第20話 謎の箱と新しい魔法
【異世界生活 5日目 7:00】
隣で添い寝をしていた明日乃の寝返りを感じて起きる俺。
『獣化解放』のスキルの後遺症は少し残っているが筋肉痛程度、昨日のように動けない程ではないな。
まあ、ウルトラマラソン100キロ走って、腕立て腹筋300回くらいずつやった後の筋肉痛くらいか。
うん、俺よく死なないな。
俺は、体の痛みをこらえながら起き上がり、シェルター(家)から出てみる。
クマに壊された明日乃や一角のシェルター(家)も直っているし、麗美さんのシェルター(家)だろうか、葉っぱに囲まれた三角の建物が新たに増えていた。
「おはよ、りゅう君。体調はどう?」
俺が起きたことに気づき、明日乃も起き出し声をかけてくれる。
そして慌てて駆け寄ると、俺を支えてくれる。
「ああ、筋肉痛みたいなものは残っているけど、動けない程じゃない。もう大丈夫だ。皆には心配かけちゃったし、昨日はやることたくさんあったのに手伝えなくて悪かったな」
俺は明日乃に回復の報告と昨夜のお詫びをする。
本当はもっとひどい状況なんだが明日乃に心配させないように笑ってそう言う。
たき火の方に向かうと側には一角とレオがいて何か作業をしている。
「りゅう君体調が良くなってよかったよ。おなかすいたでしょ? みんなもお腹すいただろうし、何か作るよ」
明日乃がそう言って駆け出し、料理の準備を始める。
そして一角の周りを見ると、たくさんの竹筒やヤシの実の殻とクマ肉の山。
「ああ、もしかして、干し肉の下準備してくれていたのか?」
俺は一角とレオに聞く。
「ああ、半日浸けておく時間を待つのが勿体ないからな。夜のうちに肉を切り分けて海水に浸ける作業をしていた。レオも海水を汲んできたり、干し肉籠を作る為の荒縄の材料とかも取りに行ってくれたんだぞ。飼い主より使えるぞ」
一角がそう言って俺を冷やかす。
「一応、飼い主は明日乃なんだけどな」
俺はそう言う。
「こら、レオをペットみたいに言わないの。大事な仲間なんだからね」
明日乃がそう言って二人を怒る。
とりあえず、たき火を囲み朝食をとりながら、昨夜の状況を教えてもらった。
昨夜、俺と明日乃が寝てしまった後、麗美さんと一角は交代で見張りをしながら、ひたすらクマ肉の赤身部分を薄切りにして海水に付け込んだらしい。ヤシの実の殻を皿にしたり、竹の筒を容器にしたりしてそれに海水を入れて、ひたすらクマ肉を放り込んだそうだ。脂身が多い部分はこれから焼いて今日の朝食と昼食と夕食らしい。
俺は明日乃の作る朝食が出来上がるまで、レオが集めて叩いて柔らかくした枯草を荒縄にしていく。干し肉を干す籠を作る材料だ。
「干し肉の篭もたくさん作らないといけないな」
山ほどある海水漬けのクマ肉を見てそう言う。
秘書子さんの話だと100食分、20キロ弱はあるらしい。脂身とか含めてだけどな。
「干し篭は10個くらい必要か? それとも中の段を増やすか?」
一角がそう言う。
「中の段を3段から5段にして、少しでも籠の数は減らそう、5~6個で済ませたいからな」
俺はそう言って、荒縄づくりを続ける。
そんな感じで作業をしていると、いい匂いがしてきて、明日乃の朝食ができる。
「クマ肉はちょっと癖があるけど、昨日取ってきた山菜や香草と食べると結構美味しかったでしょ? 今日は熊鍋じゃなくてクマ肉ステーキのネギもどき添えって感じかな?」
