第124話 石灰石探しと拠点への帰還
【異世界生活 101日 7:00】
「それじゃあ、行くか」
俺はそう言って立ち上がる。
今日は午前中、山を登り、石灰石が採れる崖、断層があるらしいのでそれを見つけて石灰石を掘る作業だ。
まあ、アドバイザー女神様の秘書子さんがマップにマークしてくれているし、そこに行くまでのルートは分かっているのでそれに従って山道を歩くだけだけどな。
「アオ達は荷物の番を頼むぞ」
一角が自分の眷属のアオにそう声をかけ、眷属達が頷く。
大工道具や調理用に持ってきた土器など、結構大荷物なので、今日は臨時拠点に要らない荷物は置いていき、眷属達に留守番をさせる。山登りに無駄な荷物は邪魔だしな。
俺達は最低限の飲み水と非常食、護身用の武器だけ持って臨時拠点の裏、東の方向にある山を登る。
まあ、その前に、散々木材探しで歩き回った森を横断しなくてはいけないんだが。
森は20分ほど歩けば抜けられるくらいの小さな森で、森を抜けると目の前にはあまり植物が育たなそうな荒れた山道が広がる。岩山というほどではないが、栄養が少なそうな土壌に背の低い藪がちらほらと見える、そんな山道だ。
傾斜も結構あるその山道を俺、一角、麗美さん、鈴さんの四人で登っていく。
「こんな坂、牛の霊獣を召喚して下りられるのか?」
一角が坂を上りながらそう言う。
「そうだね、山を下りるまでは多めに霊獣を召喚して荷物を少しずつ積んだ方がいいかもね。荷物ごと坂から転げ落ちたなんてことになったら大惨事だし」
鈴さんが冷静にそう答える。
まあ、霊獣だし、坂から落ちたら消えるだけだろうけど、見栄えが悪いし無理させたらいけないな。
そんな二人の会話を聞きながら黙々と山道を登っていく。
というより、周りの風景が殺風景すぎて会話も続かないのだ。しかも地味に傾斜が急で疲労が足に来る。そのうえ、休憩するかしないか悩むくらいの微妙な疲労が襲ってくる。「ちょっと休むか?」の言葉を言うか言わないか迷いながら黙々と上り、結局、1時間歩きっぱなしで目的地に着いてしまった。
「なんか微妙に辛い山登りだったな」
「ああ」
一角もそう思っていたらしい。
というか、休憩と言ったら、一角に馬鹿にされそうな微妙な傾斜だったから休憩を言い出せなかったのだ。こんなことなら半分くらい登ったところで休憩すればよかった。なんか良く分からないが悔しい気持ちになる。
とりあえず、目的地で休憩する。手ごろな岩に座り、竹の水筒に入った水を飲む。
そしてあたりを見渡すと確かに断層があって地層の中に大きな白い地層があった。
「多分、古代に海底に堆積したサンゴや貝の死骸が堆積して、それが地震とかで隆起して地上に出てきた感じかな?」
鈴さんが同じ地層を見てそう言う。
まあ、俺達がこの世界に来る前に神様が一生懸命それっぽく作っただけかもしれないけどな。
トウモロコシ畑や小麦畑があからさま過ぎたせいか、俺はそんな疑いの気持ちを持ってしまう。
まあ、それっぽくできているので、あえて突っ込むのは止めておこう。本当にこの世界を何億年もかけて作ったのかもしれないしな。時間の流れとかを調整して。
そんな感じで、目的の石灰石らしき地層を観察しながら少し休憩し、落ち着いたところで石灰石を掘りだす作業を始める。
とりあえず、道具がないので、俺と一角、麗美さんの変幻自在の武器をそれぞれつるはしのように変化させて白い岩を削りだしていく。
一応鑑定スキルで鑑定すると石灰石と表示されるので大丈夫だろう。
変幻自在の武器がない鈴さんは掘りだされた石灰石を麻布のリュックにつめたり、拠点から持ってきている背負子に乗せたりする。
途中、鈴さんも交代しながら石灰石の掘りだしと回収を続け、リュック4つ分と、背負子4つ分、一つにだいたい20kgくらい積んでいるので全部で160kg近い。
休憩しながら2時間。これ以上続けると、帰りが遅くなってしまうし、さすがにこれだけあれば当分は使い切ることもないだろう。俺は鈴さんに相談して作業を切り上げる。つるはしで石灰石をひたすら叩いて結構みんなへとへとだしな。
