第136話 4つ目のダンジョンに挑む
【異世界生活 120日目 5:45】
「だいぶ落ち着いたな」
とりあえず、ダンジョン入り口前に陣取り、周りを警戒しつつそう呟く俺。
戦闘終了後、魔物達の装備も一応確認したが、基本は粗悪な青銅の槍と皮の鎧、少し強い幹部クラスやボスになると青銅の鎧を着られるようでちらほらと青銅の鎧、そして青銅の剣も確認できた。
そして、ワータイガーは青銅の鎧や青銅の剣を装備する者の割合も高く、ワータイガーの幹部やボスは鉄製の鎧に鉄の剣を装備していた。
この島でも鉄の剣が最強なのだろうか?
とりあえず、俺達は全員鉄製の武器と防具で身を包んでいるので、拾うほど価値のある武器や防具はなかったし、これからダンジョンに挑戦すれば自分の体に合った防具がドロップする。わざわざ拾うこともないだろう。
そして、ワータイガーのボスの死骸を一応、鑑定スキルで確認してみると名前はワータイガーリーダーで、レベルは41あったようだ。まあ、直接戦ったら苦戦しそうだったな。
一角と麗美さんの合体魔法はいい選択だったと思う。
とりあえず、神様にお祈りして魔物の死骸と一緒に防具や武器もマナに還す。死骸は浄化されて、何割かが俺達の経験値として戻ってくる仕組みだ。
「今日はちょっと、魔法使い過ぎじゃない?」
魔物の処理も済み、落ち着いたところで、真望が不満そうにそう言う。
「うーん、思ってたよりはお祈りポイント減ってないね。戦闘前は17万ポイントあったけど、今13万5000ポイント残っているから使った量は3万5000ポイントってところだね」
明日乃がそう言う。
「一角と麗美さんは変幻自在の武器の効果で消費お祈りポイントが半分になってるからな。意外と消費が少なかったな」
俺もステータスウインドウでポイント残高を確認しながらそう答える。
まあ、そうは言っても、1回の戦闘で35000ポイントは使いすぎだ。回復には、お祈り4日分必要だ。
「早めに合体魔法使ったのも良かったわね。あのままダラダラ『対魔法結界』で敵の魔法の相殺をしていたらもっとお祈りポイント減ってたかもね」
麗美さんがそう言って一角の咄嗟の判断を褒める。
「というか、悪いな、みんな。魔法で敵の大半を倒しちゃったし、一番強いボス格も私たちが魔法で倒しちゃったから経験値をほとんど貰っちゃった感じになっちゃって」
一角がそう言って謝る。
「まあ、あれが最適解だっただろ? 経験値はダンジョンで改めて配分考えればいいし」
俺はそう言ってフォローする。
実際、ダンジョン内のウッドゴーレムの方が養殖しやすいシステムだしな。
「そういえば、明日乃、変幻自在の武器を返そうか? お祈りポイントの消費が半減するぞ?」
俺は思い出したように明日乃に聞いてみる。
今、俺が使っている変幻自在の武器は、実際は光の精霊の剣、明日乃が本来所有するべき武器なのだ。借りものだ。
「うーん、大丈夫かな? 私が使う魔法って、大半が聖魔法。神様に直接お願いして使う魔法だから、光属性じゃないんだよね。だからコストは半減しないし、光属性の魔法を使うことも少なそうだしね。後衛だから、武器で戦うことも少ないし。前線で戦う、りゅう君がもっていた方が役立つと思うよ」
明日乃がそう言って断ってくる。
明日乃の攻撃魔法もなかなかの威力っぽいから持っていた方がいいと思うけどな。
明日以降、ダンジョン争奪戦の間だけでも返しておくか。
そんな感じで、魔物の追撃を警戒しながら交代で休憩し、雑談し、ダンジョンが開く朝6時を待つ。
「よし、開いたぞ」
一角がそう言ってダンジョンの入り口に手を突っ込み、そのまま入っていく。
ダンジョンの入り口には不思議な魔法障壁は張られていて、6時前だと、弾力のあるゴムのような感触で、侵入を邪魔するが、6時を越えると、ただの光のカーテンになって通過できるようになるのだ。
