第83話 今後の作戦会議と糸車を作ろう(スキップ気味)
今日もブックマーク1名様ありがとうございます。
やる気が出ます。
【異世界生活 55日 4:30】
昨日、食べきらない、タラの切り身を醤油とみりんで漬けて一夜干しにした
そしてそれを焼いて食べる俺達。
「旨! なんだこりゃ、ご飯が何杯でもすすむ旨さだぞ!?」
一角がみりん漬けの一夜干しに感動する。
「ご飯はないけどな」
俺は冷静に突っ込む。
だが、その気持ちも分からないでもない。醤油とみりんの甘辛さと少し火であぶってできた焦げの苦み、ご飯がかき込みたくなる。
「シャケの一夜干しもあるんだけど、ご飯がないのが悔やまれるよね」
明日乃がそう言って一角にシャケを焼いたものを回し、残念そうな顔をする。
一角はシャケも美味そうに食べる。
ちなみに、タラとシャケは昨日の鍋と今朝の焼き魚で食べつくされてしまった。思ったより少なかったな。
「やはり、今攻略している魔物の島の魔物を早急に駆除して米を手に入れるしかないな」
一角がやる気になる。
アドバイサー女神様の秘書子さんの話ではワーフロッグの集落のある沼地に稲が自生しているらしい。
「今言っても米は収穫できないぞ」
俺はあきれ顔でそう言う。
「なら、稲の苗だけでも採ってきてこの島で育てよう」
一角は諦めていない。
「稲を採ってきても育てる水田がないと美味しいお米ができないよ?」
琉生も冷静に突っ込む。
「まあ、水耕、水を引いた田んぼじゃなくてもお米は育てられるらしいけど効率は落ちるらしいわね」
明日乃が良く分からない稲作知識をつぶやく。
「正直なところこれからどうするかだな。お祈りポイントも昨日、鈴さんと琉生にもお祈りしてもらって32700ポイント。安全を考えたら60000ポイントまでは貯めたい」
俺はそう言って悩む。
「ダンジョンの入場権利を奪い合わなければ、お祈りポイントなしで、獣化スキル、マナを消費するだけで魔物退治くらいはできるんじゃないか?」
一角はそう言って魔物退治を希望する。
「まあ、そうだけど、何かあった時にお祈りポイントが使えないっていうのも困るしね」
明日乃が心配そうにそう言う。
「私はお祈りポイント回復するまで作業を希望するわ。金属部品も鋳造? 鋳型で作ることができるようになったみたいだし、糸を紡ぐ糸車とか布を効率的に織れるはた織機を落ち着いて作って欲しいし」
真望がそう希望する。
「鈴さんの作業はどんな感じ?」
俺は糸車などを作る場合もメインになってくる鈴さんの都合も聞く。
「私は青銅の盾を作る仕事があったけど、ダンジョンで同じようなものが拾えるなら作る意味ないじゃない? 麗美さんや一角は別に盾がなければないでいいみたいだし」
鈴さんがそう言って少ししょげる。
結局、昨日も青銅の盾は作ったらしい。ボスから奪った盾が1つと鈴さんが作った盾が2つ、青銅の剣は5つある。
「だったら無理に作らないで、糸車とか、はた織り機とかもっと必要なものを作る時間に回せるよね?」
真望が嬉しそうにそう言う。
「私の作った青銅の盾が不必要な物みたいな言い方しないでよ」
鈴さんが弱々しい声でそう反論し、さらにしょげる。
「う、鈴さん、ごめんなさい」
真望も反省してぐったりする。
「糸車やはた織機を作るなら俺も手伝いたいな」
俺はそう立候補する。俺はもっと木材加工や金属加工の技術を身に着けたいしな。
「そうなると、本格的な魔物狩りは難しくなるわね」
麗美さんが人数不足に頭を悩ませる。
「時間があるなら1日2時間、調味料を手に入れる為にこの島のダンジョンも潜りたいしな」
