第141話 南西の島のダンジョンでレベル上げ
【異世界生活 132日目 10:00】
「そういえば、流司、大変なことに気づいたんだが」
一角がそう俺に呟く。
「奇遇だな、俺も少し前に気づいた」
俺はそう答える。
俺達は、南西の魔物の島にあるダンジョンを攻略中。
現在4階のボス部屋にたどり着き、休憩がてら、レベルが41になった琉生の新しい魔法の確認をしたところだ。
「真望ちゃんがいないとウッドゴーレム丸焼きにできないわよね」
麗美さんが冷静にそう結論を出す。
そうなんだよ。いままで、4階のボス部屋と言えば、一角と真望の合体魔法、『獄炎暴風』という火属性最強の魔法でボス部屋のウッドゴーレム達を丸ごとを1撃で葬り去っていたのだが、今日は真望を連れてきていない。
「私が居残りすればよかったわね」
麗美さんがそう言う。
「いやいや、麗美さんは物理攻撃の方でもいて欲しい存在だし」
俺は慌てて否定する。
ぶっちゃけ、一角は合体魔法で絶対必要だし、明日乃の結界魔法も不測の事態で困ったときに使えるようにしておきたい。
そして、もちろん、琉生は土属性で要はこのダンジョンの主役。変幻自在の武器を手に入れるなら外してはいけないメンバーだ。
「もしかして、俺が一番要らなかった?」
俺はそう気づいてしまい、こそっと呟く。
「りゅう君はリーダーだし、いつでも必要だよ」
明日乃が慌ててフォローする。
「そうよね、精神的な柱みたいな? 流司クンいないとまとまる物もまとまらない気がするし」
麗美さんも慌ててフォローする。
「ぶっちゃけ、リーダーは麗美さんにもできるしな。戦闘面でも真望が代わりもできそうだし、流司は合体魔法使えないしな。真望の方がよかったな。確かに」
一角が本音で話してくれる。
このタイミングで本音は要らねえ。もっとオブラートに包んでくれ。
「とりあえず、どうするの? 琉生ちゃんの魔法はダンジョンじゃ使えないし、麗美さんの水属性魔法は木製のゴーレムには効き目薄そうだもんね。木を氷で固めたところで時間稼ぎぐらいにしかならなそうだし。私とりゅう君は合体魔法の対象外みたいだし」
明日乃が困った顔をする。
いや、本当に俺が拠点で留守番して真望が常時ダンジョン攻略に参加した方がいいんじゃないか? それくらいウッドゴーレムと火属性の魔法の相性はいい。
「まあ、全員レベルも上がったし、いつも通りの戦い方で、金剛義装で魔法を無効化して、1発でも多く魔法を撃たせて、無力化したら全員で突っ込むって感じでいいんじゃない?」
麗美さんがそう言う。
「言われてみるとそうだな。しかもボスは土属性で最上級魔法は使えないんだし、レベル30台だろうとレベル40台だろうと大して変わりはないしな」
俺はそう答えやる気になる。
実際取り巻きもボスも使ってくる上級魔法の『土の穿刺』で地面から土の槍が何本もつきだしてくる魔法だ。しかも、土がないダンジョンではゼロから土をマナで作るようで、ダンジョンの床から出てくるトゲトゲは小さいし数も少ない。
土がないダンジョン内では土魔法は色々制限がかかるらしい。そして、床や壁に使われている黒い石は魔法無効らしく、土魔法で変化させることもできないっぽいな。
まあ、俺達としたら、それで敵の使う魔法が弱体化するのはありがたいが。
「じゃあ、いつも通り、私、一角ちゃん、琉生ちゃん、明日乃ちゃん、流司クンの順番で入る感じで、すべての敵が魔法使い終わったら、全員突撃って感じでいくわよ」
麗美さんがそう言い、麗美さんが獣化義装を纏う。
それに続くように一角や琉生、明日乃も獣化義装を纏い、俺は獣化スキルの補助魔法をかけた上で獣化義装を纏う。
敵のボスがレベル45だから、俺のレベル46ではギリギリの戦いになりそうだからだ。
そして、麗美さんが部屋に飛び込み、右端の敵に向かって走り出す。
右端のウッドゴーレムが魔法を発動しだしたところで、方向転換、右から2番目、に向かって走り込み、最後は真ん中のボスに向かって走り込み、タイミングよく金剛義装を纏う。
そして、大量の土の槍で貫かれる麗美さん。
いや、金剛義装は貫かれず、そのまま、土の槍に持ち上げられ、上空に跳ね飛ばされる。
完璧な魔法無効化だ。右2体の取り巻きのウッドゴーレムとボスのウッドゴーレムに魔法を使わせた。これで、当分の間、そいつらは魔法が使えない。
