第23話 麗美さんの固有魔法の力と土器づくり
【異世界生活6日目 5:00】
昨日は20時に寝たので、さすがに目が覚めてしまい、起きて家から出る。
「おはよう、麗美さん、一角、レオ。一角は起きるの早いな」
俺はそう言ってたき火の傍による。
3人とも荒縄づくりや麻紐作り、それぞれ思い思いの作業をしているようだ。
「さすがに、10時間は寝られないからな」
一角がそう言い、
「そうだな」
俺も同意する。
3交代の見張りでもみんな6時間以上寝られるような設定にしてあるので、見張りがないメンバーは10時間寝られることになるが、さすがに起きてしまうな。
「流司クン、体は大丈夫なの?」
麗美さんが心配して聞いてくれる。
「ああ、だいぶ良くなったよ。昨日の午後だって、探索できるくらいには回復してただろ?」
俺はそう言う。
一昨日使ったスキル『獣化解放』の副作用の致死レベルに近い筋肉痛は、今朝起きたら、一昨日、昨日と比べてだいぶ楽になり、何とか普通の筋肉痛に収まってきた。まだかなり痛いんだけどね。
「おなかすいたし、バナナでも採ってこようか?」
俺はそう言う。
「そうだな。熊肉ばかりだし、今日の朝くらいはバナナで軽く済ますか。明日乃ももう少し起きてこないだろうしな」
一角も賛成し、俺と一角でバナナを採りに行き、それを焼いて食べる。
そんな簡単な朝食を食べ、食べ終わるころに、明日乃も起きてくる。
「おはよう、みんな。もしかして、朝食食べちゃった? 寝坊してごめんね」
明日乃がそう言って謝る。
「いや、別に、もっと寝ていてもよかったんだぞ。明日乃が食事当番ってわけじゃないし、みんな小腹が空いていたみたいだからバナナで済ませた」
一角がそうフォローする。
「明日乃も食べるか? 焼きバナナだけど」
俺はそう聞く。
「うん、今日は、私もバナナでいいかな。実をいうと私もちょっと3食熊肉は飽きて来たなって思ってたの」
明日乃がそう返事する。
俺はそれを聞いて新しいバナナをたき火で焼き始める。
「なんか飲み物欲しいわね。コーヒーとまでは言わないから、紅茶っぽいもの? お砂糖もあるとうれしいわ」
麗美さんがそう言う。
「麗美さん、勝手に神様の箱使っちゃダメですからね。祈りの力がなくなっちゃう」
明日乃がそう言う。
「さすがにもうやらないわよ」
麗美さんが慌ててそう言う。
「そういえば、祈りの力といえば、麗美さん、昨日の夜、何か相談したかったことがあるんだよね?」
俺は昨日の夜の麗美さんの言葉を思い出し聞いてみる。
「ああ、そうそう、ちょっと待ってね」
食事が終わった麗美さんはそう言うと土器が陰干してある家に走っていき、土器? らしきものを持ってくる。
「ねえ、これ見て」
そして、麗美さんがそれを見せる。うん、土器だな。一角がアホみたい同じ物をつくっていたバケツみたいな土器だ。というか、これって、
「それ、私たちが作った土器だよね? あれ? なんか乾いてない?」
明日乃が不思議そうにそう言う。
俺もそう思った。
「そうなのよ。ちょっと、勝手に自分のマナで魔法使っちゃったんだけど、私の固有魔法? 水属性の魔法で『水を操る』ってスキルが取得可能だったんだけど、試しにスキルを取得して、土器に使ってみたのよ、半乾きの土器の水分を取り出すイメージで魔法をね。そしたら、ゆっくりだけど、手に水が集まってきて、土器の水はなくなっちゃった。要は乾かすことができたのよ」
麗美さんが嬉しそうにそういう。
「それって、すごくない? 2週間以上かかる土器の乾燥を魔法使えば一瞬でできるってことだろ?」
一角が麗美さんにそう聞く。
「そうそう、すごいよね。ただ、1回の魔法で土器1個かな? それに昨日は魔法の習得と使用でマナ20消費しちゃったし、これからの事を考えるとあんまりマナは消費しない方がいい、レベル上げを優先した方がいいって話でしょ? だから、お祈りの力を借りて、急ぎ必要な土器だけでも乾かしたらどうかなって。鍋一つだと色々効率悪いでしょ? 昨日も料理とミントを煮出して虫よけ剤づくりは並行してできなかったし」
と麗美さん。それが相談ってことか。
「そうだね。最低限必要な土器、お鍋代わりの土器2つと水を汲んでおく壺はあると嬉しいかな? 壺があれば洗い物とか楽になりそうだし」
明日乃がそう言う。
「1個の土器を乾かすのにお祈りポイント100ポイント。100円で土器が乾かせるなら結構お得じゃない? まあ、たくさんやったら勿体ないけど」
麗美がそう説明してくれる。
「生活魔法は1回、100円だったか。確かに、1個は土器乾いているし、あと1個、バケツみたいな土器と明日乃が作った壺を乾かすといいかもしれないな」
俺は明日乃の意見に合わせてそう言う。