「いつ見ても不思議な入口ね」
真望がその魔法障壁を気にしながらくぐる。
俺にしてみれば、何度もくぐっているので慣れてしまった感じだ。
そして、入り口をくぐると目の前にエントランスが広がり、目の前には下に下りる階段と反対のエントランスに向かう長い廊下がある。
そして、なぜか、右手の壁にはトイレも完備だ、しかも男女別。
「ちょっとトイレ行ってくるな」
俺は気を利かせてトイレ休憩をする。
率先していくことで、「トイレ行くか?」とデリカシーのない質問を女の子達にしない為に考え出された俺流の気使いだ。
ちなみに、各階のエントランスにもトイレがあるので混むようなら下の階へ行けばいい。
トイレを済ませ、さっそくダンジョンに挑む。目の前にある階段を降りると地下1階のエントランス。ここからスタートだ。
「どうせ、1階と2階はサービスフロアだろうな」
一角がそう言って軽く覗いてから1階のフロアの入り口をくぐる。
俺と麗美さんもそれに続き、その後を明日乃と真望が続く。
実際、一角の言う通り、1階はサービスフロアで、イノシシの形をしたウッドゴーレムが物理攻撃だけで襲ってくるエリア。
レベルは実際のイノシシより高い、レベル10。ただ、レベル40前後の俺達には余裕過ぎる相手だ。
そしていつものお約束でドロップアイテムはイノシシの肉と毛皮がドロップする。
いまさらイノシシの毛皮も要らないだろ? と思いつつ、自然で剥いだイノシシの皮より清潔でなめし処理もされているという親切設計の為、一応、持ち帰るドロップアイテムとして、エントランスに保管することに決める。もちろんイノシシの肉もお持ち帰りだ。俺達の現在の主食だしな。
とりあえず、1階のウッドゴーレムは各自とどめを刺す。経験値効率が悪いので、俺を養殖するより、少しでも先に早く進むために、さっさと各自で倒していく。
次に1階のボスと2階の雑魚だが、いつもだと1階同様、動物っぽい雑魚ウッドゴーレムが出るのだが、このダンジョンではオークの姿をしたウッドゴーレムが現れる。レベルは20。外にいたオークとより弱く。装備は粗悪な青銅の槍と皮鎧。外の魔物達のうち弱い魔物が使っていた武器や防具の出どころはこの階だな。武器、防具的に魔物に対するサービスフロアってとこか。
レベル21未満なので、魔法は使ってこないようで、お互い武器での戦いになる。
このあたりも余裕だし、経験値効率が悪いので、とにかく先に進むために、各自でとどめを刺す。
そして、マーマンを倒すとタラやシャケの切り身を落とすように、オークの形をしたウッドゴーレムは豚肉をドロップする。イノシシ肉でもオーク肉でもなく豚肉らしい。
「これ、オークの肉じゃないんだよね?」
明日乃が疑わしい目でにらみながらそういう。
「一応鑑定スキルで鑑定したが、豚肉らしいぞ。オーク肉ではないと注釈まで入っているな」
俺は鑑定スキルで謎の豚肉を調べながら明日乃に答える。
「うーん、マーマンが落としたタラの切り身やシャケの切り身は明らかにマーマンの肉とは違うと魚の皮の雰囲気で分かったが、これは、豚肉とオーク肉と並べられてもちょっとわからないかもしれないな」
俺はそんな感想も付け足す。そして明日乃が嫌な顔をする。
「今度、オークを倒した時に、解体して、この肉と比べてみるか?」
一角が余計な事を言い出す。
「一角ちゃん、それだけはやめて。本当に」
明日乃が心底嫌そうにそう言い、一角を止める。
確かに、オークを倒すくらいなら何も考えずにできるが、さすがに解体は気が引けるし、オーク肉が食べられるとしても食べたくはないな。
ドラゴンの件では魔物を捕食すると魔物の魂の断片が融合する可能性があるみたいな怖い話もしていたしな。