一角は余計な提案もする。
一角は調味料とタラとシャケの切り身に夢中だ。
「私は時間があれば水田を作ろうかな? 今ある畑の隣に小さい田んぼくらいなら作れそうだし」
琉生がそう言う。
「あれ? 田んぼや小麦畑は元の拠点の草原に作るんじゃなかったのか?」
俺は琉生の発言が気になって聞き返す。
「うーん、あの土地は、水はけよすぎるんだよね。もともと砂地だったみたいだし、少し掘ると砂が出てきちゃって、小麦くらいなら地表の土で育てられると思うけど、田んぼを作ろうとすると、水が溜められないかなって。こっちの拠点の土は結構しっかりしているから面積は狭くなるけど田んぼっぽいものは作れそうかなって」
琉生が土の事情を説明してくれる。
「将来的にはもっといい土を探して大規模な農業とかも始めたいけど、それは来年か再来年って感じかな?」
琉生がそう付け足す。
琉生はもう、来年や再来年の事を考えているのか。
「水田を作るとなると、水道も必要よね? 私的には早めに水道を作ってくれると嬉しいかな? 暗くなっても水浴びできるし」
明日乃がそう言う。
「そうだね。目の前にある川も悪くはないんだけど少し濁っているし、田んぼにひく水としては微妙かな?」
琉生が難しい顔をする。
「米の味は水の味で決まるっていうからな」
一角がどこかで聞いたような言葉を発する。
どうせこいつは何も分かっていない。
「そうなると、私の仕事量が半端なくなるね」
息を吹き返した鈴さんが今度はため息を吐く。
「まあ、水道はすぐには必要ないよ。とりあえず、耕して肥料を入れて水はけも確認したいし、田んぼの原型ができてからかな?」
琉生がそう答える。
「じゃあ、とりあえず、真望が欲しがっている糸車とはた織機を作りながらお祈りポイントの回復を待って、魔物狩り、落ち着いたら水道作りかな?」
俺はそう言う。
「だったら、水道作りまでしちゃって、お祈りポイントをもっと貯めて、私が欲しい鍛冶道具、金床を貰おうよ。それくらいご褒美がないとやる気が出ないわ」
鈴さんがわがままを言い出す。
「それに、金床が手に入れば鋼の武器が作れるようになるかもしれないわよ?」
鈴さんがそう付け足す。
「鋼の武器はいいわね」
麗美さんが興味を持つ。
そんな感じで朝食を食べながら今日以降の行動の計画を立てる。
まず、明日乃と真望はいつも通り麻糸作りと麻布作り。
琉生は畑作業や田んぼを作る準備。
一角と麗美さんは午前中、白い橋を渡り魔物狩り、午後は琉生や鈴さんの手伝いをするらしい。
そして鈴さんと俺は、鍛冶作業、そして糸車やはた織機を作る作業をする。
それと、15時くらいから手の空いた人間が5人でダンジョンに挑み調味料を貰う為に5階ボスを倒す作業をするそうだ。
そんな感じで、話し合いの後、みんなで鍛冶工房に避難させてあった昆布を海岸に干し直し、日課の剣道教室をしてから、一角と麗美さんが魔物の島に向かって出発する。変幻自在の武器は鈴さんが使うので、2人とも青銅の武器を持っていく。
「一角、麗美さん、橋からはなるべく出ないようにね。橋の結界からでると危険だから」
俺はそう忠告し、一角は手をあげて歩いていく。まあ、麗美さんもいるし無理はしないだろう。
明日乃と真望は麻糸や麻布作りを始め、琉生はアオとトラを連れて畑作業に、レオとココは鍛冶で使う木炭を焼くらしい。
俺は、鈴さんと鍛冶の作業を始める。
「とりあえず、どうする? 何から始める?」
俺は何をすればいいのかわからず鈴さんに聞く。
「そうね、真望が欲しがっている糸車とはた織り機の設計図を粘土板で作りたいから、秘書子さんに色々聞きたいんだよね」