「200ポイントならいいかな? ちょっとだけ仲間増えるのが遅れちゃうけど。それに麗美さんにマナ使わせてレベル上げ遅らせちゃうのもなんか失敗なきもするしね。今、レベル的に一番強いのは麗美さんだし」
明日乃が色々考えてそう言う。
「私もいいぞ。明日乃がいいなら」
一角がそう言う。
「まあ、試しにやってみるのも悪くないかな」
俺も承諾する。
「じゃあ、明日乃ちゃん、朝食食べ終わったら、乾かしたい土器を探しにいこ? で、さっそく焼いてみようよ」
麗美さんがそう言う。
「ああ、そういえば、明日乃の朝食がまだだった」
俺は話に夢中になり過ぎて大事なことを思い出す。
「流司、バナナこげてるぞ」
一角がそう言って、俺は慌ててたき火からバナナを取り出す。
うん、ギリギリセーフだ。多分。
焼いたバナナは結構真っ黒だったが、皮をむいてみると、中は大丈夫だったようで、明日乃は少し急ぎめに食べて、食後、土器を乾かしている家にみんなで向かう。
「どれがいい? なるべく焼いた時に割れなそうなやつがいいよね?」
麗美さんがそう聞く。
「2つじゃなくて3つじゃダメ? 割れる可能性を考えると焼く土器が3つだとちょっと不安なんだよね」
明日乃が悩みながらそう言う。
「1個増やすくらいならいいんじゃないか? 200ポイントが300ポイントになるだけだし」
俺はそう言う。
一角も麗美さんも承諾する。
「じゃあ、この壺みたいなやつと、バケツみたいなやつ2つかな? 土鍋とか小物は自然乾燥で間に合うと思うし、とりあえずいっぱい入りそうなやつ?」
明日乃がそう言って3つ選ぶ。
「了解。じゃあ、ひとつずつ乾かすよ。少し時間がかかるから他の作業をしていていいよ」
麗美さんがそう言う。
「とりあえず、1個だけ見ていていいか? 魔法がどんな感じか見てみたいし」
俺はそう言い、他の二人も同じ気持ちのようだ。
「オレ、何かすることあるか?」
レオは魔法に興味なさそうにそう言う。
「そうしたら、レオ、乾いた枯草いっぱい集めてきてくれる? 土器が割れないように焼くのに必要なんだよね」
明日乃がそう言うとレオは頷いて、枯草のありそうな草原に向かって小走りで向かう。
本当に健気だな。明日乃に対してだけだけど。
「それじゃあ、行くわよ。『水の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力を示したまえ』『水を操る』」
麗美さんはバケツ型の土器に向かい合うと、目をつむり、手を伸ばし、両手でお皿を作るように構えると、そう唱える。
みんな、沈黙して見ている。何も起きない?
少しの間、静かにみていると、麗美さんの両手の上が少し青く光り出す。
そして、その光が徐々に水の玉になり、その水の玉が徐々に大きくなっていく。
「ゆっくり魔法を使わないと、なんか土器が壊れそうで怖いのよね」
麗美さんが目を開けると独り言のようにそう言い、土器に集中する。その間にも水の玉は大きくなっていき、5分くらいたっただろうか? 水玉がソフトボールくらいの大きさになったところで、水の玉が割れる。
「終わったわ」
麗美さんがそう言うので、俺達は土器を見てみると確かによく乾いていた。
「うん、いい感じだね」
明日乃がそう言って、表面をさすってから、こんこん、と叩く。
いい音がする。よく乾いていそうだ。
「そういえば、水も竹筒かなにかにとっておけば飲み水になったんじゃないか?」
俺はこぼれた水を見て、真水を作れる魔法を思い出してそう口にする。
「ああ、なんか、真水を作る魔法とは違うみたいで、ちょっと不純物が入っちゃうみたいなのよね。鑑定すると『泥水』になっちゃうの」
麗美さんが残念そうにそう言う。
「ふう、ちょっと休憩。魔法の名前のとおり、水を操る感じだから結構集中しないといけないのよね。なんかイメージ的には超能力使っている感じ?」
麗美さんがそう言って木の根っこに座る。
「神様の力は使っているし魔法の発動は精霊がやってくれるけれど、コントロール自体は自分でする感じかな?」
俺は麗美さんの話を聞きそう質問する。
「うん、そんな感じ。まあ、魔法の種類によっても違うんだろうけどね」
麗美さんが少しぐったりしてそう言う。
「流司、麗美姉は私が見とくから、明日乃とレオと必要な薪とか枯草を集めて来いよ」
一角が俺にそう言う。
「ああ、そうだな。頼むよ一角」
俺はそう言って、明日乃と二人でレオと合流。なるべく乾いた枯草や薪を集める。
「りゅう君、レオ、あと、泥も多めにとってきて」
明日乃が枯草を運びながらそう言う。
「わかった」
俺とレオはそう答えて森の中の地面が見えるところに行き、俺が変幻自在の武器をシャベルに変えて泥を掘り、大き目の葉っぱに乗せるとレオがどんどんそれを運んでいく。
【異世界生活6日目 8:00】
