第101話 琉生のレベル上げ。そして稲を探そう(前編)
【異世界生活 75日 19:30】
「あれ? お祈りポイントの表示がおかしくないか?」
俺は、お祈りポイントの表示を見て首をかしげる。
明日も2時起きでダンジョン攻略の為、早めに夕食を食べ、寝る準備をし、日課のお祈りをしたところで異常に気付く俺。
「確かに、計算より多いよね?」
明日乃も首をかしげる。
普段1日のお祈りで貰えるお祈りポイントは6000ポイント。それが今日は若干だが増えているのだ。
そう言われて、みんなもお祈りポイントをチェックし首をかしげる。
「それは、流司、明日乃、一角、麗美がレベル31になったからだな」
そう言って、夜の暗闇の中、光が溢れ、いつもの透明なおっさんが現れる。
なんか、待っていたように出てきたな。このおっさん。
「前にも言っただろ? レベルが上がると、お祈りの質が上がるって。それがレベル31ってことだ。レベル31になると魂の質も上がり、お祈りの力、願いの力も上がって、俺に流れてくる信仰心の力が増えるって訳だ。だから、一番わかりやすいレイミの場合、お祈りポイントも1.5倍、いままで1000ポイントだったものが1500ポイントに還元ポイントが上がったってことだな」
神様がそう言う。
「なんか、買い物するときのポイントカードのポイントみたいだな。よく買いに来ているお客さんは還元率1.5倍みたいな」
一角が余計な事を言う。
「おいおい、なんかお祈りの価値を下げるようなことを言わんでくれよ」
神様が呆れ顔でそう言う。
実際ポイント還元性にしたのはこのおっさんだし、実際システムがチープだし、一角にそう言われても仕方ない気もした。
「まあ、とりあえず、まだレベル31になってないやつもレベル31になれば1日にもらえるお祈りポイントが1.5倍になるし、レベル50になれば2倍になるからレベル上げも頑張ってくれよ」
神様がさわやかな顔をしてしれっと面倒臭い事を言う。
レベル50まで上げるのにどれだけ時間がかかってどれだけ危険なのか想像もつかない。
「ふふっ、500ポイントからおさらばってことだな」
一角がそう言ってどや顔で俺を見る。
「500円が750円になっただけだろ? レベル50になっても1000円。ワンコイン女がツーコイン女になるだけだ。それに俺もすでに750ポイントだしな」
俺は興味なさそうにそう答える。
明日乃ならレベル50になれば3000ポイント、1500ポイントも追加になるが俺や一角がいくら頑張っても所詮500ポイント増えただけという。信仰心の低さは変わらなそうだしな。
「ぐぬぬぬ」
一角が悔しそうな顔をしている。
「まあ、500ポイントが750ポイントになるだけでも大きいぞ。初級魔法を1日1回しか使えなかったものが2回使えるようになるってことだしな」
神様が一角を慰める。
「おお、魔法の回数2倍は大きいな。そして、自分専用の変幻自在の武器を手に入れればコストは半分、1日5回使えることになる」
一角が自慢げにそう言う。
まあ、実際はお祈りポイントの貸し借りができるから、共通の貯金がある限り何回でも魔法は使えるし、明日乃のお祈りポイント回復力に比べたら大したことないけどな。というか、俺も一角も明日乃の信仰心の高さに一生おんぶにだっこってことか。
「ま、まあ、人の力はお祈りポイントの量で決まるわけじゃないからな。仲間の為に何ができるかが大事だ。ということで、信仰心が低くても腐るなよ」
神様が俺の心を読んだのか申し訳なさそうな顔をしてそそくさと逃げるように消えていく。
まあ、神様の最後の行動は最悪だったが、「仲間の為に何ができるか」。この言葉は俺の心に少しだけ刺さった。
「人には得手不得手があるんだし、自分のできることを精一杯やればいいと思うよ。私だって体力がないから、みんなより力仕事はできないしね」
明日乃がそう言って締めくくる。
そうだな。みんなで弱点を補いあって助け合って生きていけばいい。
また、明日から頑張ろう。
【異世界生活 76日 2:00】
「三日連続で朝の2時起きはさすがに老体に厳しいわ。そろそろお休みが欲しいところね」
麗美さんが明日乃に起こされて、ツリーハウスから降りてくる。
「そうだね。今日、稲が回収できたら、1日お休みの日を作るのもいいな」
