第138話 トウモロコシの活用と北東の魔物の島の偵察
先にお詫びです。
ネット小説大賞、通称ネトコンが始まったらしく、面白そう、一度参加してみたいなって気持ちになってしまいまして、新作を書いて参加することになりました。
という事で申し訳ありませんが、こちらの小説の更新がかなり遅れるかもしれません。
なるべく週1回は更新したいなと思います。そんな感じの更新が7月末くらいまで続きます。
7月末までゆっくりお読みいただけるとありがたいです。
それとご興味ありましたら、新作の方もぜひお読みください。
https://ncode.syosetu.com/n9890iz/ 妹転生 ~追放された無能義兄の異世界奮闘記~
コンクールを意識した、こてこてのテンプレ異世界物、一昔前によくあった追放ものに見せかけた何か別の物って感じを執筆予定です。
【異世界生活 123日目 9:00】
昨日は、一角の無茶振りで、夜なのに、ダンジョンに付き合わされ、副賞の調味料を貰いに行く羽目になった。
なので、今日は、3時間遅い7時起床で、朝食を食べ、日課の剣道教室をやってから作業を開始する。
俺は明日乃と一緒に保存食作り。
ダンジョン産の豚肉が大量にあるので、ベーコンにしたり、その下味をつける作業をしたり、瓶詰めにしたりする作業だ。
一角と麗美さんと鈴さんはガラス瓶がまた足りなくなったとのことで材料の珪石を拾いに行くらしい。
琉生は午前中、農作業や動物の世話。琉生が拠点を留守にするときに困るので、眷属達にも農作業や動物の世話を教えているそうだ。
真望はいつもの麻布作り? 自分のツリーハウスで作業を続けている。
俺と明日乃はガラス瓶が無くなるまで豚肉の水煮や野菜スープを作りつつ、ベーコンの燻製や、下準備を続け、午前中の作業が終わる。
琉生も農作業から帰ってきたので、真望も呼んで昼食にする。豚肉の野菜炒めだ。
「そういえば、干したトウモロコシどうする? いい感じに乾いたよ?」
琉生が思い出したようにそう言う。
「そうだねぇ、トウモロコシパンとかトルティーヤとかにして食べる感じかな?」
明日乃がそう言う。
「トウモロコシからパンが作れるのか?」
俺は気になって聞いてみる。
「うーん、作れなくはないんだけどね。ちょっと特殊な処理が必要なんだよね。そのまま粉にしてパンにしようとしても、丸く固まらないし、焼くと固くなるし、膨らまないしで、パンにはならないんだよ」
明日乃が困った顔でそういう。
「そうなのか?」
俺はさらに気になって聞いてみる。
俺としてはパンと聞いて、乾燥させたトウモロコシを石臼か何かでひいて粉にすれば小麦粉みたいにパンが作れるのかと想像したのだが。
「そうなんだよね。小麦粉と違ってトウモロコシのたんぱく質ってグルテン化しないんだよね。グルテン化、要は粘り気と弾力のある構造にタンパク質が変わる事なんだけど、トウモロコシの粉はそれができないの。だから、トルティーヤの粉とかって、実はアルカリ処理してあるんだよ。アルカリ処理してから粉にすることでパンっぽく加工できる。ちょっとひと手間いるんだよね。それか、つなぎとして小麦粉と混ぜてトウモロコシの粉入りのパンみたいなトウモロコシパンにするかだね」
明日乃がそう言う。
「小麦粉は乾燥にもう少しかかるから小麦粉を混ぜるのは無理だね」
琉生が残念そうにそう言う。
「そうなるとマサ粉、アルカリ処理したトウモロコシ粉にするしかないね。今から作って明日のごはんって感じかな?」
そんな感じで、残りの豚肉を保存食に加工する片手間でマサ粉っていうやつを作ることになった。
