147話 果物の加工や北東の島のダンジョン攻略準備
【異世界生活 141日目 18:00】
「ただいま」
俺と琉生と真望は大量の果物と野菜を背負ってメインの拠点に帰ってきた。
「おかえり、りゅう君、真望ちゃん、琉生ちゃん」
夕食の準備をしていた明日乃が迎えてくれる。
「なんか、予想していたより果物少ないな」
焚火の側で休憩していた一角が俺の背負い籠を見てそう言う。
「自然の果物の木だからね。木に登って、採取するのが結構大変で、思ったより取れなかったよ」
琉生がそう言って残念そうな顔をする。
「確かに収穫の効率が悪かったな。リンゴ農園とかは木の枝の剪定とか支柱で枝を曲げて、農家の人が採りやすく、日当たりも良くなるように考えて育てられているらしいからな。それがない自然の果物の木は結構収穫が難しかったんだよ」
俺はそう答える。琉生の解説の受け売りだ。
しかも実際、木に登ったのは琉生だけどな。俺には美味しいリンゴや梨の判別ができないし、梯子を支える人も必要だったからな。
「そんな感じなのね。色々と難しいわね」
一角と一緒に休憩していた麗美さんが感心する。
一角と麗美さんは拠点に帰った後、北東の魔物の島に魔物狩りに行ったらしい。
「将来的にはリンゴの木とかブドウの木も手入れをして、効率よく収穫できるようにしたいね」
琉生がそう言う。
「そうなると、将来的には、拠点も北の平原に移した方がいいのかもな」
俺は琉生にそう答える。
「北の平原ならもっと大きい田んぼも作れるしね。将来的には北の平原がこの島の中心になるかな? まあ、まだだいぶ先の話だろうけどね」
琉生がそう言う。
「私はここの拠点が好きよ? 麻の群生地もあるし、粘土や砂、ガラスの材料だって北の拠点じゃ取れないでしょ?」
真望が不満そうにそう言う。
「まあ、あくまでも将来的にだ。そのころにはもっと効率的に麻の繊維を取る方法も考えるさ。それと、ガラスの材料は北の拠点から山に登るルートも開拓すればいいしな」
俺はそう答える。
真望は不満そうな顔をしている。
まあ、生活を安定させるにはまずは食料だしな。
それに、真望の努力のおかげで最低限の麻の布は確保できている。服もそうだが、作業用の、食品を濾したり、物を拭いたりする布まで余裕ができてきた。服に関しては着替えもできてきたしな。
琉生は話が途切れると、明日乃の眷属のシロを連れて、畑に向かう。
今日獲ってきた野菜の苗を植えるのだろう。シロは光魔法で明かりをだせるし、暗くなっても作業ができるのがありがたい。
「そういえば、一角、北東の魔物の島の魔物狩りの調子はどうだ?」
俺は話題を変えるように一角にそう聞く。
「ああ、大分、魔物の数は減ったぞ。最初に襲って来たファイヤーリザードマンはかなり減ったみたいで最近、橋に近づかなくなってきたし、次に出てきたトロールとかいう巨大な魔物もかなり減らせてるしな」
一角がそう言う。
「トロールって、あのゲームで出てくるトロールか?」
俺は聞きなれない魔物の名前を聞いて一角に聞き返す。
「ああ、たぶん、流司が想像しているやつだ。とにかくデカいし、巨大なこん棒を振り回して面倒臭い。あまりにも武器で戦うのが面倒臭いから、最近は魔法で蹴散らしているな」
一角がそう言う。
お祈りポイントも潤滑に貯まっているので、魔物狩りも効率が良ければ魔法を使えと二人には言ってあったのだ。
「もう、魔法メインの戦闘になりつつあるわね。ぶっちゃけ、人間の大きさと武器で、戦える相手じゃなくなっているのよね。トロールは。大きすぎるのよ」
麗美さんがぐったりした顔でそう言う。
それだけ面倒臭い魔物なのだろう。
「とりあえず、もう数日、魔物を減らせば、魔物はまだ出てこないもう1種族とドラゴンってことになるな。そろそろダンジョン攻略も行けるようになるぞ」
一角がそう教えてくれる。
「そうか。そうしたら、今日獲ってきた果物や、昨日のクマ肉を加工し終わり次第、ダンジョン攻略開始かな?」
俺はそう提案する。
「流司達、帰ってきてたの?」
そう言って鍛冶場で作業をしていた鈴さんも合流してくる。
鈴さんも果物が気になるのか、籠を覗いて回る。
「果物の瓶詰めが増えるとなると、ガラス瓶がまた足りなくなりそうだね。それに材料の珪石も在庫がもうないんだよね」
鈴さんがそう言う。
昨日、クマ肉も獲れたので、今日はガラス瓶作りをしてくれていたらしい。その追加分のガラス瓶も今日獲ってきた果物と昨日獲ったクマ肉で使い切ってしまいそうとのこと。
「最近は食べる量よりダンジョンで拾ってくる豚肉の方が多かったもんな。これで熊肉の水煮と果物の水煮やジュースを作ったらさらにガラス瓶もなくなるか」
俺はそう言い、悩む。
「明日乃、保存食は何日分くらいある?」
俺は気になって調理中の明日乃に聞いてみる。
「うーん、豚肉が8日分、イノシシ肉が4日分、強いクマの肉が3日分、そして昨日獲ったクマ肉が4日分と川魚の干物が2日分って感じかな?」
