第121話 南西の臨時拠点づくりと計画変更
【異世界生活 95日 3:30】
「ああ、腰が痛いな」
俺は地面の硬さと腰の痛みで起きてしまう。
昨日から、南西の魔物の島を攻略するために臨時拠点を作る作業を始めた。
そして、昨日は久しぶりのテントで地べたに寝た。
最近は、ダンジョンドロップのウサギの皮を敷き詰めた拠点のふわふわなベッドに慣れ過ぎていたのか、硬い地面で寝るのが辛かった。
しかも、この臨時拠点の周りには草があまり生えていないようで、クッション代わりに敷く枯草もなければ、森の中の落ち葉の数も季節のせいか、ほとんど見つからず、ほぼ地べたの上に着てきた毛皮のマントに寝袋代わりにくるまって寝る過酷な睡眠環境なのだ。
地面の硬さがダイレクトに伝わって何度も起きてしまった。
「流司も寝られなかったのか?」
俺が起きて、たき火のそばに行くと、一角と鈴さんが先に起きていて、2人とも微妙な顔をしていた。たぶん、2人も寝られなかったのだろう。
夜の見張りを交代でしていてくれた眷属、アオとあぶらあげも起きていて、鈴さんから木材の作り方を習いながら作業をしていたようだ。
「一度拠点に帰って、クッション代わりの枯草かウサギの毛皮でも持ってくる?」
俺は二人に聞いてみる。
「そうだね。ここまで不毛な地域で枯草が手に入らないなんて想定してなかったし。地べたに寝ることがこれほど辛いなんて知らなかったよ」
鈴さんが困り顔でそう言う。
「元の世界のキャンプとかでも発泡スチロールみたいな生地のクッションとかひく場合多いしね」
俺は昔、父親達とよく言ったキャンプを思い出しながらそう言う。
「私としたら、毛皮を取りにいくというか、拠点に一度帰って、琉生と途中の川に土魔法で橋作りするっていうのがいいかもしれないなって考えてたんだよね。お祈りポイントがそろそろ余りだしそうだし、そのついでにウサギの毛皮を取りに行く感じ?」
鈴さんがそう提案してくる。
お祈りポイントを確認してみると62050ポイントと表示される。
1日で9000ポイント回復するので4日後にはポイント上限の99999を超え溢れてしまう。
「ドラゴンから逃げる為にお祈りポイントを貯めたけど、逃げるどころの状態じゃなくなったしな」
一角が残念そうにそう言う。
確かに、ドラゴンには南東の島のダンジョン入り口に居座られてしまい、遭遇したら逃げるという作戦どころか、正面から対決して倒さないとダンジョンに入れない状況だしな。
「お祈りポイントが余るなら、カヌーを作るより橋を作っちゃった方が早いかもしれないね」
俺は鈴さんにそう答える。
「将来的にはカヌーも作るけどね。海経由でこの島を一回りしてみたいし」
鈴さんがそう言って笑う。
「とりあえず、今日の午前中は作業して、午後に麗美さんと一緒に拠点に帰って、明日の午前中、琉生と橋を作って午後にはここに戻ってくる感じ? そのころには、眷属達が平らな板を結構作ってくれてそうだしね」
鈴さんがざっくり計画を教えてくれる。
「確かに、平らな板が出来上がるまで鈴さんも木材作りに加わるくらいなら、橋作りをしてもらった方がいいかもね。というか、俺と一角は帰らなくて大丈夫なの?」
俺は鈴さんの計画にそう答える。
「みんなで荷物を持って移動したら、労力や時間の無駄だし、2人には臨時拠点を守りながら木材作りをして欲しいかなって。まあ、私一人だと、川が渡れないから麗美さんにはついてきてもらうけど」
鈴さんがそう言う。
まあ、確かに荷物をこの臨時拠点に置いて鈴さんが往復できるのはメリットかもしれないな。
「とりあえず、今日の午前中は、私と麗美さんで魔物狩り行ってもいいんだよな?」
一角はそれが気になるようで俺と鈴さんに聞いてくる。
「そうだね。午前中は各自自由に作業をする感じかな?」
鈴さんがそう一角に答え、一角は安堵のため息を吐く。
そんなに魔物狩りがしたいのだろうか?