そんなしょうもない話をしつつも、2階のボス部屋に到着。
そして、ボス部屋のボスはレベル25のオーク型のウッドゴーレム。魔法戦になるが、麗美さんの金剛義装で無効化され、難なくクリア。3階に進めるようになる。
3階は2階のボスから分かる通り、雑魚はレベル25のオーク型のウッドゴーレム。
レベル21を超えているので魔法戦になる。中級魔法を敵が積極的に使ってくる。
いつもの作戦どおり一人ずつ部屋に入り金剛義装、敵が魔法を使い切ったら全員で部屋に突入し、ウッドゴーレムを倒す。
進むにつれて、1度に襲ってくるウッドゴーレムが増え、魔法の数も増えるが、こちらもそれに合わせて、金剛義装で魔法を受ける人数を増やしていく感じでダンジョンを進む。
まあ、レベル25の敵は苦戦するレベルではないな。俺がとどめをさし、低レベルの敵なので少量だが経験値を貯めていく。
そして、3階も魔法対策は必要だったが、さほど苦労することもなくボス部屋前へ。
いつもの、ボス部屋チラ見をする。
「ボスはレベル35のリザードマンか」
俺は鑑定をしてつぶやく。
取り巻きのオークとボスのリザードマンが仲良く共闘している姿に違和感しかないが、まあ、今までのダンジョンもそんな感じだったのでスルーだ。
「ただのリザードマンじゃない。ジェネラルリザードマンらしいぞ」
一角が俺に突っ込む。
ちなみにオークもリザードマンもレベル20までが普通のオークやリザードマン、レベル21~30がリーダー、レベル31以上がジェネラルという称号がつくらしいな。
3階で倒してきたウッドゴーレムは厳密にはただのオークではなく、本来はオークリーダーを模したウッドゴーレムだってことだ。
「レベル35だと上級魔法を使うわね。見たことないけど、琉生ちゃんから前聞いた話だと、地面から土や石のトゲトゲがいっぱい飛び出す感じだっけ?」
麗美さんがそう言って嫌そうな顔をする。
金剛義装を着けているとはいえ、地面から大量に飛び出す棘に襲われるのは気持ちがいいものじゃないしな。
「私の、対魔法結界つかう?」
明日乃があまり乗り気でない声でそう聞いてくる。
「あの結界を使いだしたらキリがないし、1発受けるごとにお祈りポイント3000ポイント消費じゃ、4階をクリアするころには15万ポイント以上消費してお祈りポイントが空になるから却下だな」
俺はそう答える。
1フロア50体のウッドゴーレムが魔法を撃ってくるのだ。それを全部相殺していたらお祈りポイントがいくらあっても足りないのは対物理結界の『聖域』で魔法を受けるのと同様、ダンジョンでの結界の使用は悪手なんだよな。
「だよね」
明日乃がそう言ってがっかりする。まあ、本人も分かっていて提案してくれたのだろう。
「とりあえず、いつもの感じでいくわよ。まずは私が部屋に入って敵が魔法を使ったら金剛義装で受ける。全部の敵が魔法を使い切るまで、私、一角ちゃん、真望ちゃん、明日乃ちゃんの順番で入って、最後に流司クン。流司クンは一番倒しやすそうな敵かボスを倒す感じで臨機応変に頼むわね。あと、ボスを倒したらさっさとドロップアイテム拾って、次の階に行って獣化義装が切れるところまで次の階も進むからね」
麗美さんがそう言って、獣化義装を纏う。そして俺以外のみんなも獣化義装を装備する。
まさにいつもの流れだ。
そして、麗美さんがボス部屋の扉を開けると、駆け出し、右端の敵に向けて走り出す。
敵が数体、魔法を発動し始めるが、魔法が完成するまでにタイムラグがある。
麗美さんはギリギリまで、1体でも多くの魔物にプレッシャーをかけ魔法を発動させ、魔法が放たれる瞬間、金剛義装を纏い、魔法を受ける。
3階のボス、レベル35のリザードマン型のウッドゴーレムが放つ『土の穿刺』の魔法。ダンジョンの床から土の槍が生えだす。というか、棘が結構小さい?