明日乃がそう教えてくれる。
明日乃の記憶力はコンピューター並みだな。
「だいたい20日は食べるのに困らないと。まあ、瓶詰めの食料を食べていけば空瓶も増えるだろうし何とかなるかな?」
俺はそう呟く。
「ああ、それと、小麦粉とトウモロコシの粉がいっぱいあるから、パンとか作ればもっと食材は持つね」
明日乃がそう付け足す。
そう言えば、小麦粉もあったな。
「トウモロコシといえば、ウイスキーよ。ウイスキーも作っておいてよね。アルコールはあると絶対便利だし」
麗美さんが思い出したようにそう言う。そう言えばそんな作業もあったな。
「木の樽は葡萄酒作りの時のが結構余ってる、というよりほとんど使わなかったから大丈夫だよ」
鈴さんがそう言う。ウイスキー作り確定か。
「というか、ウイスキーの発酵が済んだら、蒸留装置も作らないとダメだね」
鈴さんがそう付け足す。
ウイスキーはあくまでも蒸留酒だ。ウイスキーの素のアルコールができたらそれを蒸留して、濃縮する作業が必要になるらしい。
「蒸留装置かぁ。なんか面倒臭そうなことになりそうだな」
俺は昔テレビで見たような記憶から、お酒を蒸留する金ピカな蒸留装置を思い浮かべる。
「その時は流司にも手伝ってもらうからね」
鈴さんがそう言う。
とりあえずは、トウモロコシを発酵させてトウモロコシウイスキーの原酒を作るのが先だな。
「どうせ、私達はお酒、飲まないんだし、作らなくてもいい気もするけどね」
一角がしれっと核心をついてしまう。
そして、麗美さんの熱弁がそこから始まる。とりあえず科学的に必要だから作るらしい。多分、麗美さんが飲みたいだけだろう。
琉生が畑から戻ってきたところで夕食も出来上がり、みんなで夕食を食べる。
そして、明日からの行動を相談する。
とりあえず、明日、明後日あたりは果物と熊肉の加工と麗美さん希望のウイスキー作りをする。その後、また山を登ってガラスの材料、珪石の補充だ。
その間に、一角と麗美さんが北東の島の魔物の数を減らす作業をし、ダンジョン攻略がしやすい状態にしてもらう感じだ。
最後に、今日獲ってきた梨をデザートに食べる。
うーん、果物を食べられるという事はうれしいし、幸せな事なのだろうが、どうしても元の世界の果物と比較してしまうな。スイカの時もそうだが。
梨も自然に育ったものなので、みずみずしさが少し足りないし、少し硬いのと、甘味が足りない。そして少し青臭い。
みんなも微妙な顔をする。
リンゴやオレンジも少し剥いて食べたが、梨よりは美味しかった。ただし、こちらも元の世界の物と比べると色々たりない感じだ。
「果物の品種改良と味の改善は、琉生のライフワークになりそうだね」
琉生がそう言って笑う。
今は生きるのに精いっぱいだが、そのうち、生活の改善にも力が回せるようになりたいな。
そんな琉生のポジティブさには助けられる部分も多い。
明日からの予定も決まったので、日課のお祈りをして就寝する。
【異世界生活 142日目 6:00】
今日は朝食後、全員揃っているので、久しぶりの剣道教室。
みんなかなり強くなったし、毎日が実戦経験みたいな生活なのでそろそろ剣道教室もいらないんじゃないか? と思いつつも基本は大事なのでとりあえずやっておく。
その後、一角と麗美さんは北東の魔物の島に魔物を減らす作業に行く。
真望はいつもの麻布作り、鈴さんは残った珪石を使って瓶作りをするそうだ。
俺と明日乃は予定通り、昨日獲ってきた果物やクマ肉を瓶詰めの保存食にする作業。
琉生は午前中、動物の世話と畑仕事をして、午後からは俺達に合流する予定だ。
ちなみに眷属達はそれぞれ、作業の手伝いをする。
特に、俺の眷属のレオと麗美さんの眷属のココはクマの油作りだ。昨日、明日乃が肉と切り分けた脂身の部分を煮込んで、ココの水属性魔法で出した氷で冷やして固めて、不純物を取って、また煮込む。そんな作業を2日間続ける。
何気にレオとココは塩作りなど地道な作業で活躍、生活必需品が底をつかないのはレオとココのおかげだったりする。
そして、普段、木工作業や薪集め、木炭作りの手伝いも始めた鈴さんの眷属のアルと琉生の眷属のクマには石臼でひたすらトウモロコシを粉にしてもらう作業をお願いする。麗美さんが欲しがっているウイスキーを作る為だ。
そんな感じで、俺と、明日乃は昨日採ってきたリンゴとオレンジを半分水煮、半分ジュースにする。そして、剥いたリンゴの皮はウイスキーを作る時に使うそうだ。
リンゴの皮にはぶどうの皮同様、天然の酵母が付いているので、トウモロコシの発酵に役立つらしい。
とりあえず、俺はひたすらクマ肉を瓶詰めにちょうどいいブロックに切り、軽く塩水で煮つめて、瓶詰め、空気がなるべく入らないようにコルク栓をして湯煎をし、松脂で密封して出来上がりだ。
明日乃は同じように果物を瓶詰めにする。オレンジも皮を剥いてミカンの缶詰のような瓶詰めを作る。かなり手間のかかる作業だ。これ1日で終わるのか?