俺はそう言って笑う。
実際俺も三日連続2時起きで、寝不足気味だ。
「私は、田植えが始まるから忙しくなるかな? あと、できれば何回か稲の回収は行きたいな。1回じゃ集めきらなそうだし」
琉生がそう言う。
「そうしたら、目の前の海岸で海水浴程度かな? 自由参加って感じで」
俺は琉生にそう答える。
そんな感じで、今日も南の魔物の島にあるダンジョンをめざす。
琉生のレベル上げと、それが終わり次第、南の島にあると言われる稲の回収だ。
【異世界生活 76日 5:00】
昨日と同様、西の川を渡り、南にのびる神様が作った白い橋を渡り、南の魔物の島へ。
そして、魔物も人数不足になったせいか、道中の罠や伏兵もなくダンジョンの前の広場に到着する。
今日のダンジョン争奪戦はリザードマン20体がダンジョンの前に陣取り、マーマン20体が東の方角からにらみを利かせている感じだ。
「ワーフロッグは不戦敗って感じか?」
一角が藪陰から覗きそう呟く。
「数がだいぶ減ったんだろうな。集落の防衛で精一杯って感じか?」
俺は一角にそう答える。
「今日はどうするの?」
麗美さんが俺に聞いてくる。
「前回、リザードマンに逃げられたからな。今日はリザードマンから倒そう」
俺は麗美さんにそう答え、麗美さんも頷く。
そして、それと同時にかけ出す、一角、麗美さんと俺もそれを追いかける。
その行動に慌てて、1テンポ遅れて明日乃が一角を追いかけ、明日乃を護衛するよう琉生が続く。
いつも通り、一角、麗美さん、俺の3人で魔物を切り捨てていき、リザードマンを全滅させたところで、マーマンの方を見ると、マーマンは一目散に逃げていく。
まあ、今まで散々倒してきたしそうなるよな。
あえて、追い打ちはかけずに、ダンジョンの入り口の前で、交代で休憩する。
6時の開門待ちだ。
【異世界生活 76日 6:00】
ステータスウインドウに表示された時計が6時になると同時に一角がダンジョンに飛び込む。いつもの行動だ。飽きないやつだな。
そんな感じで、一角はいつもの調子、ダンジョン攻略も余裕になり作業のようにウッドゴーレムを倒し琉生のレベルを上げていく。
昨日や一昨日のレベル上げ作業と全く一緒。真望の代わりに琉生が入って琉生をレベル上げしているだけだ。
3階のボス部屋で琉生のレベルは30になり、そのまま琉生の育成を続け、5階の中盤でレベル31に。
残りの敵は、明日乃の育成に使う。
毎回攻略で引っかかるのは明日乃の戦闘力不足か、ボスを抑える役の俺のレベル不足だからな。次のダンジョンに向けてまずは明日乃のレベルを上げておく感じだ。
残念ながら、5階のボスを倒したところで、若干経験値が足りず、明日乃のレベルは上がらなかった。
ボス部屋のドロップ品を回収し、調味料が貰える部屋に入る。
「明日乃、今日は調味料、何を貰う?」
いつもの一角だった。
「醤油と味噌はあるから、タラ鍋するなら鰹節? みりん干し重視ならみりんかな? もちろん、醤油と味噌のストックを増やすのもありかな?」
明日乃は一角に対して真剣に答える。
こんなの適当でいいんだけどな。
「じゃあ、みりんにしよう。昨日はタラ鍋だったしな」
一角がそう言って今日の調味料はみりんに決まる。
「というか、タラとシャケの在庫が凄いぞ。拠点は干物だらけだ」
俺は呆れるようにそう言う。
「まあ、これから、南東の島を本格的に攻略するんだし、食料の在庫はあればあるだけいいしな」
一角が俺に答える。
こいつ、本格的に自分の変幻自在の武器を取りに行く気だ。
「真望と鈴さんのレベルを31にしてからの方がいいんじゃないか? 鈴さんの魔法とか面白いものが手に入るかもしれないし」
俺は一応提案しておく。
「まあ、そうだな。下手に南東の魔物の島で足を引っ張られるくらいなら、全員レベル31にしてからの方がいいかもな。真望の魔法も魔物狩りには有効だしな。もう1回くらいはこのダンジョンでレベル上げはしてもいいぞ」
一角が自分勝手な口調でそう言う。
「とりあえず、明日は1日休憩して、明後日、このダンジョンに来るか南東の島のダンジョンを攻めるか考えましょ?」
麗美さんがうんざりした顔でそう言う。
麗美さんは早起きが苦手だからな。
「レベル31と言えば、琉生、新しい魔法はどんな感じだ?」
