乃は粘土をこねて追加の土器を作る作業。クマに壊された分を作り直す。麗美さんはミントを煮出したり、火の番をしながら荒縄づくりなどをしたりする。
【異世界生活6日目 13:00】
一角が綺麗になったレオを連れて帰ってくる。水の入った水筒と竹をたくさん持って。
レオがなんかげっそりしている。
「そういえば、行く途中で、トカゲとヘビに襲われたんだが、撃退した。トカゲとヘビ食べるか?」
一角がそう言って竹と一緒にトカゲとヘビを放り投げる。
どっちも結構デカいな。見た目はテレビで見た、コモドドラゴン? ニシキヘビ? 秘書子さんの話だと種類は違うらしいしテレビで見たものより若干小さい。そして食べられるのか?
「一応どちらも食べられる種類のようです」
秘書子さんがそう言うが、さすがに食べる気起きないよな?
明日乃なんて、ヘビを見て顔が少し青くなっているし。
「どうする、食べる? 秘書子さん曰く、どっちも食べられるらしいけど、今は熊の干し肉もあるし、バナナの木も生えているしな。無理して食べるほどじゃないよな?」
俺はそう言って麗美さんに聞いてみる。
「経験値化でいいんじゃないかな?」
麗美さんも少しひき気味でそう言う。
「まあ、食べるものに困ったら食べなきゃいけなくなるかもしれないけどな」
俺はそう言う。
「その時は、なるべく美味しいものでお願いね」
明日乃が引き気味にそう言う。
「食べるものに困った時のために、試しに食べてみるか?」
一角がそう言って、俺にニヤリと笑う。
「オレは体を維持する栄養が摂れればいいから、なんでもいい」
レオは食べる気満々だ。
「私は調理しないよ?」
明日乃が嫌そうな顔でそういう。
そんな食事の話から、お昼ご飯を食べようという話になり、明日乃が料理を始め、クマの干し肉が沢山あるので、お湯で戻してクマ鍋風スープを作る。それと、朝とったバナナもご飯代わりに焼き始める。
そして、俺と一角とレオはトカゲとヘビの調理を始める。どうしてこうなった?
「とりあえず、私は料理できないから、流司、頼んだ」
一角が俺に丸投げする。
「とりあえず、どっちも、はらわた落として、皮を剥いで、トカゲは丸焼き、ヘビは開いて、串通して蒲焼きかな?」
俺はそう言って、一角から変幻自在の武器を返してもらい、包丁に変化させる。
「ああ、包丁にもなるんだ。それはいいね」
明日乃が包丁を見て羨ましがる。ヘビからは目をそらしつつ。
俺は、魚を捌く要領でヘビを捌き、トカゲはイノシシを解体した要領ではらわたをとり、皮を剥ぐ。
ヘビは肋骨から下だけを食べる。肋骨の周りは食べるところが少ないからな。それを開いて適当な長さに切って、串を通し、塩を振る。うなぎの蒲焼き風に、そして網がないので、地面に刺して遠火で焼く。
「レオがヘビに襲われたときはすごかったぞ。レオがヘビに体を巻きつかれて、レオは噛みつきで反撃して、地面を転げまわるもんだから、私も手助けできないし」
一角が楽しそうにそう言う。
レオは余計なお世話だと言いたそうにそっぽを向く。
なるほど、だからヘビに噛み跡が結構あって、頭が半分落ちかけていたのか。
トカゲは手足を広げ、お腹が開くように、竹で作った太い串で十字? カタカナのキのように串を刺し、塩をふる。こっちは、太めの枝で三脚の様なものを2つ作り、焚き火の上に橋をかける様にして遠火で炙る。時々反転させながら。
ちなみに、たき火は、明日乃が自分たちの料理と火を共有するのを嫌がったので少し離れたところに新規で火を起こした。まあ、あっちのたき火は中華鍋だけでいっぱいだったしな。
というか、一角の遊びに付き合わされて俺は何やっているんだ?
