第146話 久しぶりの休息(後編)と果物採取
【異世界生活 140日目 13:00】
「スイカ採ってきたよ!」
琉生がみんなに声を掛ける。
「お帰り、琉生ちゃん、りゅう君、真望ちゃん。野菜もいっぱいだね」
そう言って明日乃が野菜の入ったリュックを受け取る。
「遅いぞ、流司。腹が減ったし、魚とりにも飽きた」
一角が俺に文句を言う。
そして、明日乃のそばに積まれた大量の川魚。
「一角、また、アホみたいに魚を獲ったな。明日乃、バーベキューの準備は任せていいか? 俺は魚を捌いて干す作業をする。腐らせるのももったいないからな」
俺はそう言い、荷物を置くと、ニジマスっぽい魚やイワナやヤマメっぽい魚を捌く作業に入る。
「美味しそうなスイカね」
鈴さんと日よけテントの下で、ビーチベッドを広げて待ったりしていた麗美さんがそう言って琉生の置いたスイカを覗きに来る。
「試食に切ったスイカが1個あるから食べる?」
琉生がそう言って、味見した残りのスイカを取り出す。
その言葉に一角と鈴さんも寄ってくる。
「味はあまり期待しない方がいいわよ」
すでに試食した真望がぼそっと言う。
まあ、その通りなんだが、食べる前に言わなくても。
とりあえず、まだ食べていない、明日乃、一角、麗美さん、鈴さんに琉生が切ったスイカを配る。
「今食べたら、スイカ割りする気分が半減するな」
一角がさらに余計な事を言う。
まあ、そんな気は俺もした。
そして、スイカを食べて、みんなも微妙な反応をする。
「なんか、懐かしくて、食べていて美味しいんだけどね。確かに元の世界で食べたスイカと比べるとちょっとね」
麗美さんがそう呟く。
そうなんだよな。自然で育った、手入れしていないスイカだからな。甘味とか瑞々しさとか、そのバランスとか、微妙に違うんだよな。
「これは、琉生が一生かけて改善しないといけない課題かもしれないね」
琉生がスイカの栽培に変にやる気を出す。
「とりあえず、米の栽培が安定してからでいいぞ」
一角がそう言う。こいつは米が一番だからな。
「そうね。お米に小麦、主食を安定させないとね」
麗美さんもそう言って頷く。
果物は自然に頼りつつ、まずはお米と小麦って感じかな?
そんな感じで、スイカを食べてから、それぞれ作業に移りだす。
「琉生、真望。川で遊んできていいぞ。料理の方は俺と明日乃でやっておくから」
俺はそう言って琉生と真望を川遊びに誘う。
「私達も少し水浴びしようかしらね?」
そう言って、麗美さんと鈴さんも川に向かう。
川で冷やすためにスイカを持って。
そして、一角も暇なのか、魚とり用の弓矢を持って川に向かって行く。
これ以上魚を獲る気か?
俺は、一角に呆れながら、大量に積まれた川魚のはらわたをとり、木の間に荒縄を張ってそこに魚を吊るして干していく。
最近、肉しか食べてなかったからな。保存食としてとっておきたいし。
そんな感じで明日乃は野菜を切ってバーベキューの用意、俺はひたすら魚を干しつつ、一部の魚は串に刺して塩を振って焼き魚にする。
【異世界生活 140日目 14:00】
「みんな、準備できたよ」
明日乃がそう声を掛ける。
バーベキューの準備ができた。
明日乃が午前中に準備してくれた焼肉のタレにつけた豚肉、琉生たちと取ってきた野菜はサラダと焼き野菜にする。
焼肉のタレが圧倒的に足りないので、豚肉は塩胡椒で焼いたり、味噌漬けにしたりして工夫する。
それと、一角が獲ってきた川魚は塩焼きにして焼け次第随時食べていく感じだ。
「流司! ご飯食べ終わったら、午後は川遊びするんだからね?」
真望がバーベキューを食べながら俺に言う。
「そうだな。今回は北の臨時拠点もあるし、泊りでの川遊びだしな。午後はゆっくりするか」
俺はそう答える。
「明日乃お姉ちゃんも、準備で忙しくて遊んでないみたいだし、午後はみんなで川遊びしよ?」
琉生がそう言って明日乃も誘う。
そんな感じで、お昼ご飯は盛大に河原でバーベキューをして、スイカ割り。
ぶっちゃけ、バーベキューでお腹いっぱいになり、スイカどころではなかったので、スイカ割りをどうしてもやりたい琉生と真望が楽しそうにスイカ割りをして、割った2玉をみんなで食べる。
軽く後片付けをしたあと、俺は明日乃と真望、琉生と川遊びをする。久しぶりの遊びらしい遊びにみんな楽しそうだ。