俺は琉生の新しい魔法が気になって聞いてみる。
「私も麗美さんや一角さんと同じ感じかな? 広範囲魔法、『土の穿刺』? 地面から広範囲にたくさん尖った石を出す感じ?」
琉生がそう答える。
「ああ、RPGでもよくあるやつだな」
一角がそう言ってうんうん頷く。
「あとは『土を掘る』? 10分間自在に地面を掘れるんだって。モグラみたいに地面を動き回れちゃうみたいな? うーん、これは田んぼを作る前に欲しかったかも」
琉生がものすごく残念そうな顔をする。
「ま、まあ、上級魔法じゃ、どっちにしろお祈りポイントがかかり過ぎて田んぼ作りには使えなかったかもしれないしな」
俺は慰めになるのか良く分からない言葉を琉生に言う。
「まあ、そうだね。これもお祈りポイント3000かぁ、滅多に使える魔法じゃないね」
琉生は残念そうにそう呟いた。
そんな感じで、ダンジョンクリアの副賞はみりんを貰って、琉生の魔法を聞いた後で、ダンジョンを出る準備をする。
今日はこの後、ワーフロッグの集落そばで自生する稲を回収して琉生の田んぼに移植する作業があるので、ドロップアイテムの持ち帰りは最小限にする。
全員、青銅の防具はコンプリートしてるしな。
そんな感じで、魚の切り身と芋虫が落とす絹糸、そして最後のボスの両刃斧を選び持ち帰る。
【異世界生活 76日 11:00】
ダンジョンの出口まで戻るが今日も魔物の待ち伏せはない。レベル差のある俺達に喧嘩を売ること自体無駄と気づきだしたのかもしれないな。
とりあえず、ダンジョンのエントランスでこの後の作戦を練る。
「で、どうするの? 稲のある場所はマップにマークされているけどそこまでのルートは真っ黒よ? ここからだと北西に森を突っ切るか、一度白い橋に戻って、最初に来た時に歩いたルートでワーフロッグの集落をめざすか、どっちにする?」
麗美さんが聞いてくる。
「秘書子さんに聞いてみよう。秘書子さん、安全と早さのバランスを考えたらどっちのルートがいい?」
俺はアドバイス女神様の秘書子さんに聞いてみる。
「レイミ様の提案したルートはどちらも安全性は変わりないです。どちらも伏兵、罠の危険性があります。また、白い橋に戻ってからワーフロッグの集落をめざすルートでは最悪、ワーフロッグの全面攻撃を受ける可能性もあるので、北西に森を突っ切るのがいいかと思いいます。ただし罠や伏兵には注意が必要です」
秘書子さんが詳しく教えてくれた。
「わざわざ、ワーフロッグの集落を騒がせるより、こっそり稲のある場所に近づいて採取だけして帰った方がよさそうだね」
明日乃がそう言い、みんなも頷く。
「それでは、北西に森を突っ切るルートで案内を致します」
秘書子さんがそう言うと、マップウインドウの真っ黒なところに濃い黄色い線がひかれる。その先には稲の位置を示す赤い×印がある。
「なんか宝探しの地図みたいでワクワクするね」
琉生が楽しそうにそう言う。
「一角、あまり先行するなよ。俺が罠を確認しながら進むからな」
俺は一角に念を押しておく。
「わかってる。落とし穴でくし刺しにはなりたくないからな」
一角は不機嫌そうにそう答える。
そんな感じで、作戦が決まり、とりあえず、ダンジョンから出て、目の前の広場のいつもワーフロッグが陣取っている北西の辺りまで歩く。
森の縁まで来ると、森の間に獣道がある。
多分、ワーフロッグが逃げるときなどに使う正規ルートではない道だろう。
「多分、ワーフロッグとしては通って欲しくない道だろうから、罠には十分に注意が必要だな」
俺がそう言い、みんなも頷く。
秘書子さんがマップに書いてくれたルートはこの獣道を示していた。
「さすがにここは俺が先頭でいくぞ。罠探知しながら慎重に進まないと命の危険性があるからな」
俺はそう言い、スカウトのスキル、『危険探知』を使いながら森の中を北西に進む。
「罠だな」
数分歩いた後、俺はそう呟く。
目の前に嫌な気配がして、集中すると、獣道の両方に木のしなりでスパイク状の凶器が襲ってくる罠が緑色に光って見える。そして獣道には足に引っかかるように紐が伸びていて、落ち葉で隠されているが、それも緑色に光って見える。
『危険探知』のスキル。本当に助かるスキルだ。
「マジか? 全然わからなかったぞ。なんか、流司のスカウトのスキル? 便利でいいな」
