第91話 クロスボウを作ろう
【異世界生活 62日 4:00】
「おはよう、流司、明日乃。お祈りポイントが70000貯まったから、鍛冶道具、金床を貰おう」
鈴さんがさわやかな顔でそう挨拶してくる。
先に起きていたメンバーは疲れた顔をしている。散々、金床について語られたのだろう。
「麗美さんが起きてきて、朝食食べ終わったらな」
俺はそう言って断る。
「麗美さんが起きてきたらすぐ交換した方がいいと思うな。落ち着いて御飯食べられなそうだし」
琉生がぐったりした顔でそう言い、隣にいた一角と真望も頷く。
「そ、そうか、そうするか」
俺はそう返事し、明日乃と朝食を作り始める。
今日の朝食は昨日ダンジョンでドロップしたシャケの一夜干しを焼いたものだ。
「お、いい匂いだな。米が食べたくなる」
一角が臭いにつられてやってくる。
「昨日は結構魚の切り身獲れたからね。タラの半身が24枚、シャケの半身が5枚。半身1枚で3人分くらいのご飯になるから、87人前、7人で4日分くらいのごはんになるよ」
明日乃が嬉しそうにそう言う。
マーマンの肉疑惑は解決したようだな。
「明日乃、食料の在庫あるか?」
俺は気になって聞いてみる。
「クマ肉が4食分、猪肉が2食分、海で採ってきてくれた魚が1食分、結構ギリギリだったね。ダンジョンのドロップで少し食料ももちそうだよ」
明日乃がそう言って安心させるように笑う。
「畑の野菜はだいぶ減っちゃったかな。北の平原に補充に行きたいかも?」
琉生がそう言う。
現在、琉生がやっている畑はあくまでも、育つ途中の苗や野菜を植え直して育てているだけなので、増やしたり、種を蒔いたりできないので、北の平原に行って補充しないといけないのだ。
「まあ、ニンジンとキャベツならダンジョンドロップで補充できるけどな」
一角がそう言ってダンジョンに行きたそうな顔をする。
ウサギ型のウッドゴーレムのドロップアイテムが何故かニンジンとキャベツなのだ。
「昨日、タラ鍋とみりん干しでお醤油とみりんが無くなっちゃったから、特にお醤油は欲しいね」
明日乃がまるでスーパーで帰りに買ってきてとでも言う様に醤油を欲しがる。
「流司、今日はクロスボウの金具部分を作るから、ダンジョン行く暇ないからね」
鈴さんに念を押される。
「お醤油がないのは寂しいわね」
真望が残念そうにそう言う。
「お、真望がやる気だな。それじゃあ、午前中は流司と鈴さん以外でダンジョンに潜ろう。ニンジンとキャベツ、あと、ウサギの肉。そして醤油を手に入れる為に」
一角がそう言ってやる気になる。
「琉生が病み上がりなんだから無茶言うなよ」
俺は一角の意見に釘を刺す。
「流司お兄ちゃん、琉生は大丈夫だよ? 昨日ぐっすり寝たら、痛みとかもなくなったし、秘書子さんの言う通りだったね」
琉生がケロッとした顔でそう言う。
確かに秘書子さんは一日寝れば治るくらいのダメージとは言っていたが本当に治るとはな。
「じゃあ、そのあたりは琉生と真望の判断に任せるよ」
俺はそう言って琉生達に任せることにする。
「流司、麗美さんが起きてきたよ。金床を貰おう!」
鈴さんは麗美さんがツリーハウスから降りてくるのをずっと監視していたようで、麗美さんが梯子を下り始めたところで鈴さんが嬉しそうにそう言う。
「おはよう。みんな。何? どうしたの? 私、凄く注目されてるみたいだけど」
麗美さんが寝ぼけ顔で、みんなを見渡す。
俺は経緯を説明し、麗美さんからお祈りポイント使用の承諾も取り、とりあえず、神様から貰ったお祈りポイントでいろいろもらえる箱のまわりにみんなで集まる。
そして、鈴さんがお祈りすると、箱が光って、お祈りポイントが40000ポイント減る。お祈りポイントの残り33050ポイントになった。
「まあ、お祈りポイント30000ポイント残っているなら魔物の島の探索くらいはできるな」
一角が安心してそう言う。
