第18話 4人目の仲間と緊急スキルの後遺症
【異世界生活 4日目 16:00】
「とりあえず、明日乃と一角。麗美さんに今の状況を説明しておいてくれないか? 神様も顔すら出す余裕ないみたいだし、俺もこのクマを解体したいしな。麗美さん、ちょっとその槍を貸してくれるかな?」
俺はそう言って、2~3歩、麗美さんの方へ踏み出したところで、
「ぐぎぃ、あ、あれ?」
俺はいきなり体中に激痛が走り、足が思う通りに動かなくなり、足を絡ませて転び、地面に突っ伏す。
「りゅう君!! ど、どうしたの!?」
明日乃が慌てて俺に駆け寄る。
「先ほどの緊急スキル『獣化解放』の後遺症です。『獣化解放』のスキルは一時的に、獣の本能を呼び覚ますことにより、15分ほど超人的な肉体操作が可能になりますが、スキルが切れると、スキルによる肉体への負担が襲ってきます。そこから半日以上、筋肉痛や神経のマヒなど体の不調をきたし正常な運動が難しくなります。1日休めば、後遺症もなくなり普段のように生活できるようになると思われます」
秘書子さんが俺の状況を説明してくれる。
「さっき、クマに攻撃されたときに、『獣化解放』っていう緊急スキルを使ったらしいんだけど、その後遺症で1日動けなくなるらしい」
俺は筋肉痛と手足のしびれで上手く動けなくなった体をなんとか動かし仰向けに寝そべり、心配そうに俺の横に寄り添う明日乃にそう答える。
そして、もう、限界。ぶっちゃけ、もう、痛みとしびれで腕も上がらない。
「『獣化解放』? なるほど、私のスキルウインドウにも追加されている。何々、これは使えそうだけど、後遺症が酷いな。使いどころを間違ったら全員動けなくなって全滅かな」
一角が自分のスキルウインドウを開いてスキルの説明内容を確認したようだ。
明日乃もそれを聞いて慌てて自分のスキルウインドウを開き内容をチェックする。どうやら全員にこのスキルが追加されたようだ。
「なあ、一角、とりあえず、クマの死骸を解体したいから、俺の代わりに解体作業をしてくれないか?」
俺は一角にそうお願いする。
海の方までクマの死骸を運んでもいいんだが見た感じ、50キロ以上はありそうだし、4人いれば運べるかもしれないが、女の子だけでは運ぶのは難しいだろう。ここで解体するしかないだろうな。
というか、倒してみるとこのクマ、意外と小さいな。襲われたときは俺より大きく見えたんだけど、実際は120センチくらいか? 怖さで大きく見えちゃったってことか?
俺は目の前で絶命するクマのちいささに少しがっかりする。俺、ビビり過ぎ?
「とりあえず、クマの解体は私がやるから、流司クンは安静にしていなよ」
麗美さんが会話に割り込み、そう言う。
「とりあえず、流司を拠点まで運ぶか。麗美姉も手伝ってくれる?」
一角が呆れたような顔と声でそう言い、俺は二人の女性というか、ほぼ麗美さんに背負われて拠点まで運ばれる。
麗美さんに背負われ、背中の上から拠点を見た感じ、俺の家は無事だったが、他の家は壊され、柵も何か所か壊されてしまっていた。多分、残りの干し肉も食べられてしまっただろうな。
俺はそのまま、クマに壊されず無事だった、自分の家に寝かされる。
そして、その横には明日乃が心配そうな顔で俺に付き添ってくれる。
「そういえば、りゅう君と急いで合流する為に、お水とか野草とか折角刈り取った麻の束とか全部置いてきちゃったんだよね」
明日乃が無言の時間がつらかったのかそう言う。
「ああ、とりあえず、私と麗美姉でこれから、クマの解体と途中で置いてきた荷物の回収にいってくる」
俺の家を覗いていた一角がそう言う。
「一角、作業中とか移動しながらでいいから、麗美さんに状況を説明しておいてくれよ」
俺は動かない体で頭を少しだけ持ち上げそう言う。
「ああ、わかった」
一角はそう言って、踵を返し、作業に向かう。
「流司クンはしっかり静養するんだよ」
麗美さんはそう優しく声をかけてくれてから、一角の後をついていく。
「レオは明日乃達を守ってやってくれ。あと、たき火が消えないように見といてくれよ」
