第132話 南西の島のダンジョン攻略を始める
日付が2日ほどズレていました。
修正しました。ご迷惑おかけします。
それと、ブックマーク1名様、☆1名様ありがとうございます。
誤字脱字報告もありがとうございます。見直しているんですが、本人には意外と見つけにくいようです。
【異世界生活 118日目】
この日は、鈴さんと約束していたとおり、西の山に珪石を掘りに行く。
湯煎した瓶詰め保存食が万能過ぎて、ガラス瓶が足りないのだ。
それに、これから本格的に南西の島のダンジョンの攻略が本格的に始まるので留守番予定の鈴さんが暇を持て余さないようにガラス瓶の材料を集めておこうという魂胆だ。
珪石拾いに参加するのは俺、一角、麗美さん、鈴さんの4人。
琉生は牛の世話が安定して、眷属達でも世話ができるようになるまで、付きっ切りになるそうで留守番、明日乃は体力がないので同じく留守番、真望は麻布作りがしたいといつもの理由で留守番だ。
ぶっちゃけ、運搬は鈴さんがマナで召喚する荷牛の霊獣でなんとかなるので珪石を掘り出す人手があれば十分なのだ。
そして、掘り出すためのつるはしが用意できないので、結局、変幻自在の武器を持っている俺、一角、麗美さんの3人がいれば十分という話になる。
そんな感じでいつものように西に向かい歩き、山道になりだしたところで、適宜休憩をしながら険しい山道を登っていき、中腹にある珪石の取れる地層の見える崖まで行く。
あとは4人で交代しながら珪石を掘りだし、背負子や竹製の背負い籠に珪石を詰めていき、大きく切り出せた珪石は荒縄で縛ってまとめ、あとで召喚する荷牛の霊獣に積みやすくしておく。
「荷牛用の背負い袋みたいのが欲しいね」
鈴さんが珪石をまとめながらそう言う。
現在、荷牛の霊獣に珪石を積む方法は、余った竹製の背負い籠に壊れない程度の珪石を詰めて、左右に背負わせる感じか、大きく切り出せたものは直接荷牛に荒縄で縛るような運び方だ。
「小麦が乾燥したら、麦わらで袋を作るといいかもね」
俺は鈴さんにそう答える。
「それはいいね。麦わらで袋を編む方法を真望と秘書子さんに聞いて作ってみようかな?」
鈴さんが俺の提案を喜んでくれる。
「時間がある時は手伝うし、眷属達にやらせてもいいかもね」
俺はそう付け足し、珪石堀を続ける。
そんな感じで大量の珪石を掘りだし、鈴さんが召喚した荷牛の霊獣4体に50キロぐらいずつ背負わせ、俺達も15~20キロくらいの珪石を背負子に積んで背負い山を下りる。
荷牛の霊獣は最大100キロ近い荷物を運べるらしいが、帰り道は急な下り坂なので転げ落ちないように半分の積載量で抑えて置いた感じだ。
ガラス作りに必要な材料、石灰石と木灰は十分にあるらしいので明日からガラスの生産を再開できるそうだ。
拠点に着くと、夕方近く。明日から、本格的に南西の島のダンジョンの攻略を臨時拠点に泊りがけで行うので、早めに夕食を食べて、当分の間、入れないお風呂に入っておく。今日の重労働の疲れを癒す意味もある感じだ。
入浴後、日課のお祈りをし、寝る準備をして就寝する。
【異世界生活 119日目 6:00】
今日は南西の魔物の島の攻略をめざし、とりあえず、南西の臨時拠点まで移動し、島の様子を見に行く。そして明日から本格的にダンジョン攻略をめざした魔物狩りを始める。
メンバーは俺、明日乃、一角、麗美さん、真望の5人。それと、留守中の臨時拠点の荷物を守ってもらうために眷属2人、琉生の眷属のトラと鈴さんの眷属のアルにもついてきてもらう。
それとトラとアルには待っている間暇なら材木を作ってもらい、臨時拠点に3軒目の家を建てることをお願いする。
家が2軒だと、なんか眷属達が俺達の家に間借りしているみたいな感じになるので、眷属達用の家もあるといいと思ったからだ。
それに、南西の臨時拠点は雑草も生えていないし、あるのは森くらい。材木作りくらいしか眷属達が時間をつぶす方法がないのだ。
眷属達はやる事がないとそわそわしだしてこっちも気になるんだよな。そうならないための対策でもある。
今日はダンジョン争奪戦には参加しないのでゆっくり出発する。争奪戦に参加しようとすると夜の11時くらいに出発しないとならないしな。それを避けるためにも臨時拠点を作ったという感じだ。
「臨時拠点を作ったのは正解よね。これで毎日早起きしなくて済むわ」
歩きながら麗美さんが嬉しそうにそう言う。
