第122話 魔物を狩ったり橋を作ったり
【異世界生活 96日 7:00】
「よし、流司、魔物狩りに行くぞ。そろそろ、ダンジョン争奪戦も終わって、争奪戦に負けた魔物が橋に集まりだすころだろうしな」
朝食を食べ終わり、少し木材加工の作業をしてから一角にそう提案される。
「しょうがないな。アオ、トラ、アル、あぶらあげ。材木作りの作業頼むぞ」
俺はそう言って、眷属達に家の材料作りを任せ、一角と南西の島に魔物狩りに向かう。
臨時拠点は南西の島に続く白い橋からさらに30分ほど北に歩いたところにあるので、30分ほど海岸沿いに南に戻る感じになる。
遠征で荷物が多く、一角は鎧を諦め、鎖帷子しか着てこなかったらしいが、俺の場合、戦うことも想定していなかったので鎖帷子すら着ていない。装備と言えば、毛皮の服と皮の靴、皮の手袋だけだ。
「こんな格好で魔物狩りして大丈夫か?」
俺は歩きながら少し心配になって一角に聞く。
「大丈夫だろ? 白い橋の結界の中から槍で突く感じで戦えば。それに、麗美さんが置いていってくれたクロスボウもあるし、最悪、距離をとってクロスボウでひたすら遠距離攻撃って方法もあるしな」
一角はけろっとした顔でそう言う。
まあ、緊急事態、例えば槍を掴まれて奪われたみたいなことが起きても、変幻自在の武器は呼べば手元に転送されるので結界から出る必要もないのだ。なんとかなるか。
そんな感じで周りを警戒しつつ、30分ほど歩いて白い橋の入り口に到着。そこからさらに30分、白い橋を渡ると予定通り、魔物が結界を壊そうと、結界に攻撃を続けている。
「こいつらがオークか」
俺は魔物の姿を見てそう呟く。
まさに豚人間って感じだ。頭は豚で体は人間のように二足歩行だが、ブクブクに太ったまさに豚っぽい体をしている。身長は俺と同じぐらいか若干低いくらい。少し前屈みで姿勢が悪いので実際の身長は分からないが。
そんなやつらが30体ほど、豚の鳴き声や叫び声のようなものを上げて武器を振り回している。武器は粗悪な青銅の槍、防具は皮鎧、平均レベル25らしい安っぽい装備だ。
「じゃあ、そろそろ始めるぞ、流司」
一角がそう言って右端のオークの方に駆け出す。そして一角の持っていた変幻自在の武器が薙刀のような武器に変化する
それを見た俺は反対の左端に向かって走り出す。
オークが狂ったように粗悪な青銅の槍を突き立てるが、白い橋の結界によって阻まれる。逆に俺達は攻撃し放題だ。
俺は変幻自在の武器を薙刀のような長柄の武器に変え、まずは短めに持って、オークの粗悪な槍の木の柄を薙ぎ、へし折り、そのままオークの腹を薙刀で突き刺し、引き抜き、オークが前のめりに膝をついたところで、頸動脈を一閃。オークにとどめを刺す。
オークは鈍重で動きが遅いようで、素早さ重視の俺とは相性がよさそうだ。攻撃は重いが、武器の動きが止まったところで武器を破壊、そのまま、体の当てやすい部位に一閃食らわせ、最後に急所にとどめをさす。
肉が厚く、長柄の武器持ちなので、一撃では仕留められないが、落ち着いて戦えば負けるような相手ではなさそうだ。オーク同士の連携もワーウルフより良くないようだしな。
そんな感じで俺と一角は端から1体ずつオークを倒していき、半数の15匹程度倒したところでオークが怯みだし、逃げ出す。
「流司、クロスボウで追い打ちをかけろ」
一角がそう言い、背中から弓を下ろすと矢をつがえ構える。
俺も慌てて、クロスボウの弦を張り、矢を装填、オークの後頭部を狙い、頭と首のつなぎ目あたりに矢が刺さりオークが首を押さえながら膝をつく。
致命傷か分からないのでもう1本、クロスボウに矢を装填し矢を放ち、背中の心臓の位置あたりに矢が刺さる。うーん、皮鎧を着ている上にオークの厚い皮下脂肪で致命傷なのかもわからない。
一角も悩んでいるのか、1体のオークに3本目の矢を放つ。
そして、視界から死体以外のオークが消えて、逃げる途中で矢を受けて動けなくなったオークが2体。
とりあえず、神様にお祈りをして、魔物の死骸をマナに還し、経験値化、その2体は消えなかった。
