第142話 一角が余計な事を言ったせいで
【異世界生活 132日目 11:00】
俺達は現在、南西の島のダンジョン、4つ目のダンジョンの攻略中。
そして、最後のボスが待つ、5階のボス部屋前にいる。
「なんか、ダンジョン攻略も同じような繰り返しで飽きてきたな」
一角がそうぼやく。
「馬鹿、そんな事言うと神様が気を利かせて余計なこと始めるぞ」
俺は慌てて一角を制止する。
「もう遅いんじゃない? 秘書子さんに聞かれたと思うし」
麗美さんが呆れ顔でそういう。
「秘書子さん、聞こえちゃった?」
俺はアドバイザー女神様の秘書子さんに声をかける。
この人は生活に役立つアドバイスや助力をくれるが、たまに余計なこともする。神様と協力して。
「イズミ様の進言を重く受け止めました。ただいまより、このダンジョンを管理している土の精霊と検討し、ボス部屋の改良を始めます」
そう言って秘書子さんが目の前から消える。
そして、半開きだったボス部屋が閉まる。
「ほら、馬鹿一角!! お前が余計な事言うから、秘書子さんがやる気になっちゃったじゃないか!!」
俺は一角を叱りつける。
「まあ、どっちにしろ、ボスを倒せばいいんだからいいじゃないか」
一角が悪びれる様子もなくそういう。
「初見のボスとか面倒なことになりそうよね。しかも秘書子さんが気合入ったみたいだし、ろくなことにならなそう」
麗美さんがそう言ってぐったりする。
「というか、今までの経験上、ろくなことにならないだろうな」
俺もぐったりする。
俺は、試しにボス部屋の扉を開けようとするが扉はびくともしない。
そして、ダンジョンの床が微妙に振動しだしている。
「なんか、絶賛改装中って感じね」
麗美さんが呆れる。
「なんか、面倒臭い事になったな。一度帰るか?」
俺は呆れ顔で言葉も出ない明日乃と琉生にそう声をかける。
「しばらくお待ちを。あと15分ほどで改装が完了しますので」
秘書子さんがそう声をかけてくる。
改装とか言っちゃったよこの女神様。
仕方がないので15分ほど待つ。
そして、改装が終わったのか、ボス部屋の扉が眩しく輝き、扉も一新される。
そして、扉には鉄製の注意書きのような板が張られていた。
「何々?」
一角が興味を持ったのか、注意書きを読みだす。
俺も一角の隣に行き、注意書きを読む。
~この部屋に挑む者への助言~
①この部屋では上級魔法以上の魔法や広範囲魔法は使えない。部屋の外からの魔法の持ち込みもできない。
②この部屋では結界魔法など安全を確保する魔法は使えない。同じく獣化義装などダメージを代替えするようなスキルも使えない。
③この部屋ではHPが1になった時点で気絶し戦闘が終了するまで結界で守られる。回復魔法による戦闘復帰は可能。
④最終ボスは1体のみ現れ、武器や魔法による攻撃はある程度有効だが、致命的なダメージを与えるためには『両手首の内側』『両足太もも』にある4つの核を破壊したのち、最後に胸についた主核を破壊することでボスを倒すことができる。
⑤最終ボスとの戦いは全員がこの部屋に入ることで始まる
⑥全員戦闘不能になった時点で、ボスへの挑戦権は失われる。日が変わるまでボスに再挑戦することはできない
そんなことが書かれていた。
「なんか、さらにゲームっぽくなってきたわね」
麗美さんが呆れる。
「一角がすべて悪い。ボスに飽きたとか言い出すからだぞ」
俺は一角を責める。
「実際、最近同じことの繰り返しで飽きてきただろ?」
一角がそう言ってキレる
まあ、そう言われるとそうなんだが。
「というか、一角ちゃん、それ以上余計な事言わないでね。さらに面倒臭い事になりそうだから」
明日乃が呆れ顔でそういう。
そうだな、これ以上言うとダンジョンの構造自体も改装されそうだ。
「で、行ってみる?」
琉生がそう聞く。
「まあ、このダンジョン、負けても死ぬわけではないしな。試しに行ってみるか」
俺はそう言い、他のメンバーも頷く。
「とりあえず、明日乃は部屋に入ったら補助魔法を。あとはボスと距離を置いて回復役に徹してくれ」
「分かったよ、りゅう君」
俺はまず明日乃に指示をし明日乃が頷く。
「一角と琉生は俺と壁役を頼む。最初様子を見たいからな」
俺は一角にそう言い、変幻自在の武器を丸盾に変化させ、サブウエポンとして腰に付けていた鋼の長剣を抜く。
「了解だ。なんか面白くなってきたな」
一角が楽しそうにそう答え、一角も変幻自在の武器を丸盾に替え、武器も鋼の長剣に。
琉生は背負っていた荷物からドロップアイテムの鋼の小盾を取り出し装備する。武器は元々使っていた鋼の長剣だ。
「とりあえず、水と非常食以外の荷物はここに置いて行こう」
琉生の重そうなリュックを見て俺はそう言い、自分のリュックもおろす。
「麗美さんは少し下がって、ボスの様子を観察してくれ。必要なら魔法を使ってもいいし。お祈りポイント結構余ってるしな」
俺は麗美さんにそう指示をする。
琉生にその役をやらせてもいいと思ったが、魔法を使うことを考えると、属性的にボスも同じ土属性と予想できるので相性悪そうだし、INTのステータスが高い麗美さんの魔法の方が若干だが威力もあるしな。
「それじゃあ、行くぞ」
俺はそう言い、扉に手を伸ばす。
扉を開けると、薄暗い部屋はもぬけの殻。何もいない。
扉から広い下り階段が伸びていて、ボス部屋が少し下げ底になったようだ。
「なんか、ボス部屋、立派になったな。広くなったし、天井も高くなった気がする」
一角がきょろきょろ見渡しながらボス部屋の床の部分まで下りてそう言う。
確かに階段を降りた分、3~4メートルほど天井が高くなったというか、床が低い位置になった?