そんな一角の声がする。
レオもいるらしいのでまあ、何かあった時は明日乃を守ってくれるだろう。
俺は安心して目を閉じる。体が動かなくてやる事がないので、少しでも寝て回復するしかないな。という結論にいたったからだ。
【異世界生活 4日目 20:00】
俺は、体の痛みで目が覚める。ステータスウインドウを見ると夜の8時を回っていた。
這いずるようにして家から出ると、
「りゅう君、目が覚めた? 体は大丈夫? 起きられる?」
明日乃が心配そうに傍まで駆けてきて矢継ぎ早に聞いてくる。
「いや、立つのもしんどい、というか全身激しい筋肉痛みたいな感じで動くのもつらい」
俺はそう言って地面に突っ伏す。
体が全く動かないのだ。
「しょうがないな」
一角がそう言って俺に肩を貸してくれ、引きずられるようにたき火の傍に移動し、クッションがわりの枯草の山に横になる。
一角も麗美さんもクマの解体や放置してきた素材の回収を終えて帰ってきていたんだな。
「ご飯は食べられる?」
明日乃がそう聞いてくる。
「とりあえず、今は箸すら持てなそうだ。もう少し落ち着いたら食べるよ」
俺はそう言って、明日乃に心配かけないように笑いかける。
「それで、一角、麗美さんにはちゃんと説明できたか?」
俺は気になって彼女に聞いてみる。
「ああ、ちゃんと教えてもらえたわ。神様が作った新しい世界、この異世界を開拓しなくちゃいけないのよね? そして、元の世界には自分の分身が残っていて帰ることはできないと」
一角ではなく、麗美さんが説明を聞いて自分なりに解釈してそう答える。
「麗美さんも元の世界に帰りたいよね? もう少しで医者の道も開けるところだったし、やりたいこともあったでしょ? なんかごめんね」
俺は体に自由が利かず、弱々しい言葉で言う。そして謝る。もしかしたら俺が、この世界の開拓者に選ばれて、俺の関係者だからって、巻き込まれた可能性もあるしな。
「そうだね。一方的に呼ばれて帰れないっていうのは腹ただしいけど、まあ、流司クンに会えたからいいかな。それに、もう一人の自分は向こうの世界で普通に生活しているらしいし。というか、流司クンのせいって言うなら穴埋めとして、たまにでいいから、お姉さんに流司クンの体を貸しなさいよね」
麗美さんが、本気なのか冗談なのか分からない口調で妖艶な笑みでそう言う。
「そ、それはダメです」
明日乃がそう言って俺の貸し出しを却下する。
「別にいいでしょ? 流司クンに私の彼氏になって欲しいわけじゃないし、たまに欲求不満の解消がしたいだけ。それで運良く、神様の希望する子孫が増えたら神様も喜ぶんでしょ?」
麗美さんが俺と明日乃をからかいたいのかそう言う。
「一角は子作りの話までしたのか?」
俺は慌てて聞く。
「ああ、したよ。神様が何を望んでいるのかは知っておかないとダメだろ? それに、私たちが呼ばれた理由も説明できない」
一角がそう答える。
教えなくていいことは教えなくてもいいだろ。と思いつつ、一角の意見にも一理あるのでそれ以上は何も言えなかった。
「子作りとか、神様が望んでるかもしれないけど、今はダメです。りゅう君は私の恋人だし、なにより、生活がこんな状況じゃ、子孫うんぬんって話じゃないでしょ?」
明日乃が必死になる。
神様が子作りを期待しているという部分を否定できないようだが、確かに今はそんなことをやっている状態じゃない。
「というか、麗美さん、俺と明日乃をからかうのはいい加減にしてくれよ。俺に興味なんかないだろ?」
俺は、明日乃との今の関係を守りたい気持ちもあり、明日乃に助け舟を出す。それに、あくまでも俺と麗美さんは元生徒と元家庭教師の関係だけだ。
「興味ないわけないじゃない。実は、流司クンが大きくなって、明日乃ちゃんとうまくいってなさそうだったら、もらっちゃおうっかなって、3年前からお姉さんはこっそり狙っていたんだよ。実はね」
麗美さんが俺を冷やかすように笑いながらそう言う。
明日乃も驚いた顔をする。
「麗美さん、冗談だよな?」
俺も驚いてそう聞く。というか、本当に冗談だよな?