「オークはなかなか死なないんだよ。皮下脂肪が厚すぎて矢が通らない」
一角が面倒臭そうにそう言い、もう1発矢を放つ。
俺も地面に落ちているオークが使っていた粗悪な青銅の槍を拾うと、もう1体の死にかけたオークに投げつける。これはさすがに致命傷だろう。背中から深々と槍が刺さる。
「矢のダメージだと致命傷かもわからないな」
俺は一角にそう言って呆れ顔をする。
一角も地面に落ちている槍を拾うとオークに投げつけ、首のあたりに刺さる。これは致命傷だろう。
「あんまり近づくなよ。死に際に魔法使うかもしれないからな」
俺はそう言って、一角を止めると、神様にもう一度お祈りをしてみる。
今度は残りの2体もマナに還り光になって消えていく。
地面に落ちた矢を拾い、もう一度神様に祈って、地面に残ったオークたちの武器や防具もマナに還す。
武器や防具はマナに還しても経験値にはならないが、オークたちに再利用されても困るので処分してしまう。
「なんか、面倒臭い魔物だな」
俺は一角に戦闘の感想をもらす。
「そうだな。のろまで武器は当てやすいんだが、とにかくしぶとい。贅肉だらけで肉に阻まれて剣や槍も止まるしな。致命傷を与えるまでがとにかく面倒臭い。弓矢で仕留めるなら数撃つ必要があるな。しかも経験値効率はそれほど良くない」
一角も面倒臭そうな顔でそう言う。
「まあ、この島のダンジョンが利用できるようになるくらいまで魔物の数を減るまでの辛抱だな。ダンジョンに入れればまた経験値効率が上がってレベルも上がるだろうし」
俺はそう言ってやる気の下がった一角を励ます。
「はああ、あのドラゴンさえ来なければもう少し楽にレベルが上げられたんだけどな」
一角が大きくため息を吐きながら愚痴をこぼす。
そんな感じで、白い橋を戻り拠点に帰る。3時間ちょっとくらいか。臨時拠点から往復して魔物を倒すと。俺はステータスウインドウの時計を確認する。
【異世界生活 96日 10:30】
俺と一角が拠点に帰ると、拠点のそばにイノシシの死骸が転がっていた。
「これどうしたんだ?」
一角が自分の眷属のアオに聞く。
「襲ってきたから倒した」
アオが言葉少なげに一角に答える。
「アオ、凄いじゃないか」
一角はそう言って嬉しそうにアオをわしゃわしゃと撫でる。
「みんなで倒した」
アオは少し恥ずかしそうにそう答え、照れる。
俺の眷属、レオもこれくらい素直だといいんだけどな。
俺は二人の仲の良さをうらやましがりつつも、予定外の食料が手に入り嬉しくなる。
「一角、解体するぞ。干し肉にする塩は持ってきたか?」
俺は気分が良くなり一角にそう声をかける。
「もちろん持ってきた。塩は必需品だからな」
一角も嬉しそうにそう答えるが、俺はあることに気づく。
「肉を干す籠がないな」
俺は肩を落とす。
「まあ、荒縄は大量に持ってきたし、板を作る時に出た木の端切れがあるだろ? あれを細く加工すれば作れるだろ?」
一角がそう言い、さっそく解体を始める。
イノシシを解体して、赤身を塩水に浸けたところで、昼食の時間になり、干し肉にならない脂身の多い部分を串焼きにして食べる。
昼食後は、一角発案通り、板を作る際に出た端切れを竹串状に切り出していき、それを2本の荒縄に突き刺しすだれ状の物を作る。
そのすだれを6面体のように組むと、一夜干し籠の出来上がり、中に3段ほど、肉を干すためのすだれを入れて完成だ。
籠ができるころには塩水に浸けた肉もいい感じなので、塩水からとり出し、かごに入れて干していく。
塩水を作る為に水も土器もつかってしまったから、また水を汲みにいかないとな。
「一角、水を汲みにいくぞ。あと、イノシシの毛皮も洗っておきたいし」
俺はそう言って一角を誘い、臨時拠点の奥、森の奥にある小さな湧き水のところまで行き、土器を洗い、水を汲み、イノシシの毛皮を洗う。
運よく、湧き水の近くにしゃぼん草があったのでそれをつぶして石鹸代わりにして毛皮を洗った。
「ついでに一角、水浴びするか?」