しかも、周りの装飾も以前より凝っていて、壁の辺りは白い大理石の壁と古代ヨーロッパを意識したような大理石の柱が並べられ、なんか、ローマのコロシアムっぽい雰囲気を出している。
「秘書子さん、気合入っているわね~」
麗美さんが周りを見渡し、少しあきれ顔でそういう。
俺が真ん中に立ち、その右に一角、左に琉生が立ち盾を構える。
俺の後ろには麗美さん。
そして、最後に明日乃が、階段から、ボス部屋のフロアに降りたところで、周りが急に明るくなり、そして、ボス部屋の天井が開き、巨大な何かが目の前に振ってくる。
「ズドーーーン」
と大きな音を立て現れた何か。
土でできた巨大なオーク。4~5メートルはある、巨大でやけにリアルに表現された土製のゴーレムだ。
右手には鋼鉄製の巨大な両刃の斧を持っている。長柄の斧だ。
「グォーーーーーン」
両手を上げて、大きな声で叫び、斧を両手に持ち直し構える。
そして突撃してきて斧を横に構えるとフルスイング。
「琉生、危ない!!」
俺が叫ぶと同時に、琉生は盾を構え、その巨大な斧を受ける。
そして、吹き飛ばされて、左の壁に叩きつけられる。壁に並んだ大理石の柱の一つがその衝撃で折れる。
「琉生ちゃん!!」
慌てて叫ぶ明日乃。
俺も心配になって琉生の方をみるが、床に転がりぐったりしているが、ケガはないし命に別状はなさそうだ。
俺は盾を構え直し、ボスに対峙する。
そして鑑定スキルを使う。
なまえ オークキング(複合体)
レベル ???
オークキングの右腕 レベル45
オークキングの左腕 レベル45
オークキングの右足 レベル45
オークキングの左足 レベル45
オークキングの心臓 レベル48
オークキング模したゴーレムをベースに魔改造されたアースゴーレム。
各部位ごとが1体のゴーレムであり、それを複合させることでさらなる強さを生み出した。
強力なSTRで繰り出される巨大な斧による攻撃は脅威
VITも高く、高い耐久力を持つ。
「なんじゃこりゃ? 体の部位ごとがゴーレムで複合体!?」
俺は思わず鑑定結果の無茶な内容に叫ぶ。
「秘書子さん、やらかしているわね」
麗美さんも呆れる。
「とりあえず、両手両足破壊して、心臓を撃ち抜けば勝ちだろ?」
一角がそう言って楽しそうに笑う。
こいつはこういうのが大好きそうだもんな。
明日乃は跳ね飛ばされた琉生の治療を急ぐ。
琉生は1撃でHPが1になったようで、気絶、琉生のまわりには小さな光るバリアのような結界が張られている。
一撃で即死攻撃ってありかよ?