「冗談ではないわよ。私も流司クンのことはいいなって思ってたし。まあ、明日乃ちゃんとうまくいったみたいだし、彼女の座は諦めるけど、この世界にもし男の子が流司クンしかいないんだったら、将来的には、少しくらい貸して欲しいなって。たまにでいいから、ね? いいでしょ?」
麗美さんが言葉巧みに明日乃を攻め落とす。
麗美さん、冗談じゃなくて、本気なのか? 麗美さんのからかうような笑顔に真意がつかめない。
「とにかく、今はダメです。このあと、他の男の子も来るかもしれないし、その子で我慢してください」
明日乃も譲らない。
そして、みんなにはまだ話をしていないが、残念ながら今後も男は来ないらしい。神様がネトラレ嫌いらしいからな。
「じゃあ、生活が安定して、明日乃ちゃんに赤ちゃんができて、流司クンがお姉さんを構ってくれるようになるまで待ちますか。その時は明日乃ちゃん、旦那様を貸してね。神様も期待してるんだしさ。私たちの子孫をね」
麗美さんが俺と明日乃にそう言い、とりあえず、この件は生活が落ち着くまで保留という事になった。
「知りません」
明日乃が最後にそう怒ってこの話は終わった。
麗美さんは冗談で言ってるんだよな。俺と明日乃をからかっているだけだよな? そんなことを考えながら麗美さんを俺は横になったまま、真意をくみ取る為にも観察する。
麗美さんは、色白で、髪の毛も目の色も天然の茶色、ものすごく美人さんだ。軽くウエーブのかかったロングの髪型は、いかにも憧れのお姉さんといった風貌。
ただし、実際は医学知識以外に全く興味を持たない、生活能力ゼロのダメ姉さんだ。化粧やファッションにも疎く、俺のお袋から無理やり強要されて化粧水やお肌のケアを始めたくらい無頓着、家庭教師を始めたころなんて、上下ジャージに安そうなランニングシューズでうちに来ていた。しかも大学にはその格好で毎日通っていたそうだ。
磨けば光るダイヤの原石なのに、無防備に道端に転がされている、自分はただの石ころだと思っている、そんな感じのダメ姉さん、それが麗美さんだった。
そして、麗美さんもこっちの世界に来るときにけもみみが生えたみたいで髪の色によく似た茶色い猫のような耳と尻尾が生えていた。
「ま、まあ、とりあえず、明日乃も麗美さんも仲良くしてくれ。特に、明日乃。麗美さんは合気道もそうだけど、剣道も達人だから、剣道を習って少しでも戦えるようになってもらえると助かるよ。戦えないとレベルアップもできないみたいだしな。な? 俺も一緒に剣道習いたいし、な?」
俺はそう言って、なんとか2人が仲良くしてもらえるようお願いする。
確か、麗美さんのお父さんは警察官で、子供のころはお父さんみたいな警察官になりたくて剣道や柔道を習っていたみたいな話を聞いたことがある。
ただ、麗美さんのお父さんは事件に巻き込まれて、殉職してしまい、それがきっかけで、人の命を救う、ケガや病気で死ぬ人を減らしたいと、医師の道に進んだみたいな話を過去に麗美さん本人から聞いたことがある。
母親と二人、苦労しながら国立の医大に通った努力家の女性だ。そういうところには憧れていたし、俺も少し好きになっていたのかもしれない。
あくまでも、恋人にしたい女性として好きなのは昔も今も、明日乃だけだが。
「とりあえず、医学の知識がある麗美さんが来てくれて本当に助かったよ。確か外科だっけ?」
俺は、明日乃と麗美さんの間に流れる微妙な空気を払拭しようと、麗美さんの良いところをPRしようと必死になった。
「ああ、でも、この世界では元の世界の医学知識は全く役に立たないと思った方がいいわね。道具もなければ薬もない、傷を縫う針も糸もないし、麻酔もなければ、消毒するアルコールすらない。私に今できるのは、内科医のふりをして口先だけのアドバイスと外科医のフリして、死ぬか生きるか博打まがいの殺人行為だけよ」
麗美さんが少し悲しそうに言う。
「でも、知識があればそのうち、薬とか道具とかも自作できるんじゃ?」
俺は麗美さんをフォローするようにそう言うが、