真望はさっさと昼食を食べてまた麻布作りで自分の部屋にこもってしまう。
「琉生は午後なにするんだ?」
俺は気になって琉生に声をかける。
「私は石臼作りかな。小麦が乾燥したら必要になるだろうし」
琉生がそう答える。
そういえば前にそんなこと言ってたな。お祈りポイントを少し使いたいって相談されたことを思い出す。
そんな感じで琉生は自分の眷属、トラをつれて河原に向かう。石臼にする石を探しに行くらしい。
なんか、サトウキビから砂糖を作る時に似たようなことをした記憶があるな。
琉生を見送った後で、俺と明日乃はマサ粉作りを始める。
とりあえず、干したトウモロコシの粒を芯から外し、粒にする作業。眷属達にも手伝ってもらう。
それと、鈴さんの鍛冶工房の倉庫から生石灰を貰い、水に溶かして消石灰の水溶液にする。
あとは、秘書子さんに分量を聞きながら鍋に乾燥トウモロコシの粒と石灰水を入れて10分少々煮込んで半日、12時間放置する。12時間放置なので今日の作業は終了だ。
その後、琉生とトラが大きな岩を背負子に乗せて背負って帰ってきたので、石臼づくりを手伝う。
まあ、手伝うと言っても、秘書子さんに作り方を聞いて、アドバイスしながら、琉生の土魔法で、にゅ~っと石臼の形に形成して、秘書子さんに指示された通り、土魔法で粉を挽く表面に凸凹を作るだけだったが。
「りゅう君、石臼できたなら、トウモロコシの粉を少しひいておいてよ」
明日乃が保存食作りをしながら俺にそういう。
「トウモロコシの粉はアルカリ処理しないと粉にしてもパンにもトルティーヤにもならないんじゃなかったのか?」
俺は気になって聞き返す。
「それはそうなんだけど、イタリア料理にね、ポレンタっていう料理があるから作ってみようかなって。トウモロコシ粥って呼ばれる料理だね」
明日乃がそう教えてくれる。
とりあえず、琉生も石臼が正常に機能するか気になったようなので、二人でトウモロコシを粉にする作業をする。また、乾燥トウモロコシを芯から外す作業だ。眷属達にも手伝ってもらいながら、粒を外し、石臼でひき、粉にする。
1回では全然粉にならないので、何度もひいて粉にする。
石臼作りは成功だったようだが、石臼で物を粉にするのがいかに大変か痛感させられた。
日が暮れるまで、眷属達と交代しながらトウモロコシを粉にしていく。
夕方、一角と麗美さん、そして鈴さんが大量の荷牛の霊獣に珪石を積んで帰ってきた。これでガラス瓶がさらに増えるな。
【異世界生活 123日目 17:00】
とりあえず、夕食を作る。
昼間に明日乃が言っていたイタリア料理のポレンタと今日作ったベーコンと添え物として野菜の炒め物って感じだ。
とりあえず、ポレンタというのは水と塩とトウモロコシの粉を混ぜて、フライパンで混ぜながら水気が飛ぶまで練り続ける料理らしい。まあ、フライパンはないから、神様に貰った中華鍋だが。ひたすらかき混ぜて煮る。結構時間がかかる。
そして、なんだこれ? おかゆというより練り物? 見かけはスクランブルエッグみたいだが、練っている感じはお餅っぽい? とりあえず黄色いお餅だ。
とりあえず、出来上がったので、ベーコンと野菜と一緒にみんなに配る。
「なんだこれ? スクランブルエッグか?」
一角がそう言って箸で突きながら訝しむ。
「ポレンタっていうイタリアの郷土料理だよ。トウモロコシ粥とも呼ばれているけど、まあ、トウモロコシでできたパスタとかリゾットとかと同じ扱いの料理かな?」
明日乃がそう説明する。
ああ、言われてみるとパスタというよりマカロニに近いか? でっかいマカロニの塊だ。
俺はフニフニと箸で突きながらそう思った。
そして味は?
