第108話 3つ目のダンジョンからの撤退と拠点への帰路
【異世界生活 80日 10:00】
南東の魔物の島にあるダンジョン、3つ目にダンジョンに挑戦し、4階の前半で撤退した俺達。
ドロップした防具を装備し直し、ドロップアイテムをまとめ、地上階のエントランスまで上がってくる。
「外で敵が待ってるみたいよ?」
一角と一緒にダンジョンの出口から外を覗いていた真望がそう言う。
俺も覗くと、確かに外にワーウルフが30体ダンジョンを囲むように布陣している。
弓矢や魔法で攻撃したら避けられそうな絶妙な距離だ。
10体ずつ3組、右、中央、左に布陣している。
「囲まれたら面倒臭いわね」
麗美さんも、出口から外を覗きそう呟く。
「後ろを取られるのも嫌だな。明日乃が危険にさらされそうだ」
俺はそう答える。
「かといって、明日乃ちゃんを守るように円陣で待ち構えたらまさに前と左右から囲まれるしね」
麗美さんが俺にそう答える。
「私も戦えるよ」
明日乃がそう言うが、INT特化で、INT以外のステータスが他のメンバーより低い明日乃に合わせるとどうしても進軍速度が遅くなってしまう。そして、自然と最後尾が明日乃になってしまうことが多い。そして明日乃を守るように進軍すると敵に囲まれてしまう可能性がある。
「まあ、今回は魔物の殲滅が目的だから、明日乃はダンジョンの中で待っていてくれ。殲滅には速度も必要だし、荷物を持って戦うのは愚策だしな。ここで荷物を守って欲しい」
俺はそう言う。
明日乃は拠点防衛、そこに留まって戦う場合には最強の仲間だが、移動しながらの戦闘には向かない。
「わかったよ。危なくなったら、ここまで戻ってきてね。治癒魔法で回復するから」
明日乃がそう言って笑う。
本人も戦闘における自分の長所と短所は理解していると思う。
俺は背負った荷物を下ろし、明日乃に預ける。
他のメンバーもリュックサックを下ろし身軽になる。
「ちなみに私も戦闘に参加する方よね?」
真望が嫌そうにリュックを下ろす。
「どうせ、また、麻布づくりで、引きこもる気満々だろ? 今のうちにレベル上げられるだけ上げておけよ」
一角が意地悪そうにそう言い笑う。
「まあ、琉生も田んぼやニワトリの世話で忙しくなり出したから、真望にもダンジョン攻略に交代で出てもらうつもりだけどな。鈴さんはさらに忙しくてレベル上げする余裕もないし」
俺は真望にそう言う。
「もう、仕方ないわね。琉生ちゃんとは交代で、だからね?」
真望はそう言って、荷物を完全に下ろすと、リュックサックに付けてあった青銅の小盾を左手に持ち、青銅の剣を腰から抜く。
「一気に行くぞ。獣化義装、獣化補助魔法ありで、10分で蹴散らす」
一角がそう言って獣化義装をまとい、それと同時に補助魔法を使いステータスが跳ね上がる。
俺も、獣化義装をまとい、補助魔法を使い、変幻自在の武器を少し刃の太いサーベルに変化させ戦闘準備を整える。
「とりあえず、右手の10体を倒して、撤退ルートを確保してから正面、左の順に倒していく感じかしらね」
麗美さんがそう言い、俺は頷く。
「麗美姉、先にいかせてもらうよ」
一角はそう言って、右の10体の右端から舐めるようにすれ違うルートで走り出す一角。
包囲陣を右から一舐めする感じで走り抜ける気だろう。
右の敵を混乱させつつ、正面や左の敵を牽制するにはちょうどいい。
麗美さんは、気にせずに予定通り右に展開するワーウルフに向かってまっすぐ走り出す。
俺も麗美さんの横に並ぶように走り出し、真望がその後を追いかける感じだ。
ワー ワー ワー ワー ワー
ワー ワー ワー ワー ワー
ワー ワー ワー ワー
ワー ワー ワー ワー
ワー ワー 麗美 ワー ワー