少し休憩してから、鈴さんが荷牛の霊獣を2体出して、リュックサック4つを2体の牛に分けて積む。
荷牛の霊獣自体、1体で100kg近い荷物を運べるらしいのだが、さすがに急な坂道を帰るので無理しないように1体40キロに抑えているらしい。
そんな感じで、各自20キロの背負子に乗せた石灰石を背負って朝登って来た山道を注意しながらゆっくり帰る。途中休憩しながら帰り、臨時拠点に戻るころにはお昼を過ぎていた。
【異世界生活 101日 12:30】
「とりあえず、お昼ご飯にしよう」
俺はそう言って臨時拠点で背負子を下ろすと、お昼ご飯を作り始める。残った野菜とイノシシの干し肉をお湯で戻した野菜スープと野菜炒めの中間みたいなスープ少なめな肉野菜塩スープを作りみんなで食べる。
休憩しながら、昼食を食べ終わり、13時30には臨時拠点を出発する。大工道具や鍋代わりの土器、残った食料や干し肉など荷物全般は眷属達に任せ、俺達は背負子を背負って石灰石を持ち帰る。
鈴さんも、霊獣の荷牛を出し直し、今度は1体にリュック4袋、80kg背負わせて帰路に着く。みんな大荷物だ。
拠点から30分ほど歩くと、白い橋のたもとに着き、さらに30分歩くと、琉生が作った橋のある川が見えてくる。
「結構立派な橋だな」
俺は予想以上にしっかり作られた石製の橋に感動する。
「魔法で出した橋だからね。ほぼコンクリートで作ったくらい精密に丈夫にできているよ。まあ、鉄筋は入ってないからまさに石橋って感じかな?」
鈴さんが少し自慢げに橋を紹介する。
少し谷のようになった川を跨ぐように作られた石の橋。みんなで乗っても壊れないくらい丈夫にできていそうだが、今日は石灰石や荷物満載で橋を渡るので少し分かれて渡る。
みんなで一斉にわたって全員川に落ちたなんてなったら笑い話にもならなそうだしな。
しかも荷牛は80キロの石灰石を背負っているし。
とりあえず、俺と麗美さんが先に渡り、橋の先の安全確保をし、次に鈴さんと荷牛。最後に眷属達としんがりの一角が橋を渡って全員が渡り切る。
揺れ一つない完璧な石橋だ。ぶっちゃけ全員で渡っても良かったかもしれない。
橋を渡ったところからさらに東へ1時間半ほど歩くともう一つの白い橋、南の魔物の島へつながる橋が見えてくる。
白い橋を右手に見ながらさらに30分東に歩き、拠点の西に流れる川に到着する。
ここからいかだでの渡河になるのだが、いかだは基本3人乗りで200キロ越えると浮力が不安になる。
とりあえず、俺と一角、麗美さんと鈴さんで石灰石を60kgずつ向こう岸にピストン輸送する。
とりあえず、最初に眷属4人を渡河させて、荷物を拠点に持ち帰らせる。
その後西の岸にもう一度渡り、石灰石を60kgずつ積んで川を渡り、渡河した石灰石は荷物を置いて戻ってきた眷属達が拠点まで運んでくれる。
作業の合間をぬって琉生と真望も手伝いに来てくれて石灰石を拠点までお願いする。
最後に俺と一角がもう一度川を渡り、残りの40kgをいかだに積んで、川を渡り、そのまま背負子を担いで拠点に帰る。
拠点に着くと、時間は18時過ぎ。あたりは暗くなってしまった。
とりあえず、石灰石は鍛冶工房に一時保管し、明日乃が準備してくれていた夕食を食べる。
「りゅう君、みんな、おかえり。凄い荷物だったね」
明日乃が夕食を配りながらそう声をかける。
「ああ、200kg近い石灰石と大工道具、それとイノシシの肉と毛皮。かなりの量だったな」
一角が疲れでぐったりとうなだれる。
「イノシシも獲れたんだね。それと、今、レオとココちゃんにお風呂を沸かしてもらってるから、ご飯食べ終わったら、交代で入ってゆっくりしてね」
明日乃が俺達をねぎらう様にそう言う。
まあ、イノシシの肉は臨時拠点を作っている間に眷属達と一緒に結構食べてしまって残り少ないけどな。
「明日乃は気が利くな。ちょうど帰ってきたらお風呂を沸かしてもらう様お願いしようと思ってたんだ。臨時拠点では家づくりが忙しくてろくに水浴びもできなかったからな」