俺が雰囲気でそう言うと、
「おい、流司、私で浮気とはいい根性だな。明日乃に言いつけるぞ」
一角がジト目で俺を睨みながらそう言う。
「いやいや、そんなつもりじゃなかったし、第一、普段俺は一角を女として見てないしな」
俺は慌てて言い訳をする。実際、言われるまで一角の裸を見るのを目的で声をかけたつもりは爪の先ほどもなかったのは事実だ。
「そうか、流司には私が女に見えないんだな」
一角が少し寂しそうにそう言うと、服を脱ぎだして、水浴びを始める。
「おい、こら、言葉のあやというか、なんというか、だからって、いきなり脱ぐな」
俺は慌てて背中を向ける。背中を向ける前に立派な双丘は見えてしまったけどな。
「女に見えてないんだろ?」
一角が意地悪そうな声でそう言い、背中の方から水音がする。
完全にからかわれたことに気づく俺。なんかくやしいな。
そんな感じで一角が水浴びを終えるのを待ち、着替え終わったあと、水の入った土器を二つ持ち、洗って濡れた毛皮を物干しざお代わりに槍を使って干しながら臨時拠点に2人で帰る。さすがにあの雰囲気で俺まで水浴びする気にはなれなかったしな。
まあ、俺をからかって満足したのか一角の機嫌が直ってよかったよ。
【異世界生活 96日 17:30】
「もう、流司、一角、家作る材料の板、全然できてないじゃないか!!」
そして、石橋を作り終えて帰ってきた鈴さんに怒られた。
イノシシに夢中で板を作るのを忘れてたよ。
鈴さんに散々怒られて、言い訳をして、とりあえず夕食にする。昼間解体したイノシシを串に刺して塩焼きにする。お昼と夕方に猪肉を串焼きにする為に作ったこの串も作るのもたいへんだったんだよ。竹があれば結構簡単にできるんだけど、ここには竹林がないからな。
とりあえず、今日の功労者、眷属4人も一緒に焼いたイノシシ肉をみんなで食べる。
夕食を食べながら鈴さんに橋の報告も聞く。
とりあえず、琉生を途中まで連れてきて、土の魔法で川の両岸に石の基礎を作って、そこから「にゅるっ」と石の壁を出させて、両岸から伸びた石の壁がつながったら橋の出来上がりだそうだ。
もちろん、事前に鈴さんが設計した橋の構造を琉生が理解して、アーチ状に力が分散するような構造をイメージしながら魔法で出していったそうで、思ったより時間もお祈りポイントもかかってしまったらしい。
そうは言っても石の壁を出す魔法が1回でお祈りポイント1000ポイント消費。材料となる石も周りにいっぱい落ちていたので、何度も魔法を使ったといっても40000ポイントで済んだそうだ。
2つ目の川は比較的川幅も狭かったしな。5日もお祈りすれば回復するポイントだ。
石橋作りが終わった後は、琉生を拠点に送ってここまで戻ってきたら夕方になってしまったらしい。
「そういえば、俺達のレベルが上がって、1日に回復できるお祈りポイントも増えたんだから、貯められるお祈りポイントの上限も増やして欲しいよな」
俺は鈴さんの報告を聞き終わり、愚痴るようにそう言う。
「そうよね。お祈りポイントを貯められる上限が99999ポイントじゃあっという間に上限に達しちゃうしね。10日もあれば溢れちゃうもんね」
鈴さんと一緒に返ってきた麗美さんがそう言う。
「今度、神様が起きた時にそう伝えておきます」
アドバイザー女神様の秘書子さんが俺達の話を聞いてそう言ってくれる。
「また寝ているのか。そろそろ起きてくれないかね? ドラゴンの説明もして欲しいし」
一角が不機嫌そうに秘書子さんに言う。
「承知いたしました。神様が起きた時にその件も伝えておきます」
秘書子さんが無感情にそう答える。一角の態度に怒ってもいいんだけどな。
とりあえず、眷属達が倒してくれたイノシシでみんな満腹になり、麗美さんと鈴さんが拠点から持ってきてくれた大量のウサギの毛皮のおかげで久しぶりに熟睡ができた。
今日もお祈りをしてお祈りポイントは40050ポイントに回復。お祈りポイントを使って魔法で石橋を作ったけどまたすぐにいっぱいになりそうだな。
次話に続く。