明日乃がそう言って竹のお皿にステーキと一緒に焼いたネギと玉ねぎの中間みたいな山菜をよそって持ってきてくれる。
みんな揃ったところで、朝食を食べ始める。レオは夜1食でいいらしい。
「ああ、美味しいな。このネギみたいな香草? これ、いいよな。イノシシ肉の時もそうだったけど、匂いも消えるし、香草自体も熊肉の脂を吸っていて旨いな」
俺はそう言って、ぺろりと食べてしまい、おかわりを貰う。食中毒対策だろう、よく焼いたちょっと脂身多めのクマ肉だ。
俺達がクマ肉を食べ、満腹になったところで、麗美さんが起きてくる。
「みんな早起きね。お姉さん、昨日の夜の見張りでまだ眠いわ」
麗美さんがそう言う。
時間は朝8時を回っていた。ただ、みんな昨日は遅かったからな。
「麗美さん、もう少し寝ていてもよかったんだよ? 起床時間は9時の予定だったし」
俺はそう言って、もう少し寝てきたらと勧める。
「いい匂いしてるし、もう、完全に目が覚めちゃったわよ。明日乃ちゃん、私の分もある?」
麗美さんがそう言ってたき火の傍に座る。
「焼きたてがいいと思ったんで、今から焼くね。準備はもうできてるし、すぐできるよ」
明日乃はそう言ってクマ肉のステーキを中華鍋で焼きだす。
熊の脂身を油替わりに使って上手く焼く明日乃。
俺はこの時間を利用して今日の予定を決める。
「今日はどうする? 魚捕りもしたいとか言ってたけど?」
俺はそう言って相談を始める。
「昨日はクマ肉がたくさん手に入ったから、魚採りはまだ先でいいかな?」
明日乃が調理をしながらそう言う。
「とりあえずは、クマ肉を干し肉にしないとな。そうなると、また一夜干しの籠を作り直さないと」
俺がそう言うと、明日乃が少し困った顔で、
「そうだね。ただ、クマ肉って、結構脂身が多くて、食べきらなくて、脂身だけ切り取ってゴミになっちゃいそうなんだよね。脂身は干し肉に向かないし困っちゃうよね」
明日乃がそう言う。
俺は気になって、脂身の使い道を秘書子さんに聞いてみる。昨日も麗美さんが熊の油はいい塗り薬になるって言っていたし。
「クマの脂は良質な油なので色々活用方法はあると思います。傷口を保護する軟膏がわりになるそうです。その他にも石鹸やろうそくも作れます。ただし、大きな鍋が必要になります。そして、石鹸の場合、さらに、灰と焼いた貝殻で強塩基を作る必要があります。どっちにしろ、鍋が一つしかないですし、油を濾す布が何枚か必要になりますし、活用は難しいと思われます」
と秘書子さん。石鹸は女の子たち喜びそうだよな。石器の鍋ができたら挑戦してみよう。
「クマの脂は色々使い道があるらしいけど、鍋が幾つかないとどうにもならないらしい。油を濾す布も何枚か必要らしいしな。土器ができて、油を濾す布もできたら油が作れるって感じかな?油から石鹸とかも作れるらしいよ」
俺はそう明日乃達に秘書子さんから聞いたことを伝える。
「石鹸はいいね。今一番欲しいかも」
明日乃が残念そうにそう言う。
「クマの脂は塗り薬にもなるらしいから、将来的には油を作る方法は擁立したいわね」
と、麗美さんは昨日話していた内容を繰り返す。
とりあえず、今回はクマの脂身は全能神様にお返しして経験値にしてもらうことになった。クマは☆2の獣というちょっと経験値がお得な獣らしいから脂を捨てるのももったいない。
脂身をまとめて、明日乃が代表してお祈りすると、みんな30ずつ経験値が上がる。戦闘貢献度は時間がたちすぎてノーカンっぽい?
