第130話 農作物の収穫の完了と、さらに新しい仲間
【異世界生活 115日 14:00】
今日は北の平原にある小麦畑で最後の刈取り。午前中に草刈と小麦刈りもだいぶ進み、小麦畑の端の方まで刈取りがすすんだ。すべての小麦を刈れたわけではないが、主要な部分はほとんど刈れたというところか。これ以上刈ろうと思うと効率が悪そうという事で、琉生が断念した感じだ。
とりあえず、お昼ご飯を食べ、午後も小麦畑で収穫を再開した感じだ。
「もう少しで終わりそうね」
真望がうんざりした顔でそう言う。
「小麦粉ができればパンが作れるようになるんだから頑張れ」
俺は真望を励ますようにそう言う。
「パンと言えば、卵とバターとかないと美味しいパンは作れないかも? まあ、小麦粉と水と塩、あと酵母があればフランスパンみたいなパンは作れるんだけどね。ふわふわなパンとか菓子パンみたいなのは無理かな?」
琉生が小麦を刈りながらそう呟く。
「バターか。牛乳とか欲しいな」
俺は琉生のつぶやきにそう返す。
「乳牛いますよ? すぐそばの草原に」
秘書子さんがしれっとそう言う。
そして、過剰に反応する琉生。
「い、行くのか?」
俺は嫌な予感がする。
「うん、行こう、流司お兄ちゃん。牛さんいたら色々楽しいよ? 牛乳も搾れるようになるし」
琉生がやる気になる。
「もう少しで小麦の刈取りも終わるし、終わったら、ここに置きっぱなしにして、少し牛を探しに行くか」
俺は少し呆れつつ、そう言い、残りの小麦を刈っていく。
【異世界生活 115日 15:00】
「それじゃあ、流司お兄ちゃん、行こう!!」
なんかすごくやる気な琉生が収穫した小麦をまとめ終わりそう言う。
「私も行かなくちゃダメよね?」
真望が嫌そうな顔でそう言うが、俺はにっこり笑い肯定する。
アドバイザー女神さまの秘書子さんの話ではここから東に行った所に草原があって牛の群れが生活しているらしい。
「牛って、どうやって捕まえるんだ?」
俺は東に向かって歩きながら琉生にそう聞く。
「カウボーイみたいに投げ縄で捕まえる?」
琉生は笑いながら手に持った荒縄を構える。
本気か? 本気で言ってるのか? 冗談だよな?
俺は少し困惑する。
「まあ、半分冗談だけどね。まあ、ニワトリの時みたいに、琉生のテイマースキルとかいうので何とかなるんじゃない? よく分からないけど」
琉生が適当にそう言う。
ああ、あのなんとなく話しかけて心通じるみたいなおかしなスキルか。
隣で聞いていた真望も呆れ顔だ。
そんな感じで、草原の間に東にのびる獣道を歩いていると、小麦畑から東に30分ちょっと探索し、牛の群れと遭遇する。
人間を知らないせいか、警戒はされていないようだが、家畜として捕まえる方法も思いつかない。
琉生のテイマースキル頼りで、牛の群れの様子を見ながら少しずつ近づいていくと、突然牛が騒ぎ出し、すぐに群れが東に向かって走り出す。
「なんだ?」
俺はおどろいて、琉生や真望に声をかける。
「オオカミの群れね。牛に気づかれないように風下から気配を消して近づいていたみたい? 私も牛に気を取られて気づかなかったわ」
真望がそう小声で言って顎で、狼の群れを指す。
南の方から忍び足で近づいてきたようだ。俺も全然気づかなかった、危なかったな。
そして、1匹の牛が逃げ遅れ、狼に後ろ足を噛まれその場にうずくまる。
「あの牛さん、お腹大きいよ。妊娠してるんだ。だから逃げ遅れたんだよ。助けなきゃ!!」
そう言って、琉生が隠れていた草の陰から走り出す。
自然界では弱い子牛、病気の牛など弱った動物が肉食動物に狙われるのは定石だからな。