「残念ながら多分無理ね。薬なんて人一人で作れるものじゃないわ。そんなこと考えるのは科学を知った気でいる素人だけよ。ペニシリン一つにしたって奇跡の産物、パンをカビさせれば簡単にできるものではないし、カビが偶然に抗生物質を生み出すようになったとしても、それがペニシリンかどうかなんてわからない、抗生物質なんて呼ばれる物質は山ほどあるのよ。それが人体に悪影響がないかもわからない。抗生物質一つにしたって、それを生み出し、同定して、人体へ効果があって副作用が少ない物を選別して、本当に無毒か動物実験で確認して、やっと薬になる可能性が見えてくる。そこから成分を濃縮したり、人体への効果が最適な濃度を見つけたり、製造する際にすべて同じ濃度になるような製造方法や同定方法をみつけたり、科学、特に薬学に関しては作り方が分かればすぐに作れるって甘い世界ではないのよ」
麗美さんがそう言って薬が簡単にできるものではないことを力説する。
「鉱物由来の薬だってそう。そもそも薬を作るには原料が必要で、その原料は混ざりものがあったら知っている製法がうまくいかない事なんて山ほどある。たくさんの鉱物や酸や塩基などの溶液、それらを集めてかつ、純物質で、濃度一定で、大量に用意できて器具もそろっていないと作れない、しかも時間も人手も必要。科学知識がある2~3人が集まったところで数千年の科学の歴史や文明は再現できるものではないの。原料を作るところから、器具を作るところから、たくさんの人が必要で、たくさんの経験と歴史が必要で、原料を掘る人、純度や濃度を上げる人、濃度や分量を量ったり質を一定にしたりする人、それが原料にも器具にも大量に必要になる。科学って、長い歴史とたくさんの人の努力とその積み重ね、文明が発達した社会自体が科学であって、科学には絶対不可欠な要素なのよ。私一人の知識でどうこうなるものじゃない、それが残念だけど科学であり薬学であり、医学なのよ」
麗美さんは少し口惜しそうにそう言って自分が医師として役立たないことを表明する。
「まあ、アルコールくらいは作りたいわね。飲んでも美味しいし、消毒薬になるし、少しだったら麻酔の代わりにもなるし。でもアルコールにしたって、原料の麦やトウモロコシ、米などの農耕文化を擁立させないと作れない。発酵させるにも酵母や麹、アルコールを作る菌とその知識が必要になる。科学って失ったら、ゼロから作り直したら膨大な時間と人が必要になるものなのよ」
麗美さんが綺麗にまとめるが、この人はただ、お酒が飲みたいだけかもしれない。この人、二十歳になったとたん、うちの親父と晩酌しまくってたし、お酒が大好きだったもんな。
「まあ、そのあたりは、神様にいっぱい祈れば、原料とか、アルコール作る酵母とか神様が作ってくれるんじゃないかな? 医療道具とか薬とかも少量なら神様が作ってくれるっぽい? 中華鍋みたいに?」
明日乃がそう言ってフォローしてくれる。
「だったら、神様に一生懸命祈らないとね。アルコールを下さい。薬を下さい、ってね」
麗美さんがそう言って笑う。やっぱりこの人、お酒飲みたいだけかもしれない。
とりあえず、知識だけではどうにもならない文明という壁があることを俺たちは知らされた。
まあ、この世界は魔法が使えたり、鑑定スキルとかおかしなものも使えたりするから、そこらへんや、秘書子さんの知識を使えば何とかなる気もするけどな。少なくともリアルなサバイバルではできなくても異世界サバイバルならできる。ってことはあるかもしれない。だって、神様がいるんだし。
「そういえば、拠点はクマに荒らされて結構ひどい状態だったぞ」
明日乃と麗美さんのバトルが一段落したところで、一角が残念そうにそう言う。
俺も、寝る前に少し見ていたが、クマに拠点の色々なものを壊されていたようだ。
一角の話では、一角と明日乃の家が壊され、土器を乾かしていた家も半壊、土器も半分が壊されていた。柵も何カ所か壊され、干し肉を干す籠はバラバラにされ干し肉は食べつくされていたそうだ。