とりあえず、話が一段落したので、俺は朝食を作り始め、出来上がるころに麗美さんが起きてきて、残りの眷属、昨日の夜の前半見張りをしてくれていたトラとアルも起きてくる。
朝食を食べながら麗美さんにさっき相談した内容を伝える。
というか、麗美さん、よく寝られたな。あんなごつごつした地面の上で。
「そんな話になっていたのね。確かにお祈りポイントが溢れちゃうのはもったいないし、寝ているとき背中が痛かったし、橋作りついでに毛皮を持ってくるのはいいかもしれないわね。家ができても、板の床の上じゃ痛いだろうし将来的にも必要だもんね、ベッド代わりの毛皮」
麗美さんもそう言って計画に乗ってくる。
そんな感じで、朝食後、麗美さんもいるので剣道教室の先生をしてもらい、日課の剣道教室を行い、その後、一角と麗美さんは南西の島に渡り、白い橋の結界の中から安全に魔物狩りをする。
俺と、鈴さんは臨時拠点の家の材料、木材を製材する作業をする。
「そういえば、一角も麗美さんも鎧着てこなかったけど大丈夫?」
俺は二人の軽装が気になって聞いてみる。
「さすがに、昨日は荷物が多かったからな。重い鎧は着てこられなかったけど、服の下に鎖帷子は着ているから大丈夫だろ? それに白い橋の結界から外には出ないから敵の武器が届くこともないしな」
一角がそう言って笑う。
確かに荷物が多かったから鎧を着る余裕は4人ともなかった。鎧を着た上に重い荷物を持ってきていたら川を渡る時のいかだも沈みそうだしな。霊獣の大亀も泳げなかったかもしれない。
とりあえず、2人を見送り、俺と鈴さん、眷属4人は臨時拠点で家を作る為の木の板を作る作業を始める。
「流司、木材の材料取りに行くよ」
鈴さんが作業に入る前に突然そんなことを言い出す。
「え? 材料の丸太なら昨日結構は切り出して運んできたけど?」
俺は言っている意味が分からず聞き返す。
「あれじゃあ、長さが短すぎて板はできても柱や梁ができないでしょ? 柱や梁用の丸太は丸太を横にきらずに縦に切って運んでもらわないと」
鈴さんが残念そうな顔でそう言う。
言われてみるとそうだな。昨日運んできた丸太で壁や床用の短い板は作れるかもしれないが、梁や柱になるような長い木材は作れないもんな。
眷属達が運びやすいように倒木を短く切って丸太にしたのは失敗だったかもしれない。
そんな感じで、眷属4人に拠点の見張りと木の板作りを任せて、俺と鈴さんは倒木探しと木の切り出しに行く。昨日とは少し違う方向に歩き森の中、倒木を探して歩く。
「この木ならよさそうね」
鈴さんが木材にするのによさそうな倒木を見つける。適度に乾いた木材作りに向いていそうな倒木だ。
俺は変幻自在の武器を二人で挽くような、大型のノコギリに変化させ、左右の持ち手を俺と鈴さんで持って交互に挽く。
今日は倒木を横ではなく縦に切って持ち運べる大きさに切っていく。
切り終わったら、俺と鈴さんでとりあえず1個持って帰り、残りは眷属達に運ばせる感じかな?