一角が周りをきょろきょろしながらそう呟く。
「一角、下がってろ」
俺はそう言い、変幻自在の武器を長槍に変えて、落ち葉の下に隠してある紐を離れたところから槍で引っ張る。
「ブオン、ガスン」
大きな音を立てて、獣道の両脇からトゲトゲの付いたしなる棒が飛び出してきて獣道の地面を突き刺す。
「殺る気満々ね」
麗美さんがドン引きする。
他のメンバーも声が出ない。
そんな感じで似たような罠をもう一つと落とし穴を発見し、罠を壊し、一度休憩する。
もしかしたら罠の確認に来たワーフロッグを仕留められるかもしれないと思ったのと、俺のスカウトのスキル『危険感知』はマナやお祈りポイントは使わない代わりに精神的疲労が半端ないのだ。
麗美さんと琉生、一角と明日乃のペアで見張りを交代しながら休憩し、俺は丸々休憩させてもらう感じだ。
「悪いな。みんなに見張りさせて俺だけゆっくり休憩しちゃって」
俺はみんなにそう詫びる。
「大丈夫だよりゅう君。りゅう君の使っている『危険感知』のスキルって凄く疲れるんでしょ? しっかり休んでもらわないと、この後も罠いっぱいありそうだし」
明日乃がそう言ってほほ笑む。
明日乃にそう言ってもらえるだけでも疲労が解消された気になる。
「お前が倒れたら、この先、進めないからな。この先は休憩なしで稲の自生地まで行く予定だからしっかり休んどけよ」
一角が喧嘩腰でそう言う。
彼女なりの優しさなんだろう。
そんな感じで15分ほど休憩し、さらに15分罠を壊しながら進み、目的の場所に到着する。
【異世界生活 76日 12:00】
「わあ、綺麗な湖だね。湖というより湿地かな?」
明日乃が嬉しそうに言う、
突然、森がひらけ、目の前には大きな水たまりが現れる。
一見、湖のようだが、岸のそばは浅い沼地のようになっているようだ。そしてたくさんの植物が生えている。
俺は一応、広範囲を危険感知スキルで調べるが、敵の気配や罠の気配はないようだ。
「どうする? 景色もいいし、お昼ご飯食べちゃう?」
明日乃がそう聞いてくる。
「そうだな。この後、稲を収集する作業がある事を考えると、俺も休憩したいし、長くかかるようならおなか減りそうだしな」
俺はそう言って、見晴らしのいい場所で休憩することにした。
「火は使わない方がいいでしょうね。ワーフロッグが集まってきそうだし」
麗美さんがそう言い、冷めたままのお弁当を食べることにする。
「米が収穫できるようになったら、このお弁当もご飯が付くようになるんだよな」
一角がしみじみそう言いながら、熊肉の野菜炒めを食べている。
「ご飯が食べられるようになったら、かなり食生活も向上するよね」
琉生も嬉しそうにそう言う。
時よりきょろきょろしながらお弁当を食べる琉生は、まわりに生えている草が稲じゃないか気になってしかたないらしい。
「食べ終わったら、明日乃と麗美さんと交代な。あと、琉生は見張りの時に動くなよ。そのまま、稲を探しに行っちゃいそうだしな」
俺は二人にそう言う。
二人は少し急いでお弁当を食べて、明日乃と麗美さんと見張りを代わる。
俺も琉生と一緒に見張りに立つ。
「流司クン、もう少し休んでいてもいいわよ? スカウトのスキル使いっぱなしだったんでしょ?」
麗美さんが優しくそう言ってくれるが、さっきほど疲労感はなかったので、遠慮して、琉生の隣で見張りをする。
「流司お兄ちゃんは私の見張りもしているんだよね? 私がふらふら稲を探しに行っちゃいそうだから」
琉生がそう言って笑う。
まあ、それもあるが、ワーフロッグの集落が近い上に、多分、この湿地はワーフロッグのテリトリーだろう。
俺はさすがに疲れる『危険探知』のスキルは使わずに目視とけもみみで周りを警戒する。
実際、敵の接近に関しては、けもみみが生えたおかげか、耳や鼻の方が頼りになるしな。
明日乃と麗美さんの昼食が終わり次第、この遠征のもう一つの目的、稲探しが始まる。
次話に続く。
【改訂部分】稲探しは改訂前にはなかった話です。稲が育ってからだと田んぼへの移植が面倒臭そうだったので前倒しにした感じです。
それと、全員レベル31をめざしてから南東の島を攻略する感じに変更しました。
冒頭のレベル31になって貰えるお祈りポイントが増えた件は書くタイミングを逃してしまった感じです。なんか申し訳ないです。