ワー ワー 真望 → ワー ワー
ワー ワー 流司 ワー ワー
↑
一角
山山山山山山山山山山山山|ダ|山山山山山山山山
山
ハー ハー ハー ハー 山
ハー ハー ハー ハー 山
ワー=ワーウルフ
ハー=ハーピー
|ダ|=ダンジョン入り口
最初に一角が右のワーウルフの群れの前を横切りながらワーウルフ達を斬り裂いていき、そのまま正面の群れの前も同じように斬り裂きながら高速で走り抜けていく。
ワーウルフが混乱する。
それに合わせて、麗美さんが右の群れに斬りかかり、俺と真望も後に続き、一角が仕損じたワーウルフにとどめを刺すように斬りつける。あっという間に混戦状態になる。
麗美さんの武器は薙刀のような長柄の片刃槍だ。
薙刀のような武器をくるくると回しながら右に左にワーウルフを切り裂き、柄の方の石鎚で殴り倒し、蹴散らしていく。
俺と真望は麗美さんに邪魔にならない距離で、1匹ずつ着実に倒していく。
「流司クン、真望ちゃん、次行くわよ」
麗美さんはそう言って中央の群れに斬りかかっていく。
ぶっちゃけ、一角と麗美さん二人いればいいんじゃないか? ってくらいの無双っぷりだ。
俺は麗美さんが後ろから襲われないように、麗美さんが仕損じた? いや、俺達に任せてくれた分のワーウルフを確実に仕留めていく。
そして、折り返して帰ってきた一角が群れをすり抜け、切りつけ、ワーウルフの群れが混乱する。
そして一角はすり抜け終わった後は広場を大きくぐるっと円を描くように回って帰ってくる感じだ。
「一角ちゃんの獣化補助魔法は本当に旋回性が悪いわね。広いところでは使えるけど」
真望がその姿を見て呆れるように言う。
確かに、こんな感じの広い戦場では一角の補助魔法は生きてくるが、うーん、本当に無駄な動きが多いな。
そんなことを考えながら一角の動きを見ていると、ぐるっと大きく回ってきた一角が、
「流司、真望、お前ら動きが止まってるぞ。さっさとワーウルフを倒せ」
一角がそう叫びながらもう1回ワーウルフの群れを横切り、血の雨を降らす。
俺も気を取り直して、一角が仕留めそこなったワーウルフ達にとどめを刺しながら最後の1群、左の群れに向かって走る。
麗美さんも最後の1体を倒し、左の群れに斬りかかる。
「流司、山の斜面にハーピーもいるわよ。様子見みたいだけど気を付けて」
真望がそう教えてくれる。
確かに、ダンジョンの入り口の裏の方、山の中腹に20体ほどのハーピーが立っていて、俺達の様子を窺っている。
ハーピーを気にしつつも、残った左の10体のワーウルフを斬り倒していき、最後に麗美さんが最後の1体を倒し、戦闘が終了する。
ハーピーは結局動かない。
みんな武器をクロスボウに持ち替え矢をつがえ、ハーピーを迎え撃つ準備。
俺はワーウルフの使っていた粗悪な青銅の槍を5本拾い、投擲の準備をする。
「流司クンは完全に投槍専門になっちゃった感じね」
麗美さんが俺の姿を見てそう言い笑う。
「俺の場合、『投擲』スキルっていうのがあるから、こっちの方が速射性いいんだよね。できれば飛距離や命中度がもっと上がるといいんだけど」
俺はそう言って槍をいつでも投げられる準備をしつつ、ダンジョンの入り口に向かって歩く。
後ろからついてくる真望が神様にお祈りをして、ワーウルフ達の死骸をマナに還し、経験値化する。
俺が持っている槍以外も光になって消えていき、ワーウルフ達の着ていた防具も死骸と一緒に消える。
「真望、悪いんだが、ダンジョンに入って明日乃と一緒に俺達の荷物を持ってきてくれるか? 俺達は外でハーピーを監視するから」
俺はダンジョンから少し離れた場所で立ち止まり、真望にそう言う。
あまり近づきすぎると、ダンジョンの建物の影と山の斜面でハーピーが見えなくなるのだ。
