第103話 レベル上げと残りの稲の回収(スキップ回)
ダンジョンでのレベル上げと稲の苗の採取は繰り返し作業になってきたのでスキップ気味で進みます。
本日☆1名様ありがとうございます。やる気が出ます。
【異世界生活 78日 2:00】
今日は、田んぼの残りの部分を埋める為に、追加の稲の苗を入手するのと、鈴さんのレベルを31にする為に南の島に行きダンジョンでレベル上げをする。
多分、今回の遠征を最後に南の島へは当分の間行かなくなるだろう。次の島の攻略もしなくちゃいけないしな。
次に来るときは全ての島のダンジョンを攻略して、魔物減らしの作業としてくる感じになるだろう。
「りゅう君、真望ちゃん、置いてきたの可哀想じゃない?」
移動しながら明日乃が困り顔でそう言う。
なんか、昨日の夜の作戦会議で、今日置いてきぼりの一角が暇だからと真望と南東の島の白い橋で魔物狩りをすると言い出した。
真望は麻布作りをしたかったらしいが、一角に
「レベルが足りないだろ? 南の島のダンジョンでレベルを上げるのとどっちがいい?」
と問い詰められてしぶしぶ南東の島に行くことになってしまった。
「まあ、午前中、安全な白い橋からちょっと魔物狩りするだけだし問題ないだろ? 午後は一角が麻布作りを手伝うらしいし、どちらかというと午後の方が俺的には見ものだけどな」
俺は明日乃にそう言って笑う。
一角は裁縫とか苦手だからな。弓矢作り以外のちまちました作業とか最近見てないし、自分の苦手な作業での苦痛に疲弊した一角が見られそうで楽しみだ。
本当は麗美さんと一角に留守番を任せて、鈴さんと真望のレベル上げをしたかったんだけど、さすがに麗美さん抜きで稲の苗の採取は危険すぎると思ったので止めたのだった。
なので、今日のダンジョン攻略は、俺、明日乃、麗美さん、琉生、そして、レベル上げ対象の鈴さんの5人だ。
流れはいつもと同じだ。6時前にダンジョンの挑戦権をかけて魔物と戦闘。
すでにワーフロッグとリザードマンは人数不足で自分の集落の防衛でギリギリなのだろう。マーマン20体だけがダンジョンの入り口で待ち構えている。
「多分、これを倒したら、次回からダンジョンはフリーパスよね。きっと」
麗美さんがそう言って笑い、武器を構える。
「全員でいくぞ」
俺はそう言い、走り出す。
「ちょっとまってよー」
明日乃が遅れて走り出す。
明日乃もレベル31だし、この島のレベルの魔物に襲われても身を守るくらいは簡単だろう。
今日は魔物の殲滅優先で魔物に襲い掛かる。
平均レベル15のマーマンとレベル31越えが4人とレベル30が一人の俺達。数の差があれど、囲まれたり、不意打ちされたりしなければ相手にならない。
あっというまにマーマンを蹴散らし、ダンジョンの挑戦権を得る。
そして、ダンジョン自体ももう、レベル上げ作業の場と化している。
いつも一角がやっていた壁役を琉生がやりながら鈴さんをレベル31にする。
5階の前半で鈴さんがレベル31になり、貢献ポイントで明日乃もレベル32になる。
残りの敵で、俺がレベル32になって、最後に麗美さんのレベル上げ。5階のボスも麗美さんが倒したところでちょうど麗美さんのレベルが32になった。
「結構順調にレベルが上がるわね」
麗美さんがボスを倒したところでそう言う。
まあ、効率は良くないが、安全で確実にレベルが上がっている気はする。
「的確な狩場で魔物を倒すと楽にレベル上がるみたいな?」
明日乃がゲームオタクっぽい事を言う。
「まあ、どうせ、レベル41になるにはまた苦しい思いするんだろうけどね」
俺はそう言ってため息を吐く。
この世界はランクアップとか言う制度のせいで10レベルごとにレベルアップに必要な経験値が跳ね上がって毎回苦労するのだ。
とりあえず、ダンジョンクリアの副賞、調味料は醤油を貰って帰る。
それと、鈴さんがレベル31になって覚えた上級魔法は、大体、麗美さん達と同じようで、広範囲に雷の雨を降らせる『轟雷』。金と雷の属性を持つ鈴さんらしい魔法だ。
それと、待ちに待った『金属を自在に操る』。今まで少しだけ金属を変形できたものがかなり自由に変形できるようになったらしい。ただし、1回で鋼の剣ができたりするようなものでもないし、上級魔法なので1回にお祈りポイントが3000ポイント消耗してしまう割に大した量の金属を変形できないらしく、鈴さんは少し不満気味だ。
ただし、鍛冶の作業をしながら補助として魔法を使う分にはかなり有用な魔法ではあるらしい。金属を熱して、金槌で叩きながら魔法を使うと加工がかなり楽になるみたいな?