それを確認した一角も同じようにボス部屋に飛び込み今度は左端に向かって走り、左端のウッドゴーレムが魔法の発動を確認したら左から2番目のウッドゴーレムに方向転換、2体の取り巻きウッドゴーレムが魔法を使い、麗美さん同様、一角の金剛義装も土の槍で跳ね上げられ、空を舞い、床に打ち付けられる。
見た目はものすごくいたそうだが、金剛義装は魔法ダメージと物理ダメージを無効かするのでほとんどダメージはないらしい。
ただし、落ちた時の衝撃で、ちょっと内蔵がゆすられて内臓痛というかお腹の中が気持ち悪くなるらしいが。
魔法の無効化を確認し、急いで俺と明日乃、琉生が部屋に飛び込む。
麗美さんが3体のウッドゴーレムに、一角も2体のウッドゴーレムにタコ殴りにされている。
「琉生、一角の方から倒しに行くぞ」
「了解。流司お兄ちゃん」
俺が琉生にそう指示し、琉生が答え、俺と一緒に左の一角をタコ殴りにしているウッドゴーレムに向かう。
「明日乃は異常事態に備えて結界の準備」
「了解だよ」
俺は明日乃にもそう指示し、明日乃が答え、俺達の後について来る。
一角を攻撃しているウッドゴーレムはレベル35のリザードマンを模したウッドゴーレム。レベル41の琉生でも十分対応できる。
俺と琉生はそれぞれのゴーレムに斬りかかり、タコ殴りから解放された一角も金剛義装を解き、そのまま一角は琉生の対峙しているウッドゴーレムの首を刎ねる。
この世界、レベルが均衡する状態では、2対1の状況が作れれば数が多い方の勝利、楽勝になる。戦いの常とう手段だ。
最近、一角も麗美さんもウッドゴーレムの首を刎ねる時は、変幻自在の武器を長柄槍斧風の武器に変化させることが多いようだ。
斧より防御に優れ、遠距離から攻撃もできる、その上、斧のようにウッドゴーレムの首を刎ねるにはちょうどいい武器だからということらしい。
俺は、基本、両刃の大斧に変幻自在の武器を変化させる。両手で振り回すと一番攻撃力がある気がするのはこれだからな。
一角は琉生が対峙していたウッドゴーレムの首を長柄槍斧で跳ね飛ばし、俺も、ウッドゴーレムの右腕を武器ごと跳ね飛ばし、無力化してから、首を刎ねる。
「よし、次は麗美さんを助けにいくぞ」
俺は一角と琉生に声をかけ、麗美さんの元に駆ける。
そして、俺はボスのレベル45のワータイガーを模したウッドゴーレムに斬りかかり、一角と琉生はそれぞれ取り巻きのウッドゴーレムと対峙する。
そして、解放された麗美さんが金剛義装を解き、琉生の対峙しているウッドゴーレムの首を刎ねる。
これで勝敗は決まったな。
俺はボスウッドゴーレムの持つ鋼の長剣を両刃の大斧で受けながら攻撃を避け続ける。
うーん、レベルが均衡すると、両刃の大斧では攻撃に転じられないか?
俺は意外と苦戦する。
そうしている間にも、他のメンバーの戦闘が終わり、俺の対峙していたボスウッドゴーレムも後ろから麗美さんの長柄槍斧で首に一撃を受け、動きが止まり、さらに首への攻撃が2度、3度と続き、ボスの首が落ちる。
これで4階のボスもクリアだ。
「琉生ちゃん、急いでウッドゴーレムにとどめを刺してね。獣化義装が切れないうちに5階のウッドゴーレムを倒せるだけ倒すから」
麗美さんがそう言い、いつもの流れだ。
琉生が床に落ちたウッドゴーレムの首の額にあるコアを壊していき、経験値を確保していく。
そしてドロップアイテムの回収。
リザードマン型のウッドゴーレムの武器や防具は鉄製なのでスルー、ボスが鋼の胸当てをドロップしたので琉生が装備するために回収する。
ボス部屋にある宝箱も鉄製の防具なのでスルーだ。
そのまま急いで5階に下り、1体ずつ敵が襲ってくるエリアで3体、2体ずつ襲ってくるエリアで2組4体を金剛義装で魔法を上手く無効化しながら倒していき、そろそろ10分経つので、ドロップアイテムを回収し、一度安全地帯のエントランスに戻り休憩する。
琉生が鋼の防具4種手に入れたので、着替える為に俺は一度上の階のエントランスに行く。
まあ、裸になるわけではないのだが、男としてのマナーだ。
着替えが終わったらしく、明日乃が迎えに来てくれる。
そこで一度休憩する。
「そういえば、前回は私の補助魔法かけまくりでやっと戦えていた感じだったのに、今日はみんな、補助魔法なしで戦えたね」
明日乃がそう言う。
「一角も麗美さんもレベルが上がってるからな。まあ、俺は自分の補助魔法ないとさすがにレベル45の敵は辛いけどな」
俺は明日乃にそう答え、ちょっと恥ずかしくなって笑う。
「私もダメっぽいね。このレベルだと、ボス部屋厳しいかな?」
