第118話 ガラス瓶を作ろう
【異世界生活 91日 13:30】
とりあえず、ガラス作りをする前に石鹸作りを終わらせる。
そして、石鹸づくりで生石灰を使い切ってしまうので、一角と麗美さんは午後も貝拾いだ。
「失敗したね。石鹸作りとガラス作りって、材料被りまくりじゃない」
鈴さんが残念そうにそう言う。
とりあえず、一角と麗美さん以外、残ったメンバーでお昼に食べた貝を綺麗に洗い、たき火で軽く焼いて水分を飛ばす。
今日の午前中、琉生も含めて3人で貝拾いをしたのでいつもよりは多く貝がとれたようだが、それでも石鹸作りとガラス作りをするには足りないそうだ。
さっき召喚した眷属2人を含めた眷属達にはこの時間で、材木にする倒木を集めさせる。
「もしかして、夕食も貝か?」
俺は残念なことに気づいてしまう。
「そうなるね。欲しいのは貝殻だけだけど、折角とってきた貝の身を捨てるのはもったいないしね」
明日乃がそう答える。
俺はぐったりしながら、貝洗いを続けることになってしまった。
他のメンバーもぐったりしている。
2食連続で貝づくしは辛いものがあるもんな。
次回以降、貝に頼らず、石灰石を拾いに行くことも考えないとダメそうだな。
「ガラス作りを遅らせてもいいよ?」
鈴さんがそう言って2食連続貝尽くしを回避する提案をするが、
「ダメだよ。早くガラス作っちゃわないと、トウモロコシを収穫する時期のがしちゃうし、トウモロコシの水煮を保存食にするんでしょ。明日にはガラス瓶を完成させないと」
琉生が慌ててそう口をはさむ。
そうだな。トウモロコシの収穫時期を逃してしまったらガラス瓶を作る意味が半減するし、トウモロコシの収穫を遅らせすぎると、折角育ったトウモロコシを野生動物も食い尽くされそうだしな。
とりあえず、貝殻洗いと乾燥を終わらせ、貝殻を本格的に焼く作業に入る。
ここからは眷属達総出で分業して作業を進める。
真望と明日乃は麻布作り。
琉生は畑作業をする。眷属のシロとレオが畑作業を手伝う。
ココは魔法が使えるので、麗美さんの代わりに午前中作った窯を魔法で乾燥させる作業をしてもらう。麗美さんと比べると魔法の威力も使える量も少ないが、ゆっくりとだが、物を乾燥させたり、氷を少しずつ出したりするみたいな魔法は使えるみたいで、結構重宝するようだ。
そんなココの能力に気づき、明日乃は拠点にいるときにこっそり土器のお鍋を作ってココに乾燥させて調理道具を増やそうと画策中のようだ。
そして、俺と鈴さんは貝殻を焼きながら、新しく召喚した眷属達に木材を作る作業を教える。
とりあえず、貝を焼く作業は一角の眷属のアオと真望の眷属あぶらあげが担当する。
アオは風属性なのでふいごの扱いが得意らしいし、あぶらあげは火属性なのでこれから火を扱う作業を鈴さんは任せたいそうだ。
そして、琉生の眷属のトラと鈴さんの眷属、熊のアルは木材を加工する作業を新たに覚えさせるそうだ。
鈴さんが貝殻を焼く作業をときどき監督しながらトラ、アル、眷属2人に倒木から切り出した丸太から木材を切り出す作業を教える。
ちなみに俺も鈴さんとペアになって木材を切り出す作業を手伝う。
俺と鈴さんは俺の変幻自在の武器を2人でひくノコギリに変化させて、丸太から、ざっくりした木材を切り出す作業を、トラとアルは鈴さんが手の空いた時に作った青銅製のノコギリで木材を切り出す作業をする。
変幻自在の武器は眷属達には使えないからな。
「というか、青銅製のノコギリとか、大工道具がこっそり増えてない?」
俺は鍛冶工房の壁に吊るされた大工道具を見てそう言う。
「ああ、道具がないとどうしようもないからね。空いた時間で作ったんだよ。最近は鉄が手に入るようになったから、鉄で大工道具も作り直したいんだけどね」
鈴さんがそう言う。
俺達がダンジョンに行っている間に色々道具を増やしていたようだ。
まあ、そのおかげで今日もトラとアル、眷属達が材木作りを手伝うことができるんだから先行投資として大成功ってことだろう。