「みかけは美味しそうね」
麗美さんが寄ってきて、微妙な顔をして覗き込む。確かに、ヘビの方は見かけ美味しそうだ。
「麗美さんも食べてみる?」
俺は聞いてみる。
「また今度でいいかな?」
麗美さんはそう言って愛想笑いをすると、明日乃の方に逃げていく。
「そろそろいいんじゃないか?」
一角がそう言い、俺も頷く。
ヘビの蒲焼きはちょうど良さそうだ。蒲焼きと言うより白焼きっていうのかな? タレではなく塩で焼いたうなぎみたいな感じだ。
俺は、一角とレオに焼いた串を渡す。
「塩が足りなかったら自分で振ってくれ」
俺はそう言って、竹筒に入った塩を回す。
そして、みんなで顔を見合わせて、レオが何も考えず食いつくので、俺も一角も食べてみる。
「悪くはないんじゃないか?」
一角がそう言う。
「確かに悪くない。塩をもう少しかけたら結構美味いんじゃないか?」
俺はそう言って、塩をひとつまみ振ってもう一口。
結構旨いんじゃないか?
スーパーの安いうなぎ? アナゴ? 歯ごたえのあるうなぎを少し鳥肉に近づけた感じ? 塩を多めにかけて少しあぶり直すと焼き鳥みたいで美味いな。
まあ、ヘビの種類によって味が違うんだろうけど。今日のヘビは当たりだ。
そんな感じでヘビのかば焼きを3人でぺろりと食べてしまう。
「うなぎのタレか焼き鳥のタレがあったらもっと旨いな」
一角がそうつぶやく。確かにそうだな。
醤油やみりん、砂糖の味を思い出して懐かしくなる。
そして、トカゲが焼きあがる頃にはお腹がいっぱいになる。デカいヘビだったしな。
一角の手も明らかに止まっている。
「トカゲも焼けたがどうする?」
俺は聞いてみる。
「オレはいらない」
レオが即答する。薄情者め。
「とりあえず、足だけでも味見て、夜焼き直して食べればいいんじゃないか?」
一角がそう言う。
「明日乃、麗美さん、トカゲ食べる?」
俺は一応聞いてみる。
「いらない」
明日乃に即答された。麗美さんも首を横に振っている。
仕方がないので、前足をちぎり、一角に渡し、俺も反対の足をちぎり口に入れる。
「まあ、普通だな」
俺がそう言うと、
「ああ、普通だ」
一角もそう言う。
鳥のササミだな。うん。焦げ目と塩味でこれも結構食える。
足でこの味なら部位によってはもっと美味いかもな。
とりあえず、お腹がいっぱいになったので、バナナの葉っぱで包んで、埋めておくことにする。
見かけが悪いものに挑戦してみたものの、結果普通だったと言う、微妙な結果だった。
明日乃曰く、トカゲは普通に食べる国が多いらしいし、ヘビもタンパク源が少ない国では普通に贅沢食材だそうだ。
そんな感じでチャレンジングな昼食も微妙な結果で終わる。
ヘビとトカゲの皮は一応とっておくか。何に使えるか分からないけど。
【異世界生活6日目 14:30】
「午後はどうする?」
「私は粘土がもう少し残っているから土器を作っておきたいかな? 焼いている土器の様子も見たいし」
明日乃がそう言う。
「私は、魚を獲りに行こうと思っていたんだ。折角作った、魚とり用の水中弓矢を試したいしな」
一角がそう言う。
「魚獲りね。一角ちゃん1人だと心配ね。サメとかいないのかしら?」
麗美さんが心配する。
「怖い事言わないでくださいよ、麗美姉。なあ、流司、秘書子さんにサメがいないか聞いてくれないか? できれば、サメレーダーみたいな機能をマップにつけてくれないかな?」
一角がそう言う。
「海にサメはいますね。大雑把にいそうな場所をマークすることはできますが、サメレーダーですか? 詳しい追跡は難しいと思われます。というより、かなりの量のお祈りポイントが常時必要になります」
秘書子さんが、一角の質問を聞いて俺に答える。
「秘書子さんの話だと、サメはいるらしい。そして、大体の居場所はマップに表示できるが、レーダーみたいな追跡は、お祈りポイント常時大量消費だってさ。フルパワー秘書子さんの貸し切りみたいな感じなんだろうな」
俺は一角にそう答える。