そして、取り巻きのレベル25のオーク型のウッドゴーレム達も中級魔法『石弾の連撃』を放つ。
金剛義装を使い無敵になった麗美さんが、地面から生えた棘で突き上げられ、飛んでくる石つぶてを何発も受ける。
そして、魔法が終わると、出てきた棘や石つぶては光輝きマナに還る。
あと2体、魔法を使っていない取り巻きのウッドゴーレムがいる。
麗美さん一人で3体の敵に魔法を使わせたのは上等だ。
「次は私だな」
一角がそう言って、魔法をまだ使っていないウッドゴーレムに向かって走り出す。
麗美さんが飛び込んだのとは逆の方向、左のウッドゴーレム2体に向けて走り出す。
さっきと同じように、左端のウッドゴーレムが魔法を発動し始めるので、一角は、走る方向を変え、その隣のウッドゴーレムに向かって走る。魔法が放たれるギリギリまで、プレッシャーをかけて、1体でも多くのウッドゴーレムから魔法の発動を誘う。
よし、2体目も魔法を発動した。
2体のウッドゴーレムの魔法の発動を確認した一角はすぐに金剛義装に転換、麗美さん同様、無敵の鎧で、2体のウッドゴーレムの魔法、10発の石つぶてを全て受ける。
麗美さんがボスと取り巻き2体にタコ殴りにされている状態、一角が取り巻き2体にタコ殴りされる状態になる。
うーん、これは一角を助けて合流するのが正解かな?
「よし、行くぞ。真望、明日乃。一角を助けに行くぞ」
俺はそう言い、一角の元に駆け出す。その後を真望と明日乃が追ってくる。
俺と真望が、一角を攻撃している2体の敵にそれぞれ斬りかかり、フリーになった一角が急いで金剛義装を解き、動ける状態になる。
俺は、両手持ちの大き目の斧に変化させた変幻自在の武器で、ウッドゴーレムの武器、粗悪な青銅の槍を叩き折り、そのまま飛び掛かり、首に一撃、ダメージを受けて動けなくなったウッドゴーレムから斧を抜き、斧を切り返し、さっきとは逆、首の左から、1撃、そしてもう1撃食らわしてウッドゴーレムの首を叩き斬る。
オークを模したウッドゴーレムは首が太すぎて、1撃では叩き切れないのだ。かといって、マナソードを使うのも勿体ない気がして、斧を使って力技で叩き斬る。
真望は変幻自在の武器を持っていない、南西の島のダンジョンで手に入れた鉄のロングソードが武器なので、はなから、首を切断するのを断念し、額のコアを突き、とどめを刺す。
真望もレベル40なので俺の代わりにとどめを刺すのは問題ないので、この階からそんな戦い方をしている。
というか、俺の養殖中なのだから、俺もわざわざ首を落とさずに核を叩き割ればいいのか。
解放された一角は急いで、麗美さんを囲んでいる3体に向かって走り出す。俺と真望も続いて走り出す。
明日乃はもう、決着がついた状態と確信したのか、接近戦では役に立たないと諦めたのか、戦況を見定めながら、ゆっくりついて来る。
一角は長柄斧槍に変化させた変幻自在の武器で、1体のウッドゴーレムに斬りかかり、俺は麗美さんへの攻撃に集中しているボス、リザードマン型のウッドゴーレムの頚椎の辺りに斧で一撃、真望は俺をぐるっと迂回して俺のさらに先にいるもう1体の取り巻きウッドゴーレムに飛び掛かり、その敵が持っていた槍の柄を叩き折る。
3体の動きが止まったところで、麗美さんが金剛義装を解き、飛び込み前転をするように転がり、距離をとる。
一角も俺も、それぞれ対峙するウッドゴーレムの首を刎ね、麗美さんも振り返り、真望が対峙していたウッドゴーレムを後ろから攻撃、一角と同じような長柄斧槍で3度首を斬りつけ、首を刎ねる。
本来ならリザードマンの方が体表に鱗があり、刃が通りにくいのだが、ウッドゴーレム化すると、純粋に太さ=斬り難さになるので、なぜかレベルの高いリザードマンの首を落としやすい。リザードマンの首の方が細いゆえにそうなると。