「こら、琉生、危ない、って、遅いか」
俺は琉生を止めるのに失敗し、琉生を追いかけるように草の陰から飛び出し、変幻自在の武器を槍に変化させる。そして、琉生を追い抜き、オオカミとの間に入り、そのままオオカミに近接する。
「しょうがないわね」
真望もそう言って走ってきて、俺の横に並び、オオカミと牛の間に入り、護身用に持ってきた青銅の槍でけん制する。
琉生は襲われている牛と襲っているオオカミに対峙する。
牛の足に噛みついているオオカミが2匹、さらに少し離れたところから飛び掛かろうとしているオオカミが2匹、そして後ろにもう2匹控えている。
そして、倒れている牛。確かにお腹が大きい気はする。
「琉生、噛みついている2匹をやるぞ。落ち着いて、オオカミの弱点を狙え」
俺はそう言って、牛の後ろ右足に噛みついている奥のオオカミを、琉生は後ろ左足に噛みついている手前のオオカミを担当する。
「ちょ、ちょっと私は!?」
一人取り残された真望が焦りながら、牛から少し離れた所で、対峙する2体のオオカミと俺を見比べる。
まあ、最悪、真望には炎の魔法があるし、けん制だけなら何とかなるだろう。
俺は冷静に狼の横腹に槍を突き刺し、牛の足から口を放したところで引きずるように槍をオオカミに押し込む。
そして、地面に倒れたところで、腹に足を乗せて槍を引き抜き、のどにもう1撃、とどめを刺す。
そして、俺とオオカミの戦いを見たもう1体のオオカミがいち早く牛の足から口を放し、琉生の攻撃を回避すると、俺と琉生を見比べて、俺に飛び掛かってきた。
俺は倒したオオカミの首から槍を引き抜く勢いで、そのまま、槍の穂先とは反対側の柄の先を、突っ込んでくるオオカミの口に突っ込む。
変幻自在の武器で作った槍の柄の先、石突でオオカミの口の中を傷つけ、怯ませるには十分の攻撃だった。
オオカミが怯んで、俺から一歩離れたところで、後ろから琉生がオオカミの横腹に槍を突き刺す。
俺も、槍の柄の方で狼の左頬のあたりを殴りつけ、怯んだところで、槍を回転させ、持ち替え喉元に槍を突き刺す。
オオカミ2匹を相手にしている真望が気になって慌ててそっちを向くと、ちょうどオオカミ2匹が左右から真望に襲い掛かるところだった。
「もう、ちょっと、こっちも何とかしなさいよ」
真望がそう叫んで2匹のオオカミの攻撃を避け続ける。
なんだかんだ言って真望もレベル39だ。レベル一桁台のオオカミくらい軽くいなせるだろう。俺は落ち着いてオオカミを観察しながら近づいていく。
「もう!!」
そう言って、真望も観念したのか、逃げるのを止め、槍を構え直す。
俺に頼ってばかりじゃダメだぞ。真望。
真望は左からくるオオカミの鼻づらを柄の先で斜め下から殴り上げ、返し刀(槍?)で右からくるもう1匹のオオカミの鼻先を軽く裂く。
鼻先が裂け、出血するオオカミ。激痛に慌てて逃げだすオオカミ。俺は逃すまいと、腰に着けた青銅の斧を投擲し後ろ足に命中、そのまま転げまわるオオカミ。
麗美さんの毎日の剣道教室が役に立ったようで、真望も自在に槍を使いこなし、殴り倒した1体目のオオカミの頸動脈に槍を一突き。
俺は、逃げたもう一匹のオオカミ、俺の投げた青銅の斧を足で受け地面をのたうち回っているオオカミに駆け寄ると、脇腹に全身で飛び込むように全体重かけて槍を突き刺す。
後ろで様子を見ていた、残りの2匹のオオカミを俺が睨むと、分が悪いと感じたのか、尻尾を巻いて逃げていく。
一応、戦闘は終了したようだ。
「琉生、牛は大丈夫そうか?」
俺は琉生にそう聞き、牛の様子を見る。