そして、明日乃達のビキニ姿が眩しいな。
一角は魚獲りに疲れて、麗美さんや鈴さんと日陰でまったり過ごすようだ。
途中、干した魚に釣られて、クマが出たらしいが、休憩していた一角と麗美さんと鈴さんが、あっという間に倒してしまったそうだ。
川遊びをしていた俺達が全く気付かないくらいあっという間に。強くなったな、みんな。
そんなこともあり、夕食はクマ鍋を作る。北の臨時拠点に移動して、バーベキューの残りのネギっぽい野菜と残り物の野菜を味噌で煮こんでみんなで食べる。
「そういえば、拠点で留守番してもらっている眷属達の夕食はどうしているんだ?」
俺は気になって明日乃に聞く。
「最近、シロちゃんとココちゃんにお料理を教えだしたから、二人に任せた感じかな? そうしないと、みんな生肉とか平気で食べちゃうし」
明日乃がそう言って笑う。
「そうだな。レオあたりは、豚肉とか普通に生で食べそうだもんな」
俺はそう言って笑う。
「それに、シロちゃんやココちゃんが料理できるようになれば、私やりゅう君、琉生ちゃんが留守にしても留守番する子たちが困らないでしょ?」
明日乃がそう言う。
というか、そこで、真望や鈴さんあたりにではなく眷属に料理を教えるあたりは、他のメンバーの料理の才能が絶望的という事だろうか。
「ああ、もちろん、シロちゃんとココちゃんが料理を覚えたそうにしていたからだよ」
明日乃が俺の考えに気づいたようで慌ててフォローする。
まあ、留守番している眷属達の夕食も問題なさそうだな。
その日は前に作った北の臨時拠点に一泊する。
小麦を収穫する為に北の臨時拠点を作ったのだが正解だったな。川遊びを帰る時間を考えずにできるのはありがたい。
今夜は眷属がいないので、久しぶりに俺達が持ち回りで夜の警備をする。それもあって今日は早めの就寝だ。なんかこの流れ、懐かしいな。
俺が最初の3時間、真ん中が鈴さん、最後は明日乃だ。
鈴さんと明日乃は明日拠点に帰ってゆっくりできるからという理由からだ。
【異世界生活 141日目 6:00】
今日は二組に分かれて移動になる。
明日乃、一角、麗美さん、鈴さんはスイカとクマ肉と干し魚を持って拠点に帰る。
一角と麗美さんはその後、北東の島に魔物減らしの作業に行くそうだ。
そして、俺、琉生、真望は北の平原に残り、果物や野菜の苗を採取して帰る感じだ。
琉生としては途中、野生のニワトリがいたら仲間にしたいらしい。まあ、ヒヨコから育てて数を増やすにも限界があるしな。
そんな感じで、北の臨時拠点をかたづけて、みんなで移動を始める。
東に向かって歩き出し、そして途中、トウモロコシ畑の手前くらいで、拠点に帰るチームは南のルートに、俺達採取チームはそのまま東に向かって野菜畑と前にブドウを採った雑木林に向かって歩く。
ブドウを採った雑木林のさらに先に梨やリンゴ、桃が採れる林があるらしい。
そしてさらにその先にはオレンジが採れる場所や、前回とは違う種類のブドウが採れる場所もあるそうだ。
「リンゴやオレンジは多めにとって帰ってジュースや瓶詰めにする感じかな? モモも瓶詰め、梨は食べる分だけ採って帰る感じかな?」
琉生が歩きながらそんなことをつぶやく。
「梨の瓶詰は作らないのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「うーん、作れないことはないと思うんだけど、梨ってみずみずしさと食感が売りじゃない? 水煮にしちゃったら、美味しさ半減かなって。リンゴやモモなら、少し煮ても問題ないし、リンゴはもっと煮込んでジャムとかアップルパイにしてもいいしね」
琉生がそう言う。
言われてみるとそうだな。まあ、梨の缶詰、悪くはないんだろうけど、煮込んだ梨なら別に煮込んだリンゴや桃でもいいよなって気分にはなる。
「それと、スイカも水煮は難しそうだよね。どうしても瓜臭さが残りそうだし、梨同様、食感が大事だしね。今の琉生たちの技術じゃ水煮の瓶詰は無理かな?」
琉生がそう付け足す。
水煮の瓶詰による保存食作りも色々と制限がありそうだな。
「ねえ、琉生ちゃん、それと、気になったんだけど、これは何?」
真望が不機嫌そうにそう聞く。