「終わったわね。流司クンは早くウッドゴーレム達にとどめを刺す。他の子はドロップアイテムと宝箱を回収して、準備でき次第、4階に行くわよ」
麗美さんがてきぱきと指示し、俺は急いで、床に落ちているウッドゴーレムの首の額についている核を叩き割り、どんどんとどめを刺していく。うん、レベル35になると経験値効率もだいぶいいな。4階が楽しみだ。
結局ドロップアイテムは青銅の剣か青銅の鎧なので放置、ボスのドロップは鉄の防具だったので鈴さんへの鉄素材としてのお土産として一応キープしておく。
部屋の奥にあった宝箱は青銅の剣が入っていたので放置だ。
豚肉だけを回収する。
リザードマンはボスなので防具を落としたが次の階からはトカゲの肉を落とすようになった。意味不明だ。
そして、そのまま、獣化義装が切れるまで4階の前半、敵が1体ずつ出るエリアでリザードマン型のウッドゴーレムを倒し、獣化義装が切れたところで、一度エントランスに戻り休憩する。
「流司クン、レベル上がりそう?」
麗美さんが聞いてくる。
「うーん、あと10体弱倒せばレベル41にあがるかな? レベル35のウッドゴーレムの経験値はかなり美味しいからね」
俺はそう答える。
「流司クンのレベルが上がったら次は真望ちゃんね。真望ちゃんの最上級魔法とかちょっと期待しちゃうのよね。火属性だし、ウッドゴーレムとか丸焼きにできそうじゃない?」
麗美さんがそう言って笑う。
「ボス部屋とか面倒くさいから私と真望の合体魔法で焼き払うのもありかもな。お祈りポイント7500ポイントなら安いもんだろ?」
一角がそう言って笑う。
「そうだな。ボス部屋限定ならありかもな。さんざん苦労させられているし」
俺はそう言って賛成する。
というか、一角のゲーマー的な矜持はどこへ行った?
「そうなると真望ちゃんを先にレベル41にした方がいいかも? 次のボス部屋を魔法で焼き払うなら」
麗美さんがそう言って乗り気だ。
結局、俺のレベルを上げるより先に真望のレベルを41にすることが決まった。
「魔法といえば、3階のボスと4階のウッドゴーレムの使った上級魔法、ショボかったな。もっと凄く巨大な土の槍がいっぱい飛び出すのかと予想してたんだけどな」
一角が、思い出したように、前のフロアのボス部屋やこの階で麗美さんが金剛義装で受けた土属性の上級魔法『土の穿刺』について感想を言う。
確かに土の棘が小さかったし飛び出した数も上級魔法というには小規模だったな。
「あー、多分、ダンジョン内だからだよ。前に琉生ちゃん言ってたじゃない? 材料の石や土がないとマナで材料を出さないといけなくなって魔法にかかるマナのコストが跳ね上がるって」
明日乃が思い出したようにそう言う。
「そういうことか。このダンジョンって、破壊不能の良く分からない黒い石でできてるから、それを魔法の材料に使うことはできない。レベル35のウッドゴーレム達は材料の土の生成からマナで行なっている。だから上級魔法といってもなんかがっかりな効果だったってことか」
俺は明日乃の話を聞いてそう結論付ける。
「なるほどな。そうなると、琉生もダンジョンの中じゃがっかり魔法しか使えないってことか」
一角がそう言って、ここにはいない琉生を憐れむ。
「まあ、一角も獣化スキルの補助魔法は使い物にならないし、飛行魔法もお察しだし、似たようなもんだろ?」
俺は一角を冷やかすように笑う。
「流司、風属性の最上級魔法、喰らいたいか?」
一角がジト目でそう言う。
まあ、仲間には当たらない結界魔法みたいなのが自動で発動するらしいので痛くもかゆくもないだろうが、お祈りポイントが勿体ないので遠慮させてもらう。
