第140話 南西の島のダンジョン攻略の再開
【異世界生活 131日目 4:30】
「お祈りポイントは15万ポイントまで回復したな。これで南西の島のダンジョン攻略を再開できる」
俺は朝食を食べながらそう皆に言う。
「とりあえず、今日の午後移動して、明日の朝からダンジョン攻略再開って感じでいい?」
麗美さんがそう聞いてくる。
「そうだね。今日、朝から移動したところで、白い橋の上から魔物狩りできる感じでもないだろうしね」
俺はそう答える。
南西の島は魔物を十分に狩ったので、どの魔物も自分の集落を守るので手一杯、白い橋の結界を破壊する活動まで手が回らない、つまり、橋の上からの魔物狩りが成立しない状況になっていると思う。
まあ、あくまでも今までの経験から来る推測ではあるが。
「午前中、作業するなら、明日乃、保存食をお願い。クマ肉でもイノシシ肉でもいいから、野菜スープを瓶詰めにして数日分作っておいて。留守番で残されるのが、私と真望じゃ、栄養失調で死んでしまうかもしれない」
鈴さんが明日乃にすがるようにそう言う。
「私の料理が不味くて悪かったわね。そんな事言うなら自分で作りなさいよ」
真望が少しキレる。
「もう、しょうがないなぁ」
明日乃が仕方なさそうにそう言い、午前中の作業が決まる。
保存しておいた水煮の肉と琉生の畑の野菜で野菜スープの保存食を大量に作る作業だ。
「麗美さん、久しぶりに海に潜らないか? タラの切り身もシャケの切り身も水煮が尽きて魚不足になりそうだしな。流司は海岸で、サメの監視を頼む」
一角がそう言い、俺、一角、麗美さんの午前中の作業も決まる。
海に潜って魚とりがしたいそうだ。
琉生はいつも通り、農作業と動物の世話、真望は麻布作り、鈴さんはガラス瓶作りや鍛冶作業って感じだ。
【異世界生活 131日目 6:00】
そんな感じで、俺は砂浜で、ハマグリっぽい貝を掘りながら、海の監視。
一角と麗美さんは海で魚を獲る作業を久しぶりにする。
ビキニ姿の一角と麗美さん。なんか久しぶりに見た気がするな。
「もう、流司クンったら、私の水着姿に見とれちゃって。流司クンが望むんだったら、この余計な布も取っちゃってもいいのよ?」
麗美さんがそう言って、水着のブラを外すしぐさを見せる。
一角がジト目で睨むので丁寧にお断りする。
そして、黙々と砂浜を掘ってアサリのような二枚貝を探す作業をする。
ぶっちゃけ、俺は要らないような気もするが、俺がいないと、アドバイザー女神様の秘書子さんのサメレーダーが機能しない。俺の五感を秘書子さんが共有できる状態でないとしないとレーダーが使えないのだ。
「流司、時間が勿体ないから、取ってきた魚をこの場で捌け。そうすれば、拠点に戻ってすぐ保存食にできるしな」
一角が大量の魚を抱えて戻ってきてそう言う。
言われてみるとそうだな。
俺は一度拠点に戻り、まな板代わりの大きな板と、塩、水を汲む土器を持って砂浜に帰る。
そして、海水を汲んで、海水で洗いながら魚を捌いていき、捌いた魚は、別の土器、海水に塩をいれたものに放り込んでいく。
拠点に帰ったら、そのまま干してもいいし、水煮にしてびん詰めにしてもいいしな。
そんな感じで2時間ほど魚とりと魚を捌く作業をして拠点に戻る。
拠点では明日乃が大量の野菜スープを作って瓶詰めにする作業をしていた。
明日乃は忙しそうだったので、俺は俺で、取ってきた魚を水煮の瓶詰にしたり、干す準備をしたりする。
一角と麗美さんは水浴びで海水を流した後、麻の茎を叩く作業をし、琉生の農作業が終わったところで新しい麻の茎を採りに出かけていった。
【異世界生活 131日目 11:30】
「ただいま。流司お兄ちゃん、明日乃お姉ちゃん」
琉生達が麻の茎を持って帰ってくる。
それに合わせて、作業をしていた真望と鈴さんも各工房から出てくる。
「麻の茎を干したら昼食にしましょ?」
明日乃がそう言い、昼食の準備を続ける。
俺も麻の茎を干す作業を手伝い、琉生は明日乃の手伝いを始める。
麻の茎を干し終わり、昼食にする。
「なんかいい匂いがするな」
一角がそう言って鼻をスンスンと鳴らす。
「今日はちょっと変わったスープを作ってみたの」
明日乃がそう言い、スープの入った皿を配りだす。
「なんだこりゃ? アワビ!?」
一角がスープを見て驚く。
なんか高い中国料理店で見たことあるアワビの入ったスープだ。