「そうは言っても、ダンジョン前に5時にはついておきたいから、結局、2時半には起きないとダメだけどね」
俺はそう言って麗美さんに寝坊しないように言っておく。
「そうなると今日から早めに寝るようにしないとダメね」
麗美さんはそう言って笑う。
睡眠不足にならないためにも19時には寝たいし、できれば18時に寝られれば8時間以上睡眠が確保できる。
「というか、何で私もメンバーに入っているのよ?」
麗美さんとの会話が終わると、今度は真望がそう言って吠え出す。
「だから、琉生は牛の飼育が落ち着くまで拠点から離れられないんだよ。それに、琉生が拠点にいれば鈴さんの食事も確保できるしな。真望だと、料理できないだろ?」
俺は今回、真望がメンバーになった理由をそう伝える。
「べ、別に、料理ができないわけじゃないし、ただ、みんなの味の評価が厳しいだけで、作る気なくなっちゃっただけだし」
真望がぐちぐちと文句を言う。
「あれは、料理と呼ぶにはちょっとね」
麗美さんが複雑そうな顔をする。
彼女曰く、真望の料理はよく言えば薬膳料理、悪く言えば化粧品や芳香剤の味がする何かだそうだ。
本人曰く、ハーブを活用したイタリアン風の味らしいのだが、素人のハーブを使った料理ほど危険なものはない。
「こっちのメンバーなら明日乃も流司もいるし、マズい飯食わないで済むからいいだろ? それとも瓶詰めの保存食を食べてまた叱られるか?」
一角がそう言って真望を冷やかす。
「まあ、今回は、遠征が長引きそうだから、野菜も瓶詰めを持ってきたけどね。干し肉だけじゃ辛いしね」
明日乃がそう言って笑う。
南西の臨時拠点の周りは本当に何も生えてないからな。森に少し山菜ときのこがあるくらいかな?
「でも、ダンジョンの5階クリアの兆しが見えたら琉生ちゃんを呼ばないとダメよね? 南西の島のダンジョンって琉生ちゃんに対応した変幻自在の武器が貰えるはずだから」
麗美さんが思い出したようにそう言う。
「そうだね。とりあえず、5階のボス部屋まで行ける目途がついたら一度帰って琉生を呼んでくる感じかな? まあ、琉生が主役みたいなものだから最後のボスを倒すときに琉生がいないと様にならないからね」
俺はそう答えて笑う。
まあ、1回や2回の挑戦でクリアできるとは思っていないしな。なにより、今回は残っている魔物が多すぎて、ダンジョン争奪戦に勝てるかもわからない状況だ。
【異世界生活 119日目 10:00】
そんな感じで雑談しながら、途中休憩も入れて、4時間ほどで南西の臨時拠点に到着、拠点に荷物を下ろす。
「こんなに早く着くんなら、お昼から移動でもよかったな」
俺は荷物の整理をしながらそう呟く。
今回は本格的なダンジョン攻略をする予定なので、装備もフル装備。南東の島のダンジョンで手に入れた鉄製の防具をフル装備だ。その上、食料や土器製の鍋や水瓶、荷物も多い上に、装備が重い。
みんなも装備の重さにだいぶ疲労がたまったようだ。
「まあ、一角ちゃんが魔物狩りに行きたがっていたし、みんなも白い橋の上くらいまでは見学に行っておきたいでしょ?」
麗美さんがそう言う。
「まあ、そうだね。とりあえず、臨時拠点の点検と掃除をして、水を汲みに行って、拠点を使える状態にしよう」
俺は麗美さんに答えつつ、みんなにもそう伝える。
「あと、トラとアルが家作りをするのに材木を作る材料も集めておいてやらないとな」
一角がそう言い、眷属達が少し嬉しそうにうんうんと頷く。
とりあえず、着ていた鎧も脱ぎ、身軽な格好になる。女の子達も、拠点の家で着替えて鎧を一度脱ぐ。
魔物狩りまで少し時間があるし、歩き疲れもしていたので、今は身軽でいたい感じだ。
とりあえず、明日乃と真望は拠点に残り、拠点の掃除と原状回復、麗美さんは森の奥にある小さな泉に水を汲みに行く。
俺と一角は森で木材を探し切り出し、トラとアルが臨時拠点にピストン輸送する感じだ。
2時間弱作業をして倒木を1本切り出し終える。
俺も一角もこの拠点を作る時に参加したので慣れたものだ。とりあえず、梁と柱になるように長めに木材を切りだす。
でも、これだけだと、全然材料が足りないな。
【異世界生活 119日目 12:30】
みんな一度、臨時拠点に集まり、お昼ご飯を食べる。
「魔物狩りが終わったら、木材をもう少し切り出さないとダメそうだな」
俺はそう提案し、昼食後、白い橋の上まで視察にいって、魔物を倒し終わったら帰ってきて木材の切り出しの続きをすることにした。