そんなことで、俺、鈴さん、トラ、アル、4人で材木を切り出す作業と切り出した材木をかんなで平らにする作業をしつつ、鈴さんから木材加工の仕方を習う。
トラやアル、眷属達は細かい作業は苦手らしいが、木材の切り出しや平らにする作業、単純作業は結構得意のようで、スポンジが水を吸う様にどんどん作業を覚えていく。いつの間にか俺も抜かされ、俺が一番下手という位置づけになってしまった。
「眷属達は作業や技術を覚えるのが早いな」
俺は休憩中に鈴さんにそう言う。
「そうだね、ヒトと違って単純作業に飽きたり、集中力が欠けたりするという事が少ないみたいだから、真剣に作業して、あっという間に作業を覚えてくれるね。私としてはありがたいけど、もう少し楽しんでもらえるといいんだけどね」
鈴さんがそう言って笑う。
眷属達は感情が少し希薄のようで、言われたことを黙々とする。そう言う傾向があるらしい。
まあ、レオみたいに俺に反抗したり、嫌な顔をしたりするみたいなことや、ココみたいに麗美さんの猫かわいがりからは逃げたいみたいな簡単な感情はあるらしいが、ヒトと比べると少し希薄だ。
まあ、基本的に真面目なので、作業効率もいいし、覚えるのが早いとのこと。ただし、手が肉球で指が短いのであまり細かい作業はできないのが玉に瑕なんだけどね。
そんな感じで木材を作りながら、貝殻を焼き、夕方くらいに生石灰が完成する。
貝殻を焼く作業をアオとあぶらあげに頼んだのは正解だったようで、2人とも火の扱いが上手かったようだ。
冷めるのを待って、生石灰を取り出し、生石灰と木灰から2種類のアルカリを作り、それを混ぜて強アルカリを作る。
それを事前に完成していた熊の油に混ぜて石鹸を作る。この作業は真望が中心になってやる。真望は美容関係と石鹸が大好きだからな。
まあ、そのおかげで、女の子達もお風呂や水浴びをするときに助かっているみたいではあるが。
【異世界生活 91日 18:00】
貝を拾いに行っていた一角と麗美さんも帰ってきて夕食になる。
今日は昼食、夕食とも貝尽くしの食事だ。
明日乃と俺は飽きないようにと、昼食は貝を焼いて醤油で食べ、夕食は味噌で煮て貝のお鍋にして食べる。味変ってやつだ。
貝をネギなど野菜と一緒に味噌で煮ると、焼くのとはまた違った味わいで美味しく食べられる。
アワビやサザエを味噌煮っていうのは少し勿体ない気もするが、味に飽きるよりはいいだろう。
そんな感じで、ガラス作り用の貝殻も確保し、明日はガラス作りをすることになる。
夕食後、日課のお祈りをして就寝する。
真望とあぶらあげの関係は良好のようで、毛づくろい? お互いの尻尾や髪の毛、あぶらあげの体毛をくしでとかしあい、一緒にツリーハウスで寝るようだ。
主と眷属の関係で一番仲良しかもしれないな。多分、あぶらあげは自分の毛並みが気になるみたいだし、美容とか好みが似ているんだろうな。
というか、そろそろ、ツリーハウスももう1軒増築した方がいいかもしれない。
眷属達はそれぞれ気が向いたツリーハウスで寝泊まりしているらしいが、一角と琉生のツリーハウスに居候することが多いようだ。
なんか、俺と明日乃の眷属、レオとシロは俺達に気を使っているのか、一角がレオを気に入っているのか知らないが、一角と琉生達と寝ることが多い
ちなみにココは猫かわいがりされるから嫌だと言いつつも寝る時は麗美さんと寝ているし、新しく召喚した鈴さんの眷属、アルも鈴さんの部屋で寝るようだ。
まあ、一角と琉生のツリーハウスは本来3人で使う予定だったが、真望がはた織り機の都合で引っ越しして空きができたので眷属がそれでいいならそれでいいんだが。
眷属達の事が気になりつつも、今日も俺は明日乃と二人っきりで就寝する。
お祈りポイントは今日のお祈りで35000ポイント近くまで回復した。
明日の夜、もう一度お祈りすれば、一応、ドラゴンが再度襲ってきても逃げるくらいのお祈りポイントは貯まりそうだ。ガラスとトウモロコシの収穫が終わったら、ダンジョンでレベル上げ再開かな?