そんな感じで、眷属2人で持てるくらいの大きさに倒木を縦に長く切っていく。柱や梁に使えるように長く切り分ける。
2時間ほどで倒木がいい感じの長さと太さに縦にスライスされる。これをさらに縦に切って柱や梁を何本も作る感じだ。
とりあえず、切り出した1つを俺と鈴さん二人で肩に担いで臨時拠点に帰り、残りは眷属達に回収させる。
そして、鈴さんと俺で、持ち帰った材木を柱の太さに切り出す作業を始める。
基本、さっきと同じような作業だ。鈴さんが材木にまっすぐ線を引き、それに沿って、二人用のノコギリで、縦に材木をさらに切り分け柱を作っていく。
そんな作業をしていると、眷属達が2人組になってさっき切り出した材木をどんどん臨時拠点に運んでくる。
全部運び終わったところで、眷属達は昨日拾ってきた丸太を平らな板にする作業や、俺達が今日切り出した柱や梁にする木材の表面をかんながけして平らにする作業を始める。
そんな感じでどんどん長い柱用の木材と、短くて横に広い壁や床用の板が出来上がっていく。
【異世界生活 94日 10:00】
俺と鈴さんが臨時拠点で木材作りを続けていると、4時間ほどで、一角と麗美さんが魔物狩りから帰ってくる。
「おかえり、麗美さん、一角。南西の魔物の島はどんな感じだった?」
俺は二人に聞いてみる。
「うーん、魔物自体は微妙だな。南東の島より少し強いくらい? 経験値効率は悪すぎる。ダンジョンまで行かないと本格的なレベル上げは再開できないだろうな」
一角が微妙な顔でそう言う。
「とりあえず、今日出会ったのはオーク。豚の頭をした人型の魔物だったわ。一角ちゃんの言う通り、平均レベルは25くらいで、レベル40の私や一角ちゃんだと経験値効率が悪過ぎるわね」
麗美さんも残念そうな顔でそう言う。
「魔物達は弱肉強食が基本なので力の上下関係以外での共闘はできません。そのせいでレベル上げにダンジョンを上手く活用できていない可能性があります」
アドバイザー女神様の秘書子さんが麗美さん達の話を聞いてそうアドバイスしてくる。
「なるほどな。確かにあのダンジョンのルールだと、1人だけ強い奴がいてもボス部屋を攻略できない。みんなで強くならないと取り巻きを抑えつつ、ボスを倒す。みたいなことできないもんな」
俺は秘書子さんのアドバイスを聞いてなるほどなと思う。
「魔物達の場合、みんなが横並びになると、権力争いになってしまうから、どうしてもボスが一人だけで強くなろうとしてしまう。そんなやり方じゃ、あのダンジョンは2階までのサービスフロアまではともかく、その先は攻略できないな」
一角も合点が言ったようでそう呟く。
「そうなると、魔物をさっさと倒してダンジョン挑戦権が常に手に入る状況にしないとレベル上げは難しそうね」
麗美さんがそう言ってうなだれる。
「それか、南東の島に居座っているドラゴンを倒して、南東の島のダンジョンに入れるようにするかだね」
一角が麗美さんにそう言う。
「それは最後の手段だな。せめて、ドラゴンと戦うのならみんなレベル41になって新しい魔法を使えるようになってからだ」
俺は一角を止めるようにそう口をはさむ。
「それをするにも、あの魔物のレベルじゃ、どれくらいかかるか」
一角がそう言って肩を落とす。
「魔物のレベルが25だとすると、結局、南の島のダンジョンでレベル上げをするのと効率は変わらないくらいだから、南の島のダンジョンに行くよりはマシくらいな気持ちで魔物狩りを続けるしかないな」
俺はみんなにそう言う。
1個前のダンジョン、南の島のダンジョンは4階の敵がレベル23、5階の敵がレベル25。だいたい同じくらいな感じだ。
「南東の島のダンジョンをドラゴンに抑えられている今、選択肢は限られちゃうね」
鈴さんが残念そうにそう呟く。
「とりあえず、南西の島の魔物を減らしてダンジョンに入れるようになるためにも、この臨時拠点は絶対必要だし、地道に魔物狩りをしながら、臨時拠点を完成させよう」