そして、明日乃のレベルが1上がった。俺と一角はもう少しでレベルが上がりそうだ。
そして、麗美さんのステーキが焼きあがったので麗美さんは朝食を食べだす。
「朝からステーキはかなり重いわね」
麗美さんが少しげっそりした顔をする。
「これから当分、熊肉だよ。熊肉に飽きたら焼きバナナかな? ジャガイモみたいな味だけど」
俺はそう言って麗美さんに笑いかける。
「毎日焼きバナナも微妙ね」
麗美さんがさらにげっそりする。
「まあ、無人島みたいなもんだから贅沢は言えないな」
一角がそう言って、熊肉の海水浸けを続ける。
ちなみに、麗美さんはレベル10。
秘書子さんの話では、レベル10になると、経験値を大量に貯めないとレベル11になれないらしい。なんか、☆1から☆2? 才能上限を上げる儀式が必要とかで、要はスマホゲームでいうレア度を上げたり、進化させたりするみたいな感じか? あんまりスマホのゲームはやったことないからよくは知らないけれど。
とりあえず、みんなレベル10をめざすのが第一目標になりそうだ。
朝食が終わると、明日乃は朝食の後かたづけだ。レオと一緒に海に行ってお鍋を洗いに行く。
「大丈夫か? 俺もついていくぞ?」
俺は心配になって明日乃に声をかける。
「ここから、海は近いし大丈夫だよ。それにりゅう君、体調万全じゃないでしょ?」
そう言って笑う明日乃。
まあ、確かに、ここから緩い坂を下りれば海岸だし、ここから見える位置にある。走れば5分もかからない。ただ、食事ごとに毎回だとさすがに不安にもなる。
「なんかあったら大声上げろよ。魔法の通信も使ってもいいしな」
俺はそう言うと、明日乃は笑いながらうなずく。
俺は体が本調子ではないので明日乃に言われた通り、待機、荒縄づくりを始める。籠を作るのに大量に必要だからな。麗美さんもお腹が落ち着いたのか荒縄づくりを始める。
明日乃とレオがお鍋や調理器具や食器を洗って戻ってくる。
中華鍋は海水を軽く真水で流して、空焚き、使った後は熊の脂身で油をひくらしい。
明日乃が戻ってきたのでこれからの打ち合わせをする。
「とりあえず、午前中は一夜干し籠作りと干し肉つくりだな。クマ肉は結構な量だから籠は5~6個は必要だよな。秘書子さんの話だと20キロ近くあったらしいから」
俺はそう言って午前中の予定を決める。午後は探索かな?
「なあ、流司、私は昨日採ってきた麻の茎と竹で弓矢が作りたいんだがその作業をしてもいいか? あと、ちょっとアドバイスを秘書子さんから欲しいから少し手伝ってくれ」
一角がそう言う。
確かに、弓矢があればもう少しクマともいい戦いができたかもしれないな。
「それと、流司、実は、昨日から訳の分からないものがキャンプにあるんだ」
一角がそう言って怪訝そうな顔をする。
「訳の分からないもの?」
俺は聞き返す。
「実際見た方が早いかな? こっちだよ」
明日乃がそう言って俺を誘導する。
それはキャンプの中心、たき火の位置からだと微妙に見えない場所、土器を乾かしている日陰の家のすぐそばだった。
大き目の木の根元にそれはあった。
「箱? 棺桶? いや、宝箱か?」
俺は見たまんまの感想を口にする。
「うん、何だろうね? 外見はロールプレイングゲームに出てきそうな宝箱なんだけど、大きさは小さい子供が足を延ばして入れそうなくらい長いし、衣装箱というか、棺桶みたいな大きさだよね」
明日乃がそう言う。
確かに、まんまRPGに出てくる宝箱。全体的に赤く塗られていて金色の縁取りがされている。だけど横長だ。剣でも縦に入りそうなぐらいの長さだし、幅も高さもそこそこある。大きさは子供用の棺桶。まさにそんな大きさだ。縁起悪いけどな。
そしてよく観察してみると、宝箱? の鍵の部分みたいなところに液晶っぽいパネルがついていて『-1500』と表示されている。
「とりあえず、鑑定したら『神様の贈り物』だそうだ。説明文はないな」
一角がそう言う。
神様の贈り物? うさんくさいな。
「マイナス1500? どういう意味だ? とりあえず、開けてみるか?」
俺はそう言って箱のふたに手をかける。
「なんか、大きさ的に死体とか入ってそうで不気味だよね」
明日乃が言う。
怖いこと言うなよ。毒ガスとか毒針とかも出ないだろうな?