【異世界生活 92日 6:00】
朝食を食べ、日課の剣道教室をしてからいつもどおり作業に入る。
今日は午前中、貝殻焼きをして生石灰を確保、午後からガラス瓶作りをする予定だ。
一角と麗美さんはすることがないと、琉生を連れて北の平原にトウモロコシの収穫に向かう。
真望と明日乃はいつも通り、麻布づくり。最近麻布作りも順調で、女の子達の普段着、ワンピースとズボンの上下を作り始めているらしい。
ちなみにサバイバル生活で素足は色々と危険なのでワンピースを着るときも下はズボンを履くそうだ。
俺と鈴さんは昨日と同じ作業。ガラス作りに必要な石灰を手に入れる為に貝殻を焼く作業を眷属のアオとあぶらあげに任せつつ、俺と鈴さんはトラとアルと4人で丸太を平らな木材に加工する作業をする。
そして、生石灰ができ次第、珪石を砕いて粉にした珪砂と生石灰、そして、普段からたき火の灰を集めておいた木灰を混ぜて、昨日作った珪石製の窯で木炭と一緒に焼き、珪砂を溶かしてガラスにする作業を始める。
珪砂自体の融点は1600度で、なかなか無人島の低文明で出せる熱量ではない。
なので、珪砂と石灰や木灰というアルカリを混ぜることで珪砂の融点を1200度まで下げるという工程が必要になるそうだ。鈴さん曰く、古代人が作っていたガラス、カリガラスというのがこの作り方らしい。
俺はアオやあぶらあげと交代でふいごを動かす作業をしながら鈴さんの作業を手伝う。
「珪石ってアルカリに弱いんだよね。耐熱煉瓦で作った窯もそろそろ、琉生ちゃんの魔法でメンテナンスしてもらわないと壊れちゃうわね」
作業をしながら鈴さんがぼそっとつぶやく。
「そうなの?」
俺は少し驚いて反応してしまう。
「耐熱煉瓦の窯で貝殻を焼く作業とか結構したでしょ? それって、要は今やっていることと同じだから、珪石製の耐熱煉瓦も貝殻からできた生石灰や木炭からできる木灰で常にアルカリに浸食されていたってことで、表面が少しずつガラス化して溶けだしていたのよ。まあ、琉生ちゃんの石を操る魔法で、溶けた部分とかも耐熱煉瓦に戻せちゃうわけだし、今、材料の珪石もいっぱいあるわけだし、お祈りポイントが余ったら少し直してもらおうかなって」
鈴さんがそう答えてくれる。
言われてみるとそうだな。石灰と木灰を混ぜると融点が下がってしまう。耐熱煉瓦にとって貝殻を焼く作業は結構ダメージを受ける作業だったのかもしれない。
そんなこともあって、今日のガラス作りは珪石拾ってきて窯のように積んで行っているということか。
ガラスと一緒に溶けて使えなくなってもいいように使い捨ての窯で今日は作業をしていると。
そんなことを考えながら珪砂を溶かし液体のガラスを作る作業を続ける。
今日は作業を中断できないので、お昼は明日乃に鍛冶工房まで持ってきてもらい、火を見ながら鈴さんと交代で食べる。
そして、2人とも昼食を食べ終わり、少し作業を続けたあたりで、珪砂がいい具合に溶けたガラスになってきたそうだ。
「そろそろいいかな?」
鈴さんはそう言って、鍛冶工房の片隅から長い棒のようなものを持ってくる。
「それは?」
俺は気になって聞いてみる。
「鉄のパイプね。テレビ番組とかで見たことあるでしょ? ふきガラス作りの体験教室みたいので、これの先に溶けたガラスをつけて空気を送り込み、ふくらます作業みたいなの?」
鈴さんにそう言われて確かに見たことがあるような気がする。
芸能人が息を吹き入れながら、パイプを回して、丸く均等に膨らませてガラス瓶や花瓶、コップなんかを作るテレビ番組?
