第19話 体力回復とクマ来襲の後始末
【異世界生活 4日目 20:30】
クマから攻撃されたときに、俺が庇いに入ったことをやたら怒る一角。
一角のプライドを傷つけてしまったのだろうか? それとも、俺が怪我をして一角と明日乃の関係が悪くなるのを嫌ってのことだろうか?
俺には今の一角の気持ちはよく分からない。
「まあ、その話題はほどほどにして、家の修理をしましょ? このままだと満天の星空の下で寝ることになりそうだし」
麗美さんが、話題を変える。
言葉につられて、夜空を見上げると確かに星が綺麗だった。というか、なんかボヤっとした光で、あれって星なのか? まあ、いいか。
「そうだな。明日乃は夕食を作る。私と麗美姉は家と柵の修理。レオも手伝え。そして、流司はとりあえず寝てろ。そして早く体を治せ」
一角が怒った声でそう指示する。
一角は本当に怒りっぽいな。
「手伝えなくて悪いな」
スキルの後遺症で動けない俺は寝たままみんなにそう謝る。
「まあ、荒縄はいっぱい作ってあるし、修理するための材料も私とレオで事前に集めてあるから比較的早く終わると思うよ」
明日乃が俺を安心させるようにそう言う。
そうして、みんな、クマ来襲の後始末、家の修理など、それぞれの作業に移り、明日乃は俺の傍、たき火の周りで料理を始める。
てきぱきと料理を進めていく明日乃。
「明日乃は料理の手際がいいな」
俺は寝たまま明日乃にそう声をかける。
「うちは共働きでお母さんの帰りが遅い事も多かったからね。物心ついたら私が料理すること多かったしね。もっと道具や調味料があればもう少し美味しいものもできるんだけどね」
明日乃が手を休めずにそう答える。
「いいお嫁さんになりそうだな」
俺は思ったことをそのまま言う。
「何言ってるの? 私はもうりゅう君のお嫁さんみたいなものでしょ?」
明日乃が呆れるようにそう言う。
そういえばそうか。
「でも、本当のお嫁さんになるのは生活が安定して、神様が言うみたいに、周りにいる魔物をある程度倒して、平和になってからかな? 頑張ってね、未来の旦那様」
明日乃がそう言ってほほ笑む。
「そりゃ、急いで魔物を倒しまくらないとな」
俺はそう言って笑い返す。
「それで、平和になったら、あ、赤ちゃん作ろうね」
明日乃が顔を真っ赤にしてそう言う。
「あ、ああ、頑張るよ」
俺も恥ずかしくなってよくわからない返答をする。
とりあえず、本気で頑張らないとな。
いや、別に、明日乃と早くエッチな事をしたいからじゃないぞ。平和に暮らすって意味でだぞ。
その後も、たわいのない会話をしながら料理が進む。
【異世界生活 4日目 21:30】
「とりあえず、家は直ったよ。柵は暗すぎるから明日かな」
麗美さんがそう言って戻って来る。
松明の火を頼りに作業をしたが、効率が悪すぎるので家の修理だけで諦めたらしい。
「とりあえず、ご飯もできたから食べよ。りゅう君は食べられる?」
明日乃がそう言ってみんなもたき火の周りに集まる。
「ああ、なんとか、体を起こすくらいはできるようになったよ」
俺はそう言って、体中に激痛が走りながらも体を起こし胡坐をかいて座る。
体が言う事を聞かず、プルプルと震えたり、ふらふらするし、腕を上げるのもつらいが、寝る前よりはましだ。倒れた直後は腕を上げることすらできなかったからな。
「もう、ふらふらじゃない、病人なんだし、私が食べさせてあげるね」
明日乃がそう言って俺の分の食事をヤシの実の皿によそうと俺の隣に座る。
一角と麗美さんが仕方なさそうな顔をして、自分で食事をよそうと、それぞれの位置に戻って食べだす。
なんか、竹製の料理道具が増えてる? おたまみたいな道具や菜箸などそれっぽい道具が増えたみたいだ。俺が寝ている間に明日乃が作ったのかな?
