第120話 南西の島攻略の為の拠点づくり
【異世界生活 94日 6:00】
「それじゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい、りゅう君、みんな」
俺は留守番をする明日乃と琉生そして真望に挨拶をして拠点を出発する。
今日から1週間ほど遠征し、3つ目の魔物の島、南西の島を攻略するための拠点を島の手前に作る為だ。
2つ目の島、南東の島のダンジョンが巨大なドラゴンに占領されてしまい、レベル上げが出来なくなってしまったので逃げるように新しい島でレベル上げすることになった。
まあ、実際、今のレベルで正面からドラゴンと戦って勝てる気がしないしな。逃げるが勝ちってこともある。
遠征のメンバーは、家づくりのプロ、鈴さん。拠点作りする間に魔物の島の魔物を減らす作業をするのが一角と麗美さん。そして、鈴さんの助手兼コックの俺。
真望も人数合わせで連れていく予定だったが、眷属も何人か連れていくので、渡河する際に人数が多すぎると手間がかかると真望が言い出して、確かに一理あったので留守番させることになった。なんか真望の思惑通りな気もして癪だが。
そんな俺の気持ちも気にせず、真望は拠点に残って麻布作りができるとかなり嬉しそうだった。
まあ、確かに西の川を渡るのにいかだが2隻しかないので、真望まで連れていくと、眷属4人がいかだに乗りきらないので、いかだを往復させる手間がかかってしまうが、真望が抜けると、ギリギリ、ヒト2人と眷属2人ずつでいかだに乗れそうなので真望の意見を取り入れた。眷属は身長が低く、若干ヒトより体重が軽いからな。
まあ、連れていく眷属の数を減らして真望を嫌々連れて行っても眷属より役に立たなそうだし。
そんな感じで、俺、一角、麗美さん、鈴さん、そして眷属4人、アオとトラとアルとあぶらあげの8人で西の川を渡り、さらに海岸沿いに西に進む。
南の島に渡る為の白い橋の前を通り過ぎ、さらに西へ。
拠点の周りとは違い、砂浜ではなく、砂利の海岸線を歩き続ける。
拠点から2時間半ほど歩いたところで、一角や麗美さんが言っていた通り、2つ目の川が行く手を阻む。
「結構流れが急だな」
俺は岩だらけの河原に流れの速い川を見てそう呟く。
「いつもの川と違って、山から直接流れ出している川みたいだからね。流れは急ね」
麗美さんがそう言って北の方角に見える斜面と山を仰ぎ見る。
俺もつられるように斜面を見てしまう。確かに急斜面を駆け降りるように流れる川の水。いつも渡っている川とは雰囲気が全く異なる。
「これって、麗美姉の大亀の霊獣で渡れるのか?」
一角が心配そうに麗美さんに聞く。
「うーん、海まで流されちゃいそうよね。そう考えると、海経由で渡った方がいい? とういうか、一角ちゃん、魔法で飛べるんだからみんな運んでもらうとかどう?」
麗美さんがそう一角にきり返す。
「飛行魔法は上級魔法だからお祈りポイントがいくらあっても足りないよ。時間がかかっても、麗美姉の霊獣に乗って渡った方がお祈りポイント節約になっていいだろ?」
一角は慌ててそう答える。
確かに、一角の飛行魔法は上級魔法で10分飛ぶのに3000ポイントお祈りポイントがかかる。7人全員担いで渡るのに一体いくらお祈りポイントがかかるか分からない。
「まあ、地道に行こう。麗美さんの提案通り、海岸から海経由で川を渡ろう」
俺はそう答え、川を南下し海岸に向かい始める。
「川が海に流れ込む場所も結構流れ強そうだから、海でも流されそうだけどね」
麗美さんが残念そうな顔でそう言う。
「まあ、流れに逆らわず、横断して、川の流れの影響がない辺りまで霊獣で移動して向こう岸の海岸に上陸すればいいんじゃないかな」
俺はある程度陸地から離されることも考慮しながらの渡河を計画する。
「大亀が流されても大丈夫なように少し多めにマナを込めておくわね」
麗美さんがそう言い、海岸で1体目の大亀の霊獣を召喚する。
とりあえず、その大亀の霊獣にまずは俺が乗り、渡河に挑戦する。
海でぷかぷか浮いている大亀の背中に俺が乗ると、大亀が西に向かって泳ぎだす。
俺の体重はもちろん、拠点を作る為の大工道具や非常食や水など結構多めに持ってきたので、大亀も少し沈みがちで腰から下が海につかりながら俺と大亀は西に進んでいく。