「ああ、確かに。っていうか、そのパイプも作ったの?」
俺はあまりにもよくできた鉄パイプに驚く。結構まっすぐで中も空洞のパイプだ。
「そうよ。ガラスを作るって話になった日に急いで鉄を鍛造、金床と金槌で一生懸命叩いて作ったんだよ。元の世界みたいに旋盤機、鉄を削ったり穴を開けたりする機械がないから、鉄の板を作って、それを筒状に丸めてつなげる作業を一日がかりでしたんだよ。そんな訳で、今日は鉄のパイプが1本しか用意できなかったから、流司、今日は手伝いと見学だけね。今後は鉄パイプも増やして流司にも手伝ってもらってガラス瓶も量産する予定だけどね」
鈴さんはそう説明しつつ、さっそく作業を始める。
窯の横に事前に窓のようなものを作ってあったらしく、珪石をどかして、窓のような口を開ける。
そして、覗くと赤く溶けたガラスと、ふいごで空気を送ることで木炭が高温の炎を上げている。
鈴さんはその溶けたガラスに鉄のパイプを入れ、溶けたガラスを絡ませるように纏わせていく。
そして、団子状にガラスが纏いつくと、溶けた窯からとり出し、パイプに息を吹き込む。
液体のガラスなので、重力で垂れさがっていくので、垂れさがった部分が上に行くようにパイプをくるくる回しながら丸く膨らませていく。
そして、冷えて膨らみにくくなると、もう一度窯に入れて、くるくる回して火の熱で溶かし、もう一度柔らかくして息を吹き込み、ガラスの風船の様な物ができる。
そこからは、鉄製の工具、鍛冶でも使っていた火箸、珪砂を敷き詰めた石の作業台などを上手く使って押し付けたり、回したりして、底を作ったり、瓶の側面を平らにしたりして瓶の形の様にしていく。
そして、瓶の形、底と側面ができたところで、鉄パイプから瓶を切断、溶けたガラスで、ガラス瓶の底に鉄パイプを着け直すと、今度は鉄パイプから切り離した切断面の方を再加熱、工具や火箸を上手く使って、切断面を広げて瓶の口の部分を丸く上手に形成する。
うん、ガラス加工の経験がある鈴さんだからできる作業だ。ぶっちゃけ、今の俺にこの作業を出来る自信は皆無だ。見ていても凄すぎる技術で全くついていけなかった。
最後に、鉄パイプとつながっている瓶の底の部分を切断して瓶の出来上がり。冷やして完成だそうだ。
「まあ、かなり技術と経験のいる作業だがら、また、時間がある時に流司には教えるよ。今日は火力を維持する作業の手伝いをしながら見てなんとなく覚えてくれればいいし。さすがに細かい作業が多いから眷属達にはちょっと難しそうだし、将来的にガラスを量産できるようになるには流司のがんばりが頼りになるんだからね」
鈴さんがそう言って笑う。
そんな感じで、今日は隣で作業を見ながら、説明を聞きつつ、途中、ふいごの作業をアオやあぶらあげと交代しながらガラス瓶作りを続ける。実際、瓶を作れるのも、作っているのは鈴さんだけだけどな。
夕食の時間まで、ひたすらそんな作業を続け、水煮の食材を入れるのにちょうどよさそうな大きさと形の瓶、2リットルくらいの水が入りそうな筒状で背が少し低めの瓶が結構な量出来上がる。トウモロコシの水煮を作ったら結構な量を保存食として作れるのではないだろうか?
