第116話 トウモロコシの収穫と新しい作業
【異世界生活 89日 7:00】
今朝は、昨日塩水に浸けておいたクマ肉の赤身の部分を一夜干しかごに入れて干し肉にする作業をし、ダンジョン攻略で休みがちだった麗美さんの剣道教室を久しぶりにして、落ち着いたところで、北の平原にトウモロコシの収穫に行く。
鈴さんは鍛冶作業、真望は麻布作りと熊の油作りの為に拠点で留守番、眷属達も二人の手伝いや拠点の見張りをする。
それ以外の俺、明日乃、一角、麗美さん、琉生の5人で、北の平原に向かい、トウモロコシの収穫を行う。
みんな背中に竹製の背負い籠を背負い、お昼ご飯用にお弁当と飲み水、一応非常食として干した魚も持っていく。
拠点から北西に歩き、小高い丘を登り、丘を下りたところから東に15分くらい歩いたところがトウモロコシの自生する畑だ。
まあ、自生といっても多分、神様達が一生懸命植えたんだろうけど。
【異世界生活 89日 10:15】
「流司お兄ちゃん、イノシシだよ。イノシシがトウモロコシを食べちゃってる」
琉生がトウモロコシ畑に近づいたところで慌てる。
「ちょうどいい。今晩の夕食になって貰おう」
一角がそう言い、背中から弓矢を下ろすと、矢をつがえる。
「ちょっと、まって、一斉に撃ちましょ?」
麗美さんが慌ててそう言い、クロスボウに矢をつがえだす。
それを見た明日乃と琉生もクロスボウを準備する。
俺は青銅の槍を槍投機に装着すると構える。
「準備できたか? いくよ?」
一角がみんなに確認をとると、少しずつ近づいていき、確実に当たる距離になったところで、矢を放つ。明日乃、麗美さん、琉生も同時にクロスボウから矢を放つ。
オーバーキルだな。俺の投槍はいらないだろう。
イノシシは4本の矢を受け地面に倒れる。
俺は急いでイノシシに駆け寄り、首に槍で一撃、とどめを刺し、ついでに血抜きも始める。
「結構、畑、荒らされちゃってるね」
琉生が残念そうにそう言う。
さっき倒したイノシシや他の動物たちも食べに来ていたのだろう。結構、倒されて、身を食べ散らかされている株が多い。
「まあ、これが自然だしな。残ったトウモロコシを収穫しても余るくらいだろ? 来年は拠点のそばに畑を作ってトウモロコシを植えてもいいしな」
俺はそう言って琉生を慰める。
実際俺達が食べ続けても余るくらいの量のトウモロコシが実っているし問題ないだろう。
「そうだね。食べきらないほど実っているし、無事なトウモロコシを持てるだけ持って帰ろう」
琉生はそう言って早速トウモロコシの状況を確認しながら無傷で食べごろそうなトウモロコシをもいでいく。
俺達も、琉生や秘書子さんに聞きながら食べごろのトウモロコシをもいでいく。
一角と麗美さんはさっき倒したイノシシを解体する作業を始める。
作業を続けているうちになんとなくだが、食べごろのトウモロコシの雰囲気も分かってきて収穫のペースが上がっていく。
一角と麗美さんもイノシシの解体が終わり、トウモロコシの収穫に加わる。
「みんな、お昼だし、少し休憩してご飯食べよ?」
明日乃がそう言って俺達を呼びに来る。
明日乃は先に作業を一区切りつけてたき火を焚いて、お弁当を温めてくれていたようだ。
そして、ついでにもぎたてのトウモロコシを焼いてくれたようだ。
茹でる道具も余分の水もない、もちろんアルミホイルなんてものもないので皮ごと弱火のたき火に放り込む蒸し焼き、焼き芋のような焼き方だ。
程よく焼けたところで、皮を剥き、拠点から持ってきた醤油をつけて遠火で二度焼きする。
香ばしい美味しそうな匂いがあたりに広がる。
明日乃一人だと大変そうなので俺も焼くのを手伝う。
「お祭りの屋台の焼きトウモロコシを思い出すわね」
麗美さんが嬉しそうに焼いている途中のトウモロコシを眺めてそう言う。
「1人1本ずつ味見ね。真望ちゃんも鈴さんもいないし、本格的に焼くのは夕食の時ね」
明日乃がそう言って焼けたトウモロコシを配っていく。
俺も1本貰い、焼きトウモロコシを頬張る。焦げた醤油の味が美味いな。
「うーん、美味いんだが、醤油だけだと何か足りないな」
一角がそう言って首をかしげる。
「多分、みりんかな? みりんを入れると甘味とコクがプラスされて、屋台のトウモロコシっぽくなる感じかな? もしくはソースを混ぜても美味しいよ」
明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