「後ろ足を怪我して歩けないみたい」
琉生がそう言う。
確かに前足だけで必死に立とうともがいている。
「大丈夫だよ。落ち着いて。オオカミはみんな倒したから安全だよ」
琉生が優しくそう声をかけると、気持ちが伝わったのか、草の上に寝転ぶ牛。
琉生が牛の首を撫でて安心させる。
「琉生も明日乃お姉ちゃんや麗美さんみたいに回復魔法が使えるといいんだけど」
琉生がそう呟き、牛の後ろ足を心配そうに撫でる
すると、琉生の両手が光出し、牛の後ろ足にその光が伝わるように広がっていく。
「琉生? それ、回復魔法か?」
俺は驚いてそう聞くが、琉生はそれを無視して、一度深呼吸、落ち着いて、傷ついた牛の後ろ足に集中し、光を送り続ける。
牛の左後ろ足にできたオオカミの噛み傷が徐々に塞がっていき、塞がりきったところで、今度は右の後ろ足の傷も同じように治療していく。
一通り治療が終わったところでもう一度琉生が大きく深呼吸をする。
「なんか、治癒魔法が使えるようになったみたいだよ」
琉生俺に振り向きそう言いながら笑う。
横たわる牛を安心させるように後ろ足のけがのない部分を優しくなでながら。
「添え木をして包帯巻くだけでも違うよね」
琉生はそう言って、真望が持っていたハンカチのような麻布を三角巾の要領で折って包帯にすると牛の傷跡の周りを水で洗い、包帯を巻いて、落ちている枝を添え木にしてさらに包帯を巻く。
処置が終わり、牛を優しく撫でる琉生。牛も琉生の気持ちが分かるのか落ち着いている。
そして、突然、苦しみだす、ケガをした牛。
「大変、牛さん産気づいちゃったみたい!」
琉生が慌ててそう言う。
「マジか? どうすればいい? 何かすることはあるか?」
俺は慌てる。
「野生の牛だし、自然に産むとは思うけど、綺麗なわら、枯草みたいなのがあるといいかも」
琉生がそう言うので、俺は慌てて、周りから枯草をかき集める。
真望も真似をするように枯草を集め牛の周りに敷き詰める。運良く周りは草原なので枯草には困らなかった。
枯草を一通り集めたところで、琉生が半分を牛の頭の下にひき、もう半分はお尻の方に広げる。
牛の赤ちゃんが産まれた時にベッド代わりにするのだろう。
「お産は琉生ちゃんと私で診るから、流司は、すぐに帰れるようにオオカミの毛皮を剥いでおいて。あと、周囲の警戒もよろしく」
そう言って真望が琉生の手伝いを始めるので、俺は先ほど倒したオオカミ4匹の毛皮を剥ぐ作業をする。
俺は周りを警戒しつつ、牛の出産を待つ間、4匹のオオカミの毛皮を剥ぐ。
【異世界生活 115日目 18:00】
「牛さん、もう少しだよ。頑張って」
琉生がそう声をかけるのが聞こえる。陣痛が始まって2時間くらいで、分娩が始まり、分娩の真っ最中のようだ。
俺も、オオカミの皮剥ぎも大体終わって、最後の4匹目の皮を剥ぐのが終わるところだった。
「真望、大丈夫そうか?」
俺は一生懸命な琉生に声がかけ辛かったので、真望に声をかける。
「足が出てきたからもうすぐ、出てくると思うわ」
真望が炎の魔法で出した明かりで琉生の行動を見ながらそう言う。
真望も俺も畜産の知識はないし、出産の知識なんて皆無だ。おばあちゃんの家で牛を飼っていたらしい琉生に任せるしかない。
そして、牛のお産も、前足が出て、頭が出たところで一気に子牛が生み出される。
母牛は起き上がり、子牛を舐めて羊膜や粘液を取り除いてやる。
ケガももういいみたいだな。そしてよろよろと子牛が立ち上がり、無事出産も終えたようだ。
「よかったね。無事に子牛が生まれたよ。私、ちょっと感動しちゃった」