「このスキルがあれば銅線が作れるかもしれないわね。銅を溶かして、魔法で金属を操って細く長く引き伸ばすみたいな?」
鈴さんは魔法の使い方が少し分かったみたいで楽しそうにスキルの解説を読んで妄想している。
次は一昨日危険な目に会った、稲の苗の採取だ。
【異世界生活 78日 11:00】
一昨日と同じ道、森を北西に突っ切る道を使って稲の自生地に向かう。
一応、危険感知のスキルを使いながら進むが罠の修理はされていないようだ。
ワーフロッグも集落の防衛で精一杯なのかもしれない。
危険感知のスキルが意外と精神的疲労を伴うので一度、休憩をはさんで、目的地をめざす。
前回、具体的な場所も分かったのでマップに表示されているマークも的確な場所を指している。
稲のある湿地についたところで、今日は池から離れた場所で休憩と昼食をとる。
水辺に近いと俺の『危険感知』のスキルが無意識に発動、過剰反応してしまうようで、俺のストレスが半端ないのだ。
ぶっちゃけ、森の中の方が安全なくらいだ。
「今日は見張りのポジションを変えましょ? 私が水辺の監視をするから、流司クンは森の方をお願いね」
お昼ご飯を食べ終えたところで麗美さんがそう言う。
「? 俺の『危険探知』のスキルがなくても大丈夫?」
俺は麗美さんに聞き返す。
「流司クンのスキルは水に弱いみたいだし、水中までは警戒できないんでしょ? だったら逆に水属性に強い私が水辺を監視するわ。亀の霊獣を2~3体、湖に配置して監視するから安心して」
麗美さんがそう言って笑う。
「霊獣か。その手があったな」
俺は感心する。
霊獣にはカメラ付きドローンのような視覚共有機能がついているので、亀の霊獣を琉生のまわりに適当に泳がせて、麗美さんが水中を監視してくれるらしい。
霊獣自体はレベル10程度の戦闘力しかないので戦闘には使えないが、物の運搬や監視には便利なことが分かっている。霊獣の的確な使い方だろう。
「それと、鈴ちゃんの雷魔法もあるから、ワーフロッグが襲ってきたら水に電気流しちゃってもいいしね」
麗美さんがそう言って笑う。
「それって、水に入っている琉生も感電しちゃわない?」
琉生が少し怯えてそう言う。
「そうね、そう言われるとダメね。琉生ちゃん、ワーフロッグが出たら自力で逃げてね。あと、明日乃ちゃんは少し湖寄りで待機していつでも結界魔法を張れるようにしておきましょ」
麗美さんが慌てて訂正する。
琉生まで痺れて動けなくなったら大惨事だしな。
そして麗美さんの霊獣も確実にダメージを受けるだろうしな。
「鈴さんはクロスボウを用意しておいて警戒って感じかな?」
俺は鈴さんにそう言っておく。
そんな感じでポジションを変え、俺は森に集中することにする。
麗美さんは亀の霊獣を2体出して水中を泳がせ、琉生のまわりを巡回させる。青い光でできた不思議な大きい亀だ。
確かにこの方が俺の『危険感知』スキルが勝手に発動しないし、水への不安もないし、俺の疲労が貯まらない。いいかもしれないな。水の方は麗美さんが万全の態勢で監視してくれるしな。
そんな感じで安全を確保しつつ、琉生の稲の採取が続く。
今日は鈴さんの霊獣、荷牛の霊獣が使えるので稲の苗を多めに採取し、持ち帰る。琉生もやる気満々で、竹製の背負い籠を3つ背負って歩いてきた感じだ。一つは自分が背負って2つは牛に積むらしい。
「琉生ちゃん、水から上がって。今日もワーフロッグ達が来たわ」
麗美さんがそう言い、俺も慌てて振り返る。
確かに水面にカエルの頭がいくつも見えるが、今日は攻撃を仕掛けるタイミングを逃してしまったみたいでその状態で睨み合いが続く。
「明日乃は結界魔法の準備を、盾を持っている人は盾を構えて。獣化義装も使えるように準備して」
俺はみんなにそう指示し、青銅の盾を持ってきた明日乃、琉生、鈴さんは盾を構え、俺と麗美さんは変幻自在の武器を盾に変化させ、クロスボウに矢を装填する。
盾を持ったままでのクロスボウの装填はなかなか骨が折れる。
他のメンバーも敵に注意しながらクロスボウに矢を装填する。
全員クロスボウに矢の装填が完了したところで、麗美さんがアイコンタクトを送ってくる。
俺が頷くと、麗美さんが矢を放ち、他のメンバーも続くように矢を放つ。
