第93話 拠点への帰還とハーピー対策?
【異世界生活 64日 11:00】
「とりあえず、今日は帰るか。ハーピーの対策もしたいし」
俺はみんなにそう提案する。
「そうだね。飛び道具を持っていない琉生は何もできなかったよ」
琉生が笑いながらそう言うがなかなかシュールな意見だ。
「クロスボウをもう2個くらい作ってもらった方がいいかもな」
俺は琉生にそう答える。
「一角ちゃん、ダメージは大丈夫? 回復魔法使う?」
明日乃が心配そうに一角に聞く。
「ああ、大丈夫だ。帰って寝れば回復する程度のすり傷だ」
そう言って一角は明日乃の回復魔法を断る。
「とりあえず、一角ちゃんもダメージ受けたし、気をつけて帰りましょ?」
麗美さんがそう言い帰路に着く俺たち。
持ち帰るものも、ワーウルフが使っていた粗悪な青銅の槍の穂先くらいだ。
「流司お兄ちゃん、帰りは森を通って帰ろ? 麻の茎を回収してまた腐らせないといけないし」
琉生がそう言う。
「クロスボウを追加でつくるなら砂と粘土も持って帰ろう。金属部品をつくる鋳型に必要だからな」
俺も賛成して、麻の群生地のそばにある、地層の見える崖で砂と粘土も持って帰る。
「だったら、ついでにダンジョンにも寄ろう。調味料欲しいしな」
一角がとんでもない発言をする。
「ついでで寄る場所じゃないだろ? ダンジョンは」
俺は呆れてそう言い、みんなも呆れ顔になる。
結局、一角のわがままに付き合わされ、お昼ご飯をダンジョンの前で食べてから、ダンジョンの5階と4階を付き合わされた。しかも一角はダメージ受けたままだ。
俺たちのレベルもだいぶ上がったし、最初に潜るダンジョンだしで、ノーダメージ。まあ、経験値の効率はお察しだったけどな。
ダンジョンでは琉生の育成をやったが残念ながらレベルアップまでには至らなかった。
魔物狩りをして帰ってくるだけの予定が、麻の茎、粘土や砂、そしてダンジョンのドロップアイテム、沢山の荷物を担いで帰ることになってしまった。
【異世界生活 64日 16:30】
「おかえり。遅かったわね」
そう言って、真望と鈴さんが迎えてくれる。
「ああ、魔物狩り自体は早く終わったんだけど、帰りに寄り道してたら、ダンジョンまで突き合わされることになっちゃってな」
俺はそう言って、真望に麻の茎を鈴さんに粘土と砂をお土産とばかりに見せる。
「砂と粘土? なんか嫌な予感がするんだけど」
鈴さんが嫌そうな顔をする。
俺は鈴さん達に、今日の魔物狩りの経緯とハーピーの話をして、クロスボウ増産のお願いをする。
「それにしても、この時間に真望と鈴さんが一緒にいるなんて珍しいな」
俺は作業に夢中で引きこもりがちな二人の組み合わせに違和感があり、そう聞いてみる。
「ああ、今日は、この間、青銅で作った大きい櫛みたいな奴を木材部分と組み合わせて、千歯こきを作ったんだよ。で、麻の繊維が上手く取れるか試していたんだ」
鈴さんがそう答え、二人の後ろにあった、木製の土台に青銅製の櫛みたいなものが逆さに付いた道具を指差す。
なんか眷属のアオとトラが一生懸命にその道具に麻の茎を通して繊維を取り出す作業をしていた。
「わあー、いい感じの千歯こきだね。小麦が収穫できたら私も使わせてもらお」
琉生がそう言って駆け寄り、興味津々に眷属達の作業を見ている。
まあ、本来、千歯こきは稲の籾を取るのに使うような道具だから、農業担当の琉生が興味を持つのは当たり前と言えば当たり前か。
「歯の部分が青銅製になって、だいぶ効率も良くなったわよ。竹串製の千歯こきは歯がグラグラだったしね」
何故か、真望が自慢げに言う。
「そうなると、水浴び小屋は後回しって感じかな?」
俺は気になって、鈴さんに聞く。
「そっちは終わったよ。昨日までにもだいぶ出来上がっていたし、眷属達が手伝ってくれたから、小屋自体はできたよ。ただ、水道が全く手をつけられてないから肝心な水浴びの水がないんだけどね」
鈴さんがそう報告してくれる。
「水道早くつくらないとね」
明日乃がやる気になる。水浴びがしたくてしょうがないらしい。
「いやいや、ハーピー対策で帰ってきたんだからハーピー対策が先だろ? クロスボウをもう2個作ってもらおう」
俺は水道も必要だよな、と思いつつも流されずにクロスボウ作りを押す。
「いっそのこと、マシンガンでも作ってもらった方がいいんだけどな」
一角が適当な事を言う。
「まあ、材料があれば火薬とかニトログリセリンとか作れるけどね。硝石、硫黄、木炭があれば単純な火薬は作れるし、少し難しい火薬も、硝酸、硫酸、あたりがあればなんとかなるかな? クマの油とかもあるし、何種類か火薬を作るレシピは思いつくね。おしっことかからも火薬が作れるんだよ」