鈴さんがそう言う。
「やっと念願の糸車とはた織り機ができるのね」
隣で聞いていた真望が少し興奮してそう言う。
とりあえず、粘土をこねて粘土板を作り、俺と鈴さんと真望も交えて、話し合い、設計図を作る。細かいところは秘書子さんに聞きながら。
そして1時間半ぐらい議論して、糸車とはた織機の設計図ができあがる。
「とりあえず、今日は金具の部分を鋳造で作る感じかな。いつもの砂と粘土で鋳型を作る作業するよ」
鈴さんがそう言うので、鍛冶工房に向かい、鋳型を作る準備をする。
砂と粘土と水を適量加え、よく混ぜて木枠に詰めていく。
薄く延ばし、木材でトントン叩いて固め、その上にまた砂を乗せて木材で叩き、固めていく感じだ。
今日は単純な形だが細かい部品が多いらしいので、片面の鋳型に溶かした青銅を直接流しこむ方法らしい。型ができたらそれを彫ったり、木型をはめて鋳型を形成し直したりする作業。追加した砂などを叩き、固め直して完成だ。
「鈴さん、なんか、糸車や、はた織り機の部品と関係なさそうな鋳型多くない?」
俺は予想した鋳型と違うものが多く気になって彼女に聞く。
「ああ、糸車やはた織り機の部品だけだと、溶かした青銅が余りそうだったから、大工道具とか日用品とか色々作ろうかなって」
鈴さんがそう答える。
なるほど、小さいノコギリっぽいものやノミっぽい刃物、確かに色々混ざっているな。
お昼までは午後にドロップアイテムの青銅の武器を溶かすのでその準備をする。木炭を砕いたり、溶鉱炉に木炭と青銅を入れたりして準備を進める。
【異世界生活 55日 12:00】
とりあえず作業が一段落したのでお昼ご飯を食べにたき火のまわりに戻ると、一角や麗美さんも帰ってきていて、琉生も畑作業を終えてお昼ご飯を作るのを手伝っている。
「一角、麗美さん、魔物狩りはどうだった?」
俺は二人に今日の成果を聞いてみる。
「ああ、いつもみたいにワーフロッグが30匹近く、白い橋の結界に群がっていたから、半分倒したら逃げたんで、そのまま帰ってきた」
一角がそう言う。
「まあ、平均レベル15の格下の魔物だから経験値はあんまり美味しくなかったけどね」
そう言う麗美さん。
14体ワーフロッグを倒して、経験値は上がらなかったそうだ。
「そうだ、流司、お昼ご飯の後は時間あるか? この島のダンジョンに潜って調味料を確保しておくぞ」
一角がそう言うが、
「悪いが、午後から青銅を溶かして鋳型に流し込む作業がある。他のメンバーは行けそう?」
俺はみんなに聞いてみる。
「しょうがないわね。2時間だけよ。あと、終わったら水浴び、あと麻の茎の回収も行くからね」
真望がそう言って仕方なさそうにダンジョン攻略メンバーへの参加を承諾する。
「という事は私も参加だよね? 麻の茎腐らせないといけないし」
琉生がそう言って、自動で参加となる。
そんな感じで俺と鈴さん以外でダンジョンに行って調味料を取ってくるらしい。
お昼ご飯は調味料もなくなり、魚の切り身もなくなり、いつもの干し肉をお湯で戻した塩スープに戻る。
塩だけは眷属達が暇を見つけては作ってくれるので在庫が大分できているようだ。
そんな感じでみんなの午前中の作業状況を聞きながらお昼ご飯を食べ、午後は鍛冶工房でドロップアイテムの青銅の武器を溶かし、鋳型に流し込む作業をする。
琉生がダンジョンに行ったので、仕事のなくなった眷属のアオとトラがたき火の番と拠点周りの警戒をしてくれるそうだ。