水から顔を出した数10体のワーフロッグのうち5体の眉間や顔に矢が刺さる。
騒ぎ出すワーフロッグ。
どう動くか、盾を構えながら様子をうかがう。
どうやら、クロスボウに恐れを抱いたのか、気配が消えていくワーフロッグ。
完全に気配が消え、麗美さんの亀の霊獣で巡回するが、ワーフロッグの気配は消えたようだ。
明日乃が神様にお祈りをしてワーフロッグの死骸をマナに還し、経験値化する。
「もうちょっと作業してもいいかな?」
琉生がそう聞いてくる。
「気をつけながら作業してね」
麗美さんがそう言い、水面と、水中へ意識を集中しだす。
俺も、持ち場に戻り、森の監視を続ける。
【異世界生活 78日 15:00】
「これだけ採れれば十分かな?」
琉生がそう言って、背負い籠3個分の稲の苗を並べる。
「だいぶ時間がかかってしまったな。急いで帰ろう。日が暮れるぞ」
俺はそう言い、帰る準備をする。
鈴さんが荷牛の霊獣を1体召喚し、両脇に背負い籠を2つ、背負わせ、出発する。
「これで、田んぼいっぱい稲を育てられるよ」
琉生が嬉しそうに霊獣に背負わせた籠を見ながら歩く。
俺は一応、罠と伏兵に気をつけながらお昼に来た道を逆に戻り、ダンジョンの前の広間に出たところで方向転換、白い橋の方に向かう。
敵も余裕がないようで、伏兵も罠もなく、白い橋に到着し、そのまま橋を渡り自分たちの島に無事たどり着く。
川は麗美さんの亀の霊獣を使って稲の苗を運搬し、人はいかだ2台で渡河する。
「余裕ができたら、ここに橋を作りたいわね」
麗美さんが川を渡りきったところでそう言う。
「琉生の魔法、『石の壁』を使えば立派な石の橋くらい作れるんじゃないの?」
鈴さんがそう言う。
「お祈りポイント結構使っちゃうけどね」
琉生がそう言う。
「そういえば、お祈りポイント結構貯まってるんだよね。80000ポイントくらい貯まってるから、満タンになる前に使っちゃった方がいいかもね」
明日乃がそう言う。
「お祈りポイントの件は夕食の時にでもみんなで検討しよう」
俺はそう言い、雑談を区切り、稲の運搬を始める。
ここからはもう一度鈴さんに荷牛の霊獣を出してもらい、拠点まで運ぶ感じだ。
拠点に着くころにはすでに18時。陽が落ちてしまった。
留守番をしていた真望と一角が迎えてくれる。
一角は午後、真望にこき使われたのか、慣れない裁縫でぐったりしていた。
【異世界生活 78日 18:00】
「稲の苗を仮植えしないとね」
琉生が困った顔でそう言う。
周りは真っ暗で作業をするのも大変そうだ。松明を持ちながら作業をするのも大変だしな。
「琉生ちゃん、この子連れていきなよ」
明日乃がそう言って、霊獣を召喚する。
光属性の兎の形をした霊獣。明るく光って、琉生を追尾している。
琉生が走り回ると一生懸命追いかける兎の霊獣。なんか琉生が目的を忘れて楽しそうだ。
「お、いいなこれ。手を塞がれずに光が確保できるのか」
俺はそう言って光る兎を観察する。
「じゃあ、俺も手伝うから、急いで稲を仮植えしてしまおう」
俺はそう言って、鈴さんの荷牛の霊獣で運んできた背負い籠を一つ背負う。
一角も仕方なさそうにもう一つを背負う。
「それは私たちがやっておくから、流司クンは明日乃ちゃんと夕ご飯作っちゃって」
麗美さんがそう言って俺から背負い籠を奪い、琉生を追いかける。
鈴さんも仕方なさそうにあとに続き、真望は自分のツリーハウスに戻り麻布作りを再開するようだ。
そんな感じで役割分担をしつつ、俺と明日乃は今日拾ってきた魚の切り身を塩水に浸けたり、みりん醤油に漬けたりして魚を干す準備、それと、夕食として魚の切り身を石狩鍋風にする。
夕食の際、一角が、魚の切り身に飽きたと言い出したが、スルーする。
毎日、南の魔物の島にあるダンジョンに言ったせいでタラの切り身を干したものが山ほどあるのだ。毎日3食食べてもなくならないくらいに。
そして、夕食を食べながら、お祈りポイントの使い道についてみんなで考える。
「鈴さんは何か欲しいものある?」
俺は一番お祈りポイントに飢えている鈴さんに聞いてみる。