なんだかんだ言って、攻撃魔法はお祈りポイントで使った方がお得だしな。そして、マナで攻撃魔法を使うと体内のマナが乱れて吐き気で30分魔法が使えなくなる。連射できないという弱点もあるのだ。
ちなみに獣化スキルは仕組みがまた違うらしく、マナを使っていても吐き気はしないし、連続使用が可能らしい。よく分からないが。
一角や麗美さんたちと魔物狩りの雑談をしていると、魔法の箱の光が収まり、鈴さんが箱のふたを開け、中身を取り出す。
なんか巨大な鉄の塊、アルファベットのHを横にしたような形をした鉄の塊を取り出す。
「ああ、なんかテレビか何かで見たことあるな」
一角がそう言う。
俺も、なんか、中学校の技術室みたいなところで見た気がする。
「この金床の上で、熱した金属を金槌で叩くことで、伸ばしたり、曲げたり、色々な加工をすることができるようになるんだよ」
鈴さんが嬉しそうに語る。
金槌、火箸、金床。そして、耐火煉瓦で作った錬成窯に火床。一応、鈴さんが欲しがっていた鍛冶道具や設備が揃った感じになる。
「鈴さん、本格的な鍛冶は水道とクロスボウができてからだからね?」
俺はそう念を押しておく。
言っておかないと鈴さん、鍛冶工房に引きこもりそうだしな。
「分かってるわよ。じゃあ、朝ごはんを食べて、さっさとクロスボウの金具作りを始めるよ」
鈴さんはそう言って嬉しそうに金床を抱きしめて鍛冶工房に持っていく。
「私たちも朝ご飯を食べましょ? 焼いた魚が冷めちゃうよ」
明日乃がそう言うので、みんな、たき火のまわりに集まり、朝食を食べ始める。
うーん、焼きシャケは美味しいんだけど、本当に真っ白いごはんが食べたくなるんだよな。
朝食後、日課の剣道場室を行い、俺と鈴さんは鍛冶工房でクロスボウの金具作り、他のメンバーは一角のごり押しで午前中、1つ目のダンジョンで、食材回収と調味料回収をすることになったらしい。真望が嫌そうな顔をしていた。
一角達を見送り、俺と鈴さんはクロスボウの金属部品作りを始める。
まあ、いつもの砂と粘土で鋳型を作って、青銅を流し込む作業だ。
いつも通り、木箱に砂を詰めて固めて鋳型を作り、金具を模した木型で鋳型に青銅を流し込むくぼみを作っていく。クロスボウ2台分の金属部品となにかギザギザな部品の鋳型を作る。
クロスボウ自体の金具は少ないが、構造が少し細かいのと、矢の鏃などの部品が多く、面倒臭そうだ。そして謎のギザギザ。
「このギザギザのやつって何?」
俺は気になって聞いてみる。
「ああ、クロスボウの部品だけじゃもったいないから、以前、真望や琉生にお願いされてた千歯こき? 稲や小麦の籾を取ったり、麻の茎から繊維を取ったりする時に使うくしの大きいのみたいなやつを一緒に作っちゃおうかなって」
鈴さんがそう教えてくれる。
「ああ、それは真望や琉生が喜びそうだよ」
俺はそう言って笑う。
鋳型作りも何度もやってきたので効率よくでき、早く作れるようになった。
残りの時間で、青銅を溶かす炉の準備をする。
これもいつも通り、木炭を砕いて、青銅と炉に入れて溶かす感じだ。
そこまでやって、お昼が近くなったので休憩。俺は昼食を作る。昼食と言っても、琉生の畑から野菜を貰ってきて、熊の干し肉をお湯で戻して塩味のスープにするだけだが。
【異世界生活 62日 12:00】
「流司はいいお嫁さんになれそうだな」
鈴さんが俺の料理をする姿を見ながらわけのわからないことを言う。
そんな感じでお昼ご飯を作っていると、一角達もダンジョンから帰ってくる。帰りに水浴びもしてきたのだろう。みんな、鎧から服に着替えている。
「おかえり、みんな。昼御飯出来てるぞ」
俺はそう言い、みんなに昼食を勧める。
「りゅう君、お土産。ニンジンとキャベツとウサギ肉。少しだけ食糧難が解消されるね」
明日乃がそう言って野菜と肉を俺に渡す。
「そうなると、野菜とか保存できる冷蔵庫とか欲しいな」
俺はぼそっとそう言う。
「お祈りポイントが余りだしたら、琉生の土魔法で穴を掘って壁を作って、麗美さんの氷魔法で氷室を作ろうよ」