俺と鈴さんは、夕方まで、ひたすらふいごを動かし、溶鉱炉の温度を1000度近くに維持する作業だ。少しでも温度が下がってしまうと青銅が溶けずに固まってしまうので、休まずにふいごを動かし空気を送り続ける。その作業を鈴さんと交代で続ける。
途中、麗美さんがダンジョンから帰ってきて手伝ってくれ、何とか青銅もうまく溶けたようだ。
「じゃあ、溶けた青銅を取り出して鋳型に流し込むよ。流司、窯の取り出し口を開けて」
鈴さんがそう言うので、俺は変幻自在の武器を尖った金属の棒に変えて、窯の一番下にある、金属が溶けだす穴に差し込み、何度も突いて、青銅が流れ出るのを待つ。
そして赤く熱された青銅が出てくるので、鈴さんが、柄のついたるつぼで溶けた青銅を受け、青銅が出切ったところで、鋳型に流し込んでいく。
今回は細かい部品が沢山ある感じなのでかなり大変そうだ。
「簡単な鋳型なら流司に練習させたいんだけどね」
鋳型に流し込んだ後、鈴さんがそう言う。
練習もできないのが俺としては悔しいが、いつか生活に余裕が出だしたらそう言う時間も作れるかもしれないしな。
これで今日の作業は終わり。夜の間、鋳型を置いておき青銅を冷ます。
作業が終わるころ、みんなが、干していた昆布を回収して鍛冶小屋に並べていく。
「なんか、鍛冶小屋に昆布の臭い染みつきそうね」
鈴さんががっかりした顔をするので、みんなも笑うしかなかった。
俺は水浴びに行く時間もないので、水瓶に組んである生活用水で軽く体を流し、着替えてみんなと合流する。
「やっぱり水道が欲しいね。りゅう君も鈴さんも作業が長引くと水浴びする時間もないしね」
明日乃が俺の濡れた髪を見てそう言う。
「明日乃お姉ちゃんは自分が毎日水浴びできるようになることも期待してるんだろうけどね」
琉生がからかう様にそう言い笑う。
まあ、でも、水道が拠点まで引ければ色々便利にはなるな。
「そういえばみんな、ダンジョンは大丈夫だったか?」
俺は気になって琉生に聞いてみる。
「うん、敵と言ってもレベル15の敵だし、ボスもレベル18。みんなのレベルなら問題なく狩れる敵だから、特に危険なこともなかったよ」
琉生がそう教えてくれる。
今日は、畑仕事でレベル上げができていなかった琉生をスパルタしたらしい。おかげでレベルが1上がりレベル22になったそううだ。
「とりあえず、調味料は醤油を貰っておいたぞ」
一角が自慢げに言うが俺としてはどうでもいい情報だった。
そのあと、夕食を食べながら今日の午後の作業結果を聞いていく。
明日乃と真望は麻糸作り。はた織り機ができることを想定して急ピッチで麻糸作りを進めているそうだ。
一角はダンジョンから帰ってきた後、琉生を手伝い、水田作りを手伝ったそうだ。農具も鈴さんが工夫して、いくつか作ってくれていたらしい。
麗美さんは俺達の手伝い。俺達も糸車やはた織機の金属部品を鋳型で作った話をし、明日はそれをグラインダーで研磨して、ちゃんとした形にする作業と、糸車の木製の部分を作る予定を伝える。
干し肉も結構在庫があるので、このまま、同じ作業を何日か続けられそうだ。
今日は日課のお祈りをして就寝。明日の作業のために疲れを癒す。お祈りポイント回復には3~4日かかりそうだ。
【異世界生活 56日 6:00】
今日も基本的には同じ作業。
朝食後、昆布を海岸で天日干し、日課の剣道教室をして、一角と麗美さんは魔物狩り、明日乃と真望は麻糸作り、琉生はアオとトラと畑作業をして水田を作る作業をする。
俺と鈴さんは糸車とはた織機の金属部品の作成の続き。
鋳型の砂を崩し、昨日作った金属部品を取り出していく。
俺がグラインダーを動かす自転車モドキを漕いで、鈴さんが部品を研磨しイメージした形に整えていく。