麗美さんがしれっと言う。
「麗美さんってもしかしてヤバイ人?」
真望がドン引きする。
「マジ? 火薬作れちゃうの?」
俺も少し引く。
「まあ、インターネットで調べれば、火薬ぐらいなら作れちゃう世界だったからね。私も作り方くらいなら知ってるよ。本当に作れるかはわからないし、材料がないと作れないけどね」
鈴さんもしれっと言う。
「分からなければ秘書子さんに聞けばいいか」
俺は何となくそう呟く。
「ちなみに、この世界での火薬の製造は重罪です。故意に、そして大量に火薬を作った場合、神の名のもとに火薬ともどもこの世界から消去されます」
秘書子さんが無感情で怖い事を言う。
みんなドン引きする。
「ちなみになんで、火薬を作っちゃいけないんだ?」
一角がそう聞く。
「元の世界の神様が戦争で人類が滅ぶ危険性を感じたからです。人類の魂の一部を大量虐殺兵器の作れない異世界を作り避難させる。箱舟の意味もあるのです、この世界には。なので、大量虐殺や人類が滅ぶレベルの戦争が起こせないようなルールがこの異世界には設定されています」
秘書子さんがそう説明する。
「火薬も正しい人が少し使う分には便利で文明を進めるのに必要だと思うんだけどね」
麗美さんが不満そうにそう言う。
「とにかく、大量虐殺につながるような文明や科学の成長は禁止しております」
秘書子さんが問答無用で火薬の製造を禁止する。
「ということで、火薬は禁止だそうよ。だから銃も作れないわね」
麗美さんが諦める。
「ぶっちゃけ、火薬も魔法も変わらないと思うけどな」
一角がしれっと言う。
まあ、そう言われるとそうだが。
「人を殺す手段が人の手から離れた時、人の残虐性は無尽蔵に膨れ上がります。自分で人や生き物を殺したと自覚できる魔法や武器しかこの世界では許されません」
秘書子さんが禅問答の様な事を言う。
「まあ、引き金が軽くなると人を殺す事も軽く考えるようになる。みたいな感じかな?」
明日乃がそう言い、なんとなくわかった気がする。
魔法は目の届く範囲で生き物を殺し、自分も殺される恐怖を味わう。そこが銃や近代兵器との違いと神様は言いたいのかもしれないな。
「まあ、確かに離れたところから安全に殺せるようになると、殺す側はどんどん残虐になるからね。まあ、諦めましょ」
麗美さんが改めて火薬作りを諦める。
安全な場所から一方的に攻撃できる結界魔法はどうなんだ? と突っ込みを入れたくなったが、結界魔法まで禁止されたら困るので黙っておく。
些細な雑談から、この世界のルールの厳しさを教えられたのだった。
「ということで、神様にも許されてるクロスボウで頑張りましょ? 流司、材料の木材が足りないから、丸太を採りに行くよ」
鈴さんが俺にそう言うので、残り時間で乾いた倒木を探しに行く。
「じゃあ、私は松脂を取りに行くか。今日なくした矢も補充しないといけないしな」
一角はそう言って同じように森に入っていく。麗美さんも一緒に行くようだ。
「一角、ついでに松の枝や皮が落ちていたら拾ってきてくれ。松明を作りたいから」
俺がそう言うと一角が返事代わりに手を上げる。
「オレ達は鳥捕ってくる」
レオがそう言い、レオとココも森に入っていく。
そんな感じで、みんなクロスボウの材料集めを始め、明日乃と真望は麻布作り、琉生は畑作業をするようだ。
【異世界生活 64日 18:00】
日が暮れるまで時間がなかったが、レオとココが3匹、キジを捕まえてくる。
俺達もそれぞれ丸太や松脂、松明の材料などを集めることができた。
琉生が手際よく、キジの羽根を抜き、矢の矢羽が確保でき、そのままキジを捌き、夕ご飯の食材になる。
「今日はキジを焼こうか? ローストチキン? あ、でも、オーブンがないから作れないか」
明日乃がそう言う。
作れて丸焼きかな?
「なければ作ればいい」
「そうね、作りたいとは思っていたのよ」
何故か一角と鈴さんがやる気になる。
「もしかして、琉生がやるの?」
琉生がそう言って怯える。
そして、頷く鈴さんと一角。
「お祈りポイント使っちゃうけどいいよね? 将来的に小麦が収穫できるようになったらピザとかパンとか焼くでしょ?」
鈴さんがそう言う。
「そっか。パンを焼くのにも必要だもんね。それじゃあ、頑張っちゃおうっかな?」
琉生も食の事になるとやる気を出す。
「思い立ったら吉日ってやつだな」
一角も乗り気だ。
こいつはお祈りポイントを使ってしまうと自分の変幻自在の武器を手に入れる日が遅れることに気づいていないのか?
