第136話 4つ目のダンジョンからの撤退
【異世界生活 120日目 10:30】
南西の島のダンジョンの4階のボス部屋を一角と真望の合体魔法、最強の攻撃魔法で焼き捨て、無理やり次の階に進んだ俺達。
せっかく経験値が美味しいのだから、補助魔法山盛りで、ウッドゴーレムが2体出るエリアまでは攻略しようと一角が言い出し、さらにお祈りポイントを無駄使いして、明日乃に最上級魔法の補助魔法をお願いし、さらに俺、麗美さん、真望は各自、獣化スキルの補助魔法も足し、獣化義装も着た状態、ステータス上昇マシマシでレベル45のワータイガー型のウッドゴーレムに挑む。
レベル45という事で、ステータスも高いが、最上級魔法を使ってくる可能性があるという危険な相手だ。注意して挑む。
しかし、予想と反して、敵のウッドゴーレムは上級魔法までしか使わず、4階と同じような戦いが続く。
もちろん、4階と同じように戦えているのは明日乃の強化版補助魔法があるからなのだが。
そんな感じで、合計11体のワータイガーを俺がとどめを刺す感じで倒し、俺のレベルが2上がりレベル42に。
たった11体倒しただけでレベルが2つ上がった。凄い経験値効率だ。
さすがにレベル45の格上の敵を3体相手にするのは補助魔法マシマシの状態でも無理だ。
壁役がもう一人必要になるのだが、一角は獣化スキルの補助魔法がダンジョン向けでないため力不足、明日乃はそもそもステータスがINT極振りな感じなので壁役はできない。
少なくとも一角のレベルがもう少し上がらないと3体相手にするエリアには入れないのだ。
そんな状況なので、ワータイガーのドロップアイテムを回収して、入り口に戻り、安全地帯のエントランスで休憩する。
「これ、5階のボス部屋をクリアするには私もレベル45の敵相手に壁役ができるようにならないとダメって事だよね? 凄いハードル高いと思うんだけど」
明日乃が今の状況を理解し青ざめる。
「最上級魔法の補助魔法とか補助魔法使いまくった状態でも、明日乃のレベルが45、補助魔法なしならレベル50まで上がってないとボス部屋は無理だろうな」
俺は今までの経験から大体そのくらいだろうと概算する。
「道は長そうだな」
一角がそう言って明日乃を慰める。
「言っとくが、一角もだからな。獣化スキルの補助魔法が使えない分、一角もレベル45は欲しい」
俺はそう突っ込んでおく。
「明日からは一角ちゃんのスパルタね」
麗美さんがからかう様にそう言い笑う。
「そういえば、レベル45なのに、最上級魔法を使ってこなかったわね」
麗美さんがそう付け足し不思議そうに首をかしげる。
「たしかに、上級魔法、棘を出す魔法だけだったな」
俺はそう答える。使う魔法自体はレベル35のリザードマン型のウッドゴーレムと変わらなかった。
「たぶん、ダンジョンじゃ使えないような仕組みの土属性魔法なんじゃないかな? 最上級魔法は」
明日乃がそう予測する。
「ああ、地面がないと使えない感じか。なんとなく想像できるけどな」
俺はそう言って笑う。
「まあ、琉生ちゃんがレベル41になれば分かるわよ」
真望がそう言って興味なさそうに話を区切る。
まあ、そう言われりゃそうだな。ダンジョン内では最上級魔法が使えないという事実に感謝するだけだ。
とりあえず、ワータイガー型のウッドゴーレムのドロップアイテムは鋼の防具か虎の毛皮の2択だ。虎の毛皮は丈夫で結構ふわふわで使い心地は良さそうだ。
まあ、部屋に敷いたら、成金の豪邸か、そっち系の事務所のようになってしまうが。そして、服にして着たら、鬼と勘違いされそうなコスプレ感満載だ。
鋼の防具は一角サイズの胸当てが1つ、俺サイズの胸当て、すね当て、篭手、兜、鎖帷子を手に入れた。そして副産物の虎の皮5枚。
「流司クン、鋼の鎖帷子、いい感じね」
麗美さんが物欲しそうにそう言う。
確かによくできた鎖帷子で、動きやすい上に防御力も高そうだ。
麗美さんはいつも、剣術、体術に優れ、レベル上げが後回しにされがちで、貢献ポイントだけでレベルが上がってしまうので防具が揃いにくい傾向がある。
「一角のレベルが35まで上がったら、先に麗美さんの防具集めをしよう。麗美さんは、常に最前線で戦っているのにいつも防具が揃うの遅めだしね」
俺はそう言って、防具集めを約束する。