4時間かけてすべての部品の研磨ができたので、残り時間で森に倒木の丸太を取りに行く。糸車や機織り機の木製部分を作る木材を切り出すための材料探しだ。
よく乾燥した、虫にも食べられていなそうな倒木を見つけたので、変幻自在の武器を二人で引くような大型のノコギリに変えて鈴さんと俺と二人で運べる大きさに切っていき、竹で作った背負子に乗せて、拠点に帰る。
ちょうどお昼になったので、昼御飯をみんなで食べる。一角も麗美さんも帰ってきていた。今日もワーフロッグを16匹倒してきたそうだ。
昼食後は俺と鈴さん以外はダンジョンで調味料の確保。
俺と鈴さんはさっき見つけた倒木がいい感じだったので拠点を眷属達に任せて、残りの部分も切り出し拠点に運んでくる。2往復して全部運び終わったところで15時過ぎ。ダンジョンに行ったメンバーも帰ってくる。
今日も琉生のスパルタだったらしい。レベルが23になったそうだ。
「鈴さんも作業が一段落したらレベル上げないとね」
麗美さんが楽しそうにそう言い、鈴さんが嫌そうな顔をする。
残りの時間で、運んできた丸太を木材にする作業。結構立派で平らな木材ができた。これを明日以降、糸車やはた織り機の木製部分に加工していくのだ。
今日は早めに作業を終わらせて鈴さんと泉に水浴びに行く。なぜか水浴びを済ませている明日乃もついてくる。洗濯をするそうだ。
一角と麗美さんは竹林で竹を切って琉生の作っている水田のまわりに動物除けの柵を作る作業をしたらしい。
この世界は何かを作ろうとすると動物除けの柵が必要になるのが本当に面倒臭いな。
夕方、海岸で昆布を回収し、夕食を食べながら今日の作業の報告会。真望が糸車を楽しみにしているが、まだまだ、木材加工は始まってすらいないんだよな。
今日もしっかりお祈りをして睡眠をとる。お祈りポイントは44300ポイント。本格的な魔物狩りを再開するにはあと3日はかかるな。
【異世界生活 57日 6:00】
今日も昨日と変わらないような1日だ。
鈴さんは昨日作った木材に設計図の粘土板を見ながら墨入れ、要は木の切る部分の線を引いていく。
というか、鈴さん、こっそり粘土と炭で鉛筆のようなものを作っていたり、動物の骨から膠を少量作って炭と練って墨と墨汁を作っていたり、鍛冶工房には秘密の道具が結構多い。
まあ、人数分作る余裕がないから自分が使う分をこっそり作っているのだろう。そのうち余裕ができたらみんなで作るのもいいかもしれないな。
木材に引いた線に沿って木材を切る作業。簡単なものは俺も任せてもらえて線に沿って切っていく。基本変幻自在の武器は鈴さんが使い、俺は魔法の箱で貰った鉄のノコギリや、鈴さんが鋳型で作った青銅製のノコギリや大工道具で作業をする。
凹凸のある部品や穴の開いた部品はナイフや鈴さんが作った工具で切り抜いたりして結構面倒臭い。
これはとりあえず、無茶をしてでも魔物の島のダンジョンを攻略して、変幻自在の武器が二つになってから製作開始した方が良かったかもな。
とりあえず、他のメンバーも昨日と同じような作業をしたり、魔物狩りやダンジョンに行ったりして、麗美さんのレベルが24になったそうだ。
【異世界生活 58日 6:00】
今日も同じ作業を繰り返す。
俺は鈴さんの手伝いとして、比較的簡単な木材加工を手伝う感じだ。
「鈴さんは何を作っているの?」
俺は、木材でできた巨大なパズルで遊んでいるようにみえる鈴さんに聞く。
「ああ、糸車の車輪の部分を作るんだよ。まずは8角形の輪を作って、要らないところを削っていって円にする感じかな?」