「分かったわよ」
真望が少し面倒くさそうにそう返事をするとダンジョンの入り口に入っていく。
ハーピーに動きはない。
「ハーピー達は朝の戦闘で私たちのクロスボウの怖さを知ってるしね」
麗美さんがハーピーを牽制しつつそう言う。
このまま、ハーピーが帰ってくれれば撤退も楽なのだが。
しかも、今の状態だと、明日乃の結界がないのでハーピーの投石攻撃を避けるのが面倒臭くなりそうなんだよな。
そんな感じで睨み合いを続けていると、ダンジョンの出口から真望と明日乃が俺達の荷物を持って外に早足で飛び出してくる。
「明日乃ちゃん、後ろにハーピーがいるから気を付けて」
真望がそう言って、明日乃に注意喚起する。
明日乃が慌てて振り向くがダンジョンの四角い建物が影になって見えていないようだ。
もちろんハーピーにも見えていないのでハーピー達にも動きがない。
俺達はハーピーに明日乃達が見えた瞬間が一番襲ってくる危険性があると考え、クロスボウや投槍を構える。
予想通り、明日乃と真望の荷物を見て、ハーピーが騒ぎ出す。
「あいつら、肉が目当てか?」
一角がそう言って弓矢を構える。
「ワーウルフを襲った時に美味しい目に会えた可能性はあるな」
俺は一角にそう答える。
「せっかく鶏肉を手に入れたんだ。ハーピーにかっさらわれるわけには行かないな」
一角がそう言って矢を放ち、一番手前を飛んでいたハーピーを打ち落とす。
「明日乃、落ち着いてここまで来い。ハーピーが目視できるところまで来たら結界を張ってくれ」
俺はそう言い、槍を構える。
だが、この距離ではあたる自信がない。明日乃たちを迎えに行くように少し前進しながら、もう少しハーピーが寄ってくるまで、槍を構え続ける。
真望と明日乃は後ろを気にしながら重い荷物を持って俺達の方に早歩きで進む。
麗美さんがクロスボウの矢を放ち、ハーピーがもう1体墜落する。
俺はさらにもう少し前に進み、槍を投擲する。ハーピーの横腹に槍が刺さり、ふらふらと墜落していく。致命傷ではないが墜落した衝撃で飛び立てなくなる。
一角が2射目の矢を放ち、もう1体ハーピーが墜落する。
俺も槍を持ち替え、再投擲。今度も致命傷ではないがハーピーがよろけながら落ちてくる。
そして明日乃と真望が俺の横をすれ違い、
「りゅう君、結界を張るよ」
明日乃が麗美さんや一角と合流したところでそう叫び、魔法の詠唱を始め、結界を張る。
そして、結界内から一角の3射目と麗美さんの2射目が放たれる。
「これ以上はヤバいか」
俺はそう呟き、3投目の槍を投擲し、結界内に飛び込む。
そして、上空から石が大量に降ってくる。
結界に守られて俺達は無傷だが、結界がなければ結構危険な量と大きさの石の雨だ。
無傷な俺達を見て悔しそうに「ギャアギャア」と鳴くハーピー達。
明日乃と真望も、荷物を置き、クロスボウの装填を始める。
俺も槍を持ち替え、4投目を構える。
石を拾いに山の斜面に戻っていくハーピー。
おれは4投目の槍を投げ、一角も4射目を放つ。
そして、麗美さん、明日乃、真望の3人がクロスボウから矢を放ち、ハーピーが射程外に逃げていく。
10体以上のハーピーが地面で暴れている。数体は致命傷だったようで動かなくなっているが、多くは致命傷には至っていない。槍も投擲では刺さりが甘いし、当たる場所も不安定だ。
「弓矢や投槍だけで致命傷を与えるのは難しいな」
俺はそう言って、去って行ったハーピーに注意をしつつ、地面で暴れるハーピー達にとどめを刺す。
「そうだな。戦術的に弓矢を使うなら数が必要だ。弓矢を個人で使ってもたかが知れている」
一角がそう言う。
まあ、ハーピーが空を飛ぶのだからしかたない。苦肉の策ってやつだ。