眷属達は早速、切り出した材木をノコギリやかんなで柱や梁になりそうな木材に加工している。
眷属達は夕食しか食べないからな。
「トラとアルはあんまり無理するなよ。休憩しながらでいいからな」
俺は一応そう声をかけておく。
眷属達は気がまじめなので放っておくといつまでも作業をしてしまう。なるべく、俺達が朝昼夕と食事をしている時は一緒に休憩するようには言ってあるのだが。
とりあえず、昼食が終わり、全員、鎧を身に纏って南西の島に向かう。
今日は下見なので、鎧も必要ない気がするが、折角持ってきたので装備して魔物狩りに挑む。
「トラ、アル、拠点の警備を頼むな」
俺は眷属2人に拠点を任せ、出発する。
白い橋はこの臨時拠点から30分ほど海沿いに戻ったところにある。
昼御飯も食べたし、休憩もしたので、そのまま、白い橋に進む。
神様が作ったらしい、白い大理石のような石でできた大きな橋が南西に向かってまっすぐ伸びている。
この上にいる限り、元の島を囲む結界で守られていて魔物は入ってこられず、安全が確保されている。
その橋をゆっくり南西の島に向かって歩いていく。そして見えてくる魔物の姿。
「なんだ、ありゃ? 見たことないぞ」
一角が魔物を視界にとらえ大声を上げる。
「新しい魔物みたいだけど、ちょっとエグイわね。あの外見は」
麗美さんがそう言ってドン引きする。
「トラだね。トラだよね?」
明日乃が魔物を見てそう呟く。
まさに虎と見てわかる黄色に黒の縞々。しかも2足歩行で筋肉隆々で俺より二回りくらいデカい。
「これは嫌な敵だな」
俺はそう呟き、一応、鑑定スキルで確認してみる。
なまえ ワータイガー
レベル 31
二足歩行のトラ。力が強く素早さもある。
レベルが高い個体は知能も高い。
全身の筋肉と毛並みで武器の刃が通りにくい。
土属性で土の上級魔法を使うこともある。
基本武器での攻撃だが噛みつきやひっかきに注意が必要。
「まあ、前の島で会ったワーウルフのボスが群れで襲ってくる感じだな」
一角がしれっとそう言う。
「いやいや、上級魔法だぞ。琉生から聞いた話だと地面から棘を大量に出す魔法らしいぞ」
俺は魔物に魔法を使われた場合の後継を思い浮かべ少し青くなる。
「しかも、目の前に並んでいる魔物の大半が魔法使ってくる可能性があるのよね」
麗美さんがそう言ってげっそりする。
平均レベルが31以上って感じで、レベル30以下のワータイガーもいる。そいつらは中級魔法までしか使えないようだが、中にはレベル35とか36のワータイガーまでいる。
レベル的には俺達の方が若干上だが、数で押されたら苦戦必至のレベルの高さだ。
「オークやリザードマンはレベル31越えなんて数えるほどしかいなかったのにな。これはちょっと強すぎるだろ?」
一角も鑑定スキルを使ったようで、ステータスウインドウを見ながら顔をしかめる。
「今日は橋の上からだから魔法の心配をしなくていいけど、明日からはこいつらの魔法を受けなくちゃいけないって事よね?」
真望がそう言って青くなる。
「最悪、明日乃の結界の中に引きこもることになるかもしれないな」
俺は冷静になって明日乃とみんなにそう伝える。
「ま、まあ、お祈りポイントもたくさん貯まっているから、今まで使ったことのない魔法とかも使ってみればなんとかなるんじゃないかな?」
明日乃がワータイガーの風貌に気圧されながらそう言う。
「そうだな。いい機会だから色々試してみるといいかもしれないな。明日乃の結界も使ってないやつが幾つかあるしな」
俺はそう言って気を取り直す。
「とりあえず、一角ちゃんと明日乃ちゃんのレベル上げをめざしましょ? この敵のレベルなら経験値効率よさそうだし、2人とももう少しでレベルも上がりそうだしね」
麗美さんがそう言い、ワータイガーに対峙する。
「作戦はいつも通りな。右に私と麗美姉、左に流司と明日乃、真望。左右の端から崩していくぞ」
一角がそう言い、橋の右に向かっていく。
俺も頷き、左の端に向かい、明日乃と真望も俺に続く。
「とりあえず、俺と真望で隙をつくるから、明日乃はワータイガーの急所を狙え、首、心臓、みぞおちどこでもいい」
俺は明日乃と真望にそう指示し、ワータイガーに対峙する。
「装備がいい奴はレベルが高いみたいだ。とりあえず、皮鎧と青銅の槍を持っている奴から倒すぞ」
俺はそう言い、比較的装備の質が悪そうなワータイガーに斬りかかる。
中には青銅の鎧や青銅の剣を装備した奴もいる。そいつらはレベルが高く中ボスみたいなものか?