たき火の火は消えずに残っていたので、レオが薪をつぎ足して維持してくれたそうだ。あと、俺が作った塩も無事だったらしく、一角にとってそこが一番嬉しかったらしい。意外とグルメな一角らしい反応だ。
「まずは家を作り直さないとな」
俺は寝たままそう言う。俺が今日一日動けなそうなのが口惜しい。
「まあ、流司は足手まといだから今日は寝ていろ。私と麗美姉で家の修理と麗美姉の家づくりはやっておくから」
一角がそう言う。
「私もレオと協力して、りゅう君が寝ている間に家の材料とか柵を直す材料とか集めて来たんだよ。あと、竹も少しあるからなんとかなるよ」
明日乃がそう言って笑ってくれる。
「それに、クマを解体したら結構おいしそうな肉がいっぱいとれたんだよ。クマ肉って結構おいしいらしいしね。野草もいっぱい採ってきたし、今から美味しいご飯作るね」
明日乃が絶望的な今の状況をフォローするようにそう言う。
「美味しいご飯期待しているよ」
俺はそう言って笑うが、スキルの後遺症で俺自身は起き上がることもできない寝たきり状態だ。かっこ悪いな。
「そういえば、クマの解体上手くできたんだな」
俺は気になっていたことを聞いてみる。
「まあ、クマも人も基本は似たような構造だしね。神様から貰った、変幻自在の武器? あれがあったし、私、外科医の卵だし、何とかなったわよ」
麗美さんが少し自慢げにそう言う。
「私もイノシシを解体したときの知識と経験があったし、麗美姉と二人いればクマだろうと解体は余裕だったよ。それと、神様にお祈りしてマナに還す。ってやつもちゃんとやったしな」
一角もアピールしてくる。
「毛皮も採れたから、よく洗って、服にしたいね」
明日乃もうきうきでそう言う。
「そういえば、今回使った、魔法による連絡? これって、結構マナ使うみたいだから、使うタイミングは慎重に考えないとな。今回、2回使って、マナを使い果たし、連絡手段を失って、行き違いみたいなことが起きてしまった。今回は俺のミスだ。本当に申し訳ない」
俺はチャット機能への注意喚起と今回、みんなを危険な目に合わせてしまったお詫びをする。
「私も冷静さを失って、無駄な魔法の連絡しちゃって、りゅう君にマナ余計に使わせちゃったよね」
明日乃はそう言って俺に謝る。
「あれは仕方なかったかな」
俺はフォローする。明日乃が心配してくれたのはうれしかったしな。
「というか、流司! 昼間の飛び出しは無謀過ぎる、なんだ、あれは!」
一角が凄い勢いで俺に怒声を浴びぜる。
「なんだと言われても、一角がクマに襲われそうだったから反射的というか、やっぱり、女の子が怪我するのは嫌だから、飛び込むのは当たり前だろ? って」
俺は素直にそう言う。明日乃はもちろん、一角にだって怪我して欲しくはない。
「なっ!? そ、それで、流司が怪我したり、下手をすれば死ぬことだってあったりするんだぞ。そんな事になったら、明日乃が悲しむし、私が明日乃に合わす顔が無くなるじゃないか!」
一角がそう言う。
俺の体の心配より、明日乃との関係が悪くなるのが嫌みたいだな。一角らしいや。
「明日乃も大事だけど、一角だって、守りたい大事な仲間だぞ。俺は、女の子は守りたい。古臭いタイプの男なんだよ」
俺は笑ってそう言う。
最近は男女平等とか色々あるけど、俺はか弱いお姫様を守る王子様になりたい古臭い考えの持ち主だからしかたない。
「なっ!?」
一角が言葉を失う。そして、ちょっと顔が紅い?
「りゅう君はそういう人だよ。結構、頼れる男の子だし、優しいんだよ」
明日乃が嬉しそうにそう言う。
「そ、それでも、私が怪我した方がマシだ!!」
一角が顔を真っ赤にして怒る。
まあ、今回は、秘書子さんの緊急スキル発動のおかげで命が助かったけど、気を付けないとな。
このスキルは発動にマナは要らないみたいだけど使う場所やタイミングは良く考えよう。この副作用的なものは危険過ぎるもんな。
俺は、全身の激痛と動かない体に悩まされながらそう思うのだった。
次話に続く。