俺と真望二人で担いでいる、長い竹製の梯子と竹の棒だ。
「ああ、昨日、鈴さんが、竹でビーチベッド作るって言ってたから、一緒に作ってもらったの。たぶん、リンゴの木とか梨の木とかあと、オレンジの木もかな? 自然のまま育った木だから、収穫に向いているような高さになってないと思うんだよね。だから梯子? 梯子使ったり木登りしたりする必要がありそうかなって」
琉生がそう言う。
元の世界のリンゴ農家は作業がしやすいように剪定や支柱をつけて背の届く高さにリンゴがなるようにしているが、自然に育ったリンゴはそう言う訳にはいかないらしい。
そして、日当たりなども自然任せなので、収穫するリンゴの選別も大変なことになるだろうと琉生が教えてくれる。農家の人の努力によって、元の世界では美味しい果物が食べられていたことを忘れてはいけないな。
そんな感じで、前にブドウを採った雑木林の前をさらに北に進むと、リンゴの木と梨の木が生える林につく。
リンゴは時期的に少し早いようだが、熟したものを選別して収穫するそうだ。
とりあえず、俺は琉生の補助、梯子を押さえる役と収穫したリンゴを受け取る役。真望はクマやイノシシに襲われないように周りを警戒する役だ。
ぶっちゃけ、俺や真望に熟した美味しいリンゴを選別する能力はないしな。
お昼ごろまでリンゴや梨を収穫して、お昼休憩。朝に明日乃が作ってくれたクマ肉の野菜炒め弁当をたき火で少し温めて食べる。竹筒に入ったお弁当。なかなか有用だ。
その後は、さらに北に移動して、オレンジの収穫もする。
琉生の話ではバレンシアオレンジに近い品種らしい。バレンシアオレンジは夏に採れて、ネーブルオレンジは冬に採れるそうだ。
「ねえ、これって、椿の木じゃない?」
真望がオレンジの収穫をしている琉生とその手伝いをしている俺にそう声を掛ける。
俺は梯子を押さえながら、真望の指さす木を鑑定スキルで確認する。
確かに椿と鑑定結果が出る。椿油が採れるそうだ。なんか、真望の意図が分かってきた。
「これ、採って帰って絞ったら椿油が取れるよね? 椿油があれば良質なシャンプーとか整髪オイルが作れるよね?」
真望が興奮しがちにそう言う。
「椿油を作る事は可能です。ただし、収穫時期はあと2~3週間ほど先になります」
アドバイザー女神様の秘書子さんが現れ、真望にそう言う。
「秘書子さん、椿油の作り方とか分かる?」
真望が興奮してそう聞き返す。
「お任せください。最良の精油方法の知識はあります」
秘書子さんが無感情だが自信ありげにそう答える。
「それじゃあ、流司、2週間したら、椿の実を取りにここに戻ってくるわよ」
真望がなんだかやる気になる。
「化粧品らしい化粧品がないから、みんな喜ぶかもね」
琉生が収穫したオレンジを俺に渡しながらそう言い、またオレンジの収穫に戻る。
うん、琉生には化粧の話はまだ早いのかもしれないな。
とりあえず、籠いっぱいのリンゴとオレンジと氷室に保存できる程度の梨を採って時間切れになる。
「うーん、本当はブドウも採りたかったんだけどな。やっぱり時間が足りないか」
琉生が残念そうにそう言う。
前回、ブドウを採るだけで1日がかりだったしなしかたない。
「また、採りにくればいいさ。それにそろそろ、瓶詰めの瓶が無くなると思うから、ブドウが取れても加工する余裕がないだろうし、そうなると鈴さんがガラス瓶の材料を集めるって騒ぎだすだろうしな」
俺はそう答える。
実際、最近のダンジョン攻略で豚肉がドロップし過ぎて氷室は豚肉の水煮だらけだ。
空瓶が出ないことにはぶどうジュースやブドウの水煮はお預けだろうな。
あと、氷室ももう一部屋増やさないと結構保存食でいっぱいなんだよな。
「じゃあ、ガラス瓶を作ったら、もう一度来る感じだね」
琉生がそう言うが、そのころにはお祈りポイントも満タンになっているだろうし、一角と麗美さんによる北東の島の魔物減らしもだいぶ進みそうだし、ダンジョン攻略も始めないといけなくなりそうだしな。
ダンジョン攻略と保存食作りによる生活の向上。最近やる事が多すぎて人手不足感が半端ないな。
その後、日が暮れる前に拠点に帰る為に急いで戻る。
途中、道草して、野菜の苗の取集と野生のニワトリを5羽見つけて琉生が仲間にしつつ。
次話に続く。