琉生がそう提案する。
「将来的には欲しいな。氷室」
俺はそう答え笑う。
今日のダンジョン攻略で、真望のレベルが25から26になったらしい。
昼食を食べ終わり、一角と麗美さんと琉生は粘土と砂を取りに行きつつ、麻の茎の回収と新しい茎を腐らせに行くそうだ。
真望と明日乃は麻糸と麻布作り。眷属達は薪集めや木炭作りを午前中からしてくれているらしい。
俺と鈴さんは青銅を溶かす作業。ひたすら交代でふいごを動かし、窯の火を1000度以上に保つ。夕方まで火をおこし続け、青銅を溶かし、午前中に作った鋳型に流し込み、今日の作業は終了だ。
夕食は今日採ってきたウサギ肉とニンジンとキャベツで野菜炒め。食べきらないウサギ肉は塩水に浸けて干し肉にする。
夕食後、日課のお祈りをし、就寝する。
【異世界生活 63日 4:30】
今朝の朝ご飯は味噌とみりんでシャケのちゃんちゃん焼きモドキ。
昨日拾ってきたキャベツやニンジンに、琉生の畑で採れたタマネギとシャケをみりんと醤油と水で溶いた味噌で煮る。みりん干しを作った時の残りのみりんと醤油だ。
ホイル焼きにしたいとことだが、アルミホイルもオーブンもないので、中華鍋で煮る、なんちゃってちゃんちゃん焼きだ。酒の代わりにみりん使ってるしな。
「美味いなこれも」
一角が美味しそうに食べる。
「シャケと味噌の相性は最高だしな。キャベツやニンジンとの相性もいいだろ?」
俺は自慢げに解説する。
もう少し自由に調味料が使えれば美味しいものも、もっと作れるし、米があればみんなを満足させられる食事が作れるんだけどな。
朝食の後は日課の剣道教室をし、作業に移る。
当初の予定では今日は南東の島の探索の予定だったが、クロスボウの作成にもう少しかかるという事で、延期、クロスボウ作りに専念することにした。
一角は自分の変幻自在の武器が欲しくて仕方ないらしく、我慢できなくなり、少しでも魔物を減らしておきたいと、新しい島、南東の魔物の島の魔物の数を減らす作業を麗美さんと始めるそうで、さっそく今日から午前中はその作業をするらしい。
「麗美さん、一角が無茶しないように見張っておいてくれよ」
俺は少し心配になって同行者の麗美さんにそう言う。
「わかったわ。まあ、2人ならそんな無茶はしないと思うわよ。あくまでも結界のある橋の上までしかいかないわ」
麗美さんがそう言う。
俺は一角と麗美さんを見送ると、レオとココも槍やナイフを持ってどこかに出かけるようだ。
明日乃と真望は麻糸と麻布作り。
明日乃まで一角について行くと結界を使って無理をしそうなのであえて止めた感じだ。
琉生は畑仕事と田んぼ作りだ。
俺と鈴さんは昨日作ったクロスボウの金属部品をグラインダーで研ぎ、形を整える作業。
「鈴さん、そろそろ休憩させてくれ」
俺は30分グラインダーを動かす自転車のような機械を漕いで、音を上げる。足がパンパンだ。
「仕方ないわね。1時間休憩したら再開ね。私はクロスボウの一つ目を作り始めるから」
そう言って木材加工を始める鈴さん。
「休憩しながら見ていていいかな?」
「どうぞ。その代わりしっかり休憩してね」
俺がそう聞き、鈴さんが答えてくれたので鈴さんの作業を椅子に座り見る。
いつの間にか丸椅子とかも作ったんだな。小屋の中の素朴な家具に気づく。
作業は単純。糸車やはた織機を作った時に作った木材を3枚横に組み合わせて、クロスボウの銃身? を作るようだ。
真ん中の板は少し工夫をして引き金が付くように作る。そんなシンプルな構造のクロスボウだ。
「秘書子さんの設計はよくできてるわね。道具の少ない今の状況で作れるシンプルな構造で、簡単に作れるようになってるわ。実際、ネジすら作れない文明レベルだし」
鈴さんが、変幻自在の武器を変化させたノコギリで木材を切りながら、設計図の書かれた粘土板を見てそう言う。
ネジに変わるような金具を考えてくれたり、そのネジモドキ自体も使う場所を減らしてくれたりよくできた設計だそうだ。