明日乃もそう言う。
明日乃もさっきの戦いでレベル47に上がったらしいが、明日乃の場合、ステータスがINT特化なので、武器で戦うとなると、敵よりかなりレベルが上でないと補助魔法無しでは不利なのだ。
このフロアのウッドゴーレムのレベルは45。明日乃にはかなり荷が重い。
「琉生も今レベル42になったところだから、もっとレベルを上げないと厳しいね」
琉生も残念そうにそう言う。
「敵が3体出るエリアあたりからは明日乃ちゃんの最上級魔法の補助魔法掛けた方がいいかもね。琉生ちゃんも明日乃ちゃんも、そして流司クンもレベルが少し足りないから」
麗美さんがそう言う。
麗美さんと一角は日頃の魔物狩りでレベル48になっているので補助魔法無しでも余裕はありそうだ。
「明日乃が戦うときは補助魔法2重掛けしておいた方がいいだろうな」
俺はそう付け足す。
「結構、明日乃と琉生のレベル上げ次第でボス部屋も厳しくなりそうだな」
一角がそう言って顔をしかめる。
「まあ、このダンジョンの5階は経験値効率いいから、行けるところまで行ってみましょ? で、琉生ちゃんのレベルを45まで上げたら、明日乃ちゃんのレベルを上げる。流司クンには悪いけど補助魔法で頑張って」
麗美さんがそう言う。
そうだな。俺のレベルアップよりまずは琉生と明日乃のレベルアップだよな。
そんな感じで作戦会議も終了。
魔法無効化でさんざん床に叩きつけられている麗美さんと一角の内臓が心配なので、一応明日乃が回復魔法をかけておく。
さっき撤退したところまで戻り、明日乃が最上級魔法の補助魔法、『神の恩寵』を使い、麗美さんと一角が獣化義装を纏い、魔法無効化の作業をする。
そして、残りの2体ずつ襲ってくるエリアの2組、3体ずつ襲ってくるエリアの5組を倒して、俺のレベルが47に、明日乃のレベルが48に、琉生のレベルが45になる。
レベル48近くなるとレベルの上りがさすがに悪くなるな。貢献ポイントによる経験値だけでは麗美さんも一角もなかなかレベルが上がらない。
補助魔法や獣化義装が切れたのでもう一度かけ直し、敵が4体ずつ出るエリアに挑む。
ここはもう全員参加になってくる。
そして、琉生が目標のレベル45になったので残りは明日乃のレベル上げに使う感じだ。
そして、ボス部屋前に到着した時には明日乃のレベルは50に、他のメンバーも貢献ポイントで俺がレベル48に、一角と麗美さんがレベル49に、琉生も46になる。
ここで一旦休憩だ。
琉生もドロップアイテムで鋼の防具がコンプリートしたのでここで着替えてしまう。
「なんだかんだ言ってみんな結構いい感じのレベルになったわね」
麗美さんがそう言う。
俺も何とか補助魔法無しでも戦えそうなレベルになった。ただし、これから出てくるボスのレベル次第ではボス部屋も補助魔法が必要になるかもしれないが。
「とりあえず、ボスのレベル見ようぜ」
一角が意地悪そうに俺に向かって言う。
大抵、ボスを相手にするのは俺だからな。
そして、いつものボス部屋チラ見。
ドアを少し開けて覗き込み、鑑定スキルを使う。
「うーん。レベル48のワータイガー型のウッドゴーレムか。微妙に嫌なレベルだな」
俺は鑑定結果を見てがっくりと肩を落とす。
レベルもさることながら、武器が巨大な鋼の両刃斧。当たったら痛そうだ。
「ほんと微妙というか絶妙? 誰がボスの相手をするにしても補助魔法が必要ね」
麗美さんが呆れるようにそう言う。
「とりあえず、俺がボスは抑えるから、麗美さん、いつもの感じで取り巻きを倒して助けに来てね」
俺は情けないが麗美さんに頼る。
4階のボスとの戦いも結局力が拮抗し攻撃に転じられなかった。今回もそうなるだろう。
「りゅう君、補助魔法はかける?」
明日乃が俺にそう聞く。
「いや、そこまでレベルが足りないわけじゃないから大丈夫だろう。苦戦しそうな俺と明日乃と琉生は、獣化スキルの補助魔法の方で各自対応しよう」
俺はそう答え、明日乃と琉生が頷く。
「それじゃあ、行くか。ダンジョン攻略は間近だ」
俺はそう言って気合を入れる。
「やっと、自分専用の変幻自在の武器が手に入るよ」
琉生が嬉しそうにそう言う。
琉生の頭の中はきっと、どんな農機具に変化させようかという妄想でいっぱいだ。
南西の島のダンジョンラスボスの攻略が始まる。
次話に続く。
今週もブックマーク1名様ありがとうございます。
最近更新が週1回になってますが7月末には戻ってくる予定です。