瓶詰め効果と氷室の冷蔵効果で1年以上はもつだろう。
これは他の野菜の保存の事も考えて量産が必要だな。もちろん肉の保存にも役立ちそうだし。
そんなことを考えながら、出来上がった瓶を見て少し感動する。
できた瓶はカリガラスといって、今のガラスとはだいぶ違う感じだ。
有色、少し青みのかかった物や緑色に近いガラスでなんか中世や古代を再現した映画に出てきそうな色の瓶だ。
見かけは見慣れない色だが、硬さも十分で、形も鈴さんの技術のおかげで完璧だし、水漏れも起きなそうだ。
そして、あることに気づく俺。
「そういえば、蓋はどうするの?」
蓋らしいものが見当たらないので俺は気になる。今から鉄の蓋でも作るのだろうか?
「ああ、その点は大丈夫。前に、燻製の燻煙用の木材探しをしたことあったでしょ? その時にコルクの木を見つけたから、トラとアルに探しに行かせてあるよ。実はコルクの木って、燻製のチップとしても最高の材料になるんだよね」
鈴さんが少し自慢げに教えてくれる。
明日はそのコルクを丸く切り出し、瓶の蓋にする作業をするそうだ。それと、トラとアルには松脂も取りにいかせていたそうで、コルクで瓶を塞ぎ溶けた松脂でコルクを覆って密閉するそうだ。鈴さんは俺が思いつかないところまでよく考えて先に動いていたようだ。
そんな感じで、鍛冶工房の隣にある資材置き場をみると、トラとアルが集めて来たコルクの木と松脂が大量に積まれていた。ついでに木材を作る丸太もたくさんだ。
「眷属達は申し訳なくなるくらいよく働いてくれるね」
俺は鈴さんに申し訳なさそうにそう言う。
「そうね。私達みたいに生きる為でもなければ、元の世界みたいに給料をもらう為でもなく、主の為にみたいな? ちょっと私達には理解できないから申し訳ない気持ちになっちゃうわよね」
鈴さんがそう言って頷く。
とりあえず、出来上がった瓶を一つ持って、たき火のまわりに戻り完成した瓶をみんなに公開する。
一角や麗美さん、琉生も戻ってきていて、トウモロコシも大量に増えていた。
そのまま、夕食の時間になりみんなで夕食を食べる。
今日は取ってきたトウモロコシを焼肉のたれをつけて焼き、食べたり、他の野菜や鶏肉と一緒に煮た野菜スープを作って食べたりする。
「この瓶を加熱処理した後、水とトウモロコシを入れて、空気が入らないようにコルクで蓋をして、煮詰める。煮詰まったら、とかした松脂に密封して出来上がりかな? 空気が入らなければ、氷室に保存して結構な期間、保存食として置いておけると思うよ」
鈴さんがそう言って、これからの作業をみんなに説明する。
「すごいね。完璧な瓶だよ。これで、美味しい食材を水煮にしてそのまま保存できるようになるんだね」
琉生が嬉しそうに瓶を観察してそう言い笑う。
「将来的には量産して、トウモロコシ以外の野菜や肉も水煮にしたいな。なんだかんだ言って干し肉は癖があるし、味もおちるしな」
一角が感慨深そうに唸るとそう言う。
確かに肉も水煮にすれば生の肉を調理した味に近い状態を維持できるかもしれないな。
「そうなると、やっぱり、石灰石を取りに行かないとダメね。毎回貝殻焼いていたらガラス瓶作りどころじゃないからね」
鈴さんがそう言い、俺はみんなに石灰石が採れる場所の話をする。
「熊の油の石鹸も作りやすくなるし、石灰石は在庫しておきたいわね」