「ただし、リュウジ様の目の届く範囲を私が監視するくらいなら可能です」
秘書子さんがそう追加する。
「なんか、俺の目の届く範囲くらいなら秘書子さんが監視してくれるらしい。だから、俺も貝拾いついでについていってやるよ」
俺はそう言って一角について行く事にする。
「貝拾い、私も行きたいな。でも、粘土も残ってるし、今焼いている土器も気になるし」
明日乃がそう言って悩む。
「まあ、貝拾いはこれからいっぱい必要になると思うから本格的な貝拾いは次にして、次回に明日乃ちゃんは参加すればいいと思うよ」
麗美さんがそういう。
「貝拾い、たくさん必要になるのか?」
俺は気になり麗美さんに聞く。
「多分だけどね。石鹸作る時とか、アルカリが欲しくなったときに貝の殻が必要になると思うわ。まあ、詳しくはその時にかな」
麗美さんがそう言う。
今回、貝がとれたら貝殻は捨てずにとっておこう。
「と、いうか、今から魚獲りに行って、魚がとれたとしても、俺たち、食えないんじゃないか? お昼に焼いたトカゲの肉が大量に余っているし」
俺はトカゲの肉の事を思い出して一角に言う。
「まあ、魚も一夜干しにすればいいんじゃないか? そして明日以降食べればいい」
一角がそう言う。
まあ、そう言われるとそうなんだが、新鮮な魚も食べたいよな。
そんなこんなで、自分達は食べられない魚をとりに行く。
麗美さんは明日乃と一緒に土器を作るそうだ。
「じゃあ、行ってくる。明日乃、麗美さん、何かあったら大声あげてね。海岸までは近いから走って帰ってくるから」
俺は拠点に残る2人に挨拶して出発する。
まあ、拠点にはレオも残るらしいし、3人いれば大丈夫だろう。
拠点から南に5分ちょっと歩けば砂浜の海岸だ。
ちなみにここから東西に岩場があって、東の岩場が女の子達のお手洗い、西が俺のお手洗いになっている。レオは知らない。多分、森の中で適当にしているのだろう。
余談はさておき、海岸に着き、一角は魚とり用の水中弓矢を持って海に入り、俺は、変幻自在の武器を潮干狩りでよく見る道具、熊手に変化させて、貝を探す。
棒状の持ち手にくの字に曲がった鉄の棒が4本扇状についた道具、熊手。変幻自在の武器、切れ味はイマイチだけど、結構何にでもなるな。
「そういえば、一角、海には葉っぱの服で入るんだな」
一角が海に入る直前、俺は素朴な疑問を口にする。
そして、海に入ったらさっき水浴びに行った意味がないじゃん。と突っ込みを入れたくなった。
「流司が見ているんだ。裸で泳げるわけがないだろ?」
一角がそう答える。
「そう言われるとそうか」
俺は納得する。
それに、葉っぱの服自体、すでにほぼビキニみたいなものだしな。
「な、なんだ、流司、わ、私の裸がみたいのか?」
一角が少しだけ振り向いてそう言う。
うーん、と俺は考えて、
「タダで見せてくれるなら喜んで見るぞ。一角の性格はともかく、美人だし、スタイルも良いしな。あと、見た後殴られないなら見たい」
俺は一角の冗談に付き合う。
「まあ、性格も嫌いじゃないけどな。気兼ねなく話せる男友達みたいな感じで、結構好きだぞ」
俺はちょっと言い過ぎたと思い性格も褒める。
「ば、バカ流司。金払ったって見せるわけないだろ。それと、私も一応、女なんだからな。気安く好きとか言うな」
一角は怒ってそのまま海に入っていく。
怒らせちゃったかな? 俺のツッコミもフォローもイマイチだったか。
とりあえず、気にしないで、貝を探そう。
俺は手に持った熊手で砂浜を掘る。秘書子さんの話ではちょうどいまは潮が引き始めたころだそうだ。夕方頃には結構とれるかもしれない。
秘書子さんのアドバイスを聞きながらとりあえず歩き回って掘って貝を探す。アサリに似た貝は群れるらしいので1個いたらまわりを掘るとのこと。
そんな感じで海岸を歩きながらめぼしいところを掘っていき、1個貝が見つかったら周りを掘って10個くらい見つけるの繰り返し。
取れた貝は明日乃から借りてきた鍋に海水と一緒に入れておく。