俺はそう言って笑う。
疲労と体の汚れで、今日の風呂は本当にありがたい。
「服も洗ってないんでしょ? 持っていった着替えと一緒に出しておいてね。明日洗っておくから」
明日乃が少しあきれ顔でそう言う。なんかお袋みたいだな。
そんな感じで、夕食を食べながら臨時拠点完成の報告と石灰石の話や今後の活用方法などいろいろ情報交換し、夕食後は交代でお風呂に入る。熱いお湯が本当に心地よいな。
そしてそのまま、日課のお祈りだけして、疲れに任せてツリーハウスのベッドで寝てしまう。
ただし、明日乃が長い期間離れ離れでよほど寂しかったのか、抱き着かれて、色々話も聞かされて、なかなか離れず寝かせてもらえなかった。
俺としても久しぶりに明日乃にあえて、なんかやっと日常に戻れた気がしてそのあとは安心して寝られた気がする。
【異世界生活 102日 6:00】
今朝は、昨日お風呂に入ったりして寝るのが少し遅くなったのと、疲れで爆睡してしまったので、遅めの起床、6時に起きて朝食を食べ始める。
今日はみんな疲れが残っていそうなので、少しゆっくりして、軽い作業だけにする。
ただし、一角が調味料、調味料とうるさいので、午後に1つ目のダンジョンに行って5階のボスを倒し、クリア褒賞の調味料を貰う。
当初の予定では5階だけ攻略する予定だったが、拠点の干し肉がだいぶ減ってしまったようで微妙に肉不足になりそうと明日乃に言われ、ついでに下層でワーラビットを倒し、ウサギ肉も確保した。おまけで人参とキャベツのドロップも。
そんな軽く作業と初級ダンジョン攻略をするだけのゆったりした1日を過ごした。
【異世界生活 103日 6:00】
「それじゃあ、行ってくる」
一角がそう言い、麗美さんと出かける。
二人は南西の魔物の島に魔物狩りに行く。
「じゃあ、俺達も行くか」
俺と鈴さん、そして琉生の3人は、ガラス瓶を量産するために珪石を取りに行く。
「みんな、気を付けてね」
明日乃がそう言って手を振る。明日乃と真望、そして眷属達は留守番だ。
「ねえ、鈴さん、眷属達も連れてくればよかったんじゃないか? 石を切り出すのにも、拠点に持ち帰るのにも役立つだろ?」
俺は珪石が採れる西の山に向かう為に、西にある川沿いに歩きながらそう聞く。
「ああ、眷属達には他にやって欲しい事があったし、運ぶだけなら、私の荷牛の霊獣を召喚すればいいだけだしね」
鈴さんがそう答えてくれる。
ただ、3人だけで来たので、背中に背負っているのは背負子に竹製の背負い籠を2つ乗せて、籠の中には2枚、麻製のリュックと大量の荒縄が入っているという訳の分からない荷物だ。
まあ、背負子以外は荷牛の背中にくくって珪石を運ぼうという魂胆だろうけど、竹籠2個ずつ背負う姿はなかなかシュールだ。
そんな感じで、1時間かけて山の麓まで移動、その後2時間以上、休憩しながらかなり傾斜のある山道を登り、珪石のとれる崖に到着する。
【異世界生活 103日 9:30】
「少し休憩してから、珪石を掘ろう」
俺はそう言って、手ごろな岩に座る。
「流司、休憩している間、流司の変幻自在の武器を寝かせておくのはもったいないから、30分だけ借りるよ」
鈴さんはそう言って先に30分だけ、珪石を掘る作業をするようだ。
俺は鈴さんに変幻自在の武器を渡し、鈴さんはそれをつるはしに変化させ珪石のとれる白い崖を崩す作業を始める。
地面にも珪石の破片が多少は落ちているのだが、何度か珪石を取りに来て、地面に落ちているものから拾ったり、耐熱煉瓦の材料にしたりしてしまったので、拾って帰れそうなめぼしい珪石は少ない。
30分休憩して、落ち着いてから、俺と琉生も立ち上がる。
「鈴さん、そろそろ代わるよ。鈴さんは歩きっぱなしだったし、ちょっと休憩して」
俺はそう言って鈴さんからつるはしを受け取る。
「というか、私が魔法で耐熱煉瓦どんどん作っちゃった方が早いんじゃないかな? ガラス作り用の使い捨ての窯を何度も作るより、ガラス作り用の窯を新たに作って毎回、窯の中の溶けた部分を琉生が直した方が面倒臭くないんじゃない?」