そして「ぎい~」と音を立てて開く宝箱? 蓋は重いが何とか開く重さだ。というか、あまりの異様さに全身、筋肉痛だったことを忘れていたよ。
筋肉痛の痛みをこらえて宝箱を開け切り、中を覗いてみる。
「どう? 大丈夫?」
明日乃が恐る恐る聞いてくる。
「うーん、空っぽだ。いや、まて、なんか紙が入っている」
俺はそう言い、箱の底から手紙らしき紙を取り出す。
「何々?」
俺はその手紙をみんなに聞こえるように読んでみる。
「よう、神様だ。ちょっとパワー不足で手紙で悪いな。これは、お祈りしてくれたお前たちへのプレゼントというか、約束していたものだ。中華鍋の時みたいに、お祈りのパワーを欲しいものや道具に変える箱。要はお祈りのお礼が返ってくる箱だ」
俺は手紙の途中で区切り、
「だってさ」
俺はそう言ってみんなにあきれ顔をする。
「なーんだ。そっか。でも、欲しいものが出てくる箱っていうのは魅力的だね。使い方も書いてある?」
明日乃はそう言ってちょっと期待する。
「なになに? 続きに書いてあるみたいだぞ」
俺はそう言って続きを読む。
「で、この箱の使い方だが、見て気づいたと思うが、箱の表面に、数字が表示されているのが分かるだろ? これがお祈りポイントだ。わかりやすいように1PT=1円くらいで表示している。だから、例えば、5000円くらいのものが欲しくなったら5000PTお祈りポイントを貯めて、欲しいものを思い浮かべながら箱にお願いすると俺、もしくは秘書子さんが作って箱に転送する。そんな感じだ。それと、お願いするものは、この箱に入る大きさのものじゃないとダメだからな」
「マイナス1500ってことは1500円借金しているってことか?」
一角がそう言う。
「そうみたいだな。仲間を呼ぶときのポイントもここから引かれるって手紙にもかかれているから、麗美さんを降臨させたときにマイナスになったと考えるのが正解だろうな」
俺は一角の質問に手紙の先に目を通し、そう予想する。
というか、このおっさん、『円』とかって日本の神様ってことか? なんかうさん臭さ増大だ。
「しかも、『-1500』の表示で桁がいっぱいみたいだからあまり借金もできなそうね」
麗美さんが箱を観察しながらそう言う。
という事は上限もたかが知れている? あまり高級なものはもらえないのかな?
「というか、いっぱい借金しちゃだめだよ。神様が寝たきりになっちゃうし、仲間こなくなっちゃうよ」
明日乃が麗美さんに警告する。
確かに神様が寝たきりはヤバイな。
「そうだな。借金はよくない」
一角も適当にそう言う。
「まだ続きがあるぞ」
俺はそう言って説明を続ける
「それと、欲しいものの材料を事前に入れてお願いしてくれれば、材料分の値引き、といっても10%くらいだけどな。材料を用意してくれればその分かかるポイントが減るサービス付きだ。例えば、麻の茎を入れて服をお願いすれば少しだけポイントがかからなくなるし、麻糸にしておいてくれればさらにポイントがかからなくなるって感じだ」
「なんだそりゃ?」
俺はあまりにもギャグみたいな使い方にあきれる。
「つまりこういう事?」
麗美さんがそう言って土器を乾かす家に保管してあった麻の茎を取り出すと、箱に放り込んで蓋をする。そして、
「ギャルのパンティおくれ」
麗美さんがそう叫ぶ。
すると、箱が光出し、ポイント表示がさらにどんどんマイナスになる。そしてポイントが止まると『-2400』に。900ポイント持っていかれた。
光が止まり、麗美さんが箱を開ける。
明日乃と一角も興味深そうに覗く。
「パンツだね」
「うん、パンツだ」
「しかもかなり地味だわ」
明日乃、一角、麗美さんがそう口をそろえる。
そして、麗美さんが手を突っ込みとりだすと、手にあるのは、本当に飾り気のない、女性用の布のパンツだった。なんか有名なファストファッションのお店にあるみたいなやつを昔の縫製技術で作りました。みたいな本当に地味な麻布のパンツだった。
「というか、麗美さん、勝手な事しちゃダメじゃない。これで、また、次の仲間来るの遅れちゃったんだよ? しかもパンティって何? せめて洋服とか優先順位もあるでしょ?」
明日乃が結構本気で怒っている。
「いや、ね、ちょっと、昔読んだ漫画のネタを思い出しちゃってね。というか、実際パンツ欲しかったし。怒らないでよ明日乃ちゃん。実は私の為にお願いしたんじゃないんだよ。明日乃ちゃんのサイズを考えてお願いしたの。私のにしては少し小さいでしょ? これあげるから許して。機嫌直してよ」
麗美さんがそう言って、明日乃に白いパンツを献上し平謝りしている。
「それに、流司クンも明日乃ちゃんのパンティ姿見たら喜ぶかもよ? 久しぶりの文明だし、裸よりエッチかもしれないわよ」
麗美さんがそう、余計な事を付け足していやらしい笑顔をする。
「もう! 麗美さん!!」
そう言って、おこりながら、麗美さんからパンツを奪い取る明日乃。
結局貰うのか。
「とりあえず、勝手にこの箱を使うの禁止ね。あと、仲間が7人そろうまではなるべく使わない方がよさそうだ。お祈りポイントが共通らしいし」
俺はそう言って、箱を覗き、材料の残りらしい麻の茎を取り出す。材料は余ったら返してくれるっぽいな。
「そうだね。麻布の服は欲しいけど、仲間そろってからかな」
明日乃が残念そうに言う。
「それに、服より、ナイフだろ? そのままでも武器にもなるが、棒の先に着ければ槍にもなる。なにより、変幻自在の武器1本だけじゃ、色々効率悪いし」
一角がそう言う。
そうだよな。確かに人数分の刃物は欲しいな。
「でも、材料の鉄とか探すの大変そうね。そうなると割引なしでお願いって感じかな?」
麗美さんがそう言う。
そうだな。ナイフ1本、いくらくらいで交換なんだろうな? 5~6000円くらいか?