3枚の木材パーツが出来上がり、細かい部分は変幻自在の武器をナイフに変化させ削っていく。持ちやすい形にする作業のようだ。
そして、1時間休憩するとまた、自転車漕ぎが始まる。30分漕ぎ続けて、鏃やクロスボウ用の部品の研磨をする。
とりあえずは、今回、麗美さん用のクロスボウと、明日乃が使うクロスボウを1つずつ作る予定らしい。需要と時間があれば増やす予定だ。
まあ、クロスボウ3つ目を作るより先に水道も作りたいしな。琉生の田んぼ作りが遅れるし、明日乃も水浴びが毎日したくてしょうがないらしいし。
そして、鈴さん自身もその次は鋼の武器を作りたいらしい。
まあ、俺もクロスボウは欲しいのだが、魔物は50体近くで襲ってくるので弓矢だけじゃ対処できない、人数差があり、魔物は味方が射られている間に俺達に迫るという作戦が取れるので、あくまでもサブウエポン的な位置づけでしか使えないので結局、剣や槍などの近接武器中心になる、クロスボウはなければないで何とかなる武器って感じだ。
そんなことを考えながら黙々と自転車もどきを漕ぎグラインダーを回し、鈴さんが金属部品を削る。30分たったら、鈴さんの木工作業を観察しながら1時間休憩するという作業を繰り返す。
そんな作業を4ターン繰り返し、お昼ご飯の時間になる。
うん、俺の足もう動かないかもしれない。日ごろのサバイバル生活とステータス補正がなければ明日は確実に筋肉痛で動けなくなるところだったな。
ふらふらになりつつ、お昼ご飯を食べにみんなの集まるたき火の元に歩きつく。
「流司、ふらふらじゃないか」
一角が面白そうに笑う。
午前中の魔物狩りを終えて帰ってきたようだ。琉生も農作業を終えて帰ってきたようで、みんな揃っている。
「あのグラインダーを回す装置? 自転車を漕ぐみたいなやつ、半日やればこうなるぞ。午後は一角に任せた。俺はもう、無理だ」
そう言って、一角に押し付ける。まあ、押し付けるのは冗談だが交代要員として使おう。
「ああ、一角ちゃんはクロスボウの弓の部分を作ってもらいたいし、矢も作って欲しいからダメよ」
鈴さんに却下される。マジか?
「もう、流司お兄ちゃんが可哀想だから私が手伝ってあげる」
琉生が天使のような声でそう言ってくれる。
「私もちょっとだけなら手伝ってあげるわよ」
麗美さんは少し嫌そうにそう言う。前に1回自転車漕ぎを交代して懲りたようだ。
「一角、魔物狩りはどうだった」
俺は一角に新しい島の状況を聞いてみる。
「川とかないからそのまま白い橋を渡れて楽と言えば楽だぞ。で、今日の敵は、ワーウルフ。頭がオオカミの人型の魔物だった。しかも平均がレベル21越えでレベル30台も少し混じっていたぞ。結構レベルがエグい。今日は安全地帯の橋の上からの攻撃だったからよかったけど、獣化スキルや獣化義装を使って強行するみたいな前回のやり方は厳しいかもしれないな」
一角がみんなにそう説明してくれる。
「平均レベル21越えはヤバイな。俺達と同レベルの攻撃魔法が使えるって事だな。しかもレベル31以上がパラパラいるのか。格上すぎてちょっと今の状態で攻略を考えるのが難しいレベルだな」
俺は悩みながらそう漏らす。
「まあ、白い橋の結界から出なければ攻撃も魔法も届かないし、レベル20台で結界に張り付いている敵なら頸動脈とか急所の一撃で倒せるから数を減らす作業は可能かな?」
麗美さんがそう感想を漏らす。
「じゃあ、今日みたいな流れでお祈りポイントが回復するまで、一角と麗美さんとで魔物の数を減らす作業をしてもらい、ある程度減ったら、島に入ってみる、もしくは2つ目の島でレベルアップや装備整えてから3つ目の島に挑む感じかな?」
俺はそう言う。
「お祈りポイントが回復するまでに、私と麗美さんがレベル31を超えて強行するって手もあるぞ、というか私はそのつもりだが?」
一角が3つ目の島のダンジョンを攻略する気満々だ。