琉生がぼそっとそう言う。まあ、一理あるな。
前回ガラスを作った窯は使い捨ての珪石を積んで粘土で穴を埋めただけの簡易窯だったので、今回改めて窯を作り直し、前回の窯は解体して、ガラスの原料にする予定らしい。
それを繰り返すのは確かに面倒臭いな。
「でも、それって魔法でできるのか?」
俺は気になって琉生に聞いてみる。
「多分できるんじゃないかな? 内側の溶けちゃった部分を魔法で削りだして、新しい珪石で削った部分を補充する。この世界、魔法はイメージみたいだから、多分、私ができると思えるならできるんじゃないかな?」
琉生は俺にそう答える。
「り、流司! お祈りポイント使ってもいいかな?」
鈴さんが興奮しがちにそう言う。
「実は、今日のお祈りで99999ポイント満タンになっちゃう感じだったんだよ。だから、今日は使っちゃってもいいんじゃないかな? 窯を1個作るくらいの耐熱煉瓦の量なら半分も使わないでしょ?」
俺は鈴さんにそう答える。
そろそろ神様に起きてもらってお祈りポイントの上限上げないとお祈りポイントが無駄になる日がきてしまいそうだ。
「じゃ、じゃあ。琉生、レンガを200個お願い。運ぶのは私の荷牛の霊獣でなんとかするから」
鈴さんがそう言って琉生にお願いしてから休憩に入る。
そんな感じで琉生は珪石のとれる崖から直接耐熱煉瓦を魔法で作る作業をする。
白い崖がきらきらと光り出して、琉生の足元に四角い煉瓦が現れる。1回の魔法で5個。なので40回魔法を唱えてお祈りポイント40000ポイント消費する。
それでもお祈りポイントは54050ポイント。5日あればまた溢れてしまう。
俺は俺でつるはしを使い珪石を掘りだす作業をする。さすがに今日は煉瓦で荷物がいっぱいで持ち帰れなそうだが次回以降必要だと思うので、掘り出しておく。
鈴さんは琉生が魔法で出したレンガを背負子や竹製の背負い籠、麻布製のリュックサックに詰めていく。
最後には入れる鞄もなくなってしまったようで、琉生に煉瓦ではなく板のような煉瓦を作らせてその上に煉瓦を積み、荒縄で縛りだす。
鈴さん、荷牛の霊獣を出せるだけ出して耐熱煉瓦を持ち帰る気満々のようだ。
そんな感じで鈴さんが苦労しながらなんとか耐熱煉瓦全てを運べるように荷造りし、荷牛の霊獣を2体召喚し、耐熱煉瓦を背中に積んでいく。
一応俺達も20キロ近い量のレンガや珪石を運び、150キロ近い珪石を山から運び出す。
牛が転ばないようにゆっくり帰り道を帰る。霊獣が途中で消えないように鈴さんも多めにマナを込めたようだ。
そんな感じで山道をゆっくり下り、途中昼食のお弁当を食べて休憩、その後も適宜休憩をしながら山を下りると、アドバイザー女神様の秘書子さんが突然、
「みなさん、クマが近くにいます。気を付けてください」
秘書子さんがそう教えてくれる。
俺は慌てて背負っていた珪石満載の背負子を下ろし、変幻自在の武器をやりに変化させる。
琉生や鈴さんも慌てて背負子を下ろし、護身用に持ってきた青銅の槍を構え、周りを警戒する。
見渡すと進行方向の左手、岩の影からのっそりと巨大なクマが現れる。
レッサーベアじゃない、強い方のクマ、グレーターベアか。たまに会うレッサーベアより数倍、いや10倍デカい。
テレビで見たヒグマやグリズリーを思わせるような巨大なクマと俺の目が合ってしまう。
「強い方の熊は久しぶりだね」
何故か琉生がワクワクしている。
食べる気満々なのかもしれない。まあ、拠点も肉不足気味だったのでちょうどいい。
「というか、前もここらへんでグレーターベアと戦ったよね?」
鈴さんが思い出したようにそう言う。
そういえば2カ月前に耐熱煉瓦を作りにこの山を登った時も帰り道、ちょうどこの辺でクマに襲われたんだったな。
「お祈りポイントも結構余ってるし、魔法を使うぞ。琉生は荷牛の護衛を。鈴さんは雷魔法でグレーターベアの足止めを。前回の戦いを覚えてるよね?」