「まあ、そのあたりもみんなで相談しようね。とりあえずはポイントの節約とお祈り沢山して、仲間7人来てもらおうよ」
明日乃がそう締めくくる。
「えっと、後は、手紙に書いてあることは」
俺は残りの手紙を読む。
「それと、異世界なのにお前達、魔法使わなすぎ。まあ、経験値=MPっていうクソゲー仕様なので使いたくないのは良く分かる。だから、新しい魔法として『神精魔法』というのを作ってやった。要はこれもお祈りポイントで使う魔法だ。神様、つまり俺の力を精霊経由で使う魔法。だから神精魔法だ。まあ、詳しい使い方は秘書子さんに聞いてくれ。今回、お祈りポイント使えばみんなに秘書子さんの声が聞こえる機能も追加したしな。伝えたい事は以上だ。また一生懸命祈ってくれ。俺が起きて手伝えるようにな」
「追伸 クマとの闘いの前のお祈りは良かったぞ。みんな一生懸命でかなりパワーを感じた。あんな感じで一生懸命祈ってくれよ」
これで手紙は終わっている。
「神精魔法?」
みんなが首をかしげる。
「リュウジ様、皆さんに説明しましょうか? 10分200ポイントでアスノさんに降臨、要は体をお借りして、皆さんに私の言葉を伝えることができるようになりました。というより、そうしてもらった方が説明の効率がいいです」
秘書子さん、アドバイス女神様が俺にそう声をかける。
「明日乃に降臨とか、体に影響とかないのか? それに明日乃には聞こえないんじゃないか?」
俺はあまりのうさん臭さにそう聞く。
「大丈夫です、一瞬だけですし、リュウジ様と会話しているのと同じような仕組みです。ただ、祈りの力が必要になるので多用はできませんが、リュウジ様が伝え直す手間も省けますし、伝え間違いなども防げます。そして、もちろん喋っている内容はアスノ様にも聞こえます」
秘書子さんがそう言う。
「秘書子さん、ちなみに、なんで明日乃指定? 一角や麗美さんじゃダメなの?」
俺は気になって聞く。
「ずばり、アスノ様は信仰心が高いからです。降臨時のエネルギー効率がいいですし、神との親和性が高いので私も不快感が少なくてありがたいです。逆にイズミ様やレイミ様は信仰心が低いのでポイントもたくさんかかりますし、何より私がつかれるので」
秘書子さんが無感情だが、なんとなく力説しているような感じでそう言う。
俺は明日乃に、この事を相談し、判断を仰ぐ。
「それって、私もりゅう君みたいに話せるってこと?」
明日乃に聞き返される。
「それも可能です。実際、アスノ様の感覚は今のリュウジ様と同じ感じになりますので。ただし、アスノ様が利用される場合、私への報酬、10分200PT、時給1200円かかります」
秘書子さんがそう俺に答える。
秘書子さん、とうとう時給1200円とか言い出しちゃったよ。コンビニのバイトかよ。
「秘書子さんと明日乃も俺と同じように話せるようになるってさ。ただし、10分200PT、時給1200円だってさ」
俺は明日乃にそのまま伝える。
「ポイントかかるのは困るね。とりあえず、今日は魔法の説明とか面倒臭そうだから、その『降臨』ってやつ試してみようよ。とりあえず、10分で説明終わらせてもらう感じで」
そう言って明日乃は秘書子さんに体を貸すことを承諾する。
「それではいきます。10分で何とか説明します」
秘書子さんがそう言って俺の目の前から消える。
そして、明日乃の体が光り出す。
眠るように目を閉じた明日乃。そして、目を開けるといつもの黒いきれいな目の色が金色に輝く。
これはこれで神々しく美しいが明日乃とは違う何かを感じる。
「降臨に成功しました。私が秘書子です。時間もないので手短に説明します」
秘書子さんがそう言って早速説明に入る。声も明日乃の声ではあるが、ちょっと秘書子さんの声色にも似ている。そしていつもの無感情な響きだ。
そして箱の数字が200ポイント引かれて『-2600』になる