「レオも食うだろ?」
一角が気を利かせてレオにも食事をよそって渡す。
レオも素直に食事を食べだす。
「はい、あーん」
明日乃が嬉しそうにお箸でクマ肉で作った鍋をつまみ、俺に食べさせる。
俺も恥ずかしいが口に入れる。
「美味しい?」
明日乃が俺の顔を覗き込んでそう言う。
「ああ、美味しい。というか、本当に旨いな。クマの出汁がよく出ていて、ネギというか玉ねぎというかよくわからない山菜も出汁を良く吸っていて美味い」
俺は本当においしくてびっくりする。
「本当に旨いな。ネギもどきがクマの臭みを消してるんだろうな。臭みがなくて旨味だけ残ってる。これは旨い」
一角も大絶賛だ。
「お味噌とかあるともっと美味しくなると思うんだけどね」
明日乃がそう言って、もう一口俺に食べさせる。
「明日乃、俺の事はいいから自分も食えよ」
俺はそう言って明日乃に夕食を勧める。
「じゃあ、少しもらっちゃおうかな」
そういって、俺に食べさせていたヤシの実の皿から俺に食べさせていた箸でクマ肉と山菜を口に入れる。
「本当に美味しいね」
明日乃がそう言って笑うが、一角と麗美さんが冷ややかな目で見ている。
「お熱いことで」
麗美さんがそう言って俺達をからかう。
そこからは同じお皿のものを二人で同じ箸を使って交互に食べ、お皿が空になると、お鍋からクマ鍋を足してきて同じことを繰り返す明日乃。
結構恥ずかしいぞ。これ。
そんな感じで、大満足な夕食を終え、明日の予定を考える。
「明日はとりあえず、クマ肉の赤身の部分を干し肉にしないとね」
明日乃がそう言う。
「干し肉の籠が壊されたからそれを作り直さないとな。あと、柵の修理も急がないと」
一角がそう言う。
「それと、クマの油は怪我に塗るといいから薬として作りたいんだけどね。ただ、お鍋一つじゃ厳しいかな? あと、油を濾す布も必要だし、今回は油はあきらめるしかないかな」
麗美さんが熊の油を欲しがったが、今の状況では道具が足りなすぎる。
「ちょっともったいないけどな。次があったら油をとろう」
俺はそう言って、今回は熊の油はあきらめることにする。
「クマの襲撃、次があったら嫌だけどな」
一角がそう言って笑う。そう言われるとそうだな。
「それと、さっきも言ったんだけど、麗美さん、俺達に剣術や槍の使い方を教えてくれないか? 一角は合気道の杖術の経験があるから槍を使うのも上手いが、俺と明日乃は素人だから、少しでも強くなるために武器の使い方を教えて欲しい」
俺は麗美さんにそう頼む。
「私も、弓道ばかりで合気道はサボっていたから、改めて、教えて欲しいな」
一角も便乗するようにそう言う。
「そうね、これから、獣はもちろん、将来的にはゲームに出てくるような魔物と戦うんでしょ? 今のうちに基礎は叩き込んだ方がいいかもね」
麗美さんがそう言い、3人が頷く。
「じゃあ、流司クンが元気になったら、毎日朝練ということで、1時間くらい、剣道道場を開きますか。結構、スパルタだから覚悟しなさいね」
麗美さんがそう言って笑う。
俺はもっと強くならなければいけないからな。
「それと、一つ、ルールを作ろうと思う。今から1年、少なくとも、この島以外にいるという魔物をある程度減らして平和が確保できるまでは、子作りの話は禁止、それと、俺と明日乃は真剣に付き合っているから、当分の間は邪魔をしないで欲しい」
俺は明日乃の事も考えて、ここで宣言する。
「1年後は期待していいってこと?」
麗美さんがそう聞く。
「それは明日乃とその時になったら相談する。神様の思惑もあるだろうし、それまで神様とも話をして1年後、方向は決めるよ。というか、1年後というより、生活の安定と平和が確保出来たらかな」
俺はそう答える。
「じゃあ、お姉さんは、流司クンと1日も早くエロいことをするために、魔物をいっぱい倒さないとダメそうね」
麗美さんが俺達をからかう様にそう言う。
「あくまでも、平和になったら、改めて考える。だよ」
俺はくぎを刺す。
「平和になったら私も、ってことだよな?」
一角がぼそりと言う。
「いやいや、一角が嫌だったら断ってもいいし、神様もそんなことで怒らないと思うぞ」
俺は慌ててそう答える。
一角は何か言いたそうな顔をしたがそれ以上は言及しなかった。
「まあ、とりあえず、1年間はエロいことは忘れて、一所懸命生活の向上と魔物狩りをすればいい。それでいいわよね。平和になったら覚悟してね」
麗美さんがそう言ってやる気になる。
「明日乃も、平和になるまで時間が欲しい」
俺はそう付け足す。
「それじゃあ、平和になったら、結婚式を上げようね。それまでに布を作ってウェディングドレスをつくれるようにしないと」
明日乃がそう言って笑う。
「まあ、その前に、とりあえず、仲間を7人集めないとな。そのためにお祈りだな」
俺はそう言って笑い返す。
とりあえず、今日の分はクマを倒すときに祈っちゃったから、麗美さんだけかな、夜のお祈りは。
こうして、俺は明日乃に純愛を貫き、他の女の子とは浮気をしない宣言をした。
「ウエディングドレスもいいけど、まずは下着が欲しいわね。下がスースーして落ち着かないわ」
麗美さんが俺をからかうようにそう言う。変に意識しちゃうじゃないか。
「麻の生えている場所は見つかったんだよな?」
俺は一角にそう声をかける。
「ああ、群生地があったんで、将来的には麻布なども作れるかもしれないな。まあ、今は原始的な麻紐くらいしか作れないだろうけどな」
一角がそう言う。
確かに麻布作りやそれに必要な麻糸づくりは難易度が高すぎて、今の人数や道具では難しいな。
「麻布はともかく、イノシシの毛皮とか、クマの毛皮が手に入ったし、そろそろ、葉っぱの服は卒業したいね」
明日乃がそう言う。
「そうだな。毛皮を綺麗に洗って干したら、洋服を作るといいかもな」
俺は明日乃に賛同する。3人の女の子の葉っぱのビキニみたいな格好はちょっと俺には刺激が強すぎる。
「それと、流司、寝ていたから、気づいていないかもしれないが、クマを倒した経験値が凄かったみたいでレベルが上がってるぞ」
一角が俺にそう言う。
マジか? 麗美さんのレベルの件もあるし、全員鑑定しておくか
なまえ レベル 経験値/レベルアップに必要な経験値
りゅうじ レベル8(+2) 22/64
あすの レベル6(+2) 18/36
いずみ レベル8(+1) 26/64
れいみ レベル10 147/385
マジだ。俺と明日乃のレベルが2も上がってる
なんか、イノシシとかオオカミと桁が違わないか?