結局、俺のクマ肉の瓶詰めの方が先に終わり、途中から明日乃の手伝いをする。
ひたすらオレンジを剥いて、中の薄皮も剥く作業だ。これは面倒臭過ぎる。
途中で琉生も農作業が終わり、瓶詰め作りに加わる。ひたすら皮むきだ。
そして、皮むきが終わったところで、軽く水煮して、ビン詰めして湯煎して出来上がり。
そんな作業をして午前中は終わってしまう。
お昼ご飯を作って、鈴さんや真望も呼んで昼食にする。
昼食後、午後も引き続き保存食作り。果物の半分は絞ってジュースにして、腐らないように過熱してから密封する感じだ。
オレンジジュースは絞れば果汁が出るので比較的簡単だったが、面倒臭いのがリンゴジュースだった。
この世界にはミキサーという文明の力がない。リンゴは手で絞っても果汁は出てこない。
ならどうするか? ひたすら大根おろしのような器具ですりおろしてから布で濾す。とにかく大根おろしのようにするのが面倒臭かった。
しかも、すりおろしたリンゴは酸化して茶色く変色してしまう。なので、オレンジと一緒に採ってきた柑橘系の果物、レモンに似た果物を絞ってすりおろしたリンゴに混ぜて、ビタミンCの効果で参加を防ぐ。秘書子さんのアドバイスなのでよく分からないがそういうことらしい。
とにかく、俺と明日乃と琉生の3人で大根おろし器でひたすらリンゴを擂る。
ちなみに、余談だが、大根おろし器は事前に鈴さんに作ってもらったものがあったのだ。
昔、一角が魚を食べるのに大根おろしが欲しいと言ったことがあって、その時に作ったやつだ。
そして、残ったリンゴを全て擂りおろし布で濾して果汁を絞る。
少し甘味が足りないので昔作った砂糖を少し入れて煮詰めて、瓶詰めにして出来上がり。
うん、ジュースを作るのにもかなり時間がかかってしまった。
【異世界生活 142日目 15:00】
「ただいまぁ~、流司クン、ウイスキーできた?」
そんな掛け声とともに麗美さんと一角が魔物狩りから帰ってくる。
「いや、まだだ。というよりジュース作りに手間取り過ぎて手も付けられていない。今から作るところだ」
俺はそう答える。
「そういえば、りゅう君、ウイスキーって葡萄酒みたいに材料を樽に入れとけば勝手に出来上がるものじゃないんだよ?」
明日乃が思い出したようにそう言う。
「マジか?」
俺は聞き返す。ぶっちゃけ、トウモロコシの粉に水と酵母でも入れて放置しておけば発酵してお酒になるのかと思っていた。
「トウモロコシの粉はでんぷんだからね。でんぷんっていうのは糖がつながってできた鎖状の分子構造をした化合物だってことは学校で習ったよね?」
明日乃がそう聞いてくる。
「ああ、小学校だか中学校だかで習ったような気がする」
俺は何となくでそう答える。
だが内容はあまり覚えていない。
「でね、でんぷんっていうのは直接アルコールにはならないんだよ。でんぷんの長い鎖をバラバラにして単糖類ないし二糖類っていう糖に分解しないと、酵母がアルコールにできないんだよね」
明日乃がそう言う。
「ああ、葡萄酒の原料のブドウの果汁は名前の通りブドウ糖だから、ブドウの皮についた天然酵母で勝手にアルコールになってくれるけど、トウモロコシはでんぷんだからそう言う訳にはいかないわね」
科学が得意な元医学生の麗美さんもひらめいたらしい。
「そういうことだから、トウモロコシからお酒を造る場合、アミラーゼという酵素で一度、単糖類か二糖類に分解する、糖化という作業が必要なんだよ。日本酒の場合も麹菌っていう特殊な菌で糖化してから発酵させるんだよ」
明日乃がそう付け足す。
「マジ? で、アミラーゼってどうやって手に入れるんだ?」
俺は聞きなれない物質が出てきて慌てる。
「アミラーゼは唾液に含まれる成分なんだけど、さすがに唾液を入れるわけにはいかないしね。本場のウイスキー作りは大麦の麦芽に含まれるアミラーゼを使う感じかな? あとは芋類にもアミラーゼは多いよ。サツマイモが甘いのはアミラーゼの効果らしいね」