うーん、マカロニのでっかいのだ。
塩味であまり味がない何か。言われてみるとパスタな気もしてきた。
そしてちょっと、トウモロコシの皮のざらざら感が残っていて残念な感じだ。
「うーん、不思議な味ね。これにミートソースとかチーズとか、パスタの味付けをしたら美味しいかもしれないわね」
麗美さんが微妙な顔をする。
一角も微妙な反応だ。
「そうそう、そうなの。本場のイタリアではチーズで味付けしたり、オリーブオイルやバターで味付けしたり、まさにパスタみたいな食べ方するんだよ」
明日乃が弁明をするように早口でそういう。
「まあ、塩味の濃いベーコンと一緒に食べると結構美味いぞ」
俺はそうフォローする。
うん、カルボナーラが食べたくなる味だ。
「とりあえず、琉生が連れてきた牛から牛乳が採れるようになってチーズやバターが作れるようになったらまた食べたい味だな」
一角が微妙な顔でそういう。
そうだな。それプラス卵もつけて、カルボナーラ風にして欲しい。
「もしくは、麗美さんが言っていたみたいに、ダンジョンでケチャップを貰ってきて、豚肉のひき肉でミートソースを作って食べたいな」
俺もそうフォローしておく。
「おお、ミートソースも美味そうだな」
一角も同意する。
とりあえず、ポレンタというイタリアの郷土料理はトウモロコシの粉で作った味のないマカロニモドキだという事が分かった。
今日は日課のお祈りをした後、一角も麗美さんも鈴さんも珪石運びで汗をかいたし、琉生も農作業で汗をかいたのでお風呂を沸かして順番に入る。
そして就寝。
当分の間、お祈りポイントがある程度回復するまではこんな感じのゆったりした生活が続きそうだ。
【異世界生活 124日目 5:30】
今日は昨晩、お風呂に入って少し寝るのが遅かったので、1時間遅く5時に起きて朝食を食べる。
「一角、今日は何をするんだ?」
朝食のタラのみりん干しを食べながらそう聞く。
「ああ、今日は麗美さんと北東の島に偵察に行こうと思う。今攻略している南西の島の魔物狩りとダンジョン攻略が終わったら次はその島だろ? 移動ルートだけでも確保しておこうかな、ってな」
一角がそう答える。
「南西の島に魔物狩りに行っても、だいぶ数を減らしちゃったから、白い橋のところまで来てくれる魔物がいないかもしれないしね」
麗美さんがそう付け足す。
「大丈夫なのか?」
俺は少し不安になる。
ひとつ前の魔物の島、南東の島で襲撃されたドラゴンが本来の住処にしているのがその北東の島だ。ドラゴンに遭遇なんて可能性もある。
「まあ、白い橋の先にはいかないし、大丈夫でしょ?」
麗美さんがそう言う。
まあ、麗美さんがついていてくれるなら一角も無茶なことはしないだろう。
「そうしたら、俺の霊獣、カラスの霊獣も連れて言ってくれよ。隠密スキルで島の偵察しておきたいしな」
俺はそう提案する。
今日はトウモロコシパン作りをしないといけないし、たまには鈴さんの手伝いとかもしたいしな。
「それはいいかもしれないね」
明日乃も賛成する。
俺のカラスの霊獣は五感を共有できるので、カメラやトランシーバー代わりにもなるし、喋れる万能ドローンみたいなものだ。
まあ、一角のワシの霊獣みたいに荷物を運ぶことはできないけどな。
そんな感じで今日の予定が決まり、日課の麗美先生の剣道教室を終え、それぞれ作業に移る。
【異世界生活 124日目 7:00】
「それじゃあ、行ってくるわね」
麗美さんと一角がそう言って出発する。
道のりは秘書子さんに聞いて、マッピングしてもらったので問題なさそうだ。
本来だと、海沿いに進むのがいいのだろうけど、それだと、拠点の裏の泉から伸びる川を渡らないといけなくなり、手間なので、泉のそばの川が浅いところで渡ってしまい、森を通過して北東の島に行くルートをいくらしい。それならば川を渡る必要もないそうだ。
麗美さんは俺の霊獣、カラスの霊獣をちょこんと肩に乗せて出発する。
まあ、オートで飛んで追尾させてもいいのだが、なんかその方が楽そうなので麗美さんに運んでもらう。
一角と麗美さんを見送ったところで俺達も作業に入る。
真望と琉生はいつもの作業、それぞれ、麻布作りと農作業だ。
鈴さんは眷属のアオとあぶらあげと一緒にガラス瓶作りをするそうだ。今後も豚肉が大量に手に入りそうだし、保存食ように多めに在庫しておくそうだ。
俺と明日乃は昨日作業途中だったトウモロコシをマサ粉、アルカリ処理したトウモロコシの粉にする作業を再開する。
マサ粉作りの次の作業だが、昨日12時間アルカリ水に付けておいたトウモロコシをひたすら水で洗い、アルカリ水を洗い流す作業だ。
「なんか、黄色い色がついているな。乾燥トウモロコシだった時は少し白っぽい粒だったのに」
俺はアルカリ水に使ったトウモロコシを見てそう感想をもらす。
「なんかそういうものらしいよ。マサ粉って確かに黄色いイメージあったもんね」
明日乃がそう言う。
「ああ、思い出した。そういえば、親父たちと明日乃と子供のころ行ったキャンプで親父たちがトルティーヤを作っていたな。その時の粉か」
俺は子供のころの記憶を思い出す。