「神精魔法。名前の通り、精霊を経由して神の力を借りる魔法です。神様は力を使うと眠りにつかなくてはいけません。そのため、神が常時魔法にかかりきりになるのは難しい。そこで常時魔法を発動できるように精霊に神の力の一部を行使する力を与え、補助してもらう。それがこの魔法の仕組みです。神の力が原動力となるので祈りの力を消費することとなります。そして精霊は七種類。風火土水の四大精霊に、金を含めて五大精霊、それに光と闇の精霊が加わり、7種類となります。精霊=簡易神様とでも考えてください」
秘書子さんの入った明日乃がそう説明する。
「光と闇、なんか明日乃と俺の適正とか聞いたことがあったな。変幻自在の武器を貰った時だったか?」
俺はぼそっとそんなことをつぶやく。
「その通りです。リュウジ様、アスノ様はもちろん、これから現れる予定の仲間含めて7人にそれぞれ適性があります。ちなみにイズミ様は風、レイミ様は水との相性がよさそうです」
秘書子さんが俺の言葉に反応してそう言う。
「私が風で、麗美姉が水の精霊と相性がいいのか。ということは、私の使える魔法は風の魔法だけってことか?」
一角が今の説明に反応する。
「いえ、あくまでもイズミ様は風と相性がいいというだけで、簡単な魔法、生活魔法は四大精霊の魔法が使えます。以前、光の精霊と相性が良いアスノ様が火の魔法をつかったように」
秘書子さんが質問に答えるように話を進める。
「とりあえず、使える魔法は、後程、スキルウインドウに追加しておきますので説明も含めご確認ください。そして、それぞれの魔法の使い方の違いですが、マナを使った『原初魔法』はイメージするだけで使えますが、マナを消費してしまう。そして『神精魔法』は詠唱、神に祈り、精霊に願う必要があります。火の魔法を使うなら『火の精霊よ、神の力をお借りし、魔法の力を示したまえ』のような感じです。神と精霊を意識すれば『神精魔法』になるという感じです。まあ、細かい詠唱は適当で大丈夫です」
と秘書子さん。結構適当だな。
「で、もちろん、先ほど確認いただいた、神の贈り物の箱の表示がマイナスの間は『神精魔法』は使えないのでご注意ください。そして、お祈りポイントは仲間全員で共有なので、取り合いやケンカをしないように魔法は計画的にお使いください。そろそろ10分経ちますが延長いたしますか?」
と秘書子さんの説明は大体終わったようだ。
「延長はいいかな、わからないことは俺が聞けばいいし、まずはスキルウインドウを見てみるよ」
俺はそう言って魔法の説明と明日乃への降臨を終わらせてもらう。
「承知いたしました」
秘書子さんがそう言うと、明日乃の体の光が消えて、彼女が少しふらつく。
「大丈夫か明日乃?」
俺が駆け寄ろうとするが、筋肉痛で動きが遅れる。代わりに近くにいた一角が明日乃を支える。
「大丈夫だよ。ちょっとふらっとしただけ。別に疲れるような儀式じゃないみたいだし。というか、いつもりゅう君こんな感じで話していたんだね。すごく不思議な体験だったよ」
明日乃が少し興奮気味にそう言う。
「まあ、お祈りポイントに余裕ができたら秘書子さんと話すといいと思うよ。秘書子さんの知識量は凄いからな」
俺は明日乃にそう言う。
「そういえば、この宝箱って、動物とか魔物に壊されちゃったり、盗まれちゃったりしないのかな?」
明日乃が気になったらしくそう俺に聞く。
「それは大丈夫です。丈夫な結界で守られているのでリュウジ様達7人以外は触れないですし、認識することもできません。そして、レオ達眷属も認識でき、触れることはできますが、使うことはできないのでご注意ください」
秘書子さんが明日乃の質問に答えてくれる。
俺はそのままみんなに伝える。
「じゃあ、とりあえずこのまま置いておいていいってことかな?」
麗美さんがそう言う。
「まあ、できれば屋根くらいあるところに移動してあげようぜ」
俺はそう言う。神様に貰ったものだしな。神棚や祠じゃないけど、それなりに扱ってあげたい。
「そうだね。たき火から見えるところに移動して、そこに家作ってあげようよ。土器のところにあるみたいなのをね」