拠点にはみりんの在庫はなかったからな。
「じゃあ、拠点に帰ったら、ダンジョンでみりんも貰うか」
一角が余計な事を言い出す。
「とりあえず、トウモロコシを持てるだけ収穫したらね」
琉生がそう言って笑う。
竹製の背負い籠5個分と、空の竹かごに入れてきた麻布のリュック4つ分のトウモロコシをもいで持って帰る予定だ。
ちなみにリュックサック4つは琉生が虎の霊獣を召喚して背負わせるそうだ。
そんな感じでトウモロコシを試食して、お弁当も食べ、午後の作業も続ける。
結構時間がかかってしまい、今から拠点に帰ると夕方、一角が言っていたダンジョンでみりんを貰うのは無理そうだな。
イノシシの肉も手に入ったのでトウモロコシを持ち帰る量は減ってしまったが、琉生も満足そうな顔で、召喚した虎の霊獣にトウモロコシを詰め込んだリュックを二つずつ背負わせていく。
そして、朝来た道を引き返す。結構な斜面の小高い丘を2時間かけて越え、さらに1時間かけて拠点に着く。
予想通り、これからダンジョンに行くには時間がないな。もうすぐ陽が落ちる。
「おかえり、みんな。凄いトウモロコシの山じゃない。大収穫ね」
作業を終えた鈴さんが真望と一緒に迎えてくれる。
「腐る前に食べられる分は氷室に入れて少しずつ食べる感じで、残りは干して粉にして食べる感じかな?」
琉生がそう言って、干す分と氷室に入れる分を分けていく。
なんだかんだ言ってもぎたてのトウモロコシは生野菜と一緒だからな。氷室、冷蔵庫のようなものに入れても1週間くらいで腐ってしまい食べられなくなってしまう。
なので、残りは干して粉にして、スープにしたり、トルティーヤみたいなクレープ生地のようにしたりして食べる感じかな?
「トウモロコシって干して粉にしちゃうの? なんか、それってちょっともったいないわね」
真望がぼそりとそう呟く。
「だったら、水煮にして、瓶詰めにしましょ? その為にも瓶が必要ね。流司、みんな、明日、ちょっと山に登って珪石取ってきてくれる? できるだけたくさん」
鈴さんが突然そんなことを言い出す。
「ナポレオンの時代の瓶詰食品の再現よ。私も、元の世界で吹きガラスでコップや花瓶、風鈴みたいなものを作ったことあるから、秘書子さんにアドバイス貰いながらガラス瓶を量産しましょ? そうすれば1年以上、煮野菜や煮たお肉を保存できるようになるよ」
鈴さんが何故かやる気だ。
「まあ、確かに食材を美味しいまま保存する方法は必要だな。そろそろ干し肉や干し魚には飽きてきたし」
一角がそう言って鈴さんの提案に乗る。
とりあえず、明日以降、ガラス瓶作りを始め、次回取りに行くトウモロコシを水煮にして保存することに決まってしまった。
日が暮れるまでに、イノシシ肉をスライスして塩水に浸け、干し肉にする作業と、トウモロコシを干す作業をし、夕食は昼間獲ったイノシシ肉で焼肉パーティをする。
イノシシ肉と一緒にトウモロコシも焼いて美味しく食べる。醤油をつけて焼きトウモロコシにしたり、網で直接焼いて、焼肉のたれで食べたりする。
せっかくなので、紅茶と砂糖も出してちょっとしたパーティをする。
ドラゴンの件でみんな、モヤモヤしている部分あるからな。それを忘れる感じで、紅茶を飲んだり、焼きトウモロコシを食べたり、焼肉を食べて、楽しむ。
明日は過酷な山登りだしな。スタミナを十分につけて、交代で水浴びをして就寝する。
日課のお祈りも忘れずにする。ドラゴンから逃げる為にもお祈りポイントが必要だしな。
【異世界生活 90日 8:00】
次の日、焼肉パーティで遅くまで起きてしまったのと、イノシシ肉を干したり、トウモロコシを干したりする作業で忙しく、少し遅めに拠点を出発し、山に珪石を取りに行く。
鈴さんはガラスづくりに必要な道具を鍛冶で作るという事で留守番、真望も麻布作りと熊の油作りが忙しいと留守番し、明日乃は体力がないので、みんなが留守番を勧めた。
明日乃は真望と一緒に麻布作りをすることになった。
代わりに眷属のレオが荷物持ちとして同行する。
ちなみに他の眷属、シロとココは力仕事が苦手なようなので留守番、アオとトラは鈴さんが鍛冶の手伝いに必要ということで連れて行けず、レオのみの参加となった。
拠点の西にある川に沿ってひたすら西に歩き、山の麓まで1時間、途中から山道になってそこからさらに2時間、斜面がきついので休憩しながらそれ以上の時間をかけて山登りをする。