「そうだよ、やっと思い出した? あの後、家でも作ったりしたから、私、気になってマサ粉の事調べたことがあったんだよ」
明日乃がそう言って笑う。
というか明日乃の記憶力が凄すぎる。
そんな感じで、明日乃と子供のころの思い出に浸りながら、ひたすら水道のそばで並んで、アルカリ水で煮たトウモロコシを洗う。
「南米、マサ粉が主食の国では、マサ粉を作る時に水が大量に必要になるのと、石灰水で河川が汚染されるって問題になることも多いんだってね」
明日乃がそんなうんちくを教えてくれる。
たしかにアルカリを洗い流すための水が大量に必要だし、これを工業化したら水の使用量も河川の汚染度合いも半端なさそうだな。
まあ、今日は俺達7人が食べる分だけだから大したことはないが。
そんな感じで、アルカリ処理したトウモロコシをよく洗い、洗い終わったところで、それをすり潰す。
この作業で食感の悪い皮の部分を除去するそうだ。要はトウモロコシの中の部分だけを使う感じだ。
ひたすら、洗った石のいたうえでトウモロコシをすり潰し、皮はすてて、柔らかい部分だけを集める。
結構手間のかかる作業だ。
【異世界生活 124日目 11:00】
「流司クン、北東の島の手前に着いたわよ」
俺が明日乃とトウモロコシをつぶしているとそんな魔法通信が飛んでくる。
「明日乃、麗美さんと一角が北東の島に着いたみたいだ。ちょっと作業から離れるけどいいか?」
俺は明日乃にそう聞いてから、俺の霊獣、カラスの霊獣と視覚を共有する。
「お疲れ様。これが北東の魔物の島か。なんか暑そうな島だな」
俺はカラスの霊獣を通して麗美さんと一角に声をかける。
白い橋の先に見える島は火山島なのか山が煙を吐き、赤く燃えているようにも見える。
「流司クン? なんか便利な霊獣ね」
麗美さんがそう言って俺の霊獣というか俺の首をくりくりと指で撫でる。
霊獣が麗美さんの肩にとまったままだった。麗美さん顔がドアップで見える。
「麗美さん、霊獣と感覚共有しているからそれ、止めてくれ。なんかくすぐったい」
俺はそう言って麗美さんの肩から飛び立つ。鳥のつもりで接したのだろうが中身は俺だしな。
「私たちはとりあえず、白い橋を渡って、いつもの結界内からの魔物狩りができるか試してみるけど、流司クンはどうする?」
麗美さんが俺の霊獣に向けてそう聞いてくる。
「ああ、俺も、途中まで一緒に行くよ。その後は隠密機能で隠れて島の探索をしてみる。ドラゴンがいるか分からないしな」
俺はそう答える。
アドバイザー女神様の秘書子さんにドラゴンがいるか確認してもらいたかったが、残念ながらカラスの霊獣の視覚共有では秘書子さんを呼ぶことはできないようで、拠点に秘書子さんが現れ、ドラゴンの確認は拠点からではできないようだ。
とりあえず、一角と麗美さんと一緒に白い橋を渡る。
一角はカラスになっている俺に違和感があるようで終始無言だ。
そして白い橋のところまで来ると、いつものように魔物が結界を攻撃している。
赤いリザードマン、火属性のファイヤーリザードマンってところか?
「こいつが、ドラゴンの進化前って感じか。リザードマンとそうじゃない奴等も混ざっているぞ」
一角が胡散臭そうにそう睨む。
確かにトカゲというよりドラゴンに近い二足歩行の魔物もいる。
咄嗟に鑑定スキルを使おうとするが、スキルが使えない。霊獣と感覚を共有している場合はスキルも使えないのか。
まあ、この姿でスキルや魔法が使えたら、まさに戦闘用ドローンだもんな。隠密効果で隠れながら魔法を撃ちまくるとか、魔物の立場だったらドン引きするような攻撃だ。
しかも見つけて撃ち落としても本体にはダメージ無し。それはちょっとチート過ぎるな。
俺は諦めて麗美さん達に鑑定結果を聞く。
「レベル41を超えるとリザードマンはドラゴニュートという魔物に進化するみたいね。トカゲ人間というより竜人間って感じ? 羽が生えているから空も飛べるらしいわよ」
麗美さんがそう教えてくれる。
魔物の平均レベルは35くらい? リザードマンの中に数体ドラゴニュートが混ざっている程度のようだ。まあ、レベル41越えの魔物が数体いるって自体で脅威なんだが。
「一角、麗美さん、絶対、結界の外に出ちゃダメだからね」
俺は念を押しておく。
「分かっているわ。さすがにレベル41越えの魔物と魔法の撃ち合いはしたくないもの」
麗美さんがそう言って変幻自在の武器をいつもよく使っている薙刀風の武器に変化させる。
「それじゃあ、俺は、島の偵察に行ってくる。多分、マナ切れになるまで偵察するから、魔物狩りが終わったらそのまま帰っちゃっていいからね」
「了解したわ」
俺は麗美さんにそう伝え、返事をもらうと、そこから高く飛び、島全体を確認する。
島の感じは火山を中心に丸く広がった島。火山を囲むように森が広がっていて、そこに魔物の集落がある感じか。
そして、高度を落とし、島を詳しく偵察する。火山をぐるりと回ったが、ドラゴンは見当たらない。
どこかに洞窟みたいな巣穴があって隠れているのか? それとも、いまだに南東の島のダンジョン前で俺達を待っているとか?