麗美さんの予想通り、川の水が流れ出る河口周辺は陸地から離れるような方向に結構強い川の流れが続いていて、大亀が西に進もうとしても少しずつ、南へ、海岸から離れた方に流されてしまう。
一応、秘書子さんにお願いしてサメが近くにいないか確認しながら進み、だいぶ南西に流されたところで、川の流れの影響もなくなり、そこから北に大亀が泳ぎだし、陸地に着くころには30分以上の時間がかかってしまった。
後ろを振り向くと、一角や鈴さんも同じように大亀に乗ってこちらに向かってきている。かなり海岸から離れてしまっているな。
そんな感じで、川の急流に苦労しつつも、麗美さんが8体の大亀の霊獣を召喚し、ヒト4人と眷属4人を渡河させることに成功した。最後に麗美さんが海岸に上陸し、時間は9時半を過ぎていた。そして落ち着いて西の方角を見ると、白い橋が見える。あれが南西の島に続く白い橋だろう。到着までもう少しって感じだ。
俺達はそこからさらに30分海岸に沿って歩くと、白い橋に到着する。
右手には急な斜面、足元は砂利のゴロゴロした海岸。拠点向きではなさそうなエリアだ。
「うーん、もう少し探索しないとダメかな? あまりにも斜面に隣接し過ぎていて、地震とか土砂崩れとか起きたらちょっと怖いしね」
鈴さんがそう言って周りを見渡す。
まあ、この島に来て、まだ地震に会ったことも台風に会ったこともないけどな。若干夜に雨が降る程度か。稀に昼間雨も降ることがあるが、このあたりは神様が気候を調整してくれているのかもな。
まあ、普段、粘土や砂を取りに行く地層が見える崖とか、珪石を拾いに行く崖は大地が隆起してできた崖っぽいし、全く地震が起きない島という訳でもなさそうなので注意は必要だろう。
そんな感じで、白い橋を通り越し、海岸沿いに北西にもう少し進んでみる。
30分ほど歩くと右の斜面が窪んでできた程よい平地と森が姿を現す。
「ここならよさそうね。しかも向こうにも白い橋が見えるよ」
鈴さんが嬉しそうにそう言い、北の方を指さす。
「あれは、北西の島につながる橋ってことか?」
一角がそっちの方角を見ながらそう呟く。
「あれは5つ目の島につながる白い橋で、あの先にはかなり強い魔物が住む島があります。6つ目のダンジョンもあり、もう少しレベルが上がってから挑戦するべき島ですね」
アドバイザー女神様の秘書子さんがそう教えてくれる。
「6つ目ってことは確か私に対応した変幻自在の武器があるダンジョンだったよね? 確か」
鈴さんが思い出したようにそう言い、秘書子さんに聞き返す。
「そうなりますね。順番的には南西の島のダンジョン、ルウ様に対応したダンジョンをクリアした後、北東の島のダンジョン、マモ様に対応したダンジョンをクリアし、その後挑戦していただく予定のダンジョンです」
秘書子さんがそう教えてくれる。
「まだまだ先ね」
鈴さんがそう言って肩を落とす。
「ちなみに、ここから東に山を登ると石灰石が採れる鉱山があります」
秘書子さんがついでにそう教えてくれる。
「石灰石を掘るにもよさそうな拠点ね。このあたりに拠点を作るといいんじゃない?」
鈴さんがそう言うので、俺も周りを見渡す。
窪地になっていて、がけ崩れが起きても、ここまで土砂が来ることはなさそうだし、海岸より少し高台になっているので高波にさらわれることもなさそうだ。
そして何より、家の材料になりそうな木が沢山生えている。
「北西の魔物の島に挑戦する時にもつかえそうだしね」
俺もそう言い賛成する。
「近くに湧き水もあるのでお勧めです」
秘書子さんが貴重な情報をくれる。
「湧き水もあるのはありがたいわね。最悪私が魔法で飲み水出すことになりそうだったし」
麗美さんが安心するようにそう言う。
さっき渡った川は水が濁っていたのでかなり上流まで上がらないと水が汲めそうになかったので水の補給についてかなり悩んでいたのだ。
「とりあえず、ツリーハウスを作れるほど太い木はないから、太めの木を3~4本つなげて高床式のツリーハウスモドキって感じの家を作ればいいかな?」
鈴さんがそう言って、森の手前を散策する。
拠点に比べると確かに太い木があまりない森だな。
「とりあえず、歩き疲れたわ。少し休憩しましょ?」
麗美さんがそう言って荷物を下ろし、手ごろな岩に腰を下ろす。
鈴さんはまだ体力が余っているようで、楽しそうに森の散策をしている。
まあ、俺も、もう少し動けそうだしな。
「鈴さん、家を作る木に目星がついたら教えて。その周りに柵を作ってとりあえず、今日寝られるキャンプを作るから」