さすがに一角のレベルを上げるのが最優先だが。
というのも一角レベルが上がれば5階の3体敵が出るエリアまで進める可能性が出るからだ。
とりあえず、これ以上先には進めないので臨時拠点に帰ることにする。
敵が帰り道で襲ってくる可能性もあるので俺は鎧を着替え、鋼の防具で身を固める。
各階のエントランスに置きっぱなしのドロップアイテムも回収し、帰路に着く。
とりあえず、イノシシ肉とイノシシの毛皮、豚肉、虎の毛皮は持ち帰ることにする。それと、持てるだけ鉄の武器や防具も持ち帰る。鈴さんが鉄の材料を欲しがっていたからだ。
そして、最後にお祈りポイントの確認。
今朝の時点で17万5000ポイントあったお祈りポイントが現在、13万5000ポイント。
4万ポイント使ったことになる。
今日みたいな戦いを続ければ3日でお祈りポイントが底をつく。
だが、ワータイガーの魔法を結界で受けようとすればさらにお祈りポイントが無駄になるし、今までのように金剛義装で魔法を無効化しようとすると、敵の数が多すぎて、袋叩きにあい、脱出が難しくなる。
今までより格段に敵が強くなったのと、使ってくる魔法が強くなったのが問題だ。
「明日以降どうするかな。魔物の数が多すぎる上に、その多くが魔法を使ってくる可能性がある。かなり厳しい戦いが続きそうだな」
俺はお祈りポイントを見ながら本気で悩む。
「私の結界じゃ、逆にお祈りポイントへらしちゃうしね」
明日乃が申し訳なさそうに言う。
「リザードマンに魔法使われたときはあっという間に囲まれたわ。ちょっと金剛義装で誤魔化し誤魔化しの魔法無効化も難しそうよね」
麗美さんがそう言う。
麗美さんも俺と同じように悩んでいるようだ。
「せめて、5人でリザードマンだけとかオークだけとかに専念できればまだ金剛義装でもなんとかなりそうな気はするんだけどな」
一角がそう言う。
実際、朝の戦いでは俺と真望がワータイガーの残存戦力を殲滅し、オークを殲滅する役、一角と麗美さんがリザードマンを攻撃する役とばらけてしまい、一角と麗美さんが金剛義装で動けなくなってしまった感じだ。
「明日乃ちゃんの『聖盾』だっけ? 個人用の結界も殴られ続けたらお祈りポイントどんどん減っちゃうしね」
真望が残念そうにそう言う。
「敵の数がある程度減るまでは一角の合体魔法に頼るしかなさそうか」
俺はそう結論付ける。
「不本意だが、他の方法だとお祈りポイントがさらに無駄になるっていうのなら、使うしかないな」
一角が不満そうにそう言う。
「まあ、敵の数が減って、金剛義装でなんとか対応できるようになったら、使うのを止めればいい。というか、そのころにはお祈りポイントの貯金も減って、使いたくても使えなくなってるかもしれないけどな」
俺はそう言って笑う。
当分の間は、魔法撃ちまくりの殲滅効率重視な戦いをすることになった。
「で、さっそく、外の奴らは魔法で蹴散らすか?」
一角が外を指さしてそう言う。
ワータイガーの群れが朝のリベンジマッチのつもりかさらに数を増やして待ち構えている。
さすがにレベル41越えのワータイガーはいないが、多くがレベル31越えの上級魔法が使える魔物ばかりだ。
まあ、リベンジマッチというより、ドロップアイテムが欲しいのか? それとも二度とダンジョンを奪われない為に、徹底的に叩き潰したいのか。
まあ、全部だろう。
「ワータイガーの殲滅が最優先でしょうね。魔法使いましょ。一角ちゃんには悪いけど、ここはゲームの世界じゃない。魔物も生きているし、考えるし、数の暴力で牽き潰そうとする。RPGみたいに行儀よく、5体ずつ10体ずつで戦ってくれる世界じゃないんだよね」
麗美さんがそう言う。
魔物はその気になれば100体以上で一斉に襲い掛かり俺達をする潰すことができる。マナ=経験値という仕組みを無視すれば魔物100体が同時に魔法を使うこともできる。
魔物が使う魔法が強くなってきて、ゲーム感覚で戦えるのは5体ずつ礼儀正しく戦ってくれるダンジョンの中だけになってしまったことにそろそろ気づかないといけない。
そして、明日乃の結界はあくまでも苦肉の策。明日乃の結界で受けきれる魔法の強さを、魔物の魔法の強さが越え始めてしまったのか。
「麗美姉、まずは中央に1発撃ちこむよ。それで逃げないようなら右翼にも1発、それでも動きがなければ左翼に1発、ワータイガーを殲滅する」