「ちなみに、イノシシやオオカミは☆1、クマは☆2、☆2の獣は☆1の獣の5倍経験値がもらえます。さらに☆2でもレベル20とレベルカンスト状態なので経験値はさらに増えます」
秘書子さんがクマを倒した際の経験値が高い理由を教えてくれるがよくわからない。
「それと、クマとの戦闘での貢献度と経験値の分配は次の通りです」
秘書子さんがそう言って経験値の分配を教えてくれる
レッサーベア ☆2 レベル20 総マナ量 344(総獲得経験値)
なまえ 貢献度 獲得経験値
りゅうじ 2 98
あすの 1 49
いずみ 1 49
れいみ 2 147
肉 20キロ(100食分)保有マナ 333 1食あたりマナ3獲得可能
総獲得経験値344!? 凄くないか? しかも肉を食べきれば333のマナが手に入るのか?
「肉を直接食べる場合、神にお返しする分のマナまで吸収できるので効率は2倍になります」
秘書子さんがそう言う。
食べられる獣の場合、神様にマナを返さずに、肉は直接食べた方が経験値効率がいいそうだ。
「というか、麗美さんの次のレベルに上がる為の経験値、表示がおかしくない?」
俺は秘書子さんに聞く。麗美さんだけ一桁違うよな?
「レイミ様の場合、レベル10で次のレベル11になる為には☆1から☆2にランクアップする必要があります。ランクアップの為には、レベル1から10に上がる為に必要な経験値をもう1回集め直す必要があります」
秘書子さんがそう、説明してくれた。
「ちなみにランクアップはレベル20の時、レベル30の時、レベル40の時に同様に必要になります」
秘書子さんが追加でそう言う。レベル10ごとに課題があるわけね。
で、☆2になるのは大変だから、☆2のクマみたいな敵は、倒した時にもらえる経験値が急に跳ね上がると。
「そう言う事です」
秘書子さんが相槌を打つ。
俺は今聞いた話を麗美さんを中心に伝える。
「レベル11になる為には沢山の経験値が必要なの? だからこんなに数値がおかしいのね。納得したわ」
麗美さんがそう言って納得してくれたようだ。
「まあ、でも、クマを倒せたのはよかったね。クマって賢いから、人間の食料の味を覚えると何度も襲ってくるらしいから」
明日乃がそう言い、みんなも頷く。
ギリギリで麗美さんを呼んでくれた神様、久しぶりにグッドジョブだったな。経験値も結構美味しかったしな。
そんな感じでいろいろあって興奮していたのか、時間がたつのを忘れて話に夢中になってしまったようだ。
【異世界生活 4日目 23:00】
みんな夕食を食べ終わり、まったり雑談をしていると、もう夜11時だ
「今夜はもう遅いから、寝ないとね」
明日乃がそう言う。
「今日は色々ありすぎて、夜遅くまで起きてしまったな」
一角がそう答える。
「見張りの順番はどうするの?」
明日乃がそう聞くと、
「オレは今日も真ん中やる」
レオが2番目の見張りを立候補してくれる。
「レオ、いつも助かるよ。明日乃は流司の看病をしてやれ。俺が後半やるから、麗美姉には前半3時間、お願いしていい?」
一角がてきぱきと指示していく。
「仕方ないわね。了解したわ。それにしても、明日乃ちゃんはうらやましいわね。一晩中流司クンと添い寝できるなんて」
麗美さんがそう言ってうらやましそうな顔をする。
「添い寝じゃありません、看病です!!」
明日乃がちょっと怒る。
「とりあえず、今日は遅くなったから3交代制で朝の9時起きでいいな? 明日乃や流司は早く起きれそうだったら起きてやれる作業をしてくれ」
一角がそう言い、俺と明日乃は了解の返事をした。
そうして、各自、家に入り遅い睡眠をとるのだった。
次話に続く。