明日乃も賛同してそう言う。
「箱はとりあえず、私と一角ちゃんで運ぶわ。流司クンはもう少し休憩していなさいな」
麗美さんがそう言うと、一角と二人で箱を持ち上げ、少しだけ動かしてたき火から見える位置に置き換える。俺の体調不良がバレて気遣ってくれたようだ。
木の根元に置くと、なんか御神木っぽく見えてかっこいいな。気のせいかもしれないけど。
「あ、そうだ、今日は早めにお祈りしてみない? 一人ずつお祈りしたら、何ポイント増えるか分かるんじゃない?」
明日乃がそう言う。
たまに怖い事言うな。この子は。それって、信仰心が高いとお墨付きをもらった明日乃はいいが、信仰心が低いと予想される俺達3人は抜き打ちテストというか公開処刑だぞ。
「ま、まあ、やってみてもいいんじゃないか?」
一角がどもる。俺と同じ意見に達したのだろう。
「じゃあ、私からやるね」
そう言って明日乃が一生懸命お祈りする。
すると、『-2600』と表示された箱の数字もくるくると回り出し、数字が止まって表示されたのは『-1100』。
「2600から1100引くと1500? 明日乃すごいじゃないか。1回のお祈りで1500円分のポイントだぞ」
俺はそう言って褒める。
「1500円分って、なんだか、お店のポイントカードみたいな言い方するなよ。もう少し言い方があるだろ?」
一角が呆れる。
「一角もやってみろよ」
俺は無茶振りする。
「いやいや、流司が先だろ?」
一角が慌てて反論する。
結局じゃんけんをして俺がやる事に。
恥ずかしい目に会わないようになるべく一生懸命お祈りする。
「なになに? 『-600』? ぷっ、ははははっ、流司のお祈りは500円の価値しかないってさ」
一角がそう言って豪快に笑う。
「一角ちゃん言いすぎだし笑いすぎだよ」
明日乃が一生懸命擁護してくれるが顔が少し笑っている。
ちくしょう、なんだかものすごく悔しい。
「一角もやってみろよ」
俺は一角に強要する。
「あ、ああ。わかったよ」
一角は恐る恐るお祈りを始める。
「ええっと、なになに?『-100』? ぶははははははは。一角だって500円じゃないか。やーい、ワンコイン女」
俺はさっきの恨みを晴らすように散々馬鹿にする。
一角が怒りと恥ずかしさでプルプル震えている。
「ワンコイン女はちょっとひどいわね」
麗美さんが少し呆れて、お祈りを始める。
うん、ちょっと言いすぎた。俺は猛反省する。
麗美さんのお祈り表示は『900』。1000ポイント増えた。彼女の信仰心は俺達よりは少し高いようだ。
「みんな合わせて3500ポイントね。結構1日で貯まるものだね」
明日乃がそう言って少し喜ぶ。
確かに1日3500円ならすぐ貯まりそうだな。しかも7人そろったらもっと増えるわけだし、結構ナイフ人数分とか夢じゃなくなってきたな。
「まあ、『神精魔法』? 新しい魔法もお祈りポイント使うらしいからこのポイントをどう使うかみんなで考えないとな。仲間の降臨も急ぎたいし」
俺はそう締めくくる。
「そうだね。仲間が最優先だね」
明日乃も同意する。
「というか、さっき神様に経験値化してもらっちゃった熊の脂身? この箱で熊の油とか石鹸にしてもらったらよかったかもね」
麗美さんがぼそっとそう言い。みんながっかりする。
言われてみればそのとおりだ。ポイントは勿体ないけど塗り薬にもなる熊の油は魅力的だもんな。
そんな感じでわいわい、箱を囲んで騒ぎ、少し落ち着いたところでみんなが時間を気にしだしたみたいなので、
「なんか色々あったけど、とりあえず、みんなで、スキル確認したら、作業に戻ろうか」
俺はそう締めくくり、作業に戻るのだった。
うん、短時間に色々あったな。
次話に続く。
ちょっと追加要素が増えるので説明が多くなります。
申し訳ありません。
あと、神様から貰った箱の借金は麗美さんの予想どおり-9999円までしかできません。余談ですが。