「まあ、それも手だけど、他のメンバーのレベルも上げないといざというとき困るしな」
俺はそう言って悩む。
「まあ、私と一角ちゃんのレベル上げしながら魔物の数を減らすって作戦でいいんじゃない? 二人がレベル31超えれば、色々選択肢も増えるだろうし。ちなみに、敵がみんなレベル21越えだったから経験値美味しかったわよ。二人ともレベル上がったし」
麗美さんはそう言って今の流れで様子見を提案してくる。経験値が美味しいのか。
「どっちにしろ、敵が魔法を使うことを考えたら、お祈りポイントをもう少し貯めたいし、その流れで様子みるか」
俺はそう締めくくり、今の生活でお祈りポイントの回復を図る。
【異世界生活 63日 13:00】
昼食を食べながらそんな話をして昼食後、午後の作業に入ろうとすると、
「みんな、鳥、いっぱい採ってきたにゃん。料理するにゃん」
ココとレオがそう言って帰ってくる。
ココとレオはそれぞれ2匹ずつキジのような鳥をぶら下げている。
「あれ? ココとレオは木炭作りしてたんじゃないのか?」
俺は気になって聞いてみる。
今朝出かけたのは木炭の材料探しだと思っていた。
「ああ、私がお願いしたのよ。クロスボウの矢を作るのに鳥の羽根がいるでしょ? 木炭の材料になる木を探しながら鳥も獲ってきてってね」
鈴さんがそう言う。
「木炭作りは午後からする」
レオが不機嫌そうにそう答える。
「すごいね。キジさんだよ。夕ご飯はお鍋にしよ。お鍋」
琉生がそう言って興奮する。お昼食べ終わったばかりなのにな。腹ペコ娘め。
とりあえず、レオとココからキジを受け取り、琉生が上手にキジを捌く。
「やっぱり、琉生は鳥を捌くの上手いな」
俺はその手際の良さに感嘆の声が漏れる。
「うん、お祖母ちゃんの家で、ニワトリとかよく捌いてたし」
そういって、上手に羽根をむしっていく。
「琉生、羽は残しておいてよ。矢を作る時に使うから」
鈴さんが慌ててそう言う。
「うん、わかったよ」
琉生はそういい、空の土器に羽を放り込んでいく。矢羽根のつけ方はあとで一角に聞けばいいな。
「それにしても、ココ、埃まみれね。あとで一緒に水浴び行きましょうね」
麗美さんがそう言い、ココが苦手そうな顔をする。
「鳥に飛び掛かって捕まえたから仕方ないニャ」
そう言って麗美さんから距離を置く。
レオとココがキジをとるところ、俺もちょっと見たかったな。
「レオも風呂に入るぞ。最近、入ってなかっただろ? 少し薄汚れてるぞ」
一角がそう言い、レオがものすごく嫌な顔をする。
とりあえず、キジを捌いてから午後は交代で水浴びをしながら作業をすることになった。俺も鈴さんも忙しくて3日ほど水浴びをしてなかったのでちょうどいい。
先に、一角、麗美さんと琉生が水浴び、ココとレオ、ついでにアオとトラ、眷属達を全部洗うらしい。その後、交代して、俺、明日乃、鈴さんが水浴びに行く。交代するまでの間、真望と明日乃は引き続き、麻糸と麻布作り、俺と鈴さんは鏃づくりとクロスボウの金属部品作りだ。
ちなみに真望は昨日水浴びしたので作業を続けるそうだ。布作りに夢中のようだ。
俺は鈴さんと明日乃の水浴びを待っている間に竹を切って採取してきた。そして、眷属4人がピカピカになっていた。
午後の作業は、一角、麗美さん、琉生が加わって俺の休憩時間が増えた。
午後は自転車モドキも漕ぎつつ、鈴さんのクロスボウの本体作りや一角のクロスボウの弓の部分作りや矢を作る作業の簡単な部分を手伝いながら作業を見せてもらう。
矢羽根を取り付けたり、鏃をつけたりするのに麻糸を使い、弓の弦としても太めの麻糸をつかいたいのだが、麻布の為に真望が作ったものを使うのは気が引けるので、こちらはこちらで麻糸を作って弓矢に使う。弓の弦は麻糸を太めに紡いでさらに2本をよって丈夫な麻糸を作る。
自転車モドキを漕ぎながら、休憩時には麻糸を作ったり、作った麻糸と鳥の羽、それと松脂で矢を作ったりする。それと、鈴さんに教わりながら鏃の仕上げ砥ぎもしていく。鈴さん1人じゃ作業が多すぎるからな。そんな作業を続ける。