俺は慌てて盾にマナシールド、剣にマナソードのスキルをかける。
久しぶりに使うスキルだな。マナを武器や防具に纏わせることで、盾の防御力を上げて、剣のキレ味を上げるスキルだ。
「みんな、マナソードやマナシールドは使えるみたいだ。一角もスキルをかけておけ」
俺はみんなにそう言い、特に一角にそう声をかける。
一角は首をかしげる。
そうだよな。このスキル、ほとんど使ってなかったもんな。
「とりあえず、スキル説明読め! その間、俺がボスを抑える」
俺はそう言い、左に移動したボスに対峙する。
一角は少し下がってステータスウインドウをいじりだしている。この脳筋め。
「魔法を使うわ! 水の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『氷矢の連撃!」
麗美さんが俺のななめ後ろからそう言い、呪文を唱える。
そして麗美さんの持つ武器、長柄槍斧の槍先から、氷でできた槍が5本、オークキングに向かって飛んでいく。
オークキングは弱点でもある核を庇う様に丸くなり、腕で魔法の槍を受ける。
土でできた部分は魔法の槍でえぐられるが、篭手や脛あてなど、鋼の防具で守られたところはほとんどダメージを受けていないように見える。
そして、その鋼の防具だが、親切な事に、弱点の核は覆っていない。露出させてくれているのだ。
まあ、魔法で撃ち抜こうにも容易には受けてくれそうにはないが。
そして、オークキングは魔法を撃った麗美さんを睨むと手を伸ばし、手にマナが集まっていく。
「麗美さん逃げて、魔法が来る!!」
俺は叫び、魔法の射線と麗美さんの間に割り込む。
そして、ウッドゴーレムが魔法を放つ。
石弾の連撃だ。5つの石つぶてが俺と麗美さんを襲う。
俺は盾で魔法を受ける。
1発目はマナシールドで衝撃を受けられたが、2発目は衝撃をもろに受けて、吹き飛ばされて、床をゴロゴロと転がる。
HPという体を覆うバリアみたいなもので怪我こそしないが、痛みの一部が神経に送られてくるらしく、魔法の衝撃と床を転がる衝撃で軽い痛みが走る。
「きゃあ」
麗美さんの悲鳴が上がり、彼女も吹き飛ばされる。
俺は自分のステータスを見ると最大HPが346に対し、現在316。盾の防御とマナシールドのおかげでダメージがかなり軽減、1割弱減った程度だ。
「麗美さん、大丈夫?」
俺はボスに集中しつつ、麗美さんに声をかける。
「魔法を2発受けて、HPが3分の1近く持っていかれたけど大丈夫。回復魔法を使うわ」
そう言って、自分に回復魔法をかける麗美さん。
俺に2発、麗美さんに3発石つぶてが飛んだようだ。麗美さんは魔法の石つぶてを1発避けて2発喰らったと。
この魔法、ホーミング機能があるから完全によけるのは難しいんだよな。
「よし、スキルの意味は分かった。攻撃を始めるぞ」
一角がそう言い、一角も剣と盾にマナを込める。装備強化スキル、マナソードとマナシールドだ。
一角が長剣で斬りかかるが、オークキングは左手の篭手で受ける。
一角の剣に込められたマナがひときわ輝き、オークキングの左手の篭手に大きな切れ目ができる。
「すごいな。マナソード。鋼の剣で鋼の防具が切れるのか」
一角がスキルの切れ味に満足そうにつぶやくが、その隙を突かれて、オークキングが右手に持った巨大な両刃斧で薙ぎ払われ、琉生と同じように吹っ飛ばされ、床をゴロゴロと転がる。
「一角!! 大丈夫か!?」
俺は慌てて声をかける。
「ああ、大丈夫だ。マナシールドがかかった盾で受けたから衝撃は少し打ち消された」
一角がそう言ってよろよろと立ち上がる。
琉生の時のような直撃ではないらしい。
「いたたたぁ。うーん、ひどい目にあったよ」
琉生がそう言って、戦場復帰する。明日乃の回復魔法が効いたようだ。
「琉生もマナシールドとマナソードのスキルを装備にかけておけよ。あと、一角、1回ごとにマナソードやマナシールドは切れるからスキルのかけ直しには気を付けろ」
俺はそう言いつつ、自分の盾にマナシールドをかけ直す。
「マナソードって、なんだっけ?」
そして、琉生も一角同様、スキルの復習を始める。
そりゃ、ほとんど使ってなかったスキルだけど、名前と効果くらい覚えておいてやれよ。
「一角、いくぞ」
俺はそう言い、オークキングの右から斬りかかり、一角も左から攻める。
そして、麗美さんもマナソードのスキルを使い、長柄槍斧の刃先にマナを纏わせ、オークキングに正面から斬りかかる。