「前に、アワビを干して乾物にしようって話あったじゃない? で、みんな忘れて放置されてたんで、昨日水で戻して、朝から煮込んでスープを取ってみたの。まあ、調味料が塩しかなかったから味は今一つかもしれないけど」
明日乃がそう言って申し訳なさそうに笑う。
「そういえば、そんなことあったな」
アワビを大量に採ってきた張本人の一角は完全に忘れていたようだ。
もちろん、俺も忘れていた。確か干して2カ月以上かかるとか言われていたもんな。すっかり忘れていた。昆布だしの方はたまにタラを食べるのに使うので覚えていたが。
「なんか本格的だな。とろみも付けたのか?」
俺はそう言って木でできたスプーンでスープをすくう。
とろみもついていてなんか本格的な中国料理っぽい。
「うん、片栗粉はないけど、小麦粉があったからそれっぽくとろみをつけてみたの」
明日乃がそう教えてくれる。
とりあえず、食べてみる。
「う、美味いな、これ。アワビの出汁ってこんなに美味い物なのか?」
俺より先に一角が一口食べてうなる。
確かに美味い。中国では大きいアワビの干物は金と同じ価値があるみたいな高級食材と聞いたことがあったが、本当に美味いな。煮込んだアワビ自体も味に深みがあって美味い。できれば醤油漬けにしたらもっと旨くなりそうな気もするが。
「昨日の夜から水で戻して、朝から煮出した出汁だからね。手間がかかった分、予想以上に美味しかったんで、私もびっくりだったよ」
明日乃が恥ずかしそうにそう言う。
「なんか、添え物でつけられた青菜っぽいものもスープに合って美味いな」
見慣れない青菜を純粋に褒める。
「それは、かぶの葉っぱだよ。チンゲン菜とかせめて、ほうれん草とかあればよかったんだけどね。なかったんで、かぶの葉っぱで代用。かぶの煮た物も、もったいないから一緒に入れちゃった」
明日乃がそう言って、ペロッと舌を出す。
「カブの煮たやつも意外とアワビのスープと合うな」
一角も添え物を絶賛する。
確かにカブのわずかな苦みがアワビのスープとよく合う。
「それと、今日採ってきてくれた白身魚は小麦粉とバターでムニエルにしてみたんだけど、これもアワビのスープをあんかけ風にかけると美味しいと思うよ。胡椒がないからムニエルっぽくないしね」
明日乃が残念そうにそう言う。
俺はスープと一緒に出てきた魚のムニエルを食べてみる。
確かに何か味が物足りない。それが、アワビのスープをかけると格段に美味くなる。
「ああ、これはありだな。白身魚のアワビスープのあんかけ」
一角がムニエルにあんかけをかけまくる。
「鳥ガラスープと少しの醤油もあればもう少し味に深みが出るんだけどね」
明日乃が残念そうにそう言う。
いやいや、塩味だけだけど、それでも十分旨い。
「鳥、獲ってくる」
なんか近くで作業をしていたレオがそう言って立ち上がる。
「ああ、今度でいいよ。今度、アワビのスープを作る時にキジを獲ってきてね。キジのスープとアワビのスープは凄く合うと思うから」
明日乃がそう言って慌ててレオを止める。
キジの出汁とアワビの出汁のミックスはちょっと贅沢過ぎる気もするが。
「いっそのこと、ニワトリをばらして」
「だめだよ。ニワトリを食べるのはもう少し増やしてからだからね」
一角がニワトリを食べようと言い出す前に琉生に止められる。
まだ、やっとヒヨコが生まれて、ヒヨコがいっぱい増えた程度だし、成長してニワトリが食べられるようになるのはまだ先だろう。
ちなみに、俺がサメの監視をしながら少しだけ採ったアサリのような貝はムニエルと同様、バターでアサリのバター焼きになっていた。これも結構美味かったが、完全にアワビのスープに主役の座を奪われ、話題にも上がらなかった。
そんな感じで、忘れられていたアワビの干物を食べ、久しぶりの中華っぽい食事を食べることができ、午後からは南西の島のダンジョン攻略に向けて西の臨時拠点へ移動する。
今回のメンバーは俺、明日乃、一角、麗美さん、琉生の5人だ。
料理ができるメンバー3人が遠征なので、拠点には大量の保存食として肉野菜スープを残してきた。
真望が料理できるようになるといいんだが、味覚が壊滅的だからな。というか、味覚と調理技術が連動しないというか、まあ、とにかく怪しい料理を作ってしまう。