とりあえず、スキルは使えないし、秘書子さんの助力も得られないので、目で見て確認して回るしかないな。
俺はそんなことを考えながら、カラスの霊獣を操って、島を偵察する。
とりあえず、拠点にいる俺自身がステータスウインドウの一つ、マップウインドウを確認できるのでそれで確認しながら、まずはダンジョンの入り口を見に行く。火山から見て東、白い橋からかなり離れたところにダンジョンの入り口はあるようだ。
マップを確認しながらカラスの霊獣に指示をし、東に向かって飛んでいく。
火山の東に、火山とは違う小さな丘のようなものがもう一つあり、その中腹にダンジョンの入り口はあった。そして、入り口にはあのドラゴンと、仲間らしきリザードマンの群れが陣取っていた。
あのドラゴンだよな? まさか何体もいるとかじゃないよな?
拠点で秘書子さんに聞いてみるが、確認できているフレームドラゴンは1体のみとのこと。
確認できているという言葉が怪しいし、フレームドラゴンと言う時点で他の属性のドラゴンとかもいそうな気配を感じた。
こういうところが秘書子さんや神様の面倒臭いところだよな。なぜかゲーム感覚で楽しませようと隠し事をする。
そんな考え事をしていると、ドラゴンと目が合う!?
隠密効果が効かなかった? ヤバい!
俺はカラスに全速力で逃げるように命令し、白い橋に向けて全速力で飛ばすが、俺の意識がカラスの霊獣から切断される。これは落とされたな。
「ふう」
俺は大きく息を吐く。
「どうしたの? りゅう君?」
隣でトウモロコシをすり潰していた明日乃が心配そうに声をかけてくる。
「ああ、北東の島にドラゴンがいて、俺のカラスの霊獣が見つかった。で、撃ち落とされたみたいだ。多分、レベルが高い魔物には隠密効果が弱いのかもな」
俺はそう言って、明日乃に笑いかける。心配させないように。
痛覚はフィードバックされなかったのがありがたい。
「一角ちゃんと麗美さん大丈夫かな?」
明日乃は二人の事も心配しだす。
「白い橋から出ないと言っていたから大丈夫だと思うけど、一応連絡しておくよ」
俺はそう言い、麗美さんに魔法通信でドラゴンに遭遇して撃ち落とされたことを報告しておく。
麗美さんと一角は魔物狩りを終えたあとらしいので問題はなさそうだ。そのまま帰ってくるとのことだ。
明日乃にそのことを伝えると安心したようで、時間もお昼になるのでお昼ご飯を作ることにする。
トウモロコシパンは全然間に合わないので、とりあえず、冷蔵保存しておいた豚肉で野菜炒めを作って食べる。
午後は琉生も参加してトウモロコシをつぶして皮を除く作業。
そして出来上がったトウモロコシの粉というより練り物がいい感じだったので、そのままこねて、前にブドウを採りに行ったときに、明日乃がブドウを水につけておいて作った天然酵母があるらしいのでその怪しい液体を混ぜてよくこねる。
まあ、鑑定で『天然酵母』と出たし、毒の判定もなかったので大丈夫だろう。
よくこねたあとは土器にいれて、濡れたふきんをかけて、冷所、氷室の手前において発酵を待つ。
その間、俺は鈴さんのガラス瓶作りを手伝い、明日乃と琉生はブドウの水煮を煮てジャムを作るらしい。パンを作るならジャムは欲しいもんな。
【異世界生活 124日目 17:00】
夕方、一角と麗美さんが帰ってきたので、情報交換をしながら、トウモロコシパン作りを再開する。
「あんまり膨らまなかったね」
明日乃がパンの生地を見て少しがっかりする。
トウモロコシの粉は小麦粉と違って酵母を入れて発酵させてもそれほど膨らまないようだ。
とりあえず、パン生地の3分の2を丸めて、前に麗美さんが作ってくれたピザ窯でパンを焼く。残りの3分の1は平らに伸ばして、なんか鈴さんが作ってくれたらしい青銅製の鉄板で焼いて トルティーヤにする。