天然のアサリ(モドキ)はなかなか取れないな。潮干狩りとかは漁協の人がまいているらしいからな。さすがにあんな感じでは取れない。
そんな感じで、少しずつだが、アサリのような貝や、マテガイのような細長い貝が少しずつ取れていく。
10分くらい貝をとっていると沖で潜っていた一角が返ってくる。
「一角、どうだった?」
俺が聞くと、
「ダメだな。水中眼鏡がないとよく見えないし、何より海水で目が痛い」
一角はそう言って、苦労しつつも採ったであろう、ちょっとカラフルな南国風な魚を2匹俺に投げる。
首の骨が折られて死んでいて、口からエラに荒縄を通してある。そうやって腰にぶら下げて運んできたのか。2匹とも結構大きい。
俺はいつもの釣りの癖でエラに指を突っ込み、中の赤いエラをとる。こうすると、エラの部分から血が流れ出て血抜きができるのだ。
「水中眼鏡が欲しいな。昔の海女さんは水中眼鏡なしで潜っていたらしいが私には無理だ。長く潜れないし、魚がよく見えない」
一角がそう言い悔しそうな顔をする。
俺は目を洗うように彼女に真水の入った水筒を渡す。一角はそれに従い目に水筒の水をかけ、口もゆすぎ、少し飲んでのどを潤す。
「ただ、こっちの世界に転生した時に、目は良くなっているみたいだ。遠くが見えるし、海の中でも少しは見える。多分、元の世界じゃ水中眼鏡なしではこれほど見えないだろうな」
一角がそう言う。ここでもケモミミ効果か。
「一角は休憩していろよ。俺もちょっと潜って見たくなった。水中用の弓矢を借りていいか?」
俺は一角にそう言って休ませる。
「ああ、貸してもいいが、本当に難しいし、目が痛いぞ」
一角は心配半分、冷やかすようにそう言う。
「ちなみに、どうやってこれで魚捕るんだ?」
俺は一角に水中弓矢の使い方を聞く。
「これは水中用の弓矢だ。弓も小さいし、矢羽もついてないから安定しないんで、かなり近づいてから射る感じだな。矢の先に返しもつけてあるし、矢の後ろには紐をつけてあるんで紐をたぐれば魚が手に入る。手元までたぐったら矢を差し込んで止めを刺す。以上だ」
一角はそう言って、一回り小さい弓と紐のついた矢を何本か俺に渡す。
竹製の矢の先を見ると先がとがっていて、その横には確かにいくつかギザギザに切り目が入っていてこれが返しになるってことか。
「素潜りして、魚がいたらこれで射ればいいんだな。まあ、ダメもとで経験はしてみたいからな」
俺はそう言って、弓矢を借りて海に入っていく。
俺は深い方に向かって歩き、足が底に着かなくなりそうなあたりで、水中を覗く。
もう少し先の底の方が岩場になっていて海藻も生えていて、魚の住処になっていそうだ。
そして、確かに水中メガネがないとぼんやりとしか見えないな。海水も目にしみる。
とりあえず俺はその岩場付近まで海面を泳ぎ、そこから潜り始める。
素潜りって結構難しいな。
泳ぎは苦手ではないんだが、海底をめざして頭を下にして潜るのが難しい。手に弓矢も持っているしな。
苦戦しながら、何度か素潜りし、岩の陰に魚がいたので近づき、体が浮かび上がらないように足で岩場の岩を挟み、体を安定させ、弓を絞り、なるべく弓を魚に近づけて矢を放つ。
小さい魚だったので矢もしっかり刺さり、矢についた紐で魚は逃げられない。紐を手繰って魚を捕まえ、矢を押し込み、逃がさないようにしてから、エラに指を突っ込んで赤いエラを抜き取り、血抜きととどめを刺す。
息が続かないので、急いで海面に上がり、採った魚を腰に付けた荒縄を口からエラに通して結ぶ。
そして息が落ち着いたらもう一度潜りそれを繰り返し、何度か失敗もして、2匹目も捕まえる。
弓矢というより小さい銛を弓で飛ばす感じだな。弓の大きさに比べて矢が長めだし、矢が刺さった後は急いで魚に押し込まないと逃げられる。そんな感じだ。そして、なるべく近づかないと刺さらないし、刺さった後に追いうちがかけられない。
まあ、よく考えられているな。一角は意外とこういう事に才能ある?
