第125話 神様の言い訳とガラス瓶の量産準備
【異世界生活 103日 19:30】
今日の夕食は、さっき仕留めたばかりの巨大なクマの肉をネギやタマネギ、香味野菜と一緒に焼いた焼肉だ。新鮮な肉はなんでも美味い。香味野菜と熊の油の相性もいいし、臭み消しとしていい仕事をしている。
夕食を食べ終え、残った熊肉を干し肉やベーコン、塩漬け冷蔵にする下ごしらえをしていると、あたりが急に明るくなる。
神様だ。やっと起きてくれたのか。
「悪い悪い。人口が少ないと信仰心が足りなくてエネルギー切れ、どうしても寝たきりになりやすいんだよ」
普通のおっさんのような神様がそんな言い訳しながら頭を下げる。
「色々ありすぎて、俺達は混乱気味ですよ」
俺は神様を責めるようにそう言う。みんなも同意するように何度も頷く。
「だから、悪かったって。とりあえず、お祈りポイントは今までの2倍、199999ポイントまで貯められるようにしておいたからな。1日9000ポイントの回復だから20日以上貯めても溢れないぞ」
そう言って神様が何度も頭を下げる。
「それと、あのドラゴンってなんですか? やたら強すぎるし、なにより、人語を話すし、人間を知っているようでしたけど」
俺はもう一つの問題をいきなりぶつける。
「ああ、あれな。なんて言ったらいいか、まあ、この世界に迷い込んだ悪い魂みたいなのが集まってできたというか、魔物の中にそんな魂をもった魔物がいて、魔物同士食らい合ううちに、魂が農集して融合して一つの人格になっちゃったみたいな? で、迷い込んだ魂の断片的な記憶が混ざり合って、死ぬ前の、人間だった記憶を再形成しちゃったみたいな? 魔物同士のレベル上げが食べるという方法っていうのが失敗だったな」
神様が悪びれる様子もなくそう言う。
「つまり、魔物の中には人間の魂が入っているって事?」
明日乃が顔を青くさせてそう言う。
「半分正解だが、半分外れだ。この世界で魔物に生まれ変わる時に魂は浄化されている。だから元人間ではあるけれど、人間ではない。元の世界だって、前世は人間だけど、今は牛とか鳥って魂だっているはずだろ? そんな感じだ。牛肉食べたり、鶏肉食べたりして、元人間の魂を食べちゃったなんて考える奴はいないだろ? そのあたりはあまり気にしなくていいぞ」
神様が明日乃の懸念点を払拭するようにそう説明する。
まあ、仏教とかだと『四つ足を食う』と言って4本足で歩く動物は元人間や人間に近い魂だから食べてはいけないみたいな戒律を守らせていた時代もあったみたいだけどな。ちょっと説得力がない。
「そして浄化しきらなかった魂の破片が捕食によって濃縮されて人格と記憶を得てしまったという解釈でいいのかしら? あのドラゴンは」
麗美さんが神様の言葉を訝しみながらそう言う。
「まあ、そういうことだ。魔物も倒した敵をマナ化して吸収してくれれば、そんな不純物も摂取せずにレベルを上げられるんだけどな。奴らは信仰心ってやつがないから、神っていうものを理解できないし、祈っても神に届かない。だからこんなことになった感じだな。なんかすまない」
神様がそう言ってもう一度謝る。
頭が低い神様もどうかと思うが。
「というか、そんなイレギュラーな存在だったら神様が倒してくれ。って言いたくなるよな」
一角が機嫌悪そうに神様に噛みつく。
「ま、まあそうなんだが、神が直接手を下すには信仰心というエネルギーが無駄に必要になるし、お前達も今は倒せなくても、レベルが上がれば倒せるようになるし、倒せばいい経験値になるし、な? ぶっちゃけ、俺が倒してもいいけど色々無駄が多いし、力を使うとまた俺が寝たきりになりそうだしな」
神様が一角にそう答え何度も頭を下げる。
神様の力が足りない、もしくはもったいなくて使いたくないから俺達に任せる。いつものパターンらしい。
「人語を理解する相手を倒すのはちょっと気が引けるよね」
琉生が嫌そうにそう言う。明日乃も頷く。
「ま、まあ、他の魔物も仲間同士の言語は持っているし、それが前世の記憶から思い出された人語だったくらいの解釈でとしてくれると俺としてはありがたい。あくまでも魂は魔物でドラゴンだ」
神様が苦し気な言い訳をして琉生をなだめる。
「まあ、どっちにしろ、あれを倒さないとダンジョンに入れないし、私達の障害になり続けそうだから私は倒すけどな」
一角が勇ましい事を言ってくれる。
まあ、確かにドラゴンを倒さないと先に進めないのは事実だ。
「まあ、本当にダメそうだったら、俺が出張るけど、できる限りお前達だけで頑張ってくれ。あと、無理して死ぬなよ。神様と言えど、人を生き返らせるのも難しいからな。いま、力が足りないし。まあ、頑張ってくれ」
神様はそう言って逃げるように消えていく。
「逃げたな」
「ああ、逃げたな」
俺と一角が声を合わせてそう言う。
神様が何か隠しているような気もするが、まあ、俺達にどうしようもすることはできないので、流れにまかせるしかないかな。
「まあ、お祈りポイントも倍貯められるようになったしいいんじゃない? 最悪、お祈りポイント20万ポイント貯めて、魔法撃ちまくってドラゴンを倒すっていう方法もとれそうだし」
麗美さんがそう言う。
そうだな。さすがに20万ポイントお祈りポイントがあれば逃げるという選択肢以外もとれる様になるかもしれない。
「まあ、レベル41になって一つ上の魔法が使える方が倒すチャンスは増えそうだけどな」
一角がそう言い、みんな頷く。
とりあえず、みんなでレベル41になることが先かな?