俺はそう言って、麗美さんのそばに荷物を置くと、眷属達を連れて薪や柵に使えそうな倒木や細い木を探しに行く。
一角は鈴さんと行動するようだ。
【異世界生活 94日 11:30】
1時間ほど薪や木材を探して麗美さんのいた場所に戻る俺と眷属達。
鈴さんも拠点を作る場所に目星がついたようで、とりあえず、そこに荷物を持って移動する。
さらに10分ほど北東に、窪地の奥に進んだところだ。
「この木と、この木、あとこれとこれ。4本の木に木材を括り付けて、それを基礎に高床の家を作る感じかな? あと、そっちの木もいい感じだから同じように家を作って3人で暮らせるくらいの家を2つって感じかな?」
鈴さんが身振り手振りでそう教えてくれるので、俺はそれを想定して柵で囲うイメージをする。とりあえず、イノシシやクマの足止めになる程度の柵を作って家を作る予定の木を囲う感じだ。二つの家をまとめて大きい柵で囲うというより二つの家をそれぞれ小さい柵二つで囲う感じでいいかな? 臨時の拠点だし、定住する予定でもないしな。
俺と眷属達はさっきの場所に置きっぱなしにした柵の材料や薪を移動させ、とりあえず、お昼になったので、たき火を起こしお昼ご飯にする。
出かける前に、明日乃が作ってくれたお弁当、竹筒におかずを詰めたお弁当だ。
それをたき火にくべて温めてから食べる。
「明日乃ちゃんも連れてきた方が良かったんじゃない? これから1週間、食生活が心配だわ」
麗美さんがそう言いながら温まったお弁当を食べる。
「確かに、野菜は持ってきた分が腐ったら終わりだし、それ以降、山菜頼みになりそうだしね。明日乃はなんだかんだ言って山菜にも詳しかったし、野菜がなかった時期でも結構美味しい料理食べられたしな」
俺は思い出すようにそう言う。
俺自身、料理は得意な方だが、さすがに山菜を集めて創作料理。みたいなレベルではない。
「まあ、さっさと拠点を建ててご飯食べに帰ってもいいしな」
一角が適当そうにそう言う。
「カヌーも作るし、石灰石も拾いにいくんだからね」
鈴さんが少し不機嫌そうに一角に言う。
鈴さんは石灰石が採れる様になることが結構楽しみだったようだ。
「カヌーと言えば、森を結構奥まで行けば太い倒木もあったし、何とかなりそうだよ」
俺は、眷属達と探索したときに見つけた大木を思い出し鈴さんに教えてあげる。
家づくりが終わったら、帰りに使うカヌーを作らないといけないしな。
「というか、一角が拠点に残って、定期的にワシの霊獣で野菜を送ってくれればよかったんじゃないか?」
俺は画期的な食糧供給方法を思いついてしまう。一角の霊獣は7キロくらいの荷物しか飛んで運べないらしいが野菜7キロが定期的に届くのは結構ありがたい。
「馬鹿、却下だ。それじゃあ、私が南西の島に魔物狩りに行けなくなってしまうじゃないか」
一角に少し怒り気味な口調でそう言い返された。
まあ、今後の作戦で困った時の選択肢の一つとして覚えておこう。
そんな感じで、お昼ご飯と休憩を終わらせ、まずは、1軒目を立てる予定の4本の木の周りを丸く少し広めに柵を作っていく。枝を地面に打ち込んで横木を荒縄で縛るだけの簡単な柵だ。
それが終わると、家作り。真望がこんな遠征を想定して、荒く編んだジーンズの生地みたいな麻布でテントになるような大き目の布を作ってくれたので、家を作るのとは別の木2本の間に荒縄を張ってそれにこの麻布をかけ、その後、テントっぽく、三角屋根になるように4つ角を太めの枝を地面に打ち込み、ペグ代わりにして固定する。
そして三角になった側面部分にもちゃんと布が縫い付けられていて本物のテントっぽい。真望の力作だ。そんな大き目のテントを2つ設置する。
「いい感じのテントだな」
一角が嬉しそうにそう言う。
「ちなみに流司クンは私たちと寝るの?」
麗美さんが俺をからかう様にそう聞いてくる。
「俺は眷属達と寝るよ。女の子3人はもう一つのテントを使って」
俺は逃げるようにそう言う。
「別に私は一緒でもいいのにな」
麗美さんがさらにからかう様にそう言う。
「流司にはテントなんて贅沢だ。雨ざらしでもいいくらいだ」
一角が不機嫌そうにそう言う。
ひどいこと言うやつだな。俺が風邪ひいたらどうするんだ。