うん、毎回思うが、この山登り、明日乃を連れてこなくて正解だな。多分、体力に自信のない明日乃を連れてきたら途中で動けなくなるかもしれない。
そんなことを考えながら険しい山道を登っていく。
途中、休憩を入れて3時間半、お昼前に目的の珪石が採れる白い岩場に到着する。
とりあえず、休憩を含め、お昼ご飯を食べることにする。明日乃が作ってくれたお弁当、猪肉の野菜炒めをたき火で温め直して食べることにする。
「なんか、そろそろ果物が食べたいな。この世界にきてからイチゴくらいしか食べた記憶がない」
一角が疲れたのかぼやくようにそう言う。
「秘書子さんや明日乃の話だと柑橘類系は秋や冬が収穫時期のものが多いんだよな」
俺も同じような事を考えて明日乃や秘書子さんと相談したことがあったのだ。
「今の時期ですと、ブルーベリーやブドウが収穫時期になりだします」
秘書子さんが無感情な声でそう教えてくれる。
「ブドウはいいわね。食べても美味しいけど、ワインも作れるし」
麗美さんがお酒の事になって夢中になる。
「鈴さんが瓶作りに成功したら、ジャムとかジュースにして瓶詰め保存してもいいしね」
琉生もそんなことを言い出す。
「ブドウを収穫して足で踏んでワイン造り。異世界物のお約束だしな」
一角がそんなことを言い出す。
「異世界だとお約束なのか?」
俺は気になって一角に聞きかえす。
「知らん」
一角は適当な事を言ったようだ。
「まあ、ワイン造りは昔からあるし、比較的作り方も知られているからブドウさえあれば作りやすいかもね」
麗美さんがそう言ってワインを作る気満々のようだ。
「ちなみに、秘書子さん。この島でブドウってとれるの?」
俺は気になって聞いてみる。
「はい、昨日行った、トウモロコシ畑のさらに北の方にブドウが自生しているところがあります。これからがちょうどいい時期ではないでしょうか?」
秘書子さんはそう言って、マップにブドウ畑の位置をマークしてくれる。
「鈴さんのガラス瓶作りが落ち着いたら、ブドウも取りに行こうよ。そのままでも食べたいけど、ぶどうジュースにして保存して、ぶどうジュースが毎日飲めるようになる生活はちょっとあこがれちゃうな」
琉生がブドウに夢中だ。
「もちろん、ワインも作るわよ」
麗美さんはワイン作りにやる気だ。
「樽とか作るのが大変そうだし、収穫時期に間に合うか怪しいところだな」
俺はぼそっとそう言うと、麗美さんが悲しそうな顔になる。
「もしかして、ワイン、作れない?」
麗美さんが俺に縋りつくように聞いてくる。
「うーん、鈴さん次第かな? 樽を作ったり、桶を作ったり、ワイン作るのに色々道具必要そうだしな」
俺は何となくワインづくりを想像しながらそう答える。
「まあ、ワイン飲むの麗美さんだけだし、とりあえず、ガラス瓶作りが落ち着いたら、ぶどう狩りに行こう」
一角がそう締めくくる。
一角は自分に興味のない事には結構冷徹な女だった。
「トウモロコシの残りも刈らないとダメだし、小麦もそろそろ収穫時期だからね?」
琉生が心配そうに一角に突っ込む。
「やることいっぱいだな」
俺はそう言って笑う。
「そろそろ、珪石拾い始めましょ? レオちゃん、1人で黙々と作業してるし」
麗美さんがそう言って立ち上がる。
レオがやけに静かだと思ったら、1人で珪石を拾って背負子に積んでいる。お昼ご飯を食べる必要がないとはいえ、水臭い奴だな。
俺はそう思いながら、レオ一人で働かせるのは可哀想なので、珪石が採れる崖に向かい、手ごろな珪石を拾って背負子に乗せていく。
今日もからのリュックサックも持ってきて、少しずつだが、珪石を積めて、琉生の虎の霊獣を召喚して運ばせる予定だ。
俺の霊獣はカラスで荷物を運ぶ能力ゼロだし、一角のワシの霊獣は荷物を持って飛べるが、積載量は7キロ以下とたかが知れている。
麗美さんの亀の霊獣は基本、水中専用だし、地上では歩くのが遅すぎて使い物にならない。なので、いつも琉生の霊獣頼みになってしまう。
とりあえず、5人分の背負子に担げるだけの珪石を積み、テント生地のような麻布製のリュックに破れない程度、少しの珪石を入れて、それを4つ。
少し休憩してから、琉生の召還した虎の霊獣に背負わせ、帰路に着く。
鈴さんから何も説明を聞いていないが、また、耐熱煉瓦を作るのだろうか?
お祈りポイントが激減している現時点では琉生の魔法任せの耐熱煉瓦造りは難しい。いったいどうするのか心配になりつつも帰路を急ぐ俺達だった。
次話に続く。