そろそろ、俺も、限界だ。
俺は目が痛いし、疲れてきたので浜辺に泳いで戻る。
「どうだった?」
砂浜で休憩していた一角が聞いてくる。
「一角の言う通り、水中眼鏡がないと無理だな。魚がよく見えないし、本当に目が痛いな」
俺は目を細めながらそう言う。そして、弓矢の出来も褒める。
一角も俺がやったのと同じように自分の水筒を貸してくれる。
俺はそれで目を洗い、口をゆすぎ、水を飲む。
「海水を飲むと口の中がしょっぱくなるし、のども痛くなるな」
俺はうがいをしながらそう言うと一角も笑いながら頷く。
そして、疲れたので一角の横に座る。
「水中眼鏡の事は考えないとダメだな。何とか材料を集めて自作するか、神様に貰うか」
一角がそう言う。
「たしか、あまり近代的なものはもらえないはずだったぞ。プラスチック製とかゴム製のものは無理かもしれないな」
俺は一角の意見に同意しつつ、難しい点も指摘する。
「なんか、ガラスの部分だけでも神様にもらって、周りの部分を動物の皮か何かで作る感じしかないか」
一角は休憩している間に色々考えていたようだ。
「そうだな。接着剤もできたし、透明なガラス部分をなんとかできれば水中眼鏡もどきはできるかもしれないな」
一角の想像した自作水中眼鏡をイメージしながら俺は同意する。
そして、少し沈黙が流れる。
「なあ、流司。もし明日乃以外の女の子がお前の事を好きだったら、お前はその女の子を将来的には抱くのか?」
一角がいきなり話題を変える。
「は?」
俺はあまりにも驚いてそう声を上げる。
一角は俺の事が好きなのかと一瞬勘違いしてしまう。
「い、いや、例えば、麗美姉の事だよ。彼女が本気で流司の事を好きだったらどうする? そして、男がお前だけとか、別の男に興味がなかったらどうする? 浮気と考えると明日乃も可哀想だが、麗美姉も可哀想じゃないか? それに神様ははより多くの子孫を期待している」
一角は慌ててそう言い、あえて俺と目を合わさないように遠い方を見てそう話を続ける。
「私もこれでも女だからな。女の子の幸せというのも少しは分かるつもりだ。そう言うものをどう対処するか、流司はどうする?」
一角は俺の顔を見て、答えを求めている。
「俺としては、俺を好いてくれている女の子の気持ちはうれしいし、それに答えたい。だけど、明日乃の気持ちが一番なんだ。男として、ずるいかもしれないが、明日乃がどう考えるかで俺の行動も決まると思う」
俺は真剣に考えてから、結局、そう答える。
「そうか、まあ、お前らしい答えだよ」
一角がそう言って呆れるように笑う。
「それと、俺の口からは言えなかったから、よければ一角からみんなに伝えて欲しいんだが、実は、これから来る仲間に男はいない。神様の話では、男が二人以上になると、ケンカをするから俺一人しか転生しなかったらしいんだ。確かに女性をめぐって喧嘩になったり、上下の力関係で喧嘩になったりしそうな気はする。特に知らない男が来たとしたら」
俺は一角に今後の仲間の事を告げる。
そして次世代、俺たちの子供が大人になるころに新しい男が来る予定の事も。
「そっか。まあ、そうだよな。私も、男が流司だけだから安心して暮らせるのかもしれない。知らない男がもう1人、2人といたら不安になったり、仲間がばらばらになったりしそうな気はするな」
一角はそう言って笑う。
「それって、俺の事を褒めてる?」
俺は一角を冷やかす。
「褒めてはいない。流司だからマシだと言ってるだけだ。それに流司は弱いし、チキンだからな。身の危険を感じない」
一角は俺を冷やかすようにそう言って笑う。
「そんなこと言ってると夜中襲いに行くぞ」
俺は仕返しとばかりにそう言う。
「まあ、それもいいかもしれないな。流司は将来的に私が子供を欲しいと言ったら、私を抱けるのか?」
一角がそう言う。冗談で言っているのか真剣に言っているのか分からない。
「何言ってるんだ?」
俺は焦る。
「ふふ。冗談だ。忘れてくれ。まあ、神様にお願いされたら、考えなくもない。そんなところだ」
一角は冗談でこの話を占めくくる。
「これ以上潜っても目が痛くなるだけだし、帰ろう。流司」
一角はそう言って立ち上がる。
確かに何か気まずくなって、これ以上貝をとる雰囲気でもなくなったしな。
俺も魚と貝の入った鍋を持って立ち上がる。
一角のとった大きな魚2匹と俺のとった小さな魚2匹の入った鍋を。
そして無言のまま並んで拠点に歩きだす。
次話に続く。
ちょっと改訂しました。
異世界を天動説のシステムにしようと思ったのですが、色々と話に制限がかかりそうなので普通に地動説に戻しましたw