なんだかんだ言って、みんなも承諾し、お祈りポイントが40000ポイント消える。
前に集めておいた珪石を使い、琉生が土魔法で耐熱煉瓦を200個作る。
俺も圧縮魔法で珪石を砂にしつなぎの粘土を作る手伝いをさせられる。そして麗美さんは完成後に窯の乾燥に魔法を使わされる。
「できたな」
「ああ、完成した」
一角と鈴さんが満足そうな顔をしてそう言う。
1時間30分ほどで立派なピザ窯のようなものを作ってしまった鈴さん。
ちなみに時間はもう20時だ。
「もしかして、今からローストチキン作るのか?」
俺はドン引きする。
「えっと、キジの下ごしらえしちゃったよ」
明日乃もこそっとやる気だったようだ。
塩胡椒と少しの砂糖醤油、それと琉生の畑で育てたハーブでキジに味付けがされていた。
そして、そこからが長かった。
ピザ窯が使えるようになるまで、余熱に2時間以上かかるのだ。
うん、なんか、有名なアニメで見たような記憶がある。
そして、ローストチキンを焼くのに1時間
夕ご飯ができるころには23時過ぎていた。うん、真夜中だ。
「みんな、ローストチキンできたよ」
明日乃がそう言ってお皿に乗せたキジの丸焼きがお目見えする。
うん、遅すぎて琉生が眠気に負けてたき火のそばで寝ている。
「今日はなんか豪華なディナーだから、紅茶も入れるか。砂糖もたっぷり入れて」
俺はそう言ってお湯を沸かし出す。
「なんか、クリスマスパーティみたいでいいね」
明日乃も少しワクワクしだす。
「季節的に夏に近い春だけどね」
鈴さんが冷静に突っ込む。
「流司、先に食うぞ」
一角がそう言い、紅茶を待たずにローストチキン(キジ)を食べてしまう。
「美味いな。これはヤバイ。オーブンを作った価値があるくらい美味い」
一角が感動している。
「りゅう君も食べよ?」
明日乃がそう言って俺の分を切り分けて持ってきてくれる。
「琉生ちゃん、ご飯できたよ」
明日乃はその後寝てしまった琉生を起こしてご飯を食べさせる。
「紅茶も入ったぞ」
俺はそう言って、竹の筒で作ったコップに紅茶を分けて配り、砂糖の入った壺を回す。
「そういえば、紅茶も久しぶりね」
真望が嬉しそうに砂糖を入れて竹のスプーンでかき混ぜる。
「なんか、砂糖も紅茶も贅沢品みたいな感じで出し惜しみしてたしな」
俺はそう答え、回ってきた砂糖を入れてかき混ぜて飲む。
ちょっと青臭い紅茶だが、砂糖たっぷりで美味い。
そして、ローストチキンも本格的で美味かった。
塩胡椒の味と少し甘辛い醤油だれで照りをつけたキジの丸焼き。中まで火がしっかり通っていて本当に旨い。
「そういえば、前にダンジョンで胡椒ももらってたもんな」
俺は思い出したように言う。
「そうだね。ただ使いどころに困っていたからちょうどよかったよ」
明日乃がそう言って笑う。
「やっぱり胡椒があると肉の味が引き締まるな」
一角ががつがつとローストチキン(キジ)を食べる。
眷属達も美味しそうに食べている。
琉生も眠そうにしているが、しっかり口は動いている。
そんな感じで、急にオーブンというかピザ窯作りが始まり、ローストチキン作り。そして紅茶もいれて簡単なパーティになった。
「たまにはこういうのもいいね」
明日乃がそう言って笑う。
みんな満腹で満足して、日課のお祈りをして就寝する。
今日は夜遅くまで、騒いでしまったな。明日は少し遅めに起きて、ゆっくりしてから、追加のクロスボウ作りを始めよう。
次話に続く。
【改訂部分】ほぼ書き直しですね。なんかクロスボウの数を増やそうとしたら、鈴さんと一角が暴走して、ピザ窯ができて、ローストチキン(キジ)を作ってしまいました。まあ、真面目に魔物狩りとか最近働き過ぎな気もするのでいいでしょう。
あと、火薬を作れない世界という設定を再認識してもらいました。火薬とか銃が簡単にできる異世界だとありふれた異世界で俺最強になっちゃいそうなのでw
火薬が簡単にできたり魔法で銃や車ができちゃうようなチート魔法はこの小説では禁忌ですw
まあ、魔法で簡単に色々作れたらサバイバル全否定になっちゃいますしねw 鈴さんが泣きますw