その後休憩も終わり、4階の残りのウッドゴーレムも倒す。上級魔法を使ってくるので結構面倒臭いが、金剛義装を上手く使い、魔法を無効化、何とか倒していく。
ボス部屋で合体魔法を使うかもしれないということで、急遽、真望が積極的にとどめを刺すことになり、真望のレベルが41に。
そこで、4階のボス部屋に到着。俺のレベルを上げる機会はなかった。
獣化義装も切れたので、とりあえず少し休憩してからボス部屋に挑む。
「どうする、ボス部屋、合体魔法で焼き払うか?」
一角が少し楽しみそうにそう言う。
「というか、真望の魔法の確認だろ? 新しい魔法どんな感じだ?」
俺は一角にそう言い、改めて真望に聞いてみる。
「まあ、無難な感じね。範囲魔法の強化版? 『紅炎』? 麗美さんの魔法と同じ感じ? 火属性版って感じね」
真望がそっけなくそう答える。
真望としてはこの魔法の名前、中二病的にはセーフだったらしい。
「あと、単独攻撃用かな? 『永遠の炎』? 敵の体にまとわりつく炎で敵が死ぬか、10分経つまで絶対消えない火魔法だって」
真望が2つ目の魔法を教えてくれる。
「2つ目の魔法はエグイな。敵を絶対殺す魔法?」
俺はちょっとドン引きする。
「多分そうなんだろうけど、火耐性とかあると耐えられちゃうんじゃない? 例のドラゴンとかに1回試してみたいわね」
真望がそう言って笑う。
なんか効かなそうな予感がするな。
「明日乃ちゃんの魔法でも消せそうよね」
麗美さんがそう言う。
自称絶対消えない炎だが、絶対ではないらしい。
「で、どうする? 合体魔法やるか?」
一角の魔法使いたい病が再燃したようだ。
ゲーマー感覚で楽な勝ち方はしたくないが、魔法は使いたい。面倒臭い女だ。
今回は魔法を使いたい気持ちが勝ったようだ。
「とりあえず、4階のボス部屋を覗いて、ボスが倒せそうになかったら、一角と真望の合体魔法ぶち込んで帰ろう」
俺がそう言い、麗美さんと明日乃が頷き、真望は一角に付き合うのが面倒臭いみたいで呆れ顔だ。
とりあえず、ボス部屋を覗いてみる
「キングワータイガー。レベル45。ああ、これ、ダメな奴だ」
俺はボスを鑑定して、あっさり諦める。
レベルが俺達より高い上に最上級魔法まで使ってくる。
そして、レベル41を超えるとキングの称号がつくらしい。次の階、キングがいっぱいいるんだろうけどいいのか? 俺はそんな疑問を抱いたが、どうでもいい話なので口には出さない。
「ま、まあ、補助魔法かけまくれば行けるんじゃない?」
麗美さんが残念そうな顔でそういう。
「ボスは倒せるだろうけど、5階は無理だろうな」
俺は麗美さんにそう答える。
「まあ、でも、経験値が美味しそうだぞ? 明日乃の最上級魔法の補助魔法と獣化スキルの補助魔法で、1体ずつ出るエリアくらいは倒せるんじゃないか? その方がきっと経験値効率いいぞ」
一角がそう言って5階の前半くらいは進む案を出す。
とりあえず、ボスを倒したら考えよう。
「で、どうするの? 合体魔法使うの?」
真望がジト目で俺と一角に聞いてくる。
「まあ、今日は、お祈りポイント大盤振る舞いだ。合体魔法ぶち込んでやれ」
俺はOKを出す。
「一角ちゃん、ちゃんとボス部屋で魔法撃ってね。ここで撃っちゃダメよ」
麗美さんも少しあきれ顔でそうアドバイスする。
ちなみに、このダンジョンは立方体の区画で分けられており、立方体の区画がいくつも並んでダンジョンを構成している。そして、魔法の効果は区画内限定になる。例えば、敵が範囲魔法を使った場合も敵がいる区画にしか効果が発現せず、手前で控えているメンバーには効果が届かない。だから、ボス部屋の手前、今いる場所で一角と真望が合体魔法を使った場合、ボス部屋手前のみんなが立っているこの区画が火の海になるわけだ。