今日の俺は、左手に鉄の丸盾を装備しつつ、右手には少し太く長くしたサーベルのような片刃の反り剣を装備している。
真望と明日乃は南東の島のダンジョンで手に入れた鉄の長剣を装備している。左手には俺と同じように鉄の丸盾を装備している。
とりあえず、2人がかりでワータイガーに襲い掛かり、粗悪な槍をへし折る。
「いまだ、明日乃」
俺は敵の槍の先を叩き折り、すぐにそう叫び、明日乃が槍を折られて隙のできたワータイガーの首に長剣の一突きを浴びせる。
浅い! ワータイガーの毛皮に阻まれ、明日乃の非力な攻撃では致命傷にならない。
「りゅう君、ダメ、剣が通らないよ」
明日乃が泣きそうな声でそう言う。
「明日乃、剣にマナを纏わせろ。マナソードのスキルだ」
俺は攻撃力を上げるスキルがあることを思い出してそう叫び、自分の剣にマナを纏わせると、明日乃が仕損じたワータイガーの首の左から袈裟切りを食らわせる。
ワータイガーの毛皮を切り裂き、毛皮の下の肉と頸動脈を切り裂く。
首から大量の血が溢れ、ワータイガーが膝をつく。
俺はもう一度剣にマナを纏わせて、今度はワータイガーの首の右から剣を横に薙ぎ、頚椎で剣が止まってしまい、そのまま、剣を引き抜く。
毛皮も固いが、骨も太くて剣が通らない。マナソードを使っても骨は断てないのか。
1体目のワータイガーが絶命し、次の獲物に飛び掛かる。
真望も慌てて俺の横に並び1体を2人で攻撃する。
2体目のワータイガーも槍を折り、その勢いのまま、マナソードで頸動脈を一閃、傷口を押さえながら膝をつくので、
「明日乃、とどめを」
俺はそう言い、明日乃に道を開ける。
明日乃は片手では攻撃力が足りないと気付いたのか、丸盾を捨て、両手で剣を持ち直すと、マナを剣の先端に集中させ、心臓を一突き。肋骨の間を縫って胸に深々と剣が刺さる。
これは致命傷だ。
「その感じだ。次も行くぞ」
俺はそう明日乃に声をかけ、3体目に斬りかかる。
「かなり苦戦したわね」
戦闘が終了し、はあぁ、と大きく息を吐き麗美さんが俺にそう声をかける。
「ああ、ワータイガー、毛皮も骨も固すぎる。マナソードを使ってやっとって感じだったよ」
俺は麗美さんにそう言って笑い返す。
「流司、顔が疲れてるぞ」
一角がそう言って笑う。
そういう一角の笑顔もかなり疲れているけどな。そして返り血の量も凄いな。かなり余裕がなかったのだろう。
結局、みんな、マナソードのスキルを使い、1回1回剣の攻撃力を上げながらワータイガーを倒していった。このスキルは1回敵を斬ると、マナが消費されてしまい1回斬りかかるごとにスキルをかけ直さなくてはいけないのが面倒臭い。
半分倒したところでワータイガーが逃げ出し、そのころにはみんな疲れ切っていて、クロスボウや弓矢で追撃する気力もなかった。
そもそもクロスボウで致命傷を与えられるかも微妙だったしな。
とにかく、毛皮が固く、筋肉もあるので当たり所が悪いと刃が通らない。そして、骨が太く硬い。首を両断なんて夢のまた夢だろう。
そして、攻撃力も高く、すばやさもある。南東の島にいたワーウルフをそのまま防御力をあげたような面倒臭い敵だった。
気が抜けない上に、攻撃が通りにくい。肉体的にも精神的にも疲れさせられた戦いだった。橋を越えて、結界のないところで戦ったらもっと苦戦していただろう。
とりあえず、一角は無事レベルが上がり41に。明日乃もレベルが上がり41。その後は真望がとどめを刺す役をやり、真望もレベルが39から40に上がった。
さすがレベル31越えの魔物だ。1体倒すと30000近い経験値が入る。苦労しただけあって、経験値は美味しかった。
とりあえず、明日乃と一角の新しい魔法が気になったが、みんな疲れ切った顔をしていたのでとりあえず、南西の臨時拠点に帰ることにする。
あんな面倒臭い魔物をこれから、橋の結界の外、南西の魔物の島の中で、敵も魔法を使ってくる可能性がある中で倒さなくてはいけなくなる。
先が思いやられつつ、重い体を引きずるように帰る仲間たちの姿が痛々しかった。
次話に続く。