それと、眷属のトラとアルも連れていく。俺達がダンジョン攻略をしている間の留守番役をしてもらいながら、臨時拠点にある家をもう1軒建て増ししてもらうためだ。
西の川をいかだで渡り、南の島につながる白い橋の前を抜け、もう一つの川は石橋があるので、それを渡り、南西の島につながる白い橋の前を通り過ぎ、窪地にある森の手前に作った西の臨時拠点に到着する。
【異世界生活 131日目 17:00】
かなり日も暮れていたが、みんなで大掃除をして臨時拠点を使える状態に戻す。
まあ、前回の遠征から9日しかたっていないので、そんなに汚れてはいなかったが、麗美さんの作った虫よけ剤で虫対策は念入りにしておく。
掃除は女の子4人に任せて俺は眷属達を連れて、裏の泉に水を汲みに行く。水がないと料理もできないからな。
とりあえず、臨時拠点も落ち着いたので、持って来た野菜と豚肉の水煮やベーコンで夕食を作る。
明日は早いので早めに寝る為だ。
夕食を早めに食べ、日課のお祈りをして、早々、就寝する。
臨時拠点は今のところ、家が2つしかないので、一角と麗美さんと眷属2人、もう一つの家に俺と明日乃と琉生で寝る感じだ。
明日乃がちょっと不機嫌そうだがスルーしよう。反対に琉生は3人で寝られてうれしそうだ。
【異世界生活 132日目 2:30】
今日は南西の島のダンジョン攻略の日。
2時に起きて軽く朝食をとり、出発する俺達。昨日は20時には寝たのだが、それでも睡眠時間6時間は少し寝足りない感が残るな。
麗美さんも順調に寝坊した上に、寝ぼけている。
お祈りポイントも16万ポイント以上と完全に回復しており、魔法を使いまくっても大丈夫な状態だ。
ちなみに、今日のメンバーのレベルはこんな感じだ。
流司 レベル46
明日乃 レベル46
一角 レベル48
麗美 レベル48
琉生 レベル40
日頃から魔物狩りをしている一角と麗美さんが頭一つ飛び抜けている感じ。
琉生は最近、琉生がいなくても農業と畜産を眷属達に任せられる状態にするために、拠点で眷属達と農作業と動物の世話を続けていたのでかなりレベルに差がついている。
今日は琉生のレベルを上げてできれば5階のラスボスを倒して琉生専用の変幻自在の武器を手に入れるのが目的だ。まあ、ラスボスが難しそうなら明日再挑戦でもいいのだが。
臨時拠点から30分歩き、南西の魔物の島につながる白い橋に到着、さらに30分かけて橋を渡る。
ダンジョン争奪戦の前なので、橋の前には魔物がいない。
橋の上で少しだけ休憩し、南西の島に上陸。ここからは俺の『危険感知』のスキルを使って慎重に進む。危険探知のスキルはマナが減らない代わりに精神的に疲れるので、ダンジョンの手前で一度休憩してから、ダンジョンに向かう。
【異世界生活 132日目 5:00】
そして、ダンジョン争奪戦の会場、ダンジョンの入り口前の広場にはアースリザードマンが20体、ワータイガーが20体待ち構えていた。オークは人手不足でもう不参戦って感じなのだろう。
気づかれないように、隠れ、一応の為全員、獣化義装、着ぐるみのような鎧を着るスキルを使い、防御力とステータスを強化する。
そして、いきなり、俺達の左手に陣取っていたリザードマン達に、一角と麗美さんの合体魔法をぶちかます。
リザードマン20体が氷像に変わり砕け散る。
それを見たワータイガーは一目散に逃げだす。まあ、そうなるよな。
戦う魔物もいなくなったので、ダンジョン入り口に陣取り、周りを警戒しながら交代で休憩、6時になると同時にダンジョンの入り口が入れるようになるので、一角が真っ先に飛び込み、俺達も続く。
そして、お約束のトイレ休憩。率先して俺がダンジョン備え付けのトイレに向かう。
いつも思うのだが、至れり尽くせりなダンジョンだ。
そして、準備ができたので、ダンジョンに挑む。
全員鋼の防具に身を包んでいるが、琉生だけは鉄の防具だ。このあたりも今日中にアップデートしたい。
とりあえず、イノシシ肉が手に入るので1階から地道に攻略を始める。
1階はイノシシ型のウッドゴーレム、レベル10。ドロップアイテムとしてイノシシの毛皮とイノシシ肉を落とす。
2階はオーク型のウッドゴーレム、レベル20。こいつはなぜかドロップアイテムとして豚肉を落とす。オーク肉ではない。豚肉だ。
このあたりはサービスフロアなのでスキルや魔法も使わず、無力化し、琉生にとどめを刺させる作業。まあ、敵のレベルが低いので大した経験値ではないので琉生の養殖にもならない。