明日乃がそう教えてくれる。
そういえば、唾液ででんぷんが分解される。小学校だか中学校だかの理科の実験でやったような気がするな。
「この間、収穫したのは小麦だし、大麦じゃないもんな」
俺はそう言って首をひねる。
「お芋ならあるよ。前に森で採ったサツマイモっぽいお芋の苗を畑で育ててあって、それがそろそろ食べごろだね」
琉生がぼそっとそう言う。
「でかしたわ、琉生ちゃん!! これでウイスキーは作れるわね」
麗美さんが琉生の言葉に歓喜する。
「多分できるけど、糖化するのにも時間がかかるからね。とりあえず、今日は、トウモロコシの粉にぬるま湯とサツマイモのすり下ろしたのを入れてみて様子を見る感じかな。あとは温度調整しながら糖化するのを待って、糖化したら、酵母を入れて発酵って感じ? 今日中にウイスキーの仕込みは無理だね」
明日乃がそう言う。
とりあえず、明日乃とアドバイザー女神の秘書子さんに作り方を聞きながら、琉生のナイスプレイで手に入れたサツマイモのような芋をすり潰して、眷属達が石臼で粉にしてくれたトウモロコシの粉を混ぜ、綺麗に洗った土器に入れ、ぬるま湯を加える。
ちなみにアミラーゼは人肌程度の温度がないと働かないし、70度を超えると糖化が止まってしまうようだ。糖化している間、眷属達にたまに湯煎してもらい、人肌に温めてもらうようお願いする。
そして糖化が完了したら、酵母を入れて発酵させる。そこら辺の作業は眷属達に任せることにする。タイミングは俺と明日乃が秘書子さんに聞きながら眷属に指示する感じだ。
「ウイスキー作りって結構難しいな」
俺は作業を終えてそう言う。
「日本酒だともっと難しくなるよ。まあ、麹が手に入らないだろうから、この世界では作れないだろうけどね。お祈りポイントで神様から貰えるのかな? 麹菌って」
るうがそう言って首をかしげる。
「麹菌って確か醤油や味噌作りにも関わってくるよな? 将来的に醤油や味噌も手作りしたいから麹は手に入れないとダメだろ?」
一角がそう言って慌てる。
「まあ、麹菌については米が収穫できるようになるか、大豆が手に入るようになってからだな」
俺はそう言って呆れ笑いをする。
「琉生が麹菌を調整できるか不安だけどね。食中毒起こすような麹菌になっちゃうかも?」
琉生が不安そうにそう言う。
「まあ、そのあたりはほんと、米か大豆が手に入ってからだろ。今心配することじゃない」
俺はそう言って琉生を慰める。
琉生の話では麹菌というのがかなり曲者のようだ。
そんな感じで、果物とクマ肉を保存食にする作業も終わり、ウイスキー作りもとりあえず、下ごしらえみたいなものは終わった。そしてウイスキー作りは糖化が終わるまでこれ以上進められないことも分かった。
【異世界生活 143日目】
次の日は鈴さん琉生と3人で珪石採り、明日乃と真望は拠点で麻布作り、一角と麗美さんはこの日も北東の島に魔物狩りに行き、魔物を減らす作業
こうして久しぶりの休息と果物や野菜の補充、保存食の補充、そしてガラス瓶の材料の珪石の補充が済み、北東の魔物の島の攻略の準備ができ、明日からでもダンジョンの攻略が可能になった。
次話に続く。
トウモロコシウイスキー、私も水と酵母入れておけば適当に発酵して蒸留前の原酒くらいはできるんでしょ?
くらいに思ったいましたw
大麦が材料なら、麦芽に含まれる酵素で糖化が進むらしいですがトウモロコシではそうはいかない。そして、日本酒は麹菌がその仕事をしていたんですね。勉強になりましたw
ちなみに、大麦で作るウイスキーの蒸留前の原酒は炭酸の入っていないビールと同じらしいですw(まあ、ホップとか入っていないので風味とかは違うと思いますが)
今週も1名様ブックマークありがとうございます。
それと、誤字脱字報告も助かっています。