ちなみに、松脂は一角と麗美さんが魔物狩りの帰りに採ってきてくれたそうだ。
夕方くらいでだいたいの金属の研ぎも終わり、残り時間でクロスボウの組み立てを始める。
俺は矢を作るのを手伝いながらその作業を見る。
基本的に午前中に作った3つの木のパーツにさっき一角が作った弓の部分を足して、引き金の機械部分を中で組み立てれば完成、後は接着剤とネジに似た金属部品でそれぞれのパーツを固定すれば完成だ。
「うん、よくできてるわ」
「これはいいな」
麗美さんと一角が絶賛する。
俺も見てわかるくらい良い出来だし、普通の弓矢より簡単に使えそうな雰囲気が伝わってくる。
「とりあえず、日が暮れちゃったから、明日の朝、試射してみて上手くいきそうだったら明日の魔物狩りから使えばいいんじゃない?」
鈴さんがそう言う。まわりはもう暗くなり始めている。
そして夕食の時間になったようで明日乃が迎えに来る。今日の作業は終わりにし、夕食にする。
夕食は昼間、ココとレオが採ってきたキジとネギなど野菜を一緒に煮たキジ鍋だ。
「今日はココちゃんとレオ君が獲ってきたキジのお鍋だよ」
琉生が嬉しそうにそう言う。
「美味しそうな香りね」
麗美さんがそう言ってお鍋を覗き込む。
キジ肉をネギや香味野菜で煮込んだ塩味の鍋だ。明日乃と鈴さんが俺の水浴びを待つ間にきのこも採ってきたらしく、鍋にはシイタケっぽいきのこやシメジっぽいきのこも入っている。もちろん鑑定済みで毒キノコではない。
「白菜があったら最高なんだけどな。あと、ポン酢?」
一角が余計な事を言いながら、小分けされた皿を明日乃から受け取る。
まあ、白菜の代わりにキャベツが入っているが、やっぱりちょっと違うので一角の気持ちも分かる。
「でも、塩味強めで、キジから良い出汁が出ていておいしいな」
鈴さんが美味しそうに鍋を食べる。
「今日は鳥ガラ、骨から煮出したから特に美味しいと思うよ」
明日乃がそう言う。
少し時間をかけて、鍋を作る前に、骨を水から煮出して出汁をとったらしい。
「ああ、確かに濃厚で旨いな。これなら塩味だけでも十分旨い」
ポン酢が欲しいとか言っていた一角が美味そうに野菜や肉を頬張る。
「明日の朝はもう2匹分キジ肉があるから焼いて食べる感じかな?」
明日乃がそう言って、おいしそうにキジ鍋を食べている。
「焼きもいいな。ネギと一緒に焼いたらうまそうだ。レオ、ココ、よくやったな」
一角がそう言い、レオとココを褒める。
レオとココも美味しそうにキジ鍋を食べている。功労者だしな。存分に食べて欲しい。
「明日は俺も魔物狩りに行こうかな? クロスボウの出来が見たいから」
俺は夕食を食べながらそう言う。
「だったら私も試したいたいかな? クロスボウ」
明日乃も行くらしい。
「じゃあ、私も」
琉生もそう言い、結局いつものメンバーで魔物狩りに行くことになった。
「私は、水浴び小屋や水道を作りながら拠点で待ってるよ」
鈴さんはいつも通り留守番、真望も留守番するらしい。真望ははた織り機の事で頭がいっぱいみたいだ。
「明日はみんなで魔物狩り行くし、少し島の様子やダンジョンの様子でも見に行ってみるか」
俺はそう言い、白い橋で魔物狩りをした後はダンジョンまで足を運んで島の雰囲気を見ることに。
そんな感じで、明日は久しぶりにみんなで魔物狩りに行くことになった。
日課のお祈りをして、早めの就寝。明日の狩りの為に疲れをとらないとな。今日は自転車もどきを漕ぎ過ぎたし。
【異世界生活 64日 6:00】
「それじゃあ、クロスボウの試し打ちしてみようか」
朝食と日課の剣道教室のあと、麗美さんが楽しみだったのかそう言う。
「そうね、何発か撃つところ見たいわ。製作者としても、どんな感じか見たいし、改善点とかあれば聞きたいしね」
鈴さんがそう言う。