明日乃がパン作り、琉生がトルティーヤの具の肉野菜炒めのようなものを作り、俺は鉄板でトルティーヤの皮の部分を焼く。
「なんか楽しそうね」
麗美さんが俺の作業を面白そうに見ている。
「せっかく鉄板があるんだし、肉を焼け。肉を」
一角が鉄板を見てそう言いだすので、面倒臭いが、豚肉を厚めに切って焼肉というか、トンテキを焼いてやる。塩しかないけどな。
そんな感じでなんか、キャンプみたいな騒ぎになって、ちょうどいいので、ブドウのジュースも出して、お疲れパーティみたいなものが始まる。
南西の島のダンジョン攻略で身心ともに疲れていたしいい機会かもしれないな。
匂いに釣られたのか、作業が終わったのか、真望と鈴さんもたき火のまわりに集まってくる。
「なんか楽しそうね」
鈴さんも麗美さんと同じような反応をする。
なんか、鉄板があるだけでも楽しくなるもんな。
とりあえず、パンより先にトルティーヤの皮が焼きあがるので、琉生が作った肉野菜炒めをくるんでタコスモドキを作ってみんなで食べる。
そして、一角はトンテキも食べだす。美味そうだったので俺も半分貰った。
「うーん、これはソースが欲しいな。サルサソース? チリソース? 色々足りない気がする」
自称グルメの一角が面倒臭い事を言い出す。
「今日は調味料が塩しかないからね。ごめんね」
明日乃がそう言って笑う。
というか、サルサソースってどうやって作るんだ? ダンジョンの副賞で頼めばもらえるのだろうか?
「味噌ならあるぞ」
俺は冷やかすようにそう言う。今在庫している調味料は味噌だけだ。
「馬鹿流司! 味噌じゃ、なんか違う料理になるだろ? 東北の郷土料理か何かか?」
一角がそう言ってキレる。
確かに味噌をつけたら南米というより東北っぽくなりそうだな。
そんな感じで漫才をしながら塩味のタコスを食べているとトウモロコシパンも出来上がる。
うーん、パンと呼ぶには硬そう? ふわふわはしてないな。
「美味しくなさそう? 100%トウモロコシのパンだから仕方ないよ」
俺達の微妙な反応を見て、明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
とりあえず食べてみるが、うーん、パンというより、焼きトウモロコシ味の何かだ。表面は固いし、中はもっちりしている。不味くはないがパンかと聞かれると首をかしげてしまうレベルだ。
「うーん、パンと言われればパンなんだが、トウモロコシだな」
一角もそんな反応をする。
「バターとか卵も使ってないし、イメージするパンみたいなものはちょっと難しいかな? とりあえず、ブドウとお砂糖でジャムも作ったからつけて見て」
明日乃がそう言ってブドウジャムも回す。
俺もトウモロコシパンにブドウジャムをつけて食べてみる。うん、これはこれで美味しいな。だけど、普通に小麦で作ったパンが食べたくなる。なんか焼きトウモロコシ味が微妙にパンらしさを阻害する。
「まあ、この世界に来て初めての主食だぞ。穀物を使った食事だ。凄い進歩だと思うぞ」
俺はそう言ってフォローする。ブドウジャムとか天然酵母とか、無人島では考えられない文明の進歩だ。
「そう言われるとそうだな。これから、小麦粉もできるし、稲も育てば米が食べられる。肉と魚だけのおかずオンリーの食生活から主食が手に入ったんだ。喜ばないとな」
一角もそう気を取り直して喜ぶ。
まあ、実際、小麦で作ったパンと比べると全く違う食べ物だったが、トウモロコシを使ったな何かと考えれば、結構美味しい何かだった。
トウモロコシで作ったトルティーヤ、それでくるんで作ったタコスは美味しかったしな。一角が言う通り何かソースは欲しかったが。
今俺達に必要なのは豊富な調味料だと気付かされる夕食だった。
あと卵と乳製品も欲しいな。
次話に続く。