3階はオーク型のウッドゴーレム、レベル25。
ここから、レベル21越えで敵が魔法を使ってくる。獣化義装と魔法攻撃を無効化する金剛義装のスキルを使って魔法を防ぎつつ、ウッドゴーレムを無力化し、琉生にとどめを刺させる作業を続ける。
4階はアースリザードマン型のウッドゴーレム、レベル35。
レベル31越えで魔法の攻撃も激しくなってくるが、その分経験値も格段に美味しくなる。
この階も琉生の養殖に専念し、琉生もレベル40からレベル41に。レベル40からレベル41に上がる時にある、ランクアップの壁というレベルの上がり難さを越え、大量の経験値を貯めて、なんとかレベル41になる。
そして、ボス部屋前で一時休憩。琉生の新しい魔法の確認もしたいからだ。
「琉生、おめでとう。レベル41になったな」
俺は何がおめでたいのか良く分からないが、新しい魔法が使えるようになったという事でお祝いする。
琉生が嬉しそうに笑う。
「で、新しい魔法はどんな感じだ? 多分ダンジョンでは使えなそうな魔法な気がするが」
一角が偉そうにそう聞く。
お前の獣化スキルの補助魔法だってダンジョン内じゃ使い物にならないくせに。
「うーん、そうだね。『天地和合』? 全体魔法の強化版かな? 要は、敵の足元の地下の大量の土を全部上空に移動させて、頭から降らす魔法? 敵の足元は地盤沈下するし、上からは土が大量に降ってくるから、ダメージもさることながら生き埋め状態で、土属性以外の敵には結構エグい魔法かもね。で、予想通り、土がない、床が動かせないダンジョンでは使えなそうだね」
琉生がそう言う。
地盤沈下と頭から土を降らして生き埋めか。結構エグイな。琉生がいない状態で俺達が食らったら脱出方法ないんじゃないか?明日乃の結界で受けて一角の風魔法で地道に掘る感じか? もしくは俺のブラックホールっぽい魔法で穴を開けて進むかって感じか。
そして、一角の合体魔法で合体させたらさらにエグい魔法になりそうだ。
「あとは、『ゴーレム召喚』? 名前のまんまだね。足元の土や石を使って巨大な土人形を作る魔法だって。琉生の代わりに戦ってくれて、経験値も琉生に入るらしいよ。ただし、あまり琉生から離れるとゴーレムが土に戻っちゃうみたい? あと、もちろん、ダンジョンでは使えないだろうね」
琉生が別の魔法も教えてくれる。これは結構使えそうじゃないか? ただしダンジョン以外で。
「あと、最後は、『要塞構築』。『土の壁』の強化版だね。自分たちの周りに思い描いたままの土や石でできた要塞を作るだってさ。なんか凄そうだよね」
琉生が楽しそうな反面、少しあきれ気味にそう言う。
「『要塞構築』!? なんかカッコイイな。外に出たら試そうぜ。ダンジョンの周りとか要塞で固めたら最強じゃないか?」
一角が興奮する。何か一角が興奮する琴線に引っかかったようだ。
「却下だな。敵の魔物にそのまま使われたらどうする?」
俺は呆れてそう言う。
「それに、この島の魔物、土属性だからね。土や岩を掘ったり、壊したりするのが得意そうだから、あんまり意味ないかも」
琉生が冷めた口調でそういう。
「ま、まあ、元の島で拠点作ったり、人が増えたら街を作ったりするのに役立ちそうじゃない? 今みたいな竹や木で作った柵じゃなくて石の防壁とか作れそうだし」
明日乃がそう言ってフォローする。
「そうだね。クマとかイノシシには有効そうだよね」
琉生がそう言って笑う。
琉生の魔法は少し癖がある物ばかりだが、場合や場所によっては結構役立ちそうな気がする。臨時拠点を瞬時に岩で作るみたいな?
そんな感じで、琉生も最上級魔法が使えるようになり、4階のボス部屋に挑む。
次話に続く。
昔作ったアワビの干物、忘れてましたw
たまに思い出してはいたんですが、干す時間が長すぎたのと、出すタイミングを逃して、一角と麗美さんが魚とりを始めたのでちょうどいいやと思い、突然の登場ですw
アワビのスープ。醤油と鷄ガラスープがあるともう少し美味しそうなんですけどね。
魚のムニエルも胡椒がないのが残念。そして、タルタルソースが欲しい。
それと、今週もブックマーク2名様、☆1名様? ありがとうございます。
7月くらいまで、更新が週1回になりますが、新作が落ち着いたらこっちも急いて更新するようにしますので引き続きお読みいただけるとありがたいです。