そう言って、木片を組み立てていくと、確かに八角形の少し不格好な車輪ができる。
そして、そこから角をとっていき、16角形、32角形、最後はノミのような道具に変幻自在の武器を変化させて円形の車輪を作っていく。
俺はそれを見ながら、糸車の足や台、良く分からない板など簡単なものを、鉄のノコギリや青銅のナイフや工具を使って作っていく。
変幻自在の武器がもう1本あればと思ってしまうが、魔物狩りを本格的に始める為のお祈りポイントも2つ目のダンジョンを攻略するためのお祈りポイントもレベルも足りないので今は我慢だ。
1本の変幻自在の武器を鈴さんが使って俺は、普通の鉄のノコギリを使っている感じだ。
そして、お昼近くなったころ、鈴さんが作っていた最後の部品が出来上がる。
「うん、糸車の部品は全部そろったから、お昼ご飯を食べたら組み立てに入ろう」
鈴さんがそう言って、昼休憩に入る。
「やっと、糸車ができるのね」
たき火のそばで鈴さんの作業の進捗を聞いた真望が目を輝かせる。
「とりあえず、飯を食おう。俺は腹減った。鈴さんもおなか減ったでしょ?」
俺は、真望がそのままの勢いで作業を続けさせそうだったのでそう声をかける。
「そうだね。お腹もすいたけど、少し休憩して、集中力を取り戻さないと大きな失敗とかしそうだしね」
鈴さんがそう言って笑い、たき火のそばに座り休憩する。
たき火のそばには明日乃と琉生がいて、昼食を作っている。眷属達もたき火のそばで荒縄を作ったり、麻の繊維を叩いたりしている。特に荒縄は田んぼのまわりの柵作りで不足し始めたようだ。
「琉生ちゃん、そういえば、そろそろ、本格的に麻糸作りを始めたいから、継続して麻の茎を腐らせる作業をしてもらって麻の茎の在庫を増やしてもらっていいかな?」
真望がそう言う。
「麻の繊維はまだ結構あるだろ?」
俺は倉庫の方を見るが、結構残っていたはずだ。
「これから本格的に麻布を作るから麻糸がもっともっと必要になるのよ。糸車とはた織り機ができたら、みんなにも手伝ってもらって麻糸作りを強化するからね」
真望がそう言ってやる気になる。
「私は、鋼の武器を作り始めたいんだけどな」
鈴さんがそう言っておどけた顔をする。
「鈴さんには悪いけど、はた織り機ができたら、糸車はもう一台欲しいかな? あと、麻の繊維を細くする千歯こきもそろそろ金属化したいかな? 竹串の千歯こきじゃ限界があるのよ」
真望がそう言う。
そう言われて、千歯こき、竹で作った記憶がよみがえる。
「小麦を収穫した時とか、将来的に米を収穫した時にも千歯こきは使いたいから、青銅のくしにしてもらえるとありがたいかな」
琉生もそう言って、金属製の千歯こきを希望する。
「分かったわよ。糸車をもう一台と千歯こきね。あと、くしといえば個人的にもう少し本格的なくしが欲しいからそれも作るわね。金属製は難しいから竹製だけどね」
鈴さんがそう言う。
「くしはうれしいわね。今使っているくしは竹ひごを竹の棒に沢山紐で結んだだけの不格好なくしだけしかないし、鈴さんの技術でくし作ってくれたらみんなも喜ぶわ」
真望がそう言って心から喜ぶ。
「あと、個人的に、燻製機を作りたいから、2台目の糸車の金属部品作る時に青銅製の燻製機をつくろうかしらね」
鈴さんの製作意欲が止まらない。
そんな話をしていると、魔物狩りに行っていた一角と麗美さんも帰ってきて、お昼ご飯も出来上がる。
お昼ご飯を食べ、少し休憩してから午後の作業に入る。
俺と鈴さん以外はいつものダンジョンで調味料を貰う作業だ。
俺と、鈴さんは糸車の組み立てにかかる。