そんな感じで神様と会話し、神様の助力は期待できないことを再確認し、神様が適当で使えない存在な事も再確認できたな。
まあ、神様本人には言えないけど。
そのあと、クマ肉の加工を再開し、加工した肉は氷室に移動させておく。
冷蔵保存できるようになったのは色々ありがたいな。明日ガラス瓶を作ったら、茹で肉も保存食として作っておくのもありかもしれないな。
今日は少し寝るのが遅くなってしまったが、日課のお祈りをし、水浴びなど身支度を済ませ就寝する。
明日も忙しくなりそうだしな。
【異世界生活 104日 8:00】
昨日はクマ肉の加工で寝るのが遅かったので6時に起床、塩水に浸けた熊肉を干して干し肉にする作業をしてから、俺と鈴さんはガラス作りの準備を始める。
ちなみに、今日も一角と麗美さんは南西の魔物の島に魔物減らしの狩りに行き、明日乃はクマの肉でベーコン作り、真望はいつもの麻布づくり、琉生は農作業しつつ、明日乃や琉生の手伝いって感じだ。
とりあえず、俺は眷属のアオと油揚げと一緒に昨日採ってきた石灰石を高温で焼いて生石灰にする作業を午前中する。
鈴さんは眷属のトラとアルと何かをしている。
俺は石灰石を焼く作業の合間に鈴さんに、
「鈴さん、今日は何しているの?」
鈴さんと眷属2人の作業が気になったので聞いてみる。
「うーん、樽づくり? 麗美さんがブドウでワイン作れってうるさいから、樽と桶を作ってる感じ? トウモロコシも乾燥が済んだらウイスキー作るらしいから、燻製のチップを探すときにみつけたオークの木を使って作ってる感じかな? まあ、ワイン樽っていうより日本酒や醤油作る時の樽っぽいけどね」
鈴さんが木材を組み合わせながらそう教えてくれる。
なんか、木の板をつなげて竹でできた枠で固定して作る樽、まさに醤油ができそうな樽を作っている。
鈴さんは元の世界でワインの樽は作ったことがないけど醤油の樽は作ったことがあるらしい。その記憶をもとにそれっぽい樽と桶を作っている。
「眷属達が木材を加工して平らな板を作れるようになったのは大きいね。それを加工して樽っぽく組み立てればいいだけだし、結構何とかなりそうだよ」
鈴さんがそう言って楽しそうに笑う。
木工や金属加工が本当に好きなんだろうな。
そんな感じで、午前中、俺は大量の石灰石を焼いて生石灰を作る作業、鈴さんはそれを監督しつつ、隣で樽と桶作り、琉生も畑仕事が終わり、途中から参加し、珪石を砕いて珪砂にする作業を手伝ってくれた。
【異世界生活 104日 12:00】
作業が一段落したのでお昼ご飯を食べる。お昼も熊肉の脂身が多い部分を食べる。まあ、以前と比べて、燻製を作ることができるようになったし、氷室ができたので塩漬けにして冷所保存という新しい保存方法もできるようになったので、以前ほど焦って脂身の多い部分を食べる必要がなくなったのはありがたい。明日乃曰く、ガラス瓶が量産できたら水煮した肉も瓶詰め食材として保存食にするらしい。
「ガラス瓶といえば、ぶどうジュースも作ろうよ。過熱して密封して冷蔵庫に入れておけば結構持つと思うし、ブドウの収穫時期なんだよね」
琉生が昼食をたべながらそう提案してくる。
琉生曰く、ブドウの収穫時期は6月~10月、種類によってはもう熟しているぶどうもあるそうだ。
「ガラス作りは私と眷属がいればできるし、行ってきてもいいよ」
鈴さんがそう言う。