俺はそう締めくくり、家の材料となる木材作りを再開する。
一角と麗美さんも自分達の変幻自在の武器をのこぎりや大工道具に変化させ、俺達の作業に加わる。
鈴さんに作業の仕方を聞きながら、一角と麗美さんのペアも長い材木から柱や梁用の長い木材を切り出す作業を始める。
【異世界生活 95日 12:00】
「そろそろ、お昼ご飯にするか」
俺はそう言い、1人作業を抜け、昼食作りを始める。
一角、麗美さん、鈴さん、3人とも料理ができない残念な女性たちだ。
代わりにキャンプや釣りで料理や包丁に慣れている俺がご飯を作ることになる。
鈴さんも簡単なものなら作れないことはないらしいが、元の世界ではコンビニやスーパーのお惣菜に頼って自炊することがほとんどない、ズボラなお姉さんだったらしい。
麗美さんは動物の解体など肉を切る作業までは得意なのだが、焼いたり、味付けをしたりする作業が壊滅的なのだ。一角もそんな感じで料理は明日乃任せだった。
「流司クンが料理出来て本当に助かるわ」
麗美さんが嬉しそうにそう言い、お昼ご飯の肉野菜炒めを頬張る。
「麗美さんと鈴さんは午後から、拠点に帰るんだよね? で、明日琉生と橋作りをして、ついでに拠点から敷布団代わりの兔の毛皮を持ってきてもらう感じだよね」
俺は昼食を食べながら午後の作業の確認をする。
「そうだね。明日の夕方には帰ってくる予定だよ。それまで、流司と一角は平らな板や柱を作れるだけ作っておいてよ」
鈴さんがそう答えてくれる。
「流司、明日の午前中、私と魔物狩りに行こう。そのくらいの時間はあるだろ?」
一角が材木作りから逃げるようにそう言う。
鈴さんはあきれ顔で一角を見て笑う。
「魔物狩りが終わったら、ちゃんと作業もしてね。あと、柱や板を作り終わったら、木釘づくりもお願いね」
鈴さんが一角にそう念を押す。
そんな感じで臨時拠点づくり2日目のお昼が終わり、とりあえず、水や非常食など最小限の荷物を持った軽装で麗美さんと鈴さんが拠点に向かって帰る。
俺と一角は鈴さんに言われた通り、柱用の長い木材を切り出す作業を二人で黙々と行い、眷属達4人も壁や床用の板を作ったり、俺と一角が切り出した柱や梁になる木材をかんながけしたり、陽が暮れるまで作業を続けた。
そして、一角と眷属4人の夕食を作ってみんなで食べ、お祈りをして就寝。
今日の夜も固い地面の上で何度も起きてしまうような辛い就寝時間が始まる。
まあ、明日鈴さん達がクッション代わりの毛皮を持って帰ってきてくれるまでの辛抱だ。
次話に続く。
すみません。いきなり方針転換です。
お祈りポイントの貯まり具合を確認したら家を作っている間にお祈りポイントが余って上限越えそうなので、とりあえず余ったお祈りポイントで琉生の魔法で石橋を作ってもらうことにしました。
橋ができてしまうと、カヌーを作る意味もなくなってしまうので、カヌー作りは延期になります。
臨時拠点の周りは不毛の地という設定は決めてあったのですが、いざイメージしてみると、枯草とか拾えなくなるよね。そうなると、寝るときのクッションが用意できないよね。って気づいて、拠点に余っているウサギの毛皮(ダンジョン産)を取りに行こうって感じにもなりました。
私自身も登場キャラたちも実際やってみないとわからない、やってみたら予想外ってことあるんですよね。
まあ、そこらへん、作家のご都合主義で改変しちゃってもいいんですが、それやるとキャラたちが自分で動いてくれなくなるんですよね。なので自然のまま生活させてキャラたちに話し合いさせて自由に動いてもらっている感じです。
今後お祈りポイントが結構あまりそうなので、ちょくちょく、魔法で生活に役立ちそうなものを作ることになりそうです。もしくは神様に言ってお祈りポイントを貯められる上限を上げさせますw