俺はそう言い、鈴さんが頷く。一応の為、獣化義装、マナで作った着ぐるみのような全身鎧を身に纏う。そして一応鑑定。
なまえ グレーターベア(オス)
レベル 30
クマでも強い方。大型のクマ。
力がとても強く、足も速い。
固い毛皮に覆われ防御力は高く並みの武器では刃も通らない。
意外と手先が器用で木を登ることもできる。
「このクマ、レベル30だぞ。今までで最強のクマだな。オスだとこんなにデカいのか」
俺はみんなに聞こえるようにそう言う。
前回同じような場所であったグレーターベアはレベル25のメスで今日のクマよりふた回りくらい小さかった記憶がある。
「全長250センチ、体重400キロの巨大なオスのクマです」
秘書子さんが親切に詳細情報もくれる。
明らかに人が相手にできる大きさの生き物じゃない。
ただし、普通の人間ならだ。
残念ながら俺達は異世界ルールの良く分からないステータスという仕組で強化されている。しかもレベルはこのクマより10高いレベル40だ。
まあ、裸の状態で殴られたら、さすがにクリティカルヒット的なダメージで即死もしくはHPが1になりそうだが、素早さで避ける自信もあるし、獣化義装というダメージを肩代わりしてくれるスキルもある。勝てない相手ではない。
まあ前回は確か俺達のレベルが21でクマはレベル25、かなりの格上の敵。全員で戦って補助魔法も盛り盛りで雷魔法を使って動きを止めて何とか勝てたって感じだったが。
「流司お兄ちゃん、内臓傷つけちゃダメだからね。食べられるところが減っちゃう」
琉生もレベルが上がって余裕があるのだろう。そんな無茶な要求をしてくる。
まあ、魔法を使えば十分対応できそうだが。
「そうなると『雷の壁』もやめた方がいいかな? ちょっと焦げちゃうし」
鈴さんが俺をからかうようにそう言う。
「クマが突進してきて鈴さんや琉生が危なそうだったら『雷の壁』も使って。とりあえず、安全に対応できそうだったら、頭にめがけて 『雷矢の連撃』で痺れさせて、俺の『闇弾の連撃』でクマの首をはねる感じかな?」
俺はそう言って槍を構えつつ、いつでも魔法を使えるように準備する。
「ああ、頭だけなら焦げても大丈夫そうだし、それでいこう。近接して雷食らわすから、クマが動けなくなったら、流司、魔法で仕留めて」
そう言って鈴さんも獣化義装を纏う。熊のようなマナでできた着ぐるみを纏った鎧だ。
巨大なクマと人の大きさの小さなクマ。なかなかシュールな対決だ。
そして駆け出す鈴さん。俺はその後を追う。
うん、鈴さんのステータスってSTRとVIT特化だから、AGIが低いのか。今後の戦闘で気をつけないとな。
俺がAGI特化なので、もたつきを感じつつも鈴さんを追う。
そして、グレーターベアも俺達の動きに反応し、一直線に駆け出してくる。四つん這いで400キロの巨体が猛スピードで突っ込んでくるのだ。見かけはトラックが突っ込んでくるくらいの怖さがある。
「この距離なら必中かな? 流司いくよ。精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力としたまえ。『雷矢の連撃』!!」
鈴さんがクマと近接したところで雷の矢の5連弾を熊の顔面にめがけて放つ。
バリバリと火花を放つ電気のような音がして、鈴さんの手から、矢継ぎ早に5本の雷の矢が放たれる。
「ドドン、ドドン」
雷が落ちるような大きな音がしてクマの顔面に全弾命中。熊の顔面が焼き焦げ、バリバリと電気が流れ、クマが痛みとしびれで歩みが止まり、後ろ足2本で立ち上がり、顔を押さえながら大きな声で吠え、痙攣し、ふらつく。
俺はそれに合わせて魔法を詠唱する。
「聖霊よ、神の力を借りて魔法の力とせよ。『闇弾の連撃』!」
そう魔法を詠唱すると手の中に黒い球体が現れる。
小さいブラックホールっぽい何からしい。何か良く分からないが。
俺はそれを5発、連続で放ち、クマの首の右の頸動脈あたりから少しずつ左にずらして左の頸動脈まで、その黒い球体を首に5発当てる。