「うーん、欲しいものといったら、1500度以上の火が扱える溶鉱炉もしくは旋盤機が欲しいね。文明が無くなった世界で、最初に詰むのが鉄を溶かせる、1500度以上の温度でも溶けない溶鉱炉作り、そして次が旋盤機? 旋盤機がないと固くて丈夫で精密な筒ができなかったり、ボルト、ナットが作れなかったり。文明がピタッと止まるのよね」
鈴さんがそう言う。
鈴さんの解説では旋盤機というものがあるかないかで江戸時代前後の鍛冶レベルで文明が止まるか、明治維新以降の近代的な機械文明に進めるか大きな分かれ道になるらしい。
「ちなみに旋盤機はオーバーテクノロジーということで、お祈りポイントでは交換不能となっております」
アドバイザー女神様の秘書子さんが非情の回答を告げる。
「そうなると、たくさん耐熱煉瓦を貰って反射炉を作る感じかな? いまある耐熱煉瓦じゃなくて、2000度くらい耐えられる本格的な奴?」
鈴さんがそう言うが、
「スズ様の希望するような耐熱煉瓦を交換する場合、1個当たりに必要なお祈りポイントがかなり高くなると思われますし、反射炉を作る量の耐熱煉瓦を出すのは80000ポイントでは全然足りません。少しずつ、耐熱煉瓦を交換して、長い時間をかけて作るという方法はとれるかもしれませんが、かなりの時間を要すると思われます」
秘書子さんにまたダメ出しされる鈴さん。
「うーん、残念。そうなると、反射炉作りはもう少し落ち着いて、お祈りポイントが余り続けるような状態になるまで無理かな?」
鈴さんがそう言って、がっかりする。
「あと、欲しいものある?」
俺は他のメンバーにも聞いてみる。
「欲しいと言えば、さっき言っていた、西の川に橋を作る事かしらね? 多分、3つ目の魔物の島? 南西にある魔物の島に行くにしてもあの川を渡らないといけないし、将来的にあると便利だと思うのよね。だから、お祈りポイントを使って、琉生ちゃんに石の橋を作ってもらう感じかな?」
麗美さんがそう言う。
「私は冷蔵庫が欲しいかな? 前から言っていた氷室? 北の丘にでも横穴を掘って、琉生ちゃんの石魔法で壁を固めて、麗美さんの氷魔法で氷をいっぱい出してもらって、氷室を作る感じかな? 今も干し魚がいっぱいあるし、多少は保存がきくだろうけど、長く保存するなら氷室は欲しいよね」
明日乃がそう提案する。
「そうなると、私はもっと本格的なはた織り機? 業務用みたいな感じできめ細かい布が織れるはた織機が欲しいわね。せっかくダンジョンで絹糸がドロップするんだし、綺麗なシルクの布が織りたいわ」
真望も欲しいものを言い出す。
「マモ様が欲するようなはた織り機も最大お祈りポイントをいただいても交換は不可能です。必要な部品を少しずつ交換して組み立てるなどの工夫が必要だと思います」
秘書子さんが真望にもダメ出しをする。
「鈴さんの反射炉と同じパターンかぁ。残念」
真望がそう言ってがっかりする。
「旋盤機なんて、代替案すら提示してもらえなかったんだけどね」
鈴さんはそう言って自嘲する。
「結構、みんながもらいたい物と実際にもらえる物の格差が激しいな」
俺はそう言って悩む。
「今回は無難に、氷室を作るのでいいんじゃないかな? いつか冷蔵庫は必要になるだろうし、冷蔵庫や氷が自由に使えるようになると色々便利だろうし、食料保存の事はいつか考えないとダメだしね」
琉生がそう言う。
「確かに氷が自由に使えるのはいいわね。熊の油作りの時も麗美さんがいないと油を冷やせなくて作業が止まっていたけど、麗美さんに氷室に氷を大量に作っておいてもらえば、氷も使えるし、熊の油を氷室に入れておけば朝には固まるだろうし、助かるわね」
真望も熊の油作りがはかどると氷室に興味がひかれたようだ。
「調味料もたくさんもらえるようになったら冷蔵保存したい物とかもできるしな。バターとか?」
一角も氷室に興味を持ちだす。
というかバターの保存ってなんだよ?
「それじゃあ、今回はお祈りポイントを使って氷室作りって感じかしらね。で、次回余りだしたら、西の川に橋を作る。そんな感じでいい?」
麗美さんがそうまとめ、みんな賛成する。
明日の午前中は田植えをして、午後は氷室作りをすることになった。
琉生曰く、土魔法を使い放題なら簡単にできるとのこと。鈴さんも建築の知識を活かして安全な氷室作りができると自信を持っていた。
次話に続く。