一角が悔しそうにそう言う。
本当は斬り合いがしたいんだろうな。
「了解。魔法詠唱開始するわね」
麗美さん言葉少なげにそう答える。
「水の精霊よ。神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『絶対零度』」
「風の精霊よ、神の力を借りて、魔法の力に。『合体魔法』」
「合体魔法、『氷結の暴風』」
麗美さんが魔法詠唱を始め、一角がそれに続く。
そして、一角が最後の詠唱をし、魔法が発動される。
そして、ダンジョンの出入り口を囲むように布陣したワータイガーの群れの中央部分。リーダーらしきワータイガーとその周りのワータイガー20体ほどを絶対零度の魔法の嵐が包み氷の氷像を作り上げる。
外で待ち構えるワータイガー達はあまりの魔法の威力にたじろぐが、ここで退けない、強い魔物としての矜持があるのだろう。右の一群も左の一群もたじろぎつつも、その場から動かない。
一角と麗美さんだけに任せるわけにはいかないよな。
俺も一歩出て魔法を詠唱しようとする。さっきレベルが上がって覚えた新しい魔法だ。
「流司、大丈夫だ。私たちの方が、お祈りポイントが少なくて済むから任せろ」
一角にそう止められてしまう。
俺の持っている変幻自在の武器は本来、明日乃が所有するべき光の精霊の剣だ。この武器に俺の魔法にかかるお祈りポイントを半減する効果はない。
「りゅう君」
明日乃が心配そうな顔で俺を見つめる。
リーダーと担ぎ上げられているくせに、こういうところでは全く役に立たない俺。悔しくなる。
そして、明日乃が俺の手にそっと触れる。
そのまま、強く握る。そして、変幻自在の武器ごと握りしめる。
「一緒に倒そう」
明日乃がそう言い、俺に笑いかける。
「光の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『極大陽光』
明日乃が魔法を詠唱し、俺と一緒に変幻自在の武器を握ったまま、魔法が発動する。
右に布陣したワータイガーの頭上に光の球体が現れ徐々に大きくなりながら、徐々に下りてきて、最後に、まばゆい光を放ち、球体がはじけ飛ぶ。
その後には光に焼き尽くされたワータイガーの死骸が10体以上転がる。
そして、一角と麗美さんも2発目の合体魔法の詠唱が終わり、左に布陣したワータイガー20体近くが凍り付き、動かなくなる。
圧倒的な破壊力、そして、俺達がダンジョンの入り口の結界に守られていて攻撃手段のないという状況に、さすがのワータイガーも後退り、蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。
あまりにも一方的な攻撃にみんな言葉を失う。
「まあ、魔物を倒さないと、私達の住んでいる島が襲われる未来が待っているって話だし、魔物を倒して、平和な世界にしないと、流司クンと明日乃ちゃんが結婚できないしね。お姉さん、あとがつかえちゃうと年齢的に困るしね。真望ちゃんだって、一角ちゃんだって、順番回ってくるの遅くなると困るでしょ?」
麗美さんがいつもの冷やかすようなふざけ声でそう言い笑う。
「べ、別に順番待ちなんかしてないし」
真望が顔を真っ赤にして怒る。
「心外だな」
一角はそう言って不貞腐れる。
「まあ、お祈りポイントも有限だし、効率的に使わないとお祈りポイントが尽きる。そうなると命に係わるしな。効率的にお祈りポイントが使える私と麗美さんの合体魔法に頼るのはしかたないか」
一角がそう付け足す。自分なりに落としどころを決めたようだ。
魔物の使う魔法が強くなり過ぎたのと魔物狩りが追い付かず、魔物の数、特にワータイガーの数が残り過ぎていたなど今回は条件が悪すぎた。
そして今後もこの傾向は続くかもしれない。
魔法中心の魔物狩りへの移行とお祈りポイントの管理。問題が積み重なってきた。
次話に続く。
すみません、魔物が行儀正しく、5人ずつ戦ってくれる世界ではないので、RPGがSLGっぽくなってきてしまいました。このあたり、設定じゃ、どうにもならないですね。
原住民、王国の兵士とか騎士団とかいればまだなんとかなるんですけどね。原住民ゼロの住民7人は厳しい。
魔物狩りは魔法中心の戦闘に以降しそうですが、引き続きお読みいただけるとありがたいです。