熊の首が毛皮ごと、黒い球体に浸食され、丸く穴が5つ空き、そのあと、穴から大量の血をまき散らす。
「致命傷だけど、即死ではないか。鈴さん、下がって。あとは俺がやる」
俺はそう叫び、そのまま、全速力で疾走。変幻自在の武器を両刃の巨大な斧に変化させつつ走り続ける。クマは立ち上がり、頭までの高さが3メートル近く、その巨大なクマの首をめがけて、ダンクシュートでもするように助走をつけてジャンプ、そのまま上半身をひねり、斧を横に構えると、思い切り斧を振るい、魔法で開けた5つの穴に巨大な斧を叩き込む。
斧はクマの太くて強固な頚椎に阻まれ、首を刎ねることはできなかったがクマの首が変な方向に曲がり、俺が飛び掛かった勢いで後ろによろける。
俺はそれに合わせて、斧を振り抜き、クマを押し倒す。
「ドシン」
と大きな音をたて、尻もちをつき、そのまま地面に大の字に横たわる巨大なクマ。
さすがに致命傷のうえに起き上がれないくらいの傷を与えた。
俺は少し下がりクマの様子をうかがう。
抵抗するように四肢をばたつかせるが、もう意識もほとんどなさそうだ。
俺は警戒しながらクマに近づき、斧を大きく振り上げると、先ほどつけた巨大な首の傷にもう1撃。そしてもう一度振り上げ、頚椎を完全に切断する。
さすがにもう動けないだろう。
「やったね。流司お兄ちゃん。完璧だよ。内臓も傷ついてないし、お肉いっぱい取れるね」
琉生がそう言って嬉しそうに駆け寄ってくる。
そして、動かないことを確認すると俺から変幻自在の武器を奪い、槍のような形にすると、心臓を一突き、血抜きを始める。
「こりゃ、肉が取れても運べないぞ。真望に眷属の半分連れてこさせて運ばせないとな。肉を入れる土器とか持ってこさせよう」
俺は思いついたようにそう言う。
「土器を持ってきてもらうならお水も持ってきてもらってね。解体した肉を洗いたいから」
琉生がクマの血抜きをしながら俺にそう言う。
とりあえず、俺は魔法通信を使って真望に連絡する。
真望が眷属4人、アオ、トラ、アル、あぶらあげを連れて、最近使ってないヤシの葉っぱで作ったリュックや土器を持てるだけ持って駆けつけてくれることになった。
俺はその後、琉生を手伝い、巨大なクマを解体する。
2時間ほどして、眷属を連れた真望が合流。持ってきてくれた水で肉を洗い流しながら軽く塩漬けし、空になった土器やヤシの葉っぱのリュックに肉を詰め、眷属や真望たちに持たせ、クマの骨や臓物など要らない部分を神に祈り、マナに還し経験値化する。
そして、待たせていた荷牛の霊獣と一緒にみんなで山を下りる。
【異世界生活 103日 18:00】
「りゅう君、みんな、おかえり。クマを仕留めたんだって?」
明日乃が嬉しそうに迎えてくれる。
魔物狩りに行っていた一角や麗美さんも帰ってきているようだ。
「ただいま、明日乃。凄く巨大なクマだったぞ。全長2.5メートル、体重は400キロ越え、取れた肉も100キロ近いぞ」
俺は、秘書子さんに聞いたクマのデータをそのまま伝えると、明日乃がびっくりする。
「100キロのお肉は凄いね。とうぶん、お肉には困らなそうだよ」
明日乃が少し引き気味にそう言い笑う。
眷属達がどんどん、クマの肉の入った土器やリュックを下ろしていくので、明日乃がさらにドン引きする。
「一角、お前も干し肉作りの下ごしらえ手伝えよ」
俺はそう言って、たき火のまわりでまったりしていた一角に声をかけ、麗美さんにも協力をお願いする。
「私は珪石を運ぶ手伝いをするから肉の処理は流司と琉生にまかせるぞ」
一角がそう言って逃げるように俺が地面においた背負子を背負い、資材置き場の方に逃げていく。
まあ、適材適所だろう。珪石や耐熱煉瓦の移動は鈴さんと一角、眷属達に任せて、俺と真望、麗美さんで干し肉にする下ごしらえを始める。
真望も手伝いに加わるが、真望は干し肉作りというより、脂身を切り取る作業、クマの油作りの準備に夢中なようだ。
そんな感じで、クマ肉をスライスして塩水に浸ける作業、明日乃は夕食作りをしながら慌ただしい1日が終わりを迎える。
次話に続く。