部品はできていて、組み立てるだけなので、比較的作業は早く進んでいく。ただし、糸をよる仕組みと糸巻きに自動で糸を巻いていく装置は複雑で少し時間がかかった。俺は何を作っているのか分からなかったが。
途中から、ダンジョンから帰ってきた真望も参加する。手伝いというより、糸車の完成が待ちきれないようだ。
「そういえば、真望、糸車はどこに置くんだ? 鍛冶工房もさすがに糸車1台はともかく、はた織機、そして糸車もう一台は置くスペースないぞ」
俺は作業をしながら気になって真望に聞く。
「そうよね。私の希望としては自分のツリーハウスに機織り機と糸車は置きたいんだけど、そうなると、琉生ちゃんと一角ちゃんの寝る場所が無くなってしまうのよね」
「こまったね。1台目の糸車は臨時でここに置いてもいいとして、2台目の糸車とはた織り機を置く場所がないよね。最近は昆布も間借りしだしているし」
鈴さんが本当に困った顔をする。
特に夜の昆布は迷惑そうだ。
「大事な糸車やはた織り機を屋根のないところで雨ざらしにするのは嫌よ」
真望がそう言って文句を言う。
さすがにはた織り機は大きいらしく、昔使っていた地上の家には入らないし、糸車全部を入れるスペースもない。現在、それらの家は倉庫として使っているしな。
「そうしたら、今日の糸車ができたら、眷属達には悪いけど、ツリーハウスの4軒目を裁縫工房、兼、真望の家にするか。とりあえず、眷属達は主の部屋で寝ること多いみたいだし、それで我慢してもらおう。真望が今いるツリーハウスも真望が引っ越しすれば、アオやトラ、後レオもか。眷属達はそっちで暮らせばいいし、一角は喜びそうだしな」
俺はそう提案する。
眷属たちもなんだかんだでそれぞれのツリーハウスに分かれて寝ているし、そんなに問題はないだろう。
「将来的にはもう1つツリーハウスは作りたいね。眷属増えたら困りそうだし、眷属達も自分のスペースは欲しいだろうしね」
鈴さんがそう言う。
まあ、それが無難だろうな。
「とりあえず、糸車は作っちゃいましょ? あとで、裁縫工房に引っ越しさせればいいし」
鈴さんがそう付け足し、糸車を最後まで作る作業に入る。そして夕方になるころ糸車が完成する。
【異世界生活 58日 16:00】
「凄いわ。完璧よ」
真望が感動してそう呟く。
「使い方は分かるよね?」
鈴さんがそう言うと、真望が細かいところを確認し頷く。
鈴さん、真望と俺で糸車の試運転をすることになった。そして、明日乃も興味があるようで鍛冶工房にやってくる。
「これって、どういう仕組みなんだ?」
俺は糸車を見ても仕組みがさっぱりわからず真望に聞く。
糸車の構造
(科学技術不足を2軸、ベルト2本で誤魔化しています。ダブルドライブと呼ばれる糸車です)
「仕組みは昔の足踏み式のミシンと一緒ね? テレビとかで懐かしの家電みたいな番組で見たことない?」
真望がそう言う。
「ああ、なんとなくだが、イメージはできるかな? 亡くなったばあちゃんが捨てられずにとってあったミシンが確かそんな感じだった。実際動かしているところは見たことがないけどな」
俺は、子供のころにみた、お祖母ちゃんの部屋にあった足踏みミシンを思い出す。
「あれと一緒で、この大きな車輪を手で動かしながら、この下にあるペダルをタイミングよく踏むと、車輪が回り出す。車輪が回ると、このU字の部品、フライヤーという部品が回り出して、これが手で紡いでいた時に使っていた独楽、スピンドルの機能を果たすわけね。しかもフライヤーの中にはボビン、糸巻きが入っていて、これがフライヤーより少しだけ早く回ることにより自動で糸巻きもしてくれるのよ。あと、ボビンも一緒に回ることが重要なのよ。ボビンが回らないと巻取りスピードが凄い事になるからね。少しだけ回転が速いっていうのが重要なの」