結界で動けない明日乃以外で地面に落ちているハーピーにとどめを刺していき、ハーピーの次の攻撃に備えるが、数を失いすぎたせいだろうか、結界で攻撃が無効化されることに嫌気がさしたのか残りのハーピー達は山の山頂の方へ飛び去って行く。
「終わったのかな?」
俺はそう呟き、最後のハーピーにとどめを刺す。
「とりあえず、ハーピーやワーウルフの追撃を警戒しながら帰りましょ?」
麗美さんがそう言うので、頷き、明日乃の結界のところまで戻り、荷物を背負う。
「明日乃、力仕事させて悪かったな」
俺はそう謝り、
「ううん、私も殲滅戦では役に立たないし、適材適所? 仕方ないよ」
明日乃が申し訳なさそうにそう言う。
「私なんて両方やらされてるんですけど? 雑用係感、半端ないよね?」
真望がそう言ってへそを曲げる。
「真望も私みたいに積極的に魔物狩りやダンジョン攻略に加わるようになれば雑用係を卒業できるぞ」
一角がからかう様にそう言って笑う。
まあ、確かに、戦闘向きなメンバー、生産向きのメンバー、そして前に出て戦う戦闘向きではない明日乃。行動に差が出つつあるな。
「たまには一角にも機織り機の前に1日座らせて細かい手作業とかさせないとだめそうだな」
俺はそう言って一角をからかい、一角は嫌そうな顔をする。
そんな感じで、ダンジョン撤退後のドロップアイテム争奪戦が終わり、拠点への帰路に着く。
ハーピーに襲われないように右手に見える山を警戒しつつ、左手の森からはワーウルフが襲ってこないか警戒しながら、南東の魔物の島を後にする。
【異世界生活 80日 12:30】
白い橋までは無事、戦闘もなく帰りつき、白い橋を渡って元の島に戻り、遅い昼食を食べる。
朝食の時に一緒に焼いた焼き魚を、もう一度軽くあぶって食べる。
「やっと、魚だらけの食事から解放されるな。どうせだから鶏肉に合う調味料をダンジョンで貰いに行こう」
今日、ダンジョンで手に入れた『とり肉』がよっぽどうれしかったのか、一角がそう言って笑う。
「あれって、ハーピーの肉じゃないんだよね?」
明日乃がまだ疑っている。
一応鑑定ではニワトリの肉と書いてある。
「鶏肉に合う調味料ってなんだよ?」
俺はそう言って呆れる。
「胡椒とか、ケチャップとかあると嬉しいかな? もしくは焼き鳥のタレとかも希望すれば貰えるのかな?」
明日乃が一角の話に真剣に答える。
「焼き鳥のタレ。それはいいな。それを貰おう」
一角楽しそうにそう言う。
「ダンジョン2戦目確定なのね」
真望がそう言って呆れる。
「あっ、そうだ。朝の茎の腐らせる作業? 最近やってないでしょ? ダンジョン行くなら、琉生ちゃんも連れて麻の茎も腐らせて来てよね」
真望が思い出したようにそう付け足す。
言われてみると、最近、田んぼ作りとか忙しくてほったらかしだったな。
「明日も、南東の島に行くんでしょ? ほどほどにね」
明日乃が呆れ声でそういう。
「もちろん、明日乃も面子にはいっているからな」
一角が満面の笑みでそういう。
「とり肉を燻製にする作業がしたかったんだけどな」
明日乃が残念そうな顔でそう言う。
「そうだな、南東の島の攻略は1日おきにするか。毎日早起きは辛いし、ドロップアイテムとか色々無駄になりそうだしな。一角は麗美さんと白い橋から魔物狩りをすればいい。まだまだ、ワーウルフもハーピーもたくさん残っているしな」
俺はそう提案する。
「そうだね。とりあえず、明日は簡単な作業で1日ゆっくりするといいかもね」
明日乃がそう言い、一角以外は賛成する。
「私は早くダンジョン攻略したいんだけどな」
一角がお昼ご飯の魚をかじりながら不満そうにそう言うのだった。
次話に続く。