とりあえず、拠点の奥の方にある、一角がたまに弓矢の練習をしている場所にみんなで行く。一角が作ったらしい、枯草と木で作った巻き藁の的が立っている。
真望もちょっと興味があるみたいで麻糸作りの作業に入る前に見に来たようだ。
「とりあえず、弾道とか撃ってみないとわからないから、近いところから撃ち始めて、少しずつ離れながら弾道を調整してね」
鈴さんがそう言う。
離れて撃つ場合山なりに撃たないと当たらないからな。
とりあえず、鈴さんが矢の装填の仕方から説明する。
クロスボウの設計図と使い方
「えっと、まずは、クロスボウの先についている三角形の金具につま先を通してから、真ん中あたりから後ろにつながっている金属の棒を起こして、足のつま先まで起こす。そうしたら、金属の棒についている別の棒、その先にある鍵爪に弓の弦をひっかけて、あとは、起こした金属を元の場所に戻すように引っ張る。これで、弦が張った状態になると」
鈴さんがそう説明しながらクロスボウの金属部分を動かすと確かに弦がクロスボウの引き金付近のもう一つの爪みたいなところに引っかかる。
てこの原理を使って装填するクロスボウらしく、てこの部分を引っ張って矢を装填する。
「そうしたら、クロスボウを手に持って、弦に矢の後ろの部分の割線を当てて、矢のシャフトの部分をクロスボウ本体から出ているこの二つの洗濯ばさみの先みたいなツメに挿めば装填完了。あとは狙いを定めて、引き金を引けば矢が打ち出される。簡単でしょ?」
そう言って、矢の装填されたクロスボウを麗美さんに渡す。
「それじゃあ、一発撃って、麗美さんの力で装填して、少し離れてまた撃つ。離れながら何度か繰り返してみてね」
鈴さんがそう言うと麗美さんが的の巻き藁に狙いを定める。
そして、引き金の金属を引くと勢いよくほぼまっすぐ矢が飛んでいく。
「おお、なんかすごいな」
俺は感嘆の声を漏らす。
思った以上にまっすぐ飛んだし、少し的から低い位置だったが深々と的に矢が刺さった。
「うん、いいわよ、これ。少し矢の軌道を考えて上の方を狙えば結構狙い通りに当たるわね」
麗美さんも満足そうにそう言う。
そして、鈴さんに矢の装填の仕方を聞きながら次の矢を装填する。
的から離れてもう1発、さらに離れてもう1発、徐々に離れて80メートルくらい離れたところでクロスボウを斜めに構えても角度の限界、的に届かなくなる。
「まっすぐに構えて撃つなら20メートルくらい? 矢の落ちる角度とか考えて斜めに構えても40メートルくらいなら当てられそうかな? 80メートル近くなると当たるかどうかはほとんど運ね」
麗美さんが冷静にそう判断する。
「なるほど。だいたいの射程は分かったわね。弓の部分とかもっと工夫すれば飛距離とか初速とか伸ばせるんだろうけど、まあ、実戦でもこれなら使えそうでしょ?」
鈴さんがそう聞き、麗美さんが頷く。十分武器として使えそうだ。
そのあと、明日乃も同じように試射と練習をして、明日乃にも使えることが確認できた。
「そうしたら、予定通り、今から、南東の島まで魔物狩りに行こう。クロスボウの威力を試そう」
一角がそう言って明日乃を急かす。
「矢を回収するから、一角ちゃん、ちょっと待ってよ」
明日乃がそう言って的から弓を抜き、革製の矢筒に矢を収める。
真望が事前に熊の皮で矢筒を作ってくれていたそうだ。
「じゃあ、準備して魔物狩りに行くか」
俺はそう言って、拠点の中心、たき火のそばまで戻り、荷物の準備をする。
少し遅くなったが、魔物狩りに出発するのだった
次話に続く。
【改訂部分】改訂前とは違い、鍛冶小屋やはた織り機や糸車、色々完成していたので、クロスボウ作りだけで1話にまとめました。76話~78話のクロスボウ部分をピックアップしてつなぎ合わせた感じです。
レオやココがキジを取りに行ったり、一角と麗美さんが魔物狩りに行ったり、色々行動し過ぎでまとまりのない1話。になってしまいました。
落ち着いたら、さらに改訂して2話に分割するかもしれません。