真望が少しべそをかきながらそう言う。
「ああ、すごかったな。自然のすごさと母親の強さみたいなのを感じたよ」
俺は真望の意見に同意し、感動したことを告げる。
子牛も元気そうで母乳を求めよろよろと歩きだし母牛の乳房にたどり着くと元気よく母乳を飲みだす。
「これで一安心だね」
琉生がそう言って笑う。
落ち着いたところで、琉生がさっきの治療魔法を確認したところ、あれは明日乃が使う治療魔法とは違い動物専用の治療魔法らしい。
しかも、テイマースキルの一種らしく、土の精霊も神の信仰心も関係ない。その為、お祈りポイントでの使用は不可、琉生のマナでしか発動しないそうだ。
マナ=経験値なのであまり多用できる治療魔法ではないな。
それでも琉生は「今回みたいなことが起きた時に動物たちを助けられる」と嬉しそうではあった。
とりあえず、子牛の授乳も終わり、琉生の後ろで草を食べ始める親牛とそのそばを離れない子牛を見つつ、
「で、その牛の親子、どうするんだ?」
俺は琉生に聞いてみる。
「なんか、ついてきたいみたいだよ。命の恩人で、安心して暮らせそうみたいな事を考えている感じ? 牛の群れにも置いていかれちゃったみたいだし」
琉生がそう言う。
琉生の職業、テイマーのスキルなのか、なんとなく動物の気持ちが分かるし、動物になんとなく気持ちを伝えることができるらしい。
そして、この親子牛は、牛の仲間達にはもう、オオカミに食べられたのだろうと諦められてしまったのかもな。
「琉生が飼うと、全然安全なきがしないけどな」
俺は笑ってそう言う。
「さすがに食べないよ。赤ちゃんもいるし、多分、牛乳も搾れるよ。これなら」
琉生がそう言って、また一生懸命母乳を飲み始めた子牛を見て微笑む。
「一緒についてきたいなら連れて行ってもいいんじゃないか? 乳製品が作れるようになるのは嬉しいしな」
俺はそう言って牛の親子を歓迎する。
俺達に、ニワトリに次ぐ人間以外の仲間が増えたのだった。
【異世界生活 115日目 20:00】
「みんな遅かったわね」
鈴さんが拠点でお腹を空かせて待っていた。
その後、俺達は小麦畑まで戻り、刈り取った小麦を回収し、臨時拠点に向かって帰路に着く。
周りは真っ暗なので、真望の炎の魔法で明かりを出してもらい続けながら、くらい夜道を牛の歩調に合わせてゆっくり帰った。
「というか、その牛何?」
事情を知らない鈴さんが琉生の後ろに立っていた牛の親子を見て驚く。
俺達は鈴さんに事情を説明した後、琉生は臨時拠点の隅に生えた木の下に枯草を集めての牛の住処を作る。俺は遅くなった夕食を作る。
真望は色々あり過ぎて、たき火のまわりでぐったりしている。
「なんか色々あったわね」
真望が夕食を食べながら改めてそう言い、ため息を吐く。
まあ、色々あったが、牛乳が搾れるようになったのは大きいだろう。
「これで、牛乳も飲めるし、バターやチーズとかも作れるかもね。まあ、1匹だけだし、量はたかが知れているけどね」
琉生は嬉しそうにそう言う。牛乳もそうだが、新しい仲間ができたことが嬉しいのだろう。
その後、遅くなりつつも、就寝し、明日の作業に支障が出ないようにしっかり睡眠をとる。
【異世界生活 116日目】
次の日は、トウモロコシ畑で収穫し残したトウモロコシを収穫。
そして、その後、「近くで野菜も採って帰りたい」と探索をした琉生がトウモロコシ畑のそばでさらに仲間、ニワトリを4匹捕まえ、新しい仲間6匹と一緒に、たくさんの小麦とトウモロコシを鈴さんが召喚した荷牛に積んで拠点に帰るのだった。
次話に続く。