真望も石灰石の採取には積極的なようだ。
「そうなると、南西の島の辺りまでの移動手段の確立か」
一角が夕食をたべながら腕組みをして首をひねる。
「船か橋は必要ね。大量の石材を運ぶなら」
麗美さんもそう言い、首をひねる。
「それと、調味料不足が問題かも。最近、ダンジョン行ってなかったから、調味料の補充がなかったし、明日から塩味のみに逆戻りかな?」
明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
「それは困る。なら、明日は南東の島のダンジョンにレベル上げに行くぞ。最低限、醤油と味噌、あと焼肉のたれは在庫しておきたい」
一角が明日乃の報告に過剰に反応する。
「まあ、今日お祈りすればお祈りポイント44000ポイント強、ドラゴンに会っても逃げられるくらいは回復したしいけなくはないけどな」
俺は一角にそう答える。
「でも、トウモロコシの水煮にする作業とかしなきゃダメじゃない?」
琉生が心配そうにそう言う。
「なら、琉生は留守番してトウモロコシの調理を頼む。鈴さんはコルクの蓋作りだな。お昼過ぎには帰ってくるし、そこからみんなで作業すればトウモロコシの瓶詰も何とかなるだろ?」
一角がそう答える。一角はダンジョンに行く気満々だ。
「私はダンジョンでレベル上げに参加決定なのね」
真望ががっかりした顔になる。
「でも、琉生ちゃんがいないと、ドラゴンの炎対策ができないわよ? マグマに囲まれて逃げられなくなるわね。結界魔法も必須だし、明日乃ちゃんも外せないわね」
麗美さんがそう言い、一角が呆然となる。
「マジか? 麗美姉か明日乃の魔法で何とかならないか?」
一角が慌ててそう聞き返す。
「うーん、今の氷系の魔法じゃ、焼け石に水っぽいしね。水属性だけに」
麗美さんがそう言って笑う。
「麗美さんがレベル41になって次の魔法、超上級魔法を使えるようになるまでは琉生の土魔法くらいしかドラゴンが作るマグマの池には対策方法はなさそうだよな」
俺はそう言って腕を組んで悩む。
「じゃ、じゃあ、流司が留守番でどうだ? 流司も料理はできるし、鈴さんの手伝いもできるしな」
一角が慌てて俺にトウモロコシの水煮加工を押し付けてくる。
「いや、さすがに、ドラゴンの脅威がある今、女の子達だけで危険な島に渡らせるのは不安で無理だ」
俺はすぐにそう答える。
俺のいないところでみんながドラゴンに襲われるのは不安で仕方ない。
明日乃も俺と一角の顔を交互に見ながらうんうんと何度も頷く。明日乃も俺の留守番には猛反対のようだ。
「とりあえず、明日は、1つ目のダンジョンで調味料取りを我慢してもらって、明後日からレベル上げを再開したらいいんじゃない?」
麗美さんがそう提案し、みんなも賛成する。
「どっちにしろ、ドラゴン対策に、最低でもみんなレベル41にはなっておきたいし、早急にレベル上げは再開したいけどね」
俺はそう言って夕食と作戦会議を締めくくる。
とりあえず、明日は、近場のダンジョンで我慢してもらい、トウモロコシの水煮加工とそれ以外の作業を済ませ、明後日、本格的なレベル上げを再開したい。
このまま、ドラゴンを野放しにするわけにもいかないしな。まずは次の魔法の取得をめざしたレベル上げだ。
次話に続く。