そんな感じで簡易の柵と今日寝るテントが出来上がり、鈴さんと麗美さんは拠点で柵の強化と家づくりの準備、俺と一角、眷属4人は家を作る為の木材の材料探しに向かう。よく乾いていそうな倒木を見つけて平らな板に加工する予定だ。
「竹がないのが面倒くさいな」
一角が森を歩きながらそう言う。
「そうだな。なんだかんだ言って竹って加工が楽だし、丈夫だし、簡単な家を作るなら最適だもんな」
俺は拠点の竹製のツリーハウスを思い出しながらそう答える。
秘書子さんにも確認したが、残念ながらこのあたりには竹林がないそうだ。
「倒木あった」
鈴さんの眷属で熊の姿をしたアルが口数少なくそう声をかけてくるので俺と一角もそこに向かう。確かによく乾いていて虫食いもない、いい感じの倒木だ。
変幻自在の武器を二人で協力して引くタイプの大型のノコギリに変化させ、一角と協力して倒木を眷属達が背負子で背負えるくらいの長さに切っていく。
切り終えたそばから眷属達は背負子に倒木の丸太を乗せ、臨時拠点に向けて速足で帰っていく。仕事熱心な奴らだな。
そんな感じで見つけた倒木を俺と一角で切り、眷属達が拠点と往復してどんどん運んでいく。
倒木を全て運び終えると、次の倒木を探し、同じように切り分けて眷属達に運ばせる。そんな作業を繰り返し、最後に、秘書子さんに教わりながら、湧き水のある場所に行き、拠点から持ってきた鍋代わりのバケツみたいな土器や水瓶に水を汲んで、拠点に帰る。
そんな作業で、1日目が終わった。
【異世界生活 94日 18:00】
「やっぱり、変幻自在の武器は便利でいいわね。切れ味はイマイチだけど、思い通りの形に変化させられるのは大きいわ」
鈴さんが俺の作った夕食、干し肉と野菜の塩スープを食べながら嬉しそうにそんな感想を言う。
鈴さんと麗美さんは拠点で眷属達が運んできた丸太を平らな板、木材に加工する作業をしていたようだ。麗美さんの変幻自在の武器をのこぎりや大工道具に変化させて。
「変幻自在の武器を眷属達が使えないっていうのはちょっと不便だけどな」
一角も夕食を食べながらそう言い、一角の眷属、狼の姿をした獣人みたいなアオもそれを聞いてうんうんと頷く。
眷属達も少し不満みたいだな。
あと、あまり複雑な構造の武器や工具が作れないのも残念な感じだ。あくまでも1つにつながった1つのパーツでできた道具のみ。ハサミや鎖みたいなもには変化させられないのだ。
「まあ、眷属達には私が作った大工道具があるし、それで頑張ってもらえばいいし。明日からはやることいっぱいだから頑張らないとね」
鈴さんがそう言って眷属達を応援する。
「そういえば、木材を作るのはいいとして、釘はどうするの? さすがに釘がないと家は作れなくない?」
俺は気になって鈴さんに聞いてみる。
「時間があれば拠点で余っている青銅を溶かして釘みたいなものを作っても良かったんだけどね。まあ、今回は木釘? 木で作った釘を木材にキリで穴を開けてそこに打ちこむ感じかな? ちょっと面倒臭いけど、金属の釘がないんだからこれで代用するしかないよね」
鈴さんがそう言って、木でできた小さな棒状のものを見せてくれる。
釘より少し太い棒で先が少し尖らせてある。これが木釘か。これを釘代わりに使うんだな。
「流司は結構手先器用だから、明日はこれをいっぱい作る作業してね。麗美さんと一緒に」
鈴さんがそう言い、麗美さんが嫌そうな顔をする。
「今日、少し作ったけど、結構、地道で面倒臭い作業よ」
麗美さんがそう言い、ぐったりする。
「麗美姉と言えば、明日は私と魔物狩りもするんだよな? いつも通り、麗美姉と私で白い橋の上から魔物を攻撃して数を減らす感じ。明日から早速、始めてもいいんだよな?」
一角が思い出したようにそう言う。
「そう言えばそんな話もあったな。そうしたら、午前中、一角と麗美さんは魔物狩りをして、終わり次第、臨時拠点づくりの作業に合流する。そんな感じでいいかな?」
俺はそう言い、鈴さんも頷く。
「早く帰ってきてね。変幻自在の武器を使える人がいないと、丸太の切り出しも苦労しそうだし」
鈴さんがそう言う。
そう言われるとそうだな。眷属達だけで丸太を切り出すのは大変そうだ。
まあ、今日切り出した丸太があるから、午前中はそれを木材にする加工で眷属達も忙しいだろうから明日はいいけど。
そんな感じで明日の予定を決めながら夕食を食べ、汲んできた湧き水で軽く体を拭いてから、日課のお祈りをして就寝する。
明日からも忙しくなりそうだ。
次話に続く。