「じゃあ、真望行くぞ。とりあえず、部屋の前で魔法詠唱開始、詠唱終わったらボス部屋に飛び込んで魔法を撃つ。そして、ボス部屋から逃げる。以上。いくぞ」
一角が嬉しそうにそう言い、ボス部屋の扉を大きく開くとさっそく魔法の詠唱を始める。
「風の精霊よ、神の力を借りて、魔法の力とせよ。『合体魔法』」
「火の精霊よ、神のお力をお借りし、魔法の力としたまえ。『紅炎』」
一角と真望がダンジョン前で一角と麗美さんがやったような同時詠唱を始める。
緑色と赤色のマナ。それぞれの精霊を表す色で光り輝く2人。
「いくぞ、真望!」
一角がそう言ってボス部屋に1歩踏み入れ、真望もその横に1歩踏み入れる。
「合体魔法、『獄炎暴風』!!」
一角が意味なく両手を前に出して、詠唱を完成させる。
敵も魔法を発動し始めるがすでに遅い。
ボスの目の前が光り出し、その光が真っ赤な球体となり、少しずつ大きくなる。
「真望逃げるぞ」
一角がそう言って、ボス部屋から飛び出す。
「もう!!」
真望がキレながら遅れて飛び出す。
そして、ボス部屋からあふれる、爆音、そして目の前が真っ赤になる。
真っ赤な炎に目が慣れだすと、ボス部屋の中が真っ赤な渦でかき混ぜられている。炎でできた巨大洗濯機状態だ。
なぜか、扉から外へは炎が漏れない不思議なダンジョン設計だ。
「うわぁ、これはエグイわね」
麗美さんがかなりドン引きする。
明日乃に至っては言葉すら出ない。
俺もかなり引き気味だ。扉の先、部屋の中が見えないくらい炎に包まれている。
ウッドゴーレムがどうなったのかも視覚では確認できない。
「こ、これは卑怯だわね」
使った本人、真望もドン引きしている。
「ま、まあ、ボス部屋限定という事にしておこう」
一角もちょっと焦っている。
そんな感じで、あまりの威力、しかも密閉空間での使用という視覚的にヤバイ状況を目視し、ドン引きするメンバー。
火が収まるまで、無言で見つめるしかなかった。
そして、火が消えると、取り巻きのウッドゴーレムの影はなく、唯一、ボスらしきウッドゴーレムが真っ黒に焼けただれて、なんとか、芯の部分だけが残り、人の形を残しているそんな無残な状況だった。
うん、真望の火属性の魔法とウッドゴーレムの相性は最悪(最高)だ。
そして、ガラガラと崩れ落ち、マナに還るウッドゴーレム。
そして、ガラン、とドロップアイテムが落ちる音。
ドロップアイテムは敵が着ている鎧とかが一度マナに戻ってから再出現してるのか? ドロップアイテムの出方が謎だ。サイズも倒した人間ピッタリになるしな。
とりあえず、部屋や床が熱くなってないか、びくびくしながら足をボス部屋に突っ込み、床をツンツン確認する。
仕組みは良く分からないが、魔法が消えると温度も下がるようだ。うん、謎だ。
気持ち、ボス部屋の中の方があったかいかな? と思いながらドロップアイテムの回収。
「ああ、これ、鈴さんが泣くやつだ」
一角がそう言って、ボスウッドゴーレムのドロップアイテムを拾う。
俺も気になって近づくと立派な鉄の胸当てを持っている一角。
鑑定してみると、『鋼の胸当て』。うん、鈴さん、見たら泣くな。
とりあえず、今日はズルい勝ち方で、4階のボスを倒す俺達だった。
どっちにしろ、今の俺達のレベルじゃ5階は進めそうにないしな。イタチの最後っ屁ってやつだ。
次話に続く。
なんか、魔法祭りです。お祈りポイント余っているので魔法祭りです。
こんなダンジョン攻略していたら3~4日でお祈りポイントが尽きます。多分今日だけです。多分。