俺はオークキングの二の腕にマナソードで斬りかかるが、腕の太さに阻まれ、半分程度で剣が止まる。
俺は慌てて剣を引き抜く。マナソードのおかげで、剣が傷口から抜きやすいのも助かった。
オークキングが、俺に向けて斧を横に薙ぎ払い、俺はそれを盾で受けて、また床をゴロゴロと転がされる。
急いで立ち上がると、一角がオークキングの右足太ももにある核に斬りかかり、麗美さんが、俺を薙ぎ払って伸び切って、丸見えになった、右手の内側にある核を長柄槍斧で叩き斬る。
「グオーーーーッ」
オークキングがまるで痛覚でもあるように吠えて、片膝をつき、右手に持っていた斧を落とす。
コアを破壊された部位は黒く変色し、動きが鈍くなるようだ。
一角はオークキングの左手で殴り飛ばされ、地面を転がる。
さらにオークキングは動きの鈍くなった右手を伸ばし、麗美さんの次の攻撃を牽制する。
そして、落とした両刃斧を左手で拾い直し、杖を突くように立ち上がる。
右足の核も破壊されて自由が効かないようだ。
よろよろと後退しながら立ち上がり、態勢を取り直す。
「琉生ちゃん、行くわよ」
麗美さんがそう言い、もう一度、長柄槍斧にマナを纏わせ、オークキングに斬りかかるが、オークキングが麗美さんに近づかれるのを嫌がるように、斧で薙ぎ払う。
麗美さんは長柄槍斧の柄でオークキングの攻撃を受け、床をゴロゴロと転がる。
「やぁーーー」
琉生が掛け声で気合を入れて飛び込み、オークキングの左の二の腕に斬りかかる。切断こそできないが大きく傷口が開く。
オークキングは麗美さんを薙ぎ払った返し刀で琉生を薙ぎ払おうとするが、琉生は、巨大な両刃斧を潜り抜け、オークキングの右足のコアに突きを食らわせる。
惜しい。突きがわずかに核の横にずれる。
オークキングが右足で琉生を蹴り飛ばし、琉生はギリギリのところで避けて、一度距離をとる。
オークキングは核を失い動きの鈍った左足の片足立ちで、よろけ、なんとか、右足を床に付け、転倒から持ちこたえる。
俺はその攻防戦を見ながら、再突撃。
一角も逆方向、オークキングの左側から再突撃してくる。
オークキングの鈍った右手の攻撃を俺はかわす。
一角はオークキングが左手に持った斧で薙ぎ払われ、もう一度、床を転がされる。
「一角、ナイスだ」
俺はそう叫ぶ。
オークキングの今の動きで、俺の目の前に左手の内側にある核が目の前に露出する。
俺は冷静に長剣を上段に構え、その核を斬りつけ両断する。
オークキングの左手が黒く変色していき、巨大な斧を床に落とす。
オークキングはよろけながら、後ろに2歩、3歩と下がり、最後は麗美さんの長柄槍斧の槍の一突きで、右足の核を破壊され、オークキングの胸についている主核が光り出す。
結界のようなバリアで覆われていた主核が露出し、光を増す。
「琉生、ラストだ。いけ!!」
俺はすぐそばにいた琉生にそう言い、琉生が駆け出す。
4つの(核)コアを失い、両ひざをつくオークキング。
そして、目の高さまで下りてきた主核に全体重をかけて突きを放つ琉生。
巨大なオークキングを模したアースゴーレムの胸に琉生の長剣が深く突き刺さる。
主核が二つに割れ、光が消えながら、アースゴーレムの体が土くれに還っていく。
そして土くれと装備も光になって霧散しマナへと還っていく。
「よっしゃあ、何とかラスボスも倒したぞ」
俺は喜びでそう叫び、その瞬間、散々床を転がされた痛みが急に襲ってくる。
「いててて」
俺はその場でうずくまる。
「うーん、私ももうダメ」
琉生は最初の一撃のダメージを思い出したのか、床に大の字に転がる。
「もう、一角ちゃんの一言のせいで、大変なことになったわ」
麗美さんが長柄槍斧の柄を杖のようにつきながらそう愚痴を漏らす。
「でも、そのおかげで、久しぶりに楽しい戦闘ができたんじゃないか?」
一角がふらふらの体で歩いてきて笑顔でそう言う。
「楽しんでいるのはお前だけだ、馬鹿!!」
俺はそう言って一角を叱るが、実は俺もボス攻略の達成感を久しぶりに感じられた気がしていた。
「みんな、回復魔法かけるよ」
明日乃がそう言って駆け寄ってくる。
明日乃の回復魔法はHP (ヒットポイント)は回復するんだが、神経にフィードバックされた痛みは1日寝て休まないと回復しないんだよな。今日の夜は寝るのが辛そうだ。
俺は、体中の打撲のような痛みに悩まされながらそんなことを考え、明日乃に回復魔法をかけてもらうのだった。
次話に続く。
うん、明日乃、補助魔法掛けるの完全に忘れてますw
いきなり琉生が吹っ飛ばされたから仕方ないですがw