何度か拠点と草原や森を往復すると、麗美さんの作業も終わったみたいだ。
「終わったわよ」
麗美さんがたき火の傍で休憩しながらそう言う。少し疲れているみたいだ。
「麗美さんは休んでいていいよ」
俺は彼女にそう言って、休ませる。
「明日乃、さっそく土器焼くか?」
一角が暇になったのかそう聞く。
「そうだね。さっきの感じだと土器、みんなよく乾いてそうだし、試しに焼いてみようか?」
明日乃がそう答え、土器を焼く準備をする。
一角は土器を運んできて、俺は焼く場所を作る。レオも俺の作業を見ながら真似をする感じだ。
「明日乃どうすればいい?」
「とりあえず、下の部分は普通のたき火といっしょかな? 燃えやすい藁とか小枝を一番下にして、その上に薪をならべるの」
明日乃がそう言ってたき火のようなものを作り始めるので俺も手伝う。
「これができたら、薪の上に土器を並べて、その上に土器が割れない程度の枝とかを乗せて、その上にさらに乾いた枯草をいっぱい乗せてね」
明日乃がそう言うので、一角は運んできた土器を明日乃の指示に従い並べ、その上から俺と一角で小枝を積む。あまり太い薪などを上にのせてしまうと、薪が燃え尽きた時に、その上にある薪が落ちてきて割れてしまう可能性があるそうだ。
枝を一通り乗せるとその上から枯草をどんどんのせていく。
「そんな感じでいいかな。最後に枯草の上に泥を乗せて枯草の山をまんべんなく覆う感じ? この泥が、窯の代わりになるらしいよ」
明日乃がそう言い泥をぺたぺた乗せていく。俺もそれをまねして枯草のやまが泥でドーム状の山になる。
「それにしても、明日乃は良く知ってるな。土器の焼き方なんて」
俺は感心してそう言う。
「何言ってるの? りゅう君も小学校の遠足で縄文遺跡の見学をして、土器づくりもしたよね?」
明日乃がそう言って首をかしげる。
「そうだっけ? 記憶がないな」
俺はそう答える。確かに、子供のころになんとなく行ったような記憶はあるが、何を見たか、何をしたか全く思い出せない。
子供のころの記憶ってそんなもんだろ?
「流司は記憶力ないもんな」
一角が俺を馬鹿にするように言う。
「一角ちゃんも小学校一緒だったんだから行ったこと覚えてるよね?」
明日乃がそう言うと、
「そうだっけ?」
一角も全く同じ反応をして、俺は笑う。
まあ、明日乃の記憶力が凄すぎるだけだ。子供のころの興味のない事への記憶なんてそんなもんだ。
「準備ができたら、泥のかぶってない藁に火をつけて焼成開始だよ。あとは火が消えて冷えるまで放置かな」
明日乃がそう言って締めくくる。
俺と一角はたき火から火のついた薪を持ってきて、泥をかぶっていない藁の出た部分にぐるっと一回り火をつけていく。
「うまく焼けるといいな」
「そうだね」
俺のつぶやきに明日乃が相槌を打つ。
とりあえず、一段落したので、たき火の傍に戻る。
「麗美さん、ありがとうね。麗美さんの魔法のおかげで、予定より相当早く土器ができそうだよ。まあ、割れずに焼ければだけどね」
俺はそう言って休憩していた麗美さんにお礼を言う。
「その感謝の気持ちを、流司クンの体で返してくれてもいいわよ」
麗美さんが笑いながらそう言う。目は獲物を狙う猛獣で笑ってないけど。
「ダメです。絶対ダメ」
明日乃が麗美さんをけん制する。
そして、一角が呆れるように笑う。
「で、この後どうする?」
一角がそう聞く。
「そういえば、剣道の朝練ってやってなかったわね。今からやる?」
麗美さんがそう言う。
「そうだね。お願いしようかな」
俺はそう言い、みんなも同意するので、少し休憩してから剣道道場をする。
まあ、剣道というより、20分剣道の素振りをして、20分合気道の棒術の練習をする。実際戦うのは槍だしな。そして最後の20分で寸止めの組手のようなものをやって練習終わり。結構疲れたな。
「お、流司、剣道道場やったら経験値が少し上がったぞ」
一角がそう言うので、ステータスを見てみると確かに経験値が10上がっていた。
みんな10ずつ上がって俺と一角のレベルが上がり、レベル9になっていた。
地味に剣道の訓練すごいな。
昨日の虫よけみたいな医学的な観点からのサバイバル知識といい、今日の乾燥させる魔法といい、剣道や合気道の師範代としての能力? 麗美さんのおかげでいろいろ助かったな。
俺は本当に麗美さんがこの世界に来てくれてよかったと思うのだった。
次話に続く。
誤字脱字報告ありがとうございます。
カクヨム版で苦労した乾燥問題を魔法で解決しましたw
何をするにしても乾燥がネックw 2週間とか3週間何もしない時期ができてしまうという、小説書きとして恐怖でしかないですw
お祈りポイントが全然ないのでもう少し話がモタモタしますw 5人目はもう少しかかりそうかな?