真望がそう言説明しながらペダルを踏むと、車輪とは別のところにあるU字のフライヤーというものが回り出し、一緒にボビンも回り出す。
「真望、このベルトとボビンをつないでいる車輪の部分? 車輪が大小2段階になっているから、これを調整することでボビンの速度も調整できて、糸の巻取りスピードも変えられるからね」
鈴さんがそう言って大きな車輪とボビンにつながっている小さな車輪の部分を刺しながら説明していく。
「なんとなく動きはわかったが、糸を紡ぐのと関係性が分からないな」
俺は素直に分からないと言ってみる。
「しょうがないなあ、それじゃあ、実際糸を紡いでみるから見ていてね。明日乃ちゃんは2台目できたら作業をお願いするかもしれないから、使い方も覚えてね」
そう言って真望は試運転を始める。
片手に麻の繊維を束ねたものを持ち、束から少しずつ、繊維を引っ張り出すと、最初は手で糸を紡ぎ、50センチほど麻糸ができたら、それをフライヤーのU字の底の部分にあるにある穴に通し、出てきた糸を今度はU字の棒の部分にある金具に麻糸をかけ、さらにボビンに結び付ける。
そして、麻の繊維の束を持ち直すと、少しずつ繊維を出して準備完了。
ペダルを踏んで車輪を動かし出すと、フライヤーが回り出し、真望が手に持っていた麻の繊維がねじれ始める。
「ああ、なるほど。これが独楽の代わりってことか」
俺はその動きに糸車の機能を理解する。フライヤーが回ることで麻の繊維をねじり、糸にするのだ。
しかもフライヤーの中にある糸巻き(ボビン)が少しずつできた糸を自動で巻き取っていく。
「ボビンの巻取りが早いなって思ったら、この部分が、スピード調整のギアになっているから、これを太いギアの方にすれば遅くなるし、細いギアの方にすれば早くなるわ。で、ボビンの巻取りがいっぱいになったら、フライヤーの棒の部分にいくつもついている金具、糸をひっかける金具を換えていけばボビンに巻かれる位置が変わって、これをボビンの端から端まで糸がいっぱいになるまで繰り返し、ボビンに糸が巻き採り切らなくなったら、ボビンを交換して、最初の手順からやり直す感じ。わかった?」
真望が明日乃にそう説明する。
なるほど、最初に鈴さんが言っていた糸の巻き採りの調整というのはこれの事か。真望が操作しながら教えてくれたので分かったが、話を聞くだけじゃわからないだろうな。
「実際見て見ると凄い仕組みだな」
俺はそう言って少し感動する。
「そうだね、なんかすごい仕組みだね。実際動くところを見てちょっと感動したよ。昔の人は良く思いついたよね、これを」
明日乃がそう言う。
明日乃は糸車の仕組み自体は知っていたようで、俺ほどの感動はなかったのかもしれないが、実際に動くところを見れたことでの感動はしたようだ。
そんな感じで夕食まで真望は糸車に熱中し、俺は、その作業を見せてもらいながら麻糸作りを手伝い、糸車の凄さを実感するのだった。
次話に続く。
【改訂部分】少し早めに糸車とはた織機を作り始めました。
糸車の部分はほぼ改訂なしですが、それ以外は書き直した感じです。
1つ目の魔物の島でも麗美さん、一角コンビが白い橋の上で魔物狩りを始めました。これ、結構魔物を減らす作業としては効率いいんですよね。
一角が調味料とタラの切り身に夢中なのでダンジョンに毎日通い出しました。
琉生が田んぼの準備を始めました。秋まで待てなくなった感じです。
結構、各自、色々始めちゃいましたね。