今の段階ではガラス作りをする道具、空気を送る鉄パイプのようなものが鈴さん一人分しかないし、俺に教えるほど時間の余裕もないらしく、ある程度ガラス瓶の数が揃って鈴さんの作業全般に余裕がでたら俺にも参加させてもらえるそうだ。
「一角と麗美さんが帰ってきたら相談してみるか」
俺は琉生にそう答える。
「麗美さんは喜んで手伝ってくれると思うよ。ワインが作れると思っているみたいだし」
鈴さんがそう言って笑う。
「実際素人がワインなんて作れるのかね?」
俺は気になって聞いてみる。
「まあ、秘書子さんに聞きながら作ればできるんじゃないかな? 最悪、琉生の魔法もあるし、発酵させる菌さんにお願いすればいい感じで発酵してくれると思うよ」
琉生がそう言って笑う。
琉生の土魔法、万能過ぎるだろ?
そんな感じで明日はブドウを採りに行く流れになり昼食は終了。
午後は俺と鈴さん、琉生の3人でガラス作り用の窯を昨日山で作ってきた耐熱煉瓦で作る。つなぎ代わりのセメントは珪砂と生石灰と粘土を混ぜた耐熱セメンントモドキを作って煉瓦の間に塗り煉瓦を積んでいく。
ガラス作りで内側が溶けてしまっても大丈夫なように少し窯の壁が肉厚になるような設計でレンガを積んでいく。
最終的には色々面倒臭くなってしまって、琉生に魔法で煉瓦をつなぎ合わせてもらい切れ目のないコンクリートで作ったような完璧な窯に仕上げてもらう。
ついでに今まで使っていた耐熱煉瓦で作った窯も、中の溶けてしまった部分を琉生の魔法で除去して、新たに珪石で内壁を作り直してもらい新品同様の窯に修理してもらった。
お祈りポイントが余りがちだからできる贅沢だ。
今日は時間もないので、残り時間は珪石を砕いて材料の珪砂を作る作業。前回のガラス作りで使った使い捨ての珪石製の窯を崩して今回のガラス作りの材料にする。
鈴さんは午前中の作業の残り、樽や桶作りを午後の残り時間でしていた。
夕方、一角と麗美さんが帰ってきて、明日乃のベーコン作り、塩漬けして水気を抜く作業を見て、
「ベーコン作りには胡椒が必要だろう」
と騒ぎ出し、残り時間で最初のダンジョンに調味料を取りに行くことになってしまった。
まあ、確かに胡椒があるとベーコンが数倍美味しくなるしな。
ちなみにベーコン作りはその後下味をつけて冷蔵庫に保存、明日燻製して出来上がるらしい。
夕食は、以前、ダンジョンで貰った味噌が氷室に残っていたらしく、それを使って味噌風味のクマ鍋を作った。ネギがクマの脂を良く吸い、臭いも消して本当に美味い。
白菜が欲しくなるが、ないのでキャベツで代用だ。レオとココがシイタケっぽいきのこやエノキやシメジ、マイタケっぽいきのこを取ってきてくれたらしくそれもいい味を出している。
琉生曰く、秋くらいになったらシイタケ栽培も画策しているらしい。ちなみにシイタケの栽培は春と秋、春にきのこの菌を原木に植えると秋に収穫、秋に菌を植えると春に収穫できるらしい。今の時期はちょっと遅いそうで秋を待つのだそうだ。
しいたけは干しシイタケにすると保存もできるし、干しシイタケは出汁が出るのであるとありがたいけどな。
夕食をとりながら、明日の相談をする。
ぶどう狩りの件は、麗美さんが積極的で行くことが決定、一角も麗美さんがいないと魔物狩りに行けないので渋々参加、明日乃も面白そうという行楽気分で参加だ。真望と鈴さんは留守番だそうだ。
とりあえず、秘書子さんに聞いて一番熟してそうな品種があるブドウの自生地を教えてもらう。
明日も早いので、日課のお祈りをして早めに就寝する。明日は朝から北の大地にブドウ探しだ。
次話に続く。




